西風への旅の中で   作:不穏パロスを壊滅したい

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士官

「話が違うよカイザー!あたちたちはアズちゃんが敵じゃないから無事返してあげてって言っただけなのに!」

 

「その約束をたがえたくはない。だが、運命卿も知っているように今の黄金戦争は膠着状態だ。いつどの都市国家が襲ってくるかわからない。ならば、使える人材を好待遇で迎えようとするのは当たり前だろう」

 

 ボクに仕える気はないか、ね。遠い地の狩人にまでそれを頼まなければならないほど今の現状が煮詰まっているのか、それとも……単純にシイナとそれを乗りこなす俺をこのまま行かすのが()()()と思ったのか。どっちかだろうな、なにせ空を飛べるなら斥候もしくは伝令役としてはかなり優秀なわけだ。この時代まだディアクティオはないわけだし。

 

 しかし、トリアンに集中して気付かなかったがトリビーもいるのか。若干舌足らずなしゃべり方でカイザーに食って掛かり俺を申し訳なさそうな顔で見ている。そんで後ろに控えているがアグライアもいるな、未来の黄金裔のリーダー、今は金織のデザイナー。もうすでにトリビーを師匠と仰いでいるのだろうか。ただ、目は見えているらしい。今も興味深そうに俺を観察している。

 

 で、いつでも俺の首を撥ねられるような位置で剣を手に取っているのが剣旗卿、セイレンスか。勘弁してくれ、何で命を掌の上で転がされなきゃならんのだ。俺が何をした。断ったらその剣が俺に向かって振るわれるんじゃなかろうな。

 

「カイザー、オクヘイマ唯一の皇帝よ。貴方がただの狩人を必要とするほど困窮してるとはとても思えない。俺の後ろにて剣を構える女騎士だけで並の都市国家はここまで来れないだろう」

 

「それがわかるだけでも益々欲しくなってきたぞ。アズマ……貴様黄金裔だろう」

 

「そうだが……それが何だというんだ。カイザー、黄金裔全員が神託を是とし命を懸けると思うのは大きな間違いだ。俺のようにただ日常を過ごし、いずれ枯れ木のように朽ちたいと願う者もいる」

 

「ならばなぜここへ来た。貴様ほど頭が働くならボクに目を付けられる可能性は当然考えたはずだ。運命卿を送るにしてもオクヘイマに入らず帰ってもよかった。なぜ、ここへ来た」

 

 なんでオクヘイマに入ったか、かあ。第一は知りたかったからだ。この地はいずれ昇る烈日と開拓を支える重要な都市だ。なにせそれが根本から崩れればこの宇宙は絶滅大君の誕生によりそりゃあもう酷いことになるだろう。だから、今どんな状況か知りたかった、そして可能ならば今が輪廻の何回目かを知りたかった。

 

 もう一つはカイザーという人物を知りたかった。彼女はストーリーにおいて重要な役割を果たしてはいたもの実質的な出番はかなり少なかったし、その内面もあまり描かれずに火追いの基礎を作りセイレンスの手にかかって死んでいた。ただ、それはどこまでも彼女の計画の内で少しだけ示された内面は優しさに満ちていた。

 

 苛烈な独裁者としてのカイザー、天外への進出を夢見る人としてのケリュドラ。どちらも俺が知っている情報は浅すぎる。ただ、今見るカイザーは独裁者としての面だ。駒として俺を見ている。そしてトリビーやトリアンのことも。

 

「俺が住む農村は麦を中心とした農業で成り立っている。その麦の7割はカイザー、あなたの元へ運ばれ軍を養う食料になる。自らの命と同じ作物を納める君主を知りたいと思うのはおかしなことか?」

 

「当たり障りのない答えだ、つまらんぞ。それがセネオスが語った勇士の言葉か?ボクを討ち取るためくらい言って見せろ」

 

「あの直情女が俺の何を言ったか知らないがあいつは俺のことを買いかぶってたらしいな」

 

「ふん、昼行燈の言葉よりも天に還った太陽の言葉の方が信ずるに値する。セネオスの後を継げ、アズマ。反論は許さん」

 

 あの直情馬鹿、自分が失敗したら俺を次弾にしろってカイザーに言っておいたわけか。余計なこと言いやがってアイツ。エーグルの火種を持ち帰るのは遥か未来に下った同胞の仕事だ、俺がやるわけにはいかない。ましてやあのタイミングでなければ意味がない、予言がある以上俺が行っても失敗するのは確定だ。

 

 しゃなり、と背後で剣を抜く音がする。抜刀したセイレンスを横目で確認する。殺傷圏内ギリギリ外れてはいるものの一歩の踏み込みで俺の頸が断たれる。権力者にたてつくことは想定していなかったわけじゃないがやりたくは無いものだ。だがしかし、しょうがないにしろこのままやられ続けるのは腹に据えかねる。

 

「一つ聞こう、皇帝よ。この状況で大人しく軍門に下るものと抵抗を試みるもの。どちらが好みだ?」

 

「決まっている――――後者だ」

 

「そうか」

 

「なっ!?」

 

「シイナ!?」

 

 ケリュドラの合図で俺に斬りかかろうとしたセイレンスが後ろから跳ね飛ばされる。空を蹴ることで音を消したシイナの全力突進をまともに受けたのだ。シイナの踏み込みの速さに置いて行かれた兵士たちがシイナのいた場所を眺める中俺は光を固め弓と矢を形作りつがえた光をセイレンスが飛んだ方向に嵐のように乱射した。

 

 びっくりしたらしいトリアンがシイナの名を呼び、答えたつもりらしいシイナの荒荒しい嘶きが合図になって槍を構えた兵士たちが俺を取り囲もうとするものの片手をあげてそれを制したケリュドラのおかげで中途半端に終わる。こういう近接戦の距離でのやり合いは俺の本領ではないのだが仕方ない。狭いなどと文句を言っても始まらないし。

 

 致命的な部位は避けるように撃ったとはいえ吹き飛ばされつつもその双剣で俺の矢をすべて弾いたのはさすがと言うべきところ。俺の背後から威嚇を繰り返すシイナの頬を撫でて落ち着かせセイレンスの出方を待つ。俺の方を見て無表情ながら不服そうな顔をしているセイレンスに声をかけた。

 

「俺が乾いてるのがそんなに不満か?」

 

「やはりわざとか、橙のトビウオ。その在り方は不快だ」

 

「それは悪かった。ただ、ファジェイナの眷属が水を操れるって言うのは小耳にはさんでいてな。咄嗟の思い付きもどうやら捨てたものじゃないらしい」

 

「……カイザー、このままならば殺さずは不可能だ。加減できる相手ではない」

 

「よい、そうでなくては……セネオスが推した理由もわからぬ」

 

 光が放つ熱波を利用して周囲の湿度を消し飛ばした俺に対して少し顔をしかめてカイザーに進言するセイレンス。空気中の水分を利用した幻術だの音波を利用する麻痺技だのやってきそうだけどどうやらこれで真正面からのガチンコに持ち込めるようだ。十中八九負けるけどな!弓使いがここまで近づいた剣の達人に勝てるわけねーだろ俺の本当の戦い方もできねーのによ!

 

 まぁせめて一矢報いて記録とはいかずとも記憶程度には残ってみるか。おうただで殺されると思うなよ全身火傷くらい覚悟しろや。継戦命令を出したケリュドラを俺はねめつけて握りこんだ弓と矢の光をより強めていく。発火点を超えて俺の足元の絨毯が燃えていく。その熱波に初めて顔を大きくゆがめたセイレンスが足元に水の波を生み出しながら踏み込もうと足に力を籠める。

 

「待って!カイザー!やる意味ないでちょこんなの!セイレンスも無事じゃ済まないよ!」

 

「ある。運命卿、セネオスがエーグルと一つになった今……種火を手にするにはかの神と英雄を上回る勇士が必要だ。さもなくばまた呑まれるだけに終わるぞ」

 

「そうだ、トリビー。私はまだ替えが効く。だがエーグルに替えは効かない。エーグルの火種を背負える勇士を見つけなければどのみち火を継ぐたびは終わりだ」

 

 いやファジェイナ継ぐのはセイレンスじゃないとダメじゃねえかなあ?と思いつつも叫んだトリビーに答えたケリュドラに俺はある種の納得とこんな強引な手段に出た理由を悟った。後がないのだ、正確には違うが今この瞬間のケリュドラたちが持つ情報ではエーグルを背負える黄金裔を見つけなければ詰みの段階に陥ってるのか。

 

 セネオスがダメだった、これはきっとかなりの衝撃だったに違いない。まあわからなくもない、考えるよりも動くタイプだったあいつだが心根も実力も最高の英雄にふさわしいものだったからな。彼女がダメなら彼女が後を託せると言った俺をどうしても引き入れなければ旅が続けられないってことね。

 

 だが、それがどうした。この輪廻が開拓者が降る輪廻でない限り何をやっても意味はない。無に帰すだけだ。俺はおそらく一代限りのエラーコードにすぎん。俺の代で終わる保証があるなら喜んでやってやろう。ただ、無駄に命を捨てろというのならごめん被る。たとえここがデータの世界でも俺の命はここに在るのだから。

 

「アズマを返すつもりがないっていうならボクも斬って。ボクはアズマを無事に返すって約束した。また明日って手を振った!約束破ったらボクはもうボクじゃない!」

 

「トリアン!下がって!」

 

「嫌だ!トリビー、ごめん!ボクたちじゃなくボクとしてここは譲れないんだ!」

 

「……運命卿、本気なのか?」

 

「ボクは本気だぞ!」

 

 驚いた、群体として意識感覚を共有するトリスビアスの一人であるはずのトリアンが群体ではなく個人の意思として俺を守ることを選択するなんて。半ば半狂乱のトリビーに逆らったトリアンが燃える絨毯の上に立ち俺の前で手を広げてセイレンスを睨んでいる。呆気に取られて思考が止まったらしいケリュドラがようやく再起動する

 

「……わかった、王の騎士。剣を引け。皇帝ケリュドラ、一つ条件を呑め。そうすればエーグルとセネオスを撃ちぬいて火種を背負おう」

 

「ずいぶんと物分かりがよくなったな?どういった心変わりだ?」

 

「庇護されるべきものの命を失ってまで戦う理由はない。俺の命にそこまでの価値はないし、ヤヌサポリスの聖女の命も軽くはない」

 

「ふん、最初からその貌でいればいいものを。入ってきた時より数段凛々しいぞ。言ってみろ、ボクは約束は破るが約定は守る」

 

「エーグルの火種の返還は一番最後にしろ。天上の庇護がなくなれば困るのはこの世界全体だ」

 

「……いいだろう。今からお前はボクの弓だ。閃弓卿」

 

 この場で俺が死ぬのは個人的には嫌だが、世界全体で見れば別にどうということはない。だが、トリアンが巻き込まれて死ぬのは許容できない。彼女は将来の門職人だし、色々役目もある。そしてさらに個人的に情を抱いているので巻き添え食らわすのは全くもって違う。弓と矢を霧散させて両手をあげる俺にセイレンスは剣を下ろした。ここら辺はどうやら騎士らしいな。

 

 大きな勇気で戦いに割り込んだトリアンが燃える絨毯で火傷をする前に脇に手を入れ持ち上げてシイナに乗っける。その状態でケリュドラに最後の悪あがきをしてみればあっさりと受け入れられる。実際天外のものを防いでるのはエーグルだからな、どっちにしろ最後にするべきだとは思ってたのか?それがまあ1000年後になるとは思ってないだろうが。

 

「その敬称、考えたのはセネオスのアホだな?」

 

「ほう、よくわかったな。セネオスは酔うと貴様の話ばかりするからな。いつの間にか詳しくなったぞ」

 

「やめてくれ、聞きたくもない。殺す相手のことなんぞ考えないに限る」

 

 ぱっぱと煤が着いた服を払う。俺が本気で嫌そうな顔をしているのが面白くてたまらないらしい皇帝は今までの厳格な姿とは打って変わって年頃の女のようににんまり笑う。いや、年頃の女というよりはタヌキといえばいいのか。とにかく嫌な笑い方だ、それが一番親近感わく顔なのは勘弁してくれよ。

 

 

 

 

 

「どうした、呑まないのか橙のトビウオ」

 

「ん~~~、甘くておいしい~~~」

 

「いや切り替え速すぎだろ。昼には俺の在り方が気に食わんって言ってなかったか?」

 

「……?あの時は空気が乾いて嫌だっただけだ。お前自身のことはまだ何も知らない。好きか嫌いかで言えば好きな部類だ。カイザー相手に一歩も引かない黄金裔を見たのはセネオス以来だからな」

 

 夜、なぜか俺の歓迎の宴が催されていた。なんでだ、あんな大立ち回りして馴染めるとはとても思えないぞ俺は。俺の隣で果実水をこくこくと飲んでいるトリアンとネクタールの瓶と杯を二つもってきたセイレンスに思わずツッコミを入れる。表現が独特だがどうやら嫌われてはいないらしい、なんでや。

 

 杯を渡されネクタールを注がれる、かつんと俺の杯に自分の杯をぶつけたセイレンスが杯を空にしつつ俺も吞むように進めてくる。あれ?キミこんなコミュ強だったっけ?無表情で小首をかしげるセイレンスに俺も首を傾げつつ杯の中身を口に含む。久しぶりの濃ゆいアルコールに喉を焼かれつつも、これからどうしたもんかと考えずにはいられなかった。トリアン、お前は呑んだらあかん。

 

 

 

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