【TS】自作武器使い女体化娘、男の娘嫁と爆速で添い遂げようとする。   作:秘密の豚園

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 1か月近く投稿できなくて、すみません。

 私生活が忙しくて中々投稿できませんでしたが、エタる予定はありません。

 これからも執筆、やっていきます。

 ってことで、今回も見てェん。


第9話 スタートライン。 【ユウオ視点】

 

 

 

 サクハから生徒会の一部始終を聞いた。

 

 気が気じゃなかった。耳から入る情報に、視界が狭くなって、ぼんやりとしたピントのずれが目を覆った。

 

 イカれた男子名簿の話も、班目のイカれた思想も、セエカの大立ち回りも、そして。

 

 俺のサクハへの去勢未遂も。

 

「……班目和穂…。」

強く噛み締めた歯の間から、吐息と仇敵への怨嗟が漏れる。

 

「班目ェ……。」

俺は、助手席の窓ガラスに左肘を当て、手のひらで口を覆った。目の前を睨んでも、拳を強く握りしめても、憎しみも不快も消えていかない。

 

 ワイパーの動く音と雨音が俺から離れていく、音が静かに澄んでいく。

 

 体の内側に溜まる澱みを吐き出すように、俺は親指と人差し指の間の水かきに歯を立てた。柔い歯ごたえと、やけに甘い表皮から来る違和感を塗りつぶすように、俺はさらに強く歯を立てる。

 

「………。」

 

 赦せない。セエカとサクハを傷つけようとして、何が生徒会長だ。

 

 ダメだ。もう、潰してやる、殺してやる。俺の為に、俺達の未来のために。

 

 ドアに指を掛けるため腕を伸ばすと、俺の右耳がグイと一瞬、上に引っ張られた。

 

「あ゛あ゛!!」

 

「運転中だよ。」

と母ちゃん。

 

「るせぇ!ジッとしてらんねぇよッ!どっかに路駐しろ!ババアッ!」

 

「…ビリビリ?」

母ちゃんはそう呟くと、ドアポケットから【痺れるような甘い束縛(ビッチ・ワッパ)】のリモコンを取り出し、俺の前で揺らした。

 

 俺の脚を拘束する枷は、作り手にも容赦なく、8㎃の電流を流すようにできている。

 

 クソォ…。家出る前に、律儀にもう一回つけやがって、このババア…。

 

 きぃぃ…。でも、逆らえないィ…。

 

「………ごめんしゃい…。」

 

「冷静におなり。サクちゃんは無事だし、それになにより、あっちにゃセエカがいるんだ。誰も勝てやしないよ。」

 

『ん。へでもねーよ、兄貴。生徒会なんてさ。』

母ちゃんの言葉に電話越しのセエカが続いた。

 

「でもさァ…。」

 

『なにさ。私が生徒会に手ェ出したから、親にもセンコーにも泣きつけないって?』

 

「それもまァ…多少はあるけどさァ…。」

 

『なにさァ?』

 

 セエカの問いかけに、俺はある考えを口に出す。

「……やっぱ…サクハが女装やめたら、班目から狙われないんじゃないかって…。」

酷い言葉だった。サクハのアイデンティティの蔑ろにする脆い解決策だった。

 

 男の娘であることを、一時的にでも捨ててくれればサクハはこの先、無事に高校生活を送れる、そう考えた結果だった。

 

 不条理に従属すれば、俺達は傷つかない、そう思った。

 

 そんな俺の発言に、電話越しの二人が小さく唸る。

『まぁ……、その手もあるのかなぁ…とは思ったけどさァ…。…なんかもう、そういう段階じゃなさそうなんだよなァ…。』

俺の旦那であり、嫁でもあるサクハがため息交じりに声を押し出した。

 

『奴さん、興奮してらっしゃるし、アホみてぇな宣戦布告もしてきたんだ。もうサク兄ィの装いが変わったとこで、アイツら止まんねぇよ。』

セエカが億劫そうに語る。

 

『それにさ、なんかそれって逃げみてぇじゃん。自分曲げてまで、屈するなんてさ。』

それからセエカが続けて、言葉を吐き捨てた。

 

『私は全員潰すまで闘るよ。気に入らないからね。逃げるなんてまっぴらさ。』

 

「…に、逃げたって良いじゃんよ!」

理解も納得もできない。そこまでして、傷つく必要なんてない。

 

 だって、逃げていいはずなんだ。

 

 自分を曲げても、平和に生きられたらそれで良いじゃん。

 

 変わった先で幸せになれるのならそれで良いじゃん。

 

 安全と平穏が脅かされて、喉元にまで非日常を突きつけられたら、もう曲げても良いじゃないか。

 

 お前が傷つかないなら、俺だって何でもいくらでも捨ててやるよ、サクハ。

 

 

 そもそも使徒ってなんだよ、アホ過ぎるだろ。悪趣味な去勢計画に意味分かんねぇ人員なんか投入すんじゃねぇよ、班目ェ。

 

「…やっぱさァ!…サクハ!今からでも謝ろうよ!」

もうなりふり構ってられなかった。多少、ダサくてもそれでも、サクハとセエカが無事なら、俺はそれで良かった。

 

『落ち着けって、兄貴。』

でも、そんな俺を制するようにセエカは言葉を続ける。

 

『さっきも言ったけど、こっちだって手ェ出してんだ。どっちもどっちのイーブンな関係は出来上がっちゃったし、私らはもう被害者には成れないし、戻れない。だから大人への泣き寝入りはできない。そうでしょ?ママ。』

 

「それを、私に聞くかね、普通。」

セエカの達観に、母ちゃんは息を一つつくと、呆れたように口を開いた。

 

『でも、私の言ってること、間違いじゃあないでしょ。』

 

「…親として最低なこと言うけど、実際そうだね。」

母ちゃんはハンドルに添えた右手を顔に移すと、メガネの下から目元をおさえた。

 

「…アンタらのことは止めるべきなんだろうけどさァ…虐め云々抜きにした…喧嘩みたいになっちゃったらァ…、私らが出張る必要もないしィ…。……ウチの娘が関わってるなら、尚更ね、正義とか普通とか建前にして口出せないしィ…。」

母ちゃんが言葉に詰まりながら、親として、大人としての線引きを語る。

 

 保護者として、手をこまねくしかできないのも、分からなくもない。原因の双方に加害性があると、大人の正義とか無謬さみたいなものは途端に脆くなる。それは母ちゃんだって同じだった。

 

 でも、それでも。

 

「だとしても!!」

 

『狼狽えんな。ここでワーキャー言ってどうする。』

セエカの声が車内に低く響く。

 

『事を私が大きくした。その自覚はある。』

 

「それはちが…。あ~でも…!…それでも、お前が悪いわけじゃ絶対に…。」

 

『ん~。』

セエカが俺の言葉を遮るように、上擦った喉の音を鳴らして、言葉を続ける。

 

『ま、なんにせよもう腹括るしかないよ、兄貴。それに班目とその取り巻きをぶっ潰せば、全部片が付くんだ。すぐだよ、兄貴。』

 

 この野郎…簡単に言いやがって…!

 

「バーカッ!オメェが化物染みた強さしてるからそんなこと簡単に言えんだよッ!普通は菓子折り持って、頭下げるのが定石だろ!」

 

『バカを言うなっての。あんなキチガイどもにへーこらする必要なんてないよ。それに、朝からサク兄を襲ったヤツに普通を語る資格はないよ。』

 

『それは本当にそうだと思う。』

同意するようなサクハの声がした。

 

 そんなお嫁さんの可愛い声に俺は、堪えきれず脊髄反射をしてしまう。

「あ!?テメェ!?可愛すぎんだよボケッ!もしかして俺の旦那様かぁ!?お嫁ちゃんかぁ!?今すぐ幸せまでのゴールテープ切ってやろうか!?あぁ!?」

 

『んなめちゃくちゃな…!…お、落ち着け、落ち着けって、な?』

電話越しの旦那様は、その宥めるような柔く美しい声色が、さらに俺の欲求を駆り立てることに気づいてないのだろうか?

 

 俺は胸に灯った淡くて、少し淫靡な炎を落ち着かせるように、言葉を紡ぐ。

「…そうだった…。過程…過程だったよね…。うん、分かってる…。」

 

『そうそう…。いったん落ち着け、ほら、大丈夫だから。俺いるから。』

 

 あ、もう無理だ。班目の事とか、サクハの可愛さとかで頭がぐちゃぐちゃになる。

 

 やばい、俺が、俺でなくなる…。

 

 皆、離れろッ!!!

 

「はいはい!過程!プロセスね!ってことで、恋のABCのCをゴールだとしてさッ!Bからやろうぜっ!Bからぁ!ベヘヘヘヘ!!!!あ~もうXまで行こう!その先までさァ!!Cを超えちまおうッ!!ひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「やっぱダメだコイツ。」

目の端で母ちゃんがリモコンに手を伸ばしたのが見えた。

 

『す、ストレスでウチの兄貴、壊れちゃったよ…。』

 

『元々、ぶっ壊れたスクラップみたいなやつだけどね…。でも、ユウちゃん…。』

セエカのため息をバックに、電話越しのサクハが俺に語り掛ける。

 

「…んへ?」

俺は顎を伝った唾液をパーカーの袖で拭って、スマホの液晶を見つめた。

 

 モザイクがかった画像を背景にして、写真を丸く切り取ったアイコンが浮かんでいる。

 

 俺とサクハが二人で並んだ駅前の写真。画面の中央で浮かぶそのアイコンは、いつ、どんな状況でも、俺達の日常の象徴として、機能してくれてる。

 

 男だった頃の俺と、変わらず可愛い装いをしているサクハ。アイコンの中のサクハは、落ち着きのある白いバタフライスリーブを着ながら、こちらをじっと眺めている。

 

「好きだなァ…。」

 

『うん、俺も。…あ、それもそうだけど…じゃなくてさぁ!あのさぁ!』

不意に漏れた俺の言葉に、サクハも同じように好意を漏らしてくれた。それがどうにも嬉しくて、口角が少し上がる。

 

 揶揄うようにセエカが静かに笑う声と、小さく拭き出す母ちゃんを尻目に、俺達は言葉を重ねる。

 

「ん、なァに?」

 

『…俺の為に…怒ってくれてありがと。嬉しかった。…そう言いたかった。』

照れくさそうに、サクハが俺に礼を言う。

 

 なんだかこっちもこそばゆくて、はにかみながらサクハに返す。

「……だって恋人じゃん…。」

 

『ん。』

 

「そうだよ。」

 

 小さく間が空いた後、サクハが口を開く。唇が離れる、小さな破裂音がした。

 

『………言うね。俺の考え。』

 

「聞くよ。」

俺は画面に浮かんだアイコンに小さく頷くと、スマホの音量を1段階上げた。

 

『…あのさ、俺、生徒会長に…えっと、こんな事はさ…辞めさせたいんだ…。』

小さな息を付きながら、言い淀みを挟みながら、サクハはそれでも逃げなかった。

 

『人が傷つくような事は極力避けてさ、皆が怪我しないようになんとか終わらせたいんだ。俺もさ、学校で自分の好きを…保てるようにさ、強くなるんだ…。』

 

サクハは思考を、思案を放棄しなかった。自分の正義を折らなかった。

精神性を、体の外に出して、俺達に見せることを恐れなかった。

 

『……好きな自分を曲げないように、俺、強くなる。』

 

「…。」

 

『そして、女の子になったお前の隣をさ、可愛い恰好で堂々と歩きたい。』

 

『だからさ…。』

 

「…うん。」

 

『俺、生徒会長たちと闘うよ。』

 

 小さな覚悟だった。

 

 セエカの言葉みたいに強くない。母ちゃんみたいに達観してない。

 

 それでも、俺の胸に覚悟を灯すには充分な火種だった。

 

『今でも、怖いし、正直逃げたいけどね。でも、やるよ。俺。』

 

『へへ、セエカちゃんに助けられてのばっかの俺が何言ってんだって話だけどさ。』

自嘲気味に笑う電話越しのサクハに、俺は大きく息を吐く。

 

「ハァ…。」

思わずため息が出る。

 

 でも、ここまで、旦那が腹括ったんだ。

 

 だったら俺にも、逃げる理由はなくなったわけだ。

 

 嫌だけど、超嫌だけど。でも。

 

 もう俺は、1段上から、安全圏から正しさを説いたりはしない。

 

 ホントは納得できないところはある。すぐにでも辞めさせたい。

 

 でも。

 

「…分かった。」

腹は括った。もう決めた。目の前の敵も見据えた。

 

 痛みも、苦しみも、今選んだ。

 

 俺も、サクハと同じ目線で、同じ尺度で、傷つく準備はできた。

 

 だから。

 

「俺も闘う。」

 

 班目と、生徒会と、そして使徒とか言う奴らと。

 

『…ありがと。』

サクハが小さく呟いた。

 

「…こっちこそだよ。」

俺との未来のために、そこまで考えて勇気を振り絞ってくれたんだ。こっちの方が、礼を言いたいぐらいだよ。

 

「…。」

『…。』

 

 それからしばらくすると、車内も、電話越しも、同じような静けさを共有した。息遣いと、スマホの奥から聞こえる騒がしい足音もはっきり聞こえるぐらいに。

 

『だーもう…。しんみりすんなっての。ほら、兄貴、いつもみてぇにバカやれって。愛でも何でも囁けっての。冷笑させろ。』

堪えきれない様子で、セエカが俺に話題を振った。

 

 ウチの妹は昔からそうだ。湿っぽい雰囲気だとか、日常の中の物語性を悉く避けようとする。理由は恥ずかしいからだ。

 

「こっぱずかしくなってんじゃねぇよ、セェエカァ。」

俺は茶化すように、セエカの名前を呼んだ。

 

『うるさいね。勝手にこっちの感情を決めつけてんじゃないよ。はぁ、ヤダヤダ。』

いつもの声色は少し上擦って、喋り方は口早だった。

 

 強さは化物じみてるし、精神性も大人びてるけど、情緒だけは案外年相応なんだ。

 

「ふふ。ま、アレだ、セエカ。」

 

『なにさ、兄貴。』

 

「闘るぞ。」

俺もサクハ同様、小さく覚悟を言葉にした。

 

 現実離れした創作物じみた台詞に、羞恥心が俺の顔を紅くする。

 

 でも、俺も、サクハも決意は固めた。あとはセエカの言葉を聞くだけだった。

 

『……言ってるだろう。ハナからそのつもりさね。』

電話越しに骨の鳴る音が聞こえた。その関節のクラッキング音が含む了承の意を受け取ると、俺は小さく頷いた。

 

 それから俺は、最後の了承を得るために母ちゃんの顔を覗き込んだ。

 

 倫理と、現実として機能する親の答えを得るために、その目を見つめた。

 

 でもGOサインだろうが、説教だろうが、俺は止まるつもりはなかった。

 

「母ちゃん。」

眼鏡越しの気だるげな目はフロントガラスを捉えつつ、時たまこちらに視線を送っている。それから、母ちゃんは目を細めた後、ハンドルを少し強く握りしめた。

 

「私は何にも聞いてないよ、何にもね。」

困惑を誤魔化すためにこめかみを抑えることも、焦りや呆れを逃がすために額に手を伸ばすことは無かった。

 

 母ちゃんの目は真っすぐと前方を捉えて、俺達の意思を視界に映さないようにしていた。俺達が何で傷つくか、何で苦しむか、何を得るかの責任と自由を与えてくれていた。

 

「まぁ、怪我はしない、させない。一線は越えない。最低限の線引きはしな。」

母ちゃんは俺に向けて、左手の指を三本立てた後、小さく揺らしてみせた。

 

「おうよ。」

 

「よろしい。」

母ちゃんが左手をハンドルに添えて、静観のスタンスに戻っていく。

 

「じゃ、二人とも、怪我だけしないように。」

 

『そりゃ誰に言ってんだよ。奴ら、すり傷だって、私につけられやしないよ。』

セエカは強気な発言を吐き捨てた後、鼻を鳴らして、遠ざかっていった。

 

『じゃあね、サク兄ィ。私、教室行くわ。ま、ピンチの時は大声で私の名前、叫びな。』

 

『……あんがと。』

スマホ越しに聞こえるのが、サクハの息遣いと余韻だけになった。

 

 だからか、そのせいか、妹の前で強がる必要もなくなったからか、サクハへの甘えが俺の口から零れた。

 

 隣に母ちゃんがいようが、なんだろうが、家庭内の社会性をかなぐり捨てても良いと思えるぐらい、今、欲しいものがあった。

 

「チュー…。」

 

『な、なんて?』

サクハが小さく疑問符が呟いた

 

「次…あ、会ったらキスしたいィ…。」

好きがどうにも、胸につかえて苦しかった。とはいえ、願望を口にしても、気分が晴れやかになることは無かった。胸はまだ痛い、それに恥ずかしい…。

 

『おぉ…。ゆ、ユウちゃんがやけに健全っていうかピュアっていうか…。』

サクハの声に困惑が混じる。

 

 そりゃそうだ、ずっと嫁だの結婚だの子供だの、なんだのやってた俺が、今頃【キス】一つお願いするために、おずおず口開いてんだもん。

 

「ぴゅ、ピュアで悪いか!」

 

『わ、悪くはないけどさぁ…。』

 

「いやァ…へへ、なんかね…安心感と言いますか…そのォ…。お、お互いの意思で…ちゃんとね…スるって意思を決めたキスをね…、し、シたくありましてね…。朝のヤツ…強引だったから…。…そっちから来てほしくもあるし、俺からしたくもあるしィ…。」

言い訳じみた説明と、矢継ぎ早の言葉だけが車内に響いた。いつもしていた簡単な事に無理やり解釈を広げるように話を広げた。

 

『うん、俺もしたい。…分かった。チューの約束ね。』

照れも言い淀みもない言葉がすぐに返ってくる。

 

 心臓が大きく逸って、呼吸が浅くなる、まぶたが少し重くなる。

 

「あ~…。うん…。約束ってことで一つ、お願いしますゥ……。」

もうダメだ。ホント、好きすぎる。

 

『了解。てか、キスならさ、ユウちゃんが男の時から俺達……。』

 

「…それとこれとは別モンなんだい!」

 

「い、今の俺で……女の子になった俺で…ちゃんとしたキス…したいから…。」

 

『………そっか、うん、絶対しよ。』

サクハの同意に思わず顔が綻んで、頬が垂れる。

 

「でへへ……えへ…。じ、じゃあ、切るよ。…気を付けて。」

俺は、バツ印の会話終了ボタンに指を添えると、サクハの言葉を待った。

 

『ん、そっちも病院、頑張ってね。』

それから俺は、指を液晶から離して、会話を終えた。

 

「……言っちゃった。」

言ってしまった。勢いで、言っちゃったァ…。

 

 あ~、なんてこと…、あんな約束せずとも、会ったら即チューで良かったろうに。 

 

 俺らしくないィ…。それに、隣に母ちゃんもいるのにィ…。

 

「やい、接吻約束純情娘(せっぷんやくそくじゅんじょうむすめ)。」

言い訳を考える間もなく、右隣から声が掛かる。やけにニヤニヤした母ちゃんがこちらをじっと見つめていた。

 

「な、なんスか……。」

 

「コレも聞いてないことにするべきィ?」

口角を上げっぱなしの母ちゃんが、俺に問いかける。

 

「良いって!変な気ィ回さなくてもッ!」

あ~クソォ。やっぱ親がいるってのに変な約束すんじゃなかったァ…。

 

「くふ…ふふ…はは!」

 

「やめ…やめろっての!!」

 

「はぁ~、おかしい…。ふふ…。あ、そういえば朝、あのパンだけだったじゃん。」

 

「ちょ、チョコチップスティックパンみたいな?」

 

「そうそれ。アレ一本じゃお腹膨れないでしょ。道中さ、コルレオーネ屋、行くかい?」

母ちゃんがひとしきり笑った後、フロントガラスのワイパーを止め、俺に問いかけた。

 

 コルレオーネ屋。母ちゃんの友達が経営している羅波矢家行きつけの飲食店だ。でも、店主のリッコおばちゃんはゴッドファーザーを知らない。店名は母ちゃんが考えたから。

 

 ホットサンドだとか、スムージーのテイクアウトもできる。あとは、卓上のピクルスが上手い。海外のダイナーみたいな、異国情緒あるそんな雰囲気の場所だ。確か、食べログの評価は3.8ぐらいだった。

 

「行く…。」

俺はそっけなく呟いた後、背もたれに沈み込んだ。

 

「よしキタ。リッコも喜ぶんじゃない?仲間が出来てさ。」

母ちゃんがそう呟くと、車線をスライドさせるように移動した。

 

「そっか。おばちゃんも元男子か。」

 

「そうそう。高校ん時に急に咲きやがってやんの。アイツ。」

母ちゃんがサイドガラスに右肘をついて、顎を右手の甲に乗せた。

 

「んでそのまま、男友達と結婚さね。いやぁ、クラスの皆でイジくり倒したもんよ。」

思い出に耽るように、微笑む母ちゃんを俺はじっと眺めてた。ほうれい線とシワでも、濁らすことのできない、青いものが見えた。43のくせに。

 

「そうなんだァ。」

俺は、リクライニング機能を使ってさらに後ろに倒れ込む。天井を見つめて、組んだ手を腹の上に置いて、起こったことを整理するように、残った空気を押し出すように、息を吐いた。

 

 外の雨は止んでも、依然曇りは健全だった。

 

 でも、敵も分かった、生き方も分かった。

 

 大層な事を胸に抱くつもりもない、高尚な矜持なんてない。

 

 化粧も分からない、服装だって何が可愛いか分からない。

 

 女の子っていう性別に誠実になりたいなんて言ったけど、どんな振る舞いが誠実か分からない。志しかできてない。

 

 でも。

 

それでも俺は。

 

「やってやる。」

今の本心を、なにより簡潔に表してくれる言葉を、口に出した。

 

 サクハ、俺も、自分の好きを捨てないよ。

 

 変えたくないところは、変えないよ。

 

 羅波矢ウェポン作ってさ、今まで通り、お前にめちゃくちゃセクハラしながらさ、バカやりながらさ、ちゃんと女の子するよ。

 

 降りかかる火の粉は全部払って、障害は全部ぶっ壊して。

 

 可愛い恰好で、可愛いお前の隣をちゃんと歩くよ。

 

 二人の好きを、抱いたまま。

 

 あと、ハチャメチャなセクハラもする、普通に。

 

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