ヴァルキリー戦記【戦闘中行方不明になっていた父親が人型戦闘兵器になっていたので、元の姿に戻す為に戦い抜く】 作:尾松成也
「確かに受け取ったよ、ロイド君。ところで……さっきから息が上がってるけど大丈夫? もしかして、職員室まで走ってきたのかい?」
マリウス先生は狼型の機械人形を受け取りながら苦笑いする。それもそうだろう。ロイドは息も絶え絶えな様子で、マリウス先生の顔も見れずに膝に手をついてるのだから。
その原因を作ったのは勿論、俺。ロイドの体力も考えずに廊下を全力疾走したからだ。
(あー、やっちまった。家に帰ったら、お説教コース確定じゃん……)
先程から背後にいたソフィアとヘリオスの視線が痛い。この場の空気を感じ取ったマリウス先生は椅子に深く座り直し、わざわざ俺に向き直った。
「イグニス君。家に帰ったら話があるから」
「…………はい」
がっくりと項垂れる俺だったが、ロイドは息が整ってきたのか、「あの、先生……」と顔を上げた。
「その機械人形、システムは問題ないと思うんです。でも、どうしても立ち上がったり、二足歩行で歩いてくれなくて。どうすれば、自立して歩いてくれますかね?」
マリウス先生は機械人形を抱き上げ、手持ちのデバイスで写真を何枚か撮った。「うーん、そうだねぇ……」と暫く画面を見て考え込んでいた。それから人形の手足を伸ばしたり、折り畳んだりした後、「うん、ここだね」と関節部分を指摘する。
「原因はバネだね」
「バネ? バネって、手足に組み込んでる部品のことですか?」
マリウス先生が頷いた。
「物凄く簡単に言うと、バネの反発力が足りないかな。調整して二足歩行できたとしても、今の材質だと、どうしてもカクカクした動きになるし、着地した時の衝撃を上手く吸収できなくて、関節を痛めて故障する原因になっちゃう。ほら、人間の脚だって、筋肉だけで動いてるわけじゃないでしょ? 腱や関節がバネみたいに働いて、着地の衝撃を逃がしてる。ここから改良するなら、人間の足の構造を参考にすれば良いかもしれないね」
でも、かなり上手にできてるよと、マリウス先生は褒めていた。
「じゃあ、材質を弾性のある物に変えれば上手くいきますか?」
「そうだね。一番重要なのは圧縮された時に力を蓄えて、元に戻る性質の材質を使うことかな。まぁ、まだ卒業まで期間はあるんだし、じっくり考えて試行錯誤する事が大事だよ」
そう言ってマリウス先生が狼型の機械人形をロイドに返した。「提出物なのに返却するんですか?」とソフィアが聞くと、マリウス先生が笑顔で頷く。
「中等部のメカニック科の生徒達は卒業制作も兼ねて、課題を出してるからね。長期休暇中に何を作るか考えて、卒業までに作品を仕上げるんだ。中等部の生徒達の中でも形にできてるのは、ロイド君だけだけどね」
マリウス先生の発言にロイドは照れ臭そうに笑った。
「僕達メカニック科の生徒は高等部に進級したら、成績の良し悪しで進路にも関わってくるんです。僕は作る事が好きだから、ヴァルキリーのメンテナンス以外にもできる事を増やしたいですし。できるなら、自分の会社を立ち上げたいなって考えたりもしてますよ」
キラキラとした目で夢を語るロイドを見て、俺達は思わず笑顔になった。
「よし、これで用事は済んだな! 今から皆で〝グルヴェイグ〟を見に行くぞ!」
「ついに憧れの英雄機をこの目で見れるんだね!! 映像でしか見た事がないから、楽しみだよ!!」
「ロイドが想像してるよりも百倍はカッコいいぞ! 良かったら、ヘリオスも一緒にどうだ?」
ヘリオスは何故かチラッと俺の背後を見た。その直後、「いや、遠慮しとく」と珍しく断りを入れてきた。
「えー、なんでだよ? 生の〝グルヴェイグ〟を見たくないのか?」
「見たい気持ちは山々なんだが、俺は今から生徒会の会議に出席しないといけないからな。その後は父と食事をする予定を入れてるから、今日は予定を空けられそうにない」
ヘリオスは申し訳なさそうに俺の肩をポンポンと叩き、早々に踵を返した。
「ちぇっ。相変わらず、忙しい奴だなぁ……」
俺は残念そうに小さく溜息を吐く。すると、今度はソフィアが俺の制服の袖を掴んできた。
「ん? なんだよ、ソフィア?」
「いいから、早く後ろを振り返ってみなさいよ」
「振り返る……?」
そう言われて、俺は後ろを振り返ってみると、「ひっ……」という情けない声が出てしまった。
黒い笑みを浮かべたマリウス先生が長い足を組んで、頬杖をついていたのだ。ロイドもいつの間にかソフィアの背後に隠れている。どうやら、いち早く危険を察知したようだ。
(まずいぞ! あれはブチギレてる時にしか出ない笑い方だ! とにかく、怒ってる原因を突き止めて頭下げねぇと、長い説教が更に長引いちまう!)
マリウス先生は表情を崩さないまま、「ねぇ、イグニス君」と話しかけてきた。
「中央格納庫に行くには、保護者である僕が一緒じゃないと駄目だって、前にちゃんと言ったはずなんだけど? もしかして、もう忘れちゃったのかな?」
「あ、い、いや! 忘れたりなんか——」
必死に言い訳を考えていると、マリウス先生がいきなり俺の肩を掴んできた。「イグニス君がそういう風になる時ってさぁ……」と耳元で囁かれ、思わず、背筋が凍り付いてしまう。
「僕に秘密で何か企んでるでしょ?」
「えっ!? い、いやぁ……まぁ……」
「今、ここで洗いざらい吐いてくれる? 君は小さい頃から予測不能な行動ばっかり取って、僕を困らせてるんだから。返事は?」
俺にNOと言える勇気は微塵も残されておらず、「はい」と言う以外に選択肢は残されていなかった。