【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「そういえばフィオナ様って、もうヒーローと女王には顔見せしたんですか?」
「……」
「なんですか。その嫌そうな顔は」
ついでにいうと、いつものマスコット的なかわいい顔になっている。
美しいでもかわいいでもなく、女性というよりはキャラクター的なかわいさだ。
「私のレイを奪おうとしましたからねえ」
「奪おうとしたの、あいつらじゃなさそうですけどね。と言いますか、よくそんな二人を地底魔界に招きましたね」
「いえ、わかってはいるんですよ? あの二人はそこまで罪が重くないと言いますか、そもそも被害者側だと」
理屈ではわかっているけれど、感情ではそうもいかないというわけか。
それでも招いたあたり、やはりフィオナ様は優しい魔王なのだろう。
時任を仲間にしたときが嘘のようだ。
「まだ、会うのやめときますか」
「そうですねえ。今会っても、怖い魔王として接しそうですし」
「ははは」
「な、なんですか! そのわざとらしい笑いは! というか、面白いこと言ったつもりはありませんけど!?」
「いえ、怖い魔王だなんて、無理してるなあと思っただけですよ?」
「なにをぅ!? 私だって、その気になれば恐ろしい魔王になれるんですけど!」
「はいはい」
無理だろうなあ。
たしかに、出会ったときは冷たい雰囲気の恐ろしい魔王だと思った。
だけど、あれって今考えると、やる気がなくなって無気力になっていただけだし。
それ以降は怒っている姿すら見ていない。
うん、やっぱり無理だな。この優しい魔王様が怒って恐ろしくなるなんて。
「まあ、すでにちょろっと顔見せはしていますけどね」
「ああ、そういえばそうでしたっけ。そうでなければ、オーガたちのときみたいに、また部屋に引きこもっていたでしょうからね」
「……」
「恐怖の魔王にほおをつねられてます」
「まあ、引きこもるのには慣れていますから、強く否定はしませんが」
なら、なんでほおをつねるんですか。
玉座に座ったままで暇なのか、フィオナ様はそのまま俺のほおに触れて暇をつぶしていた。
「私のもの……」
「ええ、そうですが?」
わりと無意識のつぶやきだったのか、フィオナ様ははっとした様子で俺の返答に驚いていた。
まあ、俺はとっくの昔にフィオナ様の所有物だし、むしろそれを望んでいるので、今のところ互いにとって良い関係といえるのだろう。
若干の歪さを感じなくもないが、俺とフィオナ様はそれでいいのだ。
◇
「さて、魔力の補充は順調です。ですが、一つだけ問題があります」
「どうせ、ガシャのことですね」
「それは、私が玉座のために魔力を消費するということは、ガシャが回せないということです」
「やっぱり、ガシャのことですね」
「もう!」
合っているのだからいいじゃないですか。
まあ、フィオナ様の言っていることもわからなくはないか。
今回は、俺たちを助けるために魔力を消費しているわけだからな。
そのぶん楽しみが減っているのであれば、俺がなんとかしてあげるのが筋というものだろう。
「ただ、代わりに俺が宝箱を開けたところで、フィオナ様が楽しめるかが問題ですね」
「それはそれで、確定蘇生薬ガシャを回している気分なので楽しいのですが」
そこまでの期待をされても困ります。
あくまでも、確率がかなり高いというだけで、たまにはハズレもありますからね?
「やっぱり、自分で回して当てるのが楽しいですか?」
「そうなんですよねえ。そろそろ当たるはずですし」
また、根拠のない自信に囚われているな。この魔王様。
まあ、最近はハズレ続きだし、そろそろ当たってほしいという気持ちはあるけれど。
「いっそ、俺というかダンジョンの魔力を分け与えられたら良いのですが」
無理かな? 無理だろうな。
なんかこう、手渡す感じでうまくいかないものか。
とりあえず、フィオナ様の手をぎゅっと握って、ダンジョン魔力を移そうとしてみる。
「……な、なんでしょうか?」
「何ともなっていませんか?」
「あ、当たり前です! いまさらこの程度で恥ずかしがる魔王ではありませんからね! 不意をついて、レイからスキンシップをとったのでしょうが、目論見がはずれましたね!」
……なんの話だ。
言われた言葉を反芻してみて、ふと自分の行動を理解する。
なるほど……。今の俺は、急にフィオナ様の手を握っているというわけだ。
「いえ、ダンジョン魔力を移せないかと思いまして」
「そんな言い訳をしなくとも、手くらいいつでも握ればいいじゃないですか!」
「いえ、言い訳では……というか、拒まないんですね」
「特別に許しましょう」
とは言っても、どのタイミングでこんなことしろと言うんだ。
それに、普段散々抱きついてきているくせに、手を握られただけで照れないでほしい。
「あれ……? ダンジョン魔力を譲渡と言いましたか?」
「言いましたね」
「さあ、どんときなさい! 一万でも十万でも受け入れましょう!」
「フィオナ様に、そんなキャパはないです」
最大で9999だからな。
どうせそれ以上の魔力は、過剰魔力になりますよ。
きっと蘇生薬を引いても、時間経過で消えます。
「それと、結局ダンジョン魔力の譲渡は無理でした」
「ぬか喜びじゃないですか! おのれ人類……」
元人類がすみません。
ただ、人類代表ではないので、だいぶ濡れ衣です。
「ということで、残念ながらフィオナ様がガシャをするときは自分で魔力を溜めて……」
なんですか?
なんで手を離してくれないんですか?
ぬか喜びさせた罰でしょうか?
「あの」
「まだ諦めるには早いですよ。もっと色々と試してみましょう。ということで、この手は私が預かります」
切り落とされるんでしょうか?
手首を集める趣味でもありますか?
うわっ、力強っ。ぜんぜん離せないし。
「さあ、手は握っていてあげますから。好きに試すといいです」
「いえ、万策尽きましたが」
「もっと頑張りなさい! 手は握っていてあげますから!」
それにどれほどの意味があるというんだ……。
結局フィオナ様は、俺の手を夕飯まで離してくれなかった。
ダンジョン魔力の譲渡は当然できなかったが、なぜかフィオナ様の機嫌は悪くはなく、むしろちょっと楽しそうにしているようだった。
「よくわかんない魔王様だな……ほんとに」
「明日は左手で試してみますか?」
「絶対意味がありません」
「むむむ……なら、触れる面積を増やすとか」
「抱き枕ですか? 膝枕ですか?」
「そういえば、いつも似たようなことしていますねえ」
ようやくそれに気付いてくれたらしい。
面積か時間で解決できるというのなら、俺はとうの昔にフィオナ様にダンジョン魔力を全て譲渡しているだろうさ。
「まあ、試すことは試すんですけどね」
「え~……諦め悪いですねえ」
「ふっふっふ……。たっぷりと魔力を奪ってあげましょう」
無理だと思います。
その言葉は、絶対に彼女の耳には届いていなかった。
これはきっと、明日は一日中密着することになるんだろうなあ……。
絶対うまくいかないが、俺のせいにだけはしないでほしいものだ。
◇
「レイくんの姿最近見ねえな、魔王様につきっきりなのか?」
「え~と。玉座に一緒にいるね。なんか、一日中手をつなぎながら映像を観たり、抱き合ったりしてるよ?」
「え、玉座でそんなことしてんの……。こりゃあ、しばらく近寄るのは禁止と通達しねえとな」
「そうなの? 別に問題ないと思うけど」
「お前は精霊だから、そういうことよくわかんねえんだろうなあ」
「わ、私……お二人に……用事が……!」
「やめなさい。どうせ、たどり着く前に倒れるだけでしょうに」
「ご……後生だから……! 私を……向かわせて……」
「駄目です。諦めなさい」