【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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第二百十八話 天下を揺るがす勝者

第二百十八話 天下を揺るがす勝者

 

 

黒山で張燕が束の間の休息を楽しんでいる頃。

 

天下は止まっていなかった。

 

むしろ。

 

張燕が黒山へ姿を消している間にも、歴史は大きく動いていたのである。

 

西では魏国が燕国へ降伏した。

 

北では燕国が最大勢力となった。

 

そして南では。

 

もう一つの大戦が終わろうとしていた。

 

蜀と呉。

 

長く続いた両国の戦い。

 

その決着がついたのである。

 

揚州。

 

建業。

 

かつて呉王孫権が治めていた都。

 

今、その城壁には蜀軍の旗が翻っていた。

 

風になびく劉備軍の旗。

 

城門を警備する蜀兵達。

 

全てが勝敗を物語っていた。

 

呉は敗れた。

 

完全に。

 

徹底的に。

 

敗北したのである。

 

城内。

 

玉座の間には静寂が漂っていた。

 

そこには一人の男が立っていた。

 

北郷一刀。

 

天の御使い。

 

劉備軍躍進の最大の功労者。

 

そして。

 

今回の戦の勝者だった。

 

彼は静かに玉座を見つめている。

 

その姿には勝者の余裕があった。

 

長かった。

 

本当に長い戦いだった。

 

最初から全てが順調だったわけではない。

 

だが。

 

結果として勝った。

 

交州を奪い。

 

荊州を守り。

 

呉軍を撃破し続け。

 

遂には建業を陥落させた。

 

その結果。

 

呉国は滅んだ。

 

そして。

 

孫権は降伏した。

 

数刻後。

 

城内の一室。

 

そこには孫権がいた。

 

かつての呉王。

 

今は敗軍の王。

 

その表情は複雑だった。

 

怒り。

 

悔しさ。

 

悲しみ。

 

様々な感情が混ざっている。

 

だが。

 

その中には諦めもあった。

 

自分は負けた。

 

それが事実だった。

 

「蓮華」

 

声が聞こえる。

 

北郷一刀だった。

 

孫権は顔を上げる。

 

そして少しだけ睨む。

 

「勝者の余裕か」

 

「そんなつもりはない」

 

一刀は苦笑した。

 

孫権は溜息を吐く。

 

昔なら怒鳴っていた。

 

だが今は違う。

 

戦は終わった。

 

結果も出た。

 

だからこそ冷静になれる。

 

そして。

 

彼女の手は静かに腹部へ置かれていた。

 

その仕草を見て一刀は表情を柔らかくする。

 

孫権は既に身籠っていた。

 

天の御使いの子を。

 

その事実は呉国内にも衝撃を与えた。

 

そして。

 

蜀軍にも。

 

誰も予想していなかった。

 

いや。

 

一刀だけは予想していたかもしれない。

 

孫権は目を閉じる。

 

「まさかこんな結末になるとはな」

 

「俺もだ」

 

「嘘をつけ」

 

一刀は苦笑する。

 

孫権はそんな様子を見ながら肩を竦めた。

 

悔しい。

 

本当に悔しい。

 

だが。

 

それでも。

 

目の前の男を憎み切れない自分がいた。

 

それがさらに悔しかった。

 

同じ頃。

 

成都。

 

劉備は勝利の報告を受けていた。

 

桃色の髪を揺らしながら。

 

静かに書簡を読む。

 

そして。

 

嬉しそうに微笑んだ。

 

「終わったんだね」

 

その隣には関羽。

 

張飛。

 

諸葛亮。

 

蜀軍の重臣達がいた。

 

皆が安堵している。

 

長かった。

 

北伐。

 

呉との戦争。

 

数え切れないほどの苦難。

 

それらを乗り越え。

 

遂に勝利したのだ。

 

諸葛亮は地図を広げる。

 

天下の地図だった。

 

そこには大きな変化が描かれている。

 

蜀。

 

燕。

 

そして残った勢力。

 

何より大きいのは。

 

揚州。

 

徐州。

 

その二州が蜀の領土となった事だった。

 

荊州。

 

益州。

 

交州。

 

揚州。

 

徐州。

 

蜀は巨大国家へ変貌していた。

 

もはや昔の小国ではない。

 

天下を争う覇者だった。

 

「ご主人様の勝利ですね」

 

朱里が嬉しそうに言う。

 

桃香は少し困ったように笑う。

 

だが否定はしない。

 

この勝利は蜀全体の勝利だ。

 

しかし。

 

天の御使いの存在が大きかった事も事実だった。

 

その夜。

 

建業では祝宴が開かれた。

 

兵士達は酒を飲み。

 

勝利を祝い。

 

未来を語り合う。

 

誰もが蜀の黄金時代を夢見ていた。

 

しかし。

 

そんな中。

 

一刀だけは静かだった。

 

一人で夜空を見上げている。

 

その目は遠くを見ていた。

 

「燕か」

 

ぽつりと呟く。

 

脳裏に浮かぶのは一人の男。

 

張燕。

 

時雨。

 

黒山の頭領。

 

自分と同じく常識外れの男。

 

天下を大きく動かした男。

 

そして。

 

今や天下最大級の勢力を持つ男。

 

呉は滅んだ。

 

魏も事実上敗北した。

 

残るは。

 

燕国。

 

そして蜀。

 

一刀は静かに笑う。

 

戦乱は終わっていない。

 

むしろ。

 

これからが本番なのかもしれない。

 

その頃。

 

黒山では。

 

張燕が呑気に昼寝をしていた。

 

天下を揺るがす大事件など知らないまま。

 

星と恋の呆れた視線を受けながら。

 

黒山の頭領は気持ち良さそうに眠っていたのである。

 

だが。

 

蜀の勝利。

 

呉の滅亡。

 

揚州と徐州の獲得。

 

その報せは間違いなく黒山にも届く。

 

そして。

 

天下の勢力図は再び大きく塗り替えられようとしていた。

 




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