世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~   作:青井風太

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始まりと終わりを告げる一撃

「やった。うまく行きましたよ、ババ様!」

 

樋川が思わず声を弾ませる。

 

「うむ。ひとまず第一関門は突破じゃ」

 

ババ様は安堵したように頷いた。

 

腕を組みながら、遠く離れた決闘場の中心へ視線を向ける。

 

そこに立つのは、エドワード。

 

そして、その正面に並ぶ遥とエルミナ。

 

「ここからじゃぞ、遥よ……」

 

 

決闘場の中心。

 

エドワード、遥、エルミナの三人が、再び向かい合っていた。

 

「お前の娘がすげぇ奴だって事、この決闘で見せてやる!」

 

遥が真っ直ぐに言い放つ。

 

その隣で、エルミナは何も言わなかった。

 

ただ、決意を宿した瞳でエドワードを見据えている。

 

その視線を受けても、エドワードの表情は変わらない。

 

「私の固有魔法を封じた……たったそれだけで粋がるな」

 

静かな声だった。

だが――その直後。

 

エドワードが、再び右足を強く踏み込む。

 

ズシン――!

 

地面が一瞬、揺れた。

踏み込んだ足を起点に、エドワードの身体が淡い光の膜に包まれていく。

 

それを目にした遥は、すぐさまエルミナへ声を飛ばした。

 

「短文じゃダメだ。ひとまず中文詠唱で牽制するぞ!俺が隙を作るまでに準備してくれ!」

 

「分かりましたわ!」

 

エルミナは即座に応じる。

 

腰に差していた細剣を鞘へ納めると、両手を自身の前へ突き出した。

 

その指先へ、少しずつ魔力が集まり始める。

 

同時に――

 

遥はエドワードを見据えた。

 

次に来るのは、魔法ではない。

淡く光る膜――魔力纏によって身体強化された、純粋な近接攻撃。

 

今こそ、修行の成果を活かす場だ。

そう言わんばかりに、遥は身構えた。

その隣では、エルミナが詠唱を始める。

 

【――その輝きは世を照らす幻想の灯】

 

エルミナの両手から、赤い魔法陣が展開されていく。

 

それを横目で確認した遥は、自分の務めを果たすため、改めてエドワードを見据えた。

 

対するエドワードは、構えすら取っていない。

ただ、鋭い眼差しを遥へ向けている。

 

――来る。

 

そう感じた瞬間。

 

遥が一度、瞬きをした。

ほんの一瞬。

一秒にも満たない、僅かな刹那。

 

「――ッ!?」

 

気付いた時には。

遥の至近距離まで、エドワードの拳が迫っていた。

 

「なっ!?」

 

避ける間もない。

 

ドゴォッ!!

 

勢いのまま、遥の身体が後方へと吹き飛んだ。

 

「――赤城遥!!」

 

吹き飛ばされる遥の名を叫んだエルミナだったが――

 

ドゴォンッ!!

 

遥の身体が演習場の壁へ叩きつけられた轟音に、かき消された。

 

衝撃と共に、壁際から大量の砂埃が舞い上がる。

 

「い、一撃ぃ!!?」

 

実況席から、ミコラの驚愕した声が響いた。

 

「……モロに入ったわね」

 

ヒスカも思わず呟く。

 

その一方で、エドワードは殴り抜いた右拳を静かに見つめていた。

 

そして、砂埃の向こうへ視線を向ける。

 

「”吸収”……と言ったところか」

 

低く呟く。

 

「寸前で反応したな……」

 

風に煽られ、少しずつ砂埃が晴れていく。

 

その中心に――遥はいた。

 

片膝をつき、両手を顔の前へ構えている。

 

左の掌を前に。

 

その手を支えるように、右手を添えていた。

 

左の掌からは、僅かに煙が上がっている。

 

「はぁ……はぁ……」

 

荒い息を吐きながら、遥はゆっくりと顔を上げた。

 

エドワードは、そんな遥の構えを見ながら続ける。

 

「拳が当たる直前、左手で私の魔力を吸い取った」

 

視線が、遥の左手へ移る。

 

「そして魔力纏を解き、威力を殺した……か」

 

「……」

 

遥は何も答えない。

ただ荒い呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

そして、エドワードを真っ直ぐに見据えた。

 

「何もせずに二週間を過ごしたわけじゃねぇよ……」

 

そう呟いた遥だったが。

 

「……クソ」

 

顔をしかめる。

受け止めた左手が、小刻みに震えていた。

拳を受けた衝撃が、まだ掌から腕へ響いている。

 

(素の力で、これかよ……)

 

魔力纏は、確かに崩した。

 

それでも。

ただの拳を受けただけで、この有様だ。

 

(同じ人間でも、人間界と魔法界じゃ……身体能力に差があるのか?)

 

一瞬、そんな疑問が頭をよぎる。

 

だが――

 

(いや。今はそんなこと、どうでもいい)

 

遥は顔を上げた。

視線の先。

 

そこには、詠唱を続けるエルミナがいる。

赤い魔法陣は、まだ消えていない。

 

遥はエルミナの目を見つめた。

 

ほんの一瞬。

それだけで、意図は伝わった。

 

エルミナの瞳が僅かに揺れる。

 

そして。

 

【――その火は魔を滅する炎】

 

【――我が魔力を器とし、その姿に翼を与え】

 

再び、詠唱が紡がれ始めた。

 

その光景を見たエドワードは鼻で笑う。

 

「中文詠唱……やはりルナの足元にも及ばんな」

 

「っ……」

 

一瞬、表情を曇らせたエルミナへ、エドワードは続けた。

 

「撃ちたければ撃てばいい……魔力纏は剥がしたままでいてやる」

 

「お前ごときの魔法が、この世界で通用するかどうか、その身をもって理解させてやろう」

 

エルミナの指先が、僅かに震えた。

 

それでも。

詠唱を止めることはなかった。

 

そして――最後の一節を紡ぐ。

 

【――敵を討つ一翼と成れ!!!】

 

恐怖をかき消すような叫びと共に、エルミナは魔法を放った。

 

「り……リビュオ・アルバーナ!!」

 

呼応するように、赤い魔法陣から一羽の大鷲が飛び出した。

 

その全身を、紅蓮の炎が包んでいる。

 

「熱ぅぅ!!」

 

「中文詠唱まで、一年で扱うなんて……!」

 

実況席や観客席から、驚きの声が次々と上がる。

 

大鷲は燃え盛る翼を大きく羽ばたかせた。

 

キイィィィィィッ!!

 

耳をつんざくような鳴き声を響かせながら、一直線にエドワードへと突き進む。

 

その軌跡には、炎の残骸が幾筋も残されていた。

 

演習場の空気が、熱気で歪む。

 

それでもエドワードは動かなかった。

 

両腕を組んだまま、目の前へ迫り来る炎の大鷲を、意に介さぬように見据えている。

 

そして、そのまま――

 

ドォォォォン!!

 

大鷲とエドワードが激突した。

 

凄まじい爆炎が演習場を覆い尽くす。

熱風が客席にまで吹き抜け、観客たちから悲鳴が上がった。

 

「きゃあっ!」

 

「うわっ、熱っ!!」

 

炎の向こう側は、何も見えない。

ただ、燃え盛る炎と黒煙だけが渦巻いている。

 

「……」

 

エルミナは固唾を呑んで、その光景を見つめていた。

 

やがて。

炎が少しずつ薄れていく。

 

煙の向こうから――

 

一つの影が現れた。

 

「……嘘」

 

エルミナの口から、掠れた声が漏れる。

 

煙が晴れ、そこに立っていたのは――エドワードだった。

 

肌に、服に焦げ跡一つない。

傷どころか、先ほどと何も変わらない姿で立っている。

 

エルミナの瞳が揺れる。

 

「そんな……」

 

その光景に遥も、言葉を失っていた。

 

「……かすり傷も、つかないのかよ」

 

そしてエドワードは何も言わないまま、ただエルミナを見据えた……




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