二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜)   作:きんぴら大根

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信頼の代償(高育堕とし編その7)

一之瀬帆波が星乃宮理恵より、九条の入院の連絡を受ける2日前のこと。

高育の事務方と九条と壬生の経営する教育ベンチャー『エデュケイト・コーポレーション』との『業務提携』についての打ち合わせが開催された。高度育成高等学校の特別会議室は、重苦しい空気に包まれていた。それもそのはず、ベンチャー企業からの業務提携の提案というのはただの表向きの話、要は九条と壬生が進めている現金工作の世間への口止め料としての要求を通すための、言ってみれば脅迫のためにセッティングされた打ち合わせに他ならない。

 

長机の片側には、月城代理と数名の教師陣が座り、対面には九条間人と壬生憲剛が座っている。九条は穏やかな笑みを浮かべ、白々しさ全開でベンチャー代表としての挨拶の口上を述べた。。

 

「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。私ども『エデュケイト・コーポレーション』は、高度育成高等学校の教育環境改善のための業務提携を提案したく、こうしてお集まりいただきました」

 

他の教師陣の顔が一様に強張った。一人の教師が声を荒げた。

 

「外部委託だと? ふざけた話だ!そんなものを認めるわけがない!」

 

別の教師も苛立った様子で続けた。

 

「要は現金工作の口止めとして我々に脅迫するためのものだろう、そんな下らない建前の話などせず、はっきり言ったらどうだ!」

 

教師陣の苛立ちが一気に高まる中、月城だけは穏やかな笑みを浮かべ、静かに手を挙げて皆を制した。

 

「まあ、皆さん、落ち着いてください。九条くんの提案、興味深い内容です。まずは業務改善提案の中身をじっくり検討させていただきましょう」

 

月城の声は穏やかで、まるで上品な笑顔を浮かべているように見えた。その態度が、他の教師陣の苛立ちを余計に際立たせている。九条は月城の笑顔を静かに見つめ、内心で奇妙に思った。

 

(……月城理事長代理。確か僕らの現金工作の責任問題を問われ、辞任に追い込まれた坂柳理事長の後釜か。これが脅迫のための場だと言うことは月城も十分に承知しているはず。他の先生たちがあれほど苛立っているのに、なぜあなただけそこまでの余裕を見せている?)

 

九条は表面上は穏やかな笑みを崩さず、丁寧に頭を下げた。

 

「ありがとうございます、では資料の方お配り致します」

 

九条が配られた資料を苦々しくめくる教師陣達。そこには存外真面目な内容が羅列されていた。生徒達の不信を過度に煽る特別試験の是正、生徒と学校側との信頼関係回復のための退学者へのフォロー、ポイントでの取引の規制等々、そしてこれらの業務改善に対しエデュケイトコーポレーションは実行支援を行うとのこと・・・

 

「うんうん、実に素晴らしい業務提案です九条くん」

 

嫌に演技掛かった月城の感想が最初の一声となる。

 

「ありがとうございます、月城理事長代理」

 

「しかしですねえ、私は代理に就任したばかりで、恥ずかしながらまだこの学校のことについても私自身深掘りできていないのです。ですのでここは現場の教員達の意見も集約したのち、御社のご提案について判断させて頂きたく」

 

九条はここで時間稼ぎをされてはまずいと思い、やや強めに要求を被せる。

 

「学校側のご意志としてご理解はしますが、ご判断は1ヶ月程度を目処にお願いしたく。課題出しについても必要であれば、教育コンサルである我々の方で改めて整理して提示致します。お互いの今後の関係のためにも、ぜひ迅速な判断を頂ければ幸いです」

 

二人のやり取りの緊張度が上がる。ここは一つ『脅迫』を兼ねたダメ押しをしようと、九条が言葉を重ねようとしたそのとき----

壬生が唐突に言葉を発した。

 

「第2案がある。高育の情報セキュリティ向上のための実行支援として、3年間における業務委託を提案したい。額は1年に10億、計30億だ」

 

壬生の提案に一気に教師陣がざわめく。言葉は一応繕ってはいるものの、余りにもストレートにゆすりをかけてきたこと、そしてその金額の規模に教師陣から怒りの声が湧き上がった。

 

「ふざけるのも大概にしろ!これは明らかな脅迫だ!」

 

「30億だと?どこまで我々をコケにすれば気が済むんだ!」

 

この壬生の突拍子もない提案について、一番衝撃を受けたのは怒りを顕にした教師陣ではない、隣に肩を並べ、共に『現金工作』を進めてきた同胞であり親友の、九条間人だった。壬生の30億のゆすりは全くの想定外で、九条自身にも全く共有されていないプラン。これは九条にとっての明確な裏切り行為だ。

 

「ええ分かりました。セキュリティ向上のための業務委託、承知致しました壬生くん」

 

月城が壬生の『脅迫』をあっさりと呑んだことに驚愕の声をあげる教師陣たち。

 

「一体どういうつもりですか!?理事長代理!?」

 

「こんなものただの脅迫です!それも30億もの規模の額を・・・あなた正気ですか!?」

 

大きな混乱の渦に落とされている教師陣たちを横目に、壬生に裏切られた九条は壬生に静かに怒りを滲ませる。

 

「・・・壬生くん、これは一体どういうつもり?」

 

「良いよ先生、少し落ち着いた場所で話そうか」

 

 

 

 

 

高育側との話し合いが終わった夕方過ぎ、いつも九条たちが現金工作や秘密裏の話し合いで使用している特別棟の裏にて、九条は壬生に今までの顛末について問い詰める。

 

「・・・一体いつから月城理事長代理と、コンタクトを取っていたの?」

 

九条の問いかけに壬生はハッと笑いながら答えた。

 

「そこは『なぜ裏切ったのか?』じゃねえのか?最初に聞くことはよ。あいつが代理に就任してすぐにこっちに連絡取ってきたよ。好き放題やらせてやるから協力してほしいことがある、なんて言ってな・・・」

 

「甘いな壬生くん、どうせ利用するだけして使い捨てにされるのがオチでしょ?そんなミエミエの罠に食いつくなんて、正直言って失望したよ」

 

珍しくはっきり怒りを滲ませる九条に対し、壬生は少し目を見開いてから、いつものように不敵な笑いを浮かべる。

 

「心配すんな、その辺をこの俺が何も考えていないように見えるか?・・・というか正直に言えよ、俺に裏切られてショックですってな」

 

壬生の言葉に九条は反応せず、ただただ壬生を睨みつける。

 

「そんな先生の顔、初めて見たなあ・・・怖いねえ。一応言っとくけど、別に先生の理想について反対だとかそう言うんじゃねえんだ・・・ただ、つまらねえんだよ、こんなとこで終わっちまうなんてなあ。それに悪いが、ポイント主義の幻想を壊す・・・だったか?理想は結構だが、正直俺はそんなものに興味は持てなかった・・・俺はただ、この学校をとことんまで、しゃぶり尽くしたいだけなんだよ」

 

突然裏で控えていた、Cクラスの生徒二人が現れ、九条の顔をいきなり殴りつける。九条は苦悶の声を上げ、倒れ込んだところを二人に取り押さえられる。その二人のうち一人は、龍園を裏切り壬生に寝返った、Cクラスの小宮だった。

 

「悪いが先生とはこれまでだ。先生には世話になったからな、余り酷いことはしたくない」

 

そう言ったのち、壬生は軽く顎をしゃくり、九条を取り押さえていた二人に命令した。

 

「指を折って、適当に2、3発殴っとけ。あんまやり過ぎんな、終わったら病院前に運んどけ」

 

間髪をおかず、九条は左手の薬指を追われる。

 

「ぐあああっ!」

 

突然走った痛みに堪えられず声をあげる九条。そして間をおかず小宮の拳が九条に振り下ろされた。

 

「だってよ、じゃあな『先生』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九条間人は白い天井をぼんやりと見つめていた。あの後九条は病院近くのベンチに放置され、発見した通行人が通報し、その病院の処置室に運ばれ、一通りの応急処置を受けたのち病室に移されていた。見た目ほど酷くないとのことだが、念の為検査入院でもう2、3日入院することになるとのことだ。

体中が重く、特に左手の指が激しく痛んだ。指を折られた記憶が、鈍い痛みと共に蘇ってくる。

 

(……壬生くん……まさかここまでやってくれるとはね)

 

九条がゆっくりと上半身を起こそうとした瞬間、病室のドアが勢いよく開いた。

 

「九条くん!」

 

佐倉愛里が息を切らして駆け寄ってきた。

彼女の目は真っ赤で、明らかに泣いていた。

 

「大丈夫……? 茶柱先生から連絡もらって、すぐに来たの……!酷いけがしてるって聞いて……どうしてこんなことに……」

 

佐倉はベッドの横に膝をつき、九条の右手を見て顔を歪めた。震える手で九条の腕にそっと触れ、涙を浮かべながら言った。

 

「痛いよね……? ごめんね、私……何もできなくて……九条くんがこんな目に遭ってるなんて……」

 

九条は苦痛を堪えながら、弱々しい笑みを浮かべた。

 

「佐倉さん……来てくれて、ありがとう。大丈夫……お医者さんも見た目ほど大事じゃないって言ってたし、大したことないよ」

 

佐倉は首を激しく振り、涙をこぼした。

 

「大したことないわけないよ……!こんな、こんなっ……どうして九条くんがそんなことに……」

 

九条は佐倉の温かさを感じながら、静かに目を細めた。

 

(佐倉さん・・・君にまで心配をかけることになるなんて・・・なんだかちょっと心が痛いな)

 

ここまで心配されるとは思っていなかったので、佐倉に対する罪悪感が、身体中の痛みと共にチクリと胸を刺す。病室に、佐倉の嗚咽だけが小さく響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

検査入院を終え、九条間人は病院のロビーで退院手続きを済ませるため、受付の前の待合室で座っていた。顔の左頰にはまだ大きなガーゼが貼られ、右手の指には白いギブスが巻かれている。まだ体に鈍い痛みが走り、そのたびに九条は痛みに顔を歪ませていた。

ロビーのソファで待っていると、入り口から一之瀬帆波が駆け寄ってきた。

 

「九条くん……!」

 

一之瀬は九条の痛々しい姿を見て、思わず息を呑んだ。

ガーゼとギブス、青黒い痣が残る顔——想像以上にひどい傷だった。

 

「どうしたんですか一之瀬さん?顔色、あんまり良くないですよ」

 

こんなときにもそんなふざけたを、と喉から声が出かかるも、その痛々しい姿から発せられる九条からの軽口は、一之瀬の目からは無理に強がっているようにしか見えなかった。

 

だが一之瀬は唇を強く噛み、目を逸らした後、自分に言い聞かせるように言った。

 

「……同情なんて、しないから。神崎くんの善意につけ込んで、現金工作に巻き込むようなことして、Bクラスのみんなを、あんな風に変えてしまった九条くんのこと……絶対に許せない。クラスの競争を過激化させて、保護者からお金を巻き上げるようなことして、それをネタに学校を脅すようなやり方・・・私は絶対に受け入れられない」

 

彼女の声は震えていたが、強い意志が込められていた。しかし、一之瀬は一呼吸置き、ゆっくりと続けた。

 

「でも……星乃宮先生に聞いたよ。あなたが業務改善提案として、置いて行かれる子たちが苦しまないように、特別試験や学校の在り方を変えようとしていたこと……。それは、私が一人も取りこぼさずBクラスのみんなとAクラスを目指そうとした想いと、似てるかも知れないって私は・・・」

 

一之瀬は複雑な表情でさらに続ける。

 

「だから……私はまだ、あなたのことを完全に憎むことも、でも……許すことも、できない」

 

そして九条の顔を真っ直ぐに見据え、正面から見て九条に言った。

 

「だから九条くん、今の手段を選ばなくなったBクラスの暴走を止めるのを手伝って。壬生くんと月城代理の暴走を止めて、この学校が本当に壊れてしまうのを食い止めて。私も、一緒に協力するから」

 

そんな一之瀬の目から少し顔を逸らし、九条は言葉を返す。

 

「一之瀬さん、壬生くんはこの通り、いざとなれば龍園くん、いやそれ以上に、手段を選ばず暴力で我を通すことに躊躇いのない人間だ。それでも・・・やるのかい?」

 

一之瀬は一瞬目を細めた後、ふっと柔らかく微笑んだ。

 

「今更何言ってるの?私はBクラスのリーダーとして、誰も取りこぼさない道を選んだ。暴走を止めるために危険が伴うことくらい、最初から覚悟してるよ。九条くんだって、もう色々頭の中で考えてるんでしょう?だったら、一緒にやろう?」

 

九条はガーゼの貼られた顔で、静かに微笑んだ。

 

「一之瀬さん……ありがとう。僕もこれから、一緒に協力する」

 

 

 

 

 

 

 

 

一之瀬と九条の会話が一瞬途切れた直後、病室の待合室に龍園翔、堀北鈴音、そして綾小路清隆の三人が入ってきた。

龍園は九条の痛々しい姿を見て、口の端を歪めて笑いながら言った。

 

「ざまあねえな、九条——」

 

だがその瞬間、堀北が龍園の言葉を被せるように、嬉しそうな笑みを浮かべて言った。

 

「ざまあないわね、九条くん」

 

堀北の声は明らかに弾んでいた。彼女は九条が座っていた受付のソファに近づき、九条の顔を覗き込むようにして、楽しげに続けた。

 

「壬生を信じきって、全部頼り切りにしてたからこんな目に遭うのよ。ねえ、どんな気分?せっかく手塩にかけた悪巧みが、全部持って行かれる気分は?」

 

堀北の目は輝き、口元にはこれまで見たことのないような、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

龍園は一瞬、目を丸くして堀北を見た。

 

「……おい、鈴音。お前、ちょっと喜びすぎだろ・・・」

 

綾小路清隆も無表情のまま、内心で強く思った。

 

(……こんなに嬉しそうな堀北、初めて見た)

 

堀北はさらに身を乗り出し、九条の顔をじっくりと観察しながら言った。

 

「あなたがいつも余裕ぶって、私たちを小馬鹿にしていたのが、今はとても滑稽に見えるわ。どう? 相棒に裏切られて、指を折られて……最高の気分でしょう?」

 

一之瀬は呆然とその光景を見つめ、龍園は珍しく言葉を失い、九条はガーゼの貼られた顔で、苦しげに小さく笑う。

堀北の嬉しそうな表情は、病室に独特な空気を生み出していた。

 

堀北鈴音が嬉しそうに九条をからかい続けていると、隣にいた綾小路清隆が小さく息を吐き、静かに言った。

 

「堀北、本題を」

 

堀北はハッとしたように口を閉じ、頰をわずかに赤らめた。彼女は珍しく気まずそうに視線を逸らし、咳払いをしてから、九条に向き直った。

 

「……ええ、そうね」

 

堀北は少し恥ずかしそうに、しかし真剣な目で九条を見つめた。

 

「九条くん……壬生と月城が繋がっていることは、もう知っているわよね?あの二人が手を組んだら……本当に取り返しのつかないことになる。この学校が、完全に壊れてしまうかもしれない」

 

彼女は唇を軽く噛み、言葉を続けた。

 

「だから……協力して。あなたが今、壬生を止める手伝いをしてくれれば……私も、Dクラスとして全力で動くわ。あなたも壬生をここまで増長させた責任、ちゃんとここで取りなさい」

 

堀北の声は最後の方で少し小さくなり、耳の先が赤くなっていた。彼女自身、九条に「協力してほしい」と頭を下げるような形になることが、かなり気まずいようだ。

 

そして綾小路も堀北に続けて九条に状況の補足をする。

 

「九条、お前らの騒ぎに乗じて代理に就任した月城は、俺が元いた『ホワイトルーム』という施設の関係者だ。俺の父親の指示のもと、どうやら俺を退学させて『ホワイトルーム』に連れ戻したいそうだが・・・俺は断じてあそこに戻るつもりはない。だから・・・九条、お前も月城の企みを阻止するため協力してくれ。月城を組んだ壬生の暴走を止めるためには、あいつのことを深く知るお前の協力が不可欠だ」

 

そして龍園が九条にぶっきらぼうに言い放つ。

 

「俺は壬生のくそ野郎に借りがあるからな・・・あいつが偉そうにふんぞり返ってるだけでがまんならねえ。あいつをぶん殴るためなら、まあお前に協力してやるよ、九条」

 

三者三様の動機を共有し、九条との協力関係を結ぶことを確かめ合った。

 

「わっ、私も・・・!」

 

佐倉が九条の元に駆け寄る。

 

「どこまでできるか分からないけど、私も九条くんに協力します!だから、その・・・」

 

言い淀む佐倉に対し、九条が「そんな無理を君には・・・」と言いかけたところ、龍園に小突かれ、「ちゃんと汲んでやれよ、九条」とはたかれる。

 

「うん、佐倉さんありがとう・・・でも無茶だけはしないでね」

 

その言葉にこくこくと頷く佐倉。

 

「一通り協力関係はこれで確認できたな」

 

綾小路がそうその場を締めくくる。九条にとって新たな仲間との共闘と、かつての親友との戦いが、この病院の待合室から始まろうとしていた。




これで一旦この章は終わりです。
次で最終章のつもり
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