【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さて、今日からは玉座の魔力を注入します。約束は覚えていますね?」
「フィオナ様の隣にずっといるって話でしたっけ?」
「そのとおりです。ちゃんと覚えていて偉いですね。レイは、ずっと私の隣にいるべきですからね」
まあ、たまにはそんなのもいいか。
ピルカヤに頼んだら、ここにいながらダンジョンの監視くらいならできるしな。
ただ、ずっとの定義が少し気になる。トイレ休憩くらい大丈夫ですよね?
「では、集中します」
「はい」
そう言うと、フィオナ様は玉座に座って精神を統一するような姿を見せた。
なるほど。あんな感じで魔力を注入するのか。
たしか、座っているだけで魔力の回復もできるようだし、うまいこと永久機関にならないかな?
「レイ」
「なんでしょうか?」
「黙っていると、私が退屈なのですが」
まあ、見た目だけは暇そうではあるよな。
だけど、集中力とか必要かと思っていたし、なるべく喋らずに考えるだけに留めていたんだが。
「いえ、邪魔しちゃ悪いと思ってたんですけど……」
「ちなみに、何を考えていたんですか?」
「フィオナ様がずっと玉座に座ることで、永久機関にならないかなと」
「一生玉座に座らせるなんて、私を除け者にしたいんですか!?」
「違うので落ち着いてください。玉座から立ち上がっています」
「まったくもう! 油断すれば魔王を邪険に扱う!」
違うのに……。
ただ、エネルギー効率を考えてのことだったのに。
フィオナ様は、ぷんぷんと怒ってしまった。
それにしてもこの魔族。怒るときはいつもこんなふうに迫力ないよなあ。
これで、魔王としてやっていけていたのかすら気になってくる。
「話しかけて良いのなら話しますけどね」
「どんときなさい。私くらいになると、魔力を補充しながら何でもできますからね!」
「あれ? それなら、座ったまま読書なんてちょうど良いんじゃないですか?」
「そうすると集中力が削がれますからね。読書以外なら何でもできます」
「娯楽室からトランプでも持ってきて遊びますか?」
「トランプゲームは集中力を削ぎますからね。読書とトランプ以外ならなんでもできます」
……わかったぞ。
まだ二つしか提案していないが、この回答からすでに答えは導き出せてしまった。
「……なんにもできませんねえ。魔王様って」
「ここで名前じゃなく魔王呼び! 宰相として呆れたような態度は、いかがなものかと思いますけどねえ!」
興奮しないでください。また玉座から立ち上がろうとしていますよ、魔王様。
まあ、こんな会話でも暇つぶしになっているのであれば、多少は役立っているのだと思うことにしよう。
ただ、どこまで集中を妨害してもいいのかわからない。
フィオナ様の暇を潰せたとしても、その代わりに魔力補充が失敗しては意味がないからな。
というか、以前は遠隔から玉座に魔力を注いでいたじゃないですか。
それができないほど、今回は集中が必要だというのか?
でも、前回もほぼ枯渇していたはずだしなあ……。
「あとは……魔導映写館みたいに、魔導スクリーンを作りますか?」
「採用です! さすがは私のレイ。意地悪なだけでなく、そうやってちゃんと私のために行動してくれるのですね!」
むしろ、いつもフィオナ様のために行動していますが?
まあ、フィオナ様がご機嫌になったのであれば、改めて指摘することではないか。
とりあえず魔導スクリーンを作成してしまって……。
あとは、適当な映像結晶を持ってくるとしようか。
「レイ」
「なんですか?」
ロマーナのところに行って、映像結晶を借りてこようとするとフィオナ様に呼び止められた。
足を止めて振り返ると、そこには不満そうだけど、どこかアホさを感じるかわいい表情のフィオナ様がいた。
「さっそく私を置き去りとは、私への忠義はどこへいったのですか!」
「あなたへの忠義は、映像結晶を借りに出かけようとしています」
「ピルカヤに頼んで、誰かに持ってこさせればいいじゃないですか。私を一人にしようだなんて、そうはいきませんよ!」
「えぇ……。じゃあ、魔導映写館の従業員の誰かに頼みます」
なんか、今日はいつにもまして寂しがりだなあ。
というか、動けないわけでもないのだから、不安なら一緒についてくればいいのに、律義なものだ。
……それだけ、大量の魔力を消費してしまったということだろうか。
たしかに、フィオナ様の魔力をもってしても、ダンジョンに壁や部屋を作るのは大変らしいからな。
それが、自分の地底魔界ですらない昆虫人の巣。そこの支配権を魔力で無理やり奪うなんて力業もいいところだ。
きっと、想像していたよりもはるかに大量の魔力を使ってしまったんだろう。
となると、やはり俺の責任だよなあ。
やっぱり、今日くらいはフィオナ様をとことん甘やかしつくすことにしよう。
「よし、わかりました」
「なにがですか?」
「今日は、フィオナ様をとことん甘やかします」
「おおぅ……。レイの口からそんなことを聞けるとは。では、私も思う存分わがまま言っちゃいましょうかね!」
どんとこい。
できないこと以外は、なんでも叶えてみせようじゃないか。
「じゃあ、私の代わりにガシャを百連ほど」
「それは無理です」
「嘘つき!」
できないこと以外と言った。……いや、思っただけだから伝わっていないけど。
ともかく、そんな強欲な願いは叶えられないんですよ。
「とりあえず、ピルカヤ~。映像結晶いくつか持ってこさせて~」
『オッケ~。ロマーナに伝えておくよ~』
とりあえず、映像を見せておけば大人しくなるだろう。
……なんか、風邪をひいた子供の看病でもしている気分になってきたな。
◇
「あの、魔王様へのご挨拶は……」
「今はタイミングが良くない。そして君たちへの心証も、まだ良いとは言えない」
「む……。たしかに、敵だったからな。できるなら直接謝罪したいのだが」
昆虫人の女王様とナルカミが、ビッグボスに会おうとするも却下される。
別に二人を疎ましく思ってのことではない。
むしろ、二人を思ってのことだ。
「私たちですら、魔王様がお怒りになるのは見たことがない。君たちの責任ではないとはいえ、今はレイに任せることだ」
「ううむ、不甲斐ない……」
「す、すみません。お手をわずらわせてしまって」
俺たちを拉致したあの転生者が悪いとはいえ、ビッグボスの怒りは相当のものだったらしいからな……。
そんなビッグボスの機嫌を回復できるのは、魔王軍の中でもボスしかいないだろう。
それだけの怒りを鎮められるとか、ボスがやべえ。
ボスがいなかったら、ビッグボスってどうなっていたんだろうな……。
『そのことなんだけどさ~』
「どうした? ピルカヤ」
俺たちの会話を聞いていたらしく、ピルカヤの旦那が松明から話しかける。
なんだ? もしかして、ボスですら機嫌をとるのが難しいというのか?
『魔王様。もういつもどおりで、すっかり怒りなんて消えてるみたいだよ~』
「ほう、さすがはレイだな。あの魔王様の冷たい怒りをもう溶かしてみせたか」
『火の扱いが得意なボクでもびっくりだねぇ』
……ボスすげえな!
いったい、どんなことをしたら、それほどの状態のビッグボスを元に戻せるんだ。
ともあれ、どうやら地底魔界も、いつもの住み良い場所へ戻ってくれたってわけだな。
やはり魔王軍は、もっとのびのびと気楽に楽しく暮らせねえとなあ。
「では、俺たちはもう魔王に挨拶すべきか?」
「いや、必要になったら魔王様に呼ばれるはずだ。今は、魔王様とレイの邪魔をすべきではない」
だよなあ。なんか、二人の邪魔をしたらビッグボスが怒りそうだ。
俺たちは、しばらくはあの二人に近づくべきではないのだろう。
「ちょっと……行ってくる……」
「やめなさい。お馬鹿」
プネヴマの姐御が、エピクレシの姐御に止められていたが、やはり俺たちはまだ二人に近づくべきではないのだろう……。