トリコの世界をダイスで生き抜く   作:からさ

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毒煽り

 

毒獣の呼吸は、まだ荒かった。

 

だが、先ほどまでのように毒袋が破れそうな熱はない。喉元に刺した未登録香辛料の棘が、黒く変色しながら毒の熱を吸っている。床には吐き出された危険肉と毒煽りの残滓が広がり、処理場の空気は相変わらず酷い。

 

それでも、最悪の一歩手前からは離れた。

 

毒香は、処理場の男たちへ視線を戻した。

 

包丁の男は地面に座り込み、首元を押さえている。顔に布を巻いた男は、壁際で震えていた。二人とも完全に抵抗心を失ったわけではない。だが、救命美食屋が毒獣を片腕で押さえ、鎖を握っている以上、下手に動けば何が起きるかは理解しているようだった。

 

毒香は、床にこぼれた紫色の粉を見た。

 

毒煽り。

 

毒持ちの獣に食わせ、毒袋を無理やり膨らませる混ぜ物。肉を殺し、血を荒らし、内臓を壊し、それでも毒だけは増やすもの。

 

毒を旨味に変えるのではなく、毒を毒のまま膨らませるもの。

 

あれは、嫌な匂いがする。

 

「グラッジ」

 

毒香が言った。

 

顔に布を巻いた男が肩を震わせる。

 

美食屋は処理場の男二人を見下ろしたまま、短く言った。

 

「場所を言え」

 

「市場の外れだって言っただろ!」

 

包丁の男が吠える。

 

美食屋の視線がそちらへ向いた。

 

「詳しく」

 

包丁の男は黙った。

 

毒香は顔に布を巻いた男へ目を向ける。そちらの方が喋る。恐怖の匂いも、隠し事の匂いも濃い。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

出目:3

結果:グラッジ薬材庫の場所を詳しく聞く*1

 

「南?」

 

毒香が聞いた。

 

男は頷いた。

 

「市場の南端……薬草通りの奥だ。表通りからは見えねえ。古い井戸の横に細い道がある。そこを入った先の倉庫がグラッジ薬材庫だ」

 

「看板は」

 

「出てる。けど、昼は普通の薬屋だ。解毒薬、防腐粉、猛獣除け、腹下しの薬。そういうのを売ってる」

 

食運の怪物が顔をしかめる。

 

「腹下しの薬と毒煽りが同じ店って、嫌だなぁ」

 

「毒煽りは裏だ」

 

男は慌てて言った。

 

「裏口から入る。合言葉がいる」

 

毒香の目が細くなる。

 

「合言葉」

 

男は口を閉じた。

 

美食屋が一歩近づく。

 

「言え」

 

「……今の合言葉は知らねえ」

 

「嘘?」

 

毒香が聞く。

 

男の匂いを嗅ぐ。

 

恐怖。汗。毒煽り。市場の煙。革袋。だが、今の言葉には、先ほどほどの濁りがない。

 

「たぶん、本当」

 

「たぶんか」

 

美食屋が言う。

 

「前のなら知ってる」

 

男は早口で続けた。

 

「月ごとに変わる。俺が最後に行った時は、“苦い粉を甘く包め”だった。今は違うかもしれねえ」

 

「誰が合言葉を知ってる」

 

「ロッジだ。ロッジはいつでも入れる。グラッジの方から荷を受け取るからな」

 

毒香は頷いた。

 

つまり、グラッジ薬材庫へ直接向かうことはできる。場所も分かった。だが、裏口から毒煽りの保管場所へ入るには合言葉がいる。その合言葉を、帳面の男ロッジが知っている。

 

ロッジを追えば肉の流通が分かる。

 

グラッジを追えば毒煽りが分かる。

 

どちらも繋がっている。

 

美食屋が男に聞く。

 

「グラッジ本人はいるのか」

 

「分からない。俺たちが会ったのは番頭みたいな奴だ。細い男で、薬草臭い手袋をしてた。顔は布で隠してる」

 

「名前は」

 

「クラムって呼ばれてた」

 

食運の怪物が小さく繰り返す。

 

「クラム……番頭さん?」

 

毒香はその名を覚えた。

 

グラッジ薬材庫。

 

南の薬草通り。

 

古い井戸の横の細道。

 

裏口。

 

合言葉。

 

クラム。

 

毒煽りの匂い。

 

情報は増えた。だが、行くにはまだ早い。毒獣は休ませる必要がある。処理場の証拠も残っている。ロッジの居場所も聞いていない。

 

毒香は保存カプセルを抱え直した。

 

中の未登録香辛料の枝が、かすかに冷たい匂いを出している。

 

【情報取得】

≪System≫

グラッジ薬材庫の場所を詳しく聞き出しました。

 

判明情報:

グラッジ薬材庫は、市場南端の薬草通り奥にあります。

古い井戸の横にある細道を入った先の倉庫が入口です。

表向きは薬草、解毒薬、防腐粉、猛獣除け、腹下しの薬などを扱う薬屋です。

裏口から入るには合言葉が必要です。

合言葉は月ごとに変わります。

過去の合言葉は「苦い粉を甘く包め」。

現在の合言葉は不明です。

 

追加情報:

帳面の男ロッジは、現在の合言葉を知っている可能性が高いです。

グラッジ薬材庫側の窓口として「クラム」という細い男がいます。

クラムは薬草臭い手袋をしており、顔を布で隠しているようです。

 

現在状況:

毒獣:一時鎮静中、休息と追加処理が必要

毒香:行動可能、軽度毒気吸引継続

食運の怪物:合流済み

救命美食屋:処理場の男たちを制圧中

処理場の男たち:情報を吐いている

ロッジ:未接触

グラッジ薬材庫:場所判明

クラム:未接触

 

毒獣が、低く唸った。

 

全員の視線がそちらへ向く。毒獣は暴れてはいない。だが、喉元に刺さった棘はさらに黒ずみ、荒い呼吸の中に熱が戻りかけている。

 

美食屋が舌打ちした。

 

「長話してる余裕はねえな」

 

「でも、ロッジ」

 

毒香が言う。

 

「そっちは今聞く。急げ」

 

毒香は頷き、処理場の男たちへ視線を戻した。

 

グラッジ薬材庫の場所は分かった。

 

市場南端。薬草通りの奥。古い井戸の横の細道。その先にある倉庫。表向きは薬屋で、裏では毒煽りを流す場所。そこへ入るには合言葉がいる。現在の合言葉を知っている可能性が高いのは、帳面の男ロッジ。

 

なら、次に聞くべき相手は一つだった。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

出目:2

結果:ロッジの居場所を聞き出す*2

 

「ロッジ」

 

毒香が言った。

 

顔に布を巻いた男が、びくりと肩を跳ねさせる。

 

「どこ」

 

「し、知らねえ」

 

「嘘」

 

毒香は即答した。

 

男の匂いは、また濁った。恐怖、汗、煙、毒煽り。その奥に、革と紙と古い油の匂いを思い出した時のような揺れがある。

 

ロッジのことを知っている。

 

少なくとも、最後にどこへ向かったかくらいは。

 

美食屋が包丁の男を見た。包丁の男は地面に座り込み、首元を押さえている。先ほど持ち上げられたせいで、声が掠れていた。

 

「お前は」

 

「……市場だ」

 

包丁の男が吐き捨てるように言った。

 

「ロッジは市場に戻った。夜の競りがある」

 

「競り?」

 

食運の怪物が聞き返す。

 

「裏の競りだ。普通の肉じゃない。毒袋、牙、胆、失敗肉、死肉、危険肉。表に出せないやつをまとめて売る」

 

毒香は眉をわずかに寄せた。

 

「いつ」

 

「日が完全に落ちてから。場所は市場の地下水路沿いだ」

 

「地下水路」

 

「南の排水門から入る。表の客は来ない。ロッジはそこで帳面を開く。売る肉と、買う奴と、薬材庫への支払いをまとめる」

 

毒香はその言葉を拾った。

 

地下水路。

 

夜の競り。

 

帳面。

 

ロッジ。

 

グラッジ薬材庫への支払い。

 

つまり、ロッジを捕まえれば、肉の流通だけでなく、毒煽りの代金の流れも分かる可能性がある。

 

美食屋が低く唸る。

 

「夜の競りか。面倒なところにいるな」

 

「人が多い?」

 

毒香が聞く。

 

「裏の人間が多い。客も売り手も、まともな連中じゃねえ。下手に暴れれば逃げられる。下手に嗅ぎ回れば囲まれる」

 

食運の怪物が小さく手を挙げる。

 

「じゃあ、こっそり行く方がいいんですか?」

 

美食屋は食運の怪物を見る。

 

「普通ならな」

 

「普通なら?」

 

「お前がいる」

 

「私、何かしました?」

 

「まだしてねえ。でも、たぶんする」

 

「扱いが雑!」

 

毒香は地下水路の匂いを想像した。湿った石、腐った水、血、肉、薬品、排水、裏市場の人間。匂いが多い場所だ。感覚で追うには難しい。だが、ロッジの匂いは覚えている。帳面の革の匂い。香辛料。汗。油。あの男を追うことはできる。

 

問題は時間だ。

 

毒獣は半日以上休ませる必要がある。処理場の証拠もまだ確保していない。グラッジ薬材庫の合言葉も今は不明。夜の競りが始まれば、ロッジは動く。だが、ここを放置して出るのも危険だ。

 

「ロッジは今、市場?」

 

毒香が確認する。

 

包丁の男は頷いた。

 

「たぶんな。競りの準備をしてるはずだ。帳面は肌身離さず持ってる。あれを取られたら、ロッジは終わる」

 

「帳面に何がある」

 

「売り先、買い手、肉の種類、薬材庫への支払い、運び屋、倉庫番。全部だ」

 

美食屋の目が鋭くなる。

 

「それを先に言え」

 

「聞かれてねえ!」

 

「今聞いた」

 

毒香は保存カプセルを抱えた。

 

ロッジの帳面。

 

それは、かなり重要な手がかりだ。

 

危険肉の流れ。毒煽りの支払い。グラッジ薬材庫との接点。隠し燻製倉庫。処理場。買い手。

 

すべてが一冊にまとまっているなら、次に狙うべきものはほぼ決まる。

 

ただし、毒獣を放置して行くことはできない。

 

毒香は毒獣を見る。毒獣は一時鎮静しているが、まだ呼吸は荒い。喉元の棘は黒ずみ、毒の熱を吸っている。水を飲み、吐き、少し落ち着いたとはいえ、もう一度暴れれば処理場ごと壊れる可能性もある。

 

「競りまで、どれくらい」

 

毒香が聞いた。

 

顔に布を巻いた男が外の空を見た。

 

「日没まで、まだ少しある。けど、準備はもう始まってるはずだ」

 

美食屋は顎に手を当てる。

 

「ここから市場まで戻る時間を考えると、余裕はねえな」

 

食運の怪物が言う。

 

「毒獣さんは?」

 

「置いていけねえ。こいつは休ませる場所がいる。水もいる。あと、見張りもいる」

 

毒香は静かに頷いた。

 

情報は得た。

 

だが、すぐ動けるわけではない。

 

まず、どちらを優先するか決めなければならない。

 

【情報取得】

≪System≫

ロッジの居場所を聞き出しました。

 

判明情報:

ロッジは市場へ戻り、夜の裏競りの準備をしている可能性が高いです。

裏競りは日没後、市場の地下水路沿いで行われます。

南の排水門から地下水路へ入れるようです。

 

裏競りで扱われるもの:

毒袋

失敗肉

死肉

危険肉

表に出せない食材や部位

 

重要情報:

ロッジは帳面を肌身離さず持っています。

帳面には、売り先、買い手、肉の種類、薬材庫への支払い、運び屋、倉庫番などが記録されている可能性があります。

 

現在の課題:

ロッジを追うには市場へ戻る必要があります。

毒獣は半日以上の休息と見張りが必要です。

処理場の証拠はまだ確保していません。

日没までの時間はあまりありません。

 

処理場の中に、重い沈黙が落ちた。

 

追うべきものは見えた。だが、手は足りない。毒香と食運の怪物だけでは毒獣を見られない。救命美食屋だけではロッジを追えない。処理場の男たちを放置すれば、逃げるか証拠を隠すかもしれない。

 

毒香は迷った。

 

ロッジの帳面は欲しい。

 

だが、毒獣を見捨てるつもりもない。

 

ここで判断を誤れば、どちらかを失う。

 

毒香は鼻で考える。肉の匂い。毒の匂い。薬の匂い。水路の湿気。市場の煙。だが、選びきれない。

 

だから、隣を見た。

 

食運の怪物は、毒獣と処理場の男たちと市場の方角を交互に見ていた。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

出目:5

結果:食運の怪物にどちらを優先すべきか直感で選ばせる*3

 

「どう思う」

 

毒香が聞く。

 

「えっ、私?」

 

「うん」

 

「毒香が私に相談するの、まだちょっと慣れないな」

 

「今は必要」

 

「責任重大だね」

 

「たぶん」

 

「そこは本当にそう」

 

食運の怪物は目を閉じた。

 

普通の索敵ではない。匂いを嗅ぐわけでもない。耳を澄ませるわけでもない。ただ、どちらに足を向けたいかを探るように、胸の前で手を握る。

 

処理場の中では毒獣が低く息をしている。吐き出された危険肉と毒煽りの残滓が、床で煙を上げている。外には夕暮れの気配。市場の方角には、これから夜の裏競りが始まる。

 

毒香には、どちらも危険に感じる。

 

だが食運の怪物は、少し違う顔をした。

 

「……んー」

 

「何」

 

「どっちも行きたい」

 

「それは困る」

 

「だよね。でも、なんか違う」

 

彼女は目を開けた。

 

「毒獣さんを置いていくと、後で絶対困る気がする。でも、ロッジさんを逃がすのもまずい。だから、たぶん二手に分かれる感じ」

 

毒香は眉を寄せる。

 

「二手」

 

「うん。毒獣さんを見てくれる人がいて、毒香は市場に行く。そうしないと、どっちかが駄目になる気がする」

 

美食屋が鼻で笑う。

 

「つまり、俺に獣番をしろってことか」

 

食運の怪物は慌てて両手を振る。

 

「いえ、そういうつもりでは!」

 

「いや、正しい。こいつをまともに見られるのは俺だ。お前らが見張っても、暴れたら死ぬ」

 

毒香は美食屋を見る。

 

「任せられる?」

 

「任せるも何も、こいつは俺の失敗でもある」

 

「失敗?」

 

美食屋は処理場の中を見る。破れた香辛料袋。壊れかけた毒獣。毒煽りの粉。危険肉。

 

「俺が昔ここに香辛料を置いた。まともな処理を教えずにな。それを馬鹿どもが真似して、この有様だ。後始末くらいはする」

 

毒香は黙った。

 

美食屋は続ける。

 

「お前はロッジを追え。帳面を取れ。薬屋に繋がる証拠もそこにあるなら、そっちが先だ」

 

「毒獣は」

 

「半日は俺が見る。水と休ませる場所はここの奥にある。昔の飼育檻だ。まだ使える」

 

食運の怪物が胸を撫で下ろす。

 

「じゃあ、二手に分かれられる?」

 

「分かれられる。ただし」

 

美食屋は毒香を見る。

 

「お前はまだ毒気を吸ってる。無理はするな」

 

毒香は頷いた。

 

「たぶん」

 

「だからその返事をやめろ」

 

【判定】

≪System≫

食運の怪物が、次に優先すべき流れを直感で選びます。

 

難度:50

判定項目:食運

基礎値:95

補正:食運の怪物+20

補正:ロッジの裏競りが近い+10

補正:毒獣の休息が必要−10

補正:救命美食屋が毒獣を見られる+15

補正:情報が多く流れが複雑−10

最終値:120

 

判定方式:

1D120を振り、出目が難度50以上なら成功。

難度の2倍、100以上なら大成功。

難度の5分の1、10以下なら大失敗。

 

出目:115

結果:大成功

 

食運の怪物は、しばらく黙っていた。

 

処理場の中では、毒獣が低く息をしている。吐き出された危険肉と毒煽りの残りが床で煙を上げ、未登録香辛料の棘は毒の熱を吸って黒くなっている。

 

外では日が傾いている。

 

市場では、夜の裏競りが始まろうとしている。

 

毒香には、どちらも強く匂った。

 

ここに残るべき理由。

 

市場へ戻るべき理由。

 

どちらもある。どちらも間違っていない。だから迷う。

 

けれど、食運の怪物は違った。

 

彼女は、処理場の外へ顔を向けた。夕暮れの光が森の奥を赤く染めている。その先に市場がある。ロッジがいる。帳面がある。危険肉と毒煽りと薬材庫を繋ぐ記録がある。

 

「行くなら、今だと思う」

 

食運の怪物が言った。

 

毒香は彼女を見る。

 

「ロッジ?」

 

「うん。ロッジさん。たぶん、まだ地下には入ってない」

 

「分かるの?」

 

「分かんない。でも、今なら入り口の前で捕まえられる気がする。地下に入られると、人も匂いも多くなって面倒になる」

 

美食屋の目が少し細くなった。

 

「勘にしては具体的だな」

 

「なんか、見える感じがするんです。市場の南の方、排水門の近くで、帳面を持った人が一回立ち止まる感じ。そこで誰かを待ってる」

 

毒香は顔に布を巻いた男を見る。

 

男の顔色が変わっていた。

 

「当たり?」

 

毒香が聞く。

 

男は黙る。

 

美食屋が包丁の男の肩に手を置いた。

 

包丁の男が慌てて言う。

 

「……ロッジは、競りの前に薬材庫の使いと会う。支払いと合言葉の確認だ。場所は南の排水門の前だ。いつも少し早く来る」

 

食運の怪物は目を瞬かせた。

 

「わ、当たった」

 

「お前が一番驚くな」

 

美食屋が言う。

 

「だって、私も今びっくりしました」

 

毒香は市場の方角を見た。

 

南の排水門。裏競りの入口。ロッジ。帳面。薬材庫の使い。合言葉。

 

つまり、今すぐ向かえば、地下水路に入る前のロッジを捕まえられる可能性がある。さらに、薬材庫側の使いと接触する場面も押さえられるかもしれない。

 

それは、ただロッジを追うよりも大きい。

 

「二人を追う?」

 

毒香が言う。

 

美食屋は頷く。

 

「ロッジと薬材庫の使い。両方見られるなら上等だ」

 

「毒獣は」

 

「俺が見る。こいつは今、動かすべきじゃねえ。半日は休ませる。水を飲ませて、棘を抜くタイミングを見る」

 

食運の怪物が美食屋を見る。

 

「一人で大丈夫ですか?」

 

美食屋は毒獣を見下ろした。

 

「こいつ一匹ならな。問題は、ここの馬鹿どもが逃げることだが」

 

包丁の男と布の男が同時に肩を震わせる。

 

毒香は言った。

 

「縛る?」

 

「縛る。あと、処理場の入口を塞ぐ。逃げたら毒獣の餌にするって言えば大人しくなるだろ」

 

「本当にする?」

 

「しねえよ」

 

「そう」

 

「少し残念そうにするな」

 

毒香は残念そうにしたつもりはなかった。

 

食運の怪物が小さく笑った。

 

「じゃあ、私と毒香で市場に戻る?」

 

「うん」

 

「毒香、走れる?」

 

「たぶん」

 

「それ、走れない寄りのたぶんじゃない?」

 

「少し走れる」

 

「少しなんだ」

 

毒香は足首を見る。鎖の痕が残っている。毒気の影響も完全には抜けていない。だが、干し肉のおかげで倒れはしない。市場まで戻るくらいなら、どうにかなる。

 

問題は、その後だ。

 

ロッジを追い、薬材庫の使いを見つけ、帳面を奪うか確認する。地下水路に入られる前に動く必要がある。失敗すれば、人混みと臭気の中で見失う可能性が高い。

 

美食屋は毒香へ干し肉をもう一切れ投げた。

 

「持ってけ」

 

毒香は受け取る。

 

「食べていい?」

 

「そのために渡した」

 

「保存してもいい?」

 

「お前な」

 

美食屋は呆れたように溜息をついた。

 

「半分食え。半分は持ってけ。毒気が戻ったら噛め」

 

毒香は頷いた。

 

「分かった」

 

「それから、ロッジを追うなら無理に戦うな。帳面を取れれば勝ちだ。本人を捕まえるのは二の次でいい」

 

「帳面」

 

「そいつが一番美味い」

 

毒香は首を傾げる。

 

「紙なのに?」

 

「情報の話だ」

 

「なるほど」

 

食運の怪物が不安そうに言う。

 

「本当に大丈夫かな」

 

美食屋は食運の怪物を見る。

 

「お前がついてるなら、変なことにはなるだろうが、何かは拾う」

 

「それ褒めてます?」

 

「褒めてる」

 

「毒香と同じ言い方だ……」

 

毒香は保存カプセルを確かめた。未登録香辛料の枝はある。棘は三本減った。中には、まだ冷たい毒の匂いが残っている。謎の燻製肉片は失った。だが、代わりにロッジとグラッジへの道が見えた。

 

毒獣は美食屋に任せる。

 

毒香と食運の怪物は、市場へ戻る。

 

狙うのは、日没前の南の排水門。

 

ロッジと薬材庫の使いが接触する、その瞬間だ。

 

【大成功効果】

≪System≫

食運の怪物の直感判定に大成功しました。

 

方針決定:

毒獣は救命美食屋に任せ、毒香と食運の怪物は市場へ戻ってロッジを追います。

 

追加発見:

ロッジは夜の裏競りの前に、南の排水門前で薬材庫の使いと接触する可能性が高いです。

接触内容は、支払いと現在の合言葉の確認です。

今すぐ向かえば、ロッジが地下水路に入る前に接触できる可能性があります。

 

有利条件:

ロッジが地下水路へ入る前の待機地点が判明しました。

薬材庫側の使いも同時に確認できる可能性があります。

次のロッジ追跡・接触判定に+15補正。

 

役割分担:

救命美食屋:

毒獣の休息と追加処理を担当。

処理場の男たちを拘束。

処理場を一時的に管理。

 

毒香:

市場へ戻り、ロッジの帳面を追う。

毒気吸引の影響は残るが行動可能。

 

食運の怪物:

毒香に同行。

ロッジと薬材庫の使いの接触を引き当てた。

 

状態更新:

毒香:行動可能、軽度毒気吸引継続

毒香:救命美食屋の干し肉を追加で半分所持

毒香:ロッジ追跡・接触判定に+15補正

食運の怪物:同行

救命美食屋:一時離脱、毒獣処理担当

毒獣:一時鎮静、休息処理へ

 

美食屋は、処理場の男たちを古い鎖で縛り上げた。包丁の男は何かを言いかけたが、毒獣が低く唸ると黙った。顔に布を巻いた男は、最初から抵抗しなかった。毒煽りの粉がこぼれた床を見て、ずっと青ざめている。

 

毒香は、その様子を最後まで見なかった。

 

証拠はまだ採れていない。処理場の記録も探していない。美食屋の名前も聞いていない。だが、今ここで足を止めればロッジを逃がす。

 

帳面。

 

それが一番美味い。

 

美食屋の言葉は、毒香の中に残っていた。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

出目:1

結果:すぐ市場へ戻り、南の排水門へ向かう*4

 

毒香は、処理場を振り返らなかった。

 

毒獣の呼吸はまだ荒い。吐き出された危険肉と毒煽りの残滓も、証拠としては重要だ。処理場の男たちを完全に拘束する手伝いも必要かもしれない。救命美食屋の名前も、聞こうと思えば今聞ける。

 

だが、今それをしていればロッジを逃がす。

 

南の排水門。日没前。裏競りの入口。ロッジと薬材庫の使いが接触する一瞬。

 

そこを逃せば、次は地下水路の中だ。肉、血、排水、香辛料、薬品、人の汗。匂いが混ざりすぎる。毒香の鼻でも追いきれるとは限らない。

 

だから今は、戻るしかない。

 

「行く」

 

毒香が言った。

 

食運の怪物が頷く。

 

「うん。急ごう」

 

美食屋は、毒獣の首元の鎖を巻き直しながら言った。

 

「無理に戦うな。ロッジの帳面を見ろ。取れそうなら取れ。無理なら、中身だけでも嗅いで覚えろ」

 

「帳面も匂う?」

 

「紙は匂う。革も、インクも、触った奴の指もな」

 

毒香は頷いた。

 

「分かった」

 

「それと、薬材庫の使いには近づきすぎるな。薬屋は毒を撒く。肉屋より面倒だ」

 

食運の怪物が苦笑する。

 

「それ、すごく嫌な情報ですね」

 

「嫌な情報ほど役に立つ」

 

「確かに」

 

毒香は追加で渡された干し肉を半分だけ噛んだ。残り半分は保存カプセルとは別の布に包み、胸元へしまう。喉の奥に、温かい苦みが戻る。毒気で焼けた胸が少し楽になった。

 

走れる。

 

完全ではないが、走れる。

 

毒香と食運の怪物は森を抜けた。来た時と同じ裏道を戻る。荷車の車輪跡、黒く変色した草、毒獣の足跡。すべてが夕暮れの中で色を沈めている。

 

走りながら、食運の怪物が息を切らせずに言った。

 

「毒香、平気?」

 

「たぶん」

 

「そのたぶんは、もう聞き慣れてきたけど信用はしてないよ」

 

「少し平気」

 

「じゃあ、少し急ごう」

 

「うん」

 

二人は市場へ向かう。

 

日が落ちる前に。

 

ロッジが地下へ潜る前に。

 

帳面が闇の中へ消える前に。

 

【移動】

≪System≫

毒香と食運の怪物は、北の古い狩場から市場南端の排水門へ向かいます。

 

目的:

ロッジが地下水路へ入る前に接触地点へ到着する。

 

現在の有利条件:

食運の怪物の大成功により、ロッジと薬材庫の使いの接触地点が判明。

次のロッジ追跡・接触判定に+15補正。

 

現在の不利条件:

毒香は軽度毒気吸引中。

長時間の全力疾走は難しい。

日没まで時間が少ない。

 

【判定】

≪System≫

市場南端の排水門へ急行し、ロッジの接触地点に間に合うか判定します。

 

難度:55

判定項目:速度

基礎値:90

補正:軽度毒気吸引−5

補正:救命美食屋の干し肉+10

補正:食運の怪物が同行+10

補正:接触地点が判明済み+15

補正:日没が近い−10

最終値:110

 

判定方式:

1D110を振り、出目が難度55以上なら成功。

難度の2倍、110以上なら大成功。

難度の5分の1、11以下なら大失敗。

 

出目:25

結果:失敗

 

毒香は走った。

 

森を抜け、裏道を戻り、荷車の轍を踏み越える。喉の奥には、まだ処理場の毒気が残っている。胸は重い。足首には鎖の痕が痛む。だが、干し肉の苦みが体内に残っているおかげで、倒れはしない。

 

食運の怪物は隣を走っていた。

 

彼女の足取りは軽い。急いでいるはずなのに、不思議と泥に足を取られない。枝を踏んでも折れない。斜面を下る時も、ちょうど良い石が足場になる。

 

毒香はそれを横目で見て、少しだけ腹立たしくなった。

 

「何?」

 

「便利」

 

「今、便利って言った?」

 

「言ってない」

 

「言ったよね」

 

「急ぐ」

 

「ごまかした」

 

毒香は返事をしなかった。余計な呼吸を使いたくなかった。

 

市場の灯りが見えてくる。夕暮れはもう濃い。表通りにはまだ客がいるが、昼の喧騒とは違う。店を閉める音、残り物を買い叩く声、夜の屋台に火が入る匂い。その下に、別の流れがある。

 

裏の人間の匂い。

 

血を隠した革袋。古い油。湿った金。毒袋を包む防腐紙。薬草の粉。帳面に染みたインク。

 

毒香は市場南端へ向かった。

 

排水門は、表通りから少し外れた場所にあった。古い石造りの門。鉄格子の向こうから、湿った風が吹いている。水路の匂いが濃い。腐った水、肉片、薬品、香辛料、鼠、そして人の汗。

 

その前に、誰かがいた形跡があった。

 

だが、もう人影はない。

 

毒香は足を止めた。

 

「……遅れた」

 

食運の怪物が息を呑む。

 

「もう行っちゃった?」

 

「うん」

 

毒香は排水門の前にしゃがむ。石畳に薄く残った足跡。革靴の跡。片方は帳面の男ロッジのものだ。市場で尾行した時に覚えた匂いがある。革の帳面、香辛料、汗、油。

 

もう片方は知らない。

 

薬草臭い手袋。乾いた鉱石。防腐粉。紫の毒煽りに近い、苦い薬品の匂い。

 

グラッジ薬材庫の使い。

 

たぶん、クラム。

 

二人はここで会った。そして、もう地下水路へ入っている。

 

「完全に見失った?」

 

食運の怪物が聞く。

 

毒香は首を横に振った。

 

「まだ」

 

「追える?」

 

「匂いはある。でも多い」

 

排水門の奥は匂いが濃すぎる。水路、腐敗、血、肉、薬、湿気、下水。ロッジとクラムの匂いは残っているが、すぐに混ざる。急がなければ消える。

 

その時、排水門の影から小さな声がした。

 

「……あんたら、ロッジを探してるのか?」

 

毒香と食運の怪物が同時に振り向く。

 

そこには、痩せた少年がいた。市場の荷運びの子供だろう。肩に空の籠を背負い、片手に小さな包みを持っている。毒香よりもさらに小さい。目だけが妙に鋭い。

 

毒香は少年を見る。

 

「見た?」

 

少年は頷いた。

 

「帳面持った男だろ。薬草臭い奴と会ってた。さっき地下に入った」

 

食運の怪物が驚く。

 

「よく見てたね」

 

「見てたんじゃねえよ。邪魔だったんだ。排水門の前で話してるから、荷を通せなかった」

 

毒香は一歩近づく。

 

「何を話してた」

 

少年は少し警戒した。だが、毒香が干し肉の半分を取り出すと、目が変わった。

 

「食べる?」

 

「……くれるのか?」

 

「情報と交換」

 

「なら言う」

 

少年は干し肉を受け取った。少しだけ匂いを嗅ぎ、噛む。目が丸くなる。

 

「うま」

 

「話」

 

「分かってるよ」

 

少年は排水門の奥を指差した。

 

「帳面の男が、“今月の合言葉は変えるな”って言ってた。薬草臭い奴が、“グラッジは疑り深い、競りの後に帳面を見せろ”って返してた」

 

毒香は目を細める。

 

「合言葉は?」

 

「そこまでは聞こえなかった。でも、薬草臭い奴が小袋を渡してた。紫っぽい粉だと思う」

 

毒煽り。

 

毒香の鼻がわずかに反応した。

 

少年は続ける。

 

「あと、帳面の男が怒ってた。“処理場から連絡がない”って。だから急いでる感じだった」

 

食運の怪物が毒香を見る。

 

「処理場で騒ぎを起こしたの、もう気づかれかけてる?」

 

「たぶん」

 

「まずいね」

 

「うん」

 

毒香は排水門を見る。

 

ロッジとクラムは地下に入った。接触には間に合わなかった。だが、匂いは残っている。目撃者もいた。さらに、ロッジは処理場との連絡が途絶えたことを気にしている。つまり、警戒が上がる前に動くなら今だ。

 

「追う」

 

毒香が言った。

 

食運の怪物は頷いた。

 

少年が干し肉を噛みながら言う。

 

「地下は迷うぞ」

 

「道、知ってる?」

 

「少しなら」

 

毒香は少年を見る。

 

「案内する?」

 

少年は一瞬悩んだ。目が干し肉の残りに向く。

 

毒香はもう半分の干し肉を見た。美食屋に持っていけと言われたものだ。毒気が戻った時の保険でもある。

 

少し迷った。

 

それから、小さく割って、さらに半分を少年に差し出した。

 

「入口まで」

 

少年はそれを受け取った。

 

「入口までなら」

 

【失敗効果】

≪System≫

市場南端の排水門への急行判定に失敗しました。

 

結果:

南の排水門には到着しましたが、ロッジと薬材庫の使いの接触には間に合いませんでした。

ロッジと薬材庫の使いは、すでに地下水路へ入っています。

 

ただし:

大失敗ではないため、追跡手がかりを得ました。

 

入手手がかり:

ロッジの足跡と匂い

薬材庫の使いらしき人物の匂い

紫の粉、毒煽りの残り香

市場の荷運び少年の目撃証言

 

目撃証言:

ロッジは薬草臭い人物と接触しました。

薬草臭い人物は、グラッジ薬材庫の使いである可能性が高いです。

薬材庫側は「競りの後に帳面を見せろ」と要求していました。

ロッジは「処理場から連絡がない」と焦っていました。

薬材庫の使いは、紫色の粉の小袋を渡していました。

 

追加状況:

ロッジは処理場の異常に気づきかけています。

警戒が上がる前に地下水路で追う必要があります。

 

新規一時協力者:

市場の荷運び少年。

地下水路の入口付近なら案内可能。

干し肉と交換で協力中。

 

状態更新:

毒香:行動可能、軽度毒気吸引継続

毒香:救命美食屋の干し肉を一部消費

食運の怪物:同行

ロッジ:地下水路内へ移動

薬材庫の使い:地下水路内へ移動

荷運び少年:入口まで案内可能

 

毒香は、排水門の奥を見た。

 

湿った風が吹いてくる。腐った水、泥、鼠、肉片、薬品、血、香辛料。匂いが重い。表の市場とは違う。奥へ進めば進むほど、鼻が頼りになると同時に、鼻が騙される場所でもある。

 

ロッジと薬材庫の使いは、すでに中へ入った。

 

急ぎたい。

 

だが、何も知らずに地下へ入れば、迷う。罠もあるかもしれない。裏競りへ向かう連中の通路なら、見張りもいるはずだ。

 

毒香は荷運び少年を見た。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

出目:3

結果:少年に地下水路の危険を聞く*5

 

「危険」

 

少年は干し肉を噛みながら眉を寄せる。

 

「何が?」

 

「地下水路」

 

「ああ。危ないぞ」

 

食運の怪物が苦笑した。

 

「それは、見たら分かるかな」

 

「いや、見た目より危ない。水路の道は三つある。真ん中は普通の排水路。右は裏競りの客が使う道。左は荷運び用の古い道」

 

毒香は頷く。

 

「ロッジは?」

 

「たぶん右。帳面持ちとか買い手は右を通る。見張りがいるから、知らない奴は止められる」

 

「左は?」

 

「狭い。荷を運ぶ奴しか通らない。臭いし、鼠も多い。けど、裏競りの脇に出られる」

 

食運の怪物が少し顔を明るくする。

 

「じゃあ左から行けばよくない?」

 

少年は首を振った。

 

「左は沈む床がある」

 

「沈む床?」

 

「古い石が腐ってる。踏むと水に落ちる。水って言っても、ただの水じゃない。下に捨て肉が溜まってる」

 

「うわ」

 

食運の怪物が顔をしかめた。

 

毒香は排水門の奥を嗅いだ。たしかに、左奥から濃い腐敗臭がある。古い肉、水に漬かった脂、骨、鼠、酸っぱい毒。落ちれば危険だ。毒香の耐久では、少し傷が入るだけでもまずい。

 

「真ん中は」

 

毒香が聞く。

 

「一番広い。でも流れが速い。たまに水門が開く。開いたら流される」

 

「いつ開くの?」

 

「分かんねえ。市場の上で水を流した時」

 

「つまり、運?」

 

食運の怪物が言った。

 

少年は彼女を見る。

 

「運が良ければ流されない」

 

「私の出番かな?」

 

「いや、流されたら普通に死ぬぞ」

 

「それは嫌だなぁ」

 

毒香は右、左、真ん中の匂いを整理した。

 

右。裏競りの客道。見張りあり。ロッジが通った可能性が高い。正面から行けば止められるが、匂いは追いやすい。

 

左。荷運び用の古い道。裏競りの脇に出られる。沈む床あり。腐敗臭が強く、足場が危険。

 

真ん中。普通の排水路。広いが水門の危険あり。匂いは流れやすく、追跡には不向き。

 

少年はさらに言った。

 

「あと、地下には灯りが少ない。見張りは火を持ってるけど、火に寄ると見つかる。暗いところは鼠が多い」

 

「毒鼠?」

 

毒香が聞く。

 

「たまに。市場の捨て肉食ってるから、変なのもいる」

 

毒香は頷く。

 

「裏競りまで、道は」

 

「右なら早い。左は少し遠回り。真ん中は知らねえ。俺は入らない」

 

「案内は」

 

「入口までって言っただろ。中は嫌だ」

 

少年は干し肉を大事そうに包みに戻す。

 

「でも、左の沈む床は目印がある。壁に白い傷がついてる所は踏むな。あと、赤い布が結んである木杭は、裏競りの荷運びが使う道しるべだ」

 

毒香はそれを覚えた。

 

白い傷は踏むな。赤い布は荷運びの道しるべ。

 

「ロッジを追うなら?」

 

食運の怪物が聞く。

 

少年は少し考える。

 

「右が早い。でも見張りがいる。左なら脇から見られるかもしれない。けど、臭いし危ない」

 

毒香は排水門を見る。

 

急ぐなら右。

 

隠れるなら左。

 

賭けるなら真ん中。

 

毒香は、保存カプセルを抱え直した。

 

【情報取得】

≪System≫

荷運び少年から地下水路の危険を聞きました。

 

地下水路の道:

右:裏競りの客道

真ん中:通常排水路

左:荷運び用の古い道

 

右の道:

ロッジが通った可能性が高い。

裏競りの客や帳面持ちが使う。

見張りがいる。

最短だが、正面から行くと止められる可能性が高い。

 

左の道:

荷運び用の古い道。

裏競りの脇に出られる。

沈む床がある。

腐敗臭が強く、足場が悪い。

白い傷のある床は踏んではいけない。

赤い布が結ばれた木杭が道しるべ。

 

真ん中の道:

広い通常排水路。

水門が開くと流される危険がある。

匂いが流れやすく追跡には不向き。

 

追加危険:

毒鼠が出る可能性あり。

灯りが少ない。

見張りは火を持っている。

市場の捨て肉によって、地下の生物が変質している可能性あり。

 

少年の案内:

入口までなら案内可能。

地下内部へ入ることは拒否。

 

毒香は、左の道を見た。

 

暗い。狭い。腐った水と肉の匂いが重く溜まっている。荷運び用の古い道。裏競りの脇へ出られるが、沈む床があるという。毒鼠も出るかもしれない。足場も悪い。

 

だが、右の客道には見張りがいる。ロッジが通った可能性は高いが、正面から行けば止められる。今の毒香は、嘘も交渉も得意ではない。強行突破できる力もない。食運の怪物がいるとはいえ、見張り相手に運任せで突っ込むのは危うい。

 

真ん中の排水路は論外だ。水門が開けば流される。水の中には何が沈んでいるか分からない。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

出目:2

結果:左の荷運び道から脇へ回る*6

 

「左」

 

毒香が言った。

 

荷運び少年が顔をしかめる。

 

「本気か? 臭いぞ」

 

「匂いは我慢できる」

 

食運の怪物が毒香を見る。

 

「私はちょっと自信ないかな……」

 

「口を布で覆う」

 

「それでどうにかなる匂い?」

 

少年が首を振る。

 

「ならない」

 

「ほら」

 

食運の怪物が毒香を見た。

 

毒香は黙った。

 

少年は排水門の奥を指差す。

 

「左に入ったら、白い傷の床は踏むな。石が沈む。赤い布の杭を見つけたら、それに沿って進め。途中で二回曲がる。一回目は右、二回目は左。間違えると捨て肉溜まりに出る」

 

「捨て肉溜まり」

 

毒香が繰り返す。

 

「市場で出た肉クズを流す場所だ。鼠と変な虫がいる。たまに肉じゃないものも沈んでる」

 

「行きたくないなぁ」

 

食運の怪物が小さく言った。

 

毒香も行きたいわけではない。

 

だが、裏競りの脇に出られるなら価値がある。ロッジと薬材庫の使いを正面から追わずに済む。見張りの目も避けられる。帳面を狙うなら、脇から見る方が良い。

 

「案内は」

 

毒香が聞く。

 

少年は首を横に振った。

 

「入口まで。中は行かない」

 

「分かった」

 

毒香は干し肉を渡した分を惜しいとは思わなかった。情報は十分だった。むしろ、食べ物としては高すぎる情報かもしれない。

 

食運の怪物が袖で口元を覆う。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「怖い?」

 

「怖いし臭い」

 

「正直」

 

「毒香が正直じゃなさすぎるんだよ」

 

毒香は、左の荷運び道の入口を見た。

 

地下水路の奥で、水音が響く。表の市場の喧騒は、もう遠い。ここから先は、光の届かない裏の流れだ。危険肉、毒煽り、帳面、薬材庫。そのすべてが、腐った水の先へ続いている。

 

ロッジはもう地下へ入った。

 

クラムもいる。

 

帳面は、まだ近い。

 

毒香は保存カプセルを抱え直した。未登録香辛料の枝が、内側でかすかに冷たい匂いを立てている。救命美食屋から渡された干し肉の残りも、胸元にある。

 

ここから先は、鼻が頼りだ。

 

だが、鼻だけでは足りない。

 

食運もいる。

 

毒香は一歩、排水門の影へ踏み込んだ。

*1

1:処理場の証拠を保存カプセルに採取する

2:ロッジの居場所を聞き出す

3:グラッジ薬材庫の場所を詳しく聞く

4:毒獣を休ませる場所を確保する

5:救命美食屋に今までどこにいたのか聞く

6:食運の怪物に次に追うべき相手を直感で選ばせる

*2

1:処理場の証拠を保存カプセルに採取する

2:ロッジの居場所を聞き出す

3:ロッジとグラッジの関係を聞く

4:毒獣を休ませる場所を確保する

5:救命美食屋の名前を聞く

6:食運の怪物に次に追うべき相手を直感で選ばせる

*3

1:毒獣を休ませる場所を確保する

2:処理場の証拠を保存カプセルに採取する

3:すぐ市場へ戻ってロッジを追う

4:救命美食屋に毒獣の見張りを任せられるか聞く

5:食運の怪物にどちらを優先すべきか直感で選ばせる

6:ロッジとグラッジの関係をさらに聞く

*4

1:すぐ市場へ戻り、南の排水門へ向かう

2:処理場の証拠だけ最低限採取してから向かう

3:救命美食屋の名前だけ聞いてから向かう

4:処理場の男たちを拘束するのを手伝ってから向かう

5:毒獣の様子を最後に確認してから向かう

6:食運の怪物に市場までの近道を直感で選ばせる

*5

1:荷運び少年に入口まで案内させる

2:匂いだけを頼りにすぐ地下水路へ入る

3:少年に地下水路の危険を聞く

4:排水門前でロッジの残り香を詳しく調べる

5:食運の怪物にどの入口を使うべきか直感で選ばせる

6:少年から裏競りの噂を聞く

*6

1:右の客道から正面突破気味に追う

2:左の荷運び道から脇へ回る

3:真ん中の排水路を使って最短を狙う

4:排水門前でもう一度ロッジの匂いを調べる

5:食運の怪物に道を選ばせる

6:少年に地下水路の簡単な地図を描かせる




【今回の主な出来事】

・グラッジ薬材庫の場所が判明
・薬材庫側の窓口「クラム」が判明
・ロッジが夜の裏競りに向かうことが判明
・ロッジの帳面が最重要手がかりとして浮上
・食運の怪物の直感判定が大成功
・毒獣は救命美食屋に任せることに決定
・毒香と食運の怪物が市場へ戻る
・南の排水門には到着するが、ロッジと薬材庫の使いの接触には間に合わず
・荷運び少年から地下水路の危険を聞く
・左の荷運び道から裏競りの脇へ回ることに決定

【現在の毒香】

行動可能。
軽度毒気吸引継続。
救命美食屋の干し肉を一部消費。
保存カプセル所持。
未登録香辛料の枝を所持。
ロッジとクラムの匂いを追跡中。

【所持品】

保存カプセル
未登録香辛料の枝
救命美食屋の干し肉の残り

【判明した人物】

ロッジ:
市場の裏肉をまとめる帳面の男。
夜の裏競りに参加予定。
帳面を肌身離さず持っている。
処理場との連絡が途絶えたことを警戒し始めている。

グラッジ:
市場外れの薬問屋。
毒煽りの流通元。

クラム:
グラッジ薬材庫側の窓口らしき細い男。
薬草臭い手袋をしており、顔を布で隠している。

荷運び少年:
市場の荷運びをしている少年。
干し肉と交換で、地下水路の入口や危険について教えてくれた。

【地下水路の道】

右:
裏競りの客道。
ロッジが通った可能性が高い。
見張りあり。

真ん中:
通常排水路。
広いが、水門が開くと流される危険あり。

左:
荷運び用の古い道。
裏競りの脇へ出られる。
沈む床と毒鼠の危険あり。
白い傷の床は踏んではいけない。
赤い布の木杭が道しるべ。

【次回予定】

第6話:地下水路の裏競り
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