シン・ワカメライダー。   作:ひつまぶし太郎

10 / 10
とりあえず一旦最終回にたどり着けて安心してます。


⑩えぴろーぐ。

 

 

僕という存在は、500年という長い時間をかけ、竜の血が混じった魔術刻印を継承し続けた影響で肉体が変化し続けて完成した。

現代においてあり得るはずのない、人間の形をした幻想種。

 

広大な大空に焦がれる一匹の飛竜は、現代社会に適応するのはなかなか難しい。

 

ただ、この生まれついての衝動というか。

何も妨げるものがなく、すべての物質や存在が含まれる大空への憧れは、後に妹となる間桐桜の起源『虚数』との相性が良かった。

魔術師としての能力をそっくりそのまま移し替えるなんて芸当が可能になる程度には。

 

 

『起源は虚空』なんて洒落た言い方をあの神父はしていたが、そこはいい。

 

桜が未来でする苦労を肩代わりすることができる才能があった僕は、これ幸いと彼女の魔術師としての可能性と才能すべてを受け止め、奪い取った。

あるいは、未来で得られたであろう出会いと栄光すらも僕は奪ったのだろう。

相変わらず、反吐が出るほど最低な兄だな僕は、という感想しか出てこない。

 

…まぁ、魔術回路やら諸々の譲渡の絵面は、僕が奪い取られてるような状態だったわけだが。

おねショタ逆レイプ、みたいな。

 

『あるいはそれこそが人の業と言うやつなのかもしれんな…』

 

『いや、いくら意味深に呟いても僕のなっさけない黒歴史は消えないんだけど…』

 

『はっはっは、人生を謳歌しているようで何よりだ少年』

 

そんな様を聞いてワインを愉しんでいた外道な大人の名を、言峰綺礼。

ある意味で、彼は僕の育ての親であり、同時に助産師でもあった。

 

『例えどんなあり得ざる存在だろうと、その誕生を私は祝福する。それが私の役目なのでね』

 

人の形をした幻想種。

あり得ざる存在の体現者。

唯一の肉親である母親は、僕を産み落とすのに生命力を全て使い果たして亡くなったと、僕の出産に立ち会い、魔術刻印を移植してくれたダニ神父が言っていた。

 

これまで一族の人間は、竜の力を一部引き出す程度の魔術が使えるくらいで、もっぱら間桐の魔術以外は特に使い物にならない分家らしい分家だったと言うのに、人の身で飛竜になれる異常な子供が生まれてきたのは何故なのだろう。

 

飛竜が人のふりをしているのか。

人が飛竜のふりをしているのか。

 

かつて混ぜ込まれたという魔女の血の呪いなのか、それとも単に魔改造を施した一族の悲願が達成されたのか。

 

何一つ理屈を説明してくれる人はいなくて、ともすれば全てが偶然の産物という一言で証明が終わる陳腐な奇跡。

 

僕の生まれを祝福してくれてのは、胡散臭い神父だけ。

 

そんな力を、僕は当然のように持て余した。

 

 

 

 

自分がヒトではないのだと知った時、人間としてどう反応するべきなのだろう。

 

僕はその答えをずっと待ち得ないまま、それでも人間のふりを続けている。

 

生まれ落ちて6年くらいの頃。

ヒトに紛れ込みながら生きていた当時の僕には、人に言えない趣味があった。

 

「──────!」

 

それが、空を飛ぶことだった。

 

物心がついたのは生まれて半年。

自分がヒトのカタチをしている化け物だと気が付いたのは、ニヤニヤと笑う神父に連れられて公園に行った1歳のとき。

 

公園で自分よりも大きな子どもたちに混じる1歳時の蹴りでサッカーボールが破裂したときの静けさを、僕は今でも覚えている。

 

自分が異物であるということ。

 

その拒絶感は、神父に連れ回されて孤児院や子どもの遊び場に足を運ぶ度に『違い』を思い知ることで強くなっていった。

 

あれで神父なりに趣味と実益を兼ねた子育てのつもりだったのだろう。

早いうちからヒトではないことを理解させることで、社会に溶け込むための手加減を覚えさせる。

同時にヒトではないことを突きつけられ、苦しむ僕を見て愉悦する、みたいな。

 

人間初心者にする所業ではない、と言いたいところではあるが。

竜への躾という意味では、これ以上ないくらいの正解だった。

 

ヒトに触れたい。

ヒトと関わりたい。

 

そんな叶いっこない夢を望むほどにヒトは遠く、手を伸ばす度に痛い目を見る。

憧れは理解から最も遠いとはよく言ったものだ。

 

そんなもどかしさを誤魔化すように、羽を広げて空を舞うと、いくらかだけでも気が晴れた。

 

だから、その出会いは衝撃だったのだ。

それこそ、僕の人生を文字通りに変えるほど。

 

 

あの日僕は空から落ちた。

 

気分良く飛んでいたところに、やたらと説明口調な宇宙人と衝突して。

 

 

『ふんふんふーん。ここの世界線はアルトリウムが薄くていいですね。どうやらここはZero時空に似た別世界線。あの鬼畜正義マンが夢をあきらめるなんていう世界が存在するとは思っていませんでしたが…私…じゃなくて、ええ。どこかのセイバーが召喚されてまたバリエーションが増えるとかにならないようで何より何より。とりあえず適当に観光して帰りますかね…ってうわぁ!前から子供が!』

 

『───!?』

 

 

 

その日僕は、運命に出会ったのだ。

 

 

 

『…兄さん…』

 

『……?』

 

『助け、て…』

 

 

幼い少女の、たった一言が僕の全身を貫いて、カタチを得た。

僕はその瞬間から間桐慎二になり、つまりはヒトになったのだ。

 

バカみたいな話だ。

桜はただ、幼い頃に叔父から聞かされていたという当主のスペアである僕を、見た目だけ知っていて。

本当に兄さんになってくれたらいいのにと、何も知らないからこそ思ってくれていて。

 

そんなただの幻想に溺れるような夢見の言葉に、身を委ねて生き方を決めたバカな飛竜は、その日確かに兄になると誓ったのだ。

 

 

『……????なんだここ…?…とりあえずやくか』

 

桜が兄と呼んでくれるから間桐慎二は存在できる。

桜が存在するからこそ間桐慎二というカタチを維持できる。

なら、桜のために兄として出来ることは全部やると僕はあの日誓ったのだ。

 

まぁ結局のところ、間桐桜に巣食う虫が間桐臓硯から間桐慎二に変わっただけの話だ、と言われれば返す言葉は何もないが。

 

 

それでも。

 

 

「おかえりなさい、兄さんっ」

 

「…ただいま、桜」

 

 

ボロ雑巾みたいになりながら勝ちを掴んだあとに、妹に言われるおかえりは悪くないものだな、と噛み締めるくらいは許してほしい。

 

 

「さぁさぁほらほら、兄さん脱いでくださいほら早く!」

 

「いや、ちょ…今眠くてっていうかそもそも兄妹だから僕たち!はなせこら!やめっ、やめろー!!」

 

「なーに変な想像してるんですか兄さん。私はただお仕事で疲れた兄さんの背中でも流してあげようかと思っただけですよ?まったく、兄さんったら、お、ま、せ、さ、ん♡」

 

「は?なんだこいつ!すげぇムカつく!つーかいたわる気持ちあるならでてってくんないかなぁ!?普通に一人で入るほうが癒されるんだけど!そんなこともわからないワケぇ?」

 

「おおっと手が滑ったああああ!!」

 

「どわああああ!?セリフに反して迷いなく兄のパンツむしってく妹がこの世のどこにいんだよ!つーかこの痺れる感覚普通にライダーの魔眼じゃんこれ!離反しすぎだろ明智光秀か!」

 

 

ただ、おかえり以外は別に要らなかったなと思うのも許して欲しいわけで。

 

 

「ええ、私も別に他意はありませんよ。ええ」

 

「嘘つけ!」

 

「ただ、ふふっ。私のせいで固くなったマスターに髪でも洗ってもらおうかと…ほら、私の髪は長いですから」

 

「前なんか霊体化したら髪の状態リセットされるとか言ってなかったかぁ!?まぁその髪触らせてもらえるのは正直男冥利に尽きるというかそそられるけども!」

 

その後について、僕は断固黙秘させてもらうことにしようと思う。

 

「んー…ふふ。ええ、上手ですよシンジ。その調子です」

 

「髪洗ってるだけなのに紛らわしい言い方しないでほしい」

 

「兄さん背中かゆいところないですか?」

 

「ひぅ…ひっつくなバカ!」

 

「おっと、身体は自分で洗えますよ?そんなところまで…大胆ですね」

 

「ちょちょちょ!えあ、え、なに!?髪が動いてる!…そうじゃんメドゥーサの髪とかそうじゃあ…んぐぅ!?ちょ、男の触手プレイとか誰得!?…ぅ───あ、まって、そこはだめだめだめ…!」

 

「はーい兄さんの反った胸の上を指でつつーっとなぞって、ぴーんと指ではねちゃいまーすっ」

 

「───ひゃくらぁ!?」

 

「おや、石化の魔眼は既に解いてるはずですが…まさか髪を洗ってるだけで興奮したのですか?」

 

「ちが、やめっ、とめてぇ!?もがぁ!?」

 

「わー兄さんったらライダーの髪にお口でご奉仕するなんて…えっちなんですから…」

 

「─────!!─────!?」

 

 

というか、情けないことに。

僕の記憶は此処で途切れる。

 

 

 

 

これにて僕のカードに纏わる話は終わりになる、となれば良かったのだけど。

遠坂を出し抜いて一人でロンドンにカードを持ち帰ろうとしたお嬢のヘリは落ち、イリヤはThe魔法少女な友情パワーともいう黒歴史に悶え、美遊に纏わる秘密は秘密のまま。

 

聖杯戦争は一度関わればそこから大きな渦に巻き込まれる。

きっかけなど関係ない。

その戦争に足を踏み入れたのなら、最後まで戦い抜かなくてはいけない運命になるのだから。

 

それを知っている僕には、確かな予感があった。

 

 

まだ戦いは終わっていないのだ、と。

 

 

『セイ……ハイ…』

 

 

───世界の裏側で、圧倒的なまでの暴君が、ニヤリと嗤った。

 

 

あと、普通に遠坂たちはその性根を叩き直してこいと言われて日本に残留らしく。

まぁ、その。

なんだ。

 

僕の騒がしい日常は、どうやらもう少しだけ続いていくようだった。

 

 

 




俺たちの戦いはこれからだ!というわけで。
クロさんとかバゼットさんとか、あとは異世界の桜とか。
そのへんについてまた思い出した頃に書けたらなぁとうっすら思っております。
FGО編も書いてみたいという気持ちはあります。
気持ちは。

そんなわけで、欲望丸出しな本作でしたが皆さんの暇つぶしになれていたのなら幸いです。
もしよければ、ご褒美に感想なんぞを頂けると作者はねて喜びますので、気が向いた時にでもお願いいたします。
それでは、短い間でしたがありがとうございました。
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