詐欺占い師と米花町   作:罠ビー

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占い師は傍観者でしかあれない


詐欺占い師と10億円強盗

 

 

 

「ゴウカイテイオー強えなぁ」

 

「競馬新聞なんて仕事しなくていいの?」

 

 

 営業は閑古鳥が鳴いている。まあ別にそれで困る事は無いので私も堂々と折り畳みの机にスポーツ新聞を拡げている。まあスポーツ新聞を拡げている占い師のもとに足を運びたいかと言われれば否なので萩原君の意見もごもっとも。

 

 

「言葉を返すけど警察は仕事してんのかしら」

 

「今リンちゃん相手にしても構わないけど」

 

「……今日で3日目よ、アレ」

 

 

 私の前の道路を爆走していくタクシー。あんな運転したら客から非難轟々であろうがお構いなしである。コレで3日目、おそらく同じ時間だが今日は昨日よりラップタイムが速いな。

 私が新聞から顔を上げて暴走タクシーを見やれば一服しようとポケットを弄る。萩原君はそのダイナミック交通違反のタクシーを見て唖然とすれば管轄の警察に電話をかけている。

 

 1日なら偶然と切り捨てたが続くとなると話が変わる。2日目の昨日の時点で今の私の視点から見える未来では同じ走りをする車に目出し帽の人間が3人。

 つまりあれは強盗グループの運転担当が予行演習してる可能性が強い。まあそれを萩原君に伝える正義感はあいにくだが私に持ち合わせてはいない。

 暴走行為もたまたま萩原君が来たから世間話で振っただけである。止めてやる義理も無い。

 

 

「何か知ってるのリンちゃん」

 

「私はそれを萩原君に提供してあげる利点はないわね」

 

 

 そう言って萩原君をあしらったのが4日前。新聞に10億円強盗の文字が踊ったのが昨日。萩原君からの鬼電を無視しながらやるぅと軽くコンビニの新聞ラックに目をやりながら口笛を吹いた。

 夕方の営業を始めれば見覚えのあるサングラスをかけた刑事に見つかり頭を新聞で引っ叩かれる。

 

 

「いったいわね。営業妨害よ」

 

「妨害しなくても誰も居ねえじゃねぇか。それより」

 

 

「ハギから聞いたぜ?コレの事何か勘づいてたんじゃねえのか」

 

 

 そら来た。そう言って松田君が指差すのは新聞の10億円強盗事件。さぁ?と当然しらを切るが惚けんなよと松田君は追及してくる。

 

 

「お前がハギに言った暴走タクシーの件。流石に逃走コースもバッチリハマってる。そのタクシーの運ちゃん、広田謙三が一味だって事もコッチでは分かってる」

 

「心外ね。私は1市民として危険行為の通報をしたまでよ」

 

「そうかもしれないがお前はあの暴走が強盗に繋がるとこまでは解っていた筈だ」

 

 

 そうかしらと松田君の追及にはのらりくらりとかわす。松田君は強盗が起こるとわかっていれば止められたと考えているのだろう。

 しかしそれは希望的観測だ。警察が張ってるとわかればターゲットを変える可能性もある。広田謙三氏が別のルートを走れば事故る可能性もある。

 私がこういうのはイチャモンだということも理解している。普通に強盗を諦めるかもしれないし犯行グループを損害なく確保出来る可能性もある。

 

 

「そうかしら?松田君がそう思うならそうなのかもしれないわね」

 

「……お前のロールプレイの為に他人を巻き込むなって事だ」

 

 

 

 私の要領を得ない答えに松田君は青筋を浮かべる。睨みつけてくるがそれ以上はしない。しかし吐き捨てるように私にそう言って立ち去った。

 ロールプレイね。確かに今回の私の発言は一貫してない。銀行強盗を止めたいなら銀行強盗の事まで萩原君に伝えるべきだし、そうじゃないならタクシーの事を萩原君に伝えたのは不可解だ。

 

 松田君が辿り着いたのはあくまで思わせぶりな事を伝えてポジションや注目を集める……まああえて言ってしまうと自慰行為に巻き込むなということなんだろう。その企みが故意なのかどうかはさておき。

 

 

「そもそも一貫性を求める事が間違ってるわ。女の心なんて移り気なものよ」

 

 

 広田謙三。その名前は松田君から聞く前に一度聞かされていた。そして私にそのことを聞いてきた女、宮野明美の死の前に料金分の仕事をしないと私の気が済まない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 10億円強盗の見出しが躍った日の夜。一人の少女が私の店に訪れていた。

 広田雅美。そう名乗った彼女は高校生を名乗っていた。高校生にしては老けた時間の来店だったし顔立ちがどことなくもうちょい上の感じがした。例えるなら未成年お断りの店で働こうとする高校生達のような透けて見える幼さがない。

 

 

「私の父を捜して欲しいです」

 

「⋯⋯頼むところ間違ってるわよお姉さん」

 

 

 不審な、訳アリのお姉さんの依頼は人探しだった。出された写真は猫を抱いた温厚そうなしかしやや冴えない中年男性の写真。まじまじと視たところで私には念視の才はない。つまり写真からは読み取れない。まあそもそもお金をもらう前に押しかけられてる形だしな。

 

 

「他所に行きなさい。私では力になれない⋯⋯」

 

 

 そう口を出たところで再度女性の姿を見る。それは死の因果だ。ここまで濃いという事は直近で彼女は死ぬ運命にある。この濃さなら数日中であろうことはこれまでの経験から分かる。だからどうしたというのか。彼女はそういう運命にいるというだけである。

 この人探しに問題があるのか。しかし⋯⋯

 

 

「そうですよね。すいません」

 

「いや、せっかく来たんだし占ってあげるわ」

 

 

 だとしたら死にゆく彼女が私のもとに来たのはまた運命なのだろう。そう思いなおして彼女を視る。それに不可解な変装をしている彼女が死にゆく運命にいる。その事実に野次馬的興味がわいたともいう。私が断ろうとしたタイミングで彼女も若干我に返ったのか取り消そうとしたがその腕をずんと掴む。ものを聞いた以上返してはあげない。

 

 

 

 

 

 ビジョンに潜る。彼女が死ぬだろうシーンに直面する。銃を突きつけるのは黒づくめで銀髪の男。突き付けられる彼女は今の若干無理がある学生姿ではなくサングラスにジャケットとちゃんとした妙齢の女性の姿だ。そして彼女と男たちは夜の埠頭でなにやら密談といったところだろう。

 

 この時点でろくな話ではないだろう。男たちも彼女も何らかの犯罪に関わっているとみるのが妥当である。それにしてもこの黒服はコナン君もとい工藤君のビジョンでも見た。シャロンのビジョンでも見た気がする。黒服たちについてビジョンの中で思考に没頭していれば身体が硬直する感覚がする。

 思考から浮上すれば黒服の男と視線が交わる。当然私の姿が見えるはずがないしそもそもこれは未来の事象である。とするならば男の強い存在感がただ覗き見している私まで影響を及ぼしているのだ。

 

 男たちと宮野明美と呼ばれた彼女が言い争っている。どうやら金のやり取りで不備があるようだ。男たちは金を要求していて宮野明美は妹の身柄を要求している。しかし男たちは妹を返す気がないようである。

 

 結局最後まで金を譲らなかった彼女は黒づくめの男の凶弾に倒れる。その瞬間に走りこんでくるのはコナン君と蘭ちゃん!?

 まさかの登場人物に混乱しそうになる。コナン君は彼女を助けようとするが弾は致命傷であり助けるのは叶わない。激しくせき込み血を吐く彼女はコナン君に10億円のありかを託した。

 

 

 

 ⋯⋯10億円?10億円のありか!⁉?

 

 ちょ、それ教えなさいよ。ち、もう一度巻き戻して⋯⋯

 

 

 しかし私の願いとは裏腹にビジョンから強制的退場させられる。理由は単純で彼女が姿を消していたからだ。私の未来を視る力は視界の中に認識している人や景色から視ているので逃げられてしまっては元も子もない。

 やましいことがある彼女は急に失神したような私を見て悩んだ末逃走を決意したのだろう。その割に、一方的に占い始めたし結果も何も言ってないのに律儀に料金を置いていった。

 

 ⋯⋯金だけ置いていった事実に私のプライドが許さない。対価は対等で貸し借りを作るのは私の主義に反する。何としても宮野明美を見つけないと私の気が収まらない。

 

 ⋯⋯それに待ってなさいよ私の10億円。

 

 

 

 

 

 

 コナン君と蘭ちゃんが出てくるという事は毛利さんに依頼をしたのだろうと想像はつく。となれば探偵事務所の下で張っていれば件の彼女は以前よりも年齢を隠しきれていない格好でやってきた。おそらく焦ってきたのだろう。広田健三さんが盗んだ金を持ち逃げしたから探しており、例の黒づくめ達との取引の時点で金がないと困る。そんなところだろう。

 ⋯⋯結果的に数日ポアロで営業することになったが意外と好意的で助かった。店員の榎本さんをロハで占ってあげたり、コーヒーの味をほめたりすればここでちょっと思わせぶりにカードをいじっている分には何も言われなくなった。

 

 速攻で会計を済ませれば探偵事務所への階段を上ろうとする彼女の手首をつかむ。思わせぶりに運命を待っているのなんて言っていたから会計も素早くしてもらえた。

 

 

「な、なんですか」

 

「待っていたわよ田中雅美さん。いや宮野さんと呼んだ方がいいかしら」

 

 

 掴みは上々。足を止めさせることには成功したが時間はない。騒ぎになっては毛利さん達に気づかれる。ぐっと引き寄せようとするが抵抗される。

 

 

「やめて、離して」

 

「10億円。少しだけ話しましょう、宮野さん」

 

 

 彼女にとっての殺し文句を言えば抵抗はなくなる。逆に胸元に手を入れて完全に警戒している。⋯⋯下手したら口封じされるかしら。

 

 

「何が目的」

 

「何って、占いよ。料金だけ置いて話を聞かないなんて私は許さないの」

 

「はあ?それになんで10億円の事」

 

 

 手を引いて再びポアロに入れば極力奥まった席に行く。相手は痛い腹を掴んでいるので大人しく席についてくれる。彼女の前でカードを並べながらいつもの調子で死神のカードを出す。

 

 

「それも占い。私の占いは未来が視えるのよ」

 

 

 あくまでそういう謳い文句のように、本当に視えてるのではないように装いながら話を続けていく。

 

 

「だから忠告。貴女このままだと死ぬわ、夜の埠頭で胸を貫かれて。⋯⋯まあやぶれかぶれの強盗をさせられてる時点でうすうす感づいてはいるでしょうけど」

「貴女の目的は妹の身柄よね。生憎だけど彼らは約束を反故にするわ。でもまあきっとこの事も懸念はしてるでしょうけど」

 

 

 私がひそひそと告げる内容に彼女は驚くが否定はしない。その様子に私は仕方のない苛立ちを覚え髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。彼女は運命を受け入れている。たとえ妹が解放されないと解っていてもほかに道はないから。

 

 

「ほんとに知ってるのね。⋯⋯それで私を止めるかしら」

 

「止めないわよ。貴女が運命に殉じるというなら、盗み見ている私に止める権利などありはしないわ」

 

 

 苦々しげに答える私に彼女は唖然とするがふふっと笑う。私は死にゆく彼女の希望を折っただけ。自分の在り方を曲げないようにするためだけに。

 

 

「⋯⋯何しに来たのよ、アナタ」

 

「本当にね!!ただの徒労よ。しかも貴女の最後の希望も踏みにじっただけ。それでも貴女が料金を置いて言った以上私はこうしないとスッキリしないのよ」

 

 

 

 

「だから最後に希望を貴女に贈るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の事を残酷だと言っていた謎の占い師さんの言うとおりになった。組織は志保を、妹を開放する気はないらしい。10億円を巡る過程でみんな死んでいった。そして胸を撃たれた私も程なくこと切れるだろう。瞼が重い。肺が苦しく息をするたびに激痛が身体を襲う。

 

 

 貴女は独りでは死なないわ。

 

 最後に貴女の前に小さな探偵が現れる。

 

 最期の希望を彼に伝えるといいわ

 

 

 こと切れる瞬間、その時はやってきた。

 探偵事務所にいた坊やと娘さんが走り寄ってくる。

 

 

「⋯⋯本当に当たるんだ」

 

 優しい占い師さん

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルのフロント。そこに10億円があることを知るのは今は私と彼女だけだろう。ちょうど今コナン君達は慌てて出ていった。今あそこに荷物を取りにいけば10億円は私のものになるだろう。

 金に目がくらみそうになるが、札番号は控えられてるしあまりにもリスキーだ。私は煙草を吹かしながら警察が10億円を回収するまでただただホテルの入り口を眺めていた。

 

 

 

 

 結局私は何も得ることのできない救われない女だ。

 

 抱いた感情は無力感なのか、徒労感なのか悔恨なのかわからないが、吐き出した煙は夜空に消えた。

 

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