【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

250 / 261
第二百五十二話 戦局、燕へ傾く

第二百五十二話 戦局、燕へ傾く

 

 

漢中の戦いが終わりを迎えた頃、山々を吹き抜ける風は、勝敗を知らせるように黒山の旗を大きく揺らしていた。

 

蜀軍本陣は制圧され、各隊は統制を失ったまま各地へ散っていく。

 

総大将・諸葛亮。

 

副将・黄忠。

 

二人の捕縛という報は瞬く間に前線全体へ広がり、蜀軍の士気は大きく揺らいだ。

 

黒山軍は追撃を急がない。

 

時雨の命令はただ一つ。

 

「必要以上に戦うな」

 

その命令は全軍へ徹底されていた。

 

降伏する兵は受け入れ、武器を捨てた者へ無理な攻撃は加えない。

 

その一方で、軍事拠点や補給基地は確実に制圧し、蜀軍の再編を許さない。

 

黒山軍らしい徹底した戦い方だった。

 

漢中城には黒山の旗が掲げられ、守備隊の配置も終わる。

 

時雨は城壁の上から山々を見渡していた。

 

その隣には星が立っている。

 

「終わったな」

 

時雨は静かに頷いた。

 

「いや」

 

「まだ始まったばかりだ」

 

星は時雨の横顔を見ながら微笑む。

 

「戦が終わっても、時雨は休まないんだな」

 

「休めるほど器用じゃない」

 

「それも時雨らしい」

 

そのやり取りに、霞が笑いながら近付いてきた。

 

「二人とも、見張りの兵が羨ましそうに見とるで」

 

星は涼しい顔で答える。

 

「気にするな」

 

「お姉さんは自由だからな」

 

霞は呆れたように肩をすくめた。

 

恋も静かに歩いてくる。

 

「時雨」

 

「捕まえた人」

 

「どうする」

 

時雨は少し考え、静かに答えた。

 

「燕へ送る」

 

「丁重にな」

 

恋は短く頷いた。

 

「分かった」

 

その日のうちに護衛部隊が編成される。

 

護送されるのは諸葛亮と黄忠。

 

二人は縄で縛られることもなく、それぞれ馬車へ案内された。

 

黒山兵も無駄な言葉は掛けない。

 

戦で敗れた将として、礼をもって接していた。

 

黄忠は苦笑する。

 

「思っていたより丁寧なのね」

 

諸葛亮も静かに周囲を見回した。

 

「張燕さんらしいですね」

 

「勝っても驕らない」

 

「だからこそ厄介な相手です」

 

護送隊はゆっくりと燕国への道を進み始める。

 

その頃。

 

許昌では各地から次々と戦果が届けられていた。

 

王城の広間。

 

白蓮は報告書を読み終え、小さく息を吐いた。

 

「漢中陥落」

 

「諸葛亮、黄忠を捕縛」

 

桂花が続けて別の報告を読み上げる。

 

「曹操将軍率いる徐州方面軍も連勝」

 

「蜀軍は各地で後退を開始しています」

 

さらに新たな伝令が駆け込んできた。

 

「申し上げます!」

 

「荊州方面でも我が軍優勢!」

 

「蜀軍は守勢へ移りました!」

 

広間に集まる将達の表情が明るくなる。

 

戦局は完全に燕へ傾き始めていた。

 

白蓮は地図へ視線を向ける。

 

荊州。

 

徐州。

 

漢中。

 

三方面すべてで燕軍が優位に立っている。

 

それでも油断はしなかった。

 

「まだ終わってはいない」

 

「相手は蜀だ」

 

「最後まで気を抜くな」

 

将達は一斉に頭を下げた。

 

「はっ!」

 

一方、成都。

 

張飛は疲れ切った兵達を率いて城門へ辿り着いていた。

 

門兵は張飛の姿を見るなり表情を変える。

 

「張飛将軍!」

 

「諸葛亮様は!」

 

張飛は悔しそうに拳を握り締めた。

 

「朱里と紫苑は捕まったのだ……」

 

その一言だけで十分だった。

 

城内には重苦しい空気が流れる。

 

蜀は漢中を失い、二人の重要な将を失った。

 

一方の燕軍は勢いを増し、各戦線で着実に勝利を重ねている。

 

天下の行方は、ゆっくりと、しかし確実に燕国へ傾き始めていた。

 




感想、評価、お気に入りよろしくお願い致します!

次の作品の主人公とルートは誰がいい?

  • 高順呂布ルート(ヒロイン恋、霞)
  • 朱霊曹操ルート(ヒロイン華琳、柳琳)
  • 周倉関羽ルート(ヒロイン愛紗)
  • 孫瑜孫権ルート(ヒロイン蓮華、粋怜)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。