【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
今日も平和。昨日も平和。明日もきっと平和。
だけど、たしかに変わったこともある。
アタシたちの生活は変わらないけれど、この国への来訪者が減ってしまったみたい。
「昆虫人たち、いなくなったわね」
「はい。情報は集めていますが、巣の一部としてあたりをつけた部分が、すでに放棄されていたらしいです」
「あらぁ……。なんか、物騒な予感ねぇ」
昆虫人たちは、地底に住んでいたそれなりの規模の種族だったはず。
それが、巣を放棄するというのは穏やかじゃないわ。
なんというか、トラブルの香りがぷんぷんするわねえ。
「うちを探ったり、オーガたちの居所を聞いたり、目的は結局見えなかったけど、オーガ関連でなにか問題でも起こったのかしら?」
「迫害種同士、争い合って滅んだ可能性もありますが……」
「迫害種ねえ……。それもまた、怪しいもんだけどね」
「ま、また……。そんな女神様を軽んじるような発言を……」
あら? 女神の名前なんて出していないのに、その考えに至ったってことは、あんたも内心そう思っているんじゃないかしら?
まあ、そんな追及はしないであげるわ。
アタシと違って、もしかしたら女神の罰とか受けるかもしれないし。
……それとも、アタシが反抗しないうちは大丈夫かしら?
「ま、問題ないでしょ。テイランは龍神様信仰。それは女神だってよ~くわかっているもの」
「今は、どちらも信仰されていますからね」
「それならあの女神も満足でしょ。だからこそ、アタシは勇者になんてされたわけだし」
「テンユウ様が勇者に抜擢されたのは、そのお力を認められてではないのでしょうか?」
「そんなたまじゃないわよ。あの女神」
人類を導く存在ではなく、試練を与えるだけの存在だと思うのよねえ。
力を認めて勇者に? 便利だからでしょ。
「うちは龍神様信仰。そこに介入するためにアタシを勇者にして、テイランの国民たちに神と勇者というつながりを作ったんでしょうね」
「では、他の国も?」
「さあ? うちだけじゃない? だって、人間の勇者ならリックがいるもの。あの子がいるなら、アタシを勇者にする必要ないでしょ」
「たしかに、人間の勇者だけ二人いますが……」
結局ところ、勇者という称号だって、女神にとっては世界をコントロールするための便利な道具なんでしょ。
だけど、その力で救えたものが多数あったのも事実。
無下にできないし、嫌な関係よねえ。
「でも、不思議ですね」
「あら、何がかしら?」
「うちの国は残念ながら小さいです」
「ええ。それも悪いことばかりじゃないけれど」
「そんな小さい国にこだわる必要があるんでしょうか? わざわざ勇者という役職まで用意して」
そう。そこが気になるところなのよね。
そして、この子たちはみんなその考えに自分でたどり着いた。
だから、優秀なのよねえ……。
優秀なんだけど、なんかどっぷりと趣味にはまるようになっちゃったのは、何なのかしら。
「テンユウ様?」
「あら、ごめんなさい。ええと、たぶん昆虫人や魔族とも関係しているんじゃないかしら?」
「えっ……。それは、どういうことですか?」
まあ、さすがにこんなことを言われてもわからないわよね。
というか、自分自身まだ考えもまとまっていないし、突飛な意見だという自覚もあるもの。
だけど、この子たちなら何か良い意見を言ってくれるかもしれない。
「テイランの文化は龍神様信仰で、それは龍脈という大いなる力で生活しているから。ま、こんなのは今更説明なんていらないわよね」
「当然です。テイランのみならず、他国でも龍脈の存在は確認できています。私が通っているカジノ……欲望のダンジョンでも」
「そうね。私が通っている温泉……地下の源泉でも」
ひっぱたいてやろうかしら。
アタシの言葉を裏付けるところが、またなんとも憎たらしいわね。
「まあ、要するに世界の地下って、大きな力の源泉なのよ」
「テイラン以外は、魔力は大気から取り入れていますが、テイランは地下の龍脈が主流ですからね」
「そうそう。でもおかしくない?」
アタシの言葉に、最初はわけがわからなそうだったけど、三人とも思い当たったことがあったのか、はっとした表情を浮かべる。
ほんと、ちょっと話しただけですぐに理解してくれるわねえ。
「昆虫人たちは、力が豊富なそんな地下が巣ですね」
「それに、魔族たちも……」
「そう。特に魔族なんて、元々は地上で暮らしていたのに、地下に追いやられたらしいじゃない」
あの女神。そんなに知恵が回る存在じゃなさそうだし、きっと面倒ごとは同じように片づけてると思うのよねえ。
地下に追いやられた魔族。面倒ごとは地下に押し込んでしまって、地上からはきれいさっぱり消してしまう。
そんな地下に、龍脈という大いなる力が存在している。
……これって、無関係なのかしらねえ。
「龍脈も、元は迫害された種族たちの技術だった……とかでしょうか?」
「どうかしらね? ただ、地下というのはそれだけ興味深いものみたいよ」
まだまだ未発見のものがある。
そして、これはこの子たちにすら言えない。
アタシの趣味ともいえる、地質の分析で見つけてしまった。とある古い言葉。
やすらぎ様。
そのように解読できた言葉は、きっと女神とは違う信仰対象らしき何か。
まあ、女神信仰が最大勢力といっても、うちみたいに別の何かを崇拝している国も少なくないし。
過去にそんな数ある国の一つに崇拝された何かかもしれないけれど。
……なんだか、気になるのよね。
龍脈と無関係……とも思えない。もしかして、龍神様と同一の崇拝対象?
アタシたちが龍神様と呼んでいる存在は、過去にやすらぎ様と呼ばれていたのかしら?
「ほんと、まだまだわからないことでいっぱいね」
勇者になって、国内だけでなく国外でもある程度自由に動けるようになっている。
そこで、様々な調査をしても、世界について完璧には理解できていないのかもしれない。
それがなかなかに面白い。
だから。魔王軍との戦いとか、勇者とか、面倒なことはしたくないんだけどねぇ……。
「魔族や昆虫人は、女神にとって都合が悪い種族なのでしょうか」
「それか、単に気に入らないとかかもね~。アタシたちも、せいぜい女神に嫌われないようにしましょうか」
地下の世界が、女神にとってのゴミ箱だとしたら。
その中身が今どんなことになっているか、あの女神ですら理解できていないんじゃないかしら?
◇
「地底魔界って、上にはある程度空間を作れますけど、下に広げるのって難しいんですかね?」
「そもそも、横に広げるのも本当はとっても疲れますよ? レイがすごいだけです」
そういうものなのか。
だけど、俺はあくまでもメニューに頼るだけだから、たとえば二階や地下を作りたいとかはできないんだよな。
あくまでも、天井が高い部屋とかを横につなげるしかできない。
「落とし穴を深くすることで、地下二階への入り口とかにできませんかね?」
「ふむ……地下にさらに伸ばすとは考えていませんでしたが、なんかそれならできそうですね」
というわけで作ってみた。
……のだが、落とし穴の底から部屋を作ることはできない。
だめかあ。やっぱり、上下にまではダンジョンを拡張できないらしい。
「奥居。この落とし穴の底を透過して、さらに地下に行ったりできるか?」
「試してみます。……? なんか、能力が上手く使えないといいますか、阻害されている気がします」
なにかあるんだろうか?
奥居の力が使えないってことは、女神の力あるいは魔力を阻害する何かか……。
「掘ってみますか?」
「宝さがしみたいですねえ」
というわけで、手が空いている者たちにも協力してもらったが、結局力を阻害する何かは見つからなかった。
……魔力を感じるような気がしたけれど、なんか自信がないというか、ちょっとはっきりしない。
気のせいか、あるいは俺の感知能力が低いだけか。
まあ、しばらくは地底魔界は横に広げるだけになるだろうな。