彗星デリス・カーラーンから大量のマナを照射されて大いなる実りから発芽した大樹カーラーンが、シルヴァラントにたくさんのマナを供給し、本当の意味で世界再生を果たすのをみんなで見届けた。どんな木よりも美しく、雄大で瑞々しく生命力漲る大樹の姿に、誰もが感嘆したものだ。
これによりマナ不足が解消され、後年コレットは真に世界再生を果たした神子として、シルヴァラント中で讃えられることとなった。恥ずかしがり屋の彼女は、賞賛の言葉を受けたる度にいつも「私じゃなくて、ロイドたちのおかげです」と目を伏せたものだが。
その後、ロイドたちは別れを惜しみ、再会を約束しながら、それぞれの帰るべき場所にタバサの『ルーラ』で送られていった。
そして、タバサとジーニアスは『理想郷』にあるグランバニアへと帰っていった。
「ジーニアス、大丈夫だった?」
タバサは自分の部屋にジーニアスを引っ張ってきてから訊ねた。
ジーニアスはキョトンとして首を傾げる。
「何が?」
タバサは言いにくそうに答える。
「その……友達を……倒しちゃって。ここまでバタバタしててあまり訊けなかったけど……」
ジーニアスは、かなり淡白に言う。
「ああ……でも、ボクが勝手にはしゃいでいただけで、向こうは最初からタバサとコレットを狙っていただけだから、後悔よりも悪い奴をやっつけた感じの方が強いよ」
タバサはそれを聞いてホッとした。
「そっか。大丈夫なんだね」
ジーニアスは改めて力強く頷いた。
タバサは、それから桃色のマントを脱ぎ、腰に提げていた剣を所定の位置に置いて、手袋と白いブーツを脱いでから天蓋付きのベッドに座り、顔を赤らめてやや恥ずかしそうにジーニアスを手招きする。
ジーニアスの方は堂々としたものだ。彼の心はとても綺麗なので、タバサに優しくしようとしか考えていなかった。
そしてまず、ジーニアスはタバサの顔を両手で優しく包みこんで唇を重ねた。
タバサはジーニアスの優しい愛撫に心から満足した。
人として生まれた喜びを大いに味わったあと、一緒のベッドの中で毛布に包まりながら2人は語り合う。
まずはタバサから。
「色んなことがあったね」
ジーニアスは、そうだねぇ、と感慨深げに微笑む。
「ミトスから学んだ一番のことは、差別に対して復讐しても何にもならないことだった。差別する人間やエルフをどれだけ憎んでも、仕返しをしたら余計に嫌われちゃうっていうこと。実際にミトスが設けた復讐構造だと、4000年間もハーフエルフに対する差別は温存されたままだった。そうじゃなくて、ボクらの方から歩み寄れば、マーブルさんみたいに、ハーフエルフに虐げられても、ハーフエルフを受け入れてくれる存在がいる。……差別を無くすには地道でもそれしかないんだね」
「ジーニアスがいちばん天才だなって思えたのは、賢いことでも、魔法が凄いことでもなくて、同じハーフエルフなのにディザイアンのやっていることを許せず、人間牧場に囚われているマーブルさんにパンを届けたことかな。シルヴァラントだとディザイアンっていう長いものに巻かれた方がラクなのに、そこは全然揺るがなかった。なかなかできることじゃないよ」
ジーニアスは、小さく微笑む。
「ボクはそんなに難しい理屈で動いたわけじゃないよ。ただ目の前で困っている人がいたから、マーブルがお腹を空かせていたから給食のパンを差し入れただけ。その時は、人間とかハーフエルフとかって全然考えなかった」
タバサはジーニアスの体にぎゅっと抱きつく。
「あなたがそんなにも優しいから、わたしはずっとあなたと一緒にいたくなっちゃった」
ジーニアスは、ちょっと苦笑する。
「タバサは、剣も魔法もできて、ボクはちょっと、いやだいぶ嫉妬してた。でも……やっぱり可愛かった。なんでもできるのに、いつも自信がなくて、演技じゃなくて本当にボクなんかに縋りつかないといけないんだから、可愛かった」
「ジーニアスに可愛いって言ってもらえた!」
タバサは喜びのあまり毛布をバフバフ揺らした。それからまたジーニアスのほっぺにキスをした。
端から見れば、この一晩で何回キスをするんだ、とツッコミたくなるぐらいのバカップルであった。
タバサは、赤面しながら時おり声を上ずらせながらも言う。
「じゃ、じゃあ、もしお兄ちゃんが結婚できなかったら、わたしとジーニアスの子どもがグランバニアの世継ぎになるね!」
すると急にそんな生々しい話をされたジーニアスは、急速に耳まで真っ赤っかになる。
「た、タバサ!! 急にそんな話をされても……!」
タバサは顔を赤くしながらも怒ったように言う。
「わ、わたしだって恥ずかしいけど……でも、すごく大事なことなんだからね! お兄ちゃんは『グランバニアの王子』にして『伝説の勇者』なんだから、お見合いの話は山ほど来ても、ひょっとしたら結婚できないかもしれないんだから! そうなると、わたしたちの子どもが大事になってくるの!」
ジーニアスは、うわぁ、と思った。
産まれてきた子どもは丁重に育てられるだろうけれど、王子か王女としてすごく重たい責任があるんだ、と思わずにはいられなかった。
とはいえ、それは後々の話である。
今はまだ、この異世界の王室に慣れないといけない。
だから、その、人生最高の瞬間はーーいや、これ以上はよそう。
ジーニアスは話題を切り替える。
「ハーフエルフ差別撲滅運動には、タバサも付き合ってくれるんだよね?」
タバサは、もちろん、とまだ赤い顔で頷く。
「ジーニアスの行くところ、どこまでもお供するよ」
ジーニアスは笑顔を咲かせる。
「それならいい。安心した」
タバサは無邪気に訊ねる。
「じゃあ、最初はどこから行こっか?」
ジーニアスは笑顔で即答する。
「もちろん、イセリアだよ。あそこは、人間もエルフもドワーフも異世界人も受け入れてくれたから。……きっと、ハーフエルフも受け入れてもらえそうな気がする。最初の一歩としてはちょうどいい」
タバサは喜んで同意する。
「そうだね! わたしもあの村のことが大好きだから、大賛成!」
翌朝、タバサは家族や従者にまた異世界に旅に出ることを告げてから、ジーニアスと手を繫いで、『ルーラ』でイセリアへと飛び立った。
Fin
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
このあとがきでは、作中で申し上げられなかった部分についてお話しいたします。補足情報に過ぎませんので、不要だと思ったならば、読まなくても問題ありません。
この二次創作は、当初は『ジーニアスの日記』という形式で、『シンフォニア』の物語を再構成しようかと考えていました。
『シンフォニア』は、作中で何度も申し上げましたが、「被差別種族のハーフエルフが組織立てて、差別する種族の人間を復讐する構造」となっています。
『アンクル・トムの小屋』や『ある奴隷少女に起こった出来事』といった古典文学では、「被差別種族の悲惨さ」を中心に伝えているのに対し、『シンフォニア』は「被差別種族が徒党を組んで差別する種族に復讐する」ーーこんな描き方は類例が無いぞと思って、長らく興味を抱いていました。
さらに、ロイドたちが戦う敵の大半はハーフエルフです。それもどうしようもない悪党で、人情味の欠片のないハーフエルフたちばかりでした。
そんな中にあって、ジーニアスやリフィルは非常に面白い存在でした。「虐げられているハーフエルフでありながら、虐げている人間に味方している」からです。どう考えたって、同族のディザイアンたちと行動を共にした方が、つまり長いものに巻かれた方が生きやすいのに、そういうことはせず、最初から最後までほとんど葛藤することなくロイドたちの味方をしました。
しかし、どうしてジーニアスとリフィルが一貫してディザイアンやクルシスにくみしなかったのかについては、作中では明確に描かれていませんでした。これはもったいないなと思い、この作品ではジーニアスの心理に絞って、その理由を深掘りするように描いたつもりです(リフィルは「説明役」としての役割が強く、主観よりも客観を重視して伝えるために、なかなかと彼女の心理を開陳させるのは難しかったのです)。
ハリー・ポッターシリーズでもそうですが、「敵(スリザリン)の中にも、味方(セブルス・スネイプ)がいる」と、受け手は、グリフィンドール=正義、スリザリン=悪、という単純な思考ができなくなります。『シンフォニア』に当てはめるならば、「敵(ハーフエルフ)の中に、味方(ジーニアスとリフィル)がいる」と、人間=正義、ハーフエルフ=悪、というラクな思考ができません。
ジーニアスとリフィルの存在は、プレイヤーの思考を惑わす存在であり続けたと思います。この二次創作では、それを少しばかし強調して書いたつもりです。
なお結局、『ジーニアスの日記』を書かなかったのは、原作の「マーブルの怪物化、イセリア村焼き討ち事件」を書くのが嫌だな、と思ったからです。どうせ二次創作を書くのなら、ロイドとジーニアスのトラウマになったこの事件が起きないようにしたいな、と思ったのです。
それでふと、タバサの介入を思いついたわけなのですがーー彼女はもう、作者がビックリするぐらい『シンフォニア』の世界に噛み合ってくれました。その模様は作中でたっぷり描きましたので、ここでくどくど説明するつもりはありませんが、書き手としてはこの上ない幸運に恵まれたものだな、と思わずにはいられませんでした。
タバサのおかげで、「マーブル事件」はトラウマにならない形で回避できて、「ああ、良かったな」と思うばかりです。
さて、こんなところでしょうか。後は作中で伝えたいことは伝えましたので、特にあとがきで伝えたいことはないです。
このあとがきを書いている現在、次回作がちっとも思いつかず悶々としていますが、また皆さまの心の一隅を占める作品を描けることを願って、筆を置かせていただきます。
ここまで読んでくださって、誠にありがとうございました。
hobby32