【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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最終回後の外伝となります。
これにて終わりとなります!


外伝話 黒山の春、狼の家族

外伝話 黒山の春、狼の家族

 

 

 

 

春の黒山は、十年前とはまるで違う姿をしていた。

 

かつて「黒山党」と呼ばれた巨大な賊の根城は、今では豊かな村へと姿を変えている。

 

山腹には段々畑が広がり、子どもたちの笑い声が風に乗って響く。

 

盗賊の砦だった場所には木造の家々が並び、鍛冶場からは規則正しい槌音が聞こえてくる。

 

戦乱を知らない子どもたちは、山道を駆け回り、野花を摘み、小川で魚を追いかけていた。

 

そんな黒山の外れ、小高い丘の上に一軒の家が建っていた。

 

決して豪華ではない。

 

しかし丁寧に手入れされた庭には季節の花が咲き、小さな畑では野菜が青々と育っている。

 

そこで暮らす一家は、この村では少しだけ有名だった。

 

父の名は、趙燕。

 

真名は時雨。

 

普段は薪を割り、畑を耕し、ときには村人の相談にも乗る、ごく普通の男にしか見えない。

 

昔の彼を知る者はほとんどいない。

 

黒山の狼。

 

天下を揺るがした張燕。

 

その名を知る者は、もう数えるほどしか残っていなかった。

 

そして母。

 

趙雲。

 

真名は星。

 

今でも槍の鍛錬は欠かさないが、朝は家族の食事を作り、昼は畑を手伝い、夜は夫婦で縁側に座って月を眺める。

 

穏やかな笑みを浮かべるその姿は、かつて戦場を駆けた名将とは思えないほど優しかった。

 

そして――。

 

「父ちゃん! 母ちゃん!」

 

元気な声が庭へ響く。

 

十歳になった少年。

 

趙統。

 

真名は時星。

 

黒髪は父譲り。

 

澄んだ瞳は母によく似ている。

 

「ただいま!」

 

竹で作った木刀を肩に担ぎ、汗だくになって家へ駆け込んできた。

 

「また山を走り回ってきたのか?」

 

薪を割っていた時雨が笑う。

 

「うん! 今日ね、村の兄ちゃんたち全員に勝った!」

 

胸を張る時星。

 

すると星が苦笑した。

 

「勝つことばかり考えては駄目だ。」

 

「えー?」

 

「強い者ほど、剣を抜かないものだ。」

 

「父ちゃんもそうなの?」

 

時星が尋ねる。

 

時雨は薪割りの斧を肩に担ぎながら笑った。

 

「俺は昔、無駄に抜きすぎた。」

 

「だから今は、畑の鍬しか持たねぇ。」

 

その言葉に、星は肩を震わせて笑う。

 

「それでも畑を耕す姿は、妙に似合っている。」

 

「うるせぇ。」

 

夫婦の軽口。

 

それは毎日のように交わされる、ごく当たり前の会話だった。

 

時星は、その様子を見るのが好きだった。

 

父はぶっきらぼうで、少し怖そうに見える。

 

でも困っている人を見ると放っておけない。

 

母は穏やかだけれど、父には遠慮なく意見を言う。

 

そして父も、それを嫌がる様子はない。

 

そんな二人を見ていると、「夫婦」というものはこういうものなのだろうと思えてくる。

 

その日の夕方。

 

三人は丘の上へ登っていた。

 

黒山全体が見渡せる場所。

 

夕日に染まる村を見ながら、時星はぽつりと尋ねた。

 

「父ちゃん。」

 

「あ?」

 

「昔、本当に盗賊だったの?」

 

時雨は少しだけ目を細めた。

 

隣に立つ星も静かに空を見上げている。

 

風が吹く。

 

春の匂いが流れる。

 

「……そうだ。」

 

短い返事だった。

 

「悪いこともいっぱいした。」

 

時星は黙って聞く。

 

「でも、そのおかげで守れた命もあった。」

 

「全部が正しかったとは言わねぇ。」

 

「今でも後悔してることは山ほどある。」

 

それでも。

 

時雨は村を見下ろした。

 

「だから、この景色だけは守りたかった。」

 

夕日に照らされる黒山。

 

笑い合う村人たち。

 

畑で働く老人。

 

走り回る子どもたち。

 

かつて血に染まった山は、今では命を育む山になっていた。

 

「父ちゃん。」

 

「なんだ。」

 

「俺、この黒山が好き。」

 

その言葉に。

 

時雨は何も言わなかった。

 

ただ、大きな手で息子の頭を優しく撫でた。

 

それだけで十分だった。

 

時星は、その手の温もりを一生忘れないだろうと思った。

 

春風が三人の間を吹き抜ける。

 

戦乱の時代を生き抜いた夫婦。

 

そして、その平和の中で育つ少年。

 

この穏やかな日々こそが、父と母が命を懸けて掴み取った未来なのだと、時星はまだ知らなかった。

 

 

父ちゃんには、不思議なところがある。

 

村では誰からも頼りにされているのに、自分の昔の話だけは滅多にしない。

 

母ちゃんも同じだった。

 

二人が戦について話すことはほとんどない。

 

時々、夜中に縁側で月を見ながら昔話をしているようだけど、僕が近づくと決まって話題を変えてしまう。

 

だから僕は、父ちゃんと母ちゃんがどんな人だったのか、本当はよく知らない。

 

知っているのは、村のみんなが二人を尊敬しているということだけだった。

 

翌朝。

 

黒山の空は雲ひとつない快晴だった。

 

「時星、今日は薪拾いを頼む。」

 

朝食の後、父ちゃんが斧を肩に担ぎながら言った。

 

「分かった!」

 

籠を背負い、山道へ向かう。

 

黒山は僕の庭みたいなものだ。

 

どこに薬草が生えているか、どこに山鳥の巣があるかも全部知っている。

 

歩き慣れた山道を進んでいると、不思議な場所へ迷い込んだ。

 

木々に覆われた崖の奥。

 

蔦に隠れた石段。

 

「こんな場所、あったかな……。」

 

好奇心に負けて進んでみる。

 

石段を登ると、そこには朽ちかけた建物が残っていた。

 

柱は傾き、屋根も半分崩れている。

 

けれど、その造りは普通の家ではない。

 

どこか砦のような雰囲気があった。

 

「ここ……。」

 

建物の中へ入る。

 

床には埃が積もっている。

 

壁には古い刀傷。

 

柱には矢が刺さった跡。

 

戦った場所なんだ。

 

そう思った。

 

奥へ進むと、小さな木箱が置かれていた。

 

恐る恐る開けてみる。

 

中に入っていたのは、一枚の黒い布。

 

色褪せてはいるが、狼の刺繍が縫い込まれている。

 

「狼……。」

 

その瞬間。

 

背後から静かな声が聞こえた。

 

「見つけたか。」

 

振り返る。

 

そこには父ちゃんが立っていた。

 

いつもの穏やかな顔ではない。

 

少しだけ寂しそうな目をしていた。

 

「父ちゃん……。」

 

「ここまで来たか。」

 

怒られると思った。

 

でも父ちゃんは怒らなかった。

 

ゆっくり建物を見回し、小さく息を吐く。

 

「ここは昔、黒山党の本拠地だった。」

 

「本拠地?」

 

「俺たちが暮らしていた場所だ。」

 

僕は周りを見渡した。

 

今の家とは全然違う。

 

冷たい石壁。

 

武器を掛ける棚。

 

まるで戦うためだけに造られた場所だった。

 

「父ちゃんは、ここで暮らしてたの?」

 

「ああ。」

 

「毎日、剣を握ってた。」

 

父ちゃんは柱に残る傷を指でなぞる。

 

「生きるためにな。」

 

僕は何も言えなかった。

 

今の父ちゃんからは想像もできない。

 

畑を耕し、笑って、村のみんなと酒を飲む父ちゃん。

 

そんな人が、本当に「黒山の狼」と呼ばれていたなんて。

 

その時だった。

 

「やっぱりここにいた。」

 

入口から母ちゃんの声が聞こえた。

 

「星。」

 

父ちゃんが振り返る。

 

母ちゃんは僕の隣まで歩いてくると、優しく頭を撫でた。

 

「心配したぞ。」

 

「ごめん。」

 

母ちゃんは部屋を見渡し、懐かしそうに笑う。

 

「ここへ来るのも久しぶりだな。」

 

「母ちゃんも知ってるの?」

 

「ああ。」

 

「私も何度もここへ来た。」

 

父ちゃんと並び、崩れた壁を見る。

 

「初めて時雨と会った頃は、本当に酷い男だった。」

 

「おい。」

 

父ちゃんが苦笑する。

 

「人聞き悪いぞ。」

 

「事実だろ?」

 

母ちゃんはくすっと笑う。

 

「誰も信用せず、誰も近寄らせず、それでいて民だけは守ろうとする。」

 

「本当に不器用だった。」

 

父ちゃんは照れくさそうに頭をかいた。

 

「昔の話だ。」

 

「でも。」

 

母ちゃんは父ちゃんの横顔を見る。

 

「私は、その不器用なところが好きになった。」

 

その言葉に、父ちゃんは珍しく言葉を失っていた。

 

僕は思わず吹き出す。

 

「父ちゃん、照れてる!」

 

「うるさい。」

 

ぶっきらぼうに返事をする父ちゃんだったけれど、耳が少し赤くなっていた。

 

そんな父ちゃんを見るのは初めてだった。

 

母ちゃんは笑いながら父ちゃんの腕を軽く叩く。

 

「ほら、帰ろう。」

 

「ああ。」

 

父ちゃんは黒い狼の旗を箱へ戻した。

 

そして静かに蓋を閉じる。

 

「これは、もう眠らせておけばいい。」

 

その言葉の意味は、まだ僕には全部は分からなかった。

 

だけど一つだけ分かったことがある。

 

父ちゃんは過去を忘れたんじゃない。

 

過去を背負ったまま、それでも前へ歩くことを選んだんだ。

 

だから今、笑っていられる。

 

黒山の狼は伝説になった。

 

でも僕にとって父ちゃんは、畑仕事が好きで、母ちゃんには少しだけ弱くて、僕のことを誰よりも大切にしてくれる、世界で一番自慢の父親だった。

 

 

 外伝第三話 黒山の春、狼の家族(三)

 

朝露が草葉を濡らし、黒山に柔らかな陽光が差し込む。

 

鳥のさえずりが響き、山の空気はどこまでも澄んでいた。

 

そんな朝、僕――趙統、真名・時星は、庭の真ん中で一本の木の槍を握り締めていた。

 

「よし、始めようか。」

 

母ちゃん――星が微笑む。

 

その表情はいつもの優しい母ちゃんだった。

 

だけど木の槍を手にした瞬間、その空気は変わる。

 

穏やかな笑みはそのままなのに、全身から漂う気配が鋭くなる。

 

まるで一本の槍そのものだった。

 

「来てみろ、時星。」

 

「うん!」

 

僕は元気よく返事をすると、一気に踏み込んだ。

 

教わった通りに槍を突き出す。

 

狙いは母ちゃんの胸。

 

もちろん本気じゃない。

 

それでも今の僕にできる精一杯だった。

 

しかし――。

 

「まだ甘い。」

 

軽い声。

 

次の瞬間には、僕の槍は上へ弾かれ、気づけば背中を取られていた。

 

「えっ!?」

 

「足が止まってる。」

 

母ちゃんは笑う。

 

「槍は腕だけで使うものじゃない。」

 

「腰。」

 

「足。」

 

「呼吸。」

 

「全部が一つになって初めて、本当の槍になる。」

 

僕は悔しくて唇を噛んだ。

 

「もう一回!」

 

「いいぞ。」

 

それから何度も挑む。

 

十回。

 

二十回。

 

三十回。

 

結果は全部同じだった。

 

一度も母ちゃんに触れることすらできない。

 

汗だくになって座り込む僕を見て、縁側でお茶を飲んでいた父ちゃんが笑った。

 

「ははっ。」

 

「まだまだだな。」

 

「父ちゃん!」

 

「笑わないでよ!」

 

「笑うさ。」

 

父ちゃんは湯呑みを置きながら立ち上がる。

 

「星。」

 

「少し代われ。」

 

「いいのか?」

 

「ああ。」

 

母ちゃんは木の槍を父ちゃんへ渡した。

 

父ちゃんはそれを軽く振る。

 

「軽いな。」

 

「子ども用だから。」

 

「そうか。」

 

父ちゃんは僕の前へ立つ。

 

「来い。」

 

「本気でいいの?」

 

「本気で来い。」

 

僕は勢いよく飛び出した。

 

父ちゃんは動かない。

 

だったら――。

 

そう思って槍を突き出した瞬間だった。

 

視界が揺れた。

 

「え?」

 

気づけば僕は地面に尻もちをついていた。

 

何が起きたのか分からない。

 

「今……何したの?」

 

父ちゃんは肩をすくめる。

 

「避けただけだ。」

 

「嘘だ!」

 

「本当だ。」

 

母ちゃんが苦笑する。

 

「時雨は昔から、相手の力を利用するのが上手い。」

 

「真正面から受けることは、ほとんどない。」

 

僕は立ち上がる。

 

「ずるい!」

 

「ずるい?」

 

父ちゃんは笑った。

 

「戦いにずるいも何もあるか。」

 

その声は静かだった。

 

だけど、どこか昔を思い出しているようだった。

 

「相手が強ければ正面からぶつからない。」

 

「勝てないなら勝てる場所を探す。」

 

「それが俺の戦い方だった。」

 

僕は首を傾げる。

 

「でも、それじゃ卑怯って言われるよ。」

 

父ちゃんは少しだけ空を見上げた。

 

「そうだな。」

 

「昔は散々言われた。」

 

「悪党だ。」

 

「外道だ。」

 

「卑怯者だ。」

 

苦笑しながら話す。

 

「全部、本当だった。」

 

僕は驚いた。

 

父ちゃんは否定しない。

 

「でもな。」

 

父ちゃんは僕の肩に手を置く。

 

「戦う理由だけは間違えるな。」

 

「理由?」

 

「ああ。」

 

父ちゃんの目は真っ直ぐだった。

 

「自分の怒りのために戦うな。」

 

「自分の見栄のためにも戦うな。」

 

「守りたい誰かのためだけに戦え。」

 

その言葉は静かだった。

 

だけど、不思議なくらい胸に残った。

 

母ちゃんも隣で頷く。

 

「私は、その言葉を信じて時雨についていった。」

 

父ちゃんは照れ臭そうに頭をかいた。

 

「そんな格好いいもんじゃねぇよ。」

 

「いいや。」

 

母ちゃんは笑う。

 

「十分格好良かった。」

 

まただ。

 

また父ちゃんが照れている。

 

僕は思わず笑ってしまう。

 

「父ちゃん、また照れてる!」

 

「時星。」

 

「なんだよ。」

 

「今日は薪割り追加な。」

 

「ええっ!?」

 

僕が慌てると、母ちゃんが声を上げて笑った。

 

その笑い声は山へ響き、小鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

穏やかな時間だった。

 

天下統一を成し遂げた英雄も。

 

黒山の狼と恐れられた男も。

 

今はただ、一人の父親だった。

 

そして僕は心の中で思う。

 

いつか父ちゃんみたいに強くなりたい。

 

母ちゃんみたいに優しくなりたい。

 

二人が守ったこの黒山を、今度は僕が守れるようになりたい。

 

春風が吹く。

 

黒山の木々が優しく揺れ、その音はまるで未来を祝福するように、いつまでも山々へ響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

春祭りが終わると、黒山には再び穏やかな日常が戻ってきた。

 

村の広場には子どもたちの笑い声が響き、畑では農夫たちが鍬を振るい、家々の煙突からは夕餉の煙が立ち上る。

 

僕――趙統、真名・時星は、丘の上からその景色を眺めていた。

 

十年前まで、この山は戦いの山だった。

 

父ちゃんが「黒山の狼」と恐れられていた場所。

 

でも今は違う。

 

誰も怯えていない。

 

誰も飢えていない。

 

みんな笑って暮らしている。

 

「また考え事か?」

 

振り返ると父ちゃんが立っていた。

 

肩には薪を担ぎ、服には土が付いている。

 

天下を動かした英雄には、とても見えない。

 

「父ちゃん。」

 

「ん?」

 

「俺、大きくなったら父ちゃんみたいになれるかな。」

 

時雨は少し困ったように笑った。

 

「やめとけ。」

 

「なんで?」

 

「苦労しかしねぇ。」

 

僕は思わず笑ってしまう。

 

「でもさ。」

 

父ちゃんは少しだけ空を見上げた。

 

「俺より、お前の方が立派になれ。」

 

「父ちゃんより?」

 

「ああ。」

 

「親なんてのは、子どもに追い越されるためにいるんだ。」

 

その言葉は、とても自然だった。

 

僕は力強く頷く。

 

「うん!」

 

その返事を聞いた父ちゃんは、いつものように僕の頭を乱暴に撫でた。

 

「だったらいっぱい食って、いっぱい学べ。」

 

「はい!」

 

家へ戻ると、母ちゃんが夕飯を作っていた。

 

香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がっている。

 

「手を洗ってきなさい。」

 

「はーい!」

 

三人で囲む食卓。

 

湯気の立つ味噌汁。

 

焼き魚。

 

採れたばかりの野菜。

 

豪華ではない。

 

だけど僕は、この時間が何より好きだった。

 

食事を終えると、僕は眠気に負けて布団へ潜り込んだ。

 

「おやすみ!」

 

「おやすみ、時星。」

 

母ちゃんが優しく頭を撫でる。

 

父ちゃんは照れくさそうに笑いながら灯りを少し落とした。

 

僕は安心して目を閉じる。

 

その夜。

 

目が覚めると、縁側から二人の話し声が聞こえた。

 

眠そうなまま、障子の隙間からそっと覗く。

 

月明かりの下。

 

父ちゃんと母ちゃんが並んで座っていた。

 

二人とも湯呑みを片手に、静かな夜空を見上げている。

 

「静かだな。」

 

時雨がぽつりと言う。

 

「ああ。」

 

星は微笑んだ。

 

「いい夜だ。」

 

しばらく沈黙が続く。

 

風が竹林を揺らし、葉の擦れる音だけが聞こえていた。

 

やがて星が口を開く。

 

「なあ、時雨。」

 

「ん?」

 

「後悔してるか?」

 

父ちゃんは少しだけ考えた。

 

そして静かに首を横へ振る。

 

「いや。」

 

「全部が上手くいったわけじゃねぇ。」

 

「助けられなかった奴もいる。」

 

「泣かせた奴もいる。」

 

「恨まれもした。」

 

そこまで言うと、小さく笑った。

 

「でもな。」

 

「お前と出会えた。」

 

「時星が生まれた。」

 

「それだけで十分だ。」

 

星は優しく笑う。

 

「私も同じだ。」

 

「乱世を生きたことは忘れない。」

 

「でも、今はそれ以上に幸せだ。」

 

時雨は照れ臭そうに鼻を掻く。

 

「珍しく素直だな。」

 

「たまにはいいだろ。」

 

「まあな。」

 

再び静かな時間が流れる。

 

星はそっと時雨の肩へ寄り添った。

 

「私たちも歳を取ったな。」

 

「そうだな。」

 

「でも。」

 

星は時雨の横顔を見つめる。

 

「私は今の時雨が、一番好きだ。」

 

時雨は少しだけ目を丸くしたあと、苦笑した。

 

「急にそんなこと言うな。」

 

「照れてるのか?」

 

「……うるせぇ。」

 

「ふふっ。」

 

星は楽しそうに笑った。

 

時雨もつられて笑う。

 

戦場では決して見せなかった、穏やかな笑顔だった。

 

夜空には満天の星。

 

その光が二人を優しく照らしている。

 

「なあ、星。」

 

「なんだ?」

 

「これからも、よろしくな。」

 

星は迷うことなく答えた。

 

「ああ。」

 

「死ぬまで一緒だ。」

 

二人は静かに笑い合う。

 

乱世を駆け抜けた黒山の狼と白銀の槍は、戦友として、夫婦として、そして家族として、これからも同じ道を歩いていく。

 

その姿を見ながら、僕はもう一度静かに目を閉じた。

 

この黒山で。

 

この家族と一緒なら。

 

きっと明日も、幸せな一日になる。

 

――黒山の狼、乱世を嗤う 外伝・完。




読んでくれた読者の皆様!
お付き合いくださり、ありがとうございます!

みんな!愛してるぜベイベ★★


次作品、高順主人公でヒロイン恋。
https://syosetu.org/novel/418325/

次の作品の主人公とルートは誰がいい?

  • 高順呂布ルート(ヒロイン恋、霞)
  • 朱霊曹操ルート(ヒロイン華琳、柳琳)
  • 周倉関羽ルート(ヒロイン愛紗)
  • 孫瑜孫権ルート(ヒロイン蓮華、粋怜)
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