Re:TS白黒ストライプバニー老害によるナツキ・スバルの悲喜劇観賞会 作:F・M・T (フランチェスカ、マジ年増)
舞台を引っ掻き回すクソ外道かと思ってたのに、まさかここまで良親だとは……。
「はあ……?魔女だ……?マジで意味分かんねぇ……」
突然現れたその奇抜な言動をする女に、スバルは恐怖以上の感情が沸々と沸き上がってくる。
「ふざけんなよ……ッ!お前らは俺にどうして欲しいんだよ!?」
ナツキ・スバルは限界だった。
一目惚れした異世界のハーフエルフの美少女を救うために、『腸狩り』に挑むも何度やっても殺されて終わり。
打開策は一つも思い付かず、自分では彼女を救うことができないという事実に、打ちのめされ続ける事しかできない。
「何なんだよ、どいつもこいつも……ッ!俺が何をした!?何で俺ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ!?もっと相応しい誰かが居たんじゃないのか!?なあ、何で俺なんかを呼びだしたんだ?俺のせいでサテラは何度も殺されたんだぞ!?俺みたいな何もかもが足りない奴のせいで、あの子は何度も無慈悲で何の救いもない終わり方をしているんだ……!」
他責をしながら自責するような言葉。
彼の憎悪が向けられている対象が、世界に向けてなのか自分へなのかおそらく彼自身にも理解はできていないだろう。
短い期間に何度も『死』を体験するという極度のストレスは、スバルの心をぐちゃぐちゃにしていた。
ーー実際に、あと数回『死に戻り』を繰り返していれば、諦観と共に力の無さを受け入れ、エミリアを王にする事だけを考え、手段を一切選ばないナツキ・スバルーー即ち、魔女教大罪司教『傲慢』担当、ナツキ・スバルが誕生していただろう。
エミリアを王にするために他の『王選候補者』の陣営を失墜させ、彼女を狙う魔女教大罪司教を皆殺しにする。
そんな『死に戻り』を活用し、エミリアに敵対する全ての存在を排除する『傲慢』が生まれ落ちる筈だった。
それほどの危ない均衡で持っていた精神が、突拍子もない事の連続でとうとう崩れ、今こうしてフランチェスカに当たり散らしている。
極度のストレスと混乱に晒されたことにより、不安定となった自身の心を正常化させるためとはいえ、脈絡もなくそんなことをして不快に思わない相手はいない。
そんなことは分かって当たり前だが、既に目の前の女はスバルの中で敵だった。
よく分からない存在。
それだけでスバルにとっては恐怖の象徴だ。
うるさく喚いた自分を不快に思い、どうせ殺しに来たのだろうという被害妄想がスバルを苛んでいる。
スバルの自己肯定感は『死に戻り』が起きてから低下し続けていた。
最初は異世界に来たことにより、どこか地に足がついていない期待のようなものが少なからずあったが、自分とサテラの死を味わった事で、ここが残酷な元居た世界とは別の現実であることを身を持って理解してしまっている。
だからこそ、こんな都合良くお助けキャラのような存在が現れるなんて、あり得ないと考えるのは自然なことだった。
ーーどんな死に方をするのかは分からない。けれど、何か言ってやらないと気がすまない……ッッ!
「ハハッ、笑えるよなぁ?異世界にまで来て俺は何も変わらない。期待された事が何もできないクソ野郎だったんだ。変わろうとしても根っこが変わらねぇ。そりゃあ、何もできやしないに決まってるわな」
「…………」
そんな破れかぶれの自暴自棄の発言が次々に出てくる。
だが、当然の話だがそんな支離滅裂な話を聞かされる方は堪ったものじゃない。
相手が弱肉強食の世界で生きる強者ならば、再起不能なほどに痛め付けられたとしても不自然なことは何一つ無い。
スバルの取った行動は目を覆いたくなるほどの愚行そのもの。
だが、精神的な限界を迎えていたスバルに、相手の事を思い配慮をする余裕なんてものは何もなかった。
「なあ……俺はさ、別に元の世界で何かをできたわけじゃない引きこもりだよ……。でもさ、あの子はそんな俺とは関係の無い、初めて会ったばかりの男に優しくできる良い子なんだ……。そんなあの子を助けたいって思うのは傲慢なのか……?頼むよ……あの子に死んで欲しくないんだよ……」
喚き散らしたと思いきや、泣き言を言い出す。
明らかな情緒不安定。
その物言いは、聞いた相手が一体どんな風に思うのかを無視する、自己中心的な自分本意な言葉の羅列でしかなかった。
不快感しか感じないスバルの独善的で傲慢なその訴えを……フランチェスカは全て受け入れる。
「──貴方の愚行と狂気を私は肯定します。私はあなたの歩みを賞賛する。嘆きも懺悔も貴方が有する正当な権利であり、貴方が世界と自身の運命へ向ける怨嗟の声を、私だけは聞き届けましょう。」
それは今までのような甘く媚びながら挑発をする声音ではなかった。
厳かで崇高な人よりも遥かな高次元に居る存在からの啓示。
信心深いとはとても言えないスバルが、思わず膝折り手を組んでしまいそうになるほどの神聖さ。
それを魔女と自称をした少女が発していた。
「女神……様……?」
その瞳は混沌とした白と深紫の三重輪《さんじゅうわ》から、生と死を司る赤と白の三重輪に変わっている。
差し込む後光は彼女を照らし、その存在を世界へ知らしめる。
人を超越した神は慈愛の瞳を向けて、哀れにも運命に打ちのめされている少年に言葉を送る。
それは神の叡智が秘められた特別な言葉などではない。
それは理外の神秘を宿すための力が込められた言葉などではない。
誰にでも言えるような、ありきたりな言葉ーーしかし、それこそがスバルが誰かに言って貰いたかった言葉だった。
「──誰にも理解されないあなたの健闘を讃えます。」
この時になって、ナツキ・スバルは初めて認められた。
この異世界に来てから……いや、もしかしたら、元の世界を含めてそんな言葉を送られたのは初めてかもしれない。
「あ"、ああ……ッ、うぁ……ぐすっ……うぅ……ああああああああっ!!」
熱いものが胸の奥から込み上げる。
父親のようになれずコンプレックスまみれだった少年が、この異世界で初めて誰かにその行動を認められた。
それがどれだけ救われる事なのか、それを知るのはスバル以外に存在はしない。
無駄で無意味で無価値な行為でしかないと思っていたものが、意味は確かにあったのだと、そう初めて肯定して貰えたのだった。
◆
「あの……色々、すいませんでした……」
泣いて喚いて叫び倒して、出てきた言葉は謝罪だった。
まあ、それはそうだろう。
スバルはチンピラ三人衆から助けてくれた人に感謝を述べるどころか、何の関係もない八つ当たりをぶつけ続けたのだ。
そんな人物にあろうことか泣き付いて世話を掛けてしまったなど、恥の上塗りもいいどころか、死んで詫びたくなるほどの罪悪感に苛まれても仕方がない。
「もー、気にすることなんて何も無いのにスバル君は律儀だねー。まあ、そんなところもスバル君らしいのかな?まあ、初対面だけどねっ!」
そんな風に朗らかに笑う少女からは、先程見せた神聖さは消え失せていた。
ケラケラと笑いながら歩く彼女は、スバルが初めて見て思った第一印象の『メスガキ』染みた言動を繰り返す。
「あーっと……それにしても、フランチェスカさんはどうして俺なんかにここまでしてくれるんですか?」
「別に無理して敬語とかしなくていいからね。私も堅苦しいの好きじゃないしさ」
「いや、そうは言ってもさっきの見たら流石にな……」
スバルの頭に焼き付いたあれは余りにも神秘的過ぎた。
無かったことにすることはまず無理だ。
「あれは私の女神バージョンだからねー。スバル君がメロメロになっちゃうのも仕方ないけど、あれは0.05%の確率で出る星五演出だから恒常にはなりませーん。最低でもは20万は覚悟しないとダメだよ♪」
「渋過ぎんだろ、そのガチャ!?ていうか、20万とかそれ天井設定されてなくね!?幾らなんでも人の心無さすぎだろ!!」
「……あれは良く許されてたよねー。菌糸類がシナリオしてなかったら間違いなくサ終してたよ、絶対に」
「ええっ!嘘だろ!?本当にそんなアプリがあったのッ!?」
遠いところを見ながらフランチェスカはしみじみと答える。
他のアプリゲームユーザーから散々『あのゲームヤバ過ぎだろ……』と、言われていたのは伊達ではない。
ちなみに、ガチャを回していた当時のマスター達からもそう言われていたりする。
「えーと、なんだっけ?あっ、そうそう、私がスバル君に構う理由だよね?それは簡単ーー私が君のファンだからっ♪」
「ファン?」
スバルからして見れば寝耳に水だ。
どうして自分にそんな人が現れるのか不思議でしょうがない。
「この世界にはねぇ、実は未来を予知する物が数多くあるの。『竜歴石』や『叡智の書』なんかがそうだね。それにスバル君の事が書いてあったってことだよ」
「へえー、そんな便利なモンもあるのか。流石は異世界って感じだ」
「実はそこまで便利ってほどのものじゃないんだよねー。少なくても私が見たものはほとんど箇条書きみたいなものだったから、スバル君があんなヘンテコな声をあげなかったら見過ごしてたかもしれないしぃ?」
実際にスバルはこの周までフランチェスカを見たことがなかった。
つまり、今まで自分の事をフランチェスカは、ずっと素通りしてしまっていたということなのだろう。
「ちなみに、未来を予知する物で『福音書』っていうのがあるけど、これは『魔女教』っていうカルト宗教の物だから絶対に欲しがらないようにね。あれは不幸のメールとかの類いだからさ。んんっ……『弊社が配信を行っているアプリケーションゲーム、○△□の登録料金が長期滞納状態になっており、電子消費者契約法に基づき、民事裁判の手続きを行っております。法的処置に移行する前に双方にとってよりよい解決に向かうため、和解のご意志があれば至急、お問い合わせくださいーー※このメールが最終勧告とさせて頂きます。ご了承のほどお願い致します』……って感じ?」
「いや、長いし細かいし本当にありそうで怖いよッ!?異世界らしくない身近な例えをいきなりされて身の毛がよだったわ!……え?っていうか、そんなことまで知ってるの?実は俺と同郷だったり?」
「当たらずとも遠からずって感じだねー。まあ、女神から生まれ落ちて別の世界に生まれ落ちた人外って認識でいいよ」
「どうしようっ!俺の異世界転移よりももっと複雑そうだ!?」
スバルは思いもしないだろう。
創作物のキャラクターの肉体でこの世界に降り立ち、その肉体に400年間もの間、精神を侵食され続けた存在が彼女なのである。
彼女からすれば精神、肉体共に元人間のTS人外が、今さら『スバルと同じ様に異世界から来ました現代人……に見せ掛けた、さらに上の次元からやって来た読者です』など言える訳もない。
元からズレにズレ過ぎてしまい自分という存在の
「いい?スバル君。『魔女教』っていうカルト宗教団体が崇める魔女は『嫉妬の魔女』だからね?『悲嘆の魔女』である私とは一切関係が無いから、ぜーったいに勘違いしちゃダメだよ?」
「あ、ああ……つーか、そんなに否定するってそいつらどんだけ嫌ってんの?まあ、カルト宗教の教祖様扱いは嫌だろうけどさ」
そんな会話をしながら貧民街を歩く二人。
スバルが行かなくてはならない目的地は分かっている。
しかし、そこから打開するための力がスバルには無かった。
だからこそ、何度も『死に戻り』をする羽目になった。
「……でも、本当にいいのか?相手はあの『腸狩り』だ。間違いなく化け物だぞ」
『腸狩り』とフランチェスカと会わせることにスバルは否定的だ。
その化け物具合を知ってるからこそ、フランチェスカが相手にできるかは怪しいと見ていた。
そんなスバルの懸念を笑い飛ばしたのが、フランチェスカ本人だ。
「これでも魔女の一角だよ?殺人鬼ごときに負けるとかあり得ないって」
「……その魔女ってのはそんなにスゲーの?ファンタジーの世界なら魔女なんてそこら中に居そうな気もするけど」
精霊が居るなら魔女が居てもおかしくないどころか、魔王なんて存在が居ても不思議じゃない。
スバルからしてみれば魔女という存在がそこまで強大な存在とは思えなかった。
「私以外の全ての魔女を食べた『嫉妬の魔女』は、世界の半分を呑み込んだ怪物なの。だから、世界を滅ぼし掛けた魔女っていう存在は禁忌の存在として扱われてる。スバル君も私が魔女だとか言っちゃダメだよ~?私も困るけど『魔女と仲良くしてる』なんて周囲の人間にバレたら、スバル君市中引き回しの刑にされてから火炙りの刑で殺されちゃうからね」
「関係者ってだけでそこまでの刑罰になるの!?」
「魔女の名前もそうだけど世界中で悪さをする魔女教達も、せっせとネガティブキャンペーンをしてて、巻き込まれ事故で嫌われる私は本っ当に迷惑だよぉ~!!」
頬を膨らませて憤るフランチェスカを見て不憫だと思いながらも、スバルはそんな彼女に親しみを覚える。
「(……いや、単純に俺の境遇を理解してくれる存在だってことが分かったからか。元の世界の事もだいぶ通じるみたいだし、安心感みたいなのがフランチェスカにはあるんだ)」
右も左も分からない場所に放り出された恐怖と、『腸狩り』という殺人鬼に殺され続ける悪夢。
その両方を理解してくれる存在が居るなんて、全く想像もしていなかったスバルからしてみれば、この『理解者』は何よりも救われる存在だった。
「スバル君の『死に戻り』は『嫉妬の魔女』による呪いか何かだね。私じゃ解呪することは無理みたいだから、何かをするってことはできないかな」
「そうか……まあ、何度も死ぬような目に遭わないならそれでいいってことだよな」
「うんうん!作業みたいに死んじゃう選択肢を取り出したら、もうそれは人間じゃないもんね!生きたいって思う恐怖が人間を形作るんだからさ!」
何度も何度も死んだことにより、精神面がドン底だったスバルであったが、フランチェスカの良く分からないテンションの高さに引っ張られるようにして、気分が自然と上向きになる。
その事を自覚して、口から思わずといった調子で言葉が
「……ありがとな」
「ん?何か言ったー?」
「いんや、なんでもない」
これが無自覚なのか自覚的な事なのかはスバルには分からない。
だが、その振る舞いに救われた。
それだけでいい。
それが、頑張るための力になるのだから。
そして、二人の足が止まる。
深呼吸をしたスバルは挑むように目に決意を宿らせ、口を開く。
「さあ、ーー運命様、上等だ!」
決戦の地である盗品蔵の閉じられたその扉を、スバルは意を決して開け放った。
神アーテーverのセリフで、"「」"の中に"。"が書いてあるのは仕様です。
聖書の文言のイメージです(伝われっ!)