朝起きたら儒烏風亭らでんになっていた。なお、本物は今日も普通に配信している   作:好きな性癖発表ドラゴン

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第25話 見かけても、撮らないで

 

 

 避難所に、担当Aから新しい資料が届いた。

 

 朝食を終えて、机に向かったばかりの時間だった。

 

 スマホを開くと、画面の上に通知が並んでいる。

 

 その一番上に、担当Aの名前。

 

『個別生活適応メニューの初期案を共有します』

 

 俺は、一度だけ深呼吸した。

 

 最近、担当Aから届く文章は、だいたい何かが始まる合図になっている。

 

 対面確認会。

 

 外出訓練。

 

 低刺激の文化資料。

 

 それから、避難所のみんなの生活ログ。

 

 少し前までなら、こういう連絡を見るだけで胸が固くなっていた。

 

 また何か危ないことが起こるのか。

 

 また何かに引っ張られるのか。

 

 また自分が分からなくなるのか。

 

 そんなふうに考えていた。

 

 でも、今は少し違う。

 

 怖さはある。

 

 ただ、それだけじゃない。

 

 俺たちは、少しずつ生活を作り直している。

 

 そう思えるようになってきた。

 

 担当Aの文章を開く。

 

『目的は、元の生活を無理に再現することではありません』

『今の身体・反応を前提に、生活できる形を増やすことです』

『各自の困りごとに応じて、段階的に適応メニューを作成します』

 

 その下に、一覧が続いていた。

 

 俺。

 

 文化施設外周訓練、第二段階。

 

 前回の三分から、今回は五分。

 

 施設には入らない。

 

 撮影対応カードは継続。

 

 説明を短くする練習も継続。

 

 ぺこさん。

 

 耳隠し。

 

 玄関外三分。

 

 耳疲労対策。

 

 ニコさん。

 

 笑えない時の呼吸。

 

 軽口の使い所の確認。

 

 ハジさん。

 

 走らない導線。

 

 身体反応前の停止練習。

 

 スウさん。

 

 名前を呼ばれなくても立つ練習。

 

 座れないさん。

 

 座位調整。

 

 クッション・専用席。

 

 声デカいさん。

 

 声量レベル表。

 

 家の外でレベル二声量。

 

 笑い声事故さん。

 

 挨拶・語尾事故の受け流し。

 

 言い直し練習。

 

 見たいけど怖いさん。

 

 鏡三秒訓練から五秒へ。

 

 白い耳さん。

 

 音情報の選別。

 

 休耳時間。

 

 俺は一覧を読みながら、少しだけ笑ってしまった。

 

 真面目な資料なのに、ところどころ字面が強い。

 

 声量レベル表。

 

 挨拶・語尾事故。

 

 専用席。

 

 鏡三秒訓練。

 

 どれも、本人たちにとっては真剣な困りごとだ。

 

 でも、同時に生活の匂いがする。

 

 困っているのに、少し笑える。

 

 笑えるから、少し進める。

 

 避難所もすぐに反応した。

 

 ニコさん。

 

『メニュー多すぎて福祉施設みたいになってきた』

 

 ぺこさん。

 

『でも必要』

 

 声デカいさん。

 

『声量レベル表、正式採用ですか!?』

 

 笑い声事故さん。

 

『挨拶・語尾事故って正式名称にしないでほしいにぇ』

『あ』

『正式名称でいいです』

 

 座れないさん。

 

『専用席が公式化しそうで不本意です』

 

 ハジさん。

 

『専用席は大事』

 

 座れないさん。

 

『座れるので大事です』

『不本意ですが』

 

 俺は短く打った。

 

『でも生活には必要です』

 

 ニコさん。

 

『ラさん、今日も短い』

 

『努力中です』

 

 ぺこさん。

 

『努力ログも作る?』

 

『作りません』

 

 そんなやり取りをしていると、担当Aから続けてもう一つ連絡が来た。

 

『もう一つ、皆様に確認したいことがあります』

『万が一、第三者に見かけられた場合、どのような対応が助かるかを整理したいです』

『公式側からの一般向け注意喚起や啓発に反映する可能性があります』

『無理のない範囲で意見をください』

 

 画面の空気が、少し変わった。

 

 本人たちの生活適応。

 

 そこから一歩外へ出る話。

 

 つまり、俺たち以外の人に、どうしてほしいか。

 

 見かけた時。

 

 気づいた時。

 

 似ていると思った時。

 

 驚いた時。

 

 スマホを向けたくなった時。

 

 その時、どうしてほしいのか。

 

 俺は無意識にメモ帳を開いた。

 

 紙にも書こうとした。

 

 その瞬間、部屋の入口から父親の声が飛んできた。

 

「短く」

 

「まだ何も言ってない」

 

「顔が長くなる顔だ」

 

「顔?」

 

「説明が長くなる時の顔だ」

 

 俺は口を閉じた。

 

 父親はすごい。

 

 何も言う前に止めてくる。

 

 悔しいけれど、たぶん正しい。

 

「……短くします」

 

「よし」

 

 父親はそれだけ言って、廊下へ戻っていった。

 

 便利扱いしてはいけない。

 

 でも、便利だった。

 

 俺は避難所に書き込んだ。

 

『見かけた時に助かる対応を、短く出していきましょう』

『あとで整理します』

 

 最初に反応したのは、ぺこさんだった。

 

『撮らないでほしい』

『耳を見つめないでほしい』

『あと追いかけないでほしい』

『見えてても見えてないふりしてほしい時ある』

 

 耳。

 

 ぺこさんにとって、それは一番目立つ部分で、一番困っている部分だ。

 

 見ないでほしい。

 

 でも、完全に存在しないものみたいにされるのも、たぶんつらい。

 

 その微妙な線引きが、言葉の間に滲んでいた。

 

 ニコさんが続く。

 

『笑いにできる話題と、笑いにできない話題がある』

『本人に確認しようとしないでほしい』

『本物?って聞かれても困る』

 

 ハジさん。

 

『急に近づかないでほしい』

『驚くと身体が動く』

『危ない』

 

 スウさん。

 

『名前を決めつけて呼ばないでほしい』

『でも、困っていたら静かに助けてほしい』

『矛盾しているけど、そうです』

 

 座れないさん。

 

『座れない時に笑わないでほしい』

『でもクッションを出してくれたら助かります』

『笑うならあとでお願いします』

 

 ニコさん。

 

『あとでならいいんだ』

 

 座れないさん。

 

『状況が落ち着いていれば、少しなら』

 

 声デカいさん。

 

『声が大きくても怒鳴っているわけではないです』

『近所迷惑には気をつけます』

『でも急に「うるさい」と言われると普通にへこみます』

 

 笑い声事故さん。

 

『語尾が事故っても復唱しないでほしいにぇ』

『あ』

『今みたいなのを復唱しないでください』

 

 見たいけど怖いさん。

 

『見ないでほしい時もあります』

『でも、存在しないみたいに扱われるのもつらいです』

『難しいです』

 

 白い耳さん。

 

『撮影しない』

『追跡しない』

『決めつけない』

『この三つが基本だと思います』

 

 俺は、その三行を見つめた。

 

 撮影しない。

 

 追跡しない。

 

 決めつけない。

 

 短い。

 

 とても短い。

 

 でも、たぶん必要なことが全部入っている。

 

 俺たちが一番怖いのは、ただ見られることだけではない。

 

 撮られること。

 

 追われること。

 

 名前をつけられること。

 

 本物か偽物かを、その場で決められること。

 

 面白いものとして扱われること。

 

 生活ではなく、話題として消費されること。

 

 だから、まずこの三つなのだと思った。

 

 俺はメモに書く。

 

 見かけた時のお願い。

 

 一、撮らない。

 

 二、追わない。

 

 三、決めつけない。

 

 四、困っていたら、静かに距離を取って助ける。

 

 五、本人確認をしない。

 

 六、SNSに場所を書かない。

 

 それを避難所に送る。

 

『見かけた時のお願い案です』

『一、撮らない』

『二、追わない』

『三、決めつけない』

『四、困っていたら、静かに距離を取って助ける』

『五、本人確認をしない』

『六、SNSに場所を書かない』

 

 少し間があった。

 

 ニコさん。

 

『ラさんにしては短い』

 

『努力しました』

 

 ぺこさん。

 

『これなら読める』

 

 ハジさん。

 

『三つ目までなら覚えやすい』

 

 白い耳さん。

 

『基本は三つ。補足として四以降、がよさそうです』

 

 担当Aからも返信が来た。

 

『ありがとうございます』

『この方向で、一般向け文面を検討します』

『特に「撮らない・追わない・決めつけない」を基本方針として整理します』

 

 俺は画面を伏せて、少しだけ息を吐いた。

 

 自分たちの中で作っていたルールが、少しだけ外へ出ていく。

 

 それは怖い。

 

 でも、必要なことでもある。

 

 外に出る練習をするなら、外側にも止まる練習が必要だ。

 

 そう思った時、SNS側で別の動きが出た。

 

 最初に見つけたのは、ニコさんだった。

 

『これ、見た?』

『写真なし、場所なしだけど』

 

 避難所に、短い投稿のスクリーンショットが共有される。

 

 そこには、こう書かれていた。

 

今日、もしかしたら話題の人に似た人を見たかもしれない。

驚いてスマホを向けそうになったけど、「撮影はご遠慮ください」と言われてやめた。

考えたら当たり前だった。

見かけても撮らない方がいい。

場所は書かない。

 

 心臓が跳ねた。

 

 俺のことだ。

 

 たぶん、昨日の文化施設の外で会った人だ。

 

 写真はない。

 

 場所もない。

 

 名前もない。

 

 でも、あの時の言葉がある。

 

 撮影はご遠慮ください。

 

 俺は画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。

 

 怖い。

 

 投稿されたことは怖い。

 

 見たかもしれない、と書かれていることも怖い。

 

 でも。

 

 写真はなかった。

 

 場所もなかった。

 

 その人は、撮らない選択をしてくれた。

 

 それも事実だった。

 

 避難所では、反応が割れていた。

 

 ぺこさん。

 

『写真ないのはありがたい』

 

 ニコさん。

 

『でも“見た”って投稿自体で話題になる』

 

 ハジさん。

 

『場所書いてないだけマシ』

 

 スウさん。

 

『その人は、撮らない選択をしてくれたんですね』

 

 声デカいさん。

 

『ありがたいけど怖い、って感じですか』

 

 俺は、ようやく指を動かした。

 

『はい』

『ありがたいです』

『でも怖いです』

『両方あります』

 

 ニコさん。

 

『それが一番正直』

 

 白い耳さん。

 

『善意でも話題化する可能性はあります』

『ただ、撮らないという選択が言葉になったことには意味があると思います』

 

 投稿は、少しずつ広がっていった。

 

 最初は小さな反応だった。

 

 でも、同じような声が続き始める。

 

写真を撮るな。

場所を書くな。

本人確認するな。

似ている人を晒すな。

見かけたら静かに離れろ。

そもそも似ているだけの一般人かもしれない。

探すな。

追うな。

 

 誰かが、タグを作った。

 

 #見かけても撮らない

 

 その文字を見た時、俺はまた少し身構えた。

 

 ニコさんがすぐに言う。

 

『良いタグだけど、タグになった時点でバズるの怖い』

 

『善意の拡散にもリスクがあります』

 

 俺がそう返すと、ぺこさんが続けた。

 

『でも何も言われないよりはマシ』

 

 ハジさん。

 

『探すためのタグになったら最悪』

 

 白い耳さん。

 

『必要なのは、探すための合言葉ではなく、見かけた時に止まるための合言葉かもしれません』

 

 その一文は、すっと胸に入ってきた。

 

 探すための合言葉ではなく。

 

 止まるための合言葉。

 

 見かけても撮らない。

 

 見つけても追わない。

 

 似ていると思っても、決めつけない。

 

 それは、外側の人に求める最低限のことだった。

 

 そしてたぶん、外側の人が自分たちのためにも守るべきことだった。

 

 似ているだけの誰かを晒さないために。

 

 知らない人の生活を壊さないために。

 

 面白がる前に、止まるために。

 

 午後になって、公式側から一般向けの注意喚起が出た。

 

 実体化組、という言葉は使われていない。

 

 本家の誰かに直接触れるものでもない。

 

 けれど、今の騒ぎに向けたものだと分かる文章だった。

 

真偽不明の人物を撮影・追跡・投稿しないでください。

似ている人物を見かけても、本人確認や声かけをしないでください。

困っている様子がある場合は、安全な距離を保ち、施設職員や警察・周囲の大人など適切な第三者へ相談してください。

個人の生活を守るため、ご協力をお願いします。

 

 俺はその文を何度も読んだ。

 

 撮影しない。

 

 追跡しない。

 

 投稿しない。

 

 本人確認しない。

 

 困っていたら、安全な距離で助ける。

 

 それは、避難所で出した言葉にかなり近かった。

 

 もちろん、そのまま使われたわけではないと思う。

 

 公式側には公式側の判断がある。

 

 担当Aも、俺たちの意見をそのまま外に出すとは言っていない。

 

 それでも、自分たちの言葉が少しだけ外側の形に触れたような気がした。

 

 怖い。

 

 でも、少しだけ心強い。

 

 窓の外を見る。

 

 世界そのものが安全になったわけではない。

 

 悪ノリはまだある。

 

 目撃したい人もいる。

 

 本物かどうかを知りたがる人もいる。

 

 探すなと言いながら、探すために情報を集める人もいる。

 

 それは消えない。

 

 でも、撮らないでと言う人も出てきた。

 

 場所を書くなと止める人もいた。

 

 似ているだけの誰かを晒すなと怒る人もいた。

 

 外にいる全員が、敵なわけではない。

 

 その事実が、ほんの少しだけ胸を軽くした。

 

 父親が部屋に入ってきた。

 

「見たか」

 

「うん」

 

「どう思った」

 

「怖い」

 

「だろうな」

 

「でも、少しだけ……俺たちだけが頑張る話じゃなくなってきたのかもしれない」

 

 父親は窓の外を見た。

 

「そうだな」

 

「周りにも、守る責任があるってこと?」

 

「ああ」

 

 父親は短く頷いた。

 

「外に出る側だけが気をつけても限界がある。見る側にも、止まる責任はある」

 

「止まる責任」

 

「撮らない。追わない。決めつけない。簡単なようで、たぶん難しいんだろうな」

 

「でも、してほしい」

 

「なら、言葉にしておく意味はある」

 

 俺は頷いた。

 

 外に出る練習をしているのは、俺たちだけじゃない。

 

 外側もまた、俺たちを見かけた時に立ち止まる練習を始めているのかもしれない。

 

 もちろん、全員ではない。

 

 まだまだ危ない。

 

 でも、ゼロではない。

 

 その日の夕方、担当Aから次の段階について連絡があった。

 

『一般向け注意喚起を踏まえ、外出訓練の第二段階を検討します』

『各自の個別生活適応メニューと組み合わせ、本人の希望に応じて進めます』

『無理に外出する必要はありません』

『目的は、生活できる範囲を少しずつ広げることです』

 

 候補も添えられていた。

 

 俺。

 

 文化施設外周訓練、第二段階。

 

 前回の三分から、今回は五分。

 

 施設には入らない。

 

 撮影対応カードは継続。

 

 説明を短くする練習も継続。

 

 ぺこさん。

 

 玄関外三分。

 

 耳隠し装備あり。

 

 声デカいさん。

 

 家の外でレベル二声量。

 

 座れないさん。

 

 車の座席調整。

 

 見たいけど怖いさん。

 

 鏡三秒から五秒。

 

 白い耳さん。

 

 窓辺で音選別。

 

 笑い声事故さん。

 

 挨拶・語尾事故を自分で言い直す練習。

 

 避難所がすぐにざわついた。

 

 笑い声事故さん。

 

『挨拶・語尾事故を言い直す練習、もう字面が事故ですにぇ』

『あ』

 

 声デカいさん。

 

『レベル二声量、まだ未知の領域』

 

 座れないさん。

 

『車の座席、負けたくない』

 

 ぺこさん。

 

『玄関外三分』

『外は外』

『耳装備、再確認する』

 

 見たいけど怖いさん。

 

『五秒は長いです』

『でも、三秒できたので、少し考えます』

 

 白い耳さん。

 

『窓辺なら、できるかもしれません』

『音が多すぎたら戻ります』

 

 俺は、その一覧を見ながら、前回の三分を思い出した。

 

 文化施設の外。

 

 ガラスに映った自分。

 

 撮影されそうになった瞬間。

 

 震えた声。

 

 それでも、帰ってこられたこと。

 

 あれで外が平気になったわけじゃない。

 

 次は五分。

 

 たった二分増えるだけなのに、胸の奥は少しざわつく。

 

 でも、ゼロではなくなった。

 

 俺は一度、三分だけ外を歩いた。

 

 だから次は、五分を考えられる。

 

 そして他のみんなも、それぞれの場所で最初の一歩を探している。

 

 ぺこさんは玄関の外へ。

 

 声デカいさんは、外で声を抑える練習へ。

 

 座れないさんは、車に座る練習へ。

 

 見たいけど怖いさんは、鏡の前の五秒へ。

 

 白い耳さんは、窓辺の音へ。

 

 笑い声事故さんは、事故った言葉を言い直す練習へ。

 

 やっていることはばらばらだ。

 

 でも、向かっている方向は同じだった。

 

 生活できる範囲を、少しずつ広げること。

 

 怖いまま、戻る場所を決めて、一歩だけ進むこと。

 

 俺もメモを開いた。

 

 今日生まれた言葉を書く。

 

 撮らない。

 

 追わない。

 

 決めつけない。

 

 見かけた時の約束。

 

 その下に、もう少し書く。

 

 まだ、それを守らない人はいる。

 

 面白がる人も、探そうとする人も、きっと消えない。

 

 でも、撮らない方がいいと言ってくれる人も現れた。

 

 場所を書くなと止める人もいた。

 

 似ているだけの誰かを晒すなと怒る人もいた。

 

 外は、まだ怖い。

 

 でも、外にいる全員が敵なわけじゃない。

 

 俺は、外に出る練習を続けている。

 

 そして外側も、俺たちを見かけた時に立ち止まる練習を始めているのかもしれない。

 

 それは小さい。

 

 でも、ゼロではなかった。

 

 俺はペンを置き、スマホを見る。

 

 避難所ではまだ、次の訓練の話が続いている。

 

 ぺこさんが耳隠し装備の候補を並べている。

 

 ニコさんが「耳装備レビュー回」と言って怒られている。

 

 声デカいさんがレベル二の発声をどう出すか悩んでいる。

 

 笑い声事故さんが「にぇを言い直すには、まず言わないことでは」と真面目に言って、すぐに事故っている。

 

 見たいけど怖いさんが、五秒を見るなら家族に横にいてほしいと書いている。

 

 座れないさんが、車の座席にクッションを積む案を真剣に検討している。

 

 白い耳さんが、休耳時間という言葉を少し気に入っている。

 

 その全部が、少しずつ前に進む音だった。

 

 俺は短く送る。

 

『次の段階も、無理せずいきましょう』

『戻る場所を決めてから、少しだけ進む感じで』

 

 ニコさん。

 

『ラさん、やっぱり短い方が刺さる時ある』

 

 ぺこさん。

 

『短文成功』

 

 ハジさん。

 

『次は長文反動が来る』

 

『否定できません』

 

 画面の向こうで、また少し笑いが起きた気がした。

 

 外はまだ怖い。

 

 でも、今日。

 

 俺たちの外側に、小さな約束が生まれた。

 

 見かけても、撮らないで。

 

 その言葉が、いつか誰かの指を止めてくれるかもしれない。

 

 そう思えるだけで、次の一歩は、昨日より少しだけ歩きやすくなる気がした。

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