【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

303 / 303
外伝 第31話 悪党からの文通――襄陽を悩ませる嫌がらせ

外伝 第31話 悪党からの文通――襄陽を悩ませる嫌がらせ

 

 

 

 

最初の手紙が届いた時。

 

劉備は。

 

まだ。

 

笑っていた。

 

時雨から送られてきた。

 

ふざけた返書。

 

北郷一刀を縄で縛れ。

 

無理なら桃を送れ。

 

昔食べた干し肉を返せ。

 

許昌へ来るなら。

 

関羽は入口へ置いてこい。

 

荊州牧へ送る文としては。

 

あまりにも。

 

礼を欠いていた。

 

外交文書として。

 

形になっていない。

 

相手を怒らせることだけを考えたような。

 

悪質な内容。

 

それでも。

 

劉備には。

 

懐かしかった。

 

昔。

 

まだ。

 

互いに。

 

大きな国を持たなかった頃。

 

時雨は。

 

今より。

 

よく笑っていた。

 

正確には。

 

人を困らせる時だけ。

 

楽しそうにしていた。

 

劉備が。

 

民を助けたいと言えば。

 

飯はどこから出すと聞く。

 

関羽が。

 

義を語れば。

 

義で腹が膨れるなら食ってみろと言う。

 

張飛が。

 

腹を空かせれば。

 

自分の干し肉を隠す。

 

そして。

 

散々。

 

嫌がらせをした後。

 

誰にも見えない場所へ。

 

食料を置いていく。

 

礼を言われれば。

 

知らないと答える。

 

問い詰められれば。

 

拾っただけだと言う。

 

そういう男だった。

 

だから。

 

最初の返書を読んだ時。

 

劉備は。

 

時雨が。

 

少しだけ。

 

昔へ戻ったように感じた。

 

黒山の王でもない。

 

魏の降将でもない。

 

冷たい仮面を被った狼でもない。

 

ただ。

 

性格の悪い。

 

面倒くさがりの男。

 

「張燕さん」

 

「元気そうだね」

 

劉備は。

 

そう言って。

 

笑った。

 

その笑顔を見た関羽は。

 

非常に。

 

複雑な顔をした。

 

「玄徳様」

 

「これは」

 

「元気そうという言葉で」

 

「片づけてよい内容ではありません」

 

「でも」

 

「張燕さんらしいよ」

 

「荊州牧に対し」

 

「北郷殿を縄で縛れと」

 

「書いております」

 

「うん」

 

「桃を送れとも」

 

「うん」

 

「私は」

 

「入口へ置いてこいと」

 

「書かれております」

 

関羽の声。

 

最後。

 

低い。

 

劉備は。

 

困ったように。

 

笑った。

 

「愛紗ちゃん」

 

「まだ」

 

「昔のこと」

 

「怒ってる?」

 

関羽の眉が。

 

僅かに。

 

動く。

 

「私は」

 

「張燕へ」

 

「剣を向けました」

 

「ですが」

 

「奴も」

 

「私の馬へ」

 

「泥を投げました」

 

「愛紗ちゃんの馬が」

 

「綺麗すぎたから」

 

「汚したくなったって」

 

「言ってたね」

 

「笑い事ではありません!」

 

張飛は。

 

二人の隣で。

 

時雨の手紙を。

 

何度も。

 

裏返していた。

 

「桃は」

 

「送るのか?」

 

「送ろうと思う」

 

「鈴々が」

 

「選ぶのだ!」

 

張飛の目。

 

輝く。

 

関羽は。

 

額へ。

 

手を当てた。

 

「玄徳様」

 

「本当に」

 

「返礼として」

 

「桃を送るおつもりですか」

 

「だって」

 

「張燕さんが」

 

「欲しいって」

 

「書いてるから」

 

「嫌がらせです」

 

「半分は」

 

「本気かもしれないよ」

 

「残り半分は?」

 

「嫌がらせ」

 

劉備は。

 

素直に答えた。

 

関羽は。

 

深く。

 

息を吐いた。

 

それでも。

 

劉備は。

 

返書を用意した。

 

桃。

 

干し肉。

 

そして。

 

短い文。

 

『張燕さんへ。

 

桃を送ります。

 

干し肉も返します。

 

でも、一刀さんを縄で縛ることはできません。

 

愛紗ちゃんも入口へ置いていきません。

 

会う時は、ちゃんと一緒に行きます。

 

昔みたいに喧嘩しないでください。

 

劉備』

 

真面目。

 

素直。

 

劉備らしい。

 

関羽は。

 

内容を確認し。

 

大きな問題がないことを確かめた。

 

張飛は。

 

桃の数を。

 

増やした。

 

北郷一刀は。

 

その文を。

 

最後まで黙って読んだ。

 

「張燕か」

 

一刀は。

 

竹簡を置く。

 

「本当に」

 

「劉備と」

 

「昔からの知り合いなんだな」

 

劉備は。

 

頷く。

 

「一緒に戦ったことがあるよ」

 

「どんな男だった」

 

「悪い人」

 

即答。

 

関羽が。

 

僅かに。

 

劉備を見る。

 

張飛は。

 

笑う。

 

一刀の眉が。

 

少し動く。

 

「悪い人?」

 

「うん」

 

劉備は。

 

昔を。

 

思い出す。

 

「人の話を」

 

「全然聞かない」

 

「自分のしたいことをする」

 

「よく嘘をつく」

 

「人をからかう」

 

「怒らせる」

 

「面倒だって」

 

「すぐ言う」

 

「でも」

 

劉備の表情が。

 

柔らかくなる。

 

「本当に」

 

「困っている人は」

 

「見捨てなかった」

 

一刀は。

 

黙って。

 

劉備を見る。

 

「信用しているのか」

 

「全部は」

 

「分からない」

 

劉備は。

 

少し。

 

考える。

 

「でも」

 

「張燕さんが」

 

「自分のためだけに」

 

「戦う人じゃないのは」

 

「知ってる」

 

一刀の指が。

 

机を。

 

軽く。

 

叩く。

 

「今は」

 

「曹操の将だ」

 

「うん」

 

「魏と呉は」

 

「荊州を狙っている」

 

「うん」

 

「昔の縁だけで」

 

「手を緩める男じゃない」

 

「知ってる」

 

劉備は。

 

真っ直ぐ答える。

 

「だから」

 

「会いたい」

 

一刀の目が。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「会えば」

 

「変えられると思うか」

 

「分からない」

 

「でも」

 

「会わないまま」

 

「敵になるのは」

 

「嫌」

 

一刀は。

 

何も言わなかった。

 

劉備の返書は。

 

桃と干し肉と共に。

 

許昌へ向かった。

 

だが。

 

その返事が。

 

許昌へ届くより前に。

 

襄陽へ。

 

二通目の手紙が届いた。

 

---

 

二通目。

 

送り主。

 

張燕。

 

宛先。

 

劉備玄徳。

 

文は。

 

短かった。

 

『劉備へ。

 

返事が遅い。

 

桃を選ぶのに何日かかってる。

 

荊州の桃は全部腐ってるのか。

 

あと、関羽へ。

 

昔、俺の馬を睨んだことを謝れ。

 

馬が怖がってた。

 

張燕』

 

劉備は。

 

読み終えた後。

 

しばらく。

 

黙った。

 

関羽も。

 

黙った。

 

張飛は。

 

竹簡を覗き。

 

首を傾げる。

 

「愛紗」

 

「馬を睨んだのか?」

 

「睨んでいない!」

 

関羽の声。

 

部屋へ響く。

 

「張燕が!」

 

「私の馬へ!」

 

「泥を投げたのだ!」

 

「私は!」

 

「奴を睨んだ!」

 

「馬ではない!」

 

劉備は。

 

小さく。

 

笑う。

 

「張燕さんから見たら」

 

「同じだったんじゃないかな」

 

「違います!」

 

関羽は。

 

時雨の手紙を。

 

強く。

 

握りかける。

 

劉備が。

 

慌てて。

 

両手で止めた。

 

「愛紗ちゃん」

 

「破いたらだめ」

 

「なぜです!」

 

「返事を」

 

「書けなくなるから」

 

関羽の目。

 

鋭くなる。

 

「返事を」

 

「書くのですか」

 

「うん」

 

「この内容へ?」

 

「うん」

 

関羽は。

 

少し。

 

考えた。

 

そして。

 

劉備から。

 

筆を受け取った。

 

「私が」

 

「書きます」

 

劉備の目が。

 

僅かに。

 

大きくなる。

 

張飛は。

 

楽しそうに。

 

身を乗り出す。

 

関羽は。

 

筆を取る。

 

力強い字。

 

『張燕へ。

 

返事はすでに送った。

 

桃が腐っているかどうかは、お前が食べて確かめろ。

 

私はお前の馬を睨んでいない。

 

お前を睨んだ。

 

謝る理由はない。

 

関羽』

 

短い。

 

鋭い。

 

劉備は。

 

その文を見る。

 

「愛紗ちゃん」

 

「喧嘩になるよ」

 

「すでになっております」

 

「張燕さん」

 

「喜ぶと思う」

 

関羽の筆。

 

止まる。

 

「なぜ」

 

「喜ぶのです」

 

「返事が来ると」

 

「また送れるから」

 

関羽の顔が。

 

僅かに。

 

引きつる。

 

その予感は。

 

正しかった。

 

---

 

三通目。

 

二通目が。

 

襄陽へ届いた。

 

翌日。

 

来た。

 

許昌から。

 

異常に。

 

速い。

 

使者は。

 

馬を替え。

 

休まず。

 

来たようだった。

 

中身。

 

『関羽へ。

 

お前が俺を睨んだなら、もっと悪い。

 

謝れ。

 

劉備へ。

 

関羽が怖い。

 

護衛を替えろ。

 

張飛ならいい。

 

小さいから遠くからでも見える。

 

張燕』

 

張飛が。

 

竹簡を読んだ瞬間。

 

頬を。

 

膨らませた。

 

「鈴々は!」

 

「小さくないのだ!」

 

関羽は。

 

無言。

 

劉備は。

 

両手で。

 

顔を覆った。

 

「張燕さん」

 

「完全に」

 

「遊んでる」

 

一刀は。

 

少し離れた場所で。

 

手紙を。

 

見ていた。

 

「使者を」

 

「これだけ早く」

 

「往復させている」

 

「ただの嫌がらせか?」

 

関羽が。

 

一刀を見る。

 

「ほかに」

 

「何があると?」

 

一刀は。

 

時雨の文を。

 

もう一度見る。

 

文章。

 

くだらない。

 

内容。

 

意味がない。

 

だが。

 

届く速度。

 

使者の数。

 

経路。

 

誰が受け取るか。

 

誰が返すか。

 

襄陽の門。

 

文官。

 

劉備の近く。

 

その全てを。

 

確認できる。

 

「探られている」

 

一刀が言った。

 

劉備の目が。

 

時雨の手紙へ向く。

 

「何を?」

 

「襄陽の伝令網」

 

一刀は。

 

竹簡を。

 

机へ置く。

 

「許昌から」

 

「何日で届くか」

 

「誰が受け取るか」

 

「返事を」

 

「誰が書くか」

 

「どのくらいで」

 

「戻すか」

 

「あいつは」

 

「手紙の内容より」

 

「動きを見ている」

 

関羽の目が。

 

鋭くなる。

 

「嫌がらせを」

 

「偽装に使っていると?」

 

「おそらく」

 

一刀は。

 

頷く。

 

「しかも」

 

「劉備宛ての」

 

「個人的な手紙なら」

 

「外交文書ほど」

 

「厳しく調べられない」

 

劉備は。

 

時雨の文を見る。

 

小さい。

 

怖い。

 

護衛を替えろ。

 

ふざけている。

 

それでも。

 

一刀の言葉。

 

否定。

 

できない。

 

昔の時雨も。

 

そうだった。

 

くだらないことを。

 

しているように見せて。

 

相手の。

 

見ていない場所を。

 

見ていた。

 

「張燕さん」

 

劉備が呟く。

 

「昔より」

 

「悪くなってる」

 

関羽は。

 

即座に答える。

 

「昔からです」

 

「でも」

 

張飛が。

 

竹簡を。

 

指さす。

 

「返事は」

 

「書くのだ?」

 

劉備は。

 

少し。

 

考える。

 

「書く」

 

一刀が。

 

劉備を見る。

 

「送るのか」

 

「うん」

 

「探られていると」

 

「分かっていても?」

 

「返事をしなかったら」

 

「張燕さん」

 

「もっと変な手紙を」

 

「送ってくると思う」

 

一刀は。

 

黙る。

 

反論。

 

できない。

 

関羽も。

 

黙る。

 

張飛は。

 

楽しそう。

 

「次は」

 

「鈴々が書くのだ!」

 

張飛が。

 

筆を取る。

 

『張燕へ。

 

鈴々は小さくないのだ。

 

遠くからでも見えるのは、鈴々が強くて目立つからなのだ。

 

愛紗より鈴々の方が護衛に向いているのは本当なのだ。

 

桃を全部食べたら許さないのだ。

 

張飛』

 

関羽の目が。

 

鋭くなる。

 

「鈴々」

 

「最後から二行目は」

 

「必要か」

 

「本当のことなのだ!」

 

「誰が」

 

「私より」

 

「護衛に向いていると」

 

「決めた」

 

「鈴々なのだ!」

 

二人。

 

睨み合う。

 

劉備は。

 

時雨の手紙を。

 

見つめながら。

 

苦笑した。

 

まるで。

 

時雨が。

 

この場にいるようだった。

 

本人がいない。

 

それでも。

 

喧嘩。

 

起こす。

 

劉備は。

 

少しだけ。

 

懐かしいと思った。

 

その一方。

 

一刀は。

 

笑っていなかった。

 

---

 

許昌。

 

華琳の私室。

 

時雨は。

 

机の上へ。

 

紙を。

 

何枚も。

 

並べていた。

 

珍しい。

 

非常に。

 

珍しい。

 

休日でもない。

 

軍議後。

 

自分から。

 

筆を持つ。

 

華琳は。

 

向かい。

 

時雨を見る。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「何を書いているの」

 

「手紙」

 

「誰へ」

 

「劉備」

 

華琳の目。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「また?」

 

「ああ」

 

「返事は」

 

「まだ届いていないでしょう」

 

「ああ」

 

「なら」

 

「なぜ」

 

「送るの」

 

時雨は。

 

筆。

 

動かす。

 

「嫌がらせ」

 

華琳の眉が。

 

僅かに。

 

上がる。

 

「本人の前で」

 

「堂々と」

 

「言うのね」

 

「ああ」

 

「内容は」

 

「見るな」

 

華琳の笑みが。

 

ゆっくり。

 

冷える。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「ここは」

 

「私の私室よ」

 

「ああ」

 

「その机も」

 

「筆も」

 

「紙も」

 

「魏のもの」

 

「ああ」

 

「使者も」

 

「魏の者」

 

「ああ」

 

「なら」

 

「私に」

 

「見る権利があるわ」

 

時雨は。

 

少し考える。

 

紙。

 

一枚。

 

華琳へ。

 

差し出す。

 

華琳は。

 

受け取る。

 

読む。

 

『劉備へ。

 

襄陽の門番は昼寝をするのか。

 

俺の使者が入るまで遅かった。

 

門番を替えろ。

 

替えないなら、次は門の前で使者に歌わせる。

 

張燕』

 

華琳は。

 

読み終えた後。

 

ゆっくり。

 

時雨を見る。

 

「門番の動きを」

 

「調べたの?」

 

「ああ」

 

「嫌がらせでは」

 

「ないでしょう」

 

「嫌がらせ」

 

「でも」

 

「襄陽の警備状況も」

 

「探っている」

 

「ああ」

 

華琳は。

 

別の紙を取る。

 

時雨。

 

止めない。

 

読む。

 

『劉備へ。

 

前の使者へ茶を出さなかったらしいな。

 

荊州は客へ水も出せないほど貧しいのか。

 

次は茶を出せ。

 

できれば甘い菓子も。

 

使者が文句を言ってた。

 

張燕』

 

華琳の目が。

 

僅かに。

 

鋭くなる。

 

「使者の扱い」

 

「誰が」

 

「どこで」

 

「どの程度」

 

「確認している」

 

「ああ」

 

「さらに」

 

「相手の役所の」

 

「余裕も見る」

 

「ああ」

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「完全に」

 

「嫌がらせを」

 

「情報収集へ」

 

「使っているのね」

 

時雨は。

 

筆を置く。

 

「半分」

 

「残り半分は」

 

「本当に」

 

「嫌がらせ」

 

華琳は。

 

小さく。

 

笑う。

 

「楽しそうね」

 

「ああ」

 

「劉備が」

 

「困る顔を」

 

「想像している?」

 

「ああ」

 

「関羽が」

 

「怒る顔も?」

 

「ああ」

 

「張飛は?」

 

「怒ると」

 

「飯を食う」

 

「そうなの?」

 

「ああ」

 

華琳は。

 

時雨の紙を。

 

さらに。

 

見る。

 

一枚。

 

『劉備へ。

 

荊州の桃は小さい。

 

許昌の桃の方が大きい。

 

悔しかったらもっと大きいものを送れ。

 

張燕』

 

華琳の目が。

 

時雨へ向く。

 

「これは」

 

「何の情報を」

 

「取るつもり?」

 

「ない」

 

「完全な嫌がらせ?」

 

「ああ」

 

「なぜ」

 

「桃が」

 

「小さい」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「あなた」

 

「劉備から届く前に」

 

「もう桃を食べたの?」

 

「商人から」

 

「買った」

 

「荊州産?」

 

「ああ」

 

「それと比べて」

 

「小さいと」

 

「文句を?」

 

「ああ」

 

華琳は。

 

額へ。

 

指を当てる。

 

「あなた」

 

「今」

 

「荊州と」

 

「戦になるかもしれないのよ」

 

「ああ」

 

「その相手へ」

 

「桃の大きさで」

 

「喧嘩を売っているの?」

 

「ああ」

 

「子供ね」

 

時雨は。

 

僅かに。

 

口元を上げる。

 

「劉備は」

 

「乗る」

 

「なぜ」

 

「負けず嫌い」

 

「そうなの?」

 

「ああ」

 

「正義や」

 

「仁徳だけではなく?」

 

「桃は」

 

「譲らない」

 

華琳は。

 

劉備。

 

想像。

 

少し。

 

難しい。

 

「随分と」

 

「詳しいのね」

 

時雨の筆が。

 

僅かに。

 

止まる。

 

華琳は。

 

見逃さない。

 

「嫉妬?」

 

時雨が尋ねる。

 

華琳は。

 

時雨を見る。

 

「ええ」

 

即答。

 

時雨の眉。

 

僅かに。

 

動く。

 

「素直」

 

「ああ」

 

華琳は。

 

言いかけ。

 

止まる。

 

時雨。

 

笑う。

 

「また」

 

「言いそうになったな」

 

華琳の手が。

 

時雨の頬を。

 

抓る。

 

「痛い」

 

「半分?」

 

「全部」

 

「なら」

 

「反省しなさい」

 

「嫌だ」

 

華琳は。

 

時雨の手紙を。

 

一枚ずつ。

 

確認する。

 

「送ってよいものは」

 

「私が選ぶわ」

 

「全部」

 

「駄目」

 

「なぜ」

 

「外交問題になる」

 

「もう」

 

「なってる」

 

「さらに悪化するわ」

 

時雨は。

 

少し。

 

考える。

 

「なら」

 

「劉備個人へ」

 

「送る」

 

「そういう問題ではないの」

 

「個人の文通」

 

「時雨」

 

華琳の声。

 

低い。

 

時雨は。

 

華琳を見る。

 

次。

 

紙。

 

一枚。

 

取る。

 

「これ」

 

華琳へ。

 

渡す。

 

『劉備へ。

 

曹操が、手紙を送りすぎるなと言ってる。

 

面倒だから次から返事は三行以内にしろ。

 

桃は送れ。

 

張燕』

 

華琳は。

 

長く。

 

時雨を見る。

 

「私を」

 

「使ったの?」

 

「ああ」

 

「許可を」

 

「取らずに?」

 

「ああ」

 

「この手紙を」

 

「本当に」

 

「送るつもり?」

 

「ああ」

 

華琳は。

 

しばらく。

 

黙る。

 

次。

 

声を立てず。

 

笑い始める。

 

「何が」

 

時雨が尋ねる。

 

「あなた」

 

「本当に」

 

「悪い男ね」

 

「ああ」

 

「でも」

 

華琳は。

 

その手紙だけ。

 

別に置く。

 

「これは」

 

「送ってよいわ」

 

時雨の眉。

 

僅かに。

 

上がる。

 

「いいのか」

 

「ええ」

 

「劉備が」

 

「どんな返事をするか」

 

「少し」

 

「興味があるもの」

 

時雨の口元。

 

上がる。

 

「曹操も」

 

「悪いな」

 

「あなたほどではないわ」

 

---

 

その日から。

 

許昌から襄陽へ。

 

手紙が。

 

定期的に。

 

届き始めた。

 

定期。

 

といっても。

 

一定ではない。

 

一日。

 

二通。

 

送られる日もあった。

 

三日。

 

何も来ないこともあった。

 

朝。

 

届く。

 

夜。

 

届く。

 

食事中。

 

届く。

 

軍議中。

 

届く。

 

劉備が。

 

寝ようとした時。

 

届く。

 

内容。

 

ほとんど。

 

くだらない。

 

『劉備へ。

 

干し肉が届いた。

 

量が少ない。

 

昔食った分はもっと多い。

 

利息をつけろ。

 

張燕』

 

劉備は。

 

竹簡を読み。

 

困った顔。

 

「利息?」

 

関羽が。

 

即座に答える。

 

「無視してください」

 

張飛は。

 

干し肉の箱を見る。

 

「もっと送れば」

 

「いいのだ」

 

関羽の目が。

 

張飛へ向く。

 

「鈴々」

 

「甘やかすな」

 

「でも」

 

「張燕が」

 

「足りないって」

 

「言ってるのだ」

 

「奴は」

 

「いくら送っても」

 

「足りないと言う!」

 

次。

 

『劉備へ。

 

桃は悪くなかった。

 

一刀にも一つ食わせろ。

 

毒見を兼ねて。

 

張燕』

 

一刀は。

 

その文を読み。

 

僅かに。

 

眉を寄せる。

 

「俺を」

 

「明確に」

 

「敵視しているな」

 

劉備は。

 

桃を。

 

一刀へ。

 

一つ。

 

差し出す。

 

「食べる?」

 

一刀は。

 

桃。

 

見る。

 

次。

 

手紙。

 

「毒は」

 

「入ってないだろ」

 

「うん」

 

「張燕が」

 

「確認したらしいから」

 

「その確認を」

 

「信用するのか」

 

劉備は。

 

少し。

 

笑う。

 

「食べたって」

 

「書いてあるから」

 

一刀は。

 

桃を。

 

受け取らなかった。

 

劉備は。

 

自分で。

 

食べた。

 

次。

 

『関羽へ。

 

俺の馬は、今もお前を嫌っている。

 

たぶん。

 

張燕』

 

関羽の眉間へ。

 

深い皺。

 

「たぶん!?」

 

「玄徳様!」

 

「私は!」

 

「この男へ!」

 

「返事を!」

 

「書いてもよろしいでしょうか!」

 

劉備は。

 

少し。

 

迷う。

 

「喧嘩にならない?」

 

「すでに!」

 

「喧嘩です!」

 

関羽の返事。

 

『張燕へ。

 

お前の馬とは何年前の話だ。

 

今も生きているのか。

 

生きているなら、私の前へ連れてこい。

 

誤解を解く。

 

関羽』

 

翌日。

 

時雨から。

 

返事。

 

『関羽へ。

 

死んだ。

 

お前のせいではない。

 

残念だったな。

 

張燕』

 

関羽は。

 

その文を。

 

長く。

 

見つめた。

 

怒るべきか。

 

悲しむべきか。

 

判断。

 

できない。

 

劉備が。

 

隣から。

 

覗く。

 

「張燕さん」

 

「ちゃんと」

 

「お前のせいじゃないって」

 

「書いてるね」

 

「最初から!」

 

「私のせいではありません!」

 

次。

 

張飛宛て。

 

『張飛へ。

 

小さくない証拠を送れ。

 

張燕』

 

張飛は。

 

激怒した。

 

「何を!」

 

「送れば!」

 

「いいのだ!」

 

関羽は。

 

即座に。

 

「送る必要はない」

 

劉備は。

 

困る。

 

一刀は。

 

手紙を。

 

遠くから見る。

 

「身長を」

 

「測った木札でも」

 

「送ればいいんじゃないか」

 

張飛の目。

 

輝く。

 

「それなのだ!」

 

関羽が。

 

一刀を見る。

 

「北郷殿まで」

 

「乗らないでください!」

 

張飛は。

 

自分の身長。

 

木札。

 

刻み。

 

送った。

 

数日後。

 

返事。

 

『張飛へ。

 

木札が短い。

 

証拠にならない。

 

張燕』

 

張飛の怒声が。

 

襄陽城。

 

響いた。

 

「張燕!」

 

---

 

手紙は。

 

劉備たちだけではなく。

 

襄陽の者たちへも。

 

影響を与え始めた。

 

文官。

 

毎日。

 

許昌から届く竹簡を。

 

受け取る。

 

印。

 

確認。

 

危険物。

 

調べる。

 

宛先。

 

劉備。

 

関羽。

 

張飛。

 

時折。

 

北郷一刀。

 

そして。

 

一度だけ。

 

『襄陽の門番へ』

 

と書かれた。

 

手紙。

 

届いた。

 

門番は。

 

困惑しながら。

 

開いた。

 

『門番へ。

 

前の使者を待たせすぎ。

 

次は早く通せ。

 

あと、昼寝するなら見えない場所で寝ろ。

 

張燕』

 

門番は。

 

顔を。

 

青くした。

 

本当に。

 

昼寝。

 

していた。

 

一刀は。

 

その文を見て。

 

すぐに。

 

警備記録。

 

調べた。

 

使者。

 

到着。

 

報告。

 

遅れ。

 

僅か。

 

時雨は。

 

見ている。

 

どこかから。

 

あるいは。

 

使者の報告だけで。

 

推測。

 

している。

 

一刀は。

 

門番を替えた。

 

その翌週。

 

時雨から。

 

別の手紙。

 

『劉備へ。

 

門番が替わった。

 

前より真面目そう。

 

でも槍の持ち方が下手。

 

張燕』

 

一刀の顔。

 

険しくなる。

 

「見られている」

 

関羽が。

 

頷く。

 

「魏の間者が」

 

「襄陽へ」

 

「入っている可能性が」

 

「高い」

 

劉備は。

 

手紙を。

 

読む。

 

「でも」

 

「張燕さんなら」

 

「間者がいなくても」

 

「使者の話だけで」

 

「言いそう」

 

一刀は。

 

劉備を見る。

 

「どちらにしても」

 

「警戒は必要だ」

 

「うん」

 

「ただ」

 

劉備は。

 

手紙の最後。

 

見る。

 

小さく。

 

『門番へ菓子をやれ。

 

腹が減ってる顔だった』

 

と。

 

書き足されている。

 

「こういうところも」

 

「張燕さんだね」

 

一刀の目が。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「警戒を」

 

「緩めさせるためかもしれない」

 

「うん」

 

「でも」

 

「本当に」

 

「お腹が空いてると思ったのかも」

 

「両方かもしれない」

 

劉備は。

 

頷いた。

 

「張燕さんは」

 

「そういう人」

 

一刀は。

 

手紙を見る。

 

嫌がらせ。

 

探り。

 

警告。

 

情。

 

全部。

 

混じる。

 

だから。

 

読みづらい。

 

---

 

許昌では。

 

時雨の文通が。

 

完全に。

 

日常へ。

 

組み込まれていた。

 

朝。

 

時雨。

 

軍議前。

 

一通。

 

書く。

 

桂花が。

 

横から。

 

覗く。

 

「何を書いているの」

 

「見るな」

 

「また」

 

「劉備への」

 

「嫌がらせでしょう!」

 

「ああ」

 

「仕事をしなさい!」

 

「してる」

 

「どこが!」

 

「情報収集」

 

桂花は。

 

竹簡を。

 

取り上げる。

 

読む。

 

『劉備へ。

 

許昌で祭りをする。

 

荊州の民も来ていい。

 

一刀は来るな。

 

顔が気に入らない。

 

張燕』

 

桂花の目。

 

僅かに。

 

揺れる。

 

「これ」

 

「祭りの情報を」

 

「流すつもり?」

 

「ああ」

 

「北郷一刀へ」

 

「来るなと」

 

「わざわざ書くことで」

 

「意識させる」

 

「ああ」

 

「荊州の民へ」

 

「伝わる可能性も」

 

「狙っている」

 

「ああ」

 

桂花は。

 

時雨を見る。

 

「最後の」

 

「顔が気に入らないは」

 

「必要?」

 

「必要」

 

「どこが!」

 

「俺の気分」

 

「外交文書へ!」

 

「気分を入れないで!」

 

時雨は。

 

桂花から。

 

竹簡を。

 

取り返す。

 

「個人文」

 

「祭りの話を」

 

「書いた時点で」

 

「個人ではないわ!」

 

華琳が。

 

王座から。

 

二人を見る。

 

「送ってよいわ」

 

桂花の目。

 

大きくなる。

 

「華琳様!」

 

「北郷一刀が」

 

「どう動くか」

 

「見たいもの」

 

「ですが」

 

華琳は。

 

時雨へ。

 

視線。

 

向ける。

 

「ただし」

 

「何だ」

 

「顔が気に入らない」

 

「その部分は」

 

「消しなさい」

 

「嫌だ」

 

「時雨」

 

「本当」

 

「見たことあるの?」

 

時雨は。

 

僅かに。

 

黙る。

 

全員。

 

時雨を見る。

 

華琳の目。

 

鋭くなる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「北郷一刀と」

 

「会ったことがあるの?」

 

「ない」

 

「なら」

 

「顔を」

 

「知らないでしょう」

 

「ああ」

 

「なぜ」

 

「気に入らないの」

 

時雨は。

 

少し考える。

 

「劉備の隣」

 

大広間。

 

僅かに。

 

静か。

 

華琳の眉。

 

僅かに。

 

動く。

 

霞の口元。

 

上がる。

 

栄華の扇。

 

止まる。

 

柳琳も。

 

時雨を見る。

 

桂花が。

 

ゆっくり。

 

問い返す。

 

「それは」

 

「劉備の隣にいるから」

 

「気に入らないと?」

 

「ああ」

 

「なぜ」

 

時雨は。

 

少し。

 

面倒そうに。

 

椅子へ。

 

背を預ける。

 

「昔」

 

「あいつの隣は」

 

「関羽と張飛」

 

「ああ」

 

「そこに」

 

「知らない男」

 

「いる」

 

「気に入らない」

 

霞が。

 

笑い始める。

 

「時雨」

 

「何や」

 

「嫉妬やん」

 

「違う」

 

「どこが」

 

「気に入らないだけ」

 

「同じや」

 

「違う」

 

華琳の蒼い瞳。

 

時雨。

 

見る。

 

「劉備を」

 

「取られたようで」

 

「面白くない?」

 

時雨は。

 

華琳を見る。

 

「曹操」

 

「何?」

 

「楽しんでるな」

 

「ああ」

 

華琳は。

 

言いかけ。

 

また。

 

止まる。

 

時雨の口元。

 

上がる。

 

華琳の笑み。

 

冷える。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「今夜」

 

「その件を」

 

「詳しく」

 

「聞くわ」

 

「面倒」

 

「逃がさない」

 

桂花は。

 

頭を抱える。

 

「話が!」

 

「逸れているわ!」

 

風が。

 

眠そうに。

 

「でもー」

 

「北郷一刀さんへ」

 

「効くかもしれませんねー」

 

稟も。

 

頷く。

 

「劉備との」

 

「古い関係を」

 

「強調することで」

 

「北郷一刀へ」

 

「時雨を」

 

「意識させる」

 

「ああ」

 

「嫉妬ではなく」

 

「牽制ですか」

 

時雨は。

 

少し考える。

 

「半分」

 

華琳の目が。

 

細くなる。

 

「残り半分は」

 

「気に入らない」

 

霞が。

 

再び。

 

笑う。

 

---

 

栄華の執務室でも。

 

手紙。

 

書く。

 

「時雨」

 

栄華が。

 

帳簿を見る。

 

「祭りの費用を」

 

「確認してください」

 

「後」

 

「今です」

 

「手紙」

 

「また劉備ですの?」

 

「ああ」

 

栄華の目。

 

僅かに。

 

険しい。

 

「随分と」

 

「熱心ですわね」

 

「嫌がらせ」

 

「その割に」

 

「毎日」

 

「書いております」

 

時雨は。

 

筆を止める。

 

栄華を見る。

 

「嫉妬?」

 

栄華の顔。

 

僅かに。

 

赤い。

 

「違います!」

 

「ああ」

 

「その返事は!」

 

「どちらですの!」

 

「嫉妬」

 

「違うと言っております!」

 

時雨は。

 

少し笑う。

 

栄華の扇。

 

肩。

 

軽く。

 

当たる。

 

「何を」

 

「書いていますの」

 

時雨は。

 

竹簡。

 

栄華へ。

 

差し出す。

 

『劉備へ。

 

祭りへ来る荊州商人から税は取らない。

 

でも、お前が来たら取る。

 

昔、干し肉を盗んだ罰。

 

張燕』

 

栄華の目。

 

大きくなる。

 

「取ります!」

 

時雨が。

 

栄華を見る。

 

「税?」

 

「当然です!」

 

「華琳様が」

 

「祭りの三日間だけ」

 

「関税を免除なさると」

 

「決められました」

 

「劉備様が」

 

「個人で来られるなら」

 

「商人ではありません」

 

「ですが」

 

「干し肉の罰として」

 

「勝手に税を課すことは」

 

「認めません!」

 

時雨は。

 

少し考える。

 

「入場料」

 

「取りません!」

 

「席代」

 

「取りません!」

 

「桃」

 

「持ってこさせる」

 

栄華の扇。

 

止まる。

 

「それは」

 

「物納?」

 

「ああ」

 

栄華は。

 

少し。

 

計算する顔。

 

「個人的な贈答なら」

 

「国庫へ」

 

「記録する必要はありません」

 

「ああ」

 

「ですが」

 

「大量であれば」

 

「市場価格を」

 

「記載します」

 

時雨の口元。

 

上がる。

 

「乗ったな」

 

栄華の顔。

 

固まる。

 

「何に」

 

「干し肉の罰」

 

「違います!」

 

「会計上の!」

 

「確認です!」

 

時雨は。

 

筆。

 

動かす。

 

『追記。

 

桃は栄華が数える。

 

誤魔化すな。

 

張燕』

 

栄華の顔。

 

赤い。

 

「わたくしを!」

 

「勝手に!」

 

「手紙へ!」

 

「書かないでくださいませ!」

 

「嫌だ」

 

「消してください!」

 

「面倒」

 

栄華は。

 

時雨から。

 

筆を奪う。

 

追記。

 

消す。

 

代わりに。

 

書く。

 

『魏の財務官より。

 

贈答品を送る場合、品目と数量を事前に記載してください。

 

不明な物品は受け取りを拒否する場合があります。』

 

時雨は。

 

それを見る。

 

「本気になった」

 

栄華の顔。

 

さらに。

 

赤い。

 

「あなたの!」

 

「悪ふざけへ!」

 

「国の名を!」

 

「使わせないためです!」

 

時雨は。

 

少し。

 

笑う。

 

「いい返事」

 

「褒めても!」

 

「許しません!」

 

---

 

柳琳の治療所。

 

時雨は。

 

診察を受けながら。

 

手紙を書く。

 

右手。

 

筆。

 

左手。

 

柳琳が。

 

脈。

 

見る。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「診察中です」

 

「ああ」

 

「手紙を」

 

「置いてください」

 

「もう少し」

 

「誰へですか」

 

「劉備」

 

柳琳の指。

 

僅かに。

 

止まる。

 

「また?」

 

「ああ」

 

「今日は」

 

「何を」

 

「書いているのですか」

 

時雨は。

 

竹簡。

 

柳琳へ。

 

見せる。

 

『劉備へ。

 

肩の傷は今も残ってる。

 

お前が下手に縫ったせい。

 

柳琳が怒ってた。

 

謝れ。

 

張燕』

 

柳琳の目。

 

ゆっくり。

 

時雨へ。

 

向く。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「私は」

 

「劉備様へ」

 

「怒っていません」

 

「傷へ」

 

「怒った」

 

「縫い方が」

 

「危険だったとは」

 

「言いました」

 

「ああ」

 

「ですが」

 

「事情が分からない状態で」

 

「責めてはいません」

 

「ああ」

 

「それを」

 

「なぜ」

 

「怒っていたと」

 

「書くのですか」

 

「嫌がらせ」

 

柳琳は。

 

静かに。

 

時雨から。

 

筆を取る。

 

「駄目です」

 

「なぜ」

 

「劉備様が」

 

「本当に」

 

「気にされるかもしれません」

 

「気にする」

 

「だから」

 

「送る」

 

柳琳の目。

 

少し。

 

厳しくなる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「嫌がらせにも」

 

「してよいことと」

 

「悪いことがあります」

 

「ああ」

 

「古傷を」

 

「使って」

 

「相手を責めることは」

 

「よくありません」

 

時雨は。

 

柳琳を見る。

 

穏やか。

 

だが。

 

譲らない。

 

「なら」

 

「どう書く」

 

柳琳は。

 

少し。

 

考える。

 

竹簡へ。

 

追記。

 

『傷は問題ありません。

 

当時、治療してくださったことに感謝しています。

 

ただし、今後は医術を知らない状態で傷を縫わないでください。

 

柳琳』

 

時雨は。

 

読む。

 

「優しい」

 

「事実です」

 

「ああ」

 

「時雨も」

 

「何か」

 

「書き足しますか」

 

時雨は。

 

筆。

 

受け取る。

 

最後。

 

一行。

 

『でも下手だった。

 

張燕』

 

柳琳の目。

 

閉じる。

 

深く。

 

息。

 

吐く。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「消してください」

 

「嫌だ」

 

「消します」

 

柳琳が。

 

竹簡を。

 

取ろうとする。

 

時雨は。

 

高く。

 

上げる。

 

柳琳も。

 

手。

 

伸ばす。

 

距離。

 

近い。

 

時雨の腕。

 

柳琳の肩。

 

触れる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「子供です」

 

「ああ」

 

「褒めていません」

 

「知ってる」

 

柳琳は。

 

時雨の腕。

 

掴む。

 

引く。

 

竹簡。

 

取る。

 

最後の一行。

 

消す。

 

「診察中に」

 

「悪戯をしないでください」

 

「ああ」

 

「今の返事」

 

「信用できません」

 

「ああ」

 

柳琳の眉。

 

僅かに。

 

下がる。

 

時雨は。

 

少し笑う。

 

「冗談」

 

柳琳の目。

 

柔らかくなる。

 

「そういうところだけ」

 

「上手くなりましたね」

 

---

 

手紙は。

 

さらに。

 

続いた。

 

『劉備へ。

 

お前の字は前より綺麗になった。

 

関羽に書かせてないか。

 

張燕』

 

劉備は。

 

少し。

 

嬉しそう。

 

「褒められた」

 

関羽は。

 

即座に。

 

「後半で」

 

「疑われています」

 

『張燕さんへ。

 

自分で書いています。

 

字の練習も続けています。

 

褒めてくれてありがとう。

 

劉備』

 

時雨の返事。

 

『劉備へ。

 

素直に礼を言うな。

 

からかいにくい。

 

張燕』

 

劉備は。

 

声を立てて。

 

笑った。

 

一刀は。

 

その様子を。

 

見ていた。

 

『劉備へ。

 

一刀は今どこにいる。

 

隣で手紙を見てるなら、鼻で笑え。

 

張燕』

 

一刀は。

 

文を読んだ。

 

劉備は。

 

困った顔。

 

「どうする?」

 

一刀は。

 

少し。

 

考える。

 

「しなくていい」

 

劉備は。

 

一刀を見る。

 

次。

 

小さく。

 

鼻で笑った。

 

一刀の目が。

 

大きくなる。

 

関羽は。

 

顔を逸らす。

 

肩。

 

震える。

 

張飛は。

 

大笑い。

 

劉備は。

 

すぐに。

 

申し訳なさそうに。

 

頭を下げた。

 

「ごめんね」

 

一刀は。

 

額を押さえた。

 

時雨は。

 

いない。

 

それでも。

 

場を。

 

乱す。

 

『劉備へ。

 

一刀へ伝えろ。

 

俺の悪口を言うなら、もっと大きな声で言え。

 

襄陽まで聞こえない。

 

張燕』

 

一刀の顔。

 

僅かに。

 

険しくなる。

 

劉備は。

 

手紙を見る。

 

「張燕さん」

 

「聞いてるのかな」

 

関羽は。

 

真剣。

 

「間者を」

 

「洗い直すべきです」

 

一刀は。

 

頷く。

 

その翌日。

 

時雨から。

 

さらに。

 

『一刀へ。

 

間者探しを頑張れ。

 

見つかるといいな。

 

張燕』

 

一刀は。

 

竹簡を。

 

強く握る。

 

「完全に」

 

「遊ばれている」

 

劉備は。

 

申し訳なさそう。

 

「張燕さん」

 

「一刀さんのこと」

 

「気に入らないみたい」

 

「分かってる」

 

「でも」

 

劉備は。

 

手紙を。

 

そっと。

 

取り返す。

 

「嫌いな人へ」

 

「こんなに」

 

「手紙を送るのも」

 

「少し変だね」

 

一刀は。

 

劉備を見る。

 

その言葉。

 

引っかかる。

 

時雨は。

 

一刀を。

 

警戒している。

 

敵視。

 

している。

 

だが。

 

同時に。

 

反応を。

 

見ている。

 

挑発。

 

怒らせる。

 

何をするか。

 

見る。

 

悪意。

 

だけではない。

 

値踏み。

 

「俺を」

 

「試している」

 

一刀が言う。

 

劉備は。

 

静かに頷く。

 

「たぶん」

 

「張燕さんは」

 

「一刀さんが」

 

「怒った時」

 

「何をするか」

 

「知りたいんだと思う」

 

関羽が。

 

眉を寄せる。

 

「くだらない手紙で?」

 

劉備は。

 

時雨の手紙へ。

 

指を置く。

 

「張燕さんは」

 

「くだらないことを」

 

「一番」

 

「真面目に使う人だから」

 

一刀は。

 

正面から。

 

堂々。

 

攻めない。

 

相手の。

 

癖。

 

感情。

 

弱い場所。

 

見て。

 

笑いながら。

 

指を入れる。

 

怒れば。

 

その怒りを使う。

 

無視すれば。

 

無視した理由を読む。

 

返せば。

 

返事から。

 

関係を見る。

 

時雨の嫌がらせ。

 

ただの。

 

悪戯ではない。

 

相手を。

 

裸にする。

 

戦。

 

始まる前。

 

すでに。

 

探り。

 

入っている。

 

一刀は。

 

理解し始めていた。

 

そして。

 

その理解が。

 

遅かったことも。

 

---

 

許昌。

 

夕暮れ。

 

時雨は。

 

王宮の屋根。

 

座っていた。

 

また。

 

栄華に。

 

怒られる場所。

 

だが。

 

今日は。

 

隣。

 

霞。

 

酒。

 

持つ。

 

時雨は。

 

干し肉。

 

持つ。

 

「まだ」

 

「送っとるんか」

 

霞が尋ねる。

 

「ああ」

 

「何通目」

 

「忘れた」

 

「劉備」

 

「怒っとるんちゃう」

 

「怒らない」

 

「関羽は?」

 

「怒る」

 

「張飛は?」

 

「食う」

 

霞は。

 

笑う。

 

「北郷一刀は」

 

時雨の口元。

 

僅かに。

 

上がる。

 

「怒ってる」

 

「何で分かる」

 

「返事が」

 

「来ない」

 

霞は。

 

酒。

 

飲む。

 

「無視されとるだけちゃう」

 

「違う」

 

「どう違う」

 

「劉備は」

 

「返す」

 

「ああ」

 

霞は。

 

言いかけ。

 

止める。

 

「返すな」

 

「でも」

 

「一刀の話だけ」

 

「返事」

 

「薄い」

 

「劉備が」

 

「止められてる」

 

霞の笑み。

 

少し。

 

消える。

 

「北郷一刀が」

 

「手紙を」

 

「選別しとる?」

 

「ああ」

 

「なら」

 

「劉備は」

 

「自由ちゃうかもしれんな」

 

時雨は。

 

干し肉。

 

噛む。

 

「半分」

 

「残り半分は」

 

「自分で」

 

「一刀を」

 

「守ってる」

 

「ああ」

 

「そうかもしれんな」

 

霞は。

 

今度。

 

正しい言葉。

 

使う。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「何で」

 

「そこまで」

 

「手紙送るん」

 

時雨は。

 

夕暮れ。

 

南。

 

見る。

 

襄陽。

 

遠い。

 

劉備。

 

昔。

 

泣き虫。

 

真っ直ぐ。

 

面倒。

 

人を。

 

疑わない。

 

だが。

 

今。

 

一国。

 

背負う。

 

北郷一刀。

 

隣。

 

何を。

 

見ている。

 

何を。

 

見ない。

 

「嫌がらせ」

 

時雨が答える。

 

霞は。

 

横目。

 

見る。

 

「それだけ?」

 

時雨は。

 

少し。

 

笑う。

 

「返事が」

 

「来るうちは」

 

「生きてる」

 

霞の目。

 

僅かに。

 

変わる。

 

時雨は。

 

干し肉。

 

一つ。

 

霞へ投げる。

 

霞。

 

受け取る。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「素直やないな」

 

「ああ」

 

「褒めてへん」

 

「知ってる」

 

霞は。

 

干し肉。

 

口へ。

 

入れる。

 

「劉備が」

 

「来たら」

 

「どうする」

 

「桃」

 

「食う」

 

「それだけ?」

 

「泣かす」

 

霞は。

 

声を上げて笑う。

 

「やっぱ」

 

「悪い男やな」

 

「ああ」

 

---

 

その夜。

 

華琳の寝室。

 

時雨は。

 

寝台。

 

横。

 

華琳。

 

隣。

 

机の上。

 

新しい手紙。

 

一通。

 

まだ。

 

送っていない。

 

華琳は。

 

それを。

 

手に取る。

 

読む。

 

『劉備へ。

 

毎日手紙を送るのも飽きた。

 

次で最後にする。

 

許昌へ来るなら早くしろ。

 

来ないなら、俺が襄陽へ行く。

 

その時は門を燃やす。

 

張燕』

 

華琳の目。

 

僅かに。

 

鋭くなる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「最後の一行」

 

「本気?」

 

「半分」

 

「残り半分は」

 

「もっと派手にする」

 

華琳の手が。

 

時雨の頬を。

 

抓る。

 

「痛い」

 

「全部?」

 

「ああ」

 

「なら」

 

「ふざけないで」

 

「ふざけてない」

 

「門を燃やすと」

 

「書いているでしょう」

 

「ああ」

 

「それを」

 

「ふざけていないと?」

 

「門を」

 

「開ければ」

 

「燃やさない」

 

華琳は。

 

深く。

 

息を吐く。

 

「あなた」

 

「劉備を」

 

「許昌へ」

 

「来させたいのね」

 

時雨は。

 

天井を見る。

 

「来るって」

 

「言った」

 

「ああ」

 

「でも」

 

「一刀が」

 

「止める」

 

「そう考えている?」

 

「ああ」

 

「だから」

 

「嫌がらせを続けた」

 

「ああ」

 

「劉備が」

 

「自分で」

 

「決めるか」

 

「見るため」

 

「ああ」

 

華琳は。

 

手紙を。

 

机へ戻す。

 

「悪趣味ね」

 

「ああ」

 

「劉備の心を」

 

「試している」

 

「ああ」

 

「北郷一刀の」

 

「反応も」

 

「見ている」

 

「ああ」

 

「襄陽の」

 

「警備も」

 

「使者の扱いも」

 

「情報の流れも」

 

「ああ」

 

「その上で」

 

「本当に」

 

「嫌がらせも」

 

「楽しんでいる」

 

時雨の口元。

 

僅かに。

 

上がる。

 

「ああ」

 

華琳は。

 

時雨の胸へ。

 

指を置く。

 

「猫のような男ね」

 

時雨の眉。

 

僅かに。

 

動く。

 

「誰だ」

 

「例えよ」

 

「悪辣で」

 

「相手の心を」

 

「先に壊す」

 

「正面から」

 

「戦うより」

 

「怒らせ」

 

「迷わせ」

 

「自分から」

 

「間違えさせる」

 

「ああ」

 

「でも」

 

華琳は。

 

時雨を見る。

 

「あなたは」

 

「劉備を」

 

「壊したいわけではない」

 

「ああ」

 

「壊れる前に」

 

「自分で」

 

「目を開かせたい」

 

時雨は。

 

何も言わない。

 

華琳の手。

 

時雨の胸。

 

ゆっくり。

 

動く。

 

「優しいのね」

 

「違う」

 

「ああ」

 

華琳は。

 

言いかけ。

 

止まる。

 

時雨の口元。

 

上がる。

 

華琳は。

 

時雨の脇腹を。

 

軽く。

 

抓る。

 

「痛い」

 

「全部?」

 

「ああ」

 

「なら」

 

「笑わないで」

 

時雨は。

 

少し。

 

笑う。

 

「面白い」

 

「何が」

 

「曹操が」

 

「引っかかる」

 

「あなたのせいよ」

 

華琳は。

 

時雨の胸へ。

 

額を預ける。

 

「最後の手紙」

 

「送ってよいわ」

 

時雨の目。

 

僅かに。

 

動く。

 

「門を燃やすも?」

 

「その部分は」

 

「書き換えなさい」

 

「面倒」

 

「命令よ」

 

「ああ」

 

「どのように」

 

「変える」

 

時雨は。

 

少し考える。

 

「来ないなら」

 

「襄陽の門前で」

 

「桃を売る」

 

華琳の口元。

 

僅かに。

 

緩む。

 

「それなら」

 

「よいわ」

 

「ああ」

 

「でも」

 

華琳は。

 

時雨を見る。

 

「本当に」

 

「最後にするの?」

 

「ああ」

 

「劉備が」

 

「返事をしなければ?」

 

「送る」

 

「最後ではないでしょう」

 

「ああ」

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「あなた」

 

「文通を」

 

「楽しんでいるでしょう」

 

時雨は。

 

少し。

 

黙る。

 

次。

 

悪い笑み。

 

浮かべる。

 

「ああ」

 

---

 

襄陽。

 

翌々日。

 

最後と書かれた。

 

時雨の手紙。

 

届く。

 

劉備は。

 

開く。

 

関羽。

 

張飛。

 

一刀。

 

同席。

 

『劉備へ。

 

毎日手紙を送るのも飽きた。

 

次で最後にする。

 

許昌へ来るなら早くしろ。

 

来ないなら、襄陽の門前で桃を売る。

 

関羽には高く売る。

 

張飛には一つだけ無料。

 

一刀には売らない。

 

張燕』

 

張飛が。

 

机を叩く。

 

「鈴々は!」

 

「一つだけなのか!」

 

関羽の目。

 

鋭い。

 

「なぜ!」

 

「私だけ!」

 

「高いのだ!」

 

一刀は。

 

無言。

 

劉備は。

 

手紙を。

 

何度も。

 

読む。

 

毎日手紙を送るのも飽きた。

 

次で最後。

 

時雨。

 

飽きた。

 

書く。

 

だが。

 

本当に。

 

飽きた男は。

 

最後の文へ。

 

細かい嫌がらせを。

 

三人分。

 

書かない。

 

「張燕さん」

 

劉備が。

 

小さく笑う。

 

「寂しいんだ」

 

関羽と張飛。

 

同時に。

 

劉備を見る。

 

一刀の目も。

 

僅かに。

 

動く。

 

「どこを」

 

「どう読めば」

 

「その結論になるのです」

 

関羽が尋ねる。

 

劉備は。

 

手紙を。

 

胸へ。

 

抱く。

 

「だって」

 

「来いって」

 

「何度も」

 

「言ってる」

 

一刀は。

 

静かに。

 

劉備を見る。

 

「行くのか」

 

劉備は。

 

一刀へ。

 

顔を向ける。

 

「うん」

 

「危険だ」

 

「知ってる」

 

「曹操は」

 

「荊州を」

 

「狙っている」

 

「知ってる」

 

「張燕も」

 

「魏の将として」

 

「お前を」

 

「利用するかもしれない」

 

劉備は。

 

少し。

 

考える。

 

「うん」

 

「それでも?」

 

「それでも」

 

劉備は。

 

手紙を。

 

机へ置く。

 

真っ直ぐ。

 

一刀を見る。

 

「行く」

 

一刀の目。

 

細くなる。

 

「俺が」

 

「止めても?」

 

劉備の表情。

 

僅かに。

 

痛む。

 

それでも。

 

逸らさない。

 

「一刀さん」

 

「張燕さんは」

 

「ふざけてる」

 

「嫌がらせも」

 

「してる」

 

「私たちを」

 

「探ってる」

 

「でも」

 

「嘘だけじゃない」

 

「あの人は」

 

「本当に」

 

「私へ」

 

「来いって」

 

「言ってる」

 

一刀は。

 

黙る。

 

「昔」

 

劉備が続ける。

 

「張燕さんは」

 

「私に」

 

「正義を捨てるなって」

 

「言った」

 

「でも」

 

「正義で」

 

「目を塞ぐなとも」

 

「言った」

 

「私は」

 

「今」

 

「自分の目で」

 

「見たい」

 

「魏を」

 

「曹操を」

 

「張燕さんを」

 

「それから」

 

劉備の声。

 

少し。

 

揺れる。

 

「一刀さんのことも」

 

部屋。

 

静か。

 

関羽は。

 

劉備の横。

 

立つ。

 

張飛も。

 

拳。

 

握る。

 

一刀は。

 

しばらく。

 

何も言わない。

 

時雨の手紙。

 

軽い。

 

くだらない。

 

それでも。

 

劉備の心を。

 

動かした。

 

一刀が。

 

止めるか。

 

劉備が。

 

自分で決めるか。

 

そこまで。

 

見ている。

 

一刀の口元へ。

 

僅かに。

 

苦い笑み。

 

「本当に」

 

「嫌な男だな」

 

劉備は。

 

少し笑う。

 

「うん」

 

「でも」

 

「悪い人だけじゃないよ」

 

一刀は。

 

時雨の手紙を。

 

見る。

 

『一刀には売らない』

 

その一文。

 

妙に。

 

腹が立つ。

 

「俺も行く」

 

一刀が言った。

 

関羽の目。

 

僅かに。

 

動く。

 

劉備も。

 

驚く。

 

「一刀さんも?」

 

「あいつは」

 

「俺を」

 

「試してる」

 

「ああ」

 

「そうだと思う」

 

「なら」

 

「直接」

 

「会う」

 

劉備の表情。

 

柔らかくなる。

 

「うん」

 

一刀は。

 

竹簡を。

 

指で叩く。

 

「ただし」

 

「桃は」

 

「買わない」

 

張飛が。

 

大きく笑う。

 

「売ってもらえないのだ!」

 

関羽も。

 

僅かに。

 

口元。

 

緩む。

 

劉備は。

 

筆を取る。

 

返事。

 

書く。

 

『張燕さんへ。

 

許昌へ行きます。

 

一刀さんも一緒です。

 

愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも連れていきます。

 

桃も持っていきます。

 

門前で売らないでください。

 

それから、手紙は嫌ではありませんでした。

 

少し嬉しかったです。

 

劉備』

 

関羽が。

 

最後の一文を見る。

 

「桃香様」

 

「それを書くと」

 

「張燕が」

 

「さらに調子へ乗ります」

 

劉備は。

 

少し。

 

笑う。

 

「いいの」

 

「本当だから」

 

関羽は。

 

反論。

 

できない。

 

一刀は。

 

劉備の返書を。

 

見つめる。

 

時雨。

 

狙い。

 

半分。

 

成功。

 

劉備は。

 

自分で。

 

許昌行きを決めた。

 

残り半分。

 

北郷一刀。

 

自分自身が。

 

動かされた。

 

一刀の目。

 

僅かに。

 

険しくなる。

 

悪鬼と呼ばれた男。

 

嫌がらせの手紙だけで。

 

卓の外へ。

 

引きずり出された。

 

「張燕」

 

一刀が。

 

小さく。

 

名を呼ぶ。

 

会う前から。

 

すでに。

 

腹が立つ。

 

---

 

数日後。

 

許昌。

 

華琳の私室。

 

劉備から。

 

返書。

 

届く。

 

時雨は。

 

長椅子。

 

寝転ぶ。

 

華琳が。

 

読む。

 

最後。

 

『手紙は嫌ではありませんでした。

 

少し嬉しかったです』

 

華琳の目。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「劉備」

 

「あなたの手紙が」

 

「嬉しかったそうよ」

 

「ああ」

 

「嬉しそうね」

 

「ああ」

 

華琳の笑み。

 

冷える。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「嫌がらせよね」

 

「ああ」

 

「文通ではない?」

 

「ああ」

 

「なら」

 

「なぜ」

 

「あなたまで」

 

「嬉しそうなの」

 

時雨は。

 

少し考える。

 

「返事」

 

「来た」

 

華琳の目。

 

僅かに。

 

揺れる。

 

時雨は。

 

劉備。

 

昔。

 

知己。

 

今。

 

敵国の王。

 

それでも。

 

返事。

 

来る。

 

手紙。

 

続く。

 

繋がり。

 

切れていない。

 

「そう」

 

華琳は。

 

小さく。

 

息を吐く。

 

「なら」

 

「許してあげる」

 

「ああ」

 

「でも」

 

華琳は。

 

返書の途中。

 

指。

 

置く。

 

「北郷一刀も」

 

「来るそうよ」

 

時雨の口元。

 

ゆっくり。

 

上がる。

 

悪い。

 

笑み。

 

完全に。

 

仮面。

 

ない。

 

「釣れた」

 

華琳の蒼い瞳。

 

鋭くなる。

 

「最初から」

 

「それが狙い?」

 

「半分」

 

「残り半分は」

 

「劉備への」

 

「嫌がらせ」

 

華琳は。

 

声を立てず。

 

笑う。

 

「本当に」

 

「性格が悪い」

 

「ああ」

 

「北郷一刀は」

 

「怒っているでしょうね」

 

「ああ」

 

「会ったら」

 

「どうする」

 

時雨は。

 

天井を見る。

 

少し。

 

考える。

 

「笑う」

 

「何を」

 

「あいつの顔」

 

「まだ」

 

「見たことがないでしょう」

 

「ああ」

 

「なぜ笑うの」

 

時雨は。

 

華琳を見る。

 

「劉備の隣に」

 

「どんな顔で」

 

「いるか」

 

「見たい」

 

華琳の目。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「嫉妬?」

 

「違う」

 

「ああ」

 

華琳は。

 

言いかけ。

 

止まる。

 

時雨。

 

笑う。

 

華琳は。

 

時雨の脇腹を。

 

抓る。

 

「痛い」

 

「全部?」

 

「ああ」

 

「なら」

 

「その笑い方を」

 

「やめなさい」

 

「嫌だ」

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「あなた」

 

「悪党の顔を」

 

「隠さなくなったわね」

 

時雨は。

 

悪い笑みを。

 

浮かべたまま。

 

劉備の返書を見る。

 

「仮面は」

 

「剥がれた」

 

「えぇ」

 

華琳は。

 

今度。

 

その言葉。

 

使わない。

 

代わりに。

 

時雨の胸へ。

 

手を置く。

 

「そうね」

 

時雨の嫌がらせ。

 

一方的。

 

くだらない。

 

失礼。

 

襄陽の者たちを。

 

毎日。

 

怒らせ。

 

困らせ。

 

疲れさせた。

 

だが。

 

その手紙は。

 

同時に。

 

劉備の心を。

 

揺らし。

 

関羽と張飛を。

 

反応させ。

 

襄陽の警備を。

 

動かし。

 

北郷一刀を。

 

卓へ。

 

引きずり出した。

 

正面から。

 

来いとは。

 

言わない。

 

来ないなら。

 

桃を売る。

 

干し肉を返せ。

 

門番が眠い。

 

関羽が怖い。

 

張飛が小さい。

 

一刀へは売らない。

 

全て。

 

くだらない。

 

全て。

 

嫌がらせ。

 

そして。

 

全て。

 

相手の心へ。

 

指を入れるための。

 

刃。

 

悪党。

 

張燕。

 

時雨。

 

笑いながら。

 

相手を怒らせ。

 

怒った時。

 

何をするか。

 

見る。

 

敵が。

 

自分から。

 

動くまで。

 

待つ。

 

そして。

 

動いた瞬間。

 

最も。

 

嫌な場所へ。

 

一歩。

 

入る。

 

劉備。

 

関羽。

 

張飛。

 

北郷一刀。

 

四人。

 

許昌へ。

 

向かう。

 

時雨は。

 

その報告を。

 

聞き。

 

長椅子へ。

 

寝転んだまま。

 

一言。

 

言った。

 

「面倒なのが」

 

「増えるな」

 

華琳は。

 

時雨を見る。

 

「誰が」

 

「呼んだと思っているの?」

 

「劉備」

 

「あなたよ」

 

「ああ」

 

「反省は」

 

「してない」

 

華琳は。

 

深く。

 

息を吐く。

 

時雨の口元。

 

楽しそう。

 

それを見て。

 

華琳も。

 

僅かに。

 

笑う。

 

許昌。

 

襄陽。

 

魏。

 

荊州。

 

二つの国を繋いだのは。

 

正式な国書でも。

 

使者の演説でもなかった。

 

桃。

 

干し肉。

 

馬。

 

身長。

 

門番。

 

胸。

 

そして。

 

一方的な。

 

嫌がらせの手紙。

 

仮面が。

 

完全に剥がれた時雨は。

 

戦場へ出る前から。

 

すでに。

 

相手の心を。

 

引っかき回していた。

 

悪辣に。

 

気まぐれに。

 

楽しそうに。

 

黒山の狼は。

 

襄陽から来る。

 

古い友と。

 

新しい悪鬼を。

 

笑って迎える準備を。

 

始めていた。




感想、評価、お気に入りよろしくお願い致します!

次の作品の主人公とルートは誰がいい?

  • 高順呂布ルート(ヒロイン恋、霞)
  • 朱霊曹操ルート(ヒロイン華琳、柳琳)
  • 周倉関羽ルート(ヒロイン愛紗)
  • 孫瑜孫権ルート(ヒロイン蓮華、粋怜)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

『陥陣営戦記 ~恋こそ至高!龍牙、乱世を穿つ~』(作者:パスカルDX)(原作:恋姫†無双)

乱世にその名を轟かせる最強部隊――陥陣営。▼その指揮官・高順こと龍牙は、武勇では呂布軍随一と称される豪傑だった。▼しかし彼が命を懸けて守るものは名誉でも天下でもない。▼「恋の可愛さが至高。」▼それだけだった。▼今日も恋の笑顔を守るため、巨大な魔剣・龍眼斬を担ぎ、敵軍へ突撃する。▼「チェストーーーー!!!」▼龍の如き剣閃が戦場を駆け抜け、陥陣営は無敗伝説を築い…


総合評価:78/評価:-.--/連載:20話/更新日時:2026年07月22日(水) 19:53 小説情報

これが俺の恋姫†無双(作者:篝火 灯)(原作:真・恋姫†夢想革命)

恋姫無双の世界に現代日本から【能力】を神から渡され恋姫無双の1つの外史に召喚された男…▼この男は恋姫の世界で何を成すのか…ソレは…時の流れるままに…▼神様は平和に過ごしてくれって言ってたけど…様々な問題もあって平和とは…?ってなってる俺だけど…頑張ってこの恋姫の外史で頑張って生き抜いてやるー!▼※なろう。に2025/7/7から投稿していた作品になります。こち…


総合評価:223/評価:3.6/連載:66話/更新日時:2026年07月29日(水) 23:58 小説情報

争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい(作者:大気圏突破)(原作:ハイスクールD×D)

 サービス残業・休日出勤・パワハラで疲弊していたサラリーマンはデスクワーク勤務中に心臓の鼓動が止まり亡くなってしまった。憐れんだ神は第2の人生として彼を『リリカルなのは』の世界に送るつもりだったが書類の手違いで『ハイスクールD×D』の世界に送ってしまった▼ 神は送る直前に間違いに気付き彼に与えた力の他に原作主人公の能力を奪って付与させた。赤龍帝になってしまっ…


総合評価:2018/評価:6.47/連載:83話/更新日時:2026年08月02日(日) 19:51 小説情報

幽州を変えようか(作者:雑草弁士)(原作:恋姫†無双)

三国時代初頭、幽州の地にて。出立する劉備(桃香)に多大な物資と兵馬を与え、客将であった趙子龍(星)までもを持っていかれた公孫瓚(白蓮)。しかしこの時間軸、この外史では、星と引き換えの様な形で白蓮の元に居残った人材が居た。もともと劉備陣営では目立った働きをしていなかったらしい、ただ古参なだけのその男。彼の正体は。


総合評価:5081/評価:8.8/短編:2話/更新日時:2026年07月27日(月) 18:46 小説情報

心配性の実力者は今日も鍛え続ける(作者:大気圏突破)(原作:魔法少女リリカルなのは)

 青信号で横断歩道を渡っている時に上級国民が運転する暴走車に轢かれてしまい彼は命を落とした。本来ならもう67年ほど生きる予定だったが天国に来てしまった。定員オーバーなので神は二次創作特有のアニメ作品内に彼を転生させる▼ 部屋で目を覚ました彼は9歳の姿になっていた。そして机の上置かれていた手紙に▼「その世界は実力が無いと死んじゃうから頑張って鍛えてね♡ byゴ…


総合評価:3497/評価:7.15/完結:63話/更新日時:2026年05月02日(土) 20:55 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>