2023年5月末──第30層、草原のフィールドにて
「なぁ、アルゴ。改めて今回の依頼の詳細を聞いていいか?」
俺は遠くにいる赤いオーラを纏った熊の巨大種モンスターを眺めながら聞いた。
「あそこに見える赤いオーラのモンスター、凶暴化モンスターがこの層に来てから確認されてル。だからその情報が欲しイ。今ある情報だと……あるプレイヤー曰く、攻撃力が高くて最前線で活躍してるタンクが逃げる事しか出来ないレベルらしいゾ。おそらく巨大種と同じで確率で出てくるものだから、下手したら複数体を相手にする事になル。ある意味ここのフィールドボスよりも厄介かもナ」
要するに最前線のタンクが受けきれないレベルの破壊力を持つ奴と戦ってこい、という訳だ。それはまだ良いんだけど……
「ふむ、それで?他のプレイヤーは?」
「いないゾ?」
「何でだよ!?明らかにソロでやるのは危険だろ!?」
しかも目の前にいるのは巨大種でもある。どう考えてもソロでやるのはリスクがあまりに高い。それに他にも複数現れたらどうしてくれるんだ。
「あのモンスターと問題なく戦えそうなプレイヤーは軒並みフロアボス攻略のヒントを掴む為にフィールドボス討伐に躍起になってるからナ」
「俺もそれをやる予定だったのに強制的に連れてこられたんだが?」
俺はフィールドボス戦の為、色々準備してたら唐突にアルゴに首根っこ掴まれて連行された。こいつ、俺のこと都合の良い情報収集道具と思ってないか?
「まぁ、かの『
「やめろぉ!?それ俺の事を嫌ってる奴らが勝手につけた汚名だろうが!何で俺の周りの奴らはみんな揃って俺の事をそう呼ぶんだ!?みんな俺の事嫌いなのか!?」
あれは、25層のフロアボス戦での話。
2層から24層まではフロアボスは1体のみで1層のあれは何だったんだろうなんて思っていたらクォーターポイントの25層はフロアボスが2体だったのだ。今回は最初から2体揃っていて、しかもクォーターポイントというだけあって1体だけでも他のボスよりも手強かった。普通に壊滅寸前まで追い込まれたが俺が率先して死に物狂いで片方のボスを食い止めて、何とか1体ずつ倒していけたのだ。
その時の戦いから呼ばれるようになったのが──という訳だ。人が頑張って犠牲者出ないように守ったのにそれを見て『狂戦士』って酷くない?そう思って後々調べて分かったのがビーター云々の話で俺の事を良く思ってない連中が広めたものだったのだ。おかげでめちゃくちゃやべぇ奴だと思われている。
「でもお前の戦い方にも問題があるんじゃないカ?普通、最前線で拳を主体にして戦うやつなんていないからナ」
「それはそうだけどさぁ」
俺は2層で体術スキルを習得してから体術をよく使っている。もちろん、片手直剣だってちゃんと使う。剣を使いながらスキルが使えるのは体術スキルの強みとも言えるだろう。
スキル習得の為にキリトと3日間くらい岩を殴り続けたのは今では良い思い出だ。
俺はぶつぶつと『狂戦士』呼びに対して文句を言いながらも立ち上がって例の熊のモンスターへ向けて歩き出す。
「危険な仕事を任せて悪いナ。頑張れよ、報酬は多めにしておくからサ」
「危険だって分かってるならせめて後1人くらい連れてきて欲しかったね」
そう言って俺は熊のモンスターの目の前に立つ。
今回の目的はあくまで情報収集。主に通常とは何が違うのかを見れば良いはず……火力高い相手だと不安が沢山だがとりあえず受け手に回ってみるか。
俺が剣を抜くと熊が攻撃を仕掛けてくる。タイミングを見計らって
「うそ……」
俺のHPが4分の1くらい削れていた。弾くタイミングは完璧だったはずだけど……とにかく受けは無理だ。
「せい!!」
体術単発ソードスキル《水月》で水平蹴りをするが、意に介さず熊が爪を振り下ろす。俺はそれを体術単発ソードスキル《閃打》で振り下ろされた熊の腕を横に殴って軌道を逸らす。結果、熊の攻撃は空振りに終わり隙だらけの体に片手直剣3連撃ソードスキル《シャープネイル》を放つ。獣の爪痕のような軌跡が熊の体に描かれる。
すると熊は咆哮を上げてドンッ!という衝撃音とともに垂直に跳ぶ。これは範囲攻撃のモーションだ。あの図体の範囲攻撃は今からでは回避は無理。さらにあの高さでは跳躍+突進技ソードスキルでも届かないだろう。
瞬時にそう判断した俺は剣を放り投げて、軽く跳んでから剣の柄頭を体術単発ソードスキル《弦月》の後方宙返り蹴りで剣を飛ばした。
普通なら投剣スキルとかで何とかするんだろうけど、投剣スキルは鍛えてないからね。何ならこっちのが精度がいいまである。
飛ばした剣は熊に直撃して熊の攻撃が中断されて落ちてくる。熊が落ちてくる場所とタイミングを見切った俺は即座に構える。すると左手が黄色いライトエフェクトで光り輝く。
体術重突進技ソードスキル《雷霆》。熊が落ちてくる場所へ瞬時に移動。そのままの勢いで丁度落ちてきた熊の腹に掌底打ちを決める。決めた瞬間、ライトエフェクトが弾け飛ぶようにして光って消える。熊は遠くへ飛んでいってそのままポリゴン片になって散った。
「あれ?めちゃくちゃ耐久力低くなってるな。その分を攻撃に回してるって事なのか」
そうなると、背後から奇襲してそのまま一気に畳み掛けるのがセオリーになるかな?
などと考えているとアルゴがこちらにやってきて話しかけてきた。
「思ってたより呆気なかったナ」
「だな。攻撃高い代わりに耐久力が低くなってたから、そこまで脅威的ではなさそうだ。でも、どういう訳か攻撃を相殺出来なかったから背後に回って攻めまくらないと危険かも。特に巨大種はデカくて攻撃の回避だって難しいから背後に回るのは絶対に大事」
「とても背後に回らずに真正面から倒した奴のセリフとは思えないナ。それにしても相殺出来ないカ……巨大種にも
この後、念のためいくつか凶暴化モンスターを倒した。他には特に何かあるわけでもなかったので、依頼終了という事でアルゴから今回の報酬を受け取った。
「そういえばさ、お前キリトが今どうしてるか知ってる?」
ここ最近キリトを見ていない。この時期って確か俺の知ってるSAO であれば今はギルド《月夜の黒猫団》に所属している筈だ。だが俺の予想が正しければ──
「キー坊なら今でも変わらず、ずっとソロでやってるヨ。キー坊がどうかしたのカ?」
「いや、少し気になっただけだ」
やっぱりか……俺らがやった1層での行動が予想以上の成果を出していたようだ。というのもここ最近、全体的にプレイヤーの戦い方などの質が良くなっていて、ここ最近ではやられそうになっているプレイヤーなんて全くと言って良いほど見当たらないのだ。つまり、かつて俺が頼み込んだ『他のプレイヤーを助けてやってくれ』という言葉を色んなプレイヤーが律儀にやってくれたのだ。実際にそういうところを様々なところで見たから間違いない。
しかし、それがキリトと月夜の黒猫団の出会いに影響を与えたものと思われる。この世界だとギルドに入らなかったのか、或いはそもそも出会わなかったのかは分からないが……どちらにせよ原作と違う道を辿っているのは確かだ。少し調べてみるか。
******
「27層の迷宮区?別に良いけど、あそこって何かあったか?」
俺は現在、キリトを27層の迷宮区に誘っていた。
あの後、月夜の黒猫団が今どうしてるのか知りたかったけど見つからず。キリトもこの世界では会っていないようだ。でも月夜の黒猫団を知ってる人には何人か会えたので少し話を聞いてみると今でも元気にやっているのは確かなようだ。
だが、いつか俺の知ってるSAO と同じ結末になってしまうかもしれない。過程が違くとも結果として同じ結末を辿ってしまうのは、ありえない話ではない。
「少し噂を聞いてな。迷宮区に隠し部屋があるって噂、本当かどうかは知らんが気になるだろ?」
その同じ結末を少しでも防ぐ為に隠し部屋のトラップの事を公にしようという訳だ。危険な場所があるという情報が出回れば警戒してくれるようになる筈だからな。
と言ってもこの世界では何かしら変わっているところがある可能性もあるからな。何ならそもそもあのトラップが存在しない可能性もある。それを実際にキリトと確認しようという訳で現在に至る。
ちなみに噂があるって話は俺が勝手に言ってるだけの嘘である。そんな噂はない。
「隠し部屋か……確かに気になるな」
「だろ?」
という訳でキリトを連れて早速迷宮区へと出発した。
迷宮区内のモンスターは今や俺たちの相手にならず、順調に探索は進んだ。そして隠し部屋を見つけたのだ。
「隠し部屋を見つけたのは良いんだけど……扉デカくね?」
あれ?アニメで見た時こんなに大きい扉だったっけ?などと疑問に思っているとキリトが俺が必死に気の所為だと思っていた事を口にした。
「これ、フロアボスの部屋の扉にそっくりじゃないか?」
「……だよな。お前もそう思うよな」
これ、もしかしてあのトラップの状況でモンスターだけボス仕様になってるとかある?
俺はそう思いながら恐る恐るキリトに聞く。
「どうする……開けてみるか?」
「……あ、開けてみるだけなら大丈夫な筈だ。一応聞いておくけど、万が一の備えは出来てるか?」
「ああ、大丈夫だ」
「じゃあ、開けるぞ」
キリトが両手で大きい扉を開く。すると突然、警報のようなアラームが鳴り響いて──そして、気付けば俺達は隠し部屋の中に入っていた。
「「…………は?」」
2人揃ってそんな声を出す。
全然理解が及ばないうちに隠し部屋の扉がバタン!!と勢いよく閉まってから漸く俺達は現状を把握した。
「ダメだ、扉が開かなくなってる」
「こっちもダメだ、転移結晶が使えない。完全に閉じ込められたぞ……!」
俺達は隠し部屋の奥を見る。そこには超巨大なゴーレムが鎮座している。何とも厳ついゴーレムだ。パワーがヤバそう……
少しでも近づいたら戦闘が始まると見ていいだろう。
「やるしかないみたいだな……準備はいいか、キリト」
「ああ、行くぞ!!」
──戦闘が始まって1時間ほど経っただろうか……俺がボスのヘイトを買ってキリトが攻撃を担当する事にしたんだが、このボスは非常に厄介で中々に苦戦していた。
まず、あのゴーレムは攻撃も防御も両方とも高い。特に防御が高すぎる。さっきからずっと攻撃している筈なのにHPはまだ半分以上は余裕で残っている。HPバーが1本だけしかないのが唯一の救いかな。
それだけでなく、あのゴーレムの行動一つ一つが範囲スタン攻撃判定なのだ。
攻撃はもちろん、奴が移動しようと足を地面につける度に判定が飛んでくる。下手に近づこうものなら動けなくされてフルボッコ待ったなし。
「キリト!こいつの弱点の部分まだ見つからないの!?このままじゃ俺がもたないよ!!」
「ごめん!まだ!!」
「だぁぁああ!あっぶねぇ!キリト、本当に頼むぞ!?」
こういう硬い敵には弱点があるのが定石だ。頼むからあってほしい。
俺は今下手に近づけもしないからボスのヘイトを買いつつ、全力で走って攻撃を回避し続けている。だが段々と集中力がもたなくなってきていて、精神的な疲れも溜まってきている。現状かなり危うい。
「──!見つけた!!」
しばらくしてキリトがそう叫んだ。
キリトのところをよく見てみるとゴーレムの体に穴が空いていてその中に弱点となる部分があるようだ。ゴーレムのあの硬い体の中にあったのかよ……そりゃ時間かかるわ。
するとキリトが《シャープネイル》を放つ。ゴーレムのHPが大きく削れた。これにより、ゴーレムのタゲがキリトに向いた。
どうやら弱点に攻撃したプレイヤーにタゲが向くようだ。
「おいおい、よそ見してんじゃ……ねぇ!!」
俺は跳躍してゴーレムの体を駆け回ってさっきキリトが穴あけた弱点のところに行き、《弦月》を繰り出してそのまま剣を抜いて《バーチカル・アーク》。さらにそこから《雷霆》を叩き込んだ。するとゴーレムが少し怯んだ。その少しの隙を俺達は逃さなかった。
「「スイッチ!!」」
ヘイトを買った俺がゴーレムから距離を取って、入れ替わるようにキリトが前に出る。キリトは《ソニック・リープ》でゴーレムの弱点を切り裂いた。
「あともう少し……!シンヤ、トドメを頼む!」
「任せとけ!」
俺は振り下ろされたゴーレムの腕を跳躍して回避し、その腕に体術単発重攻撃ソードスキル《墜星》を放つ。簡単にいえば踵落としだ。そのまま腕を踏み台にしてこの踵落としの威力を推進力に使う。
俺は弧を描くようにして跳んでいき、そのまま弱点のところへ。
「これで最期だ!!」
俺は《バーチカル》を使って剣を振り下ろした。
するとゴーレムがポリゴン片となって散っていった。そして大きく《Congratulations!!》という文字が表示される。
「はぁ……終わったぁ……」
「お疲れ、ずっとヘイト買ってもらって悪かったな」
「全く生きた心地がしなかったよ。特にミスなく倒せてよかったよかった」
弱点さえ見つけられればどうという事はなくて良かった。俺はてっきり体力半分以下になったらミサイルとか飛ばしてくるものばかり……
そう考えているとLAボーナスが表示された。
「へぇー、これにもLAボーナスあるんだな」
「何だって!?」
キリトが俺に表示されてる画面を覗き込んだ。表示されてる名前は《ガーディアンズ・グローブ》。試しに装備してみると出てきたのはメカメカしい金属が手の甲の方に付いている白銀色の手袋。見た目は軽量そうでスマートな感じだが、それなりにずっしりしており、重量があった。
「これ、体術用の装備だな」
「体術用……そんな武器あるんだな。しかも片手剣装備したままでも装備出来るのか」
まさかこんなに嬉しいものが貰える思っておらず少し困惑した。苦労した甲斐があった訳だ。
そんなこんなで隠し部屋を脱出した後、急いでアルゴの元へ行って今回の事を伝えた。他の層にも同じようなものがあるかもしれないから入る時はしっかりと入念な準備をした上で入るよう、警告するように伝えておいた。
それにしても、まさかアニメで見たあのトラップがボス戦仕様になっているとは思わなかった。今回の情報が広まれば隠し部屋に迂闊に入ってしまうような事は無くなるだろう。
後、キリトが月夜の黒猫団と出会っていない事も俺は中々に驚いていた。もしかしたら段々と俺の知ってるSAO の展開から離れていってしまうのかもしれない。なるべく離れて欲しくはないが……果たして、これからどうなるのか……