第二百四十話 動き始める天下
許昌の王城では、燕王・公孫瓚による天下統一宣言から数日が過ぎていた。
その宣言は国中を駆け巡り、燕国全土の将兵に新たな緊張感をもたらしていた。
これまで燕は、黒山軍を中心に各地の戦乱を乗り越え、魏を取り込み、巨大国家へと成長してきた。
しかし、その力をもってなお白蓮が目指していたのは、蜀との共存だった。
天下を二つに分け、それぞれが民を守りながら平和を築く。
それが最も多くの血を流さずに済む未来だと考えていた。
だが、その未来は襄陽で終わった。
蜀は黒山軍の解体を求めた。
それは燕にとって受け入れられない要求であり、同時に黒山の歴史そのものを否定する言葉でもあった。
今さら振り返ることはしない。
白蓮はそう決めていた。
王城では連日軍議が開かれ、各方面の将軍達が慌ただしく出入りしていた。
桂花は各地から届く兵站報告を山のように積み上げ、華琳は旧魏軍の再編成を指揮し、霞は西方の騎兵部隊をまとめ、恋は黙々と武具の点検を続けている。
黒山軍もまた、各砦から精鋭達が続々と許昌へ集結し始めていた。
そんな慌ただしい王城とは対照的に、一人だけいつもと変わらぬ男がいた。
「……暇だ。」
庭の木陰で寝転がる時雨である。
「暇じゃありません!」
桂花の怒声が庭中に響いた。
「戦争の準備で国中が忙しいんですよ!」
「だから俺がいてもいなくても変わらんだろ。」
「変わります!」
「俺は精神的支柱だからな。」
「自分で言いますか!」
華琳が通りかかり、小さくため息をついた。
「相変わらずね。」
「華琳。」
「戦が近いというのに寝ていていいの?」
「戦の前だから寝るんだ。」
「理由になっていないわ。」
時雨は起き上がり、空を見上げた。
青空はどこまでも澄み渡っている。
こんな日に戦の話ばかりしているのは、なんとも馬鹿らしく思えた。
「できれば戦いたくないんだけどな。」
その呟きは本心だった。
華琳は少しだけ驚く。
「意外ね。」
「面倒だからな。」
「やっぱりそれなのね。」
二人は思わず笑った。
そこへ雪蓮も現れる。
「時雨。」
「ん?」
「最近元気ないわね。」
「そうか?」
「分かるわよ。」
雪蓮は隣へ腰を下ろした。
「桃香のこと考えてる?」
時雨は答えなかった。
答えられなかった。
桃香。
愛紗。
鈴々。
昔、一緒に笑った仲間達。
まさか本当に戦う日が来るとは思っていなかった。
「向こうも苦しいんだろうな。」
ぽつりと漏らした一言。
雪蓮は頷いた。
「でも。」
「ん?」
「北郷一刀だけは別。」
時雨も静かに頷いた。
「ああ。」
襄陽で向き合ったあの男。
何を考えているのか。
いや、もう分かっている。
天下統一。
そのためなら手段を選ばない。
そんな相手だった。
一方その頃。
成都。
蜀王宮では北郷一刀が静かに地図を広げていた。
燕との国境。
荊州。
漢水。
各城の位置。
兵の配置。
補給路。
その全てを確認していく。
愛紗が尋ねた。
「本当に戦になるのか。」
「なる。」
一刀は迷いなく答える。
「燕は絶対に黒山軍を解体しない。」
「……。」
「だから交渉は終わった。」
劉備はその言葉を黙って聞いていた。
もう後戻りはできない。
そう理解していた。
一刀はさらに駒を動かす。
「こちらは時間を味方につける。」
「燕は大軍だ。」
「補給線を伸ばせば必ず隙ができる。」
「その時を狙う。」
朱里と雛里も真剣な表情で頷いた。
戦は始まっていない。
だが盤上では、すでに始まっている。
再び許昌。
夕暮れ。
白蓮は城壁の上から広大な燕の都を眺めていた。
そこへ時雨が歩いてくる。
「こんなところにいたのか。」
「少し風に当たりたくてね。」
二人は並んで立つ。
眼下には無数の家々。
そこに暮らす人々。
守るべき民。
「時雨。」
「ん?」
「勝てると思うか?」
白蓮の問いに、時雨は少しだけ考えた。
そして笑う。
「分からん。」
「正直だな。」
「でも。」
その笑顔が消える。
「負ける気もしない。」
黒山で生き抜いた日々。
幾度もの絶望。
それを越えてきた。
だから今さら恐れるものはない。
白蓮も笑った。
「そうだな」
二人は夕日を眺める。
やがて太陽は西の空へ沈んでいく。
その先には成都がある。
かつての仲間達がいる。
そして。
天下統一を目指す天の御使いが待っている。
戦乱の幕は、静かに上がろうとしていた。
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高順呂布ルート(ヒロイン恋、霞)
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朱霊曹操ルート(ヒロイン華琳、柳琳)
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周倉関羽ルート(ヒロイン愛紗)
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孫瑜孫権ルート(ヒロイン蓮華、粋怜)