貞操逆転した戦乙女学園の一般男子は、エロい目で見られていると気づかない   作:マテリ-AL

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エロい目で見られすぎて退学危機!?(後)

 決闘前夜。

 最高級の絹を思わせる銀髪を揺らす戦乙女、エリシアは、自室の机に私用のスマホを伏せて置き、片耳に魔力暗号化された小型通信機を装着していた。

 

 通話に使っている端末は、彼女が普段使いしているものではない。普段は二重パスワードと魔力認証で封じた金庫に保管されている、何の装飾もない簡素なものだった。

 

「ええ。学園長の横槍はありましたが、命令通り、明日蓮様を退学させます。……ですが」

 

 エリシアが、口元を僅かに歪める。その声には、かすかな迷いがあった。

 

「我らは貴族として、戦乙女を無理矢理押さえつけようとする連中や、戦乙女中心社会に反発しディザスターへ魂を売るような輩を叩き潰してきました。当然、戦乙女のために。ですが彼は……違う、気がしてならないのです」

 

 通話しながら、エリシアは机に置いていた私用スマホの画面を点ける。

 待ち受けには、汗水を流して必死に訓練する蓮の姿があった。

 

「彼自身は何も悪くなく、原因は周囲の戦乙女にあるのですから、対策はいくらでも打てるはずです。なのにどうして、わざわざ学園と対立してまで退学させる必要があるのですか?」

 

 エリシアの問いに、間髪入れず返答が返ってくる。

 その内容に、エリシアは目を見開いた。

 

「蓮様には、既存世界を変える価値がある……? だから今のうち、学園から引きはがしたい……? どういう、ことですか……?」

 

 事情が呑み込めず、エリシアは首をこてんと傾げる。

 だが、返ってきたのは沈黙だけだった。

 

 その沈黙で、エリシアは自分の『役割』を思い出したのだろう。表情から、すっと色が消えた。

 

「申し訳ございません。出過ぎた質問でした。では、明日私が勝ちましたら、すぐに学園から追い出します。では……」

 

 通話を切り、通信器具を金庫へしまったエリシアはまず、小さくため息をついた。

 

「はぁ。最近の私たち、内側で争ってばっかりです。本当にこれで、戦乙女のためになるのでしょうか?」

 

 エリシアの言葉通り、最近の貴族には『敵』がいない。そのせいで、同じ戦乙女の勢力と争ってばかりなのだ。そんな今の貴族の姿を疑問に思いながらも、他に戦乙女のことを考えている勢力がいないために従うしかない。それが、今のエリシアの在り方だった。

 

 待ち受けにしている蓮の写真を見ながら、エリシアは再び首をこてんと傾げる。

 

「……それに、こんな可愛くてちょっとえっちなだけの子が、世界を変える力なんて……本当に持っているのでしょうか?」

 

 *

 

 決闘当日、形状が変わり観客席がせり出したアリーナにて、訓練用スーツを着た蓮と、相変わらず場違いなドレスを着たエリシアが向かい合っていた。アリーナには埋め尽くさんばかりの人が集まり、退学のかかった決闘を見物しに来ている。

 

 当然その中には、祈るように両手を合わせる怜葉や、飴を咥えながらも、じっと成り行きを眺める陽芽乃もいる。蓮を信じてはいる、が、相手が相手なので不安で堪らないようだ。

 

「……私の力を求める人が、世界中に大勢います。すぐに終わらせましょう?」

 

 エリシアがくすりと一笑しながら腰から短剣を抜くと、星の光を思わせる閃光がアリーナ中に反射。ここは自分の世界だと言わんばかりに自らの光で染め上げた。

 

「……僕は、負けません。負けられない理由があります。……だから!」

 

 エリシアの実力を目の当たりにしても尚、蓮は退かないどころか一歩前に出て実戦用の剣を彼女へ突きつけた。

 

「言葉は不要みたいね」

 

「……始めましょう」

 

 二人が剣を構えたのを確認した、理事会の人間と思われるスーツ姿の女性が手を振り上げ、そして……。

 

『勝利条件は、相手に膝をつかせるか、場外へ叩き出すこと――決闘開始ッ!!』

 

 最初に動いたのはエリシアだった。両手に持つ短剣をまるで舞踊でもするかのような優雅さで振り回すと、光の破片がまき散らされる。

 

星遊舞踊(スターダンス)――柱滅の二座(セカンドサイン)

 

 光片同士が一定以下の距離となると、まるで手を繋いだかのように繋がり……爆発するかのように魔力が発散。サンピラーを思わせる光の柱へと変換された。

 

 ドドドドドドドッ!! と、無数の光柱が鉄でできた地面に突き刺さる。一発でも食らったらただでは済まない力を持った光柱によって蓮の姿が見えなくなったことで……観客席から悲鳴があがった。

 

「……いや、大丈夫よ。それはちゃんと、事前に研究したから」

「避けれてるはず……多分」

 

 だが、蓮の努力を知っている怜葉と陽芽乃はあくまで冷静に決闘を眺めている。だが、観客席から蓮が見えなくなっているのは確かであり……それは、エリシアの側からしてもそうだった。

 

「……あら? 流石に消し飛んではいないと思うのだけど、それでも大怪我とかしてないか、心配だわ」

 

 くすりと一笑し、エリシアは短剣をくるくると回している。その耳は、確かに聞いた。

 

「……ご心配なく!」

 

 自らの背後から、蓮の声を。

 

 エリシアが後ろを向くと、蓮が実戦用の剣にはちきれんばかりの魔力を込めながら、立っていた。

 

「……へぇ」

 

 目を見開くエリシア。声をあげたのは蓮が光柱を避けきったことへの感心か、蓮の魔力量への感嘆か。

 

「はぁああああああっ!!」

 

 蓮が剣を振り下ろすと、剣の先から極太の光線がエリシアへ向かって放たれた。エリシアの魔法がサンピラーだとすると、蓮の一撃は一条の流星。これが、三人で考えたエリシアへの勝ち筋、小手先の技術で十年の差を埋めるのは不可能だと考え……ただひたすらに、蓮の持つ膨大な魔力を叩き込む方針に決めたのだ。

 

 目論見通り、着弾した魔力砲はエリシアを巻き込み、魔力による爆発へと変換された。

 

「――やった!」

「蓮君の魔力量は凄いからね! 叩きつければ、格上でも――!」

 

 

 

星遊舞踊(スターダンス)――護界の四座(フォースサイン)

 

「ダメ、でしたか……!」

 

「残念ね」

 

 だが、爆発が晴れてもエリシアには傷一つなかった。エリシアの周りで繋がれた四つ星が結界となり、彼女を守り切っていたのだ。蓮の二の矢がないのを確認したエリシアは、再び短剣を回し、光片をまき散らし始める。

 

星遊舞踊(スターダンス)――追爆の三座(サードサイン)

 

 放たれた光片は、完璧にエリシアの意を汲み取ったかのように、蓮の追跡を始めた。

 

「さあ、避けてみなさい」

 

「くっ……!」

 

 蓮が後ろへ跳んでも横に跳んでも上空に跳ねても、光片は蓮を捉え続け、振り切れない。むしろ、着地したその隙を狙われてしまったようで……光片の一つが、蓮の胸元にくっついた。

 

 瞬間、くっついた光片に他の二片が接続され……先程の蓮が魔力砲を放った時にできたそれより規模の大きい、極白光の爆発を引き起こした。

 

「ぐぁっ――!?」

 

 爆風に巻き込まれた蓮が、アリーナの壁に叩きつけられる。胸元での爆発は剣で防ぐこともできなかったようで、まともに食らってしまった。

 

「蓮ッ!!」

「蓮君!!」

 

 観客席の二人の叫びが、爆音にかき消される。爆風が晴れた時、蓮は立ってはいた、が……頭からは血が流れ、上半身のスーツがボロボロになり、そこから見える皮膚は赤熱し、煙すらあがっている。

 

「あら、まだ動けるのね。身体の魔力で守ったのかしら。確かに、魔力量はあるようだけどそれでも、他の戦乙女を超える価値があるとは言えない……」

 

 ――そう。スーツがボロボロになり、上半身が露わになった。胸筋から腹筋まで、何も遮るものがなくなったのだ。爆心地が胸元だったので背面のスーツは無事だったのと、距離があったので観客席からは気づかなかったが――。

 

「え、あ、え……?」

 

 正面に立ってしまったエリシアは目の当たりにしてしまったようで、雪原のように白い頬が、急激に熱を帯び始めた。

 

「ひぁああああああああ……っ!?」

 

 あまりにいきなり刺激的な光景が目に飛び込んできたせいか、エリシアの脳がキャパオーバーを迎えてしまい、黄色い叫びをあげながら両手で目を隠してしまった。当然、大きな隙ができ……そこを見逃す、蓮ではなかった。

 

「…………!」

(……どういうわけかは分かりませんが、隙ができました! 今の、うちに……!)

 

 動きが鈍った追尾光片を避けながら、蓮が自らの剣に魔力を込める。すぐに、先程と同等の魔力量になったが、それでも蓮にとっては不足があったようで……祈りを深くし、更なる力を求め始めた。

 

(……分かっています。僕が、この学園の異物だということも。周囲の戦乙女から、避けられてるってことも! それでも僕は強くなりたい、この学園で!!)

 

 ただひたすらに、魔力を込め続ける。すると、あまりの魔力量に剣が段々と光へ変換されていき……ついに、剣の形をしているだけの完全なる光の塊となった。

 

(――戦乙女の、ために!!)

 

「なに……それ……?」

 

 いつしか、エリシアの視線の先は、蓮のあられもない姿から、光剣の輝きへと移っていた。エリシアの輝きがサンピラーだとすると、蓮の光剣の輝きはまさしく恒星。技でも、型でもない……ただ、あまりにも膨大な魔力が、形を得ているだけのそれを目の当たりにしたエリシアの頬が、冷や水をかけられたかのように色を失っていく。

 

「は、あぁあああああああああああああああ――!!」

 

「――ッ!! 『星遊舞踊(スターダンス)――護界の四座(フォースサイン)ッ!』」

 

 蓮が光剣をエリシアへ叩きつけると同時に、エリシアが結界を展開する。だが、光剣から放たれた輝きは、結界をエリシアごと飲み込んだ。

 

「きゃぁあああああああああああああっ!!」

 

 エリシアを飲み込んだ光の奔流が一点に集約し、爆発する。余波で生まれた白煙に埋め尽くされたアリーナに残されたのは、地面に這いつくばるエリシアだけだった。

 

「う、うぅ……」

 

『……し、勝者。蓮!』

「…………!?」

 

 スーツ姿の女性が動揺しながら蓮の勝利を告げるのと、蓮がエリシアの異変に気づいたのは、同時だった。地面に倒れ伏すエリシアは、肉体は魔力で守ったようだが、衣服まで守る余裕はなかったようで、すっ裸になり、あられもない姿を晒してしまっていた。多くの生徒が観戦している、決闘中に。

 

「――っ、ごめんなさい!!」

 

 それに気づいた蓮は……迷わず、自らのスーツを脱ぎ去った。いきなりボロボロの肌着姿を晒したことで、アリーナ中の視線が蓮へ向かう。

 

「ちょっと、蓮!?」

「な、何してるの……!?」

 

 歓声をあげる者、目を手で隠す者、興奮のあまり鼻血を出す者……アリーナ中の反応は多種多様だった。だが、その全てが今の蓮の意識に入ってこなかったようで、脱いだスーツでエリシアを包み込むと――。

 

「――お邪魔しました!!」

「ひゃっ……!?」

 

 お姫様抱っこの要領で持ち上げ、顔面が熟れた果実を思わせるほど真っ赤になったエリシアと共に、全速力で控室へと飛び込んだ。

 

 *

 

 アリーナの控室、救護室も兼ねたそこには保健室を思わせる純白のベッドが用意されている。そこにエリシアを寝かせ、布団で身体を隠した蓮はほっと一息をついた。

 

「ふぅ……確かこのベッドには回復効果もあったはずですし、服も誰かが持ってきてくれるでしょう。とりあえず、待ちましょうか。僕も、疲れました」

 

 ベッドの近くにパイプ椅子を持ってきた蓮は、そのまま深く腰掛け、四肢を投げ出した。先程の超高出力の一撃によって、倦怠感を覚えてしまっていたようだ。言葉を発することもなく、ただひたすらに精神を休ませている。

 

 そんな静寂に満ちた空間で、エリシアは身体が見えないように布団から顔だけ出して、蓮の顔をじっと見ていた。が、やがて、口をぱくぱくと開け閉めすると……。

 

「……ね、ねぇ」

 

「……? どうされましたか?」

 

 おずおずとした声かけに、蓮が身体ごとエリシアの方を向いて応える。目が合ったのが気恥ずかしかったのか、エリシアはふいと顔を背けた。

 

「どうして、私の裸体を見られないよう守ってくれたの? 私はあなたを、退学させようとしましたのに……」

 

 躊躇がちなエリシアの問いかけに、蓮は笑顔で応えた。

 

「戦いが終わったのなら、敵ではなく、貴族という立場を持った戦乙女ですから。それに、エリシアさんの言い分にも分かる部分はあります。ここは戦乙女の学園で、僕は不要なのかもしれない。それでも僕は、戦乙女のために頑張りたいんです」

 

 あまりに真っ直ぐな蓮の言葉に、エリシアは僅かに目を見開きながら首をこてんと傾けた。

 

「そこまでして戦乙女のためになりたいって……なにがあなたにそこまでさせるのかしら?」

 

「……それは、ですね。少し、昔話をさせてください」

 

 少しだらけていた姿勢を整え、表情を僅かに固めて、蓮が話を始める。

 

「魔力を発現する前の僕は……ディザスターを呼び寄せる体質だったんです。だから僕は、ディザスターに襲われて住処を壊されて引っ越しして……を、もう三十回以上繰り返しております」

 

「……それは、大変だったでしょう」

 

「はい。ですが、それだけ襲われても、僕の大切な人は誰一人欠けることはありませんでした。それは全て、僕たちをディザスターから守り続けてくれた戦乙女さんたちのお陰で。だから、僕は……その恩返しがしたいんです!」

 

「……ぁ」

 

 にぱっとはにかむ蓮の顔を見たエリシアは、気づいてしまった。戦乙女のために働く貴族である彼女にとって、高潔で、世界を変えるほどの特別な才があり、努力を欠かさず……かっこよくてちょっとえっちな彼は、理想の『主』であることを。

 

「…………ッ!!」

(あぁ、そうなのね。この世界で一番、戦乙女のことを考えているのは――)

 

 気づいてしまったらもう、感情は止まらない。蓮の半裸を見た時よりも濃い色で顔を赤く染める彼女の顔に浮かんでいたのは、これ以上ないほどの『喜悦』だった。

 

「あ、あの……大丈夫、ですか? エリシアさん――わひゃっ!?」

 

 そんな彼女の様子は当然、蓮にとって不審に見えたようで、心配そうに彼女へ顔を近づけた、その瞬間――エリシアは彼を両手で優しく包み、顔をもっと近くに寄せた。

 

「え、えーと……?」

 

 全裸の美少女と布団一枚越しの至近距離まで近づいた蓮は、全力で目を背けてエリシアの方を見ないようにしながら、現状の把握を行おうとしている。

 

「ねぇ、蓮様」

 

 その『様』呼びは今までのような礼儀上のものではなく、明らかな熱を帯びていた。

 

「私は、負けた。蓮様に退学という重い運命を背負わせた決闘に、負けた。だったら私も、何か背負うべきじゃないかしら?」

 

「なにかって、なんですか……?」

 

「そうね。例えば……ファーストキスも私の未来もなにもかもを蓮様へ捧げ、永遠の服従を誓う、とか……?」

 

 その言葉と共に、エリシアは蓮へ顔を近づけていく。

 蓮が驚く間もなく、エリシアの唇は、蓮に触れ――

 

 

「――何してるのよ!!」

 

「……わわっ!」

 

 るより前に、怜葉が控室へ怒鳴り込んだ。とっさに蓮は立ち上がり、エリシアと距離をとる。

 

「あなたねえ……!!」

 

「……あら残念、もう少しでしたのに」

 

 怒髪が天井にまでつきそうなほど怒る怜葉に対し、エリシアはくすりと一笑をするのみだった。エリシアのそんな様子に付き合っていられないと言わんばかりに、怜葉は蓮へ部屋から持ってきた着替えを、エリシアへは自らのジャージを投げつけた。

 

「ほら、とっとと着替えなさい」

 

「あら、意外とお優しいのね」

 

「……蓮に変なものを見せたくなかっただけよ。それより蓮、着替えたら行くわよ。勝ったんだから、もうそいつに用はないでしょ」

 

「あ、はい……」

 

 元々上半身の肌着がボロボロだっただけの蓮がすぐに着替えを終えると、怜葉が手を引き、彼を部屋から無理やり連れ出した。

 

「また会いましょう、蓮様!!」

 

 そんな彼の後ろ姿を、エリシアは笑顔で見送る。

 

 

「…………いえ、御主人様」

 

 ……最後に呟いた一言が、蓮に聞こえることはなかった。

 

 *

 

 控室から連れ出された蓮は、陽芽乃の部屋を訪れていた。

 

「他の人の部屋ですけど……僕たち、入っていいんですかね?」

 

「ええ、許可は貰ってるわ。それに、学園中の目が私たちに向いてて、部屋の周りに人が集まって落ち着かないから、ここがとりあえずの避難場所よ」

 

 怜葉がドアを開けると、机の上に山盛りのお菓子とジュースを準備した陽芽乃が太陽のような笑みで二人を迎え入れた。

 

「来たね、今日は任務で同室がいないから朝までパーリナイできるよ!」

 

「私がそんな風紀が乱れたことするわけないでしょ」

 

「え? どの口が言ってんの?」

 

 乾き切った陽芽乃のツッコミを無視して部屋にずけずけ入る怜葉の後ろを、蓮がついていく。そうして三人とも席に座り、コップを取ると……陽芽乃が乾杯の音頭をとった。

 

「じゃ、蓮君の勝利と退学回避を祝して、かんぱーい!」

 

「はい、乾杯」

 

「! かんぱい!」

 

 蓮の勝利を祝福するように、グラスのぶつかる甲高い音が部屋中に弾けた。そのまま嬉しそうにオレンジジュースを喉へ流し込んだ蓮へ、陽芽乃が顔を近づけた。

 

「……で、なにあの魔力量。訓練の時にはあんなのできなかったよね」

 

「え、ああ、あれですか……」

 

 訝しげな目線に反して蓮の反応は薄く……あまり深刻に考えてはいなさそうだった。

 

「――戦乙女のために、と考えたら身体に何か力が漲ってきて……それを放出したらああなりました。まあ、当然ですね。僕の力は戦乙女のためにあるんですから!!」

 

「……お、おぉ」

「…………」

 

 あまりに迷いのない蓮の言葉に、陽芽乃は若干たじろぎ、怜葉は眉をひそめる。二人は思い出してしまったのだ。蓮はこの世界で唯一『魔力を発現した男』であり、その力の理屈は、全容は、世界中の誰もまだ知り得ていないということを。

 

 二人が剣呑な雰囲気を纏っていることを、グラスを顔の前で傾けることで隠す。すると、ジュースを飲み終えた蓮がグラスを机の上に置き、おずおずと二人へ向き合った。蓮の視線に気づいた怜葉が、僅かに首をかしげながら口を開く。

 

「……蓮、なんか言いたそうね」

 

「え、あ、はい……その、僕たちはここ数日、訓練のために同じ時間を過ごしてきました、よね。沢山、助けてもくださいました……」

 

「うんうん、助け合ってきたよね」

 

 何の迷いもない陽芽乃の返答に背を押されるように、蓮は唇を震わせながら口を開く。

 

「だったら、その……僕たちはもう、『ともだち』だって、言ってよかったりするのでしょうか……?」

 

 探り探り、不安げで、顔色を窺うように、蓮は二人を見上げる。元々少女と見まがうほど可愛らしい顔立ちをしている少年の、全力の上目遣いを食らった二人は、顔を夕焼け色に染め――悶絶した。

 

「――ん゛ん゛ッ!!」

「わ、わぁ……」

 

「……え、えぇと?」

(怜葉さん、どうしていきなりドッス■の真似を……? 陽芽乃さんも何か様子が変ですし……?)

 

 困惑する蓮を見て正気を取り戻した怜葉は、仕切り直しをするように蓮へ語りかけた。

 

「こほんっ。当然でしょ、友人とも思ってない人に自分の時間を割くほど、私は情のある人間じゃないのよ」

 

「そう、ですか。そう、なんですね……! ありがとう、ございます……!!」

 

 怜葉の言葉を受け取った蓮の口角が少しずつ上がっていく。胸の奥から湧き上がる喜びを抑えきれないかのように、その表情は段々と綻んでいった。そんな蓮の顔を、陽芽乃が覗き込む。

 

「すごい嬉しそうだね、蓮君」

 

「は、はい! 実はですね、その……僕、幼い頃から引っ越しを繰り返してたので、友達ができたことがほぼないんです。だからこうして友達だって言っていただけて……とても、嬉しいんです!」

 

「なるほどね。じゃ、アタシも蓮君のこと友達だって思ってるから……二倍嬉しかったりする?」

 

「は、はい! 四倍嬉しいです!! お二人とも、改めてよろしくお願いします!!」

 

 喜びをにじませながら、二人へ頭を下げる蓮。

 

(人間には性欲があるので男女間の友情は難しいと聞いたことがありますが……戦乙女は男性をそういう対象として見ません。なので、僕さえそういうことを考えなければきっと、この友情が途絶えることはないはずです!)

 

 その胸中には……強い決意と未来への展望が漲っていた。

 

 *

 

 深夜、ソファーで寝ていた怜葉は目が覚めてしまった。薄暗い部屋でまず視界に入ったのは、片づけられたジュースの缶やお菓子の空き袋。蓮が寝ている場所に近いほど整えられているので、どうやら彼が片づけを行ったようだ。

 

 怜葉が身体を起こすと、かけられていたタオルケットが落ちる。それにより、ソファーの反対側で寝ている蓮の姿が目に入った。

 

「すぅ……くぅ……」

 

「…………っ!!」

 

 無防備な体勢で可愛らしい寝息を立てる蓮を目の当たりにした怜葉の内側から、抑えきれないほどの欲望が湧き上がる。だが、怜葉はそのまま……ムラムラを通り越してイライラにまで至ってしまった。

 

(なんで、こんなかわいい顔で無防備に寝られるの? 私がどれだけあなたのことを性的な目で見ているのか分かってないの……!?)

 

 胸の内でどうしようもないぐらいに膨れ上がる煩悩と激情に導かれるように、怜葉は蓮を服へ手を伸ばし――。

 

「はい、そこまで」

 

「…………!」

 

 耳元でぱんっと手を鳴らされたことで正気を取り戻し、手を引っ込めた。顔だけで振り返るとそこには呆れた顔をした陽芽乃が立っていた。

 

「気持ちは分かるけど、ここで手を出しちゃったら友達どころか傍にもいられなくなっちゃうよ。向こうから求めてくるまでノータッチ、が一番じゃない?」

 

「……そうね。どうかしてたわ」

 

「――と、いうわけでトイレ行ってきなよ。その間アタシは蓮君の寝息録音してるから。あっ、ダビングして欲しかったら言ってね?」

 

「触らなければ何してもいいと思ってないかしら?」

 

 今度は怜葉が呆れ混じりでソファーから立ち上がり、寝起きなせいか若干覚束ない足取りでトイレへ向かっていった。

 

「恥ずかしいから、あんま声出さないでね!」

 

「……うるさい!」




一旦ここで終わりです。
この話で予兆はありますが、続きを書くとするとちょっと路線が変わっちゃう気がするので……。

次は長編を準備して書こうと思います。
ジャンルは……外れスキルで異世界転生物です!
またどこかで、お会いしましょう。
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