【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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第二百三十八話 決裂

第二百三十八話 決裂

 

 

襄陽。

 

夜が明けても会談は続いていた。

 

蜀と燕。

 

天下を二分する二大勢力。

 

その頂点に立つ者達は再び同じ卓へ着いていた。

 

昨日の会談では結論は出なかった。

 

だが。

 

誰もが理解している。

 

今日こそ決着がつく。

 

同盟が続くのか。

 

終わるのか。

 

その答えが出る日だった。

 

大広間の空気は重い。

 

昨日よりも重い。

 

互いの立場。

 

互いの考え。

 

全てが明らかになったからだ。

 

公孫瓚は腕を組んでいる。

 

華琳は冷静な表情を崩さない。

 

桂花は蜀側を警戒していた。

 

張燕だけは相変わらずだった。

 

だが。

 

その目だけは鋭い。

 

向かい側。

 

劉備は眠れなかったのだろう。

 

少し疲れた顔をしている。

 

愛紗達も複雑な表情だった。

 

そして。

 

北郷一刀。

 

ただ一人。

 

平静だった。

 

まるでこの流れを予想していたかのように。

 

会談は北郷一刀から始まった。

 

「結論から話そう」

 

全員の視線が集まる。

 

「蜀の要求は変わらない」

 

静かな声。

 

だが断固としていた。

 

「黒山軍の解体」

 

「それが同盟継続の条件だ」

 

昨日と同じ言葉。

 

しかし。

 

今日は重みが違う。

 

最後通告だった。

 

華琳が口を開く。

 

「何度聞いても馬鹿げているわね」

 

冷たい声だった。

 

「蜀は同盟を続ける気があるの?」

 

「ある」

 

一刀は即答する。

 

「だから条件を出している」

 

「条件?」

 

華琳は笑う。

 

「脅迫の間違いじゃなくて?」

 

空気が張り詰める。

 

愛紗が立ち上がりそうになる。

 

だが劉備が制した。

 

張燕は黙っている。

 

その様子を見ながら。

 

一刀はさらに言葉を重ねる。

 

「蜀は天下の安定を望む」

 

「燕もそうだろう」

 

「なら危険の芽は摘むべきだ」

 

公孫瓚が笑った。

 

乾いた笑いだった。

 

「危険の芽?」

 

「そうだ」

 

「黒山軍は危険だ」

 

その言葉が響く。

 

一瞬だけ。

 

張燕の目が細くなった。

 

一刀は続ける。

 

「今は張燕がいる」

 

「だが未来は違う」

 

「黒山軍という巨大組織は必ず問題になる」

 

その言葉を聞きながら。

 

張燕は静かに考えていた。

 

昔の事を。

 

黒山の山々。

 

飢えた民達。

 

賊として追われた日々。

 

何も持たなかった時代。

 

そこから始まった。

 

黒山軍はただの軍隊ではない。

 

生き残るための家族だった。

 

だから。

 

解体などできるはずがない。

 

そこで張燕が立ち上がる。

 

場の空気が変わった。

 

「桃香」

 

劉備が顔を上げる。

 

張燕は笑っていた。

 

怒っていない。

 

叫んでもいない。

 

だが。

 

その笑顔はどこか寂しかった。

 

「最後に聞く」

 

「うん……」

 

「これはお前の答えか?」

 

沈黙。

 

長い沈黙だった。

 

劉備の拳が震える。

 

迷いがある。

 

苦しみもある。

 

だが。

 

最後に彼女は頷いた。

 

「そうです」

 

その言葉が響く。

 

張燕は目を閉じた。

 

そして。

 

ゆっくり息を吐く。

 

「そうか」

 

それだけだった。

 

怒りは無い。

 

責める言葉も無い。

 

ただ。

 

何かが終わったような声だった。

 

公孫瓚も立ち上がる。

 

「なら話は終わりだ」

 

劉備が顔を上げる。

 

「白蓮ちゃん……」

 

「燕は黒山軍を解体しない」

 

断言だった。

 

迷いは無い。

 

「黒山軍は燕の歴史だ」

 

「燕の誇りだ」

 

「捨てるつもりは無い」

 

大広間が静まり返る。

 

誰も言葉を発しない。

 

そして。

 

北郷一刀が静かに口を開いた。

 

「ならば」

 

全員の視線が向く。

 

「同盟は成立しない」

 

その一言だった。

 

劉備が目を閉じる。

 

愛紗達も表情を曇らせる。

 

だが。

 

誰も否定しない。

 

ここまで来れば。

 

もう戻れない。

 

張燕は一刀を見る。

 

「これがお前の狙いか」

 

一刀は答えない。

 

沈黙。

 

だが。

 

それで十分だった。

 

張燕は苦笑する。

 

「なるほどな」

 

全て繋がった。

 

黒山軍解体要求。

 

桃香への働きかけ。

 

襄陽会談。

 

最初から目的は一つ。

 

同盟破棄。

 

そのための布石だった。

 

公孫瓚が宣言する。

 

「本日をもって」

 

燕王の声が響く。

 

「蜀と燕の同盟は終了する」

 

静寂。

 

誰も動かない。

 

誰も声を出さない。

 

長年続いた同盟。

 

共に戦った日々。

 

全てが終わった瞬間だった。

 

劉備は俯いている。

 

張燕はそんな彼女を見る。

 

昔の桃香なら。

 

こんな結末にはならなかっただろう。

 

そう思った。

 

だが。

 

今さら言っても意味は無い。

 

王には王の責任がある。

 

そして。

 

選んだ以上は進むしかない。

 

会談は終了した。

 

蜀の一行。

 

燕の一行。

 

互いに別々の出口へ向かう。

 

もう同盟国ではない。

 

ただの隣国だった。

 

城門の前。

 

張燕は馬へ乗る。

 

雪蓮が隣に並ぶ。

 

華琳も続く。

 

公孫瓚は最後に襄陽を振り返った。

 

「終わったな」

 

「ああ」

 

張燕は短く答える。

 

その視線の先。

 

城壁の上には北郷一刀が立っていた。

 

遠くから互いを見る。

 

言葉は無い。

 

だが。

 

理解していた。

 

次に会う時。

 

それは会談の席ではないかもしれない。

 

盤上の駒は全て並んだ。

 

そして。

 

天下に残る二つの大国。

 

燕。

 

そして蜀。

 

長年続いた同盟は終わった。

 

天の御使いの暗躍によって生まれた亀裂は。

 

ついに修復不可能なものとなったのである。

 

そして天下は静かに。

 

しかし確実に。

 

新たな戦乱の時代へ向かって動き始めていた。

 




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