マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜   作:きのこ大三元

56 / 63
第34話「第二波」

11月11日 午前7時08分

新潟戦域・第一次防衛線

<< 神宮寺 真白 >>

 

『……第二波です』

 

 遙中尉の声と同時に、戦域図の奥へ新しい赤い反応が浮かび始めた。

 

 ほんの数秒前まで、自分は最初の8分を越えたことに安堵していた。

 

 A-01は全機健在。帝国軍の防衛線も辛うじて維持され、自分も青い帰還線へ戻ってこられた。

 

 けれど、戦場はこちらの区切りなど待ってくれない。

 

『後続反応、さらに増加。大型反応を複数確認』

 

 網膜投影の縮尺が切り替わる。

 

 赤い反応の一つ一つが、明らかに大きい。

 

「……要塞級」

 

 喉が乾いた。

 

 六本の脚で巨体を支え、その上から伸びる長大な衝角。戦術機を正面から押し潰せるだけの質量を持ち、その進路そのものが防衛線を破壊するBETA。

 

 何度も資料で見た。

 

 ゲームや映像でも知っている。

 

 それでも、戦域図の中で実際にこちらへ近づいてくる赤い反応は、知識とはまるで重さが違った。

 

 そして、そのさらに後方。

 

 別種の反応が増えている。

 

『光線属種、反応確認』

 

 一瞬、通信が静まった。

 

『光線級。さらに大型反応――重光線級の可能性あり』

 

 背筋が冷える。

 

 光線級。

 

 重光線級。

 

 人類から空を奪ったBETA。

 

 航空機だけではない。戦術機が跳躍して高度を取ることすら、相手へ射線を与える行為に変える存在だ。

 

『A-01、聞いて』

 

 伊隅大尉の声が、部隊回線を締める。

 

『ここから戦い方を変えます。跳躍高度を抑え、地形遮蔽を優先。独断で高度を取らないこと』

 

『了解』

 

『ヴァルキリーCP、レーザー照射可能域を表示』

 

『了解しました』

 

 戦域図へ赤い扇状の範囲が次々と追加される。

 

 それまで使えていた経路が、目に見えて減っていく。

 

 XM3がある。

 

 従来より素早く動ける。

 

 それでも、その速さを空へ逃げるために使えば、光線級に撃ち抜かれる。

 

『ヴァルキリー6』

 

『はい』

 

『危険域の変化を常時読み上げて』

 

『了解。レーザー射線と帰還線、両方見ます』

 

『ヴァルキリー5。若手組へ低高度機動を再確認』

 

『了解。柏木、築地、高原、麻倉。跳ぶ前に見る。遮蔽物を切らさないこと』

 

『了解!』

 

 如月中尉の声が若手組をまとめる。

 

 初めて見る光線級が怖いのは、自分だけではない。

 

 それでもA-01の隊形は崩れなかった。

 

『ホワイト・ゼロ』

 

「はい」

 

『配置維持。まだ動くな』

 

「了解しました」

 

 危険な敵が見えた瞬間、先に潰さなければという考えが頭をよぎる。

 

 以前なら、そのまま動いていたかもしれない。

 

 だが今は待つ。

 

 知っている未来ではなく、現在の戦場を見る。

 

◇

 

11月11日 午前7時10分

新潟戦域・第一次防衛線

<< 伊隅 みちる >>

 

 第二波は、第一波とは性質が違っていた。

 

 要塞級が増えれば、防衛線へ加わる圧力そのものが変わる。さらに後方へ光線属種が展開すれば、戦術機の立体機動は一気に制限される。

 

 XM3がどれだけ優秀でも、レーザーへ正面から晒せば意味はない。

 

 速さが増したからこそ、使う場所を誤ってはいけなかった。

 

「ヴァルキリーCP。帝国側のレーザー属種対応は」

 

『第12師団より共有。砲兵隊が座標更新中。前衛戦術機隊も照射域を避けて再配置中です』

 

「こちらも合わせます」

 

 伊隅は戦域図を拡大した。

 

 第一波で押された右翼側には、まだ帝国軍機が散在している。中央は持っているものの、要塞級の進路次第では防衛線そのものが押し割られかねない。

 

 その後方には光線属種。

 

 あれを放置すれば、攻撃だけでなく撤退時の選択肢まで削られていく。

 

『ヴァルキリー1』

 

 弥生の声が入る。

 

『右後方の光線級群、まだ本格照射体勢には入っていません。要塞級の影と地形を使えば、地上経路は残ります』

 

「距離は」

 

『現位置から約2.3km。ただし途中に戦車級、要撃級多数』

 

 遙が続けた。

 

『A-01本隊から直接レーザー属種へ向かうのは推奨しません。中央支援が薄くなります』

 

「同意します」

 

 危険な敵だからといって、A-01が全部を処理する必要はない。

 

「帝国軍砲撃を待つ。A-01は中央維持」

 

『了解』

 

 戦域図の中で、ホワイト・ゼロの白いマーカーは動いていない。

 

 神宮寺少佐も待てている。

 

 第一波では、救える相手を見るたびに前へ出ようとしていた。

 

 今は命令を待っている。

 

 それでいい。

 

 その判断を続けられるなら、ホワイト・ゼロは使える。

 

 そして、生きて戻せる。

 

◇

 

11月11日 午前7時12分

新潟戦域・第一次防衛線

<< 神宮寺 真白 >>

 

 要塞級が近づいてくる。

 

 分かっていたはずなのに、実物を見た瞬間の感覚はまるで違った。

 

 周囲の戦車級や要撃級まで小さく見えるほどの巨体。六本の脚が地面へ叩きつけられるたび、離れた場所にいるJM-01のコクピットにも震動が伝わってくる。

 

 あれが防衛線へ届けば、敵が一体増えるという程度では済まない。

 

 防衛線ごと押し潰される。

 

『要塞級、中央正面へ進行』

 

 風間少尉の報告。

 

『帝国軍砲撃、集中開始』

 

 直後、要塞級の周囲へ砲弾が降り注いだ。

 

 爆炎と土煙が巨体を覆い隠す。

 

 それでも、戦域図の赤い反応は消えない。

 

『一体、健在』

 

「硬い……」

 

『当然よ』

 

 水月中尉が返す。

 

『簡単に沈んでくれたら、こっちも苦労しないって』

 

 軽口を叩いていても、水月機は不用意に前へ出ない。

 

 その時だった。

 

『レーザー警報!』

 

 鋭い警告音がコクピットへ響く。

 

 戦域図へ赤い照射予測線が走った。

 

『全機、低高度!』

 

 伊隅大尉の声。

 

 反射的に操縦桿を倒す。

 

 JM-01を建物の残骸へ滑り込ませ、その陰へ機体を沈める。

 

 次の瞬間。

 

 遠くの空気が、白く焼けた。

 

 音より先に光が走った。

 

 数百メートル先を飛んでいた帝国軍の無人観測機が、一瞬だけ白く輝き、そのまま消える。

 

「……っ」

 

 炎上する暇すらなかった。

 

 光った。

 

 そして、なくなった。

 

 知っている。

 

 光線級が何をするBETAなのかは知っている。

 

 けれど、知っていることと、その光を目の前で見ることはまるで違った。

 

 操縦桿を握る指が固まる。

 

『ホワイト・ゼロ』

 

 遙中尉の声が入った。

 

「……はい」

 

『止まらないでください。現在の射線は外れています』

 

 視界へ新しい青線が表示される。

 

『次の遮蔽物まで移動可能です』

 

「了解」

 

 JM-01を低く走らせる。

 

 跳ばない。

 

 高く出ない。

 

 瓦礫と地形を一つずつ繋ぎながら、次の遮蔽物へ移る。

 

 XM3ならもっと速く動ける。

 

 けれど今は、速ければいいのではない。

 

 撃たれない場所を、素早く繋ぐ。

 

 それが必要だった。

 

『ヴァルキリー1より各機。低高度維持。第二波に備える』

 

『了解』

 

 返答を重ねながら、戦域図を見直す。

 

 要塞級が前へ出る。

 

 その後ろでは、光線属種が空を閉ざしている。

 

 死の八分を越えれば、少しは楽になると思っていた。

 

 甘かった。

 

 第一波を越えた先には、第一波とは違う戦場が待っていた。

 

 その時、遙中尉の声が再び入る。

 

『ヴァルキリーCPよりヴァルキリー1。帝国軍右翼、防衛線に乱れ』

 

 戦域図の右側で、黄色の味方反応が後退し始める。

 

『複数機、後退遅延』

 

 伊隅大尉の声が低くなった。

 

『詳細を』

 

 新しい赤い反応が、帝国軍右翼へ流れ込んでいく。

 

 自分はその光景を見ながら、操縦桿を握り直した。

 

 今度は勝手に出ない。

 

 必要なら、呼ばれる。

 

 その時に動く。

 

 戦場の右端で、新しい火の手が上がり始めていた。

 

第34話「第二波」 END

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。