物間寧人が「丁寧」にクラス間交流を図る話
【あらすじ】
なぜ物間寧人は、あんなにも執拗にA組を煽るのか?」 その謎を解明すべく、B組の常識人男子四天王(泡瀬・回原・麟・円場)が立ち上がる。
激怒する上鳴、静観する爆豪。そして骨抜柔造が辿り着いたのは、物間寧人の名に刻まれた「ある真実」だった。
【作品解説】
物間のA組への敵視を「独自のコミュニケーション・スタイル」として再定義する、キャラ解釈中心のギャグ短編です。
※B組男子の距離感・常識人ぶりにも独自解釈を含みます。特に骨抜くんの柔軟性がカンスト気味。
「物間寧人・ネイキッド」より改題して投稿。
元は2019年7月のPixiv投稿作です。まだ見ぬ誰かとの出会いがありますように。
その日もいつも通りの日だった。
太陽は東から上り、朝の空気は爽やかで、鳥は平和を歌う。
雄英高校の広い敷地はどこもかしこも生徒たちの活気で賑やかで、教師たちは普段と同じく無茶な
昼時にもなれば生きとし生ける者はみな等しく腹を減らす。
生徒も教師も民族大移動よろしく学食に詰めかけ、お祭り騒ぎのような大賑わい。
そんな中で和気藹々とテーブルを囲んでいたA組メンバーに物間が横からちょっかいをかけてくるのもいつものこと。
それを適当にあしらう切島と上鳴も、物間が一方的に畳みかけるのも。
近くの席にいた拳藤が「またやってる」と苦い顔で腰を浮かせたことも。
昨日までと何も変わらない。
ただひとつ違ったところは、上鳴電気の虫の居所が悪かったことだ。
「なあ、物間クンよ。いい加減はっきりさせようぜ。
一体俺らの何がそんなに気に食わねえってんだ?」
ぴり、と。一筋の緊張が周囲に走った。
未知の方向へ舵を切ったきっかけは、その一言。
上鳴が苛立ち混じりに放った「買い文句」だ。
大多数にはおおむねいつも通りのこの日であったが、上鳴にとっては朝からケチの付き通しだった。
愛用のヘアワックスをうっかり切らしてしまい髪型が決まらない。
朝の占いではかに座が最下位。「対人運が最悪!カチンと来る一言にも冷静に対応しよう!」
授業中には難しい問題を当てられ「たるんでるからこんなことになるんだ」と小言を食らう。
気分転換にジュースでも買いに行くかと思ったら見慣れぬ黒猫風の異形が目の前を横切って行った。
とどめが物間だ。毎度毎度代り映えもしないA組下げには、いいかげん我慢の限界だった。
しかし肝心の物間はというと、何が起きたか分からないとでも言わんばかりの表情。
「気に食わないだって?僕が?君らを?なにバカ言ってんのさ、悪いものでも食べたのか?」
「とぼけてんじゃねーよ。そうでもなきゃなんでこんな毎度毎度嫌味ばっか浴びせてくんだ」
「よせよ、上鳴」
隣から切島が制止に入るが、時すでに遅し。
友人を侮辱されるという、上鳴電気の数少ない地雷。そこに物間は真っ向から踏み込んできたのだ。
一度噴出した怒りがそう簡単に収まるはずもない。
「ほら、何が気に食わねえんだかはっきり言ってみろよ。
A組が注目されてるからってだけで、こんなタチの悪い絡み方してくるはずねーもんな」
「は?なに、まさか、僕らB組がA組に嫉妬してるとでも言いたいわけ?」
「主語でかくしてんなよ、今はてめーの話だろ!」
「言ったのは君だろ!」
売り言葉に買い言葉のキャッチボールでどんどんヒートアップしていく二人。
その間に必死になって割って入る瀬呂と切島。
「落ち着けって上鳴!おまえらしくもねーぞ!」
「呑気に食ってねーでおめーも止めてくれよバクゴー!!」
我関せずを貫き麻婆丼をかき込んでいた爆豪は、切島の求めに対し空になった丼を置くと端的に一言。
「言っても無駄だ。やらせとけ」
「バクゴー!?」
その後も多種多様な罵声を湯水の如く口から溢れさせる物間を、すぐ傍で見ていた泡瀬と骨抜が羽交い絞めにして食堂の外へ連行。
切島らの宥めも空しく頭に血が上りきっている上鳴のもとへ、趨勢を見守っていた拳藤が駆けつけて平謝り。
ここまでが昼休みの前半。
後半は近くの空き教室で物間の査問会が執り行われることとなった。
「……さすがにさ、物間。他所様をああまでカンカンに怒らせたとあっちゃ、俺らも大目に見てはやれねーぞ」
進行役を務めるのは柔軟な対応に定評のある骨抜柔造。
騒ぎの場に居合わせた泡瀬洋雪ほか、昼食返上の覚悟で駆け付けた回原旋、麟飛竜、円場硬成のB組常識人男子四天王が揃い踏み。
委員長の拳藤はA組との折衝が終わり次第合流の予定だ。
主役の物間はただただ不愉快そうな顔をしている。
中央の椅子に座らされ、まるで犯罪者のように取り囲まれる扱いに納得がいっていない様子だ。
「で、実際のところはどうなの。上鳴の言ってた通りなわけ?」
「骨抜までそんなこと言うのか!」
声を荒げる物間にすかさず四方から「落ち着け」「どうどう」などと声がかかる。
常識人の名を欲しいままにするこの四人、こういった局面でのコンビネーションは抜群である。
「違うの?それならそれで、はっきり言わなきゃわかんないぜ」
「…………」
「物間。どういうつもりなのか、おまえの口から聞かせてもらえなけりゃ俺らにもわからん」
「…………」
「上鳴が怒るのはしょうがないよ。それだけのこと言ってた。自覚はあるんじゃないか?」
「…………」
淡々と諭そうとする骨抜の人徳ゆえだろう、物間も不本意そうな態度ではあるものの耳を傾けてはいる様子だ。
泡瀬たち四人が口を挟むことなくサポートに徹しているのも、彼らへの信頼あってこそ。
骨抜ならこの難しい局面にも柔軟かつ冷静に対応できると。
そして物間も、そんな相手を邪険に扱うような男ではないと。
「上鳴を怒らせはしたけど、でもそれはおまえの本意では……」
「……なんで」
物間がようやく口を開く素振りを見せたため、骨抜たち五人は目配せしあって静観モードに入った。
これから一体どんな言葉が、感情が、彼の口から溢れてくるのか。
「なんで、僕が悪いみたいになってるのかなああああああああああ!?!?!?」
廊下まで響き渡る物間の絶叫、立ち上がる勢いで倒れた椅子、驚きに目を丸くする骨抜。
どうしようもないとばかりに頭を抱える泡瀬、「マジか」と真顔で漏らすしかできない回原、理解に苦しみ頬を引きつらせる麟、ただただ呆れ顔の円場。
「どう考えてもおかしいだろ!!僕は彼らの流儀に合わせてやってるだけだぞ!?
それなのになんで、僕一人が悪いみたいになってるわけ!?」
「おいちょっと黙らせ――」
いち早く動こうとした回原を骨抜が手で制す。
「いや必要ない。……やっとわかった」
「何か掴んだのか、骨抜」「さすが柔軟だな柔造」
常識人男子たちは褒め言葉もみな常識的だ。同時に喋られると誰が誰だか区別がつかない。
「つまりこういうこと?物間自身は、A組に喧嘩を売っているつもりなんてさらさらなかった」
「当たり前だろ!僕が好き好んでそんなことするような奴に見えるのか!?」
常識人男子四人の胸中にそれぞれ個性的なツッコミが湧いたが、人並みの良識を持つ彼らがいちいち口に出して話の腰を折ることはない。
「おまえ自身は、A組と良い関係を築けているつもりでいた。そういうことだな、物間」
「そうだよ!だっていうのに上鳴の奴、いきなりキレたりなんてして!!」
「「「「それは逆切れってもんだろ」」」」」
四人の思いが一つになった。常識人男子たちだからこそ、口に出して窘めたくなったのだ。
「んなこと言っても、嫌なら嫌って言われなきゃわかんないだろ!!
言えよ!!もっと早く!!そしたらこっちだって言いすぎたゴメンって謝るんだからさぁ!!」
「そうだね、おまえはそれができる奴だね」
溜息混じりに言った骨抜に反論する者は誰もいなかった。
常識人四天王だけではない、この場にB組全員が揃っていたとしても異を唱える者は皆無であろう。
物間はそれだけの厚い信頼を、B組全員から勝ち得ている。
「謝るくらいなら最初から言うなよ……」
「そんなこと後出しで言われてもさぁ!!!」
「それもそうだな」「そもそもお前、なんでA組にだけあんな攻撃的なんだ?」「そうそう、おまえ普段はそこそこ丁寧なのにさ」「この前だって普通科の心操とはすぐに打ち解けてたもんな」
しばらく見守っていた反動か矢継ぎ早に疑問を浴びせる常識人四天王と、答える暇も与えられず苛立ちを募らせる物間。
そんなやりとりを見るに見かねて、骨抜が一言でまとめてみせた。
「あの嫌味は、A組の流儀に――もっと言うなら、爆豪の流儀に合わせたものだった。
そういうことでしょ、物間」
「そう!そうそうそうそう、さすがは骨抜!!」
物間はやっと言いたいことが伝わったとばかりに狂喜して、気取ったポーズを決めてみせる。
ファントムシーフとしての決めポーズだ。
「僕の名は物間寧人!個性はコピー!
他者の特性をきめ細やかに捉えて臨機応変に対応する、その柔軟さにおいて右に出る者はいない!」
「頭大丈夫か?」「よくもまぁ骨抜を前にして堂々と言えたもんだな」「なんで今名乗ったの」「臨機応変にできねーからあんな騒ぎ起こしたんだろうが」
常識的な四人による真っ当な批難であったが、骨抜は「まあまあ四人とも」と柔軟に対応する。
「この場合、意味があんのはフルネームじゃなくて下の名前だろ。
名は体を表す、っていうもんだからな」
「さっすが骨抜、話が早い!
そう、寧人――丁寧の寧の字を持って生まれた僕は、人付き合いも丁寧かつ繊細。そういうことさ」
ここからの物間の主張は常識的な感性では理解が非常に困難なものであり、骨抜の柔軟性をもってしても翻訳に苦心するような会話となったため、かいつまんで説明しよう。
「物間は相手の流儀に合わせて人付き合いのスタイルを柔軟に変えている。少なくとも本人はそのつもりでいる」
「A組の中心人物である爆豪はあえて口汚い言葉を用いて競争相手の戦意を煽っていくスタイルである」
「そしてそれを受け入れているA組の面々も同様の感性を持っている」
「A組とB組はいい競争相手である。向こうもそう思っているからこそ、A組の中心人物と同様の流儀でなされるコミュニケーションが問題視されることなく成立している」
この思考を経てなされているのがあの対A組の罵詈雑言煽りコミュニケーションであり、物間自身はA組どころかあの爆豪勝己ですら特段嫌っているわけではないと全員が理解できた時には、物間と骨抜以外の四人はそれぞれ異なる仕草で途方に暮れる姿を見せていた。
「えー……マジか、おまえ」
「マジもマジ、僕はいつでも大マジさ」
「大マジであんな悪口雑言吐けちゃうのもドン引きなんだけど」
「文脈を読めよ!真に受けちゃうような相手にあんな攻撃的な言葉を使えるわけないだろ!?」
「上鳴を怒らせたことについてはどう思ってんの」
「誰だって虫の居所が悪い日くらいあるよ。でもまぁ次からは気を付けるさ、なんでもやりすぎはよくない」
「つっても、普段からあれじゃ喧嘩売ってると思われても仕方ないぞ」
「だーかーらー!!そもそもA組の奴らがそういうスタイルなんだって言ってるだろぉ!?」
「駄目だコイツ分かってない」「あんだけ怒らせといてまだやる気か」「臨機応変はどこ行った」「ねえ俺もう帰っていい?」
「遅くなってごめん!こっちはどうなってる!?」
A組との話し合いが長引いたのだろう、息を切らせて飛び込んできた拳藤に視線が集まる。
物間と骨抜以外の四人はみな疲れ切った顔で、返事は誰が言ったかも定かではない。
「気が済むまでやらせとくしかねえわ……」
拳藤が困惑する中、昼休み終了を知らせるチャイムが鳴った。
彼らの至った結論は奇しくも食堂で爆豪が口にした考えと同じであり、昼食の犠牲と引き換えに得た徒労感に常識人男子四人組は揃って脱力。
「知った気でいるクラスメイトのことも意外と分かっていないもんだ、これはこれでいい勉強になった」と前向きでいる骨抜の柔軟さが際立つ出来事であった。