東京都立呪術高専の一室にて、
「悟、傑、今回の任務は天元様がお前たち二人を指定した。場所は富士の樹海にある天元様の結界だ。」
「結界、ですか?」
「へぇ...でもなんで俺ら?特級呪術師様を二人もつれて結界を見に行くだけの簡単なお仕事をさせるなんて、呪術界はずいぶんと平和になったもんだねー」
「悟、流石に何か事情があるはずさ。ですよね夜蛾先生」
おちょくるような物言いで教師に詰める白髪の男
それをたしなめるようにしつつも薄目でことがいに早く話せと責める前髪が特徴的な男
五条悟と夏油傑。特級を冠する化け物らである
「当然だ。現在富士の樹海には昔、天元様と相対した特級呪霊『蝗害』が封印されている」
「蝗害...バッタの呪霊か、できれば是非手持ちに欲しいところだけど悟が消し飛ばしたりしないか心配だね」
「はぁ?ちょっと舐めすぎじゃね?今から俺の微細な呪力コントロール見せてやろうか?」
「いや、お前たち。この任務は原則戦闘禁止だ。呪霊操術の支配下に置くことも禁じられている」
「「はぁ?」」
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森がさざめく
風は吹き
虫は鳴く
しかしてソコには世界が在る。
真っ白な世界に一滴の墨を垂らすが如く悠然とその存在感を放つ男
本能が、警鐘を鳴らしていた
「でもさぁ『封印が溶けている可能性があるから見てこい。ただし戦うな』ってちょっと天元様ビビりすぎじゃね?」
「夜蛾先生も言っていただろう。それだけ危険性の高く封印しなければならない呪霊なんだと」
「ま、いいじゃん。どうせ雑魚でしょ...ん?」
足を止めた。全てを見通す透き通るような青い空の眼は本能から来る警鐘を捕らえた
「……いるね。傑どうする?封印解けてましたーって報告しに行く?」
「私は別に帰ってもいいけどね?悟はそうじゃないんじゃないの?」
隣の男が、笑う。
「傑こそその笑み隠して言ったらもうちょっと真面目さがあったのに」
「で、出てこいよ」
白い方が、軽く言う。
「隠れても意味ないし」
沈黙、木々はいつのまにかさざめくのを止め、風は止まり、虫は鳴く
黒が、滲み出る
木々の影から
地面から
空から
「天元様も危険視する呪霊だ、いけるかい?悟」
「大丈夫ってしょ。だって俺たち最強なんだから」
その言葉、虚勢でも誇張でもなく、純然たる事実
「……ナルホド」
黒が、膨張する。
地面が沈み、木々が軋み、
森そのものが“群れ”に飲み込まれていく。
「喰らイがいがあル」
――解放
無数、無限にも見える蝗の群れが、二人へと奔る
空を覆い、光を奪い、“世界”を黒く塗り潰す。
「うわ、きっしょ」
眉ひとつ動かさずに言いはらいそのまま手を上げる
「近寄んなよ」
ただ、それだけ、それだけの動作で群れが止まる
(止まっ..!否、届かない?)
数センチのほんのわずかな距離を残して、それ以上進むことができない
喰える距離。
触れているはずの距離。
なのに――
「呪霊に言ってわかるかわかんないけどアキレスと亀ってやつでねって聞いてねぇか!」
到達できる距離が無限を持っていても目の前の餌に食らいつかんと蝗の濁流はとどまることを知らず
それを指先で軽く弾く。
それだけで、触れていた群れが弾け飛んだ。
「……」
「概念的に“到達しない”ってやつ?そんな感じ」
(届かナイ...)
本能が、理解を拒む。
物量も速度も飢えも、その全てが等しく意味を持たず
前髪が、前に出る。
「一応私も加勢しよう」
黒い渦とともに呪霊が現れる。
(……強イ)
だが――
「遅い」
群れが、呑みこむ
噛み砕き、喰らい、消し去る。
「へぇ」
傑の口元が、わずかに歪む。
「やっぱりそういうタイプか。私は相性が悪いね」
「喰ったもん取り込むタイプだし、俺に任せとけよ」
ーーー空気が震える
「じゃ、終わらせるか」
悟が、手を下ろす。
「――」
見えない何かが、収束する。
「逃げろ」
思考ではなく本能が、叫ぶ。
本体を圧縮しろ
遠くへと逃げろ
世界から逃げろ
音も
光も
置いていけ
全てを失っても
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数秒後
「……逃げたか」
つまらなさそうに呟く
「悟、どうする?」
「追う?」
少しだけ、間を置いて
「いや、いいや。殺すなって指令だったしちょうどいいでしょ」
悟は、笑った。
「それより天元様にどうやって説明しようか考えねぇと」
「私は手伝わないよ?」
「えぇ?そりゃねーよ」
蝗害くん敗走。しょうがない最強だもん