世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
「やった。うまく行きましたよ、ババ様!」
樋川が思わず声を弾ませる。
「うむ。ひとまず第一関門は突破じゃ」
ババ様は安堵したように頷いた。
腕を組みながら、遠く離れた決闘場の中心へ視線を向ける。
そこに立つのは、エドワード。
そして、その正面に並ぶ遥とエルミナ。
「ここからじゃぞ、遥よ……」
◇
決闘場の中心。
エドワード、遥、エルミナの三人が、再び向かい合っていた。
「お前の娘がすげぇ奴だって事、この決闘で見せてやる!」
遥が真っ直ぐに言い放つ。
その隣で、エルミナは何も言わなかった。
ただ、決意を宿した瞳でエドワードを見据えている。
その視線を受けても、エドワードの表情は変わらない。
「私の固有魔法を封じた……たったそれだけで粋がるな」
静かな声だった。
だが――その直後。
エドワードが、再び右足を強く踏み込む。
ズシン――!
地面が一瞬、揺れた。
踏み込んだ足を起点に、エドワードの身体が淡い光の膜に包まれていく。
それを目にした遥は、すぐさまエルミナへ声を飛ばした。
「短文じゃダメだ。ひとまず中文詠唱で牽制するぞ!俺が隙を作るまでに準備してくれ!」
「分かりましたわ!」
エルミナは即座に応じる。
腰に差していた細剣を鞘へ納めると、両手を自身の前へ突き出した。
その指先へ、少しずつ魔力が集まり始める。
同時に――
遥はエドワードを見据えた。
次に来るのは、魔法ではない。
淡く光る膜――魔力纏によって身体強化された、純粋な近接攻撃。
今こそ、修行の成果を活かす場だ。
そう言わんばかりに、遥は身構えた。
その隣では、エルミナが詠唱を始める。
【――その輝きは世を照らす幻想の灯】
エルミナの両手から、赤い魔法陣が展開されていく。
それを横目で確認した遥は、自分の務めを果たすため、改めてエドワードを見据えた。
対するエドワードは、構えすら取っていない。
ただ、鋭い眼差しを遥へ向けている。
――来る。
そう感じた瞬間。
遥が一度、瞬きをした。
ほんの一瞬。
一秒にも満たない、僅かな刹那。
「――ッ!?」
気付いた時には。
遥の至近距離まで、エドワードの拳が迫っていた。
「なっ!?」
避ける間もない。
ドゴォッ!!
勢いのまま、遥の身体が後方へと吹き飛んだ。
「――赤城遥!!」
吹き飛ばされる遥の名を叫んだエルミナだったが――
ドゴォンッ!!
遥の身体が演習場の壁へ叩きつけられた轟音に、かき消された。
衝撃と共に、壁際から大量の砂埃が舞い上がる。
「い、一撃ぃ!!?」
実況席から、ミコラの驚愕した声が響いた。
「……モロに入ったわね」
ヒスカも思わず呟く。
その一方で、エドワードは殴り抜いた右拳を静かに見つめていた。
そして、砂埃の向こうへ視線を向ける。
「”吸収”……と言ったところか」
低く呟く。
「寸前で反応したな……」
風に煽られ、少しずつ砂埃が晴れていく。
その中心に――遥はいた。
片膝をつき、両手を顔の前へ構えている。
左の掌を前に。
その手を支えるように、右手を添えていた。
左の掌からは、僅かに煙が上がっている。
「はぁ……はぁ……」
荒い息を吐きながら、遥はゆっくりと顔を上げた。
エドワードは、そんな遥の構えを見ながら続ける。
「拳が当たる直前、左手で私の魔力を吸い取った」
視線が、遥の左手へ移る。
「そして魔力纏を解き、威力を殺した……か」
「……」
遥は何も答えない。
ただ荒い呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。
そして、エドワードを真っ直ぐに見据えた。
「何もせずに二週間を過ごしたわけじゃねぇよ……」
そう呟いた遥だったが。
「……クソ」
顔をしかめる。
受け止めた左手が、小刻みに震えていた。
拳を受けた衝撃が、まだ掌から腕へ響いている。
(素の力で、これかよ……)
魔力纏は、確かに崩した。
それでも。
ただの拳を受けただけで、この有様だ。
(同じ人間でも、人間界と魔法界じゃ……身体能力に差があるのか?)
一瞬、そんな疑問が頭をよぎる。
だが――
(いや。今はそんなこと、どうでもいい)
遥は顔を上げた。
視線の先。
そこには、詠唱を続けるエルミナがいる。
赤い魔法陣は、まだ消えていない。
遥はエルミナの目を見つめた。
ほんの一瞬。
それだけで、意図は伝わった。
エルミナの瞳が僅かに揺れる。
そして。
【――その火は魔を滅する炎】
【――我が魔力を器とし、その姿に翼を与え】
再び、詠唱が紡がれ始めた。
その光景を見たエドワードは鼻で笑う。
「中文詠唱……やはりルナの足元にも及ばんな」
「っ……」
一瞬、表情を曇らせたエルミナへ、エドワードは続けた。
「撃ちたければ撃てばいい……魔力纏は剥がしたままでいてやる」
「お前ごときの魔法が、この世界で通用するかどうか、その身をもって理解させてやろう」
エルミナの指先が、僅かに震えた。
それでも。
詠唱を止めることはなかった。
そして――最後の一節を紡ぐ。
【――敵を討つ一翼と成れ!!!】
恐怖をかき消すような叫びと共に、エルミナは魔法を放った。
「り……リビュオ・アルバーナ!!」
呼応するように、赤い魔法陣から一羽の大鷲が飛び出した。
その全身を、紅蓮の炎が包んでいる。
「熱ぅぅ!!」
「中文詠唱まで、一年で扱うなんて……!」
実況席や観客席から、驚きの声が次々と上がる。
大鷲は燃え盛る翼を大きく羽ばたかせた。
キイィィィィィッ!!
耳をつんざくような鳴き声を響かせながら、一直線にエドワードへと突き進む。
その軌跡には、炎の残骸が幾筋も残されていた。
演習場の空気が、熱気で歪む。
それでもエドワードは動かなかった。
両腕を組んだまま、目の前へ迫り来る炎の大鷲を、意に介さぬように見据えている。
そして、そのまま――
ドォォォォン!!
大鷲とエドワードが激突した。
凄まじい爆炎が演習場を覆い尽くす。
熱風が客席にまで吹き抜け、観客たちから悲鳴が上がった。
「きゃあっ!」
「うわっ、熱っ!!」
炎の向こう側は、何も見えない。
ただ、燃え盛る炎と黒煙だけが渦巻いている。
「……」
エルミナは固唾を呑んで、その光景を見つめていた。
やがて。
炎が少しずつ薄れていく。
煙の向こうから――
一つの影が現れた。
「……嘘」
エルミナの口から、掠れた声が漏れる。
煙が晴れ、そこに立っていたのは――エドワードだった。
肌に、服に焦げ跡一つない。
傷どころか、先ほどと何も変わらない姿で立っている。
エルミナの瞳が揺れる。
「そんな……」
その光景に遥も、言葉を失っていた。
「……かすり傷も、つかないのかよ」
そしてエドワードは何も言わないまま、ただエルミナを見据えた……
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