蓬莱の薬がもたらしたものは、『永遠の命』と『永遠の執着』だった。

 愛でもなく恋でもない。
 そこにあるのはコミュニケーションという名の殺し合い。

 藤原妹紅。蓬莱山輝夜。
 二人による『お遊び』が今宵も日常に紡がれる。 

 ──曰く、月まで届け。

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短編小説の投稿の仕方がわからず、一度削除してすぐまた投稿しました。これで合ってるかな


エンドレス殺し合い

 

 

 かつて妹紅は火だるまとなって輝夜を抱き締めたことがあった。

 灼熱に苦悶の表情を浮かべ事切れた輝夜は尚、生き返って呼吸を乱していた。

 

 

「ふっ……思えばあれは最高だったよな……!!」

 

 妹紅もまた自らの肉体を焼き切りながらも愉快と称して片手間で酒を煽り焼死した。が、そういえばそれを狙ったのは二度目だったな……と、改めて思い出した。

 

「これだと二番煎じよ? 妹紅」

「いいさ、もっと殺してやるから」

「上等よ上等」

 

 

 何百年か昔の出来事を走馬灯のように巡らせてようやく想起できた、にも関わらず。未だに覚えていて憎々しげに語る輝夜の感情を考えると不思議と、闘志が湧き上がる。それは最早、怨みなどという矮小な人間の持つそれではなく、往年の友へ差し向ける一種の愛情のような。

 

「掠っただけだ……ちぃ!!」

 

 痛みには慣れているので大したことはないと思っていた。

 実際は輝夜の魔弾を捌ききれず、触れたふくらはぎが爆ぜていたらしい。妹紅は頬をこそばゆく掠める真っ赤な滴の味を舌で噛み締めながら、煌々と命を燃やした。人間の身体は、これだから。

 

「おっはよ〜!!」

 

 リザレクション。妹紅の目が開いた刹那に、輝夜が拳を振り下ろした。拳を振り下ろした先の地面は無惨なまでのクレーターができていた。一体そんな細い腕からどんな力を出しているのか。輝夜は妹紅の逃げ惑う真夜中の竹林に目を侍らせて、その影をなぞるかのように追っていった。

 

「何をしてくれるのかしら」

 

 輝夜の期待は表情にも表れ、まるで月の満ち欠けのように目を細めていく。満月の下、ひらひらと舞うように輝夜は妹紅の攻撃をいなしていった。だがこの場においてそれは悪手だ。正しく妹紅がそれを狙ったかのように。

 

「あら──」

 

 足場の悪い竹林で、何かの根っこに足元をすくわれた。ふと空を見上げると、月が真っ赤に燃えていた。

 

「知ってるかぁ輝夜! 脳天を貫かれると痛みもなく死ぬんだッてなァ!!」

 

 リザレクション。輝夜は目を開き、それを悟った。

 

「さっきやられたから、それの意趣返しってこと?」

 

 ステップを刻んで微笑む妹紅がソレを首肯していた。

 

「……御託はいいから早くやろう」

「風情がないのねアナタったら」

 

 妹紅が拳に焔を滾らせながら跳躍した。輝夜はそれを死合再開の合図と受け取り、同じく跳ねた。

 確かに、両者に言葉は要らないのかもしれない。時代に取り残されながらも生き続ける者たちのレクイエムなど、このくらいで丁度いい。

 

「馬鹿の一つ覚えもいいところね……!」

 

 何処までも続く竹林の真上を滑るように飛行する。何処までも、は比喩ではない。文字通りの『迷いの竹林』。数々の人妖からそう忌み名で呼ばれたその場所は、かの月の頭脳が張り巡らせた結界で出来ていた。

 

 妹紅は猛りながら、矢のような鋭い弾幕を繰り出した。対する輝夜は月を背景にきらびやかな弾幕をはふりと。どちらも被弾すれば即死、されど"遊戯"には丁度いい。上空で絶死のやり取りを酌み交わすさなか、追われる側の輝夜が挑発的に宣告した。

 

 

「お前の父と共に去ね! 神宝『蓬莱の玉の枝-夢色の郷-』!!」

 

 父という言葉を、輝夜の口からまるで手向けのように台詞吐かれた。その事実が、妹紅の汚泥より濁りに濁った心の奥底の更に奥深く。炉心から何かが解き放たれるように、一つの名を冠して飛び出した。忘れるわけがあるまい。父の背中を見て育ったのだから。

 

「──輝夜ぁぁぁあああ!!」

 

 感情を剥き出しに怒りを露わにする妹紅を満足気に。輝夜は数千年前の、その父ではなく、まだ成り立てだった彼女のことを閉じた瞳に宿していた。

 可哀想な子だった。そしてそいつは自らを可哀想な子だと自覚しておきながら、輝夜だけでは無く自らをも呪っていたのだ。

 

 恍惚としてしまうではないか。人の子が持つ感情というものは。

 

 輝夜。名を呼ばれ、ゾクゾクと震えた。

 

 輝夜。同時に、期待してしまう。

 

 輝夜。この難題をアナタは解けるのかしら、と。

 

 月の、どんなに歴とした者たちより、人の穢れきった感情こそが寧ろ輝夜の瞳には綺麗に映ったのだ。穢れのない真っ白な絵画を望む馬鹿がどこにいるのか。それが例えデタラメに塗りたくられた絵画であったとしても、ただ単に真っ白より美を見出すものは数多であろう。

 

 少なくとも妹紅という色は、輝夜を完璧なる姫なんかではなく『怨敵』としてしか見ていないだろう。彼女の前では輝夜は『姫』ではなくなるのだ。それが、不思議と心地よかった。

 

 

 刹那、妹紅がスペルカードを天高く掲げた。

 

 

 

「私はこの世で最も憎んだモノの名を、絶対に忘れないためにカードに刻んだんだッ!! 蓬莱 『凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ-』!!」

 

 小細工だった弾幕のお遊戯が、正真正銘の殺し合いになった瞬間である。

 

 一方は数千年の怨嗟を詰め込み、もう一方はそれを揶揄するように。とめどない力と力のぶつかり合いが決死のプライドの目下で繰り広げられた。そしてその、あまりにも長く気の遠くなるような時間は、凝縮されて、須臾へと昇華していくようで。

 

 勝るとも劣らない感情のぶつけ合い。勝機はどちらに傾くのか答えは否。勝利の女神などとうの昔に両者を見放していた。

 

 光と光が鍔迫り合い、時たまに片方に傾く。が、化学反応というべきか──突如爆発が巻き起こり、両者歯噛みながら打ち止めた。

 

 そして爆発の後に煙が立ち込め両者の視界を遮った。静謐な時間だが、動き出せばまた狂気的な争いが始まるに違いない。煙の膜の中で妹紅は今一度気炎を発した。願わくばこの煙が月まで届きますように、と。

 

「嗚呼、アナタとの殺し合いはどうしてこんなにも」

 

 両者がほぼ同じタイミングで煙から飛び出した。輝夜は弾幕を展開し、妹紅は手に焔を燃やして拳一つで間隙を抉じ開けた。滑るように飛行し接近を狙う妹紅。輝夜は距離を取って体勢を整えようとするも、あえなくその拳をくらい、放物線を描いていった。

 

「不死 『火の鳥-鳳凰天翔-』!!」

 

 間髪入れずに妹紅はスペルカードを唱えた。その弾幕は妹紅の意向に沿い、生物のように翼をはためかせ対象の息の根を止めんと飛翔する。

 

 

「これで一回死んでくれよ、輝夜」

 

 妹紅はその行く末を見守る裏で、まさかと表情を曇らせる。地平線の彼方から極彩色の五本の線が──。

 

「っぶねぇえ!?」

 

 回避という咄嗟の判断は、妹紅が自身で失くしたと思っていた人由来の生存本能によって行使された。しかし流石に全てを避けるに至らなかったらしく、奇しくも左腕の一部が、その太い関節辺りからだらっとぶら下がっていた。肉を絶たれ、骨を砕かれ、神経すらも灼かれていた。僅かに残った肉の切れっ端のようなものが、それと肉体を繋げていたので、妹紅はそれを直ぐ様もいで捨てた。

 

 血が吹き出しているところをその灼熱で瞬時に焼ききり無理やり止血。じゅうという肉を焼いたときの香りと煙が、非現実感を現実感のあるものに戻していく。血の気も両方の意味で引いたが、それで冷静さを取り戻した。口の中に溜まった血液を飲み込んで、自死をするか悩んだ。

 

「あら、ごめんなさい。少し狙いが甘かったかしら」

 

 遠く、極彩色の光の尾を引く輝夜が、月を背に優雅に指先を振った。

 

 たったそれだけで五本の線が極彩色を成し、破滅をもたらしている。

 

 輝夜は指を振って弄び、妹紅はそれを掻い潜るだけだ。

 

「一度あったことは二度はねぇからな」

 

 静かに言い放つ妹紅に、輝夜は後ろに下がりながら向かえ撃つだけだった。それはまるで永遠亭の、永遠に続く廊下のようだった。輝夜との距離を詰められなくば即ち、その事態が起きることを示唆している。だが輝夜はそんな不粋なことはしなかった。これは殺し合いだが、コミュニケーションでもあるのだ。不死者同士が揃ってようやくできる至高の遊び。遊び相手をおちょくることはすれど、できるだけ永く続けるようにするのがミソだ。

 

 相手を慮り手心加えてやる。これはかつて翁と婆やから教えてもらった大切なことだった。

 

「二度あれば三度あるというわよ?」

 

 わざと距離を縮めて、お互いの血肉を貪り合う。それはまるで、画用紙にお互いの血を代わりばんこに塗りたくって一枚の崇高な絵にする儀式のようだった。

 血の上に血を、そして更に新鮮な血を重ね合わせ、錆びて黒くなりゆくのを見届けず、真っ赤な彼岸花の咲き誇るのを模倣するかのように、血と血で互いの頬を塗りたくる。

 

 その成れ果てた姿はどんな獣より醜かった。やたら滅多な応戦で消耗しきった身体を厭わず、肩で大きく呼吸しながらもはや骨で殴打する。弾けて欠損していく身体を気にする素振りなく、アンバランスな姿勢のまま次の攻撃に移行する。攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。

 

 飛行するのもままならなくなった両者は、ふらふらと地上に降り立った。真っ赤に染め上げられた地上の竹林たちが、この狂気に染まった凄惨な現場をただ黙って特等席から座って観察しているかのようだった。

 

 ある者は植物に身を委ね、ある者は自らの首をはねた。

 

 リザレクション。自らの首をはねた輝夜は、既に目を開けているだけの妹紅に近付いた。どうして彼女は自死という選択肢を取らなかったのだろうか? 

 

 輝夜はドス黒い感情を妹紅に向きだしにしていた。藤原妹紅は殺伐とした態度を取って誰との関わりも持たない孤独であるべきなのだ。そして夜な夜な、孤独は苦しい。孤独は苦しいと輝夜の身体を求めに来るべきなのだ。

 

「…………やるなら……やれよ」

 

 猛烈な死の香り。その只中で、輝夜は嫉妬の眼差しを向けていた。妹紅の感情は輝夜だけのものだった。それが最近になって寺子屋のアイツや、博麗の巫女、人間の魔法使いなんかに絆されて、ついには二人だけの時間に妙な間を作るようになった。

 

「こういう時はさっさと死んで次をするべきよ」

 

 自嘲気味に「はは」と微笑んだ妹紅を、間髪入れずに殺す。自らの首をはねたように、彼女にも同じように殺した。煙とともに肉体が元に戻っていく。そして珍しく、輝夜は妹紅に馬乗りになった。

 

 リザレクション。妹紅が目に光を宿した瞬間、拳を振り下ろした。ハッと意識を取り戻した妹紅がソレに気付いたらしい。なんとか両手で頭部を庇うが、ぐちゃりという鈍い音がしその両手ごと中身が飛び出した。また煙が立ち込めた。

 

 リザレクション。

 

 ──リスポーンキル。不死者同士での禁止事項を破った輝夜に、妹紅がその身を燃やして対処する。

 

「バカがよ」

 

 妹紅は輝夜に悪態をつきながらも、抱きしめて離さなかった。輝夜に何度も拳を振るわれながらも、その両の手が存在する限り死んでも、離すことはなかった。

 

 リザレクション。

 リザレクション。

 リザレクション。

 リザレクション。

 

 もはやなんでもありとなって、面白くもなんともなくなった殺し合い。続く限りは終わりも訪れず、そこにあるのは純粋無垢な殺意のみ。輝夜は断続的な意識の狭間で、どこか隠しきれない依存心を、叫ぶかどうか迷っていた。どうして、と。

 

 そこではじめてようやく気が付いた。様子のおかしい輝夜に対し、妹紅は心底不快そうに口元を歪ませながらその意識を刈り取った。

 

 

 リザレクション。輝夜はもう、何もしなかった。妹紅も拳を下げて怪訝に首を傾げた。

 結局、妹紅だって、何が起きようとも最後には自分の元へやって来るではないか。結局、二人は本質的なところでは、何一つ変わっていないのだ。

 

 その時、地獄のように荒涼としたこの場に、茜が射した。場が白けてしまったが、輝夜の機嫌は内心すこぶるよかった。輝夜は無表情を装いながら、ひたかくしていた感情の一部を向こうにぶつけてみた。

 

「……最近、あいつらの話ばっかりするのね」

「……はぁ? ……お前こそ、しつこいよな」

 

 ボソッと言ってのける妹紅。まるで傍から聞けば痴話喧嘩のようだったが、場所を考えればそんなこともなく。そんなこんなで遠くで朝の鳥が鳴き始め、ピクリと反応した妹紅が踵を返して去っていく。その姿はぶっきらぼうだったが、

 

 

「続きはまたやろう」

 

 

 最後は結局、この地獄のような日常が続いていくことを受け入れて、互いの日常に戻っていくのだ。

 

 誰かの鼻歌が、竹林に響き渡っていた。

 

 




推敲前の話を貼っていたので、再度投稿後推敲しました。。。

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