添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜 作:鐘楼
今日は、久々に学校の友達と遊びに出かけていた。深白から打ち上げにも誘われていたけど、前々から予定されていたこちらを優先したのだ。
一学期が終わってまだ二週間ほどしか経っていないというのに、みんなと会うのは随分と久々に感じた。一日中、みんなと慣れ親しんだ普通の──深白や先輩たちとの刺激的なものとは違う──遊びを楽しんで、私は高嶺荘へと帰ってきた。
「ただいまです!」
「お、おかえり……希沙音」
「深白!」
玄関を開けてると、なんと深白が出迎えてくれた。あの日から、要望の通りに彼女を呼び捨てで呼んでいるけれど、正直に言ってまだ慣れない。でもそれ以上に手応えを感じるのだ。あれから深白と対等な友達になれたような気がするし、何よりあの日から深白がとてもかわいく感じる。
「それで……今日はどこ行ってたんだ?」
「学校の友達と買い物とか、色々かな」
「学校の……あぁ、そうか、そうだよな……」
私が事実を伝えると、深白はなぜか不思議そうな顔をしてから一拍置いて頷き始める。疑問が浮かんでは自己解決したかのような反応だった。
「深白?」
「いや、あたしたちが高校生だっての、なんか忘れがちだからさ……」
「あはっ、なにそれ」
たしかに、ここ最近は学生らしいことをできていなかったかもしれないけど、それはあくまで今が夏休みだからだ。……あれ、でも私だって深白が同じ高校生だって感覚はあまりないかも……深白、どこの学校なのかな、学校だとどんな風なんだろう……。
「……で、えっと……その友達とは、なにもなかったのか?」
「? なにも、って?」
深白が言いにくそうに、あるいは照れくさそうに目を逸らしながら私に尋ねてくる。けれど私にはその質問の意味が分からず聞き返すと、深白はさらに表情をこわばらせた。
「えー、ほら、添い寝じゃない『添い寝』的な……そういうのは、なかったんだよな?」
「──」
そこまで言われて……深白の言葉の意味を理解して、私は質問の答えを用意するよりも前に激しい衝撃に襲われた。
そうだ、そうだよ──みんな、みんなも『女の子』なんだ──!
「おい。やめろよ、その発想はなかったみたいな顔をするなって!」
「ふふっ、深白はいつも私に新しい世界を示してくれるね……」
「示してねーよ!」
賑やかな深白を連れたって、私は感動しながらリビングへと歩を進める。するとそこには、先輩たちが二人揃っているのだった。
「希沙音ちゃん、おかえり~」
「楽しそうですね、二人とも」
「甘露先輩、いばら先輩!」
優しくて世話好きな甘露先輩と、なんでもできて頼りがいのあるいばら先輩。高嶺荘で過ごしたこの短い間で、もう大好きになってしまった先輩たちだ。
「それにしても、良かったぁ。その様子だと、上手くやったみたいね、希沙音ちゃん」
甘露先輩が、私の目を見てそんなことを言う。一緒にお風呂に入ったときに、深白のことを頼まれたことを言っているのはすぐに分かった。だけど、その労いを素直に受け取る気にはなれなかった。
「上手くやった……のかは分からないですけど、上手くいったみたいです!」
本人がなんと言っていようと、やっぱり深白は強い。私が何かしなくてもどうにかなったのかもしれないし、そもそも私がやったことはと言えば、ただ話を聞いて、抱きしめて眠っただけだ。上手くやった、と評されるようなことはしていなかった。
でも、それでもあれから深白の表情から苦しそうな色が見えなくなったし、仲も深まった。だから、結果的には良くなったんだと思う。
「あの、甘露さん」
「なぁに? 深白ちゃん」
「希沙音に色々吹き込んだの、甘露さんっすよね」
「えぇっ!?」
深白に指摘されて、甘露先輩がイメージとは少し違う驚きの声を上げる。そして私の方へ目線をずらす甘露先輩に、私はごめんなさいのジェスチャーを返した。甘露先輩から深白のことを色々聞いた件については内緒にするという約束だったのに、あっという間に深白に看破されてしまったのだ。
「あたしは気にしてませんけど、甘露さん、自分で思ってるより分かりやすいんで、気をつけた方が良いっすよ」
「そ、そんなに?」
「はい。でも、まぁ……あたしを心配して、っていうのは分かってるんで……ありがとうございます」
「~~~っ! 深白ちゃん!」
ほんのり頬を染めてから放たれた感謝の言葉に、甘露先輩が感極まって深白に抱きついた。甘露先輩をしっかり受け止めた深白も、若干恥じらいながらも受け入れていることが分かる。二人の平和な光景に、見ているだけで胸が温かくなった。
「深白。私には何かありませんか? 感謝の言葉」
「……いや、ないっす」
くすぐったそうにしている深白を揶揄うかのように、いばら先輩が言葉を投げかける。すると、深白はさっきまでの表情が嘘のように、まるで石のような顔でいばら先輩の言葉をはね除けた。
「そうですか。素直になれませんか。深白はかわいいですね」
「なんでだよ!」
だけど、やっぱりいばら先輩の方が一枚上手だったみたいで、涼しい顔で「かわいい」と言ってのけたいばら先輩に対して、深白が表情を崩して声を上げる。深白としては、そんなわけがないと声を上げたのかもしれないけれど、私としてはいばら先輩の言葉に大いに共感するところがあった。
「分かります! やっぱり深白って、かわいいですよね!」
「なっ!? 希沙音!?」
初めて会った日から、深白のことはかっこいい人だなと思っていた。だけど最近は、深白がどうにもかわいく見える。私の見る目が変わったのか、深白の方に変化があったのか……それは定かではないけれど、いばら先輩も同じ感想を持っているのだと知って、ついついその気持ちを声に出してしまった。
「分かりますか。やはり希沙音はセンスが良いですね」
「うんうん。深白ちゃんはずーっとかわいいよ」
「甘露先輩も! やっぱりそうなんですか? 恥ずかしながら私、最近急にかわいく思えてきて……」
「なっ、ぐっ……!」
本人をそっちのけで深白のかわいさを語っていると、どんどんと深白の表情が真っ赤に染まっていく。そしてついに限界が来たのか、私の腕が強く引っ張られた。
「っ! もう行くぞ、希沙音!」
「えっ、あ、うん。失礼します、甘露先輩、いばら先輩!」
深白に手を引かれて、私たちは自室へと向かっていく。
……深白は背を向けていたから分からなかったかもしれないけど、私たちを見送る先輩たちの眼差しは、とても優しいものだった。
「ふぅ……全く、好き勝手言いやがって……」
「あの、深白?」
「希沙音も……あ、悪い。手引っ張っちゃって……」
「ううん、大丈夫。でも……なんで一緒に私の部屋に?」
「……あっ」
リビングから一緒に逃げてきたのは良いけれど、深白さんが向かったのはなぜか私の部屋だった。様子を見るに、どうやら無自覚だったらしい。
「……すまん、つい……じゃあ、あたしも戻るよ」
「待って」
私はそう言って出て行こうとする深白の手を掴んで、引き留める。無意識でも、深白が私の部屋に逃げてきたのには何か意味があるのかなと、なんとなく思ったから。
「しばらく一緒にいよっか」
「! ……あ、あぁ」
……とはいえ。二人で何かすることがあるわけでもない。
自然と、会話もなく、ただ寄り添い合ってベッドに座る形になった。
静かではあるけど、気まずく思うこともない。会話を楽しまなくても、リラックスできる仲になれたと思うから。
ふと、ちょっとしたやるべきことを思いだし、私はスマホに手を伸ばした。
開いた画面は……お姉ちゃんとのメッセージ画面。深白に気を遣うこともなく、文章を打ち込んでいく。
「それ……あ、悪い。画面見ちまって……」
「ううん、大丈夫だよ」
「……姉ちゃんとのメッセージか?」
「うん。様子はどうかって心配してくれてるから、返事をしなきゃ」
お姉ちゃんは、仕方ないとは思いつつも私を寮に入れたことについて気を揉んでいるようだった。ここはお姉ちゃんを安心させるために、しっかりと大丈夫だということを伝えなければならない。
『希沙音:心配しないで、お姉ちゃん!私は元気でやってます!建物もすごいし、寮の先輩も良い人ばっかりで、すごく良くしてもらってる。もちろん最初は、お姉ちゃんと一緒に眠れないのが不安で、お姉ちゃん酷い、ともちょっとだけ思ったけど……今はむしろ、すごく感謝してる! だって高嶺荘に来て、本当に色んなことを知れたから。私が、女の子を気持ち良くするのも気持ち良くされるのも、めちゃくちゃにするのもされるのも大好きだってことに気づけたから。これも全部お姉ちゃんのおかげ! 特に同い年の深白ちゃんとは毎日──』
「待て待て待て待て!!」
順調に文章を打ち込んでいると、突然深白が隣で焦ったような声を上げる。
「わっ!? ど、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、姉貴になんてもん送ろうとしてんだ!? 明けっ広げすぎだろ!」
なんてもの、と言われても、全部私の正直な気持ちだ。それをそのままお姉ちゃんに伝えることは私にとって当然のことだった。
「え……で、でもお姉ちゃんに隠し事とかしたことないし……」
「じゃあ今覚えろ! 姉相手に取り繕うことを……って、おい! もう送信してる!」
「あ、ほんとだ……わっ」
どうやら深白が大声を出したときに驚いた私が書きかけのものを誤って送信してしまったらしい。まだ途中なのに、と思った私とは正反対に、青い顔をした深白が私からスマホを奪い取って、素早く送信取消を押す。
「ふぅ……危ねー……」
「……そんなにダメかな?」
「とてもマズい。悪いことは言わないから夜の話は載せるなよ、ほんとに」
「うーん……分かった。ふふっ」
「笑い事じゃねーよ……」
あんなに焦った深白が珍しくて、思わず笑みがこぼれる。いや、珍しいってだけじゃない。純粋に、深白といると楽しいのだ。
時はまだ、七月の終わり。夏休みはまだ、半分以上残っている。夏が終わる頃には、深白と、先輩たちと、もっと仲良くなれるだろうか。
そんなことを考えると、どうしても心が躍って笑顔になってしまうのだ。
新着メッセージ:
『花平 久留音:は?』
第一章 深白編 了
一区切り!
本作は趣味成分大盛りなので、まぁ気分で帰ってきます