【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さて、星冠樹よ! レイから蓄えた魔力を魔王に還元するのです! ……地底魔界って自然の星はありませんし、影冠樹とかにします?」
「まあ、フィオナ様がそうしたいのであれば、それで良いと思いますよ?」
やっぱり、エルフの国にある樹と同じ名前というのは、縁起が悪いんだろうか。
俺は特に気にしていないが、そういうことなら今後は名前を変えてしまおう。
「では改めて影冠樹よ。魔力ください」
最初のちょっと威厳がある態度は疲れたのか、おねだりになった。
しかし影冠樹は何も応えてはくれない。
「お、おのれエルフ……」
「濡れ衣です!」
魔王様の理不尽な恨みを買いそうになったダークエルフの代表は、大声でフィオナ様の発言を否定する。
まあ、濡れ衣にもほどがあるな。きっとやりかたが違うか、まだ他者に魔力を渡せる段階ではないんだろう。
「クララ~。この樹、私に反抗的なんですけど~」
「いえ、魔王様……。星冠樹……影冠樹もまだ魔力が不足していまして。一定量は自身の内に蓄えていないと枯れてしまうのです」
「なるほど。補充が足りていないと」
「はい、この樹はまだまだ小さいですからね。今は自身の成長のための魔力が必要な時期なのでしょう」
まあ、だいぶ小さいからな。
なんか仰々しい名前の樹だから、きっと立派な大樹として育ちそうな予感はしていた。
……となると、もしかしてこの空間では狭いか?
「なあクララ」
「なんでしょうか?」
「天井の高さ足りる? このまま影冠樹が成長したら、つっかえたりしないか?」
「……確実に到達しますね」
やっぱりか。
となると、この畑の天井を広げるように拡張が必要そうだな。
「プリミラ。ここの天井拡げてもいい?」
「ええ、拡がる分にはむしろ助かります」
ということで、この場所の主の許可も出たことだし、ちゃちゃっと天井を高くしてしまう。
というか、この部屋そのものを天井が高い部屋に作り替えた。
よし、これで影冠樹が育ってもきっと問題ないはずだ。
……だけど、それ以外は天井のスペースが無駄になっているなあ。
「天井に罠とか設置するか? 侵入者を倒せるように」
「いいえ、大丈夫です」
「吊り天井にしておくか?」
「いいえ、大丈夫です」
そうか。
まあ、プリミラがそう判断したのなら、その言葉に従っておこう。
「プリミラ。レイくんの扱いが達人級になってるよなあ……」
なんだその発言は。
まるで俺が扱いにくいやつみたいじゃないか。
「それはそれとして、これでいくら成長してもいいようになったし、魔力を注いだほうが良いのか?」
「そうですね。このままですと、成長のために見境なしに魔力を吸い取りそうなので、ある程度落ち着くまでは地底魔界の全員で協力して」
「じゃあ、とりあえず適当に注いでみるか」
ダンジョン魔力を一万ほど……。
あれ、まだ足りなそうだな。じゃあ追加で一万。
まだ駄目? 仕方ない。満足するまで注いでやるとするか。
「あの……こんなに急速に成長させられるなんて、ヤニシアの国でも不可能だったのですが」
「あれ、もしかしてまずかった? 満足するまでダンジョン魔力を注いでしまおうと思ったんだけど」
「いえ、問題はありませんが……。本来なら、国民総出で時間をかけなければ育てられないものでしたので……。レイ様の魔力の高さに脱帽していました」
「俺というか、ダンジョン魔力がすごいだけなんだけどな」
というか、マギレマさんをはじめとした各施設の管理者のおかげだ。
順調に客が入るということは、それだけダンジョン魔力を溜められるということにつながっているからな。
なので、たまにはこうして一気に消費しても問題ないはずだ。
「……つまり、私のために一万ガシャを何度でも」
「しません」
「魔王なのにないがしろにされています!」
「むしろ一番大切にしているじゃないですか!」
心外な発言にこちらも応戦するが、フィオナ様は俺の発言を聞いた途端になんかもじもじしはじめた。
そこで照れくさそうにする意味がわからない……。たまにこの魔族のことがわからなくなるんだよなあ。
「ま、まあ許しましょう! 今後も私を一番にするように」
「今までだってずっとそうしているじゃないですか」
また照れてるし。
まあ、上機嫌ならばそれはそれで良い。
ついでにダンジョン魔力でガシャをする件もうやむやにできたし、良い感じだ。
「こんなところか?」
「は、はい。すでに成長は安定しています。これならば、今後は無差別に魔力を吸収することもないはずです」
よし、それだけでもだいぶ扱いやすい樹になってくれた。
あとは、エルフの国のように、余った魔力を誰かが蓄えて、必要に応じてそれを使うことにしよう。
なんなら、ダンジョン魔力をフィオナ様に譲渡できるということだし、とても頼れる樹になりそうだ。
「フィオナ様。ためしに影冠樹から魔力を取り出してガシャを回しても良いですよ」
「いいんですか!? いや~、さすがはレイですね~。私を甘やかすことにかけては、右に出る者がいません」
ただの実験です。
それが伝わっていないようなので、念のために忠告しておこう。
「当然ですが、枯渇させたり無駄遣いは禁止です。影冠樹の魔力が不足したら、フィオナ様の魔力や玉座の魔力を吸われるかもしれませんよ?」
「むむむ……借金のようで恐ろしいですね。いいでしょう。では、一度だけ」
よかった。さすがのフィオナ様も、今回はすんなりと言うことを聞いてくれた。
そうだよな。地底魔界から無差別に魔力を奪われたら、ダンジョンが拡張もメンテもできなくなる。
魔王様や四天王が魔力を使って戦えなくなる。玉座という予備魔力すら枯渇する。
うん。この樹を枯渇させる真似だけは、絶対にしてはいけない。
「ふっふっふ……レイがダンジョン魔力を一万以上注いで、それを扱えるようになったということは。ついに私にも一万ガシャが」
あ、それたぶん無理です。
「さあ、今度こそ私にガシャチケットをよこすのです。一万ガシャ分の魔力を!」
今度は影冠樹はフィオナ様に魔力を与えてくれた。
しかし、当然というべきか、一万もの魔力は与えてくれない。
当然だろう。だって、フィオナ様の魔力の最大値は9999なのだから。
「これが一万の魔力……。なんだかいつもと違うガシャ結果になりそうな予感です!」
「いえ、フィオナ様」
「さあ、宰相レイよ。私に宝箱を用意するのです」
まあいいや。試してもらったほうが早いだろう。
言われるがまま、俺はフィオナ様のために宝箱を作成した。
「私の魔力を注ぎ、蘇生薬確定ガシャの開始です!」
たしかに注ぎましたね。9000ほどの魔力を。
「レイ。開いてください」
「はい」
そんな期待に満ちたフィオナ様の目が点になる。
まあ、いつもの結果だもんなあ。
「不死鳥の羽です」
「い、いつものやつ……。レイ、あなたが所持してください。ちなみに自爆のためのアイテムではありませんからね?」
「それは……まあ、基本的にはわかっています」
「基本以外でもわかりなさい! まったくもう! なんで、蘇生薬じゃないんですか!」
「だっていつもの9000の魔力消費ですし」
「あれ? ついに私にも一万ガシャが回せるようになったんじゃないんですか?」
「別に、フィオナ様の魔力の最大値は増えていませんからね」
俺の言葉を聞いて、フィオナ様はようやく事情を呑み込めたみたいだ。
ダンジョン魔力を使ってガシャを回せるということもあって、どうやらずっと勘違いしていたらしい。
「……お、おのれエルフ」
「濡れ衣です!」
フィオナ様の呪詛と、それを否定するクララの声だけがその場に響くのだった。