【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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第二百四話 天下の怪物達

第二百四話 天下の怪物達

 

 

関中の空に夕暮れの色が差し始めていた。

 

朝から続く激戦。

 

魏軍と黒山軍。

 

両軍とも既に限界に近い。

 

だが誰も退かない。

 

退けない。

 

戦場そのものが巨大な意地のぶつかり合いになっていた。

 

その中心。

 

張燕と曹操。

 

二人の戦いはなお続いていた。

 

大鎌が振るわれる。

 

轟音。

 

張燕の槍が受け止める。

 

火花が散る。

 

馬がいななき、大地が震える。

 

周囲の兵士達ですら近付けない。

 

あまりにも危険だった。

 

「はっ!」

 

曹操の大鎌が唸る。

 

横薙ぎ。

 

張燕は身を伏せて回避。

 

髪の先が切り飛ばされる。

 

そのまま反撃。

 

槍が一直線に突き出される。

 

喉を狙う必殺の一撃。

 

だが。

 

曹操は笑っていた。

 

大鎌の柄で受け流す。

 

再び衝撃。

 

互いの馬が数歩後退する。

 

完全な互角。

 

誰も優位を取れない。

 

「強くなったな」

 

張燕が笑う。

 

「あなたこそ」

 

曹操も笑う。

 

昔なら違った。

 

官渡の頃。

 

互いにここまでの武は無かった。

 

王として。

 

将として。

 

戦を重ねた年月が二人を成長させた。

 

だから今。

 

ここにいる。

 

そして。

 

戦場全体も変化していた。

 

黒山軍右翼。

 

霞こと張遼が豪快に笑う。

 

「押し返すで!」

 

黒山騎兵が突撃する。

 

だが。

 

その前に立ちはだかるのは夏侯淵。

 

魏軍屈指の将。

 

両軍が激突する。

 

左翼でも同じだった。

 

翠こと馬超が暴れる。

 

だが夏侯惇が抑える。

 

戦場全体が均衡していた。

 

誰も崩せない。

 

誰も倒せない。

 

まるで鏡写しだった。

 

その様子を見ていた桂花は静かに息を吐く。

 

「恐ろしい」

 

本当にそう思った。

 

張燕も怪物。

 

曹操も怪物。

 

だが恐ろしいのはそこではない。

 

二人とも軍全体を怪物へ変えている。

 

普通ならここまで戦えば崩れる。

 

兵が逃げる。

 

士気が落ちる。

 

だが両軍とも逆だった。

 

むしろ燃えている。

 

頭領のために。

 

覇王のために。

 

戦っている。

 

「だから天下は乱れるのよ」

 

桂花は小さく呟く。

 

その頃。

 

魏軍本陣。

 

郭嘉も苦笑していた。

 

「本当に困りますね」

 

誰に向けた言葉でもない。

 

目の前の戦場。

 

まるで終わる気配がない。

 

張燕がいる。

 

だから黒山軍は戦う。

 

曹操がいる。

 

だから魏軍も戦う。

 

理屈ではない。

 

信仰に近かった。

 

そして。

 

その時だった。

 

張燕がふと空を見る。

 

夕暮れ。

 

日が傾いている。

 

「そろそろか」

 

小さく呟く。

 

曹操も気付いた。

 

「そうね」

 

時間。

 

それは平等だった。

 

どれほど怪物でも。

 

どれほど英雄でも。

 

日は沈む。

 

兵は疲れる。

 

馬も疲れる。

 

無限には戦えない。

 

だからこそ。

 

そろそろ決断の時だった。

 

戦いを続けるか。

 

それとも。

 

別の手を打つか。

 

張燕は笑う。

 

「華琳」

 

「何かしら」

 

「楽しいな」

 

曹操は呆れた。

 

本当に呆れた。

 

戦場の真ん中で何を言っているのか。

 

だが。

 

笑ってしまう。

 

「ええ」

 

認めるしかない。

 

「悔しいけれど」

 

曹操は大鎌を構える。

 

「楽しいわ」

 

再び激突。

 

火花。

 

轟音。

 

衝撃。

 

だが。

 

その一撃の後。

 

二人は同時に距離を取った。

 

不思議な沈黙。

 

戦場全体も気付く。

 

空気が変わった。

 

何かが起きる。

 

誰もがそう感じた。

 

張燕は槍を肩に担ぐ。

 

曹操も大鎌を下ろす。

 

互いに相手を見る。

 

そして。

 

同時に笑った。

 

「なるほどな」

 

張燕が言う。

 

「なるほどね」

 

曹操も言う。

 

言葉は少ない。

 

だが理解していた。

 

この戦い。

 

まだ終わらない。

 

しかし今日一日で決まる戦でもない。

 

それほど互いが強かった。

 

それほど互いが巨大だった。

 

黒山の頭領。

 

覇王曹操。

 

どちらか一方が簡単に勝てる相手ではない。

 

夕陽が二人を照らす。

 

長い影が大地へ伸びる。

 

その姿を見ていた兵士達は思う。

 

天下には英雄がいる。

 

だが。

 

今目の前にいる二人は違う。

 

英雄を超えた存在。

 

怪物だった。

 

そして関中の戦場は。

 

まだ終わりを迎えていなかった。

 

むしろここから。

 

張燕と曹操によるさらに大きな勝負が始まろうとしていたのである。

 




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