【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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第二十三話 狼の狩り

第二十三話 狼の狩り

 

 

 汜水関の門が開く。

 

 重苦しい音と共に、巨大な城門がゆっくりと左右へ開かれていった。

 

 その瞬間。

 

「全軍突撃やぁぁぁ!!」

 

 霞の怒声が戦場へ響き渡った。

 

 董卓軍が雪崩のように飛び出してくる。

 

 槍。

 

 騎兵。

 

 歩兵。

 

 怒号。

 

 地面を揺らす勢いだった。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

「華雄様を助けろ!!」

 

 兵たちの目は血走っていた。

 

 時雨の挑発は成功した。

 

 成功しすぎた。

 

「おぉ」

 

 時雨は楽しそうに笑う。

 

「本当に出てきた」

 

「お前が煽ったんだろうが!」

 

 白蓮が怒鳴る。

 

「いやぁ、仲間想いだな紫髪」

 

「感心してる場合か!!」

 

 だが。

 

 時雨の赤い目は冷静だった。

 

 戦場全体を見ている。

 

 兵の流れ。

 

 怒り。

 

 勢い。

 

 そして――隙。

 

「星」

 

「ああ」

 

「愛紗」

 

「分かっている」

 

 愛紗が青龍偃月刀を握る。

 

「鈴々は?」

 

「暴れるのだ!」

 

「元気だなチビ」

 

 桃香は不安そうだった。

 

「本当に大丈夫かな……」

 

「大丈夫じゃねぇよ」

 

「えぇ!?」

 

 時雨は笑う。

 

「だから面白ぇ」

 

 完全に悪党の発言だった。

 

 霞は先頭を駆けていた。

 

 紫髪をなびかせ、大槍を構える。

 

 怒りで頭が熱い。

 

「どけぇぇぇ!!」

 

 董卓軍が一直線に突撃する。

 

 目標はただ一つ。

 

 華雄奪還。

 

 だが。

 

「……乗ってるな」

 

 時雨が呟く。

 

 勢いがありすぎる。

 

 だからこそ。

 

 崩せる。

 

「前衛、左右に散れ」

 

 黒山兵たちが即座に動いた。

 

 公孫瓚軍も合わせて道を開ける。

 

 霞は目を見開いた。

 

「何……?」

 

 止めない?

 

 真正面からぶつからない?

 

 違和感。

 

 だがもう遅い。

 

 董卓軍は勢いに乗りすぎていた。

 

「そのまま通せ」

 

 時雨が笑う。

 

 董卓軍は中央を突破する。

 

 そして。

 

「今」

 

 黒山兵たちが一斉に縄を引いた。

 

 バサァァッ!!

 

「なっ!?」

 

 大量の布が空から落ちる。

 

 巨大な幕。

 

 油を染み込ませた黒布だった。

 

 霞たち前衛部隊へ覆い被さる。

 

「何やこれ!?」

 

「前が見えへん!?」

 

 馬が暴れる。

 

 兵が混乱する。

 

 そこへ。

 

「火ぃつけろ」

 

 ボォォォォォッ!!

 

 布が燃え上がった。

 

「うぉぉぉ!?」

 

 火の壁。

 

 だが兵を焼くためではない。

 

 視界を奪い、隊列を分断するため。

 

 黒煙が立ち込める。

 

 董卓軍は完全に混乱した。

 

「チッ!」

 

 霞は舌打ちする。

 

 やはり罠。

 

 だが。

 

「関係あらへん!!」

 

 霞は煙を突っ切る。

 

 目指すは華雄。

 

 その時。

 

「待っていた」

 

 静かな声。

 

「っ!?」

 

 煙の中から愛紗が現れた。

 

 青龍偃月刀が唸る。

 

「うぉぉぉ!!」

 

 ガギィィン!!

 

 霞が受け止める。

 

「関羽ぅ!!」

 

「貴様は通さん!」

 

 凄まじい衝撃。

 

 地面が割れる。

 

 同時に。

 

「こちらもいるぞ」

 

 反対側から星が飛び込む。

 

 銀槍が閃く。

 

「チィ!!」

 

 霞が弾く。

 

 だが。

 

 二対一。

 

 しかも両方強い。

 

「やりづらいなぁ!!」

 

 霞は笑う。

 

 戦場の空気が変わる。

 

 猛将同士の激突。

 

 兵たちが息を呑む。

 

 だが。

 

 時雨だけは後ろで酒を飲んでいた。

 

「頭領、行かねぇんですか?」

 

 黒山兵が聞く。

 

「んー?」

 

 時雨は笑う。

 

「必要ねぇだろ」

 

 視線の先。

 

 愛紗と星が霞を押し始めていた。

 

「強ぇなぁ」

 

 時雨は感心したように言う。

 

「ありゃ本物だ」

 

 だが。

 

 霞もただではない。

 

「邪魔やぁぁ!!」

 

 大槍が暴れる。

 

 愛紗と星を同時に弾き飛ばした。

 

「くっ!」

 

「ほぉ」

 

 星が少し笑う。

 

「やるな」

 

「当たり前や!」

 

 霞は荒く息を吐く。

 

 そして走る。

 

 華雄の元へ。

 

 あと少し。

 

 手が届く。

 

 その瞬間。

 

「――動くな」

 

 ガチャリ。

 

「……は?」

 

 霞が止まった。

 

 周囲。

 

 いつの間にか黒山兵たちがいた。

 

 しかも。

 

 全員が弩を構えている。

 

 至近距離。

 

 数十。

 

「なっ……!?」

 

 完全に包囲されていた。

 

 いつの間に。

 

 煙。

 

 混乱。

 

 戦闘。

 

 その間に、黒山兵たちが静かに囲んでいた。

 

「賊らしいやり方だろ?」

 

 時雨が笑う。

 

 霞が睨む。

 

「卑怯やぞ……!」

 

「戦だぜ?」

 

 時雨は平然としていた。

 

「正々堂々なんざ、死にてぇ奴がやることだ」

 

 霞は歯噛みする。

 

 だが。

 

 まだ終わっていない。

 

「舐めんなぁ!!」

 

 霞が強引に踏み込もうとした。

 

 その瞬間。

 

 ヒュンッ!!

 

「っ!?」

 

 ワイヤー。

 

 細い鋼線が霞の槍へ巻き付く。

 

 さらに。

 

 足。

 

 腕。

 

 首。

 

「な……!?」

 

 黒山兵たちが一斉に引いた。

 

 賊らしい。

 

 極めて賊らしい捕縛術。

 

 武人同士の一騎討ちなどしない。

 

 数で絡め取る。

 

「ぐっ……!!」

 

 霞が暴れる。

 

 だが鋼線は外れない。

 

「離さんかぁ!!」

 

「無理だな」

 

 時雨が近付く。

 

 霞は睨みつけた。

 

「ド外道……!」

 

「知ってる」

 

 時雨は笑った。

 

 そして。

 

「捕まえた」

 

 その瞬間。

 

 董卓軍の士気が崩壊した。

 

「張遼様ぁ!?」

 

「撤退!! 撤退ぃぃ!!」

 

 兵たちが逃げ始める。

 

 混乱。

 

 悲鳴。

 

 戦場が崩れていく。

 

 白蓮はその光景を見ながら呆然としていた。

 

「……また勝った」

 

「だな」

 

「しかも敵将捕縛って」

 

「二人目」

 

「頭痛い……」

 

 桃香も固まっていた。

 

「すごいけど……何かすごい嫌な勝ち方……」

 

「時雨さんらしいな」

 

 星が苦笑する。

 

 愛紗は槍を下ろしながら溜息を吐いた。

 

「本当に外道だな」

 

「褒めんなって」

 

「褒めてない!」

 

 いつものやり取り。

 

 だが。

 

 周囲の諸侯たちは完全に引いていた。

 

「張燕……危険すぎる」

 

「絶対敵に回したくない……」

 

「賊の戦いだ……」

 

 誰もが理解する。

 

 黒山の狼は、英雄ではない。

 

 正義でもない。

 

 だが。

 

 乱世を生き残る怪物だった。




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