【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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第二百四十三話 三つの軍勢

第二百四十三話 三つの軍勢

 

 

夜明けとともに、許昌の城門がゆっくりと開かれた。

 

重厚な門が軋む音は城下町中へ響き渡り、待機していた兵士達が一斉に姿勢を正す。

 

朝靄の向こうには無数の旗が揺れていた。

 

燕国。

 

黒山軍。

 

旧魏軍。

 

それぞれ異なる歴史を歩んできた軍勢が、今は同じ燕の旗の下へ集結している。

 

兵士達の鎧が朝日に照らされ、まるで大地そのものが輝いているようだった。

 

城壁の上には民達が集まり、これから出陣する将兵へ声援を送っている。

 

誰もが不安を抱えていた。

 

しかし同時に信じてもいた。

 

燕は負けない。

 

そう信じて送り出していた。

 

王城正門。

 

白蓮は白馬へ跨り、眼下に広がる大軍を見渡していた。

 

燕王として初めて挑む天下統一戦。

 

その責任は計り知れない。

 

だが、その表情には迷いはなかった。

 

隣には華琳が立つ。

 

「準備は整ったわ。」

 

「ああ。」

 

白蓮は短く頷く。

 

「予定通り軍を三つへ分ける。」

 

桂花が地図を広げた。

 

「第一軍。」

 

「燕王公孫瓚本隊。」

 

「兵力十五万。」

 

「進軍先は荊州。」

 

白蓮は地図へ視線を落とした。

 

荊州。

 

蜀との正面戦線。

 

敵の主力を引き受ける最も重要な戦場だった。

 

「第二軍。」

 

桂花は続ける。

 

「華琳率いる旧魏軍。」

 

「兵力八万。」

 

「進軍先は徐州。」

 

華琳が小さく笑う。

 

「久しぶりね。」

 

その視線は東を向いていた。

 

かつて自ら治めていた土地。

 

魏王として幾度も駆け抜けた戦場。

 

今度は燕軍の総大将として帰還する。

 

運命とは皮肉なものだった。

 

「そして第三軍。」

 

桂花は最後の駒を置く。

 

「黒山軍。」

 

「兵力十万。」

 

「進軍先は漢中。」

 

その言葉に場の空気が変わる。

 

漢中。

 

蜀防衛の要。

 

険しい山岳地帯。

 

そこを突破できれば成都への道が開ける。

 

誰もが難所と知る場所だった。

 

白蓮は静かに時雨を見る。

 

「任せたぞ。」

 

時雨は肩を竦めた。

 

「了解。」

 

いつもと変わらない返事だった。

 

だが、その瞳には黒山の頭領としての覚悟が宿っている。

 

その後ろへ三人が並んだ。

 

星。

 

恋。

 

霞。

 

星は槍を肩へ担ぎ、静かに笑う。

 

「漢中か。」

 

「久しぶりに骨のある戦になりそうですな。」

 

恋は巨大な方天画戟を軽々と持ち上げる。

 

「恋。」

 

「負けない。」

 

霞は腰へ手を当てながら笑った。

 

「山道なら黒山軍の独壇場や。」

 

三人とも表情は明るい。

 

恐れはなかった。

 

黒山軍は山で生まれた軍勢である。

 

険しい地形こそ彼らの本領だった。

 

時雨は黒山兵達を見回した。

 

皆、長年苦楽を共にした仲間達。

 

賊だった頃から付き従ってきた者。

 

燕建国後に加わった若者。

 

様々だった。

 

しかし。

 

今は全員が同じ旗を見上げている。

 

黒地に翻る黒山の旗。

 

その旗を見つめながら時雨は静かに息を吸った。

 

「みんな。」

 

兵士達が顔を上げる。

 

時雨はいつものように笑った。

 

「難しい話はしない。」

 

黒山兵達も笑い始める。

 

それが時雨だった。

 

長々と演説する男ではない。

 

「全員。」

 

少しだけ声が低くなる。

 

「生きて帰るぞ。」

 

その一言だけだった。

 

しかし。

 

黒山兵達は一斉に武器を掲げた。

 

「おおおおおおおっ!」

 

山を揺るがすような歓声。

 

それを聞いた白蓮も笑う。

 

「やはり時雨らしい。」

 

華琳も頷いた。

 

「短いけれど十分ね。」

 

雪蓮は笑いながら馬へ飛び乗る。

 

「さて。」

 

「天下最後の戦争を始めましょう。」

 

やがて軍旗が掲げられる。

 

第一軍。

 

燕王公孫瓚本隊。

 

進路は荊州。

 

第二軍。

 

華琳率いる旧魏軍。

 

進路は徐州。

 

第三軍。

 

黒山軍。

 

総大将・張燕。

 

その左右には星、恋、霞が並び、進路は漢中。

 

三本の大軍がそれぞれ異なる道を進み始めた。

 

土煙が大地を覆う。

 

数十万の軍勢が進軍する音は雷鳴のように響き渡った。

 

こうして燕軍は三方向から蜀へ迫る。

 

天下を決する最後の戦いは、ついに幕を開けたのである。

 




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