次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が…… 作:顔のない女
外からはカラスの乾いた鳴き声が聞こえてくる。
いつのまにか雨は上がり、世界は白々とした朝に包まれていた。
隣では嵐が過ぎ去ったあとのような深い静寂の中で、葵がすやすやと眠っている。
私は愛おしさを抑えきれず、彼女の柔らかな額にそっと唇を寄せた。
その微かな触れ合いに反応して、葵がゆっくりと瞼を持ち上げた。
「あれ……もう、朝?」
「おはようございます、葵」
「うぅ〜ん……おはよ、玲香………………っ、体いたぁい」
葵は顔をしかめながら、きしむ体を伸ばした。
結局、あのあと日付が変わるまで本能のままに貪り合ってしまったせいで、まともに睡眠時間は取れていない。
今日は三日ぶりに学校へ行かなければならないというのに、頭の芯がまだ熱に浮かされているようだった。
「満足した?」
葵が悪戯っぽく笑いながら、覗き込んでくる。
「馬鹿なことを一々聞いてこないでくださいよ。……恥ずかしい」
「ふふっ。ごめん」
「そんなことより、さっさとシャワーを浴びてしまいましょう。こんなベタついた体で服を着るなんて、絶対に嫌ですし」
「えー、今日は学校サボってゆっくりしようよ〜」
「却下です。昨日、今日からは登校すると約束したはずですよ」
「いーやーだ!! ……レイは賭けにボロ負けして私の猫になったんだから、ご主人様の言うことは聞くべき!」
「私は玲香であってレイではありません。よってその約束は無効です。駄々こねてないで歩いてください」
「くそぉ……」
不満げに唇を尖らせる彼女の腕を引き、私はスマホを手にして二人で下の階へと降りた。
階段を下りきった直後、葵がふと足を止め、視線を一点に固定した。
「……ムギ」
「え?」
「今、あそこに……ムギが座ってた気がした」
彼女が指差したのは、かつて私とムギが日向ぼっこをしながら言葉を交わした、あの縁側だった。
「あぁ……時間はまだありますし、少しあそこで一緒に座りますか」
「え?」
「貴女が今指した場所は、私とムギがよくぼ〜っとしてた場所なんです。その先に見える景色は、お婆ちゃんが趣味でやってる畑が広がってるだけなんですけどね」
私は彼女の手を引き、まだ少しひんやりとした空気の残る縁側へと導いた。
私たちは一糸纏わぬ姿のまま、並んで腰を下ろす。
「うひぃ。裸でこんな場所に座るの、中々変な感覚するなぁ……誰かに見られたりしない?」
「しないですよ。ここは高いブロック塀で囲まれていますから」
私はそう言いながら、片手で佳織に「今日から学校に行く」とだけLINEを送った。
すると既読すらつく間もなく、画面には通話着信の通知が現れた。
「うわ……メッセージだけで終わらせるつもりだったのに、電話が……」
「別に出ればいいじゃん。私達の仲なんだし」
「……私としてはここでゆっくりしてたかったんですけど、葵がそういうなら」
溜息混じりに通話ボタンをスライドする。
『酷いって。普通に数日無視って何考えてるわけ?』
「すみません。メンタルが不調だったもので、返す余裕もありませんでした。でも全回復したので、今日から学校に行きます」
『おぉ……本当に今まで聞いたことないくらい元気そう。何かいいことでもあった?』
「何があったかって聞かれると、普通に昨日から私達が付き合い始めたって答えるしかないかな?」
横からひょいと首を突っ込んできた葵が、事もなげにそう答えた。
『葵ちゃん?! 葵ちゃんがそこにいるの!!?』
「え……いるけど、何?」
『玲香のスマホから葵ちゃんの声がして、そんでもって玲香の声が聞いたことないくらい清々しい。これはつまり!!!』
「それ以上気持ち悪いことを喋ろうとしたら、通話を切りますよ」
『ヤったってことだよね!? 交尾を――』
案の定、佳織が言い切る前に私は親指で真っ赤な終了ボタンを叩きつけた。
「ごめん、ミスった」
「そうですよね? あの人にはデリカシーというものが無いんですから、下手に深く関わっちゃいけないんですよ。佳織とは…………いえ、莉子とも交流は程々にしてくださいね」
「なんでそこで莉子?!」
私は彼女の肩に、自らの頭をこてんと預けた。
「……だって、葵と一番付き合いが長いのは莉子ですから」
「なるほど……玲香って意外と、面倒くさい彼女ムーブする感じだったんだ……」
「そういうのは思っても、口に出さないでほしいです」
私の言葉に苦笑しながらも、葵はさらに深く、肌を密着させてきた。
「別に浮気なんてしないよ」
「そんなこと言ってますけど、貴女はムギにぞっこんでしたし……私がムギからここで葵の事を聞かされる度に、どれだけ嫉妬で狂いそうになったか、貴女には分からないんでしょうね」
「……うぐ。なんかトゲトゲしてるなぁ。もしかして昨日のじゃ足りなかった感じ?」
「………………」
別に足りてる足りてないの問題ではなくて、私はこれまで秘めてた思いをぶつけただけ。
でも、これ以上八つ当たりしても意味のない事だし、その罪は今も彼女の首に、私が水族館デートで残した傷跡として深く残っている。
あの時のアレを条件に許すと言い切ってしまったのだから、これ以上は言うまい。
「……その傷跡、全然消えないんですね」
「急に話変わっちゃった! っていうか、これは玲香が本気になってつけたやつだし、最低でも数年は消えないでしょ」
「一生残るべき傷です」
「え〜ん、玲香が超冷たいよぉ〜!」
「……気持ち悪い、隣で泣き真似なんてやめ――」
軽口を叩き合っていたはずだった。
だが、言葉を最後まで紡ぐ前に、私は再び縁側の板敷きへと押し倒された。
「全く……満足してないんだったら言ってよ」
「は?」
「まぁそれも当然だよね。長い事溜めにためてたんだし。それに玲香は人間じゃないんだから、欲求の強さも人と比べ物にならなかったりするんでしょ?」
「いや……あの、そういうわけじゃ」
「だからいいよ。今日はもう少し一緒にいてあげる」
至近距離で囁き、葵は私の鎖骨に熱いキスを落とした。
肌を伝う微かな痺れに、自分でも驚くほど早く、身体の芯が再び熱を帯び始める。
けれど、この後は学校が控えている。
そんな事をやっている暇なんて……
「葵……学校が」
「サボる」
「ダメです」
「サボる!!!」
「ダメ――」
反論を封じ込めるように、彼女はいつの間にか隠し持っていた媚薬の小瓶を、私の口元へと無理やり押し込んできた。
「ゲホッ、ゲホッ……まだ……中身なんて……」
喉を焼くような甘い感覚。
視界が急速に揺らぎ、昨夜すべて出し尽くしたはずの欲動が、暴力的なまでの活力を取り戻していく。
「よし! これで学校をサボる言い訳ができたでしょ?」
「さい……あく……っ」
この馬鹿女、多分初めから浴室でおっ始める気だったのだろう。
これだけ疲れた後に学校へ行くつもりなど、始めからなかったのだ。
「ほれほれ〜、逃げ道は作ってあげたよー こうなったら一緒に獣になっちゃうしかないよね?」
「………………………………あとで……覚えておいてください……ね」
「違うって。ちゃんと返事して? 可愛がってくださいってさ」
「……はいはい」
勝手に言ってて欲しい。
こっちはもう限界だ。
「『はい』は一回!」
「はい」
「求めてる返事と全然違うけど、まぁいっか」
朝の柔らかな光が降り注ぐ縁側。
雨上がりの澄んだ空気の中で、私は再び、彼女の奔放な愛欲に溺れていく羽目になった。
学校を休む罪悪感さえ今はもう、彼女の体温の中に溶けて消えてしまう。
――END
◇あとがきです。
この話はこれで終わりとなります。
最後に面白いと思っていただけたなら高評価やお気に入り、そして感想などを頂けると嬉しいです。
私の作品は基本的にストーリーが適当で、自分自身が読みたいシチュエーション重視で書いています。
今日から投稿を始めている新作【私の最推しがクラスメイト?! ガチ恋なのをいいことに好き放題やられてるんですが、この超性格の悪いVTuberからどうやって逃げればいいですか......?】もその例に漏れません。
もし今作の猫の話を読んで「次回作を読んでみてもいいな」って思った方は、URLまたは私のプロフィールから作品に飛んでみてください。
↓URL
https://syosetu.org/novel/414028/
それではまた次回作でお会いしましょう。
ちなみに私が書く作品は今のところ全部人外もの且つR18ありきです。