毒獣の呼吸は、まだ荒かった。
だが、先ほどまでのように毒袋が破れそうな熱はない。喉元に刺した未登録香辛料の棘が、黒く変色しながら毒の熱を吸っている。床には吐き出された危険肉と毒煽りの残滓が広がり、処理場の空気は相変わらず酷い。
それでも、最悪の一歩手前からは離れた。
毒香は、処理場の男たちへ視線を戻した。
包丁の男は地面に座り込み、首元を押さえている。顔に布を巻いた男は、壁際で震えていた。二人とも完全に抵抗心を失ったわけではない。だが、救命美食屋が毒獣を片腕で押さえ、鎖を握っている以上、下手に動けば何が起きるかは理解しているようだった。
毒香は、床にこぼれた紫色の粉を見た。
毒煽り。
毒持ちの獣に食わせ、毒袋を無理やり膨らませる混ぜ物。肉を殺し、血を荒らし、内臓を壊し、それでも毒だけは増やすもの。
毒を旨味に変えるのではなく、毒を毒のまま膨らませるもの。
あれは、嫌な匂いがする。
「グラッジ」
毒香が言った。
顔に布を巻いた男が肩を震わせる。
美食屋は処理場の男二人を見下ろしたまま、短く言った。
「場所を言え」
「市場の外れだって言っただろ!」
包丁の男が吠える。
美食屋の視線がそちらへ向いた。
「詳しく」
包丁の男は黙った。
毒香は顔に布を巻いた男へ目を向ける。そちらの方が喋る。恐怖の匂いも、隠し事の匂いも濃い。
【行動選択】
≪System≫
次の行動を決定します。
出目:3
結果:グラッジ薬材庫の場所を詳しく聞く*1
「南?」
毒香が聞いた。
男は頷いた。
「市場の南端……薬草通りの奥だ。表通りからは見えねえ。古い井戸の横に細い道がある。そこを入った先の倉庫がグラッジ薬材庫だ」
「看板は」
「出てる。けど、昼は普通の薬屋だ。解毒薬、防腐粉、猛獣除け、腹下しの薬。そういうのを売ってる」
食運の怪物が顔をしかめる。
「腹下しの薬と毒煽りが同じ店って、嫌だなぁ」
「毒煽りは裏だ」
男は慌てて言った。
「裏口から入る。合言葉がいる」
毒香の目が細くなる。
「合言葉」
男は口を閉じた。
美食屋が一歩近づく。
「言え」
「……今の合言葉は知らねえ」
「嘘?」
毒香が聞く。
男の匂いを嗅ぐ。
恐怖。汗。毒煽り。市場の煙。革袋。だが、今の言葉には、先ほどほどの濁りがない。
「たぶん、本当」
「たぶんか」
美食屋が言う。
「前のなら知ってる」
男は早口で続けた。
「月ごとに変わる。俺が最後に行った時は、“苦い粉を甘く包め”だった。今は違うかもしれねえ」
「誰が合言葉を知ってる」
「ロッジだ。ロッジはいつでも入れる。グラッジの方から荷を受け取るからな」
毒香は頷いた。
つまり、グラッジ薬材庫へ直接向かうことはできる。場所も分かった。だが、裏口から毒煽りの保管場所へ入るには合言葉がいる。その合言葉を、帳面の男ロッジが知っている。
ロッジを追えば肉の流通が分かる。
グラッジを追えば毒煽りが分かる。
どちらも繋がっている。
美食屋が男に聞く。
「グラッジ本人はいるのか」
「分からない。俺たちが会ったのは番頭みたいな奴だ。細い男で、薬草臭い手袋をしてた。顔は布で隠してる」
「名前は」
「クラムって呼ばれてた」
食運の怪物が小さく繰り返す。
「クラム……番頭さん?」
毒香はその名を覚えた。
グラッジ薬材庫。
南の薬草通り。
古い井戸の横の細道。
裏口。
合言葉。
クラム。
毒煽りの匂い。
情報は増えた。だが、行くにはまだ早い。毒獣は休ませる必要がある。処理場の証拠も残っている。ロッジの居場所も聞いていない。
毒香は保存カプセルを抱え直した。
中の未登録香辛料の枝が、かすかに冷たい匂いを出している。
【情報取得】
≪System≫
グラッジ薬材庫の場所を詳しく聞き出しました。
判明情報:
グラッジ薬材庫は、市場南端の薬草通り奥にあります。
古い井戸の横にある細道を入った先の倉庫が入口です。
表向きは薬草、解毒薬、防腐粉、猛獣除け、腹下しの薬などを扱う薬屋です。
裏口から入るには合言葉が必要です。
合言葉は月ごとに変わります。
過去の合言葉は「苦い粉を甘く包め」。
現在の合言葉は不明です。
追加情報:
帳面の男ロッジは、現在の合言葉を知っている可能性が高いです。
グラッジ薬材庫側の窓口として「クラム」という細い男がいます。
クラムは薬草臭い手袋をしており、顔を布で隠しているようです。
現在状況:
毒獣:一時鎮静中、休息と追加処理が必要
毒香:行動可能、軽度毒気吸引継続
食運の怪物:合流済み
救命美食屋:処理場の男たちを制圧中
処理場の男たち:情報を吐いている
ロッジ:未接触
グラッジ薬材庫:場所判明
クラム:未接触
毒獣が、低く唸った。
全員の視線がそちらへ向く。毒獣は暴れてはいない。だが、喉元に刺さった棘はさらに黒ずみ、荒い呼吸の中に熱が戻りかけている。
美食屋が舌打ちした。
「長話してる余裕はねえな」
「でも、ロッジ」
毒香が言う。
「そっちは今聞く。急げ」
毒香は頷き、処理場の男たちへ視線を戻した。
グラッジ薬材庫の場所は分かった。
市場南端。薬草通りの奥。古い井戸の横の細道。その先にある倉庫。表向きは薬屋で、裏では毒煽りを流す場所。そこへ入るには合言葉がいる。現在の合言葉を知っている可能性が高いのは、帳面の男ロッジ。
なら、次に聞くべき相手は一つだった。
【行動選択】
≪System≫
次の行動を決定します。
出目:2
結果:ロッジの居場所を聞き出す*2
「ロッジ」
毒香が言った。
顔に布を巻いた男が、びくりと肩を跳ねさせる。
「どこ」
「し、知らねえ」
「嘘」
毒香は即答した。
男の匂いは、また濁った。恐怖、汗、煙、毒煽り。その奥に、革と紙と古い油の匂いを思い出した時のような揺れがある。
ロッジのことを知っている。
少なくとも、最後にどこへ向かったかくらいは。
美食屋が包丁の男を見た。包丁の男は地面に座り込み、首元を押さえている。先ほど持ち上げられたせいで、声が掠れていた。
「お前は」
「……市場だ」
包丁の男が吐き捨てるように言った。
「ロッジは市場に戻った。夜の競りがある」
「競り?」
食運の怪物が聞き返す。
「裏の競りだ。普通の肉じゃない。毒袋、牙、胆、失敗肉、死肉、危険肉。表に出せないやつをまとめて売る」
毒香は眉をわずかに寄せた。
「いつ」
「日が完全に落ちてから。場所は市場の地下水路沿いだ」
「地下水路」
「南の排水門から入る。表の客は来ない。ロッジはそこで帳面を開く。売る肉と、買う奴と、薬材庫への支払いをまとめる」
毒香はその言葉を拾った。
地下水路。
夜の競り。
帳面。
ロッジ。
グラッジ薬材庫への支払い。
つまり、ロッジを捕まえれば、肉の流通だけでなく、毒煽りの代金の流れも分かる可能性がある。
美食屋が低く唸る。
「夜の競りか。面倒なところにいるな」
「人が多い?」
毒香が聞く。
「裏の人間が多い。客も売り手も、まともな連中じゃねえ。下手に暴れれば逃げられる。下手に嗅ぎ回れば囲まれる」
食運の怪物が小さく手を挙げる。
「じゃあ、こっそり行く方がいいんですか?」
美食屋は食運の怪物を見る。
「普通ならな」
「普通なら?」
「お前がいる」
「私、何かしました?」
「まだしてねえ。でも、たぶんする」
「扱いが雑!」
毒香は地下水路の匂いを想像した。湿った石、腐った水、血、肉、薬品、排水、裏市場の人間。匂いが多い場所だ。感覚で追うには難しい。だが、ロッジの匂いは覚えている。帳面の革の匂い。香辛料。汗。油。あの男を追うことはできる。
問題は時間だ。
毒獣は半日以上休ませる必要がある。処理場の証拠もまだ確保していない。グラッジ薬材庫の合言葉も今は不明。夜の競りが始まれば、ロッジは動く。だが、ここを放置して出るのも危険だ。
「ロッジは今、市場?」
毒香が確認する。
包丁の男は頷いた。
「たぶんな。競りの準備をしてるはずだ。帳面は肌身離さず持ってる。あれを取られたら、ロッジは終わる」
「帳面に何がある」
「売り先、買い手、肉の種類、薬材庫への支払い、運び屋、倉庫番。全部だ」
美食屋の目が鋭くなる。
「それを先に言え」
「聞かれてねえ!」
「今聞いた」
毒香は保存カプセルを抱えた。
ロッジの帳面。
それは、かなり重要な手がかりだ。
危険肉の流れ。毒煽りの支払い。グラッジ薬材庫との接点。隠し燻製倉庫。処理場。買い手。
すべてが一冊にまとまっているなら、次に狙うべきものはほぼ決まる。
ただし、毒獣を放置して行くことはできない。
毒香は毒獣を見る。毒獣は一時鎮静しているが、まだ呼吸は荒い。喉元の棘は黒ずみ、毒の熱を吸っている。水を飲み、吐き、少し落ち着いたとはいえ、もう一度暴れれば処理場ごと壊れる可能性もある。
「競りまで、どれくらい」
毒香が聞いた。
顔に布を巻いた男が外の空を見た。
「日没まで、まだ少しある。けど、準備はもう始まってるはずだ」
美食屋は顎に手を当てる。
「ここから市場まで戻る時間を考えると、余裕はねえな」
食運の怪物が言う。
「毒獣さんは?」
「置いていけねえ。こいつは休ませる場所がいる。水もいる。あと、見張りもいる」
毒香は静かに頷いた。
情報は得た。
だが、すぐ動けるわけではない。
まず、どちらを優先するか決めなければならない。
【情報取得】
≪System≫
ロッジの居場所を聞き出しました。
判明情報:
ロッジは市場へ戻り、夜の裏競りの準備をしている可能性が高いです。
裏競りは日没後、市場の地下水路沿いで行われます。
南の排水門から地下水路へ入れるようです。
裏競りで扱われるもの:
毒袋
牙
胆
失敗肉
死肉
危険肉
表に出せない食材や部位
重要情報:
ロッジは帳面を肌身離さず持っています。
帳面には、売り先、買い手、肉の種類、薬材庫への支払い、運び屋、倉庫番などが記録されている可能性があります。
現在の課題:
ロッジを追うには市場へ戻る必要があります。
毒獣は半日以上の休息と見張りが必要です。
処理場の証拠はまだ確保していません。
日没までの時間はあまりありません。
処理場の中に、重い沈黙が落ちた。
追うべきものは見えた。だが、手は足りない。毒香と食運の怪物だけでは毒獣を見られない。救命美食屋だけではロッジを追えない。処理場の男たちを放置すれば、逃げるか証拠を隠すかもしれない。
毒香は迷った。
ロッジの帳面は欲しい。
だが、毒獣を見捨てるつもりもない。
ここで判断を誤れば、どちらかを失う。
毒香は鼻で考える。肉の匂い。毒の匂い。薬の匂い。水路の湿気。市場の煙。だが、選びきれない。
だから、隣を見た。
食運の怪物は、毒獣と処理場の男たちと市場の方角を交互に見ていた。
【行動選択】
≪System≫
次の行動を決定します。
出目:5
結果:食運の怪物にどちらを優先すべきか直感で選ばせる*3
「どう思う」
毒香が聞く。
「えっ、私?」
「うん」
「毒香が私に相談するの、まだちょっと慣れないな」
「今は必要」
「責任重大だね」
「たぶん」
「そこは本当にそう」
食運の怪物は目を閉じた。
普通の索敵ではない。匂いを嗅ぐわけでもない。耳を澄ませるわけでもない。ただ、どちらに足を向けたいかを探るように、胸の前で手を握る。
処理場の中では毒獣が低く息をしている。吐き出された危険肉と毒煽りの残滓が、床で煙を上げている。外には夕暮れの気配。市場の方角には、これから夜の裏競りが始まる。
毒香には、どちらも危険に感じる。
だが食運の怪物は、少し違う顔をした。
「……んー」
「何」
「どっちも行きたい」
「それは困る」
「だよね。でも、なんか違う」
彼女は目を開けた。
「毒獣さんを置いていくと、後で絶対困る気がする。でも、ロッジさんを逃がすのもまずい。だから、たぶん二手に分かれる感じ」
毒香は眉を寄せる。
「二手」
「うん。毒獣さんを見てくれる人がいて、毒香は市場に行く。そうしないと、どっちかが駄目になる気がする」
美食屋が鼻で笑う。
「つまり、俺に獣番をしろってことか」
食運の怪物は慌てて両手を振る。
「いえ、そういうつもりでは!」
「いや、正しい。こいつをまともに見られるのは俺だ。お前らが見張っても、暴れたら死ぬ」
毒香は美食屋を見る。
「任せられる?」
「任せるも何も、こいつは俺の失敗でもある」
「失敗?」
美食屋は処理場の中を見る。破れた香辛料袋。壊れかけた毒獣。毒煽りの粉。危険肉。
「俺が昔ここに香辛料を置いた。まともな処理を教えずにな。それを馬鹿どもが真似して、この有様だ。後始末くらいはする」
毒香は黙った。
美食屋は続ける。
「お前はロッジを追え。帳面を取れ。薬屋に繋がる証拠もそこにあるなら、そっちが先だ」
「毒獣は」
「半日は俺が見る。水と休ませる場所はここの奥にある。昔の飼育檻だ。まだ使える」
食運の怪物が胸を撫で下ろす。
「じゃあ、二手に分かれられる?」
「分かれられる。ただし」
美食屋は毒香を見る。
「お前はまだ毒気を吸ってる。無理はするな」
毒香は頷いた。
「たぶん」
「だからその返事をやめろ」
【判定】
≪System≫
食運の怪物が、次に優先すべき流れを直感で選びます。
難度:50
判定項目:食運
基礎値:95
補正:食運の怪物+20
補正:ロッジの裏競りが近い+10
補正:毒獣の休息が必要−10
補正:救命美食屋が毒獣を見られる+15
補正:情報が多く流れが複雑−10
最終値:120
判定方式:
1D120を振り、出目が難度50以上なら成功。
難度の2倍、100以上なら大成功。
難度の5分の1、10以下なら大失敗。
出目:115
結果:大成功
食運の怪物は、しばらく黙っていた。
処理場の中では、毒獣が低く息をしている。吐き出された危険肉と毒煽りの残りが床で煙を上げ、未登録香辛料の棘は毒の熱を吸って黒くなっている。
外では日が傾いている。
市場では、夜の裏競りが始まろうとしている。
毒香には、どちらも強く匂った。
ここに残るべき理由。
市場へ戻るべき理由。
どちらもある。どちらも間違っていない。だから迷う。
けれど、食運の怪物は違った。
彼女は、処理場の外へ顔を向けた。夕暮れの光が森の奥を赤く染めている。その先に市場がある。ロッジがいる。帳面がある。危険肉と毒煽りと薬材庫を繋ぐ記録がある。
「行くなら、今だと思う」
食運の怪物が言った。
毒香は彼女を見る。
「ロッジ?」
「うん。ロッジさん。たぶん、まだ地下には入ってない」
「分かるの?」
「分かんない。でも、今なら入り口の前で捕まえられる気がする。地下に入られると、人も匂いも多くなって面倒になる」
美食屋の目が少し細くなった。
「勘にしては具体的だな」
「なんか、見える感じがするんです。市場の南の方、排水門の近くで、帳面を持った人が一回立ち止まる感じ。そこで誰かを待ってる」
毒香は顔に布を巻いた男を見る。
男の顔色が変わっていた。
「当たり?」
毒香が聞く。
男は黙る。
美食屋が包丁の男の肩に手を置いた。
包丁の男が慌てて言う。
「……ロッジは、競りの前に薬材庫の使いと会う。支払いと合言葉の確認だ。場所は南の排水門の前だ。いつも少し早く来る」
食運の怪物は目を瞬かせた。
「わ、当たった」
「お前が一番驚くな」
美食屋が言う。
「だって、私も今びっくりしました」
毒香は市場の方角を見た。
南の排水門。裏競りの入口。ロッジ。帳面。薬材庫の使い。合言葉。
つまり、今すぐ向かえば、地下水路に入る前のロッジを捕まえられる可能性がある。さらに、薬材庫側の使いと接触する場面も押さえられるかもしれない。
それは、ただロッジを追うよりも大きい。
「二人を追う?」
毒香が言う。
美食屋は頷く。
「ロッジと薬材庫の使い。両方見られるなら上等だ」
「毒獣は」
「俺が見る。こいつは今、動かすべきじゃねえ。半日は休ませる。水を飲ませて、棘を抜くタイミングを見る」
食運の怪物が美食屋を見る。
「一人で大丈夫ですか?」
美食屋は毒獣を見下ろした。
「こいつ一匹ならな。問題は、ここの馬鹿どもが逃げることだが」
包丁の男と布の男が同時に肩を震わせる。
毒香は言った。
「縛る?」
「縛る。あと、処理場の入口を塞ぐ。逃げたら毒獣の餌にするって言えば大人しくなるだろ」
「本当にする?」
「しねえよ」
「そう」
「少し残念そうにするな」
毒香は残念そうにしたつもりはなかった。
食運の怪物が小さく笑った。
「じゃあ、私と毒香で市場に戻る?」
「うん」
「毒香、走れる?」
「たぶん」
「それ、走れない寄りのたぶんじゃない?」
「少し走れる」
「少しなんだ」
毒香は足首を見る。鎖の痕が残っている。毒気の影響も完全には抜けていない。だが、干し肉のおかげで倒れはしない。市場まで戻るくらいなら、どうにかなる。
問題は、その後だ。
ロッジを追い、薬材庫の使いを見つけ、帳面を奪うか確認する。地下水路に入られる前に動く必要がある。失敗すれば、人混みと臭気の中で見失う可能性が高い。
美食屋は毒香へ干し肉をもう一切れ投げた。
「持ってけ」
毒香は受け取る。
「食べていい?」
「そのために渡した」
「保存してもいい?」
「お前な」
美食屋は呆れたように溜息をついた。
「半分食え。半分は持ってけ。毒気が戻ったら噛め」
毒香は頷いた。
「分かった」
「それから、ロッジを追うなら無理に戦うな。帳面を取れれば勝ちだ。本人を捕まえるのは二の次でいい」
「帳面」
「そいつが一番美味い」
毒香は首を傾げる。
「紙なのに?」
「情報の話だ」
「なるほど」
食運の怪物が不安そうに言う。
「本当に大丈夫かな」
美食屋は食運の怪物を見る。
「お前がついてるなら、変なことにはなるだろうが、何かは拾う」
「それ褒めてます?」
「褒めてる」
「毒香と同じ言い方だ……」
毒香は保存カプセルを確かめた。未登録香辛料の枝はある。棘は三本減った。中には、まだ冷たい毒の匂いが残っている。謎の燻製肉片は失った。だが、代わりにロッジとグラッジへの道が見えた。
毒獣は美食屋に任せる。
毒香と食運の怪物は、市場へ戻る。
狙うのは、日没前の南の排水門。
ロッジと薬材庫の使いが接触する、その瞬間だ。
【大成功効果】
≪System≫
食運の怪物の直感判定に大成功しました。
方針決定:
毒獣は救命美食屋に任せ、毒香と食運の怪物は市場へ戻ってロッジを追います。
追加発見:
ロッジは夜の裏競りの前に、南の排水門前で薬材庫の使いと接触する可能性が高いです。
接触内容は、支払いと現在の合言葉の確認です。
今すぐ向かえば、ロッジが地下水路に入る前に接触できる可能性があります。
有利条件:
ロッジが地下水路へ入る前の待機地点が判明しました。
薬材庫側の使いも同時に確認できる可能性があります。
次のロッジ追跡・接触判定に+15補正。
役割分担:
救命美食屋:
毒獣の休息と追加処理を担当。
処理場の男たちを拘束。
処理場を一時的に管理。
毒香:
市場へ戻り、ロッジの帳面を追う。
毒気吸引の影響は残るが行動可能。
食運の怪物:
毒香に同行。
ロッジと薬材庫の使いの接触を引き当てた。
状態更新:
毒香:行動可能、軽度毒気吸引継続
毒香:救命美食屋の干し肉を追加で半分所持
毒香:ロッジ追跡・接触判定に+15補正
食運の怪物:同行
救命美食屋:一時離脱、毒獣処理担当
毒獣:一時鎮静、休息処理へ
美食屋は、処理場の男たちを古い鎖で縛り上げた。包丁の男は何かを言いかけたが、毒獣が低く唸ると黙った。顔に布を巻いた男は、最初から抵抗しなかった。毒煽りの粉がこぼれた床を見て、ずっと青ざめている。
毒香は、その様子を最後まで見なかった。
証拠はまだ採れていない。処理場の記録も探していない。美食屋の名前も聞いていない。だが、今ここで足を止めればロッジを逃がす。
帳面。
それが一番美味い。
美食屋の言葉は、毒香の中に残っていた。
【行動選択】
≪System≫
次の行動を決定します。
出目:1
結果:すぐ市場へ戻り、南の排水門へ向かう*4
毒香は、処理場を振り返らなかった。
毒獣の呼吸はまだ荒い。吐き出された危険肉と毒煽りの残滓も、証拠としては重要だ。処理場の男たちを完全に拘束する手伝いも必要かもしれない。救命美食屋の名前も、聞こうと思えば今聞ける。
だが、今それをしていればロッジを逃がす。
南の排水門。日没前。裏競りの入口。ロッジと薬材庫の使いが接触する一瞬。
そこを逃せば、次は地下水路の中だ。肉、血、排水、香辛料、薬品、人の汗。匂いが混ざりすぎる。毒香の鼻でも追いきれるとは限らない。
だから今は、戻るしかない。
「行く」
毒香が言った。
食運の怪物が頷く。
「うん。急ごう」
美食屋は、毒獣の首元の鎖を巻き直しながら言った。
「無理に戦うな。ロッジの帳面を見ろ。取れそうなら取れ。無理なら、中身だけでも嗅いで覚えろ」
「帳面も匂う?」
「紙は匂う。革も、インクも、触った奴の指もな」
毒香は頷いた。
「分かった」
「それと、薬材庫の使いには近づきすぎるな。薬屋は毒を撒く。肉屋より面倒だ」
食運の怪物が苦笑する。
「それ、すごく嫌な情報ですね」
「嫌な情報ほど役に立つ」
「確かに」
毒香は追加で渡された干し肉を半分だけ噛んだ。残り半分は保存カプセルとは別の布に包み、胸元へしまう。喉の奥に、温かい苦みが戻る。毒気で焼けた胸が少し楽になった。
走れる。
完全ではないが、走れる。
毒香と食運の怪物は森を抜けた。来た時と同じ裏道を戻る。荷車の車輪跡、黒く変色した草、毒獣の足跡。すべてが夕暮れの中で色を沈めている。
走りながら、食運の怪物が息を切らせずに言った。
「毒香、平気?」
「たぶん」
「そのたぶんは、もう聞き慣れてきたけど信用はしてないよ」
「少し平気」
「じゃあ、少し急ごう」
「うん」
二人は市場へ向かう。
日が落ちる前に。
ロッジが地下へ潜る前に。
帳面が闇の中へ消える前に。
【移動】
≪System≫
毒香と食運の怪物は、北の古い狩場から市場南端の排水門へ向かいます。
目的:
ロッジが地下水路へ入る前に接触地点へ到着する。
現在の有利条件:
食運の怪物の大成功により、ロッジと薬材庫の使いの接触地点が判明。
次のロッジ追跡・接触判定に+15補正。
現在の不利条件:
毒香は軽度毒気吸引中。
長時間の全力疾走は難しい。
日没まで時間が少ない。
【判定】
≪System≫
市場南端の排水門へ急行し、ロッジの接触地点に間に合うか判定します。
難度:55
判定項目:速度
基礎値:90
補正:軽度毒気吸引−5
補正:救命美食屋の干し肉+10
補正:食運の怪物が同行+10
補正:接触地点が判明済み+15
補正:日没が近い−10
最終値:110
判定方式:
1D110を振り、出目が難度55以上なら成功。
難度の2倍、110以上なら大成功。
難度の5分の1、11以下なら大失敗。
出目:25
結果:失敗
毒香は走った。
森を抜け、裏道を戻り、荷車の轍を踏み越える。喉の奥には、まだ処理場の毒気が残っている。胸は重い。足首には鎖の痕が痛む。だが、干し肉の苦みが体内に残っているおかげで、倒れはしない。
食運の怪物は隣を走っていた。
彼女の足取りは軽い。急いでいるはずなのに、不思議と泥に足を取られない。枝を踏んでも折れない。斜面を下る時も、ちょうど良い石が足場になる。
毒香はそれを横目で見て、少しだけ腹立たしくなった。
「何?」
「便利」
「今、便利って言った?」
「言ってない」
「言ったよね」
「急ぐ」
「ごまかした」
毒香は返事をしなかった。余計な呼吸を使いたくなかった。
市場の灯りが見えてくる。夕暮れはもう濃い。表通りにはまだ客がいるが、昼の喧騒とは違う。店を閉める音、残り物を買い叩く声、夜の屋台に火が入る匂い。その下に、別の流れがある。
裏の人間の匂い。
血を隠した革袋。古い油。湿った金。毒袋を包む防腐紙。薬草の粉。帳面に染みたインク。
毒香は市場南端へ向かった。
排水門は、表通りから少し外れた場所にあった。古い石造りの門。鉄格子の向こうから、湿った風が吹いている。水路の匂いが濃い。腐った水、肉片、薬品、香辛料、鼠、そして人の汗。
その前に、誰かがいた形跡があった。
だが、もう人影はない。
毒香は足を止めた。
「……遅れた」
食運の怪物が息を呑む。
「もう行っちゃった?」
「うん」
毒香は排水門の前にしゃがむ。石畳に薄く残った足跡。革靴の跡。片方は帳面の男ロッジのものだ。市場で尾行した時に覚えた匂いがある。革の帳面、香辛料、汗、油。
もう片方は知らない。
薬草臭い手袋。乾いた鉱石。防腐粉。紫の毒煽りに近い、苦い薬品の匂い。
グラッジ薬材庫の使い。
たぶん、クラム。
二人はここで会った。そして、もう地下水路へ入っている。
「完全に見失った?」
食運の怪物が聞く。
毒香は首を横に振った。
「まだ」
「追える?」
「匂いはある。でも多い」
排水門の奥は匂いが濃すぎる。水路、腐敗、血、肉、薬、湿気、下水。ロッジとクラムの匂いは残っているが、すぐに混ざる。急がなければ消える。
その時、排水門の影から小さな声がした。
「……あんたら、ロッジを探してるのか?」
毒香と食運の怪物が同時に振り向く。
そこには、痩せた少年がいた。市場の荷運びの子供だろう。肩に空の籠を背負い、片手に小さな包みを持っている。毒香よりもさらに小さい。目だけが妙に鋭い。
毒香は少年を見る。
「見た?」
少年は頷いた。
「帳面持った男だろ。薬草臭い奴と会ってた。さっき地下に入った」
食運の怪物が驚く。
「よく見てたね」
「見てたんじゃねえよ。邪魔だったんだ。排水門の前で話してるから、荷を通せなかった」
毒香は一歩近づく。
「何を話してた」
少年は少し警戒した。だが、毒香が干し肉の半分を取り出すと、目が変わった。
「食べる?」
「……くれるのか?」
「情報と交換」
「なら言う」
少年は干し肉を受け取った。少しだけ匂いを嗅ぎ、噛む。目が丸くなる。
「うま」
「話」
「分かってるよ」
少年は排水門の奥を指差した。
「帳面の男が、“今月の合言葉は変えるな”って言ってた。薬草臭い奴が、“グラッジは疑り深い、競りの後に帳面を見せろ”って返してた」
毒香は目を細める。
「合言葉は?」
「そこまでは聞こえなかった。でも、薬草臭い奴が小袋を渡してた。紫っぽい粉だと思う」
毒煽り。
毒香の鼻がわずかに反応した。
少年は続ける。
「あと、帳面の男が怒ってた。“処理場から連絡がない”って。だから急いでる感じだった」
食運の怪物が毒香を見る。
「処理場で騒ぎを起こしたの、もう気づかれかけてる?」
「たぶん」
「まずいね」
「うん」
毒香は排水門を見る。
ロッジとクラムは地下に入った。接触には間に合わなかった。だが、匂いは残っている。目撃者もいた。さらに、ロッジは処理場との連絡が途絶えたことを気にしている。つまり、警戒が上がる前に動くなら今だ。
「追う」
毒香が言った。
食運の怪物は頷いた。
少年が干し肉を噛みながら言う。
「地下は迷うぞ」
「道、知ってる?」
「少しなら」
毒香は少年を見る。
「案内する?」
少年は一瞬悩んだ。目が干し肉の残りに向く。
毒香はもう半分の干し肉を見た。美食屋に持っていけと言われたものだ。毒気が戻った時の保険でもある。
少し迷った。
それから、小さく割って、さらに半分を少年に差し出した。
「入口まで」
少年はそれを受け取った。
「入口までなら」
【失敗効果】
≪System≫
市場南端の排水門への急行判定に失敗しました。
結果:
南の排水門には到着しましたが、ロッジと薬材庫の使いの接触には間に合いませんでした。
ロッジと薬材庫の使いは、すでに地下水路へ入っています。
ただし:
大失敗ではないため、追跡手がかりを得ました。
入手手がかり:
ロッジの足跡と匂い
薬材庫の使いらしき人物の匂い
紫の粉、毒煽りの残り香
市場の荷運び少年の目撃証言
目撃証言:
ロッジは薬草臭い人物と接触しました。
薬草臭い人物は、グラッジ薬材庫の使いである可能性が高いです。
薬材庫側は「競りの後に帳面を見せろ」と要求していました。
ロッジは「処理場から連絡がない」と焦っていました。
薬材庫の使いは、紫色の粉の小袋を渡していました。
追加状況:
ロッジは処理場の異常に気づきかけています。
警戒が上がる前に地下水路で追う必要があります。
新規一時協力者:
市場の荷運び少年。
地下水路の入口付近なら案内可能。
干し肉と交換で協力中。
状態更新:
毒香:行動可能、軽度毒気吸引継続
毒香:救命美食屋の干し肉を一部消費
食運の怪物:同行
ロッジ:地下水路内へ移動
薬材庫の使い:地下水路内へ移動
荷運び少年:入口まで案内可能
毒香は、排水門の奥を見た。
湿った風が吹いてくる。腐った水、泥、鼠、肉片、薬品、血、香辛料。匂いが重い。表の市場とは違う。奥へ進めば進むほど、鼻が頼りになると同時に、鼻が騙される場所でもある。
ロッジと薬材庫の使いは、すでに中へ入った。
急ぎたい。
だが、何も知らずに地下へ入れば、迷う。罠もあるかもしれない。裏競りへ向かう連中の通路なら、見張りもいるはずだ。
毒香は荷運び少年を見た。
【行動選択】
≪System≫
次の行動を決定します。
出目:3
結果:少年に地下水路の危険を聞く*5
「危険」
少年は干し肉を噛みながら眉を寄せる。
「何が?」
「地下水路」
「ああ。危ないぞ」
食運の怪物が苦笑した。
「それは、見たら分かるかな」
「いや、見た目より危ない。水路の道は三つある。真ん中は普通の排水路。右は裏競りの客が使う道。左は荷運び用の古い道」
毒香は頷く。
「ロッジは?」
「たぶん右。帳面持ちとか買い手は右を通る。見張りがいるから、知らない奴は止められる」
「左は?」
「狭い。荷を運ぶ奴しか通らない。臭いし、鼠も多い。けど、裏競りの脇に出られる」
食運の怪物が少し顔を明るくする。
「じゃあ左から行けばよくない?」
少年は首を振った。
「左は沈む床がある」
「沈む床?」
「古い石が腐ってる。踏むと水に落ちる。水って言っても、ただの水じゃない。下に捨て肉が溜まってる」
「うわ」
食運の怪物が顔をしかめた。
毒香は排水門の奥を嗅いだ。たしかに、左奥から濃い腐敗臭がある。古い肉、水に漬かった脂、骨、鼠、酸っぱい毒。落ちれば危険だ。毒香の耐久では、少し傷が入るだけでもまずい。
「真ん中は」
毒香が聞く。
「一番広い。でも流れが速い。たまに水門が開く。開いたら流される」
「いつ開くの?」
「分かんねえ。市場の上で水を流した時」
「つまり、運?」
食運の怪物が言った。
少年は彼女を見る。
「運が良ければ流されない」
「私の出番かな?」
「いや、流されたら普通に死ぬぞ」
「それは嫌だなぁ」
毒香は右、左、真ん中の匂いを整理した。
右。裏競りの客道。見張りあり。ロッジが通った可能性が高い。正面から行けば止められるが、匂いは追いやすい。
左。荷運び用の古い道。裏競りの脇に出られる。沈む床あり。腐敗臭が強く、足場が危険。
真ん中。普通の排水路。広いが水門の危険あり。匂いは流れやすく、追跡には不向き。
少年はさらに言った。
「あと、地下には灯りが少ない。見張りは火を持ってるけど、火に寄ると見つかる。暗いところは鼠が多い」
「毒鼠?」
毒香が聞く。
「たまに。市場の捨て肉食ってるから、変なのもいる」
毒香は頷く。
「裏競りまで、道は」
「右なら早い。左は少し遠回り。真ん中は知らねえ。俺は入らない」
「案内は」
「入口までって言っただろ。中は嫌だ」
少年は干し肉を大事そうに包みに戻す。
「でも、左の沈む床は目印がある。壁に白い傷がついてる所は踏むな。あと、赤い布が結んである木杭は、裏競りの荷運びが使う道しるべだ」
毒香はそれを覚えた。
白い傷は踏むな。赤い布は荷運びの道しるべ。
「ロッジを追うなら?」
食運の怪物が聞く。
少年は少し考える。
「右が早い。でも見張りがいる。左なら脇から見られるかもしれない。けど、臭いし危ない」
毒香は排水門を見る。
急ぐなら右。
隠れるなら左。
賭けるなら真ん中。
毒香は、保存カプセルを抱え直した。
【情報取得】
≪System≫
荷運び少年から地下水路の危険を聞きました。
地下水路の道:
右:裏競りの客道
真ん中:通常排水路
左:荷運び用の古い道
右の道:
ロッジが通った可能性が高い。
裏競りの客や帳面持ちが使う。
見張りがいる。
最短だが、正面から行くと止められる可能性が高い。
左の道:
荷運び用の古い道。
裏競りの脇に出られる。
沈む床がある。
腐敗臭が強く、足場が悪い。
白い傷のある床は踏んではいけない。
赤い布が結ばれた木杭が道しるべ。
真ん中の道:
広い通常排水路。
水門が開くと流される危険がある。
匂いが流れやすく追跡には不向き。
追加危険:
毒鼠が出る可能性あり。
灯りが少ない。
見張りは火を持っている。
市場の捨て肉によって、地下の生物が変質している可能性あり。
少年の案内:
入口までなら案内可能。
地下内部へ入ることは拒否。
毒香は、左の道を見た。
暗い。狭い。腐った水と肉の匂いが重く溜まっている。荷運び用の古い道。裏競りの脇へ出られるが、沈む床があるという。毒鼠も出るかもしれない。足場も悪い。
だが、右の客道には見張りがいる。ロッジが通った可能性は高いが、正面から行けば止められる。今の毒香は、嘘も交渉も得意ではない。強行突破できる力もない。食運の怪物がいるとはいえ、見張り相手に運任せで突っ込むのは危うい。
真ん中の排水路は論外だ。水門が開けば流される。水の中には何が沈んでいるか分からない。
【行動選択】
≪System≫
次の行動を決定します。
出目:2
結果:左の荷運び道から脇へ回る*6
「左」
毒香が言った。
荷運び少年が顔をしかめる。
「本気か? 臭いぞ」
「匂いは我慢できる」
食運の怪物が毒香を見る。
「私はちょっと自信ないかな……」
「口を布で覆う」
「それでどうにかなる匂い?」
少年が首を振る。
「ならない」
「ほら」
食運の怪物が毒香を見た。
毒香は黙った。
少年は排水門の奥を指差す。
「左に入ったら、白い傷の床は踏むな。石が沈む。赤い布の杭を見つけたら、それに沿って進め。途中で二回曲がる。一回目は右、二回目は左。間違えると捨て肉溜まりに出る」
「捨て肉溜まり」
毒香が繰り返す。
「市場で出た肉クズを流す場所だ。鼠と変な虫がいる。たまに肉じゃないものも沈んでる」
「行きたくないなぁ」
食運の怪物が小さく言った。
毒香も行きたいわけではない。
だが、裏競りの脇に出られるなら価値がある。ロッジと薬材庫の使いを正面から追わずに済む。見張りの目も避けられる。帳面を狙うなら、脇から見る方が良い。
「案内は」
毒香が聞く。
少年は首を横に振った。
「入口まで。中は行かない」
「分かった」
毒香は干し肉を渡した分を惜しいとは思わなかった。情報は十分だった。むしろ、食べ物としては高すぎる情報かもしれない。
食運の怪物が袖で口元を覆う。
「じゃあ、行こうか」
「怖い?」
「怖いし臭い」
「正直」
「毒香が正直じゃなさすぎるんだよ」
毒香は、左の荷運び道の入口を見た。
地下水路の奥で、水音が響く。表の市場の喧騒は、もう遠い。ここから先は、光の届かない裏の流れだ。危険肉、毒煽り、帳面、薬材庫。そのすべてが、腐った水の先へ続いている。
ロッジはもう地下へ入った。
クラムもいる。
帳面は、まだ近い。
毒香は保存カプセルを抱え直した。未登録香辛料の枝が、内側でかすかに冷たい匂いを立てている。救命美食屋から渡された干し肉の残りも、胸元にある。
ここから先は、鼻が頼りだ。
だが、鼻だけでは足りない。
食運もいる。
毒香は一歩、排水門の影へ踏み込んだ。
1:処理場の証拠を保存カプセルに採取する
2:ロッジの居場所を聞き出す
3:グラッジ薬材庫の場所を詳しく聞く
4:毒獣を休ませる場所を確保する
5:救命美食屋に今までどこにいたのか聞く
6:食運の怪物に次に追うべき相手を直感で選ばせる
1:処理場の証拠を保存カプセルに採取する
2:ロッジの居場所を聞き出す
3:ロッジとグラッジの関係を聞く
4:毒獣を休ませる場所を確保する
5:救命美食屋の名前を聞く
6:食運の怪物に次に追うべき相手を直感で選ばせる
1:毒獣を休ませる場所を確保する
2:処理場の証拠を保存カプセルに採取する
3:すぐ市場へ戻ってロッジを追う
4:救命美食屋に毒獣の見張りを任せられるか聞く
5:食運の怪物にどちらを優先すべきか直感で選ばせる
6:ロッジとグラッジの関係をさらに聞く
1:すぐ市場へ戻り、南の排水門へ向かう
2:処理場の証拠だけ最低限採取してから向かう
3:救命美食屋の名前だけ聞いてから向かう
4:処理場の男たちを拘束するのを手伝ってから向かう
5:毒獣の様子を最後に確認してから向かう
6:食運の怪物に市場までの近道を直感で選ばせる
1:荷運び少年に入口まで案内させる
2:匂いだけを頼りにすぐ地下水路へ入る
3:少年に地下水路の危険を聞く
4:排水門前でロッジの残り香を詳しく調べる
5:食運の怪物にどの入口を使うべきか直感で選ばせる
6:少年から裏競りの噂を聞く
1:右の客道から正面突破気味に追う
2:左の荷運び道から脇へ回る
3:真ん中の排水路を使って最短を狙う
4:排水門前でもう一度ロッジの匂いを調べる
5:食運の怪物に道を選ばせる
6:少年に地下水路の簡単な地図を描かせる
【今回の主な出来事】
・グラッジ薬材庫の場所が判明
・薬材庫側の窓口「クラム」が判明
・ロッジが夜の裏競りに向かうことが判明
・ロッジの帳面が最重要手がかりとして浮上
・食運の怪物の直感判定が大成功
・毒獣は救命美食屋に任せることに決定
・毒香と食運の怪物が市場へ戻る
・南の排水門には到着するが、ロッジと薬材庫の使いの接触には間に合わず
・荷運び少年から地下水路の危険を聞く
・左の荷運び道から裏競りの脇へ回ることに決定
【現在の毒香】
行動可能。
軽度毒気吸引継続。
救命美食屋の干し肉を一部消費。
保存カプセル所持。
未登録香辛料の枝を所持。
ロッジとクラムの匂いを追跡中。
【所持品】
保存カプセル
未登録香辛料の枝
救命美食屋の干し肉の残り
【判明した人物】
ロッジ:
市場の裏肉をまとめる帳面の男。
夜の裏競りに参加予定。
帳面を肌身離さず持っている。
処理場との連絡が途絶えたことを警戒し始めている。
グラッジ:
市場外れの薬問屋。
毒煽りの流通元。
クラム:
グラッジ薬材庫側の窓口らしき細い男。
薬草臭い手袋をしており、顔を布で隠している。
荷運び少年:
市場の荷運びをしている少年。
干し肉と交換で、地下水路の入口や危険について教えてくれた。
【地下水路の道】
右:
裏競りの客道。
ロッジが通った可能性が高い。
見張りあり。
真ん中:
通常排水路。
広いが、水門が開くと流される危険あり。
左:
荷運び用の古い道。
裏競りの脇へ出られる。
沈む床と毒鼠の危険あり。
白い傷の床は踏んではいけない。
赤い布の木杭が道しるべ。
【次回予定】
第6話:地下水路の裏競り