【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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第二十四話 黒狼の檻

 

 

 

第二十四話 黒狼の檻

 

 

 汜水関は落ちた。

 

 董卓軍は敗走。

 

 反董卓連合軍は、大きな勝利を手にしていた。

 

 関所の上には連合軍の旗が翻り、兵たちの歓声が響く。

 

「勝ったぁぁぁ!!」

 

「董卓軍を追い払ったぞ!」

 

「酒だ酒ぃ!!」

 

 兵士たちは大騒ぎだった。

 

 当然である。

 

 天下に名高い汜水関を突破した。

 

 しかも。

 

 敵将二人を生け捕りという異常な戦果付き。

 

 その功績の大半を叩き出したのは――。

 

「お前、本当に何なんだよ……」

 

 白蓮は頭を抱えていた。

 

 その視線の先。

 

 時雨は酒を飲みながら笑っている。

 

「賊」

 

「知ってる!!」

 

 だが。

 

 実際、誰もが理解していた。

 

 今回の勝利。

 

 最大の功労者は張燕だった。

 

 落とし穴。

 

 火計。

 

 挑発。

 

 煙幕。

 

 鋼線。

 

 卑劣。

 

 外道。

 

 だが、圧倒的に効果的。

 

「正面から戦ってないよねほとんど……」

 

 桃香が引き気味に呟く。

 

「姉者、時雨だからな」

 

 愛紗が遠い目をした。

 

 もはや諦め始めている。

 

「いやぁ、でも勝ちは勝ちだろ」

 

 時雨はケラケラ笑う。

 

 星は呆れたように肩を竦めた。

 

「お前の場合、勝ち方が問題なんだ」

 

「細けぇこと気にすんな」

 

「気にする」

 

 だが。

 

 その時。

 

「頭領!」

 

 黒山兵が駆け寄る。

 

「捕虜どうします?」

 

 空気が少し変わった。

 

 汜水関攻略。

 

 その結果生まれた二人の捕虜。

 

 張遼と華雄。

 

 董卓軍の主力武将だった。

 

「んー」

 

 時雨は少し考える。

 

「とりあえず見に行くか」

 

 その笑顔を見て。

 

 星が小さく溜息を吐いた。

 

「……嫌な予感しかしない」

 

「同感です」

 

 愛紗も真顔だった。

 

 汜水関内部。

 

 臨時の牢。

 

 そこに張遼はいた。

 

 両手を縛られている。

 

 だが目は死んでいない。

 

「チッ……」

 

 舌打ち。

 

 牢の外では黒山兵たちがニヤニヤしていた。

 

「張遼って思ったより美人だな」

 

「頭領気に入りそう」

 

「やめろお前ら」

 

 霞は睨む。

 

「殺すぞ」

 

「怖っ」

 

 だが。

 

 ガチャリ。

 

 牢の扉が開いた。

 

「よぉ紫髪」

 

「……」

 

 時雨だった。

 

 酒瓶片手。

 

 いつもの笑顔。

 

 霞は即座に睨みつける。

 

「ド外道」

 

「挨拶がひでぇ」

 

「誰のせいや思っとんねん!」

 

 当然である。

 

 華雄を磔にした挙句、服を剥ぎながら挑発。

 

 まともな神経なら怒る。

 

 だが。

 

 時雨は楽しそうだった。

 

「でも釣られた」

 

「ぐっ……!」

 

 痛いところだった。

 

 霞は歯噛みする。

 

 完全に冷静さを失っていた。

 

 それを利用された。

 

「……笑えばええやろ」

 

「笑ってる」

 

「腹立つわぁ!!」

 

 牢の外の黒山兵たちが笑う。

 

 だが。

 

 時雨はふと霞を見る。

 

「アンタ面白ぇな」

 

「は?」

 

「仲間のために飛び出すし、馬鹿正直だし」

 

「褒めてへんやろそれ」

 

「褒めてる」

 

 時雨は本気だった。

 

 乱世では珍しい。

 

 義理で動く人間。

 

 だからこそ扱いやすい。

 

 そして、嫌いじゃない。

 

「殺さへんのか」

 

 霞が低く聞く。

 

 時雨は少し黙った。

 

 そして。

 

「今んとこは」

 

「今んとこ!?」

 

「安心しろ。気に入ってる」

 

「それ全然安心できへん!」

 

 霞が本気で嫌そうな顔をする。

 

 時雨はケラケラ笑った。

 

「黒山来るか?」

 

「行くわけあるか!」

 

「だよなぁ」

 

 だが。

 

 その赤い目は本気だった。

 

 霞のような武将は欲しい。

 

 強く。

 

 義理堅く。

 

 部下受けもいい。

 

 乱世では貴重な人材だった。

 

「まぁ気長に考えろ」

 

「嫌やわ……」

 

 霞は頭を抱えた。

 

 完全に厄介なのへ捕まった。

 

 一方。

 

 別の牢。

 

 華雄は静かに座っていた。

 

 既に目を覚ましている。

 

 だが。

 

 無言だった。

 

 その周囲には黒山兵たち。

 

 視線がいやらしい。

 

「……」

 

 華雄は睨む。

 

 だが鎖で拘束されている。

 

 時雨が入ってきた。

 

「よぉ」

 

「……殺せ」

 

 即答だった。

 

 時雨は笑う。

 

「嫌だ」

 

「なぜだ」

 

「使える」

 

 華雄は眉を顰める。

 

「私は貴様に従わん」

 

「知ってる」

 

 時雨は酒を飲む。

 

 そして。

 

「でも兵は喜ぶ」

 

「……何?」

 

 その瞬間。

 

 華雄は理解した。

 

 周囲の黒山兵たちの目。

 

 下卑た笑み。

 

「貴様……!」

 

「乱世だぜ?」

 

 時雨は平然としていた。

 

「兵に褒美は必要だ」

 

 最低だった。

 

 愛紗がその場にいたなら間違いなく斬りかかっている。

 

 だが。

 

 これが時雨の裏。

 

 黒山賊頭領。

 

 人を使い。

 

 恐怖で支配し。

 

 欲望すら利用する男。

 

「外道……!」

 

「知ってる」

 

 時雨は笑う。

 

 華雄は鎖を鳴らす。

 

「私は屈しない!」

 

「別に屈しなくていい」

 

 時雨は静かに言う。

 

「アンタが嫌がるほど、兵は喜ぶ」

 

 最悪だった。

 

 人の尊厳を踏み躙る。

 

 戦場の現実。

 

 そして。

 

 時雨はそれを躊躇わない。

 

 華雄は睨み続ける。

 

 その目には怒り。

 

 憎悪。

 

 殺意。

 

 だが。

 

 時雨は気にも留めなかった。

 

「ま、すぐ壊れるかもな」

 

 軽い口調だった。

 

 そして牢を出る。

 

 外へ出ると。

 

 そこには星が立っていた。

 

「……聞いていたか」

 

「ああ」

 

 星は静かに時雨を見る。

 

「それがお前のやり方か」

 

「何が」

 

「恐怖と欲望で縛る」

 

 時雨は笑う。

 

「賊だからな」

 

「……」

 

「綺麗事だけで国なんざ回らねぇよ」

 

 星は黙る。

 

 理解はしている。

 

 だが。

 

 納得はできない。

 

「桃香には見せるなよ」

 

 星が静かに言う。

 

「あの理想家は泣く」

 

「分かってる」

 

 時雨は空を見る。

 

 虎牢関。

 

 次の戦場が待っている。

 

 そして。

 

 乱世はまだ始まったばかりだった。

 

 




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