【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「それじゃあ、ボクについてきて~。みんなで地底魔界に帰るよ~」
「それは良いんだけど、なんで分裂したんだ? というか、みんなでって言うけれど、俺しかついていってないじゃないか」
ピルカヤが先導してくれるのは良いんだけど、フィオナ様も四天王たちもついていっていないぞ。
まさか、誰か他にも誘拐された魔族や人でもいたか?
「私たちはやり残したことがありますので、後で合流します」
「まだ巣の中に誰か残っているんですか?」
「いえ、ちょっとしたことなのですぐにすみますよ。それとも、私と一緒じゃないとさみしいですか?」
「そういうわけでは……」
「なんでさみしくないんですか!」
「えぇ……」
なんで怒るんですか。
さみしいと言ったら言ったで、どうせうざ絡みするでしょう。あなた。
まあ、誰かが取り残されているとかではなさそうなので、俺たちは大人しくピルカヤについていくとするか。
そうしてしばらく進んで気付いた。
フィオナ様たちって、昆虫人の元女王や転生者たちの事情をちゃんと理解しているんだろうか?
なんか、思っていたよりも面倒な状況になっているんだよなあ。
単なる昆虫人による攻撃ではなく、昆虫人たちは操られていて、首謀者は転生者だったとか。
一応、ピルカヤを介して伝えておくか。
うまくいけば、昆虫人やまだ倒していない転生者を回収できるかもしれないからな。
◇
「ということみたいですよ~」
「そうですか。事情はわかりました」
であれば、目の前にいる昆虫人の女王は、今回は被害者ということですか。
……まあ、部下を止められていない時点で、私のレイをさらった時点で、どうでもいいことでしたが。
レイがそれを伝えたということは、全滅させることは避けるべきなのでしょうね。
「今回は許します。ですが……もしもまた私たちに手出ししたときは、誰の責任であろうとあなたたちを滅ぼします」
「は、はい……。ご温情に感謝いたします……」
しかし、そうなると魔法で一気に殲滅というわけにもいきませんね。
ですが、私だけでなくこの子たちもやる気みたいなので、そのほうがかえって良かったのかもしれません。
「首謀者の場所は?」
「あっちみたいですよ~」
ピルカヤは、すでに分体を大量に作成し、巣の中を捜索してくれているようです。
火に意識を移すだけでなく、数による情報収集がこの子の強みですからね。
複雑な巣とはいえ、構造はあらかた把握したのでしょう。
一度懐に潜り込んでしまえば、このような力業ができるのは実に頼もしいことです。
「転生者は?」
「首謀者と共犯と正義屋。残念ながら、それ以外はボクの邪魔になるから燃やしちゃったやつで最後ですねぇ」
「そうですか。では、回収できる転生者もいないと……それは――よかったです」
レイが望むのであれば、転生者を引き入れることも検討しましょう。
ですが、いないのであればさすがのレイも諦めてくれるはずですからね。
昆虫人の女王もそうですが、操られたとはいえ私のレイに危害を加えようとしたのであれば、それだけで罪なのですから。
「あ、でも、正義屋は敵対関係を解除していたみたいですよ~? 結局操られて戦ったらしいですけど」
「そうですか……。では、仕方ありません。そちらは検討しましょう」
「そうですね~。あいつがいなかったら、ボクたちも駆けつけられませんでしたし」
まあ、たしかにそうなんですけどね。
この巣は敵の拠点なので、敵対者である私たちの行動は阻害されていました。
レイは地底魔界のように力をふるえず、ピルカヤはこの拠点の者が発生させた火以外と同期をとれず、実に厄介なものです。
ですが、あのヒーローが発生させた炎が、巣の中で燃え上がったことで、ピルカヤがそこに意識を移せましたからね。
そこでレイたちと話ができたことで、事情を知ることはできたので……情状酌量の余地はあるとしておきましょう。
まあ、その炎が消されていなければ、そのままピルカヤに任せられたのですが、そこまで甘くはないみたいですね。
「ワープできれば楽なんですけどね」
「無茶はやめておきましょうよ。魔王様、この巣の支配権を奪うために、玉座の魔力まで使っているんですから」
リグマの言うとおり、魔力はわりと減っています。
ですが、勇者程度ならまだまだ倒せる程度にも残っています。
ワープできないのは、魔力の問題というよりも、支配権を奪いきれていないためです。
ピルカヤが唯一分体を送り込めた場所。その周囲を魔力によって無理やり書き換えて、私の地底魔界にしました。
ダンジョンの拡張なんて久しぶりでしたし、さすがに力ずくすぎて魔力をだいぶ消費しちゃいましたからね。
なので、ワープできるのはその場所だけであり、私たちはこうして自らの足で巣の中を進まなければいけません。
ですが、それもそろそろ終わりのようです。
「な、なによあんたたち……」
「おじさんたちねえ。君らに喧嘩を売られたから買いに来たんだよ」
「し、四天王……嘘だろ。まだ猶予があったんじゃなかったのかよ……」
敵は二人。ヒーローはちょうど倒れていますが、これがレイの自爆とやらの結果ですか。
……やっぱり、帰ったらお説教しましょう。不死鳥の羽があるとはいえ、他に方法がなかったとはいえ、お説教しなければあの子また無茶しますから。
なんだか、アナンタの気分が少しわかった気がしますねえ。
「な、
「悪は否定しませんが、攻め込んできたうえに私たちの仲間をさらったのはそちらでは?」
「プリミラの言うとおりだ。覚悟を決めて私たちと戦うがいい」
「ふざけんなよ。四天王全員と戦えだなんて、何があったらそんなことになるんだ……」
「知らなくても平気だよ? だって、知ったところで君たちもう終わりだもん」
どうやら、みんなやる気のようですね……。
では、あちらはあの子たちに任せるとしましょう。
「な、なんなのよ。たかだか転生者を数人奪っただけで……」
……たかだか。だけ。
私の大切な宝を奪っておきながら、それがどれだけのことかも理解していない?
「効かない……? 仕方ないわね。自分で戦うなんて、面倒だったけど」
そう言うと、目の前の女は雰囲気が変化した。
……わずかに強くなっているようですね。
「死になさい!」
その攻撃は、私を脅かすほどのものではない。だけど、受けてやる必要もありません。
そもそも、触れることさえ不愉快なので、魔力で軽く弾いてやると、女はそのまま背後へ吹き飛ばされた。
……脆いですね。
歩み寄ると、女の顔が恐怖で歪んでいくのがわかる。
ああ、いまさら気付いたんですか。自分が何をしたのか。
「わ、私に手を出したら女神が黙っていないわよ。それに、たとえ死んでももう一度女神の力で転生できるし……死後の世界だって、きっとあるはず……だから」
本人もきっとそう信じているわけではないのでしょう。
私への脅しというよりは、途中から願望に、そして疑いへと変化していく。
もっとも、それらが全て本当だったとしても、どうでもいい。
「お前には、天国も地獄も無い。次の転生なんて許すものか。お前は――ここで消滅させてやる」
女の顔が引きつったのが見えた。
もっとも、次の瞬間にはその顔もこの世から消えてなくなったが……。
もう一人の転生者のほうも……すでに終わったようですね。
「魔王様。これでやり残しは完了しました」
「ええ。それでは帰りましょう。私たちの地底魔界へ」
最後に、倒れている転生者と巣を奪われた昆虫人の女王をリグマとリピアネムに回収させ、私たちはみんなの元へと帰りました。
◇
「というわけで、魔王様の膨大な魔力で、無理やり敵の巣を一部を奪い取ったわけだ」
「なるほど。あのヒーローの黒い炎からピルカヤが出てきたときは驚いたけど、そのおかげで位置と状況が伝わったのか」
ダスカロスから説明を聞き、今回の事態の全貌はようやく理解できた。
さすがは魔王様だなあ……。力ずくで敵地の権利を奪い取るとか、けた外れな魔力を持っているだけある。
「で、そのために玉座の魔力を使った。と」
「おかげで、しばらくガシャ禁止生活なんですけど!」
「それは……なんかすみません」
「前回と違って、私のせいではないので、玉座の魔力を補充するときは隣にレイを置いて、常になでることを所望します!」
「許可します」
プリミラ!?
いつもと違って、フィオナ様にやけに甘いじゃないか。
というか、俺の意見を聞いてくれずに勝手に判断するなんて、彼女らしくもない……。
「あの」
「なんですか?」
「もしかして、ちょっと怒ってる?」
「いえ? レイ様が不死鳥の羽を自爆可能アイテムとしたことなんて、私たちは怒っていませんが?」
「怒ってるよなあ……」
「怒っていませんが?」
あとでもう一度みんなに謝っておくか……。
なんか、えらい心配をかけてしまったみたいだし、今後はあまり無茶しないようにしよう。
だけど、あの場はあれ以外に手段はなかったし、やっぱり同じ場面になったそのときは……。
「むむ、レイがまたよからぬことを考えています! プリミラ、レイにお説教をするときですよ!」
「では、ダスカロスと二人でちょっと話をしましょうか」
絶対ただの話じゃないよな……。
プリミラとダスカロスにお説教され、その間もフィオナ様は俺を甘やかし続ける謎の時間を送ることになった。
これは、一応飴と鞭みたいなものなんだろうか?