【桜月 昼前】
[木ノ葉隠れの里 うちはの集落]
「・・・・・・・・・ここが、うちはの集落か」
大蛇丸さんとの手合わせから、数日後。
俺とカガリは、うちはの正門前で足を止める。
俺はカガリに頼まれ、うちはの集落を訪れてい
た。
なんでも、カガリの元保護者が会いたいという
門には、一族の家紋である天狗の赤い団扇を模
した意匠が描かれていた。
カガリは俺の袖を掴むと、申し訳なさそうな表
情を浮かべる。
「ごめんね、律樹。一族のことで付き合わせちゃ
って」
「いいよ、別に。それより、これから会う人って
さ・・・・・・・・・」
「うん。うちはヒカクさんだよ」
どうやら、両親を亡くした後、カガリは以前か
ら ヒカクという人物に世話になっていたらしい。
そして、そのヒカクさんから呼び出しを受けた
のだという。
「うちはヒカク、か。一時期、大叔父様と対立し
ていた人だと聞いたことがあるな」
俺がそう尋ねると、カガリは小さく頷いた。
「そうなの。昔は、うちはのタカ派の筆頭だった
みたい ・・・・・・だったんだけどね」
カガリは、少し困ったような表情を浮かべる。
「今は、一族の中でも厄介者扱いされてるの」
「厄介者? なんで?」
「二代目様と対立したことが原因みたい。里との
溝を深めたって、みんなから責められたらしい
の」
「・・・・・・なるほどな」
俺は集落の奥へと視線を向ける。
そんな人物が、いったい俺たちに何の用がある
のだ ろうか。
どうにも、ただの呼び出しとは思えなかった。
「とりあえず、案内してくれよ。ヒカクさんの家
をさ」
「・・・・・・うん」
俺たちは門をくぐり、うちはの集落へと足を
踏み入れた。
「・・・・・・・・・流石に、針のむしろか」
並んで集落を歩いていると、あちこちから俺へ
と怪訝な視線が突き刺さってくる。
「まあ、これくらいは当然か」
うちはの集落に、千手の俺が来ればな。
うちはと千手。
長きにわたって続いてきた因縁がある以上、俺
に向けられる視線も仕方がない。
別に、うちはの連中が自分たちの因果のすべて
を千手のせいだと思っているわけじゃない。
それでも、一族としての誇りが、簡単には割り
切らせてくれないのだろう。
「・・・・・・・・・ううっ、ごめん」
周囲から向けられる刺々しい視線に耐えかねた
のか、カガリが申し訳なさそうに謝った。
俺はそんなカガリの右手をそっと握る。
「カガリのせいじゃないよ」
「・・・・・・・・・ありがとう」
カガリは小さく笑った。
俺たちは周囲から向けられる視線を受け流しな
がら、ヒカクさんの家へ向かって歩き続けた。
「・・・・・・ここが、うちはヒカクの家よ」
カガリが指差したのは、長い年月を感じさせる
古びた一軒家だった。
「・・・・・・随分と年季の入った家だな」
俺たちはカガリに続き、家の中へと足を踏み入
れる。
――その瞬間。
「・・・・・・・・・・・・・・・っ!」
全身の毛が逆立った。
肌を撫でるような、凍てつく殺気。
まるで、こちらの一挙一動を見透かされている
ような感覚だった。
「な、なんだ・・・・・・・・・この殺気・・・・・・・・・」
俺は反射的に足を止める。
隣にいたカガリも同じだった。
「・・・・・・・・・・・・うっ」
カガリは苦しそうに呻くと、その場に膝をつい
た。
「カガリ!」
俺はすぐさま身体を支える。
「大丈夫か!?」
「・・・・・・だ、大丈夫・・・・・・」
そう答えるものの、カガリの顔からは血の気が
引いていた。
俺はカガリを支えながら、家の奥へと視線を向
ける。
――誰かいる。
姿は見えない。
それでも分かる。
この殺気は、自然に生じたものじゃない。
家の奥にいる何者かが、俺たちの存在を感じ取
っている。
そして、その殺気の向こうから――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
こちらを値踏みするような、重い気配が伝わっ
てきた。
俺は無意識に拳を握り締める。
どうやら俺たちは、歓迎されているわけではな
さそうだった。
「・・・・・・・・・どういうつもりですか、ヒカク殿」
俺が問いかけると、家の影から一人の男がゆっ
くりと姿を現した。
白髪の混じった髪。
鋭い眼光。
ただ立っているだけなのに、こちらを圧するよ
うな威圧感がある。
「ほう。小童にしては、やりおるな」
男――ヒカクは、口元をわずかに吊り上げた。
「この殺意を浴びてもなお、この儂を睨み返すと
はの」
「俺をお試しにしては、少々やり過ぎでは?」
「ふん! この程度の殺意など、木の葉創立前は
日常茶飯事よ」
「・・・・・・・・・・・・」
どうやらヒカクさんにとっては、これでもまだ
軽い挨拶らしい。
今どきの若者はなっとらん――とでも言いたげ
な顔をしている。
・・・・・・どの世界でも、ジェネレーションギャッ
プってのは変わらないんだな。
ヒカクさんは、しばらく俺を値踏みするように
見つめていた。
やがて――
「……よかろう。中へ入れ」
「え?」
「ここではなんだ、家で話そう」
そう言うと、ヒカクさんは踵を返し、そのまま
自宅へと歩き出した。
「……どうする?」
俺がカガリに視線を向けると、カガリは少し戸
惑いながらも頷いた。
「うん。行こう、律樹」
俺たちはヒカクさんの後に続き、そのまま家の
中へと入った。
案内された客間で、俺とカガリは並んで腰を下
ろす。
向かいには、ヒカクさんが座っている。
先ほどまで感じていた威圧感は、幾分か薄れて
いる。
だが――こちらを射抜くような鋭い眼光だけは
少しも変わっていなかった。
やがて、ヒカクさんが小さく咳払いをする。
「まず、先日暴走をしたカガリを止めていただき
感謝する」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は黙って、その言葉を受け止めた。
「そして、加藤ダンゾウの魔の手からカガリを救
ってもらったことにも、礼を言わせてほしい」
そこで一度、ヒカクさんは言葉を切る。
「さらに――カガリを伴侶として迎えてくれたこ
とにも、心から感謝している」
「・・・・・・・・・・・・」
深々と頭を下げるヒカクさん。
俺は思わず、隣に座るカガリへ視線を向けた。
カガリもまた、驚いたように目を見開いている
それから、客間には再び沈黙が落ちた。
感謝の言葉を告げられたはずなのに、どうにも
空気が重い。
――本題は、まだこれからなのだろう。
俺はそう直感し、ヒカクさんの次の言葉を待っ
た。
そして――ヒカクさんが口を開いた。
「律樹」
「はい」
「お前、火影となれ」
「・・・・・・・・・は?」
あまりにも唐突な言葉に、俺は思わず聞き返し
た。
隣に座っていたカガリも、目を丸くしている。
「・・・・・・・・・・・・火影にですか?」
「そうだ」
ヒカクさんは、冗談を言っているようには見え
なかった。
「お前ならば、火影になれる」
「・・・・・・・・・・・・どうして、そう思うんです?」
「儂の殺意を浴びても、お前は退かなかった」
ヒカクさんは、静かに俺を見据える。
「だが、それだけではない」
「…………」
「カガリを守ろうとする目。己の言葉に責任を持
とうとする姿勢。そして何より――」
一拍。
「力を持ちながら、それを己のためだけに使おう
とはせぬところよ」
その言葉に、俺は黙り込んだ。
「火影とは、最も強い者がなるものではない」
ヒカクさんの声が、低く響く。
「里の者を守る覚悟を持つ者がなるものだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「儂は忍びのの世を渡り歩き、多くの忍を見てき
た」
ヒカクさんは拳を握り、静かに続ける。
「その中で――お前ほど、火影という器に相応し
い男は、そうおらん」
そして、まっすぐ俺を見据えた。
「もう一度言う」
鋭い眼光で俺を突き刺した。
「――お前は、火影となれ」
俺とカガリは、ただ呆然とした。
ーto be continuedー
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