【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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外伝 第27話 財貨と薬草――二人の優しさに挟まれた狼

外伝 第27話 財貨と薬草――二人の優しさに挟まれた狼

 

 

 

 

魏と呉の同盟が成立してから。

 

三日。

 

許昌は。

 

ようやく。

 

普段の姿へ戻り始めていた。

 

呉王孫策。

 

真名を雪蓮。

 

江東の小覇王が滞在していた間。

 

王宮は。

 

朝から夜まで騒がしかった。

 

婚約。

 

真名。

 

馬上勝負。

 

魏呉同盟。

 

そして。

 

雪蓮による。

 

時雨への猛攻。

 

彼女が建業へ戻った後も。

 

しばらくの間。

 

王宮では。

 

その話題が尽きなかった。

 

時雨が。

 

女性の胸へ弱い。

 

その事実も。

 

忘れられてはいない。

 

むしろ。

 

孫策が去ったことで。

 

魏の女たちが。

 

余計に意識し始めていた。

 

だが。

 

国家は。

 

いつまでも。

 

一人の男の婚約問題だけで。

 

動いているわけにはいかない。

 

涼州統治。

 

河北の整備。

 

荊州への備え。

 

呉との連絡網。

 

国境市場。

 

間者の調査。

 

軍馬の再編。

 

水路の整備。

 

難民の受け入れ。

 

仕事は。

 

山のようにある。

 

雪蓮が去った翌日から。

 

曹操は。

 

止めていた案件を。

 

一気に動かし始めた。

 

軍師たちは。

 

荊州の情報を整理する。

 

春蘭と秋蘭は。

 

南方へ向けた軍の再編。

 

霞は。

 

水上戦へ対応できる騎兵運用を考え。

 

華論は。

 

黒狼隊の一部を。

 

国境市場へ送る準備を進める。

 

そして。

 

財務を預かる栄華と。

 

医療と民生を担う柳琳。

 

この二人のもとへも。

 

大量の仕事が集まっていた。

 

だからこそ。

 

その日の喧嘩は。

 

避けられなかったのかもしれない。

 

---

 

朝。

 

時雨は。

 

王宮の廊下を歩いていた。

 

手には。

 

三つの竹簡。

 

一つ。

 

国境市場へ派遣する黒狼隊の装備。

 

一つ。

 

涼州から許昌へ移送する軍馬。

 

一つ。

 

荊州方面の商人から得た情報。

 

本来なら。

 

稟か桂花へ渡すべきもの。

 

だが。

 

その前に。

 

確認することがあった。

 

国境市場。

 

そこへ。

 

簡易的な治療所を置く。

 

柳琳の提案。

 

荊州から逃れてくる者。

 

商人。

 

難民。

 

間者。

 

誰であっても。

 

最初に。

 

怪我や病を確認する。

 

治療。

 

隔離。

 

聞き取り。

 

それを。

 

一つの場所で行う。

 

時雨は。

 

よい案だと思った。

 

病人を。

 

市場へ入れれば。

 

疫病が広がる。

 

怪我人を。

 

放置すれば。

 

魏への不信が生まれる。

 

治療所があれば。

 

人を救うだけではない。

 

身体の状態から。

 

どこを通ってきたか。

 

何日歩いたか。

 

軍に追われたか。

 

食料が足りているか。

 

情報も得られる。

 

ただし。

 

治療所を作るには。

 

金が要る。

 

薬。

 

布。

 

湯を沸かす薪。

 

寝台。

 

人。

 

建物。

 

さらに。

 

柳琳は。

 

常駐する医師と。

 

助手を。

 

最低でも。

 

三十名。

 

必要だと言った。

 

栄華は。

 

十名で十分と判断した。

 

その差。

 

二十名。

 

金額にすれば。

 

小さくない。

 

時雨は。

 

二人の意見を聞き。

 

必要な数を。

 

決めるつもりだった。

 

栄華の執務室。

 

扉。

 

閉じている。

 

中から。

 

声が聞こえる。

 

「ですから!」

 

栄華の声。

 

普段より。

 

明らかに大きい。

 

「三十名など!」

 

「一つの市場へ置ける人数ではありません!」

 

次。

 

柳琳。

 

普段の穏やかさを。

 

残している。

 

だが。

 

声。

 

強い。

 

「必要です」

 

「国境市場へ来るのは」

 

「健康な商人だけではありません」

 

「怪我人」

 

「病人」

 

「幼い子」

 

「妊婦」

 

「長い距離を歩いた老人」

 

「その方々を」

 

「十名だけで診られると思いますか」

 

「市場を」

 

「病院にするつもりですの!?」

 

「命を救える場所にはしたいです」

 

「財源には限りがあります!」

 

「命にも限りがあります!」

 

時雨は。

 

扉の前で止まった。

 

中。

 

すでに。

 

喧嘩。

 

始まっている。

 

入るか。

 

戻るか。

 

少し考える。

 

戻る。

 

その方が。

 

安全。

 

時雨が。

 

踵を返そうとした瞬間。

 

扉が開いた。

 

「時雨!」

 

栄華。

 

金色に近い髪。

 

貴族的な衣。

 

扇。

 

普段。

 

整っている。

 

だが。

 

今は。

 

僅かに。

 

髪が乱れている。

 

その後ろ。

 

柳琳。

 

穏やかな表情。

 

しかし。

 

目。

 

引いていない。

 

時雨は。

 

扉。

 

二人。

 

見る。

 

「何だ」

 

「何だ、ではありません!」

 

栄華は。

 

時雨の腕を掴む。

 

「ちょうどよいところへ来ましたわ!」

 

柳琳も。

 

反対側から。

 

時雨の袖を。

 

そっと掴む。

 

「時雨」

 

「意見を聞かせてください」

 

時雨は。

 

左右。

 

見る。

 

右。

 

栄華。

 

左。

 

柳琳。

 

逃げ道。

 

ない。

 

「先に」

 

時雨が言う。

 

「竹簡を」

 

「後です!」

 

栄華が答える。

 

「まず」

 

「柳琳の無謀な計画を」

 

「止めてくださいませ!」

 

柳琳の目が。

 

栄華へ向く。

 

「無謀ではありません」

 

「必要な備えです」

 

「国庫を」

 

「薬草の倉へ変えるつもりですの!?」

 

「民が死ねば」

 

「国庫を守っても意味がありません」

 

「民を守るために」

 

「国庫が必要なのです!」

 

「だから」

 

「使うべき時に使うのです!」

 

二人。

 

再び。

 

時雨を挟み。

 

言葉をぶつけ始める。

 

廊下。

 

役人。

 

足を止める。

 

すぐに。

 

遠ざかる。

 

栄華と柳琳。

 

魏の中で。

 

普段は。

 

大きく争わない。

 

栄華。

 

男嫌い。

 

言葉。

 

厳しい。

 

金。

 

細かい。

 

無駄。

 

許さない。

 

柳琳。

 

優しい。

 

穏やか。

 

人命。

 

優先。

 

だが。

 

必要な時には。

 

決して引かない。

 

二人とも。

 

声を荒らげることは。

 

少ない。

 

だから。

 

今。

 

王宮の者たちは。

 

近づかない。

 

時雨だけが。

 

挟まれている。

 

「時雨」

 

栄華が。

 

時雨を見る。

 

先ほどまで。

 

柳琳へ向けていた。

 

鋭い目。

 

僅かに。

 

柔らかくなる。

 

「あなたなら」

 

「分かりますでしょう?」

 

「涼州遠征で」

 

「どれほどの金が動いたか」

 

「今は」

 

「呉との同盟」

 

「荊州への備え」

 

「涼州の復旧」

 

「全て重なっております」

 

「治療所へ」

 

「三十人も置く余裕はありません」

 

「十人」

 

「必要なら」

 

「周辺の医師を呼ぶ」

 

「それで十分ですわ」

 

言葉。

 

厳しい。

 

だが。

 

時雨の腕を掴む手。

 

強くない。

 

むしろ。

 

衣を痛めないよう。

 

指先を。

 

僅かに緩めている。

 

反対側。

 

柳琳。

 

時雨の袖を。

 

まだ掴んでいる。

 

「時雨」

 

声。

 

穏やか。

 

「国境へ来る方々は」

 

「周辺の医師を呼べるまで」

 

「待てないかもしれません」

 

「流行り病なら」

 

「最初の一日で」

 

「広がります」

 

「重傷者なら」

 

「半日遅れるだけで」

 

「助からなくなることがあります」

 

「十人では」

 

「診察する方」

 

「薬を調合する方」

 

「寝台を見る方」

 

「隔離区画を守る方」

 

「全て足りません」

 

柳琳の手。

 

優しい。

 

だが。

 

離れない。

 

「時雨は」

 

「どう思いますか」

 

二人。

 

同時に。

 

時雨を見る。

 

時雨は。

 

少し考える。

 

「腹が減った」

 

二人の動きが。

 

止まる。

 

「時雨」

 

栄華の声。

 

低い。

 

「今」

 

「何と?」

 

「朝から」

 

「何も食べてない」

 

柳琳の顔が。

 

一瞬で変わる。

 

喧嘩。

 

消える。

 

心配。

 

「食事を」

 

「取っていないのですか」

 

「ああ」

 

栄華も。

 

すぐに。

 

時雨の顔色を見る。

 

目。

 

頬。

 

姿勢。

 

「なぜですの!」

 

「竹簡を」

 

「先に届けようとした」

 

「食事が先です!」

 

「栄華」

 

柳琳が。

 

時雨の手首へ触れる。

 

脈。

 

確認。

 

「少し」

 

「身体が冷えています」

 

「朝」

 

「外へ出ましたか」

 

「ああ」

 

「黒狼隊の訓練」

 

栄華の顔。

 

険しくなる。

 

「朝食も取らずに」

 

「訓練?」

 

「ああ」

 

「時雨!」

 

今度。

 

二人の声。

 

揃う。

 

時雨は。

 

僅かに。

 

顔をしかめる。

 

「近い」

 

右。

 

栄華。

 

左。

 

柳琳。

 

両方。

 

距離。

 

近い。

 

栄華は。

 

時雨の腕を。

 

自分側へ引く。

 

「食堂へ行きますわよ」

 

柳琳も。

 

反対側へ。

 

僅かに引く。

 

「その前に」

 

「温かい湯を」

 

「飲ませましょう」

 

「食事が先です!」

 

「冷えた身体へ」

 

「いきなり重い食事はよくありません」

 

「粥を用意します!」

 

「薄めた薬湯も必要です」

 

「薬は後でよいでしょう!」

 

「今の時雨には」

 

「必要です」

 

「病人ではありませんわ!」

 

「病人になる前に」

 

「整えるのです」

 

再び。

 

喧嘩。

 

ただし。

 

内容。

 

時雨の朝食。

 

時雨は。

 

左右から。

 

引かれる。

 

「二人とも」

 

「何ですの」

 

「何でしょう」

 

「腕が」

 

「外れる」

 

二人。

 

同時に。

 

手を離す。

 

「痛みますか!?」

 

柳琳が尋ねる。

 

「見せてください!」

 

栄華が。

 

時雨の袖を捲ろうとする。

 

時雨は。

 

手を上げ。

 

止める。

 

「大げさだ」

 

「あなたが」

 

「外れるなどと」

 

「言うからです!」

 

栄華。

 

怒る。

 

だが。

 

声。

 

甘い。

 

柳琳も。

 

時雨の肩へ。

 

そっと触れる。

 

「本当に」

 

「痛みはありませんか」

 

「ああ」

 

「無理を」

 

「していませんか」

 

「ああ」

 

「時雨」

 

柳琳の眉。

 

僅かに下がる。

 

「あなたの」

 

「ああ」は」

 

「時々」

 

「信用できません」

 

時雨は。

 

黙る。

 

栄華が。

 

大きく頷く。

 

「その通りですわ!」

 

「必要か」

 

「問題ないか」

 

「疲れていないか」

 

「何を聞いても」

 

「ああ」

 

「それで済ませる!」

 

「大変」

 

「困ります!」

 

柳琳が。

 

栄華を見る。

 

「そこは」

 

「同意します」

 

「でしょう?」

 

先ほどまで。

 

激しく争っていた二人。

 

時雨への不満。

 

一致。

 

時雨は。

 

扉の外。

 

廊下。

 

見る。

 

逃げる。

 

今。

 

なら。

 

可能。

 

足。

 

半歩。

 

後ろ。

 

柳琳の手が。

 

時雨の袖を。

 

また。

 

掴む。

 

優しい。

 

だが。

 

正確。

 

「どこへ行くのですか」

 

「竹簡を」

 

「置きに」

 

「わたくしの机へ」

 

「置けば済みますわ」

 

栄華が。

 

反対側から。

 

竹簡を取る。

 

三本。

 

中身。

 

見ずに。

 

机の上へ置く。

 

「これで」

 

「用事は終わりました」

 

「ああ」

 

「では」

 

「食事へ行きますわよ」

 

「先に」

 

柳琳が言う。

 

「診察を」

 

栄華の目が。

 

柳琳へ向く。

 

「またですの?」

 

「食事を取らず」

 

「朝から訓練をしています」

 

「体調を確認するのは当然です」

 

「顔色は悪くありません!」

 

「顔色だけで」

 

「体調は分かりません」

 

「歩けています!」

 

「歩ける病人は」

 

「大勢います」

 

「時雨を」

 

「病人にしないでくださいませ!」

 

「病人ではないことを」

 

「確認するのです」

 

二人。

 

時雨を挟み。

 

再び。

 

火花。

 

時雨は。

 

小さく息を吐く。

 

「喧嘩するなら」

 

「俺は」

 

「食堂へ行く」

 

歩く。

 

二人。

 

同時。

 

ついてくる。

 

右。

 

栄華。

 

左。

 

柳琳。

 

「一人で行かせませんわ」

 

「倒れたら困ります」

 

「倒れない」

 

「信用できません」

 

二人。

 

また。

 

揃う。

 

---

 

食堂。

 

朝議前。

 

時間。

 

少し遅い。

 

他の将たちは。

 

すでに食事を終えている。

 

厨房には。

 

流琉。

 

料理の確認。

 

季衣。

 

追加の肉を。

 

頼んでいる。

 

時雨。

 

栄華。

 

柳琳。

 

入る。

 

流琉が。

 

振り返る。

 

「時雨さん?」

 

「まだ」

 

「朝食を食べていなかったのですか」

 

「ああ」

 

流琉の顔が。

 

僅かに。

 

険しくなる。

 

「すぐに」

 

「用意します」

 

季衣が。

 

時雨を見る。

 

「時雨兄ちゃん」

 

「朝ご飯抜いたら」

 

「力出ないよ!」

 

「ああ」

 

「分かってる?」

 

「今」

 

「食う」

 

「なら」

 

季衣は。

 

自分の皿から。

 

肉を一枚。

 

時雨へ差し出す。

 

「これ!」

 

流琉が。

 

姉の腕を止める。

 

「姉様」

 

「冷めています」

 

「温かいものを」

 

「出しますから」

 

「待ってください」

 

「でも」

 

「時雨兄ちゃん」

 

「お腹空いてるよ」

 

栄華が。

 

厨房を見る。

 

「粥」

 

「卵」

 

「塩気の薄い肉」

 

「温かい茶」

 

「すぐに」

 

「用意してくださいませ」

 

柳琳が。

 

付け加える。

 

「生姜を」

 

「少し入れてください」

 

「身体が温まります」

 

「薬草は?」

 

流琉が尋ねる。

 

「今日は」

 

「必要ありません」

 

栄華が。

 

勝ち誇るように。

 

柳琳を見る。

 

「ほら」

 

「わたくしの言った通り」

 

「薬は不要ですわ」

 

柳琳は。

 

穏やかに答える。

 

「時雨へは」

 

「今は不要です」

 

「治療所の話とは」

 

「別です」

 

栄華の笑み。

 

止まる。

 

「また」

 

「その話へ戻りますの?」

 

「戻す必要があります」

 

時雨は。

 

席へ座る。

 

二人。

 

向かい。

 

ではない。

 

なぜか。

 

栄華。

 

右隣。

 

柳琳。

 

左隣。

 

流琉。

 

料理。

 

置く。

 

粥。

 

湯気。

 

卵。

 

細かく裂いた肉。

 

野菜。

 

時雨が。

 

箸を取ろうとする。

 

栄華の手が。

 

器へ触れる。

 

「まだ熱いですわ」

 

柳琳が。

 

匙を取り。

 

粥を。

 

軽く混ぜる。

 

「少し」

 

「冷ましましょう」

 

時雨は。

 

二人を見る。

 

「自分でできる」

 

「知っています」

 

柳琳が答える。

 

「でも」

 

「今日は」

 

「私たちが」

 

「気づくのが遅れました」

 

「ですから」

 

栄華が続ける。

 

「少しくらい」

 

「世話をさせなさいませ」

 

先ほどまで。

 

国庫。

 

治療所。

 

怒鳴り合い。

 

今。

 

時雨の粥を。

 

二人で冷ましている。

 

流琉は。

 

何とも言えない顔。

 

季衣は。

 

純粋に。

 

羨ましそう。

 

「時雨兄ちゃん」

 

「食べさせてもらうの?」

 

「自分で食う」

 

栄華が。

 

時雨へ。

 

匙を渡す。

 

「当然ですわ」

 

だが。

 

手渡す時。

 

指。

 

時雨の手へ。

 

僅かに触れる。

 

栄華。

 

一瞬。

 

止まる。

 

すぐに。

 

顔を逸らす。

 

耳。

 

少し赤い。

 

柳琳は。

 

粥の器を。

 

時雨が取りやすい位置へ置く。

 

「ゆっくり」

 

「食べてください」

 

「ああ」

 

「急いでは」

 

「いけません」

 

「ああ」

 

「噛んでください」

 

「粥だ」

 

「肉があります」

 

「ああ」

 

栄華が。

 

時雨の横顔を見る。

 

「口元に」

 

「ついていますわ」

 

時雨が。

 

手を上げる前。

 

栄華の扇ではなく。

 

指。

 

僅かに。

 

時雨の頬へ。

 

触れる。

 

米粒。

 

取る。

 

二人。

 

止まる。

 

栄華。

 

自分の指。

 

見る。

 

次。

 

時雨。

 

「取れましたわ」

 

「ああ」

 

声。

 

栄華。

 

普段より。

 

小さい。

 

柳琳は。

 

それを見て。

 

目を。

 

僅かに細める。

 

「栄華」

 

「何ですの」

 

「時雨へ」

 

「近すぎませんか」

 

栄華の眉が。

 

動く。

 

「米粒を」

 

「取っただけです」

 

「布を」

 

「使えばよかったでしょう」

 

「目の前に」

 

「布がありませんでした」

 

柳琳が。

 

卓の上。

 

布。

 

指す。

 

栄華。

 

黙る。

 

「これは」

 

「今」

 

「置かれたものです!」

 

流琉が。

 

小さく言う。

 

「最初から」

 

「ありました」

 

栄華の顔が。

 

赤くなる。

 

「流琉!」

 

「事実です」

 

季衣が。

 

楽しそうに言う。

 

「栄華」

 

「時雨兄ちゃんに」

 

「食べさせたいの?」

 

「違います!」

 

時雨が。

 

粥を食べる。

 

「食べさせる必要はない」

 

栄華の顔。

 

僅かに。

 

寂しそう。

 

本当に。

 

一瞬。

 

柳琳。

 

見逃さない。

 

「時雨」

 

柳琳が呼ぶ。

 

「何だ」

 

「手」

 

「見せてください」

 

時雨は。

 

左手を出す。

 

柳琳は。

 

両手で。

 

包む。

 

指。

 

掌。

 

古い傷。

 

新しい擦れ。

 

朝。

 

訓練。

 

木剣。

 

握った跡。

 

「少し」

 

「皮が剥けています」

 

「問題ない」

 

「薬を塗ります」

 

「いらない」

 

「必要です」

 

柳琳の声。

 

優しい。

 

だが。

 

拒否。

 

許さない。

 

腰の小袋。

 

薬。

 

取り出す。

 

時雨の手。

 

自分の膝近くへ。

 

置く。

 

丁寧に。

 

塗る。

 

時雨。

 

柳琳。

 

距離。

 

近い。

 

栄華の目が。

 

細くなる。

 

「柳琳」

 

「何でしょう」

 

「手の傷へ」

 

「そこまで時間をかける必要がありますの?」

 

「丁寧に塗らなければ」

 

「意味がありません」

 

「十分」

 

「塗れているでしょう」

 

「まだ」

 

「指の間が残っています」

 

「傷は」

 

「掌ですわ!」

 

「訓練で」

 

「指にも負担がかかっています」

 

栄華は。

 

時雨の右手を取る。

 

「こちらは」

 

「傷ついていませんわ」

 

「だから」

 

「握っていても」

 

「よろしいでしょう?」

 

時雨が。

 

栄華を見る。

 

「なぜ」

 

栄華の顔。

 

僅かに固まる。

 

「左手だけ」

 

「柳琳へ預けると」

 

「姿勢が傾くからです」

 

時雨は。

 

自分の姿勢を見る。

 

「傾いてない」

 

「これから」

 

「傾くかもしれません」

 

柳琳が。

 

僅かに笑う。

 

「栄華」

 

「時雨の右手を」

 

「握りたいだけではありませんか」

 

栄華の顔が。

 

赤くなる。

 

「何を!」

 

「そのような!」

 

「不埒な言い方を!」

 

「握っています」

 

「治療の補助です!」

 

「何の補助でしょう」

 

「姿勢です!」

 

「時雨」

 

柳琳が尋ねる。

 

「姿勢は」

 

「傾いていましたか」

 

「傾いてない」

 

栄華の手。

 

僅かに強くなる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「少しくらい」

 

「合わせてくださいませ!」

 

「嘘になる」

 

柳琳の口元。

 

僅かに。

 

柔らかくなる。

 

栄華。

 

悔しそう。

 

それでも。

 

時雨の手。

 

離さない。

 

季衣。

 

流琉。

 

二人。

 

見ている。

 

「姉様」

 

流琉が。

 

小声で言う。

 

「私たちは」

 

「席を外した方が」

 

「よいかもしれません」

 

「どうして」

 

「何となくです」

 

「でも」

 

季衣は。

 

時雨。

 

栄華。

 

柳琳。

 

見る。

 

「喧嘩してるのに」

 

「二人とも」

 

「時雨兄ちゃんには」

 

「優しいね」

 

栄華と柳琳。

 

同時に。

 

季衣を見る。

 

「喧嘩していません!」

 

「意見が違うだけです」

 

声。

 

揃わない。

 

だが。

 

意味。

 

ほぼ同じ。

 

季衣は。

 

笑う。

 

「やっぱり」

 

「仲良いね!」

 

「違います!」

 

栄華の声。

 

響く。

 

柳琳は。

 

否定しない。

 

僅かに。

 

栄華を見る。

 

「仲が悪いとは」

 

「思っていません」

 

栄華の動きが止まる。

 

「何ですの」

 

「その言い方」

 

「考えが違っても」

 

「栄華が」

 

「魏と民を大切にしていることは」

 

「分かっています」

 

栄華の目が。

 

僅かに揺れる。

 

「ですが」

 

柳琳は続ける。

 

「必要な治療費を」

 

「削ることには」

 

「賛成できません」

 

栄華の表情。

 

再び。

 

険しくなる。

 

「わたくしも」

 

「治療所そのものを」

 

「否定しておりません!」

 

「三十名は」

 

「多すぎると言っているのです!」

 

「十名では足りません」

 

「最初から」

 

「最大規模で作る必要はありません!」

 

「最初に病人が」

 

「大勢来たら」

 

「どうするのですか」

 

「来るか分からない者へ」

 

「金を払い続けるのですか!」

 

再び。

 

喧嘩。

 

ただし。

 

栄華。

 

時雨の右手。

 

握ったまま。

 

柳琳。

 

時雨の左手へ。

 

薬を塗ったまま。

 

時雨は。

 

両手を。

 

使えない。

 

粥。

 

残っている。

 

「食えない」

 

時雨が言う。

 

二人。

 

同時に。

 

手元を見る。

 

「あ……」

 

栄華。

 

小さな声。

 

柳琳も。

 

僅かに。

 

目を伏せる。

 

「申し訳ありません」

 

柳琳は。

 

手を離す。

 

栄華も。

 

離そうとする。

 

だが。

 

少しだけ。

 

遅い。

 

名残。

 

ある。

 

時雨は。

 

匙を持つ。

 

食べる。

 

栄華と柳琳。

 

再び。

 

互いを見る。

 

喧嘩。

 

続けたい。

 

だが。

 

時雨の食事。

 

邪魔。

 

した。

 

それは。

 

二人とも。

 

嫌。

 

沈黙。

 

生まれる。

 

時雨は。

 

粥を食べながら。

 

口を開く。

 

「二十人」

 

二人。

 

時雨を見る。

 

「何が」

 

栄華が尋ねる。

 

「治療所」

 

「常駐」

 

「二十人」

 

柳琳の目が。

 

僅かに動く。

 

栄華の眉。

 

寄る。

 

「間を取っただけですの?」

 

「違う」

 

時雨は。

 

匙を置く。

 

「十人」

 

「医師と助手」

 

「常駐」

 

「残り十人」

 

「市場の仕事もする」

 

「荷の確認」

 

「水」

 

「寝台」

 

「記録」

 

「病人が増えたら」

 

「治療所へ移る」

 

柳琳が。

 

考える。

 

「医療訓練を受けた」

 

「補助員ですか」

 

「ああ」

 

「平時は」

 

「市場の維持」

 

「緊急時は」

 

「治療所」

 

栄華が。

 

すぐに計算を始める。

 

指。

 

机。

 

軽く叩く。

 

「二十人分の俸給」

 

「ですが」

 

「十名は」

 

「市場管理の予算から」

 

「出せます」

 

「医療費としては」

 

「十名分」

 

「薬や布は?」

 

時雨が尋ねる。

 

柳琳が答える。

 

「最初から」

 

「三十名分の備蓄が必要です」

 

栄華の目が。

 

鋭くなる。

 

「また!」

 

「人員が十名でも」

 

「病人が三十人来れば」

 

「薬は必要です」

 

「薬は」

 

「腐ります!」

 

「全てが」

 

「同じ速さで傷むわけではありません」

 

「高価な薬を」

 

「余らせるつもりですの?」

 

「余った薬は」

 

「周辺の村へ回せます」

 

時雨が。

 

二人を見る。

 

「薬」

 

「三段階」

 

「三段階?」

 

栄華。

 

柳琳。

 

同時に尋ねる。

 

「常に置く」

 

「近くの村へ置く」

 

「許昌から運ぶ」

 

「使う速さで分ける」

 

柳琳の目が。

 

少しずつ。

 

明るくなる。

 

「傷みやすい薬は」

 

「常駐量を減らす」

 

「代わりに」

 

「国境近くの村へ」

 

「分散して保管」

 

「必要な時」

 

「一日以内に運ぶ」

 

「ああ」

 

栄華も。

 

頷く。

 

「長期保存できるものは」

 

「治療所へ」

 

「高価で使用頻度の低い薬は」

 

「許昌または郡の倉へ」

 

「これなら」

 

「廃棄は減らせます」

 

柳琳が。

 

時雨を見る。

 

「ですが」

 

「流行り病の場合」

 

「一日待てません」

 

「ああ」

 

「隔離用の布」

 

「煮沸用の薪」

 

「基本的な薬」

 

「それは」

 

「常に多く置く」

 

栄華が。

 

竹簡を取る。

 

「それなら」

 

「予算を組めます」

 

「治療所の建物は」

 

「大きくしすぎず」

 

「必要な時に」

 

「市場の倉を」

 

「臨時病棟へ使える形」

 

時雨が言う。

 

「壁」

 

「動かせるようにする」

 

「縄と板」

 

「普段は倉」

 

「病人が来れば」

 

「区切る」

 

柳琳が。

 

ゆっくり頷く。

 

「それなら」

 

「受け入れ人数を増やせます」

 

栄華も。

 

帳簿へ。

 

数字。

 

書き始める。

 

「費用は」

 

「柳琳案の」

 

「半分以下」

 

柳琳が。

 

少し。

 

栄華を見る。

 

「半分以下では」

 

「必要な備えが」

 

「不足しませんか」

 

「時雨の案なら」

 

「不足しません」

 

栄華は答える。

 

「少なくとも」

 

「最初から」

 

「三十名を」

 

「遊ばせることはありません」

 

柳琳の眉が。

 

僅かに寄る。

 

「遊ばせる」

 

「その表現は」

 

「不適切です」

 

「では」

 

「待機させる」

 

「それなら」

 

「構いません」

 

「言葉の問題ですの?」

 

「人を」

 

「無駄と呼ぶかどうかは」

 

「大切です」

 

栄華は。

 

反論しようとする。

 

だが。

 

止まる。

 

少し。

 

考える。

 

「……分かりました」

 

「今後」

 

「医療担当者へ」

 

「遊ばせるとは」

 

「言いません」

 

柳琳の表情が。

 

柔らかくなる。

 

「ありがとうございます」

 

栄華は。

 

僅かに。

 

顔を逸らす。

 

「別に」

 

「あなたへ」

 

「礼を言われることではありません」

 

喧嘩。

 

少し。

 

収まる。

 

時雨は。

 

残りの粥を。

 

食べる。

 

二人。

 

時雨を見る。

 

栄華が。

 

先に口を開く。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「最初から」

 

「その案を」

 

「持っていたのですか」

 

「今」

 

「考えた」

 

栄華の目。

 

僅かに。

 

呆れ。

 

次。

 

柔らかさ。

 

「本当に」

 

「あなたは」

 

「こういう時だけ」

 

「すぐに答えを出しますのね」

 

柳琳も。

 

小さく微笑む。

 

「皆の意見を」

 

「どちらも捨てないからだと思います」

 

「違う」

 

時雨が言う。

 

「捨てると」

 

「後で」

 

「二人が怒る」

 

栄華と柳琳。

 

一瞬。

 

黙る。

 

次。

 

栄華の扇。

 

時雨の肩へ。

 

軽く当たる。

 

「それだけですの!?」

 

「痛くない」

 

「痛くしていません!」

 

柳琳は。

 

声を立てずに。

 

笑う。

 

「時雨らしいです」

 

「ああ」

 

「ですが」

 

柳琳は。

 

時雨の左手を見る。

 

薬。

 

塗った箇所。

 

「治るまでは」

 

「朝の訓練を」

 

「少し減らしてください」

 

「必要ない」

 

「必要です」

 

栄華も。

 

すぐに加わる。

 

「柳琳の言う通りですわ」

 

「手を悪くすれば」

 

「書類も」

 

「剣も」

 

「扱えません」

 

時雨が。

 

二人を見る。

 

「また」

 

「二人で」

 

「決めるのか」

 

「あなたが」

 

「自分を大切にしないからです!」

 

栄華。

 

強い声。

 

柳琳。

 

穏やか。

 

だが。

 

同意。

 

「治るまでです」

 

「どれくらい」

 

「三日」

 

時雨の顔。

 

僅かに。

 

曇る。

 

「長い」

 

「三日です!」

 

栄華が言う。

 

「雪蓮様の滞在も」

 

「三日だったでしょう!」

 

「ああ」

 

「同じです!」

 

「違う」

 

「何が」

 

「今回は」

 

「胸がない」

 

食堂。

 

静まる。

 

柳琳の目が。

 

僅かに大きくなる。

 

栄華の顔が。

 

一気に赤くなる。

 

流琉。

 

器。

 

落としそうになる。

 

季衣。

 

意味。

 

半分。

 

分かっていない。

 

華論。

 

ちょうど。

 

入口へ来る。

 

聞く。

 

固まる。

 

「時雨」

 

栄華の声。

 

低い。

 

「何ですの」

 

「今の言葉は」

 

「三日間」

 

「雪蓮に」

 

「胸で攻められた」

 

「今回は」

 

「ただ訓練を減らす」

 

「違う」

 

栄華の扇が。

 

開く。

 

「その説明を!」

 

「真顔で!」

 

「続けないでくださいませ!」

 

柳琳の頬にも。

 

僅かな赤み。

 

それでも。

 

時雨へ。

 

静かに尋ねる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「胸がなければ」

 

「三日は長いのですか」

 

「ああ」

 

栄華が。

 

柳琳を見る。

 

「なぜ」

 

「聞きますの!?」

 

柳琳は。

 

僅かに。

 

視線を逸らす。

 

「確認です」

 

「何の!?」

 

「時雨の」

 

「物事の感じ方を」

 

「理解するためです」

 

「嘘ですわ!」

 

「嘘ではありません」

 

「では」

 

栄華は。

 

自分の胸元を。

 

一瞬。

 

意識。

 

すぐに。

 

時雨を見る。

 

「わたくしや柳琳が」

 

「傍にいれば」

 

「三日でも」

 

「長くありませんの?」

 

時雨は。

 

栄華。

 

柳琳。

 

見る。

 

栄華。

 

豪華な衣。

 

豊かな胸元。

 

柳琳。

 

柔らかな服。

 

穏やかな身体つき。

 

二人。

 

時雨の視線。

 

待つ。

 

栄華。

 

顔。

 

赤い。

 

柳琳も。

 

普段より。

 

目。

 

揺れる。

 

時雨は。

 

少し考える。

 

「長くないかもしれない」

 

食堂。

 

静止。

 

栄華の扇。

 

止まる。

 

柳琳の手。

 

僅かに。

 

胸元へ。

 

近づく。

 

華論。

 

入口で。

 

小声。

 

「時雨」

 

「それ」

 

「今」

 

「言うっすか……」

 

時雨が見る。

 

「何が」

 

栄華は。

 

扇で。

 

顔の下半分を隠す。

 

目。

 

時雨から。

 

逸らせない。

 

「本当に」

 

「卑怯な男ですわね」

 

「なぜ」

 

「知らなくてよろしい!」

 

柳琳は。

 

時雨へ。

 

柔らかく微笑む。

 

「三日間」

 

「訓練を減らしても」

 

「私が」

 

「手の状態を」

 

「毎日確認します」

 

栄華が。

 

すぐに。

 

柳琳を見る。

 

「では」

 

「わたくしも」

 

「時雨の執務を」

 

「手伝います」

 

「栄華の仕事が」

 

「増えませんか」

 

「時雨が」

 

「片手で書類を処理し」

 

「傷を悪化させるより」

 

「ましです!」

 

「私は」

 

「執務中の姿勢も」

 

「確認します」

 

「医師が」

 

「机の横へ」

 

「ずっといるつもりですの?」

 

「必要なら」

 

「それでは」

 

「時雨が」

 

「仕事へ集中できません!」

 

「栄華が」

 

「横へいることも」

 

「同じではありませんか」

 

「わたくしは」

 

「財務の補助です!」

 

「私は」

 

「医療の補助です」

 

二人。

 

再び。

 

睨み合う。

 

ただし。

 

今度の争点。

 

誰が。

 

時雨の隣へいるか。

 

時雨は。

 

残りの粥を。

 

食べ終える。

 

立つ。

 

「朝議」

 

栄華と柳琳。

 

同時。

 

時雨の肩を押さえる。

 

「まだです!」

 

「診察が終わっていません」

 

時雨は。

 

座る。

 

「何を見る」

 

柳琳が。

 

穏やかに。

 

時雨の額へ。

 

手を当てる。

 

「熱はありません」

 

次。

 

首。

 

脈。

 

「少し」

 

「疲れています」

 

「ああ」

 

栄華が。

 

時雨の目元を見る。

 

「昨夜」

 

「何時に眠りましたの」

 

「夜半」

 

「遅いです!」

 

「華琳様と?」

 

柳琳が尋ねる。

 

「ああ」

 

栄華の眉が。

 

僅かに動く。

 

「何を」

 

「話していたのです」

 

「雪蓮」

 

「呉」

 

「同盟」

 

「胸」

 

栄華の扇が。

 

再び。

 

止まる。

 

柳琳の頬。

 

赤み。

 

「最後は」

 

「必要でしたか」

 

柳琳が尋ねる。

 

「ああ」

 

「どうして」

 

「曹操が」

 

「聞いた」

 

栄華は。

 

深く息を吐く。

 

「華琳様も」

 

「随分と」

 

「大胆になられましたわね」

 

柳琳は。

 

少し。

 

時雨を見る。

 

「時雨は」

 

「何と答えたのですか」

 

「綺麗だ」

 

二人。

 

完全に。

 

止まる。

 

流琉。

 

厨房の奥へ。

 

逃げる。

 

季衣。

 

首を傾げる。

 

華論。

 

入口から。

 

後ろへ下がる。

 

「栄華」

 

柳琳が。

 

静かに呼ぶ。

 

「何ですの」

 

「顔が」

 

「赤いです」

 

「あなたもです!」

 

二人。

 

互い。

 

見る。

 

次。

 

時雨。

 

「時雨」

 

栄華が呼ぶ。

 

「何だ」

 

「わたくしたちのことも」

 

「その」

 

言葉。

 

止まる。

 

栄華。

 

普段。

 

何でも。

 

明確に言う。

 

今。

 

言えない。

 

柳琳が。

 

栄華を見る。

 

助ける。

 

のではない。

 

自分も。

 

聞きたい。

 

「時雨は」

 

柳琳が。

 

静かに尋ねる。

 

「私たちを」

 

「女性として」

 

「見たことがありますか」

 

食堂。

 

また。

 

静か。

 

時雨は。

 

柳琳。

 

栄華。

 

見る。

 

女性。

 

将。

 

財務官。

 

医師。

 

仲間。

 

友。

 

自分を。

 

怒る。

 

心配する。

 

喧嘩する。

 

甘い。

 

「ある」

 

二人の目。

 

僅かに。

 

大きくなる。

 

「いつですの」

 

栄華が。

 

反射的に尋ねる。

 

「雪蓮が」

 

「胸の話をした後」

 

栄華の顔。

 

さらに。

 

赤い。

 

柳琳も。

 

僅かに。

 

目を伏せる。

 

「それ以前は?」

 

「意識してない」

 

栄華の扇。

 

僅かに。

 

下がる。

 

少し。

 

残念。

 

柳琳の声。

 

静か。

 

「今は?」

 

「ああ」

 

二人。

 

同時に。

 

時雨を見る。

 

「ああ、では」

 

栄華が言う。

 

「分かりません!」

 

「今は」

 

時雨は。

 

少し考える。

 

「女としても」

 

「見てる」

 

栄華。

 

柳琳。

 

完全に。

 

動かない。

 

季衣が。

 

小さく。

 

「おお」

 

と言う。

 

誰も。

 

次の言葉を。

 

出せない。

 

時雨は。

 

二人の反応を見る。

 

「嫌か」

 

「嫌ではありません!」

 

栄華。

 

即答。

 

声。

 

大きい。

 

自分で。

 

驚く。

 

柳琳は。

 

時雨へ。

 

穏やかに微笑む。

 

「私も」

 

「嫌ではありません」

 

栄華が。

 

柳琳を見る。

 

柳琳も。

 

栄華を見る。

 

競争。

 

一瞬。

 

生まれる。

 

「ただし」

 

柳琳が続ける。

 

「胸だけでなく」

 

「私たち自身を」

 

「見てください」

 

「ああ」

 

栄華も。

 

扇を閉じる。

 

「当然ですわ」

 

「わたくしは」

 

「帳簿と胸だけの女ではありません」

 

「ああ」

 

「そこは」

 

「もっと」

 

「強く否定するところです!」

 

「栄華は」

 

「細かい」

 

「何がですの!」

 

「金」

 

「仕事」

 

「衣」

 

「茶」

 

「全部」

 

「でも」

 

時雨は続ける。

 

「俺が」

 

「勝手に金を使うと」

 

「怒る」

 

「財布を」

 

「選んだ」

 

「茶を」

 

「淹れた」

 

「食べてないと」

 

「今も怒った」

 

栄華の目が。

 

僅かに揺れる。

 

「胸だけじゃない」

 

時雨が言った。

 

栄華は。

 

扇で。

 

口元を隠す。

 

「そう」

 

声。

 

小さい。

 

「なら」

 

「よろしいですわ」

 

柳琳を見る。

 

時雨は。

 

続ける。

 

「柳琳は」

 

「誰でも」

 

「治す」

 

「敵も」

 

「民も」

 

「俺も」

 

「止めても」

 

「診る」

 

「怒鳴らない」

 

「でも」

 

「必要なら」

 

「引かない」

 

柳琳の目。

 

柔らかくなる。

 

「胸だけじゃない」

 

「ああ」

 

柳琳は。

 

静かに。

 

頷く。

 

「ありがとうございます」

 

栄華が。

 

柳琳を見る。

 

先ほどまで。

 

時雨の隣を。

 

争う。

 

今。

 

互い。

 

同じように。

 

時雨から。

 

胸以外も見られていた。

 

それが。

 

嬉しい。

 

だが。

 

悔しい。

 

「柳琳」

 

「何でしょう」

 

「治療所の人員」

 

「二十名で」

 

「認めます」

 

柳琳の目が。

 

僅かに動く。

 

「よいのですか」

 

「時雨の案です」

 

「常駐医療担当は十名」

 

「補助員十名」

 

「薬は三段階に分けて保管」

 

「臨時病棟を」

 

「市場の倉へ設ける」

 

「それで」

 

「予算を組みます」

 

柳琳は。

 

深く。

 

栄華へ頭を下げる。

 

「ありがとうございます」

 

「礼は」

 

「完成してからです」

 

「ですが」

 

「譲ってくださったことへ」

 

「礼を言います」

 

栄華の表情。

 

僅かに。

 

柔らかくなる。

 

「わたくしも」

 

「十名だけでは」

 

「足りない可能性があることを」

 

「認めます」

 

「命へ」

 

「金額をつけるつもりはありません」

 

「ただ」

 

「守り続けるには」

 

「財が必要」

 

「それも」

 

「理解してくださいませ」

 

柳琳は。

 

頷く。

 

「分かっています」

 

「私は」

 

「目の前の命を」

 

「優先しすぎることがあります」

 

「栄華が」

 

「先を見ていることも」

 

「知っています」

 

二人。

 

向かい合う。

 

喧嘩。

 

終わり。

 

完全ではない。

 

これからも。

 

意見。

 

違う。

 

財。

 

命。

 

どちらも。

 

必要。

 

だから。

 

また。

 

争う。

 

だが。

 

互いを。

 

否定しているわけではない。

 

「仲直りか」

 

時雨が尋ねる。

 

栄華の眉が。

 

動く。

 

「喧嘩しておりません!」

 

柳琳は。

 

少し笑う。

 

「意見が」

 

「激しく違っただけです」

 

「同じだ」

 

「違いますわ!」

 

栄華。

 

時雨の肩へ。

 

扇。

 

軽く当てる。

 

時雨は。

 

避けない。

 

柳琳は。

 

時雨の手を。

 

もう一度。

 

取る。

 

薬。

 

乾いているか。

 

確認。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「今日の訓練は」

 

「終わりです」

 

「朝しか」

 

「してない」

 

「十分です」

 

栄華も。

 

すぐに。

 

頷く。

 

「午後は」

 

「わたくしの執務室で」

 

「書類の確認を」

 

「片手で?」

 

「わたくしが」

 

「読み上げます」

 

柳琳が。

 

静かに加える。

 

「私は」

 

「横で」

 

「手の状態を見ます」

 

栄華の目が。

 

柳琳へ向く。

 

「ずっと?」

 

「必要です」

 

「診察は」

 

「短時間で済むでしょう」

 

「傷は」

 

「仕事の姿勢で」

 

「悪化することがあります」

 

「では」

 

「わたくしが」

 

「姿勢を見ます」

 

「医療の知識がありますか」

 

「時雨が」

 

「無茶を始めたら」

 

「止める知識はあります!」

 

「私の方が」

 

「適切に止められます」

 

「わたくしの方が」

 

「時雨は言うことを聞きます!」

 

時雨が。

 

二人を見る。

 

「どちらも」

 

「聞かない時は」

 

「聞かない」

 

二人。

 

同時に。

 

時雨を見る。

 

「時雨!」

 

「時雨」

 

声。

 

違う。

 

怒り。

 

同じ。

 

食堂。

 

季衣。

 

笑う。

 

華論。

 

戻ってくる。

 

「結局」

 

「また喧嘩してるっす」

 

栄華の扇。

 

華論の頭。

 

直撃。

 

「痛いっす!」

 

「喧嘩ではありません!」

 

「じゃあ」

 

「何っすか!」

 

「時雨の管理方針について」

 

「協議しているのです!」

 

時雨の眉が。

 

寄る。

 

「俺は」

 

「物じゃない」

 

栄華。

 

柳琳。

 

一瞬。

 

止まる。

 

雪蓮の使者。

 

返せ。

 

所有物。

 

その話。

 

思い出す。

 

柳琳は。

 

すぐに。

 

時雨の手を。

 

優しく離す。

 

「申し訳ありません」

 

「管理ではありません」

 

「心配です」

 

栄華も。

 

少し。

 

目を伏せる。

 

「わたくしも」

 

「言葉を誤りました」

 

「あなたを」

 

「縛りたいわけではありません」

 

「ただ」

 

栄華は。

 

時雨を見る。

 

「無茶をして」

 

「傷ついてほしくないだけです」

 

柳琳も。

 

真っ直ぐ。

 

時雨を見る。

 

「私もです」

 

時雨は。

 

二人を見る。

 

栄華。

 

厳しい。

 

甘い。

 

柳琳。

 

穏やか。

 

強い。

 

どちらも。

 

時雨を。

 

道具とは見ていない。

 

だから。

 

怒る。

 

「分かった」

 

時雨が言う。

 

「今日は」

 

「二人のところにいる」

 

栄華と柳琳。

 

同時に。

 

目を僅かに見開く。

 

「どちらへ」

 

栄華が尋ねる。

 

「栄華の執務室」

 

栄華の口元。

 

僅かに。

 

上がる。

 

柳琳の表情。

 

少し。

 

寂しそう。

 

時雨は続ける。

 

「柳琳も」

 

柳琳の目。

 

柔らかくなる。

 

栄華の笑み。

 

止まる。

 

「三人か」

 

時雨が言う。

 

「仕事」

 

「治療所」

 

「決める」

 

「ああ」

 

「それなら」

 

柳琳は頷く。

 

栄華も。

 

少し。

 

不満そう。

 

だが。

 

拒まない。

 

「仕方ありませんわね」

 

「では」

 

「柳琳には」

 

「医療品の一覧を」

 

「持ってきてもらいます」

 

「分かりました」

 

「ただし」

 

柳琳が言う。

 

「時雨へ」

 

「無理な量の書類を」

 

「読ませないでください」

 

「読み上げると言ったでしょう」

 

「休憩も必要です」

 

「一刻ごとに」

 

「茶を入れます」

 

「茶だけでは」

 

「休憩になりません」

 

「では」

 

「菓子も」

 

「甘すぎるものは」

 

「身体によくありません」

 

「時雨は」

 

「甘いものも食べます!」

 

「量の問題です」

 

二人。

 

また。

 

話し始める。

 

今度は。

 

怒鳴らない。

 

相談。

 

時雨のため。

 

治療所のため。

 

魏のため。

 

食堂から。

 

執務室へ。

 

三人。

 

向かう。

 

---

 

栄華の執務室。

 

机。

 

帳簿。

 

竹簡。

 

貨幣。

 

書類。

 

いつも。

 

整然。

 

今日は。

 

柳琳の薬箱。

 

加わる。

 

時雨は。

 

中央の椅子。

 

右。

 

栄華。

 

左。

 

柳琳。

 

朝から。

 

同じ。

 

「時雨」

 

栄華が。

 

竹簡を開く。

 

「薬草の仕入れ先について」

 

「涼州から」

 

「一部を運べます」

 

「馬騰殿から」

 

「乾燥薬草の取引を」

 

「増やしたいと」

 

「申し出があります」

 

「価格は」

 

「従来より」

 

「一割低い」

 

「品質は?」

 

柳琳が尋ねる。

 

栄華が。

 

別の竹簡を渡す。

 

「柳琳が」

 

「確認してくださいませ」

 

柳琳。

 

読む。

 

「よいものです」

 

「特に」

 

「止血薬と」

 

「寒さに効く薬は」

 

「北方のものが優れています」

 

「なら」

 

時雨が言う。

 

「涼州から買う」

 

「量は」

 

栄華が尋ねる。

 

「治療所」

 

「三か月分」

 

柳琳が。

 

僅かに。

 

首を横へ振る。

 

「半年分が必要です」

 

栄華の目。

 

柳琳へ。

 

喧嘩。

 

再燃。

 

しそう。

 

時雨が。

 

先に言う。

 

「四か月」

 

二人。

 

時雨を見る。

 

「また」

 

「間ですの?」

 

栄華が尋ねる。

 

「違う」

 

時雨は。

 

地図。

 

見る。

 

「雨季」

 

「道が悪くなる」

 

「三か月では」

 

「次が届かない」

 

「半年だと」

 

「湿気で傷む」

 

柳琳が。

 

頷く。

 

「確かに」

 

「保管施設が」

 

「完成する前なら」

 

「四か月分が」

 

「妥当です」

 

栄華も。

 

数字を。

 

書く。

 

「よろしいですわ」

 

「四か月」

 

時雨。

 

中央。

 

二人。

 

左右。

 

仕事。

 

進む。

 

時折。

 

栄華が。

 

茶を淹れる。

 

時雨の好み。

 

濃すぎない。

 

香り。

 

強い。

 

「熱いですわ」

 

「少し」

 

「待ちなさいませ」

 

柳琳が。

 

時雨の手を取り。

 

傷。

 

確認。

 

「痛みは」

 

「ありませんか」

 

「ない」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「指を」

 

「曲げてください」

 

時雨。

 

曲げる。

 

柳琳の指。

 

時雨の指へ。

 

添う。

 

栄華の目。

 

そちらへ。

 

向く。

 

「柳琳」

 

「何でしょう」

 

「診察は」

 

「終わりましたの?」

 

「まだです」

 

「長くありません?」

 

「必要な時間です」

 

栄華は。

 

茶菓子を。

 

時雨の前へ。

 

少し。

 

強く置く。

 

「食べなさいませ」

 

「今?」

 

「今です」

 

柳琳が。

 

茶菓子を見る。

 

「一つだけです」

 

「二つあります」

 

「時雨の分と」

 

「わたくしの分です!」

 

「なら」

 

「時雨の前へ」

 

「両方置く必要はありません」

 

栄華の顔が。

 

僅かに赤い。

 

「置く場所が」

 

「そこしかなかったのです!」

 

机。

 

広い。

 

場所。

 

いくらでもある。

 

時雨は。

 

菓子を一つ。

 

取る。

 

残り。

 

栄華の前へ置く。

 

「栄華」

 

「何ですの」

 

「食べろ」

 

栄華の目。

 

僅かに。

 

揺れる。

 

「わたくしへ?」

 

「ああ」

 

「一緒に」

 

「休むんだろ」

 

栄華の口元。

 

ゆっくり。

 

柔らかくなる。

 

「そうですわね」

 

菓子。

 

取る。

 

柳琳が。

 

時雨を見る。

 

「私の分は」

 

時雨。

 

残っていない。

 

柳琳。

 

冗談に近い。

 

声。

 

だが。

 

少し。

 

本気。

 

時雨は。

 

自分の菓子。

 

半分。

 

割る。

 

柳琳へ。

 

差し出す。

 

「これ」

 

柳琳の目が。

 

僅かに。

 

大きくなる。

 

「よいのですか」

 

「ああ」

 

柳琳は。

 

両手で。

 

受け取る。

 

「ありがとうございます」

 

栄華が。

 

その様子を見る。

 

自分。

 

一つ。

 

柳琳。

 

時雨と半分。

 

何か。

 

負けた。

 

ような。

 

気がする。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「わたくしの菓子も」

 

「半分」

 

「食べます?」

 

「もうある」

 

「そうですか」

 

栄華の声。

 

少し。

 

沈む。

 

時雨は。

 

栄華を見る。

 

「栄華」

 

「何ですの」

 

「一口」

 

「くれ」

 

栄華の動き。

 

止まる。

 

「わたくしの?」

 

「ああ」

 

栄華は。

 

菓子を見る。

 

自分が。

 

少し。

 

齧った。

 

残り。

 

「これは」

 

「その」

 

「わたくしが」

 

「食べた後です」

 

「ああ」

 

「気にしませんの?」

 

「何を」

 

栄華の顔。

 

赤い。

 

柳琳も。

 

二人を見る。

 

「では」

 

栄華は。

 

菓子を。

 

時雨へ差し出す。

 

指。

 

僅かに。

 

震える。

 

時雨。

 

一口。

 

食べる。

 

「甘い」

 

「菓子ですもの」

 

「ああ」

 

「どうです?」

 

「悪くない」

 

栄華の表情。

 

満足。

 

非常に。

 

柔らかい。

 

柳琳が。

 

静かに。

 

自分の半分を。

 

時雨へ。

 

差し出す。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「こちらも」

 

「一口」

 

「食べますか」

 

栄華の目。

 

一気に。

 

柳琳へ。

 

「柳琳!」

 

「何でしょう」

 

「それは」

 

「わたくしの菓子です!」

 

「時雨から」

 

「半分いただきました」

 

「元は」

 

「わたくしが用意したものです!」

 

「ですが」

 

「今は」

 

「私のものです」

 

「屁理屈ですわ!」

 

時雨は。

 

柳琳の菓子。

 

一口。

 

食べる。

 

栄華。

 

止まる。

 

柳琳。

 

微笑む。

 

「同じ味だ」

 

時雨が言う。

 

「同じ菓子ですから」

 

柳琳が答える。

 

栄華は。

 

扇を。

 

強く開く。

 

「時雨!」

 

「何だ」

 

「あなたは!」

 

「なぜ!」

 

「どちらからも!」

 

「食べますの!」

 

「くれた」

 

「そういう問題ではありません!」

 

柳琳は。

 

少し。

 

楽しそうに。

 

栄華を見る。

 

「栄華」

 

「何ですの」

 

「時雨は」

 

「公平です」

 

「嬉しくありません!」

 

だが。

 

栄華の顔。

 

怒り。

 

だけではない。

 

甘い。

 

嬉しい。

 

隠せていない。

 

時雨は。

 

二人を見る。

 

「喧嘩」

 

「終わってないな」

 

「喧嘩ではありません!」

 

栄華。

 

即答。

 

柳琳は。

 

静かに。

 

付け加える。

 

「時雨の扱いについて」

 

「意見が違うだけです」

 

「だから」

 

「物じゃない」

 

二人。

 

同時に。

 

少し。

 

反省。

 

「申し訳ありません」

 

柳琳。

 

素直。

 

栄華も。

 

小さく。

 

「悪かったですわ」

 

「でも」

 

栄華は続ける。

 

「あなたが」

 

「無自覚に」

 

「わたくしたちを」

 

「煽るのも」

 

「悪いと思います」

 

「何をした」

 

「今の全てです!」

 

「菓子を食った」

 

「そういうところです!」

 

---

 

午後。

 

治療所の計画。

 

まとまる。

 

常駐医療担当。

 

十名。

 

医療訓練を受けた補助員。

 

十名。

 

通常時。

 

補助員は。

 

市場管理。

 

水。

 

寝台。

 

記録。

 

荷の確認。

 

緊急時。

 

治療所へ。

 

薬。

 

三段階。

 

常備。

 

近隣分散。

 

許昌備蓄。

 

倉。

 

可動式の壁。

 

臨時病棟。

 

予算。

 

栄華。

 

納得。

 

医療。

 

柳琳。

 

納得。

 

時雨。

 

中央。

 

疲れ。

 

僅か。

 

柳琳が。

 

気づく。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「少し」

 

「休みましょう」

 

栄華が。

 

書類を見る。

 

「あと」

 

「三本です」

 

柳琳の目。

 

栄華へ。

 

「休憩が先です」

 

「三本だけですわ」

 

「疲れてからでは」

 

「遅いです」

 

「時雨」

 

栄華が尋ねる。

 

「続けられますか」

 

「ああ」

 

柳琳の目。

 

時雨へ。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

柳琳。

 

僅かに。

 

眉を下げる。

 

栄華。

 

時雨の顔を見る。

 

先ほどより。

 

目。

 

重い。

 

姿勢。

 

僅かに。

 

前。

 

手。

 

無意識。

 

傷を庇う。

 

栄華は。

 

竹簡を閉じる。

 

「休憩にします」

 

柳琳が。

 

栄華を見る。

 

「よいのですか」

 

「時雨が」

 

「続けられると」

 

「言っても」

 

「信用できないと」

 

「朝」

 

「話したでしょう」

 

柳琳の表情。

 

柔らかくなる。

 

「そうでした」

 

時雨が。

 

栄華を見る。

 

「三本」

 

「後です」

 

「短い」

 

「時雨」

 

栄華の声。

 

普段より。

 

柔らかい。

 

「今日は」

 

「わたくしたちの言うことを」

 

「聞くと」

 

「決めたでしょう?」

 

「決めてない」

 

「決めました」

 

「いつ」

 

「食堂を出る時です」

 

「聞いてない」

 

柳琳が。

 

小さく笑う。

 

「時雨」

 

「少し」

 

「横になってください」

 

「どこで」

 

栄華が。

 

執務室の奥。

 

長椅子。

 

指す。

 

客。

 

休憩用。

 

柔らかい。

 

時雨は。

 

長椅子を見る。

 

「寝ない」

 

「横になるだけです」

 

柳琳が答える。

 

「一刻」

 

「長い」

 

「半刻」

 

「長い」

 

「では」

 

柳琳は。

 

少し考える。

 

「私たちが」

 

「十まで数える間」

 

時雨の眉。

 

寄る。

 

「短すぎますわ!」

 

栄華が言う。

 

柳琳は。

 

僅かに。

 

笑う。

 

「時雨が」

 

「横になるためです」

 

「その後」

 

「眠れば」

 

「そのまま休ませます」

 

時雨が。

 

柳琳を見る。

 

「策か」

 

「治療です」

 

栄華も。

 

口元を隠し。

 

僅かに笑う。

 

「外道な策ではありませんわ」

 

時雨は。

 

長椅子へ。

 

横になる。

 

頭。

 

硬い。

 

枕。

 

ない。

 

栄華が。

 

すぐに。

 

小さな枕を。

 

持ってくる。

 

時雨の頭。

 

少し持ち上げ。

 

下へ置く。

 

手。

 

髪へ。

 

触れる。

 

僅か。

 

「乱れていますわ」

 

栄華は。

 

時雨の髪を。

 

指で整える。

 

普段。

 

男嫌い。

 

男へ。

 

触れることすら。

 

好まない。

 

だが。

 

時雨。

 

別。

 

指。

 

優しい。

 

柳琳は。

 

時雨の上へ。

 

薄い布をかける。

 

「冷えないように」

 

「ああ」

 

「目を閉じてください」

 

「必要ない」

 

「休めません」

 

時雨は。

 

目を閉じる。

 

柳琳。

 

満足そう。

 

栄華。

 

長椅子の横。

 

椅子。

 

座る。

 

柳琳。

 

反対側。

 

「一」

 

柳琳が数える。

 

「二」

 

栄華も。

 

なぜか。

 

続ける。

 

「三」

 

柳琳。

 

「四」

 

栄華。

 

時雨の呼吸。

 

少しずつ。

 

深くなる。

 

「五」

 

「六」

 

「七」

 

「八」

 

「九」

 

「十」

 

時雨。

 

返事。

 

ない。

 

眠った。

 

二人。

 

静かになる。

 

栄華は。

 

時雨の寝顔を見る。

 

戦場。

 

軍議。

 

無表情。

 

鋭い。

 

今。

 

眠り。

 

少し。

 

幼い。

 

「本当に」

 

栄華が。

 

小さく言う。

 

「手のかかる方ですわ」

 

柳琳は。

 

時雨の額へ。

 

手。

 

当てる。

 

熱。

 

ない。

 

「無理をすることが」

 

「普通になりすぎています」

 

「ええ」

 

栄華の声。

 

静か。

 

「自分へ使う金も」

 

「時間も」

 

「全て」

 

「無駄だと考える」

 

「わたくしが」

 

「一番」

 

「嫌う考え方です」

 

柳琳が。

 

栄華を見る。

 

「栄華は」

 

「無駄を嫌います」

 

「ですが」

 

「時雨が」

 

「自分を無駄に扱うことを」

 

「最も嫌っていますね」

 

栄華の目が。

 

僅かに。

 

揺れる。

 

「何を」

 

「当然です」

 

声。

 

強くない。

 

「時雨は」

 

「魏の重要な将」

 

「涼州」

 

「荊州」

 

「黒狼隊」

 

「多くの者が」

 

「必要としております」

 

柳琳は。

 

小さく微笑む。

 

「それだけですか」

 

栄華の扇。

 

僅かに。

 

動く。

 

「柳琳」

 

「何でしょう」

 

「あなたは」

 

「時雨へ」

 

「随分と甘いですわね」

 

柳琳の表情。

 

変わらない。

 

だが。

 

時雨へ置いた手。

 

離さない。

 

「栄華もです」

 

「わたくしは」

 

「適切に」

 

「世話をしているだけです」

 

「髪を」

 

「整えることも?」

 

栄華の指。

 

時雨の黒髪へ。

 

触れたまま。

 

止まる。

 

「乱れていました」

 

「指で」

 

「整える必要は」

 

「あったのでしょうか」

 

「あなたも」

 

「額へ」

 

「ずっと触れていますわ!」

 

「診察です」

 

「熱は」

 

「ないと言ったでしょう!」

 

「変化がないか」

 

「見ています」

 

「屁理屈です!」

 

「栄華ほどではありません」

 

二人。

 

声。

 

小さい。

 

時雨を。

 

起こさないよう。

 

喧嘩。

 

囁き。

 

「柳琳」

 

「何でしょう」

 

「時雨の手を」

 

「長く握りすぎです」

 

「栄華は」

 

「午前中」

 

「理由もなく」

 

「右手を握っていました」

 

「姿勢の補助です!」

 

「姿勢は」

 

「傾いていませんでした」

 

「傾く可能性が!」

 

「ありませんでした」

 

「あなた!」

 

時雨が。

 

僅かに。

 

眉を動かす。

 

二人。

 

同時。

 

黙る。

 

時雨。

 

眠り。

 

続く。

 

栄華と柳琳。

 

互い。

 

顔。

 

近い。

 

睨む。

 

次。

 

時雨。

 

見る。

 

そして。

 

同時に。

 

小さく。

 

息を吐く。

 

「起こすところでした」

 

柳琳が言う。

 

「あなたが」

 

「余計なことを」

 

「言うからです」

 

「栄華が」

 

「否定すれば」

 

「済むことです」

 

栄華は。

 

時雨を見る。

 

否定。

 

できない。

 

時雨へ。

 

甘い。

 

男嫌い。

 

今も。

 

男全般。

 

好きではない。

 

粗雑。

 

力任せ。

 

女を。

 

飾りや。

 

道具のように見る男。

 

嫌い。

 

だが。

 

時雨は。

 

違う。

 

時折。

 

無神経。

 

胸へ弱い。

 

鈍い。

 

それでも。

 

栄華の仕事を。

 

軽く見ない。

 

金を守ることを。

 

卑しいと言わない。

 

必要な役目として。

 

任せる。

 

財布。

 

預けた。

 

茶。

 

飲んだ。

 

喧嘩。

 

逃げない。

 

「時雨だけです」

 

栄華が。

 

小さく言う。

 

柳琳が。

 

聞く。

 

「何がですか」

 

「男で」

 

「ここまで」

 

「近くへいても」

 

「嫌ではないのは」

 

柳琳の目が。

 

僅かに。

 

柔らかくなる。

 

「そうですか」

 

「笑わないでくださいませ」

 

「笑っていません」

 

「笑っています!」

 

「少しだけです」

 

栄華は。

 

頬を。

 

僅かに赤くする。

 

「あなたは」

 

「どうなのです」

 

「私?」

 

「時雨へ」

 

「甘いと」

 

「認めますの?」

 

柳琳は。

 

時雨の寝顔を見る。

 

「認めます」

 

栄華の目。

 

僅かに。

 

大きくなる。

 

「即答ですの?」

 

「隠す必要が」

 

「ありませんから」

 

「時雨は」

 

「傷ついた方を」

 

「敵味方で分けません」

 

「ですが」

 

「自分の傷だけは」

 

「いつも後回しにします」

 

「だから」

 

「私が」

 

「大切にしたいと思います」

 

栄華の扇。

 

僅かに。

 

下がる。

 

「好きなのですか」

 

柳琳は。

 

すぐには。

 

答えない。

 

時雨。

 

眠る。

 

呼吸。

 

静か。

 

「大切です」

 

柳琳が答える。

 

「それでは」

 

「答えになっていません」

 

「栄華は?」

 

逆。

 

問われる。

 

栄華。

 

黙る。

 

「時雨は」

 

「華琳様を選んでおります」

 

「知っています」

 

柳琳が答える。

 

「私も」

 

「華琳様から」

 

「時雨を奪いたいとは」

 

「思いません」

 

「でも」

 

「時雨を大切に思うことは」

 

「やめられません」

 

栄華は。

 

時雨を見る。

 

華琳。

 

王。

 

主。

 

時雨。

 

選んだ。

 

栄華も。

 

認めている。

 

華琳の隣。

 

時雨。

 

それが。

 

一番。

 

自然。

 

それでも。

 

自分が。

 

時雨へ。

 

茶を淹れ。

 

衣を選び。

 

財布を渡し。

 

怒り。

 

喧嘩し。

 

隣へいたい。

 

その気持ち。

 

消えない。

 

「同じですわ」

 

栄華が。

 

小さく言う。

 

柳琳の目。

 

柔らかくなる。

 

「なら」

 

「私たちが」

 

「争う必要はありません」

 

「それと」

 

「これとは」

 

「別です!」

 

声。

 

少し。

 

大きい。

 

時雨の目。

 

開く。

 

栄華と柳琳。

 

固まる。

 

「起きた」

 

時雨が言う。

 

「申し訳ありません!」

 

柳琳が。

 

すぐに。

 

頭を下げる。

 

栄華も。

 

時雨の髪から。

 

手を離す。

 

「柳琳が」

 

「大きな声を出すからです」

 

「栄華です」

 

「あなたが!」

 

「栄華が!」

 

時雨は。

 

二人を見る。

 

「仲直りしてないな」

 

「喧嘩ではありません!」

 

栄華。

 

少し。

 

必死。

 

柳琳は。

 

時雨の布を。

 

整える。

 

「もう少し」

 

「眠りますか」

 

「起きる」

 

「まだ」

 

「半刻も経っていません」

 

「十分」

 

栄華が。

 

時雨の肩へ。

 

手。

 

置く。

 

「もう少し」

 

「横になっていなさいませ」

 

時雨が。

 

栄華を見る。

 

普段なら。

 

命令。

 

反発。

 

今。

 

声。

 

柔らかい。

 

柳琳も。

 

反対側。

 

「時雨」

 

「今日は」

 

「私たちが」

 

「見ています」

 

「安心して」

 

「休んでください」

 

時雨は。

 

二人を見る。

 

逃げる。

 

理由。

 

ない。

 

「分かった」

 

再び。

 

横。

 

目。

 

閉じる。

 

栄華と柳琳。

 

互い。

 

見る。

 

勝利。

 

どちらの。

 

分からない。

 

だが。

 

二人とも。

 

嬉しい。

 

---

 

夕方。

 

時雨が。

 

再び目を覚ました時。

 

執務室。

 

静か。

 

窓。

 

夕日。

 

赤い。

 

栄華。

 

机。

 

仕事。

 

柳琳。

 

薬草の一覧。

 

整理。

 

二人。

 

喧嘩せず。

 

働いている。

 

時雨が。

 

身体を起こす。

 

栄華。

 

すぐに。

 

気づく。

 

「起きましたの?」

 

「ああ」

 

柳琳も。

 

立つ。

 

「気分は」

 

「どうですか」

 

「悪くない」

 

「手は?」

 

「痛くない」

 

柳琳。

 

確認。

 

栄華。

 

茶。

 

淹れる。

 

温かい。

 

時雨の前へ。

 

「飲みなさいませ」

 

「ああ」

 

「熱いです」

 

柳琳が言う。

 

時雨。

 

少し待つ。

 

飲む。

 

「悪くない」

 

栄華の目。

 

柔らかくなる。

 

「当然ですわ」

 

「何か」

 

時雨が。

 

机を見る。

 

書類。

 

まとまっている。

 

「終わったのか」

 

「治療所の予算案は」

 

「完成しました」

 

栄華が答える。

 

「医療品の一覧も」

 

「終わりました」

 

柳琳が続ける。

 

「華琳様へ」

 

「明日の朝」

 

「提出できます」

 

「ああ」

 

「喧嘩した方が」

 

「仕事が早いな」

 

栄華の扇。

 

時雨の肩。

 

軽く。

 

「喧嘩ではないと!」

 

「何度言えば!」

 

柳琳は。

 

少し笑う。

 

「ですが」

 

「時雨が」

 

「間へ入ってくれたことで」

 

「よい案になりました」

 

「俺は」

 

「巻き込まれただけだ」

 

栄華。

 

柳琳。

 

同時に。

 

少し。

 

申し訳なさそう。

 

「悪かったですわ」

 

「申し訳ありません」

 

時雨は。

 

茶。

 

飲む。

 

「別に」

 

「ああ」

 

「悪くない」

 

栄華の目。

 

僅かに。

 

柔らかい。

 

柳琳も。

 

微笑む。

 

「時雨」

 

栄華が呼ぶ。

 

「何だ」

 

「今後」

 

「わたくしと柳琳が」

 

「意見を違えた時」

 

「また」

 

「間へ入ってくださいます?」

 

時雨は。

 

すぐに。

 

顔をしかめる。

 

「嫌だ」

 

栄華の顔。

 

僅かに。

 

沈む。

 

柳琳も。

 

少し。

 

寂しそう。

 

時雨は。

 

二人を見る。

 

「でも」

 

「必要なら」

 

「入る」

 

栄華の表情。

 

戻る。

 

「そう」

 

「それで十分ですわ」

 

柳琳も。

 

頷く。

 

「ありがとうございます」

 

時雨は。

 

立つ。

 

手。

 

傷。

 

柳琳の布。

 

巻かれている。

 

栄華の帯。

 

朝。

 

整えられた。

 

二人の世話。

 

残る。

 

「夕食」

 

時雨が言う。

 

「まだですわ」

 

栄華が答える。

 

「一緒に」

 

「行くか」

 

二人。

 

動き。

 

止まる。

 

時雨。

 

先。

 

扉へ。

 

歩く。

 

栄華。

 

柳琳。

 

互い。

 

見る。

 

次。

 

同時に。

 

時雨の左右へ。

 

並ぶ。

 

右。

 

栄華。

 

左。

 

柳琳。

 

朝と同じ。

 

「時雨」

 

栄華が言う。

 

「今夜は」

 

「きちんと」

 

「食べてくださいませ」

 

「ああ」

 

柳琳も。

 

「食後」

 

「もう一度」

 

「薬を塗ります」

 

「ああ」

 

「その後」

 

「早く眠ること」

 

「ああ」

 

栄華が。

 

柳琳を見る。

 

「今夜は」

 

「華琳様の寝室でしょうか」

 

時雨が答える。

 

「たぶん」

 

柳琳が。

 

僅かに。

 

笑う。

 

「華琳様にも」

 

「手を使わせすぎないよう」

 

「お伝えしておきます」

 

時雨が見る。

 

「何に」

 

「書類です」

 

柳琳。

 

穏やか。

 

栄華の顔。

 

少し。

 

赤い。

 

「当然です!」

 

「ほかに」

 

「何があるのです!」

 

時雨は。

 

首を傾げる。

 

「分からない」

 

「分からなくてよろしいですわ!」

 

廊下。

 

三人。

 

歩く。

 

王宮の役人たち。

 

朝。

 

栄華と柳琳の。

 

激しい喧嘩を見た。

 

今。

 

時雨を。

 

二人で挟み。

 

穏やかに歩く姿。

 

見る。

 

誰も。

 

声。

 

かけない。

 

ただ。

 

理解する。

 

栄華と柳琳。

 

意見。

 

合わない。

 

財。

 

命。

 

どちらを。

 

先へ置くか。

 

今後も。

 

何度も。

 

争う。

 

だが。

 

二人とも。

 

魏を大切にしている。

 

民を大切にしている。

 

そして。

 

時雨へ。

 

非常に甘い。

 

栄華は。

 

男を嫌う。

 

だが。

 

時雨だけは。

 

例外。

 

時雨が。

 

食事を抜けば。

 

怒る。

 

衣が乱れれば。

 

直す。

 

金を使いすぎれば。

 

止める。

 

無駄に。

 

自分を削れば。

 

誰より。

 

腹を立てる。

 

柳琳は。

 

誰へも。

 

優しい。

 

だが。

 

時雨へ向ける優しさは。

 

少し。

 

違う。

 

傷へ触れる手。

 

声。

 

距離。

 

帰ってきてほしい。

 

生きてほしい。

 

その願い。

 

強い。

 

そして。

 

時雨も。

 

二人の甘さを。

 

完全には。

 

理解していない。

 

だが。

 

拒んでいない。

 

茶。

 

飲む。

 

薬。

 

塗らせる。

 

髪。

 

整えさせる。

 

隣。

 

歩く。

 

その程度。

 

時雨にとって。

 

小さい。

 

二人にとって。

 

大きい。

 

---

 

食堂。

 

華琳たち。

 

すでに。

 

集まっていた。

 

春蘭。

 

秋蘭。

 

桂花。

 

稟。

 

風。

 

霞。

 

華論。

 

季衣。

 

流琉。

 

馬超。

 

馬騰。

 

時雨が。

 

栄華と柳琳に挟まれ。

 

入ってくる。

 

全員。

 

見る。

 

華琳の蒼い瞳。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「随分と」

 

「仲良くなったのね」

 

「ああ」

 

栄華と柳琳。

 

同時に。

 

時雨を見る。

 

時雨は。

 

華琳へ答える。

 

「喧嘩した」

 

栄華の顔。

 

変わる。

 

「時雨!」

 

「喧嘩ではありません!」

 

柳琳も。

 

穏やかに。

 

訂正。

 

「意見が」

 

「激しく違っただけです」

 

霞が。

 

吹き出す。

 

「それ」

 

「喧嘩やろ」

 

「違います!」

 

栄華が。

 

霞を睨む。

 

馬超が。

 

時雨。

 

栄華。

 

柳琳。

 

見る。

 

「なぜ」

 

「喧嘩した二人が」

 

「張燕の左右にいる」

 

「巻き込まれた」

 

時雨が答える。

 

「何に」

 

「治療所」

 

「金」

 

「胸」

 

食堂。

 

完全に。

 

止まる。

 

華琳の目。

 

鋭くなる。

 

桂花。

 

顔。

 

赤い。

 

春蘭。

 

立ち上がりかける。

 

霞。

 

机へ。

 

突っ伏す。

 

笑う。

 

栄華の扇。

 

時雨の頭へ。

 

飛ぶ。

 

時雨。

 

受け止める。

 

「痛くない」

 

「なぜ!」

 

「最後を!」

 

「付け加えますの!」

 

「事実」

 

柳琳の頬も。

 

赤い。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「その話は」

 

「食事中に」

 

「しない方がよいと思います」

 

「ああ」

 

華琳が。

 

ゆっくり。

 

時雨の隣へ来る。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「今夜」

 

「詳しく」

 

「聞かせてもらうわ」

 

「またか」

 

「またよ」

 

華琳は。

 

時雨の腕へ。

 

自分の腕を絡める。

 

栄華。

 

柳琳。

 

僅かに。

 

視線。

 

動く。

 

華琳。

 

見逃さない。

 

「栄華」

 

「何でしょう」

 

「柳琳」

 

「はい」

 

「時雨の世話を」

 

「してくれたこと」

 

「礼を言うわ」

 

栄華は。

 

頭を下げる。

 

「当然のことです」

 

柳琳も。

 

静かに。

 

頭を下げる。

 

「無理をしていましたので」

 

「ですが」

 

華琳の口元。

 

僅かに。

 

笑み。

 

「これからは」

 

「私が見るわ」

 

栄華。

 

柳琳。

 

同時。

 

華琳を見る。

 

宣言。

 

主妻。

 

王。

 

時雨の隣。

 

譲らない。

 

栄華は。

 

扇を開く。

 

「華琳様が」

 

「朝から夜まで」

 

「時雨を見られるわけではありません」

 

柳琳も。

 

穏やかに。

 

続ける。

 

「医療については」

 

「私へ」

 

「お任せください」

 

華琳の蒼い瞳。

 

僅かに。

 

鋭くなる。

 

「そう」

 

「なら」

 

「必要な時は」

 

「頼るわ」

 

「でも」

 

華琳は。

 

時雨へ。

 

さらに。

 

身体を寄せる。

 

「最後に」

 

「帰る場所は」

 

「私の隣よ」

 

「ああ」

 

時雨。

 

即答。

 

栄華の目。

 

僅かに。

 

寂しさ。

 

柳琳も。

 

小さく。

 

目を伏せる。

 

だが。

 

二人とも。

 

反発しない。

 

知っている。

 

時雨の選択。

 

変えたいわけではない。

 

ただ。

 

その隣へ。

 

自分たちの居場所も。

 

少し。

 

ほしい。

 

「食うか」

 

時雨が言う。

 

全員。

 

見る。

 

「冷める」

 

流琉が。

 

料理を見る。

 

「あ……」

 

「そうですね」

 

季衣が。

 

肉。

 

取る。

 

「食べよう!」

 

空気。

 

緩む。

 

席。

 

時雨。

 

華琳の隣。

 

栄華。

 

向かい。

 

柳琳。

 

斜め。

 

時折。

 

時雨の手。

 

柳琳が見る。

 

時雨の茶。

 

栄華が注ぐ。

 

華琳。

 

その全て。

 

見ている。

 

怒り。

 

少し。

 

嫉妬。

 

ある。

 

だが。

 

許す。

 

時雨を。

 

大切にする者。

 

増える。

 

それは。

 

悪いことではない。

 

時雨が。

 

帰る。

 

理由。

 

また。

 

増える。

 

「時雨」

 

栄華が呼ぶ。

 

「何だ」

 

「明日の朝食」

 

「抜いたら」

 

「許しません」

 

「ああ」

 

柳琳も。

 

「朝の訓練は」

 

「短くしてください」

 

「ああ」

 

華琳が。

 

「夜は」

 

「私のところへ」

 

「ああ」

 

霞が。

 

笑う。

 

「時雨」

 

「予定」

 

「女に全部決められとるやん」

 

「楽だ」

 

食堂。

 

一瞬。

 

静か。

 

次。

 

笑い。

 

広がる。

 

栄華。

 

扇で口元を隠す。

 

柳琳。

 

穏やかに笑う。

 

華琳。

 

呆れながら。

 

時雨の腕を離さない。

 

外道。

 

非道。

 

卑劣。

 

黒山の狼。

 

戦場では。

 

誰より。

 

恐れられる男。

 

だが。

 

許昌。

 

女たちの間。

 

食事。

 

薬。

 

茶。

 

休息。

 

その全てを。

 

管理されている。

 

そして。

 

本人も。

 

悪くないと思っている。

 

栄華と柳琳の喧嘩。

 

一日。

 

続いた。

 

財貨。

 

薬草。

 

人員。

 

時雨。

 

争点。

 

増え。

 

減り。

 

最後。

 

治療所の形。

 

決まった。

 

二人の意見。

 

両方。

 

残った。

 

時雨は。

 

巻き込まれた。

 

朝食を食べさせられ。

 

手を治療され。

 

菓子を分け。

 

昼寝をさせられ。

 

夕食まで。

 

左右を。

 

固められた。

 

だが。

 

その一日。

 

栄華も。

 

柳琳も。

 

理解した。

 

自分だけが。

 

時雨へ。

 

甘いのではない。

 

互い。

 

同じ。

 

形は違う。

 

栄華は。

 

怒りながら。

 

守る。

 

柳琳は。

 

微笑みながら。

 

止める。

 

どちらも。

 

時雨に。

 

生きていてほしい。

 

帰ってきてほしい。

 

自分を。

 

大切にしてほしい。

 

そして。

 

時雨も。

 

少しずつ。

 

受け取り始めている。

 

人から。

 

大切にされることを。

 

無駄だと。

 

切り捨てず。

 

拒まず。

 

悪くないと。

 

思い始めている。

 

夜。

 

許昌。

 

王宮。

 

荊州との戦は。

 

近づく。

 

北郷一刀。

 

劉備。

 

魏呉同盟。

 

大きな動き。

 

その前。

 

小さな喧嘩。

 

一つ。

 

だが。

 

時雨にとっては。

 

国を取る策より。

 

理解が難しい。

 

二人の女が。

 

自分を挟み。

 

怒り。

 

甘やかし。

 

譲らない。

 

その理由。

 

黒山の狼は。

 

まだ。

 

完全には。

 

分かっていなかった。

 

ただ。

 

翌朝。

 

時雨は。

 

珍しく。

 

訓練へ出る前に。

 

朝食を取った。

 

栄華が。

 

用意した茶を飲み。

 

柳琳が。

 

手へ巻いた布を確認し。

 

華琳へ。

 

行ってくると伝えた。

 

その小さな変化を。

 

三人の女は。

 

誰も。

 

口へ出さなかった。

 

ただ。

 

それぞれ。

 

少しだけ。

 

嬉しそうに。

 

時雨の背中を。

 

見送っていた。




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次の作品の主人公とルートは誰がいい?

  • 高順呂布ルート(ヒロイン恋、霞)
  • 朱霊曹操ルート(ヒロイン華琳、柳琳)
  • 周倉関羽ルート(ヒロイン愛紗)
  • 孫瑜孫権ルート(ヒロイン蓮華、粋怜)
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