【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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第二百三十五話 同盟の条件

第二百三十五話 同盟の条件

 

 

成都。

 

蜀王宮。

 

春も終わりに近づき、都は穏やかな空気に包まれていた。

 

民達は豊かな暮らしを送り。

 

市場は活気に満ちている。

 

表面だけ見れば。

 

天下は平和だった。

 

しかし。

 

その平和の裏で。

 

北郷一刀は静かに盤上の駒を動かしていた。

 

執務室。

 

一刀は地図を見つめている。

 

その隣には劉備。

 

桃色の髪を揺らしながら報告書へ目を通していた。

 

だが最近の彼女は以前とは違う。

 

燕の報告を見る時間が増えた。

 

そして。

 

考え込む時間も増えた。

 

一刀はそれを理解している。

 

少しずつ。

 

少しずつ。

 

劉備の中で変化が起きている。

 

そして今日。

 

最後の一押しを行う時だと判断していた。

 

「桃香」

 

「うん?」

 

劉備が顔を上げる。

 

一刀は真剣な表情だった。

 

その顔を見て劉備も姿勢を正す。

 

「話がある」

 

「どうしたの?」

 

「燕についてだ」

 

その言葉に劉備の表情が曇る。

 

最近ずっと考えている問題だった。

 

一刀は静かに続けた。

 

「もし」

 

「うん」

 

「このまま同盟を続けるなら条件が必要だと思う」

 

劉備は驚いた。

 

「条件?」

 

「そうだ」

 

一刀は頷く。

 

「今の燕は強すぎる」

 

「……」

 

「天下の均衡が崩れている」

 

劉備は黙って聞く。

 

反論できない。

 

魏を吸収した燕は巨大国家となった。

 

兵力。

 

領土。

 

人口。

 

どれを見ても圧倒的だった。

 

「ならどうするの?」

 

劉備は尋ねた。

 

一刀は少し間を置く。

 

そして。

 

静かに言った。

 

「黒山軍を解体させる」

 

部屋が静まり返った。

 

劉備は目を見開く。

 

予想していなかった。

 

「黒山軍を?」

 

「そうだ」

 

一刀は頷く。

 

「燕軍ではない」

 

「黒山軍だ」

 

その言葉には意味があった。

 

燕という国家を否定するわけではない。

 

問題は黒山軍。

 

張燕の原点。

 

黒山賊から始まった巨大勢力。

 

一刀は机へ手を置く。

 

「考えてみろ」

 

「……」

 

「黒山軍は元々賊だ」

 

劉備は小さく俯く。

 

その事実は知っている。

 

「今は張燕がいるから統率されている」

 

「うん」

 

「だが未来は違うかもしれない」

 

静かな声だった。

 

「張燕が老いたら?」

 

「……」

 

「張燕が死んだら?」

 

劉備の肩が震える。

 

聞きたくない話だった。

 

だが。

 

王として考えなければならない。

 

一刀は続ける。

 

「黒山軍は一人の男へ依存し過ぎている」

 

「……」

 

「国家として危険だ」

 

劉備は反論できない。

 

なぜなら。

 

それは一理あるように思えたからだ。

 

一刀はさらに言う。

 

「だから解体する」

 

「黒山軍を?」

 

「そう」

 

「燕軍へ統合する」

 

その提案自体は極端ではなかった。

 

賊軍から始まった組織を正規軍へ組み込む。

 

国家として見れば自然な流れでもある。

 

一刀は劉備を見る。

 

「それが同盟継続の条件だ」

 

劉備は沈黙した。

 

部屋に重い空気が流れる。

 

時雨の顔が浮かぶ。

 

黒山で笑っていた姿。

 

共に戦った日々。

 

助けられた記憶。

 

たくさんある。

 

だが。

 

もう一つの顔も浮かぶ。

 

天下最大の勢力。

 

十万を超える黒山軍。

 

強大な軍事力。

 

そして。

 

誰にも止められない巨大国家。

 

理想と現実。

 

その二つがぶつかる。

 

劉備は苦しそうだった。

 

一刀は急かさない。

 

答えを待つ。

 

しばらくして。

 

劉備が小さく口を開いた。

 

「それで平和になるかな」

 

一刀は答える。

 

「今よりは」

 

断言だった。

 

「少なくとも天下は安定する」

 

劉備は目を閉じる。

 

心の中で葛藤が続く。

 

だが。

 

最後に浮かんだのは民達の顔だった。

 

戦乱に苦しむ人々。

 

家族を失う人々。

 

それを守りたい。

 

その願いは今も変わらない。

 

やがて。

 

劉備は静かに頷いた。

 

「分かった」

 

一刀は何も言わない。

 

「時雨さんに話してみる」

 

それが答えだった。

 

無条件の信頼ではない。

 

王として判断する。

 

それが今の劉備だった。

 

一刀は小さく頷く。

 

「それでいい」

 

窓の外では夕日が沈み始めていた。

 

長い時間をかけて積み重ねた疑念。

 

警戒心。

 

不安。

 

それらは今、一つの提案という形になった。

 

そして遠く許昌。

 

張燕は執務室で机に突っ伏していた。

 

「帰りたい」

 

「どこへですか」

 

桂花が聞く。

 

「黒山」

 

「却下です」

 

即答だった。

 

雪蓮が笑う。

 

華琳も酒を飲みながら肩を震わせる。

 

誰も知らない。

 

成都で同盟の形が変わろうとしている事を。

 

そして近いうちに。

 

蜀から一つの要求が届く事を。

 

それは同盟の継続か。

 

あるいは決裂への第一歩か。

 

まだ誰にも分からない。

 

だが天下は確実に動き始めていたのである。

 




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