【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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第二十八話 鬼神狩り

 

第二十八話 鬼神狩り

 

 虎牢関。

 

 その名は、今や連合軍にとって悪夢そのものだった。

 

 何度攻めても落ちない。

 

 いや。

 

 正確には、一人の存在が全てを止めていた。

 

 呂布。

 

 赤い髪の鬼神。

 

 天下最強。

 

 その名に偽りは無かった。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

 兵士が吹き飛ぶ。

 

 方天画戟が横薙ぎに振るわれた瞬間、前列の兵がまとめて宙を舞った。

 

 骨が砕ける音。

 

 悲鳴。

 

 血飛沫。

 

 呂布は無表情だった。

 

「……弱い」

 

 淡々と呟く。

 

 その足元には兵士が転がっている。

 

 連合軍は完全に押されていた。

 

「駄目だ!」

 

「止められねぇ!」

 

「退けぇぇ!!」

 

 戦場は混乱。

 

 将たちですら前へ出たがらない。

 

 誰が見ても分かる。

 

 真正面から勝てる相手ではない。

 

「うーわ」

 

 後方の丘から戦場を見ていた時雨は笑った。

 

「想像以上だなアレ」

 

「笑ってる場合か……」

 

 白蓮は頭を抱える。

 

「どうすんだよ本当に……」

 

 時雨は酒を飲みながら呂布を見る。

 

 赤髪。

 

 小柄。

 

 無表情。

 

 だが、その存在感は異常だった。

 

「単純に強ぇ」

 

 愛紗も真剣な顔だった。

 

「武だけなら今まで見た誰より上だ」

 

「正面から戦うのは危険だな」

 

 星も頷く。

 

 桃香は青ざめていた。

 

「む、無理じゃないかなぁ……」

 

「無理だろうな」

 

「えぇ!?」

 

 時雨はケラケラ笑う。

 

「だから正面からやらねぇ」

 

 その瞬間。

 

 白蓮が嫌そうな顔をした。

 

「……何する気だ」

 

「鬼退治」

 

「絶対ロクなことしねぇ顔だなそれ!」

 

 だが。

 

 時雨の赤い目は冷静だった。

 

 強い相手ほど、正面からやらない。

 

 それが黒山の戦い方。

 

 そして。

 

 今回も例外ではない。

 

 夜。

 

 黒山兵たちが静かに動いていた。

 

 松明も使わない。

 

 音も立てない。

 

 まるで盗賊だった。

 

 実際、盗賊である。

 

「頭領、準備できやした」

 

「ご苦労」

 

 時雨はニヤニヤ笑う。

 

 目の前には大量の荷車。

 

 その中身は――。

 

「酒?」

 

 星が眉を顰める。

 

「しかも大量だな」

 

「董卓軍への差し入れ?」

 

「んな優しいことするかよ」

 

 時雨は笑った。

 

「毒?」

 

 愛紗が睨む。

 

「いや」

 

「なら何だ」

 

 時雨は酒樽を軽く叩く。

 

「眠り薬」

 

 空気が止まった。

 

「……は?」

 

 白蓮が固まる。

 

「え、まさか」

 

「呂布寝かす」

 

「最低だぁぁぁ!!」

 

 白蓮が叫ぶ。

 

 だが時雨は本気だった。

 

「だって真正面からやりたくねぇし」

 

「それでいいのか張燕!」

 

「勝てばいいんだよ」

 

 星が頭を押さえる。

 

「本当に外道だなお前……」

 

「褒めんな」

 

「褒めてない」

 

 作戦は単純だった。

 

 夜襲。

 

 董卓軍の補給へ紛れ込ませた酒樽。

 

 そこへ大量の眠り薬。

 

 そして。

 

「呂布だけじゃねぇ」

 

 時雨は笑う。

 

「周りも潰す」

 

 完全に賊。

 

 正々堂々の欠片も無い。

 

「こんなの軍師が聞いたら卒倒するぞ……」

 

 愛紗が遠い目をする。

 

「でも成功しそうなのが怖い」

 

 白蓮も否定できない。

 

 時雨の策は汚い。

 

 だが。

 

 効果だけは異常に高い。

 

 深夜。

 

 董卓軍陣営。

 

「酒だぁぁ!」

 

「勝利祝いだ!」

 

 兵士たちは騒いでいた。

 

 連合軍を押し返し続けている。

 

 士気は高い。

 

 だからこそ警戒も薄い。

 

「ん……」

 

 呂布は少しだけ酒を見る。

 

「呂布様も飲んでください!」

 

 兵士たちが笑う。

 

 呂布は静かに酒を口にした。

 

 その頃。

 

 遠くの丘。

 

 時雨は双眼鏡代わりの筒を覗きながら笑っていた。

 

「飲んだ」

 

「本当にやりやがった……」

 

 白蓮が引いている。

 

 愛紗も頭を抱えていた。

 

「天下最強相手にやる策じゃない……」

 

「むしろ天下最強だからやる」

 

 時雨は静かに言う。

 

「真正面から勝てねぇ奴を正面からやるのは馬鹿だ」

 

 数刻後。

 

 董卓軍陣営は静かになっていった。

 

 兵たちが次々倒れる。

 

「……眠い……」

 

「何だこれ……」

 

 バタバタと崩れていく。

 

 そして。

 

 呂布も。

 

「……ん」

 

 ふらついた。

 

 赤い瞳が僅かに揺れる。

 

 その瞬間。

 

「行くぞ」

 

 時雨が笑った。

 

 夜襲。

 

 黒山兵たちが静かに陣営へ侵入する。

 

 眠っている兵。

 

 倒れている兵。

 

 混乱すら起きない。

 

「うわぁ……」

 

 桃香が若干引いていた。

 

「ひどい……」

 

「戦だからな」

 

 時雨は平然としている。

 

 そして。

 

 中央の天幕。

 

 そこに呂布はいた。

 

 まだ起きている。

 

 だが明らかに動きが鈍い。

 

「……誰」

 

 方天画戟を握る。

 

 だが。

 

 足元が揺れていた。

 

「こんばんは鬼神ちゃん」

 

 時雨は笑う。

 

 呂布が踏み込む。

 

 速い。

 

 眠っていても化け物だった。

 

「うぉっ」

 

 時雨が避ける。

 

 後ろの兵士が吹き飛んだ。

 

「……強っ」

 

 だが。

 

 完全ではない。

 

 眠気で動きが鈍る。

 

 そこへ。

 

「今だ!」

 

 黒山兵たちが一斉に飛び出す。

 

 網。

 

 鎖。

 

 鋼線。

 

 全部まとめて呂布へ投げつける。

 

「っ……!」

 

 呂布が暴れる。

 

 数人吹き飛ぶ。

 

 だが。

 

 多すぎる。

 

 十。

 

 二十。

 

 三十。

 

 数で押さえ込む。

 

「外道すぎるだろ……」

 

 白蓮が呆然としていた。

 

「天下最強を集団リンチって……」

 

「勝ちゃいい」

 

 時雨は笑う。

 

 そして。

 

 ついに。

 

 ガシャン!!

 

 呂布の動きが止まった。

 

 鎖。

 

 網。

 

 鋼線。

 

 完全拘束。

 

 鬼神捕縛。

 

 戦場が静まり返る。

 

「……は?」

 

 董卓軍兵士たちが固まる。

 

 連合軍側も固まる。

 

 そして。

 

 時雨だけが笑っていた。

 

「よし、攻略完了」

 

 最低だった。

 

 だが。

 

 虎牢関最大の壁は、こうして崩された。




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