添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜 作:鐘楼
とうとうやってきた本番の日。リハーサルもそつなくこなし、懸念はすべて克服した。後は自然体で流れに身を任せるだけ。そういうわけなので、私は二年ぶりのライブかつ初めてのライブハウスという環境においてもとてもリラックスしていた。
そういうわけなので、興味からライブハウスの近くを散策していたところ……見知った人物を見かけたのだった。
「あっ、由衣ちゃん! 来てくれたんだ!」
深白さんがくれたチケットを渡す相手に選んだ由衣ちゃんが、きっちりライブを観に来てくれていたのだった。
「え、えぇ……本当は来るつもりなかったんだけど……希沙音が出るって言うから……っ!?」
「そうなんだ? 由衣ちゃん、てっきり『carse dony』のライブには絶対来るものかと……ん?」
お喋りの途中で、由衣ちゃんはなぜか固まってしまっていた。それも、私の姿を見て……あぁ、なるほど。由衣ちゃんが固まった理由に思い当たって、私はその場でくるりと回転して見せた。
「これ、どうかな? 『carse dony』のステージ衣装、深白さんに貸してもらったんだけど……」
私は今、バンドのかっこよくてちょっとセクシーな衣装のまま出歩いている。由衣ちゃんがびっくりしたのもそのせいだろうと考えたんだけど、どうやら的中していたみたいで、由衣ちゃんは我に返ってみたいに頷きだした。
「うん、うん……! とても似合っているわ……!」
「そう? ありがと~……って、これじゃダメなんだった」
「え?」
素直に喜びを表明して……慌てて深白さんに言われたことを思い出す。
☆
「希沙音。言っとくけど、うちはイメージも大事にしてるから。その衣装着たら、普段の愛嬌は控えめにな。代わりに寵愛を振りまけ」
「寵愛……って、どうやって振りまくんですか?」
「うーん、そうだな……分かりやすく言うと……そうだ。鬼畜めが……いばら先輩の真似してみろ。大体あんな感じだ」
「なるほど……?」
☆
深白さん曰く、どうやら私の普段のキャラクターは『carse dony』のイメージには合っていないらしい。だから、ブランディングイメージを守るために私もキャラ変を意識しないと行けないんだった。
「ねぇ、希沙音……?」
「……」
……正直、いばら先輩とはまだあんまり仲良くなれていない。歓迎会から一週間経ったけど、私はライブの練習に集中していたし、いばら先輩も不在の時間が多かったし。だけどそれでも、いつの間にかドキドキしてしまういばら先輩の不思議な魅力は印象的で……その振る舞いから、学べることはとても多い。
「由衣ちゃん」
「な、なに? わっ!?」
いばら先輩を見習って、油断している由衣ちゃんの手を強引かつ滑らかに取ると、そのまま身体を引き寄せる。すると口元にぴったり由衣ちゃんの耳元が来た。
「……今日は、私のこと見に来てくれたんだ?」
「っ……そ、そういうことに、なるわね……」
「そっか。由衣ちゃんって、この衣装を着た深白さんを好きになったって言ってたけど──」
自分の喉を、楽器のように。要領は同じで、あの時のいばら先輩の、一段声が低くなる感じを再現して、囁く。
「──私で塗り替えちゃったら、ごめんね?」
「~~~~~ッ!?」
「わっ」
上手くできた……なんて思った次の瞬間、由衣ちゃんが崩れ落ちてきたので慌てて支える。よく見ると顔も真っ赤だし、体調悪くなっちゃったのかな……?
「おーい、希沙音! そろそろ……って、由衣?」
「あ、深白さん!」
「みっ……みし、ろ……しゃん……」
そんな時、深白さんが呼び戻しに来てくれて……由衣ちゃんの様子を見て怪訝そうな顔を浮かべた。
「……いや、お前何したの?」
「深白さんの言ったとおりに、いばら先輩の真似をしました!」
私が誇らしげにそう言うと、深白さんは露骨に頭が痛そうな顔をする。
「………………すまん、やっぱそれ控えめで……」
「え、なんでですか?」
「なんでもだよ、なんでも」
理由をはぐらかした深白さんは、今度は由衣ちゃんに向き直って手を貸した。
「……由衣」
「深白、さん……」
まだ微妙な空気感が拭えていないのか、あんまり良くない沈黙が流れ始めようとして……深白さんがニッと笑ったことで、そんな空気が吹き飛んだ。
「由衣、今日楽しみにしとけよ? 希沙音、すっげーから」
「! はい、深白さん……」
深白さんの気持ちのいい笑顔に感化されたのか、由衣ちゃんもぎこちない笑顔を浮かべた。良かった、これで二人のわだかまりもなくなると良いけど……それにしても、バンド活動をしている時の深白さんは本当に楽しそうだ、なんてことを私は二人の笑顔を見て思うのだった。