さとしくん。お姉さん。たかしくん。俺くん!? 作:カピバラバラ
その心は、どちらも一発ネタでしょう。
「ねぇ」
窓から零れた日光にうたれて、ぽやぽやと目の覚めないままに声を掛けられる。穏やかな日光と同じぐらい、優しい声を掛けてくれたのは上級生のお姉さんだ。
「お昼一緒に食べよ?」
僕なんかと友達でいてくれる優しいお姉さん。
自分なりの主張が上手くできなくて、この学校じゃ一人ぼっちで過ごしてて、惨めな気持ちが溢れるばっかりだった。
お姉さんは、とってもキラキラとしている。
耳につけてるイヤリングや、ルビーみたいな綺麗な目、太陽みたいな笑顔、身長も高くて美人なんだ、そんなお姉さんの全部が綺麗で、眩しくなる。
「うん!」
いつものように、返事を返す。
お姉さんは人気者の筈、お昼ご飯を食べる時、いつもテストや実施試験の話を楽しそうにするんだ。
毎回満点を取ってるらしくて、僕は凄い!と褒めることしか出来ない。いつかお姉さんみたいに強く、賢く、綺麗になれたらいいなって思うばかりで、全然成長出来てなくて悔しいな…。
「へへっwおい
「っ、
……たかしくんは、お友達です。
僕の事が嫌いなのか、お姉さんと話しているといつも間に入ってきます。
それになんというか……お姉さんに対して、変な言葉を使ったりするんです。僕はいつも注意しようと頑張っても、たかしくんは……喧嘩も強いし、頭も良くて……。
──僕は、お姉さんの事が大好きなんだ。
一人ぼっちの僕に話しかけてくれた事、一人にしないでいてくれた事、毎日の楽しみを作ってくれた事。全部が全部、感謝しても足りないくらい。
でも、僕は弱い。
人として弱くて、お姉さんとは少しも似合わない。綺麗なお姉さんの隣に、こんな僕が居るなんて……。だから、たかしくんから何を言われても頷くことしか出来ないんだよ…。
「なぁなぁなぁ、良いだろさとし〜?ツラ貸せって、ほら」
「う、腕引っ張らないでっ…」
「……たかしくん」
「なんすかお姉さんwさとしと遊んでくるだけっすよ?」
「……」
お姉さんの目が、僕をじっと見つめる。大丈夫?本当に?そんな問いが聞こえてくるような顔で、心配そうに。
僕は……僕は…──情けない姿を見られたくなくて、首を縦に振った。大丈夫じゃないのに、大丈夫だって言っちゃうんだ。それでもっと情けなくなるのは分かってるのに。
「…なら、今日は一人で食べとくね。バイバイさとしくん」
「っ…。うん、バイバイお姉さん」
ニヤニヤと、泣きそうな顔をしている僕の顔を見て笑うたかしくん。負けちゃいけない、そう思っていても情けなさは変わらない。
ああ。きっと、この先も…。
僕が変われないうちは……お姉さんに似合うような人間には、なれないんだって思う。
それこそ、口は悪くてもたかしくんみたいな人の方が…──お姉さんを、笑顔にできるんじゃないかなって。
■
「………」
──訓練校に所属する二名を保護してもらいたい。
──ああ。生活には干渉せず、両者が履修過程を満了し卒業するまでの5年間を任務とする。
「……」
──不安要素は、同校に潜む特異側の者達。
──訓練校周囲数百kmが既に特異現象化が進行している。君にとっては片手間かもしれないが、我々のエージェント、彼ら彼女らを特異現象から救命する事も頼まれてくれるか。
「……───」
──ありがとう。
「……」
「……──行くか」
■
「ぼ、僕はもう!たかしくんに殴られてばっかりの雑魚じゃない!」
「へ〜wきちーwなになに急に、お姉さんとの時間が無くなるのがそんな嫌なの?」
「────」
……。
恐らく、今俺はとても真剣で、真面目な場面に立ち会っているのだと思う。
特異現象、それは『人間』が『べつのもの』へと変わる現象。『べつのもの』との接触は、一つ間違えればつむじから足先まで折れ曲がって肉団子になってもおかしくない。
この訓練校を中心にその現象が発生しているらしく、原因解明も含めた任務を受けたのが私だ。
しかし転校して初日──謎の青春群像劇を見せられるとは、思いもしなかった。
廊下にて言い争う二人を、なるべく遠くから自然体で観察する。
「…………」
どうやら恋沙汰のようだ。
護衛対象と生徒の衝突、これは任務における『保護活動』に含まれるのかが悩みどころ。間に割って入って止めることも出来るが、恐らくは『生活に干渉しない』点が引っかかる。
──黙認。自分の経験不足故に、訓練生の日常というものは分からないが、事前に収集した情報からはこれも立派な『生活』の一部である。
任務内容は単純故に難題、街中で特異現象化が頻発するようになっている現状、彼ら彼女らの『生活』に干渉せず護衛を行う───…つまりは、全てを気づかれる前に片付ける必要がある。
そして、訓練校に紛れた『敵』の排除。
特異現象に変えられた姿、変わる前の姿。
本来交わるはずの無いこの二点が、ある年を境に交差してしまった。
特異現象を自らの力として振るう者、超常存在。
神とも崇められる、人であった彼らはその超越的な力に溺れている。
私の役目は全てを『正す』事。
全てを、あらゆるねじ曲げられた全てを元に戻す。例え相手が神であれ、化け物であれ、人であれ。
その為に作られた歪んだ生命であるからこそ、歪みを持つ命全てを黄泉路へと連れていく責任がある。
「あ、ああそうだよ!僕は陰気で、力も頭も弱いからお姉さんみたいになりたくて、毎日頑張ってる!それを貶されて、怒って、何がおかしいの!?」
「どうせ変われないくせに頑張ってるのが面白いんだろw」
──さとし、真っ当な言い分だ。よく頑張っているな。
生憎、コレでも情緒教育は善いモノを施されている。この鉄の身体には、確かに心を宿らせていた。努力するものを嗤う存在へ、無関心の目を向けられる程では無い。
──…絹の様な肌に、艶のある黒髪、体躯は小さく筋肉は平均を大きく下回っているだろう、霞んだ目で見れば女と見間違うかもしれない身体で、高い声を張り上げながら抗う
一方、さとしに絡む彼は一目見れば男と分かるゴツゴツとした肉体と、健康的な日焼けをした肌を持ち、悪辣そうな表情を浮かべていた。
……。
施設で見た漫画とよく似た展開だ、学園の中で繰り広げられる恋の運命は如何に、といった所か。
私の感性がセピア色でなければ、この特等席は素晴らしいものなのだろうな。
「もうっ!二人とも!」
──いわば、メインヒロインとしての役回りを持つ存在が、廊下で喧嘩していた二人へと突撃してくる。
さとしの頭をポコンと叩き、たかしの前に立って顔を赤く膨らませた。
「お姉さん…」
「お、ちーっす」
「いつもいつも、いーっつも!そんなに喧嘩するのが好きで、お昼も一緒に食べてくれないなら……!」
「私、別の人のこと好きになっちゃうからね!適当な人でも彼氏にしちゃうから!───あ!そこの人ー!」
「──私と、付き合ってくれませんか」
「……」
「……。……?」
「───……」
「……………………俺の事かッ…!?!?」