3話完結予定
もうこれ別人に近いだろってことでオリ主タグ付けてます。運営から怒られたら外します。
「はい? 私はリーダーなどするつもりはありませんが」
5月1日。今年のAクラスは異例も異例、初日にSシステムの全容を解き明かした生徒が現れ、初期の配布ポイントをそっくりそのまま残すことに成功していた。
その立役者たる生徒。坂柳有栖が当然の如くこれからのAクラスを率いていくのだろう、と。そんなことを考えていた矢先に彼女の口から出たのがこの発言である。
「……理由を聞いても良いだろうか」
「一つはこの身体ですね。いかんせん無理が効かないので、運動系の試験では参加すら危うい」
「だが、それだけでは」
「そう、理由としては弱い。なので今から本音を話しましょう」
そこで坂柳は一呼吸置いた。どのような理由が飛び出してくるのか、クラス中が緊張に包まれる。
「めんどくさいんです」
「め、めんど?」
「はい。正直人を率いてあれこれするとか柄じゃないですし、他人に一々ものを教えるのも面倒ですし」
これだった。いやまあ、確かに人間はIQが20違えば会話が成立しないとはよく言われることであるし、確かに坂柳がクラスメイトを率いて、一々彼らに対し物事を教えていくのも面倒ではあるのだろう。
とはいえ、そんな簡単にリーダーの座を手放しても良いものなのだろうか。特に、Aクラスの特権がかかったこの学校ならば、それを守り通すために力を振るいたい物ではないのだろうか。
「いえ、私は特権がなくてもどうとでもなりますので」
「……まあ、それもそうか」
そう、坂柳は素で頭が良い。1年の現段階でバカみたいな難易度の小テストを解いて100点を取るレベルであるならば、普通にしていれば東大、もしくはその先の海外まで見えてくる。
Aクラスの特権は自身に不相応な場を狙う人間にとっては魅力的なものになり得るのだろうが、坂柳のような人間からすれば特に魅力もない。これで良いのか実力至上主義。
「ああ、クラスを上に押し上げるお手伝いぐらいならしますよ? 私もAクラスの一員ですので、流石にそこに不協力ということはありません」
「……なら、まあ、良いのか?」
そう呟いた漢葛城。彼も思考がパンク気味なので深く理解できているわけではないのだが、一先ず坂柳はリーダーをする気がない、けどクラス運営の協力はする、ぐらいのところまでは咀嚼できた。
そうならば、残るリーダー候補は葛城自身のみということになる。当初は坂柳を盲信していた人間も、まあ本人がやる気ないなら仕方ないよね、というところで葛城の就任に賛成している。
「私も、葛城くんはリーダー向きだと思いますよ」
「……どういうことだ、坂柳」
「いえ、皮肉などではなく。恐怖政治ぐらいなら私にも出来るんでしょうけど、人を奮起させるやり方は知りませんから」
この坂柳、別人が混じった影響で多少マイルドにはなっているが、根本はやはり鬼畜ドSロリ。
チェスや将棋では相手のコマを全て取り尽くすまで王を取らないし、小学生時代、好きな男の子が坂柳の虜になったことに憤慨した女児からレスバを挑まれた時は完膚なきまでに論破して泣かせた。ついでに文句を言いに来た相手の親も泣かせた。教師は胃痛で泣いた。
リーダーとしてチームを勝たせることだけを考えるなら坂柳にも適性はあるのだろうが、その過程で消費されるのはB〜Dクラスの生徒のメンタルと、Aクラスの生徒の自主性である。
「……成る程な。ならば、坂柳にはブレインを任せたい。最終的にその案を採用するかどうかは、リーダーである俺が決めよう」
「はい、それで良いと思いますよ」
と、いう形で。第一次にして最後のAクラスリーダー決定戦は幕を閉じた。坂柳をリーダーに担ぎ上げる気満々だった某金髪蝙蝠は関係各所から後に詰められることになるのだが、それはまた別の話。
☆
「過去問……そういうことか」
「はい。百聞は一見にしかずということで、こちらをどうぞ」
真面目にやってれば頭脳だけはチートスペックこと坂柳有栖は、真島教諭の話を聞いて直ぐに中間テスト対策に思い当たった。
整った美貌を活かせばそこらの男子上級生を騙すことなど造作もなく、比較的安価で過去問を仕入れることに成功した。
一瞬それを他所のクラスに売りつけてお金稼ぎをすることも考えたが、普通に裏切り行為なのでやめた。坂柳有栖はまともな倫理観を持った少女である。決して公然と誹謗中傷を仕掛けていくほどに性根が腐っているわけではない。
そして葛城、やはり優秀。0から1に辿り着くまでは時間がかかるが、1を教えられれば自力で10までたどり着けるタイプの秀才である彼は、坂柳が持つそれを直ぐに中間テストを乗り切るアイテムであることを理解した。
「ですが、これを配るのは少々時期を見た方が良いかと」
「……それは確かにそうだ。成績下位層の人間には、きちんとした基礎学力を身につけてもらう必要がある」
「ええ。赤点を取りそうな人がいるなら早めに配るのも手ではありますが、幸い、Aクラスにそこまでの人はいませんから」
Aクラスにもバカはいるが、そのバカにしても流石に定期テストで50点を割るほどに成績が悪いわけではない。まして中学生レベルの問題どころか、小学生の問題すら怪しい人間は流石にいない。
ならば、成績下位の人間にはこのまま勉強会に参加してもらい、危機感を持った状態で勉強させるべきである。自らを慕う戸塚が下位層に分類され、その危うさを知っている葛城も、坂柳の進言に反対することはなかった。
「ポイントは幾らかかった?」
「5,000ポイント程度なのでお気になさらず」
「いや、クラスのために買ってきてくれたのならば、然るべき補填は必要だろう」
そういった葛城は、過去問にかかった5,000ポイントと、ついでに自身のポケットマネーから報酬として5,000ポイントを坂柳に送信した。まさに理想の上司である。
坂柳としても意固地になって報酬を拒む必要はないので、ありがたくそれを受け取った。自身がそのような行いをするときとは違い、葛城からは邪念のようなものが見えなかったから、というのも、素直に受け取った理由である。
「ああ、そういえば。明日から私も勉強会に参加しますので、よろしくお願いします」
「む? 良いのか、確か坂柳は他人にものを教えるのが面倒だと言っていたはずだが」
学力だけを考えれば、坂柳を勉強会の講師役に据えない理由はない。が、ここも気遣いの男葛城。ものを教えるのが面倒だと言い切っていた坂柳を無理に縛り付けるのはよろしくないだろう、そう考えて敢えて彼女にはオファーを出していなかった。
だが、坂柳とて別に、他者に勉強を教えるぐらいなら大した労でもない。複雑な作戦を考えて、その意図を凡人に説明するとか、そういったタスクが面倒なだけであり、元々Aクラスに配属されるスペックを持つ人間に高校の勉強を教える程度なら容易いことである。
「そうか。すまないな、迷惑をかける」
「いえ。私としても、クラスの皆さんが退学になるのは悲しいですから」
「…………」
それは本心なのか? 葛城はそう問いかけたくて堪らない衝動に駆られたが、既のところでなんとか抑えた。
何度も繰り返すがこの鬼畜ドSロリ、味方にすれば頼もしい存在ではあるが、決して善良な人間ではない。どちらかといえば悪属性寄りの人間である。
こいつがリーダーになってたら、いざその時になったら平気で他人のこと切り捨てそうだよなぁ。そんなことをクラス内で話した腰巾着こと戸塚弥彦は、後ほど葛城にきっちりしばかれた。早いうちに折檻しておかねば、そのうち坂柳に泣かされる未来が容易に見えたからである。
☆
「坂柳。DクラスとCクラスの間であった事件はどう見る?」
「別にどうも……。Cクラスのリーダーは随分と悪どい方のようなので、その策略にDクラスがハマった、としか」
どのクラスにも短絡的なバカは一定数いる。Dクラスはそれが顕著で偶々目立っていたこともあり、Cクラスの標的に選ばれただけ。
仮に戸塚が4月から目立ちまくり標的に選ばれ、目の前で葛城のハゲを死ぬほどバカにされまくれば、今回の事件に巻き込まれていたのはAクラスだった。それが坂柳の見解である。
「Aクラスとしては、積極的にこの事件に関わるつもりはない」
「まあ、ポイントの支給が遅れること以外私たちには関係のない案件ですからね。ああ、でも、処分内容だけは気にしておいた方がいいかもしれません」
「処分内容?」
「どの程度の事件でどんな罰が与えられるのか。それは、今後のクラス間競争で有用な情報でしょうから」
他人をぶん殴って怪我を負わせたら、まあ最低でも停学、最悪の場合は退学まで行く、というのが外の学校での常識になるのだろうか。
だが、ここは色々と異常なことに定評のある高度育成高等学校。生徒会長が実の妹をコンクリに叩きつけようとする程に治安が終わっていることを考えれば、多少なりとも刑が軽くなる可能性がある。
「……確か、学校はいじめに敏感だと真島先生が言っていたはずだ。であれば、退学まであり得るのではないか?」
「可能性として否定はできませんね。あの物言いからすると、要するに、やるならバレないようにやれ、と言うことでしょうし」
そう、この高度育成高等学校。いじめには敏感だ、暴力には厳しい措置を取る等と宣った上で監視カメラを設置する、一見ガチガチの体制を敷いているように見えるのだが。
その実意図的に穴を作っているような節があり、今回の事件もその穴をついた上で行われたものである。
計画的な暴行事件を容認している時点で思いっきり外の司法と相反しているように見えるが、まあ、これも高育スタイルということなのだろうか。
「そこは、俺も危惧していたところだ」
「可能であれば、監視カメラの目がない場所をマッピングしておくことが好ましいでしょうね」
「それなりの重労働だぞ。報酬ありきとはいえ、受けてくれる人間が居るかどうか……」
「ああ、そこは私の方に伝手があります」
「……ああ、橋本か」
5月1日にクラス中からボコボコにされた男こと橋本は、今も懲りずに坂柳の取り巻きと化している。
裏切りの危険性を常に孕むとはいえ、基本的なスペックは高い。クラス運営の根幹に関わる情報を渡すのは考えものだが、今回のような、極論流出したとてそこまでクラスの不利益にならないよう情報を扱う仕事。加えて面倒ごとともなれば、彼以上の適任もそういない。
「どうやら最近はロリコンの烙印を押されかけているようですし、ここらで一つ、彼の社会的評価を取り戻すチャンスをあげようかと」
そう。入学当初からここまで坂柳に執着し続けている橋本には、Aクラス内のみならず、他クラスからもロリコンの烙印が押されかけている。
そのせいもあり、橋本が坂柳と話す時はいざという時のブロック役として鬼頭や神室といった身体能力に優れる面々が同席することになっている。加えて、最近はロリコンの噂のせいもあり、いい感じになっていたテニス部の先輩から距離を取られたらしい。橋本は泣いた。
☆
「暇ですね」
豪華クルーズの旅に何故か参加を禁止された坂柳。この時点で大方のAクラスの面々は『ああ、多分普通のバカンスじゃないんだろうなぁ』ということを察していた。
さて、そんな中本土に残された坂柳。普通に暇である。同級生は全員出払っているし、遊びに誘うほど仲のいい先輩がいる訳でもない。
せっかくの夏休みだというのに、これではまるで灰色の青春でしかない。一応華の女子高生、そういったことを少し気にする程度の人間性が坂柳の中にも残されていた。
「……うーん、暇ですし、少し遊びましょうか」
そういって坂柳が開いたのはノートパソコン。立ち上げたそれには、いわゆるネット掲示板のページが表示されている。
基本的に外部ネットワークへの接続は遮断されているが、それを不満に思った過去の卒業生、ナン=ジェイミンは、無駄な技術を用いて在学中の高育生徒のみアクセスできるネット掲示板を作り上げてみせた。そんな彼は卒業後、自室を警備する立派な職についているらしい。
「うーん、私がやった事とはいえ、なかなかに酷いですねこれ」
何を隠そう坂柳有栖、橋本のロリコン疑惑を立ち上げ、ここまで育て上げた張本人である。
まさかこの掲示板の住民たちも、他人のロリコン疑惑を嬉々として書き込み、時に草を生やしている輩がこんな清楚美少女だとは夢にも思わないだろう。
今日も元気に書き込みをしていく模範的ネット民こと坂柳。帰ってきた橋本に待ち受けるのはテニス部先輩からのビンタである。可哀想。