【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

304 / 304
外伝 第32話 祭へ来た仁徳――悪党の縄張りへようこそ

外伝 第32話 祭へ来た仁徳――悪党の縄張りへようこそ

 

 

 

 

許昌の北門に。

 

奇妙な看板が立てられたのは。

 

祭の前日だった。

 

門の右側。

 

人の背丈より。

 

少し高い木板。

 

白い布を張り。

 

黒い墨で。

 

大きな文字が書かれている。

 

『荊州御一行様へ』

 

その下。

 

さらに。

 

大きく。

 

『桃を持たぬ者、通行料三倍』

 

その隣。

 

少し小さな文字。

 

『関羽だけ五倍』

 

さらに下。

 

『張飛は背が届けば無料』

 

最後。

 

赤い墨。

 

『北郷一刀へ売る桃はない』

 

朝。

 

北門を通ろうとした商人たちは。

 

その看板を見上げ。

 

足を止めた。

 

意味を理解した者は。

 

笑った。

 

意味が分からない者も。

 

周囲が笑っているため。

 

何となく笑った。

 

門番は。

 

笑えなかった。

 

看板を立てたのが。

 

魏の将軍。

 

張燕。

 

真名を時雨。

 

黒山の狼。

 

魏王曹操の隣へ立つ男。

 

勝手に撤去すれば。

 

何をされるか分からない。

 

撤去しなければ。

 

荊州から来る国賓の目へ。

 

確実に入る。

 

門番たちは。

 

前日から。

 

何度も。

 

互いへ。

 

押しつけ合っていた。

 

誰が。

 

華琳へ報告するのか。

 

誰が。

 

桂花へ説明するのか。

 

誰が。

 

時雨へ撤去を頼むのか。

 

誰も。

 

手を挙げなかった。

 

結果。

 

看板は。

 

祭当日の朝まで。

 

堂々と。

 

北門へ立っていた。

 

---

 

「時雨!」

 

許昌の王宮。

 

朝議の間へ。

 

桂花の怒声が響いた。

 

時雨は。

 

椅子へ。

 

深く腰を沈めていた。

 

片脚を。

 

机の横へ伸ばし。

 

手には。

 

焼いた豆。

 

一粒ずつ。

 

口へ放り込んでいる。

 

祭の責任者。

 

である。

 

少なくとも。

 

書類上は。

 

だが。

 

責任者らしい姿は。

 

何一つなかった。

 

「聞こえてる」

 

時雨は答える。

 

「なら!」

 

「なぜ!」

 

「こちらを見ないのよ!」

 

「朝からうるせぇから」

 

桂花の眉間へ。

 

深い皺が刻まれる。

 

以前の時雨なら。

 

面倒。

 

そう。

 

短く答えた。

 

今は。

 

違う。

 

言葉が。

 

少し荒い。

 

笑みも。

 

悪い。

 

人を苛立たせるため。

 

わざと。

 

語尾を崩す。

 

黒山にいた頃の。

 

盗賊頭。

 

そのまま。

 

「北門の看板は何!?」

 

「あれか」

 

「通行案内」

 

「どこがよ!」

 

桂花は。

 

机へ。

 

両手をついた。

 

「荊州牧が!」

 

「正式な客として!」

 

「許昌へ来るのよ!」

 

「知ってる」

 

「なら!」

 

「通行料三倍などと!」

 

「書かないで!」

 

「桃持ってくりゃ」

 

「取らねぇよ」

 

「通行料自体!」

 

「取らないの!」

 

時雨は。

 

豆を。

 

一粒。

 

桂花の額へ投げた。

 

桂花は。

 

扇で。

 

弾く。

 

「何をするの!」

 

「額に」

 

「青筋が出てた」

 

「豆で!」

 

「治ると思っているの!?」

 

「増えたな」

 

「誰のせいよ!」

 

時雨は。

 

口元を歪める。

 

「いい顔だ」

 

桂花の顔が。

 

一気に赤くなる。

 

「時雨!」

 

王座の華琳は。

 

頬杖をつき。

 

二人を見ていた。

 

怒っていない。

 

とは。

 

言い切れない。

 

だが。

 

止めてもいない。

 

時雨が。

 

仮面を。

 

完全に捨ててから。

 

朝議は。

 

以前より。

 

騒がしくなった。

 

書類の進みは。

 

時々遅くなる。

 

桂花の血圧は。

 

確実に上がった。

 

春蘭が。

 

時雨へ殴りかかる回数も。

 

増えた。

 

だが。

 

悪いことだけではない。

 

時雨の策は。

 

以前より。

 

読みやすくなった。

 

冷たい顔で。

 

結論だけを置くのではなく。

 

何を狙い。

 

誰を怒らせ。

 

どの反応を楽しみにしているか。

 

隠さなくなった。

 

悪意が。

 

見える。

 

だからこそ。

 

華琳は。

 

どこまで許し。

 

どこで止めるべきか。

 

判断しやすい。

 

もっとも。

 

今日の看板は。

 

確実に。

 

止める側だった。

 

「時雨」

 

華琳が呼ぶ。

 

「何だ」

 

「北門の看板」

 

「撤去しなさい」

 

時雨の手が。

 

豆の袋で止まる。

 

「嫌だ」

 

「命令よ」

 

「もう遅ぇ」

 

「なぜ」

 

「劉備の一行」

 

「昼前には着く」

 

「今からでも間に合うでしょう」

 

時雨は。

 

窓の外を見る。

 

祭。

 

許昌。

 

すでに。

 

人で溢れている。

 

荊州。

 

魏。

 

呉。

 

涼州。

 

各地から。

 

商人。

 

芸人。

 

農民。

 

職人。

 

祭は。

 

単なる遊興ではない。

 

魏呉同盟が。

 

軍事だけではない。

 

民と商いの繋がりへ。

 

広がっていることを。

 

示すためのもの。

 

荊州の者も。

 

自由に入れる。

 

三日間。

 

関税。

 

軽減。

 

一部。

 

免除。

 

時雨が。

 

提案した。

 

祭。

 

そして。

 

劉備たちが。

 

来る。

 

すでに。

 

噂。

 

広がっている。

 

荊州牧。

 

関羽。

 

張飛。

 

天の御使い。

 

北郷一刀。

 

民は。

 

見たい。

 

当然。

 

北門。

 

朝から。

 

人が集まっている。

 

「もう」

 

「百人以上」

 

「看板の前にいる」

 

時雨が言った。

 

華琳の眉が。

 

僅かに動く。

 

「誰が」

 

「集めたの」

 

「俺」

 

「どうやって」

 

「祭の入り口で」

 

「荊州の桃を」

 

「無料で食えるって」

 

「流した」

 

栄華の扇が。

 

勢いよく。

 

開く。

 

「無料!?」

 

「時雨!」

 

「どの予算から!」

 

「出すつもりですの!」

 

「劉備持ち」

 

「本人の許可を!」

 

「取っておりませんでしょう!」

 

「桃」

 

「持ってくるって」

 

「手紙に書いてた」

 

「それは!」

 

「個人的な贈答品です!」

 

「祭で配ったら」

 

「みんなの物だ」

 

「なりません!」

 

時雨は。

 

栄華を見る。

 

「心が狭ぇな」

 

栄華の扇。

 

時雨の肩へ。

 

飛ぶ。

 

時雨は。

 

片手で受け止める。

 

「盗賊へ!」

 

「国庫を任せられない理由が!」

 

「よく分かりますわ!」

 

「だから」

 

「お前に任せてる」

 

栄華の動きが。

 

止まる。

 

時雨は。

 

扇を。

 

栄華へ返す。

 

「俺に金持たせたら」

 

「三日で消える」

 

「お前が締めろ」

 

栄華の顔に。

 

僅かな赤み。

 

怒り。

 

呆れ。

 

その奥。

 

甘さ。

 

「最初から」

 

「そのつもりですわ」

 

「なら」

 

「桃くらい」

 

「見逃せ」

 

「見逃しません!」

 

柳琳は。

 

その横で。

 

穏やかに尋ねる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「劉備様たちを」

 

「祭へ招いた本当の理由は」

 

「何ですか」

 

「嫌がらせ」

 

「それだけでは」

 

「ありませんね」

 

時雨は。

 

柳琳を見る。

 

やはり。

 

誤魔化せない。

 

「民の前に」

 

「引っ張り出す」

 

「何のためですか」

 

「王と」

 

「悪鬼が」

 

「並んでるところを」

 

「見せる」

 

朝議の空気が。

 

少し。

 

変わる。

 

時雨は。

 

机へ。

 

片肘をつく。

 

「襄陽じゃ」

 

「劉備は」

 

「一刀の隣にいる」

 

「荊州の民は」

 

「それを見慣れてる」

 

「ああ」

 

稟が言いかけ。

 

止める。

 

時雨以外は。

 

返事として。

 

その言葉を使わない。

 

「ええ」

 

稟は言い直す。

 

「ですが」

 

「許昌では」

 

「魏の民」

 

「呉の商人」

 

「涼州の者」

 

「多くの異なる視線へ」

 

「晒される」

 

「そうだ」

 

時雨が答える。

 

「劉備は」

 

「笑う」

 

「手を振る」

 

「子供を抱く」

 

「民は喜ぶ」

 

「一刀は」

 

「何をする」

 

風が。

 

眠そうに。

 

帽子の奥から。

 

時雨を見る。

 

「悪鬼さんがー」

 

「人前で」

 

「どの顔を使うのか」

 

「見たいのですねー」

 

「そういうこった」

 

時雨の笑み。

 

悪い。

 

「襄陽の中じゃ」

 

「あいつの手下が」

 

「空気を作る」

 

「でも」

 

「ここは」

 

「俺らの縄張りだ」

 

北門。

 

祭。

 

人。

 

店。

 

兵。

 

噂。

 

全て。

 

魏側。

 

時雨が。

 

作った舞台。

 

北郷一刀が。

 

劉備の影に。

 

どこまで。

 

自然に。

 

隠れるのか。

 

あるいは。

 

隠れず。

 

前へ出るのか。

 

試す。

 

「だから」

 

華琳が言う。

 

「看板も」

 

「舞台装置?」

 

「半分」

 

「残り半分は」

 

「関羽への嫌がらせ」

 

華琳は。

 

小さく。

 

息を吐いた。

 

「あの看板は撤去」

 

時雨の眉が。

 

僅かに動く。

 

「全部?」

 

「全部よ」

 

「関羽五倍も?」

 

「当然でしょう」

 

「張飛の高さも?」

 

「消しなさい」

 

「一刀へ桃を売らないも?」

 

華琳は。

 

一瞬。

 

考える。

 

桂花が。

 

華琳を見る。

 

栄華も。

 

柳琳も。

 

待つ。

 

「そこだけ」

 

華琳は。

 

僅かに。

 

口元を上げる。

 

「残してよいわ」

 

時雨の目。

 

少し。

 

楽しそうに。

 

細くなる。

 

「悪い女だな」

 

「あなたほどではない」

 

「十分だ」

 

桂花は。

 

両手で。

 

頭を抱えた。

 

「華琳様まで!」

 

「乗らないでください!」

 

---

 

許昌。

 

祭。

 

初日。

 

城門から。

 

大通り。

 

中央広場。

 

南市場。

 

三つ。

 

大きな区域。

 

設けられている。

 

魏の店。

 

穀物。

 

肉。

 

酒。

 

布。

 

鉄器。

 

農具。

 

薬。

 

呉の店。

 

魚。

 

香辛料。

 

茶。

 

紙。

 

装飾品。

 

船具。

 

涼州の店。

 

馬乳酒。

 

毛織物。

 

乾燥肉。

 

薬草。

 

馬具。

 

荊州から来た商人も。

 

屋台。

 

並べる。

 

税。

 

軽い。

 

人。

 

多い。

 

声。

 

飛ぶ。

 

肉の焼ける香り。

 

甘い菓子。

 

笛。

 

太鼓。

 

芸人。

 

子供。

 

兵。

 

商人。

 

誰もが。

 

普段より。

 

少し。

 

浮かれている。

 

だが。

 

その祭へ。

 

警備兵。

 

多い。

 

表。

 

目立たない。

 

裏路地。

 

屋根。

 

店の中。

 

黒狼隊。

 

虎豹騎。

 

魏兵。

 

配置。

 

されている。

 

時雨の指示。

 

目立つ武装は。

 

少なく。

 

逃げ道。

 

多く。

 

人の流れを。

 

止めない。

 

怪しい者を。

 

すぐに捕らえない。

 

誰と会うか。

 

何を見るか。

 

最後まで。

 

泳がせる。

 

祭。

 

であり。

 

巨大な。

 

情報網。

 

でもある。

 

時雨は。

 

中央広場の。

 

高い見張り台へ。

 

寝転んでいた。

 

責任者。

 

なのに。

 

寝ている。

 

正確には。

 

片目。

 

開いている。

 

下。

 

人の流れ。

 

見ている。

 

手。

 

肉串。

 

口。

 

酒ではなく。

 

薄い茶。

 

柳琳に。

 

朝から酒は禁止と。

 

取り上げられた。

 

「時雨」

 

栄華が。

 

階段を上がってきた。

 

帳簿。

 

抱えている。

 

「何だ」

 

「起きなさいませ」

 

「起きてる」

 

「寝転んでいるでしょう!」

 

「足が」

 

「疲れた」

 

「朝から!」

 

「何も!」

 

「しておりませんでしょう!」

 

「人を」

 

「見てる」

 

「寝ながら?」

 

「立ってると」

 

「目立つ」

 

栄華は。

 

時雨の横へ。

 

帳簿を置く。

 

「桃の配布費用」

 

「どのように」

 

「処理しますの」

 

「劉備に」

 

「払わせろ」

 

「国賓へ!」

 

「祭の費用を!」

 

「請求する国が!」

 

「どこにありますの!」

 

時雨は。

 

肉串。

 

一口。

 

噛む。

 

「ここ」

 

栄華の扇が。

 

時雨の額を。

 

軽く叩く。

 

「痛ぇ」

 

「痛くしておりません!」

 

「ああ」

 

「その言葉で!」

 

「誤魔化さないでくださいませ!」

 

時雨は。

 

栄華を見る。

 

「桃は」

 

「俺が払う」

 

栄華の動きが。

 

止まる。

 

「あなたが?」

 

「ああ」

 

「私費で?」

 

「ああ」

 

「なぜ」

 

「劉備への」

 

「嫌がらせだから」

 

栄華は。

 

時雨の顔を見る。

 

いつもの。

 

悪い笑み。

 

だが。

 

祭で。

 

荊州の桃を配る。

 

劉備の名で。

 

民へ。

 

無料。

 

それは。

 

嫌がらせ。

 

だけではない。

 

劉備が。

 

許昌へ来た。

 

その事実を。

 

祭の喜びへ。

 

変える。

 

魏の民が。

 

劉備を。

 

ただの敵国の王として。

 

見ないように。

 

劉備の側も。

 

許昌の民へ。

 

笑顔を向けやすくする。

 

最初の一口。

 

作る。

 

「時雨」

 

栄華の声。

 

少し。

 

柔らかい。

 

「本当に」

 

「すべて」

 

「あなたが」

 

「払うつもりですの?」

 

「ああ」

 

「財布」

 

「足りませんわよ」

 

「雪蓮にもらう」

 

栄華の目。

 

一気に。

 

鋭くなる。

 

「なぜ!」

 

「呉王へ!」

 

「借金をするのです!」

 

「同盟」

 

「そのためじゃありません!」

 

時雨は。

 

笑う。

 

「冗談だ」

 

栄華の顔。

 

赤い。

 

「あなたは!」

 

「どこまで!」

 

「本気か!」

 

「分かりませんわ!」

 

「分からねぇ方が」

 

「面白いだろ」

 

「わたくしは!」

 

「面白くありません!」

 

そう言いながら。

 

栄華は。

 

時雨の横へ。

 

座る。

 

帳簿。

 

開く。

 

「半分は」

 

「祭の宣伝費として」

 

「予算へ入れます」

 

「残り半分は」

 

「あなたが払ってくださいませ」

 

時雨の眉が。

 

動く。

 

「高ぇな」

 

「自分で」

 

「始めたことでしょう」

 

「ああ」

 

「それから」

 

栄華は。

 

時雨の肉串を見る。

 

「食べすぎです」

 

「祭だ」

 

「責任者が」

 

「屋台の肉を」

 

「食べ尽くすつもりですの?」

 

「味見」

 

「七本目でしょう」

 

時雨は。

 

串の数。

 

見る。

 

「数えてたのか」

 

「当然です」

 

「怖ぇ女だな」

 

栄華の扇。

 

時雨の肩。

 

軽く。

 

叩く。

 

「誰のために!」

 

「数えていると思っていますの!」

 

時雨は。

 

僅かに。

 

笑う。

 

「俺」

 

栄華は。

 

答えない。

 

扇で。

 

口元を隠す。

 

---

 

昼前。

 

北門。

 

遠く。

 

土煙。

 

見える。

 

荊州の旗。

 

劉。

 

騎馬。

 

歩兵。

 

数。

 

少ない。

 

一国の主。

 

訪問。

 

それにしては。

 

少数。

 

華琳が。

 

求めた。

 

大軍を。

 

連れてくるな。

 

劉備も。

 

受け入れた。

 

先頭。

 

関羽。

 

青龍偃月刀。

 

馬上。

 

姿勢。

 

真っ直ぐ。

 

その隣。

 

張飛。

 

蛇矛。

 

馬。

 

小さい身体。

 

それでも。

 

目立つ。

 

中央。

 

劉備。

 

桃色の髪。

 

柔らかな笑顔。

 

旅装。

 

だが。

 

王。

 

その後ろ。

 

北郷一刀。

 

白い衣。

 

武器。

 

目立たない。

 

普通。

 

少なくとも。

 

外見だけなら。

 

時雨が。

 

想像していた通り。

 

鎧。

 

似合わない。

 

戦場の将には。

 

見えない。

 

だが。

 

視線。

 

違う。

 

門。

 

兵。

 

人。

 

屋台。

 

屋根。

 

誰が。

 

どこを見ているか。

 

全部。

 

見ようとしている。

 

時雨は。

 

見張り台から。

 

北門を眺め。

 

口元を。

 

悪く歪めた。

 

「来やがった」

 

その隣。

 

華琳。

 

いつの間にか。

 

立っている。

 

王としての衣。

 

黄金の髪。

 

蒼い瞳。

 

「嬉しそうね」

 

「獲物が」

 

「罠に入った」

 

「劉備も」

 

「獲物?」

 

「桃は」

 

「昔から」

 

「よく罠にかかる」

 

華琳の目。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「随分と」

 

「親しそう」

 

「嫉妬か」

 

「ええ」

 

華琳は。

 

即答した。

 

時雨の眉が。

 

僅かに。

 

上がる。

 

「素直だな」

 

「あなたが」

 

「仮面を捨てたのなら」

 

「私も」

 

「遠慮しないわ」

 

「ああ」

 

「時雨」

 

華琳の声が。

 

少し。

 

低くなる。

 

「今」

 

「何か」

 

「悪いことを」

 

「考えているでしょう」

 

「いつも」

 

「今日は」

 

「特に」

 

時雨は。

 

北門を見る。

 

人。

 

集まる。

 

看板。

 

中央。

 

修正された。

 

『荊州御一行様へ』

 

『桃を持たぬ者、通行料三倍』

 

そこまでは。

 

消されている。

 

残った文。

 

一つ。

 

『北郷一刀へ売る桃はない』

 

華琳が。

 

残すことを。

 

許した。

 

その下。

 

昨日は。

 

なかった。

 

新しい札。

 

ぶら下がっている。

 

『ただし、謝れば皮だけ売る』

 

華琳の蒼い瞳が。

 

ゆっくり。

 

時雨へ向く。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「皮だけ?」

 

「ああ」

 

「私は」

 

「そこまで」

 

「許可していないわ」

 

「今」

 

「見つけたな」

 

「あなた」

 

「私へ」

 

「隠していたの?」

 

「驚いた顔」

 

「見たかった」

 

華琳の手が。

 

時雨の脇腹へ。

 

伸びる。

 

時雨は。

 

半歩。

 

避ける。

 

「当たらねぇ」

 

「逃げないで」

 

「嫌だ」

 

「時雨」

 

「劉備が」

 

「もう門へ着く」

 

華琳は。

 

小さく。

 

息を吐く。

 

だが。

 

口元。

 

僅かに。

 

笑っている。

 

「後で」

 

「覚えていなさい」

 

「忘れる」

 

「忘れさせないわ」

 

---

 

劉備たちが。

 

北門へ到着する。

 

人。

 

左右へ。

 

分かれる。

 

だが。

 

完全には。

 

静かにならない。

 

祭。

 

だから。

 

太鼓。

 

笛。

 

屋台。

 

声。

 

続く。

 

国賓。

 

来た。

 

それでも。

 

祭は。

 

止まらない。

 

時雨の指示。

 

わざと。

 

厳粛な。

 

歓迎式典を。

 

作らない。

 

劉備を。

 

高い壇上へ。

 

隔離しない。

 

民の中へ。

 

そのまま。

 

入れる。

 

ただし。

 

北門の前。

 

一つだけ。

 

儀式。

 

ある。

 

劉備が。

 

馬から降りる。

 

関羽。

 

続く。

 

張飛。

 

飛び降りる。

 

一刀。

 

最後。

 

門の看板。

 

見る。

 

『北郷一刀へ売る桃はない』

 

その下。

 

『ただし、謝れば皮だけ売る』

 

一刀の眉が。

 

僅かに。

 

動く。

 

関羽の目が。

 

一気に。

 

険しくなる。

 

張飛は。

 

声を上げて。

 

笑った。

 

「一刀は!」

 

「桃を買えないのだ!」

 

劉備は。

 

両手で。

 

口元を隠す。

 

笑いを。

 

堪えている。

 

「張燕さん」

 

「本当に」

 

「書いたんだ」

 

関羽が。

 

看板を。

 

睨む。

 

「桃香様」

 

「笑い事ではありません」

 

「あれは!」

 

「正式な使者を!」

 

「侮辱しています!」

 

「一刀さんは」

 

「使者じゃないよ」

 

「そういう問題では!」

 

一刀は。

 

看板へ。

 

近づく。

 

指。

 

文字。

 

触れない。

 

見る。

 

「謝れば」

 

「皮だけか」

 

声。

 

静か。

 

だが。

 

怒り。

 

薄く。

 

混じる。

 

その時。

 

門の上から。

 

何か。

 

落ちてきた。

 

一刀。

 

半歩。

 

動く。

 

関羽の手。

 

青龍偃月刀へ。

 

伸びる。

 

落ちたもの。

 

桃の皮。

 

細く。

 

長い。

 

一刀の肩へ。

 

引っかかる。

 

門の上。

 

時雨。

 

座っている。

 

片脚。

 

外へ。

 

垂らし。

 

桃。

 

丸ごと。

 

齧っている。

 

「よぉ」

 

時雨が言った。

 

粗い。

 

軽い。

 

盗賊頭が。

 

街道で。

 

旅人を止めるような声。

 

「悪鬼」

 

一刀は。

 

肩の桃皮を。

 

指で取る。

 

「張燕」

 

「初対面で」

 

「人の肩へ」

 

「生ごみを」

 

「投げるのか」

 

「皮は」

 

「売ってやるって」

 

「書いただろ」

 

「買ってない」

 

「前払いだ」

 

一刀の目。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「代金は」

 

「劉備から取る」

 

「なぜ」

 

「お前の頭だから」

 

「意味が分からない」

 

時雨は。

 

桃を。

 

もう一口。

 

食べる。

 

「安心しろ」

 

「俺も」

 

「分かってねぇ」

 

張飛が。

 

大笑い。

 

「張燕!」

 

「一刀の顔が!」

 

「すごく嫌そうなのだ!」

 

「見りゃ分かる」

 

時雨が答える。

 

「いい顔だろ」

 

一刀は。

 

門の上。

 

時雨を見る。

 

これが。

 

張燕。

 

手紙。

 

一方的。

 

嫌がらせ。

 

挑発。

 

間者。

 

警備。

 

全部。

 

引っかき回した男。

 

想像より。

 

若い。

 

黒い髪。

 

鋭い目。

 

だが。

 

冷たく。

 

固い。

 

顔ではない。

 

悪い。

 

楽しそうな。

 

笑み。

 

人を。

 

馬鹿にしている。

 

自分の縄張りへ。

 

獲物が来たことを。

 

喜ぶ。

 

山賊。

 

そのもの。

 

「時雨!」

 

関羽が。

 

怒声を上げる。

 

時雨の目が。

 

関羽へ。

 

動く。

 

「誰だ」

 

関羽の顔。

 

固まる。

 

「貴様!」

 

「昔!」

 

「共に戦った!」

 

「関羽だ!」

 

時雨は。

 

首を傾げる。

 

「知らねぇな」

 

関羽の額へ。

 

青筋。

 

浮かぶ。

 

劉備が。

 

慌てて。

 

時雨を見上げる。

 

「張燕さん」

 

「愛紗ちゃんだよ」

 

「ああ」

 

時雨は。

 

今。

 

思い出したような顔。

 

「馬を睨んだ女か」

 

「睨んだのは!」

 

「貴様だ!」

 

「馬は」

 

「死んだ」

 

「知っている!」

 

「残念そうだな」

 

「違う!」

 

「時雨!」

 

関羽の怒声。

 

北門。

 

響く。

 

祭の客。

 

振り返る。

 

皆。

 

見る。

 

噂の。

 

荊州の関羽。

 

魏の張燕。

 

喧嘩。

 

始まった。

 

人。

 

少しずつ。

 

集まる。

 

時雨。

 

狙い通り。

 

「愛紗ちゃん」

 

劉備が。

 

関羽の腕へ。

 

手を置く。

 

「落ち着いて」

 

「しかし!」

 

「張燕さん」

 

「昔から」

 

「こうだから」

 

「そこが!」

 

「問題なのです!」

 

時雨は。

 

門から。

 

飛び降りる。

 

高い。

 

だが。

 

軽く。

 

地面へ。

 

降りる。

 

周囲。

 

兵。

 

動かない。

 

時雨の身体能力。

 

知っている。

 

劉備の前。

 

歩く。

 

距離。

 

止まる。

 

桃色の髪。

 

柔らかな目。

 

昔。

 

より。

 

王らしい。

 

だが。

 

笑顔。

 

変わらない。

 

時雨は。

 

劉備を。

 

上から下へ。

 

見る。

 

「太ったか」

 

劉備の動きが。

 

止まる。

 

関羽の殺気。

 

一気に。

 

膨らむ。

 

張飛が。

 

劉備を見る。

 

「桃香様は!」

 

「太ってないのだ!」

 

劉備は。

 

自分の身体。

 

見る。

 

「えっ」

 

「太った?」

 

時雨は。

 

真顔。

 

「知らねぇ」

 

「今」

 

「言ったでしょう!」

 

関羽が叫ぶ。

 

時雨の口元。

 

上がる。

 

「引っかかった」

 

劉備の頬が。

 

僅かに。

 

膨らむ。

 

「張燕さん」

 

「ひどい」

 

「昔からだろ」

 

「昔より」

 

「ひどくなってる」

 

「魏の飯が」

 

「美味い」

 

「関係ないよ」

 

時雨は。

 

劉備の持つ。

 

籠。

 

見る。

 

桃。

 

干し肉。

 

たくさん。

 

「持ってきたな」

 

「うん」

 

劉備は。

 

籠を。

 

少し持ち上げる。

 

「約束したから」

 

時雨は。

 

桃。

 

一つ。

 

取る。

 

劉備の許可。

 

待たない。

 

関羽が。

 

眉を寄せる。

 

「勝手に!」

 

「取るな!」

 

「俺のだ」

 

「贈答品です!」

 

「俺宛て」

 

「まだ!」

 

「渡していない!」

 

時雨は。

 

桃。

 

袖で。

 

適当に拭く。

 

齧る。

 

汁。

 

口元。

 

「悪くねぇ」

 

劉備の目が。

 

僅かに。

 

明るくなる。

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「許昌のより?」

 

時雨は。

 

少し。

 

考える。

 

劉備。

 

待つ。

 

張飛も。

 

待つ。

 

関羽。

 

なぜ。

 

桃の評価へ。

 

自分が。

 

緊張しているのか。

 

分からない。

 

時雨は。

 

桃を。

 

もう一口。

 

食べる。

 

「許昌の方が」

 

「少し上だな」

 

劉備の頬が。

 

明らかに。

 

膨らむ。

 

「そんなことないよ」

 

「負けず嫌い」

 

「荊州の桃は」

 

「美味しいもん」

 

「なら」

 

「祭で」

 

「売ってみろ」

 

「売る?」

 

「許昌の桃と」

 

「どっちが」

 

「先に無くなるか」

 

劉備の目。

 

僅かに。

 

輝く。

 

「勝負?」

 

「怖ぇのか」

 

「怖くないよ」

 

「桃香様!」

 

関羽が。

 

止める。

 

「張燕の挑発へ!」

 

「乗ってはなりません!」

 

時雨は。

 

関羽を見る。

 

「関羽」

 

「何だ!」

 

「お前」

 

「劉備の母親か」

 

関羽の顔。

 

赤くなる。

 

「私は!」

 

「義妹であり!」

 

「臣下である!」

 

「細けぇ」

 

「細かくない!」

 

時雨は。

 

劉備の籠を。

 

黒狼隊の兵へ。

 

投げる。

 

兵。

 

受け取る。

 

「中央広場へ」

 

「持ってけ」

 

「荊州の桃」

 

「無料だ」

 

劉備の目が。

 

大きくなる。

 

「全部?」

 

「全部」

 

張飛が。

 

叫ぶ。

 

「鈴々の分は!?」

 

「一個」

 

「残せ」

 

「少ないのだ!」

 

「小さい奴は」

 

「腹も小せぇ」

 

張飛の頬。

 

膨らむ。

 

「鈴々は!」

 

「小さくないのだ!」

 

時雨は。

 

張飛の頭へ。

 

手を置こうとする。

 

張飛が。

 

蛇矛の柄で。

 

払う。

 

時雨。

 

避ける。

 

「届いたな」

 

「当たり前なのだ!」

 

「前より」

 

「少し伸びたか」

 

張飛の動き。

 

止まる。

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「どれくらい?」

 

時雨は。

 

指。

 

ほんの少し。

 

開く。

 

「豆一個」

 

張飛の顔。

 

真っ赤。

 

「張燕!」

 

張飛。

 

追う。

 

時雨。

 

逃げる。

 

人。

 

笑う。

 

関羽は。

 

頭を抱えた。

 

劉備も。

 

笑っている。

 

祭。

 

緊張。

 

少しずつ。

 

溶ける。

 

荊州牧。

 

魏王。

 

敵国。

 

国境。

 

その空気。

 

桃。

 

悪ふざけ。

 

追いかけっこ。

 

崩れる。

 

時雨は。

 

人の中へ。

 

張飛を。

 

誘導する。

 

子供たち。

 

張飛を見る。

 

背。

 

近い。

 

強そうな武器。

 

目。

 

輝く。

 

張飛は。

 

追うのを止め。

 

子供。

 

見る。

 

一人が。

 

声を上げる。

 

「張飛将軍!」

 

張飛の動き。

 

止まる。

 

「鈴々を」

 

「知ってるのか?」

 

「うん!」

 

「蛇矛!」

 

「見せて!」

 

張飛の顔。

 

一気に。

 

明るくなる。

 

「仕方ないのだ!」

 

子供たち。

 

集まる。

 

時雨は。

 

少し離れ。

 

それを見る。

 

悪い笑み。

 

だが。

 

目。

 

冷静。

 

張飛。

 

子供。

 

得意。

 

自然。

 

祭へ。

 

馴染む。

 

次。

 

関羽。

 

まだ。

 

怒っている。

 

時雨は。

 

近くの。

 

馬具屋へ。

 

視線。

 

送る。

 

黒狼隊の兵。

 

頷く。

 

店主。

 

声を上げる。

 

「関羽将軍!」

 

「馬具を!」

 

「見ていただけませんか!」

 

関羽が。

 

振り返る。

 

店主。

 

新しい鞍。

 

手綱。

 

「荊州の馬へ」

 

「合うかどうか」

 

「ぜひ!」

 

関羽は。

 

一瞬。

 

迷う。

 

だが。

 

馬。

 

大切。

 

見る。

 

時雨は。

 

口元。

 

上げる。

 

劉備。

 

気づく。

 

「張燕さん」

 

「最初から?」

 

「何が」

 

「鈴々ちゃんを」

 

「子供たちのところへ」

 

「愛紗ちゃんを」

 

「馬具屋さんへ」

 

「偶然」

 

「嘘」

 

時雨は。

 

劉備を見る。

 

「人聞きが」

 

「悪ぃな」

 

「張燕さんだもん」

 

劉備は。

 

笑う。

 

時雨の眉が。

 

僅かに。

 

上がる。

 

「言うようになったな」

 

「手紙で」

 

「鍛えられたから」

 

「あれは」

 

「稽古」

 

「嫌がらせだよ」

 

「同じだ」

 

「違うよ」

 

二人。

 

少し。

 

笑う。

 

昔。

 

三日。

 

共に戦った。

 

時間。

 

短い。

 

それでも。

 

残っている。

 

---

 

華琳が。

 

北門へ。

 

姿を現した。

 

祭の人々。

 

自然に。

 

道を空ける。

 

魏王。

 

黄金の髪。

 

堂々。

 

歩く。

 

その後ろ。

 

春蘭。

 

秋蘭。

 

桂花。

 

稟。

 

風。

 

栄華。

 

柳琳。

 

華論。

 

霞。

 

主要な将。

 

揃う。

 

劉備は。

 

姿勢を整える。

 

柔らかな。

 

祭の顔から。

 

荊州牧。

 

王。

 

その顔へ。

 

変わる。

 

一刀も。

 

華琳を見る。

 

初めて。

 

直接。

 

向かい合う。

 

華琳は。

 

劉備の前。

 

止まる。

 

「劉備玄徳」

 

「許昌へ」

 

「よく来たわね」

 

劉備は。

 

頭を下げる。

 

「曹操さん」

 

「招いてくださって」

 

「ありがとうございます」

 

華琳の眉が。

 

僅かに。

 

動く。

 

曹操さん。

 

以前と。

 

変わらない。

 

「祭の間は」

 

「国賓として」

 

「安全を保証するわ」

 

「ただし」

 

華琳の蒼い瞳が。

 

一刀へ向く。

 

「勝手な動きは」

 

「慎みなさい」

 

一刀は。

 

穏やかな。

 

笑みを作る。

 

「もちろんです」

 

「魏の都で」

 

「問題を起こすつもりはありません」

 

時雨が。

 

横から。

 

鼻で笑う。

 

一刀の目。

 

時雨へ。

 

向く。

 

華琳は。

 

時雨を見ない。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「今」

 

「笑ったでしょう」

 

「ああ」

 

「理由は」

 

「胡散臭ぇ」

 

一刀の笑み。

 

僅かに。

 

硬くなる。

 

劉備が。

 

困った顔。

 

「張燕さん」

 

「初対面で」

 

「そういうこと言わないで」

 

「手紙で」

 

「先に喧嘩売った」

 

「張燕さんからだよ」

 

「返事」

 

「遅かった」

 

「桃を」

 

「選んでたの」

 

「腐ってねぇか」

 

「確認した」

 

劉備の頬。

 

また。

 

膨らむ。

 

華琳は。

 

小さく。

 

息を吐く。

 

「時雨」

 

「国賓を」

 

「門前で」

 

「いつまで」

 

「立たせるつもり?」

 

「腹が減るまで」

 

「すでに」

 

「減ってるのだ!」

 

張飛が。

 

遠くから。

 

叫ぶ。

 

子供たち。

 

一緒。

 

笑う。

 

時雨は。

 

張飛へ。

 

声を返す。

 

「肉屋へ行け!」

 

「時雨の金で!」

 

「勝手に食え!」

 

栄華の扇が。

 

勢いよく。

 

開く。

 

「時雨!」

 

「あなたの財布に!」

 

「それほど!」

 

「入っておりません!」

 

「曹操につけろ」

 

華琳の目が。

 

ゆっくり。

 

時雨へ向く。

 

「時雨」

 

「冗談」

 

「今のは」

 

「本気だったでしょう」

 

「ああ」

 

「後で」

 

「財布を」

 

「栄華へ渡しなさい」

 

「嫌だ」

 

「命令よ」

 

「祭だぞ」

 

「関係ないわ」

 

劉備は。

 

そのやり取りを。

 

少し。

 

驚いて見ている。

 

昔の時雨。

 

戻っている。

 

だが。

 

昔と違う。

 

一人ではない。

 

怒る者。

 

止める者。

 

金を管理する者。

 

傷を診る者。

 

隣へ立つ者。

 

大勢。

 

いる。

 

時雨は。

 

自由。

 

悪い。

 

勝手。

 

だが。

 

誰も。

 

放置しない。

 

「張燕さん」

 

劉備が。

 

小さく言う。

 

「何だ」

 

「楽しそう」

 

時雨は。

 

一瞬。

 

答えない。

 

次。

 

口元を。

 

悪く歪める。

 

「お前を」

 

「困らせるのは」

 

「昔から」

 

「楽しい」

 

劉備は。

 

少し。

 

目を潤ませる。

 

だが。

 

笑う。

 

「うん」

 

「私も」

 

「少し嬉しい」

 

時雨の眉が。

 

僅かに。

 

寄る。

 

「そういう返し」

 

「やめろ」

 

「どうして?」

 

「からかいにくい」

 

「手紙でも」

 

「書いてたね」

 

「覚えてんのか」

 

「全部」

 

「面倒な女だ」

 

「張燕さんに」

 

「言われたくない」

 

華琳の蒼い瞳が。

 

二人の間を。

 

静かに。

 

見る。

 

親しさ。

 

昔。

 

時間。

 

華琳が。

 

知らない。

 

嫉妬。

 

ある。

 

だが。

 

今。

 

口を挟まない。

 

劉備が。

 

時雨を。

 

昔の姿へ。

 

戻したわけではない。

 

時雨が。

 

魏で。

 

仮面を。

 

外したから。

 

劉備と。

 

こうして。

 

笑える。

 

華琳は。

 

それを。

 

理解している。

 

「劉備」

 

華琳が呼ぶ。

 

「はい」

 

「積もる話は」

 

「後にしなさい」

 

「今日は」

 

「祭よ」

 

「まず」

 

「民の中を」

 

「自分の目で」

 

「見て回るとよいわ」

 

劉備の目が。

 

僅かに。

 

明るくなる。

 

「いいんですか?」

 

「そのために」

 

「招いたのよ」

 

華琳は。

 

一刀へ。

 

視線を移す。

 

「あなたも」

 

「好きに見ればよい」

 

「ただし」

 

「見られていることを」

 

「忘れないことね」

 

一刀は。

 

許昌。

 

周囲。

 

屋根。

 

店。

 

兵。

 

感じる。

 

「分かっています」

 

時雨が。

 

再び。

 

鼻で笑う。

 

一刀は。

 

今度。

 

時雨へ向く。

 

「何がおかしい」

 

「分かってる奴は」

 

「分かってるって」

 

「言わねぇ」

 

一刀の目。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「お前は」

 

「よく喋るな」

 

「お前の前じゃ」

 

「わざとだ」

 

「なぜ」

 

時雨は。

 

一刀へ。

 

近づく。

 

肩。

 

触れない。

 

距離。

 

近い。

 

「黙ると」

 

「劉備の後ろへ」

 

「隠れんだろ」

 

一刀の目。

 

冷える。

 

劉備が。

 

二人を見る。

 

「張燕さん」

 

「一刀さん」

 

「喧嘩は」

 

「後にして」

 

時雨は。

 

劉備を見る。

 

「こいつ」

 

「祭へ」

 

「来たのに」

 

「笑ってねぇ」

 

「笑っています」

 

一刀が答える。

 

時雨は。

 

一刀の口元を見る。

 

「それ」

 

「商人の笑い方だ」

 

「お前は」

 

「盗賊の笑い方だな」

 

時雨の目。

 

僅かに。

 

楽しそうに。

 

光る。

 

「分かってんじゃねぇか」

 

一刀は。

 

初めて。

 

少し。

 

本当の笑みを見せた。

 

冷たい。

 

短い。

 

「嫌というほど」

 

「手紙で」

 

「分からされた」

 

「そりゃ」

 

「よかった」

 

「よくない」

 

「知らねぇよ」

 

二人。

 

向かい合う。

 

劉備の隣。

 

一刀。

 

華琳の隣。

 

時雨。

 

似ていない。

 

だが。

 

互い。

 

相手の。

 

顔の奥を。

 

剥がそうとしている。

 

祭。

 

人。

 

笑い。

 

その真ん中。

 

二匹の獣。

 

静かに。

 

牙を見せる。

 

---

 

中央広場。

 

劉備が。

 

荊州の桃を。

 

自分で。

 

配ることになった。

 

時雨の。

 

勝手な決定。

 

だが。

 

劉備は。

 

嫌がらなかった。

 

むしろ。

 

籠を抱え。

 

子供。

 

老人。

 

商人。

 

兵。

 

一人ずつ。

 

笑顔で。

 

渡す。

 

「荊州の桃です」

 

「甘いですよ」

 

許昌の民。

 

最初。

 

遠慮。

 

だが。

 

一人。

 

子供。

 

受け取る。

 

齧る。

 

「甘い!」

 

声。

 

上がる。

 

次。

 

人。

 

集まる。

 

劉備の周り。

 

自然に。

 

輪。

 

できる。

 

関羽は。

 

少し離れ。

 

警戒。

 

続ける。

 

張飛は。

 

自分も。

 

桃。

 

食べながら。

 

子供たちへ。

 

渡す。

 

「鈴々が」

 

「選んだ桃なのだ!」

 

「全部」

 

「甘いのだ!」

 

時雨は。

 

近くの屋台。

 

台。

 

勝手に。

 

座る。

 

店主。

 

困る。

 

時雨。

 

肉串。

 

一本。

 

取る。

 

「つけとけ」

 

「誰へ」

 

店主が尋ねる。

 

時雨は。

 

中央広場。

 

指す。

 

「荊州牧」

 

劉備が。

 

遠くから。

 

聞きつける。

 

「私!?」

 

「桃売った金で」

 

「払え」

 

「無料で」

 

「配ってるでしょう!」

 

「なら」

 

「借金だ」

 

「張燕さん!」

 

人々。

 

笑う。

 

劉備も。

 

困りながら。

 

笑う。

 

時雨の悪ふざけ。

 

劉備を。

 

祭の中心へ。

 

押し出す。

 

だが。

 

同時に。

 

荊州牧が。

 

許昌の民へ。

 

自分の手で。

 

桃を渡している。

 

その光景。

 

広がる。

 

商人。

 

噂。

 

持ち帰る。

 

魏と荊州。

 

今。

 

戦争前。

 

それでも。

 

劉備は。

 

許昌で。

 

桃を配った。

 

曹操は。

 

止めなかった。

 

時雨は。

 

劉備を。

 

からかった。

 

民は。

 

笑った。

 

北郷一刀は。

 

それを見る。

 

時雨の策。

 

分かる。

 

劉備の。

 

仁徳。

 

祭。

 

使う。

 

魏の民へ。

 

親しみを。

 

作る。

 

戦になれば。

 

逆に。

 

難しくなる。

 

劉備の兵を。

 

単なる敵として。

 

憎ませにくくする。

 

だが。

 

同時に。

 

劉備にも。

 

許昌の民を。

 

見せる。

 

戦になれば。

 

この笑っている者たちが。

 

敵国の民。

 

殺し。

 

奪う相手。

 

になる。

 

劉備の心へ。

 

重り。

 

入れる。

 

「やることが」

 

「陰湿だな」

 

一刀が。

 

時雨の隣へ。

 

立つ。

 

時雨は。

 

肉串を。

 

一刀へ。

 

差し出す。

 

一刀が。

 

見る。

 

「桃は売らないが」

 

「肉は?」

 

「毒見」

 

一刀は。

 

受け取らない。

 

「お前が食え」

 

時雨は。

 

そのまま。

 

一口。

 

齧る。

 

「怖がり」

 

「警戒だ」

 

「同じだ」

 

「違う」

 

「劉備も」

 

「そう言う」

 

一刀は。

 

中央。

 

劉備を見る。

 

笑う。

 

民。

 

囲む。

 

桃香。

 

そう。

 

真名で呼ぶ。

 

一刀の。

 

大切な女。

 

守る。

 

そのため。

 

何でも。

 

する。

 

「お前は」

 

一刀が言う。

 

「桃香を」

 

「戦えなくさせたいのか」

 

時雨は。

 

肉。

 

噛む。

 

「半分」

 

「残り半分は」

 

「戦うなら」

 

「自分で決めさせる」

 

「俺が」

 

「決めさせていないと?」

 

時雨は。

 

一刀を見る。

 

「知らねぇ」

 

「だから」

 

「呼んだ」

 

「手紙で」

 

「散々」

 

「嫌がらせをして?」

 

「普通に呼んだら」

 

「お前が」

 

「綺麗に整えて」

 

「来るだろ」

 

一刀の目が。

 

僅かに。

 

鋭くなる。

 

「今も」

 

「準備はしてきた」

 

「だろうな」

 

「でも」

 

時雨は。

 

一刀の肩。

 

桃皮。

 

先ほど。

 

付いていた場所。

 

見る。

 

「桃の皮を」

 

「投げられる準備は」

 

「してなかった」

 

一刀の口元。

 

僅かに。

 

引きつる。

 

時雨は。

 

笑う。

 

「その顔だ」

 

「何が」

 

「俺が」

 

「見たかったの」

 

「お前が」

 

「予定外へ」

 

「どんな顔するか」

 

一刀は。

 

時雨を見る。

 

「それで」

 

「満足したか」

 

「まだ」

 

「何を」

 

「怒った時」

 

「劉備へ」

 

「どう触るか」

 

「見てねぇ」

 

一刀の目。

 

冷たくなる。

 

「俺が」

 

「桃香へ」

 

「危害を加えると」

 

「思っているのか」

 

「危害?」

 

時雨は。

 

鼻で笑う。

 

「剣で斬るだけが」

 

「危害じゃねぇだろ」

 

一刀は。

 

黙る。

 

「選ばせねぇ」

 

「見せねぇ」

 

「悪いものを」

 

「全部」

 

「自分の腹へ」

 

「隠す」

 

時雨は。

 

肉串の先を。

 

一刀へ向ける。

 

「それも」

 

「食い方を間違えりゃ」

 

「毒だ」

 

「桃香を」

 

「守っている」

 

「そうだろうな」

 

「なら」

 

「何が悪い」

 

時雨は。

 

少し。

 

考える。

 

「お前が」

 

「悪いことを」

 

「自分で」

 

「分かってるか」

 

「そこ」

 

一刀の目。

 

僅かに。

 

揺れる。

 

「俺は」

 

「必要なことをしている」

 

「それ」

 

「嫌いだ」

 

時雨の声。

 

軽い。

 

だが。

 

目。

 

笑っていない。

 

「悪いことを」

 

「必要って」

 

「綺麗に包む奴」

 

「盗賊より」

 

「性質が悪ぃ」

 

一刀の声。

 

低い。

 

「お前は」

 

「自分が」

 

「正しいと思っていないのか」

 

「思ってねぇ」

 

即答。

 

「俺は」

 

「欲しいもんを」

 

「奪う」

 

「邪魔な奴を」

 

「騙す」

 

「民を守るためなら」

 

「敵の村へ」

 

「嘘も流す」

 

「悪党だ」

 

時雨は。

 

口元を歪める。

 

「だから」

 

「俺の後ろへ」

 

「綺麗な王様は」

 

「隠さねぇ」

 

一刀の視線が。

 

華琳へ。

 

向く。

 

少し離れ。

 

華琳。

 

劉備。

 

見ている。

 

「曹操は」

 

「お前の策を」

 

「知っている?」

 

「全部」

 

「止めない?」

 

「気に入らなきゃ」

 

「首輪つける」

 

一刀の眉が。

 

動く。

 

「首輪?」

 

「比喩だ」

 

時雨は。

 

少し。

 

華琳を見る。

 

「たまに」

 

「本当に」

 

「つけそうだけどな」

 

華琳の蒼い瞳が。

 

遠くから。

 

時雨へ向く。

 

何を。

 

言った。

 

聞こえない。

 

だが。

 

自分の話。

 

している。

 

分かる。

 

時雨は。

 

手を。

 

ひらひら。

 

振る。

 

華琳の目が。

 

細くなる。

 

後で。

 

確実に。

 

問い詰められる。

 

「お前は」

 

一刀が言う。

 

「曹操の隣で」

 

「自由なんだな」

 

時雨は。

 

一刀を見る。

 

「自由じゃねぇ」

 

「財布は」

 

「栄華」

 

「傷は」

 

「柳琳」

 

「夜は」

 

「曹操」

 

「軍議は」

 

「桂花」

 

「俺の自由なんか」

 

「食い物くらいだ」

 

一刀の口元が。

 

ほんの僅かに。

 

緩む。

 

「それで」

 

「よく偉そうにできるな」

 

「盗賊の頭は」

 

「捕まってからが」

 

「本番だ」

 

「意味が分からない」

 

「分からせる気も」

 

「ねぇよ」

 

二人。

 

祭の端。

 

立つ。

 

敵。

 

まだ。

 

剣。

 

抜かない。

 

だが。

 

互い。

 

見ている。

 

一刀は。

 

時雨の悪ふざけの奥。

 

読む。

 

時雨は。

 

一刀の笑みの奥。

 

剥がす。

 

中央。

 

劉備。

 

桃。

 

配る。

 

華琳。

 

その光景。

 

見守る。

 

祭は。

 

続く。

 

---

 

劉備の周り。

 

人。

 

増えすぎる。

 

押す。

 

子供。

 

転びそう。

 

その瞬間。

 

劉備の近くにいた。

 

若い男。

 

素早く。

 

子供を。

 

抱き上げる。

 

普通の。

 

商人。

 

衣。

 

だが。

 

動き。

 

訓練。

 

されている。

 

時雨の目。

 

すぐに。

 

そこへ。

 

向く。

 

一刀も。

 

気づく。

 

男は。

 

子供を。

 

母親へ返し。

 

人の中へ。

 

消える。

 

黒狼隊。

 

動かない。

 

時雨の指示。

 

泳がせる。

 

「お前のか」

 

時雨が尋ねる。

 

一刀は。

 

すぐには。

 

答えない。

 

「何の話だ」

 

時雨は。

 

笑う。

 

「下手なとぼけ方」

 

「俺の?」

 

「劉備の?」

 

「民だ」

 

「便利な言葉だな」

 

時雨は。

 

肉串の。

 

最後。

 

食べる。

 

棒。

 

一刀の足元へ。

 

落とす。

 

「拾え」

 

一刀の目。

 

冷える。

 

「なぜ」

 

「お前の手下が」

 

「俺の祭で」

 

「勝手に動いた」

 

「掃除代」

 

「お前が払え」

 

「子供を助けただけだ」

 

「だから」

 

「褒美」

 

「ゴミ拾い」

 

一刀は。

 

時雨を見る。

 

長い。

 

沈黙。

 

次。

 

しゃがむ。

 

串の棒を。

 

拾う。

 

時雨の眉が。

 

僅かに。

 

動く。

 

一刀は。

 

近くの。

 

ゴミ籠へ。

 

捨てる。

 

「これでいいか」

 

時雨の口元。

 

悪く。

 

上がる。

 

「思ったより」

 

「素直だな」

 

「祭を」

 

「汚すつもりはない」

 

「違ぇよ」

 

「何が」

 

「劉備の前で」

 

「喧嘩したくねぇだけだろ」

 

一刀の目。

 

僅かに。

 

鋭くなる。

 

図星。

 

時雨は。

 

笑う。

 

「やっぱ」

 

「お前」

 

「劉備が」

 

「弱点だな」

 

「お互い様じゃないか」

 

「俺の弱点は」

 

「胸」

 

一刀の顔。

 

完全に。

 

止まる。

 

時雨は。

 

真顔。

 

「何だ」

 

「知らなかったのか」

 

一刀は。

 

初めて。

 

明確に。

 

困った顔をした。

 

「なぜ」

 

「今」

 

「それを」

 

「言った」

 

「お前の顔が」

 

「見たかった」

 

時雨は。

 

声を上げず。

 

肩を揺らす。

 

悪い。

 

笑い。

 

一刀は。

 

額へ。

 

手を当てる。

 

「桃香から」

 

「聞いていた以上に」

 

「ひどい男だな」

 

「褒めんな」

 

「褒めてない」

 

「知ってる」

 

---

 

一方。

 

華琳と劉備。

 

二人。

 

少し離れた。

 

天幕。

 

茶。

 

用意。

 

正式な会談。

 

まだ。

 

後。

 

今は。

 

祭を見ながら。

 

短い会話。

 

「曹操さん」

 

劉備が。

 

中央広場を見る。

 

「ありがとうございます」

 

「何のこと?」

 

「祭に」

 

「荊州の人たちも」

 

「入れてくれたこと」

 

「私へ」

 

「礼を言う必要はないわ」

 

華琳は。

 

茶を。

 

一口。

 

「魏のためよ」

 

「それでも」

 

「嬉しいです」

 

「あなたは」

 

「相変わらずね」

 

「何が?」

 

「すぐ」

 

「人を信じる」

 

劉備は。

 

少し。

 

考える。

 

「信じてるだけじゃ」

 

「ないです」

 

華琳の目が。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「そう?」

 

「曹操さんが」

 

「荊州を」

 

「欲しいと思ってることも」

 

「分かってます」

 

「時雨さんが」

 

「私を」

 

「祭へ呼んで」

 

「民の前へ」

 

「出した理由も」

 

「少し」

 

「分かります」

 

華琳は。

 

劉備を見る。

 

以前。

 

ただ。

 

真っ直ぐ。

 

理想。

 

追う。

 

女。

 

そう。

 

見ていた。

 

今。

 

荊州。

 

背負う。

 

王。

 

劉備。

 

少し。

 

変わっている。

 

「なら」

 

華琳が尋ねる。

 

「なぜ来たの?」

 

劉備は。

 

桃を配る。

 

張飛。

 

馬具を見る。

 

関羽。

 

そして。

 

祭の端。

 

時雨と一刀。

 

見る。

 

「自分で」

 

「見たかったからです」

 

「一刀さんが」

 

「見せてくれるものだけじゃなく」

 

「張燕さんが」

 

「嫌がらせの手紙で」

 

「見せようとしたものだけでもなく」

 

「私が」

 

「自分で」

 

「見たかった」

 

華琳の蒼い瞳。

 

僅かに。

 

柔らかくなる。

 

「時雨の狙い通りね」

 

劉備は。

 

少し。

 

苦笑する。

 

「それが」

 

「悔しいです」

 

「そうでしょうね」

 

「曹操さんも」

 

「時雨さんに」

 

「よく」

 

「振り回されますか?」

 

華琳の眉が。

 

僅かに。

 

動く。

 

「私が?」

 

「はい」

 

「振り回されていないわ」

 

その時。

 

遠く。

 

時雨が。

 

華琳へ。

 

大きく。

 

手を振る。

 

口。

 

動く。

 

『金』

 

華琳の蒼い瞳が。

 

細くなる。

 

時雨は。

 

屋台。

 

指す。

 

食べた分。

 

払え。

 

そう。

 

言っている。

 

華琳の笑みが。

 

冷える。

 

「時雨」

 

声。

 

遠くまで。

 

届かない。

 

だが。

 

殺気。

 

届く。

 

時雨は。

 

楽しそうに。

 

一刀の後ろへ。

 

半歩。

 

隠れる。

 

一刀の顔。

 

険しくなる。

 

「俺を」

 

「盾にするな」

 

「天の御使いだろ」

 

「矢くらい」

 

「弾け」

 

「無理だ」

 

「役立たず」

 

劉備は。

 

その様子を見て。

 

思わず。

 

笑う。

 

華琳の頬へ。

 

僅かな赤み。

 

怒り。

 

恥ずかしさ。

 

「振り回されて」

 

「いませんか?」

 

劉備が。

 

もう一度。

 

尋ねる。

 

華琳は。

 

茶器を。

 

静かに置く。

 

「劉備」

 

「はい」

 

「あなたの国で」

 

「時雨を」

 

「一日」

 

「預かってみる?」

 

劉備の目が。

 

僅かに。

 

大きくなる。

 

「いいんですか?」

 

「桃香様!」

 

関羽が。

 

遠くから。

 

声を上げる。

 

時雨も。

 

聞こえた。

 

華琳へ。

 

顔を向ける。

 

「曹操」

 

「何?」

 

「今」

 

「売ったか」

 

「貸すだけよ」

 

「嫌だ」

 

「あなたに」

 

「拒否権はないわ」

 

「横暴」

 

「王ですもの」

 

劉備は。

 

声を立てて。

 

笑った。

 

華琳も。

 

僅かに。

 

口元を上げる。

 

二人。

 

敵対する王。

 

それでも。

 

時雨へ。

 

振り回される。

 

一点。

 

少し。

 

理解。

 

生まれる。

 

---

 

昼。

 

祭の中央。

 

即席。

 

桃勝負。

 

始まった。

 

荊州の桃。

 

許昌周辺の桃。

 

二つ。

 

屋台。

 

並ぶ。

 

無料ではない。

 

一個。

 

小銭。

 

同じ値。

 

売り上げ。

 

祭の救護所へ。

 

寄付。

 

栄華。

 

最初。

 

無料配布へ。

 

怒った。

 

だが。

 

勝負。

 

売り上げ。

 

寄付。

 

その形へ。

 

すぐに。

 

作り直した。

 

「荊州!」

 

張飛が叫ぶ。

 

「甘い桃なのだ!」

 

「許昌!」

 

季衣が。

 

反対側。

 

叫ぶ。

 

「大きくて!」

 

「美味しいよ!」

 

二人。

 

屋台。

 

競う。

 

子供。

 

集まる。

 

時雨は。

 

中央。

 

賭場。

 

作ろうと。

 

木札。

 

並べている。

 

栄華が。

 

見つける。

 

「時雨!」

 

「何を!」

 

「していますの!」

 

「賭け」

 

「禁止です!」

 

「祭だ」

 

「祭でも!」

 

「国が管理しない賭場は!」

 

「認めません!」

 

時雨は。

 

木札を。

 

裏返す。

 

「遊び」

 

「銭を!」

 

「置いているでしょう!」

 

「参加料」

 

「同じです!」

 

栄華は。

 

銭。

 

全部。

 

回収。

 

帳簿。

 

記録。

 

「没収です」

 

時雨の顔が。

 

僅かに。

 

曇る。

 

「俺の金」

 

「賭けへ使おうとした時点で」

 

「祭の寄付金です」

 

「盗賊かよ」

 

栄華の扇。

 

時雨の肩。

 

叩く。

 

「あなたに!」

 

「言われたくありません!」

 

劉備は。

 

その様子を見て。

 

笑う。

 

「張燕さん」

 

「怒られてる」

 

時雨は。

 

劉備を見る。

 

「お前のせい」

 

「どうして?」

 

「祭に」

 

「来た」

 

「呼んだのは」

 

「張燕さんだよ」

 

「ああ」

 

「また」

 

「自分に」

 

「返事してる」

 

劉備は。

 

少し。

 

得意そう。

 

時雨の眉。

 

僅かに。

 

動く。

 

「調子乗んな」

 

「手紙で」

 

「ずっと」

 

「からかわれたから」

 

「今日は」

 

「少しくらい」

 

「返してもいいでしょう?」

 

時雨は。

 

劉備へ。

 

近づく。

 

劉備。

 

逃げない。

 

「桃」

 

「何だ」

 

「お前」

 

「昔」

 

「俺の干し肉」

 

「盗ったな」

 

「みんなで」

 

「食べたよ」

 

「盗みを」

 

「認めた」

 

「張燕さんが」

 

「隠したから」

 

「俺の物」

 

「でも」

 

「鈴々ちゃんが」

 

「お腹を空かせてた」

 

「だから?」

 

「もらった」

 

「盗賊より」

 

「たち悪ぃな」

 

劉備は。

 

少し。

 

胸を張る。

 

「困ってる人のためだから」

 

時雨の目。

 

僅かに。

 

細くなる。

 

「それ」

 

「便利な言葉だな」

 

劉備の表情。

 

少し。

 

変わる。

 

時雨の声。

 

悪ふざけ。

 

薄れる。

 

「一刀も」

 

「似たこと」

 

「言うぞ」

 

「必要だから」

 

「守るためだから」

 

「だから」

 

「何をしてもいい」

 

劉備は。

 

一刀を見る。

 

遠く。

 

一刀。

 

人の流れ。

 

見ている。

 

「張燕さん」

 

「何だ」

 

「今は」

 

「祭だよ」

 

時雨の目。

 

僅かに。

 

動く。

 

「話すのは」

 

「後で」

 

「ちゃんと」

 

「四人で」

 

「曹操さんも」

 

「一刀さんも」

 

「私も」

 

「張燕さんも」

 

劉備は。

 

真っ直ぐ。

 

時雨を見る。

 

「だから」

 

「今は」

 

「昔みたいに」

 

「祭を」

 

「楽しもう」

 

時雨は。

 

しばらく。

 

劉備を見る。

 

真っ直ぐ。

 

逃げない。

 

劉備。

 

昔。

 

泣いた。

 

正義。

 

語る。

 

無力。

 

それでも。

 

今。

 

自分で。

 

話を。

 

止めた。

 

逃げたのではない。

 

後で。

 

向き合う。

 

そのため。

 

今を。

 

分けた。

 

「言うように」

 

「なったな」

 

時雨が言う。

 

劉備は。

 

少し。

 

笑う。

 

「王様だから」

 

「似合わねぇ」

 

「張燕さんも」

 

「王様だったでしょう?」

 

「忘れた」

 

「婚約も」

 

「忘れてたもんね」

 

時雨の目。

 

僅かに。

 

鋭くなる。

 

「誰から」

 

「聞いた」

 

「手紙の使者さん」

 

「口の軽い奴」

 

「みんな」

 

「知ってるよ」

 

「許昌まで」

 

「来たこと」

 

劉備は。

 

少し。

 

楽しそう。

 

「胸で」

 

「張燕さんを」

 

「困らせたことも」

 

時雨の身体。

 

僅かに。

 

固まる。

 

劉備。

 

見逃さない。

 

「あっ」

 

「本当なんだ」

 

「違う」

 

「今」

 

「反応したよ」

 

「してねぇ」

 

「したよ」

 

時雨は。

 

劉備の額を。

 

指で。

 

押す。

 

「忘れろ」

 

劉備は。

 

時雨の指を。

 

両手で。

 

押し返す。

 

「嫌」

 

「面倒な女」

 

「張燕さんが」

 

「育てたの」

 

「責任取って」

 

「知らねぇ」

 

二人。

 

昔。

 

のように。

 

言い合う。

 

関羽。

 

遠くから。

 

見る。

 

警戒。

 

少し。

 

緩む。

 

張飛。

 

桃。

 

売りながら。

 

笑う。

 

一刀。

 

静かに。

 

見る。

 

華琳も。

 

見る。

 

嫉妬。

 

ある。

 

だが。

 

時雨の。

 

この顔。

 

自分たちだけで。

 

作ったものではない。

 

昔の縁。

 

戻る。

 

それも。

 

悪くない。

 

---

 

午後。

 

祭の見世物。

 

武芸。

 

始まる。

 

春蘭。

 

関羽。

 

互い。

 

目。

 

合う。

 

二人とも。

 

剣。

 

槍。

 

強者。

 

「関羽」

 

春蘭が言う。

 

「祭の余興だ」

 

「一手」

 

「合わせろ」

 

関羽の目。

 

僅かに。

 

輝く。

 

「望むところだ」

 

華琳。

 

劉備。

 

許可。

 

する。

 

本気。

 

ではない。

 

木製の。

 

模擬武器。

 

広場。

 

人。

 

囲む。

 

時雨は。

 

賭場。

 

また。

 

作ろうとする。

 

今度は。

 

木札へ。

 

春蘭。

 

関羽。

 

書く。

 

栄華。

 

すぐに。

 

木札を。

 

取り上げる。

 

「懲りませんの!?」

 

「見物料」

 

「無料です!」

 

「なら」

 

「賭け」

 

「禁止です!」

 

時雨は。

 

栄華の手元へ。

 

手を伸ばす。

 

栄華。

 

木札。

 

胸元へ。

 

隠す。

 

時雨の手。

 

止まる。

 

視線。

 

僅かに。

 

下へ。

 

栄華の頬。

 

一気に。

 

赤くなる。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「今」

 

「どこを」

 

「見ましたの」

 

「木札」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「胸は?」

 

時雨は。

 

少し。

 

黙る。

 

栄華の扇。

 

震える。

 

「なぜ!」

 

「黙りますの!」

 

「祭」

 

「関係ありません!」

 

柳琳が。

 

横から。

 

時雨の腕を。

 

優しく。

 

引く。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「栄華を」

 

「困らせすぎてはいけません」

 

「ああ」

 

「それから」

 

柳琳は。

 

時雨の顔を見る。

 

「私も」

 

「先ほどから」

 

「何度か」

 

「視線を感じます」

 

時雨の目。

 

柳琳の胸元。

 

鎧。

 

ではない。

 

祭の衣。

 

柔らかい。

 

すぐに。

 

顔へ戻る。

 

「気のせい」

 

柳琳の頬。

 

僅かに。

 

赤い。

 

「今」

 

「見ました」

 

「確認」

 

「何を?」

 

「気のせいか」

 

栄華が。

 

扇で。

 

時雨の肩を。

 

叩く。

 

「悪党!」

 

「知ってる」

 

柳琳は。

 

困りながら。

 

少し。

 

笑う。

 

劉備は。

 

そのやり取り。

 

見る。

 

「張燕さん」

 

「本当に」

 

「女の人の胸に」

 

「弱いんだ」

 

時雨が。

 

劉備を見る。

 

「誰から」

 

「聞いた」

 

「今」

 

「見た」

 

「忘れろ」

 

「嫌」

 

「お前も」

 

「胸」

 

「あるだろ」

 

劉備の動き。

 

止まる。

 

関羽。

 

模擬戦。

 

直前。

 

振り返る。

 

一刀の目。

 

僅かに。

 

鋭くなる。

 

華琳の蒼い瞳。

 

時雨へ。

 

突き刺さる。

 

時雨は。

 

一瞬。

 

周囲を見る。

 

言った後。

 

ようやく。

 

状況。

 

理解。

 

「時雨」

 

華琳が呼ぶ。

 

声。

 

静か。

 

「何だ」

 

「今夜」

 

「話があるわ」

 

「祭で」

 

「忙しい」

 

「終わった後よ」

 

「逃げる」

 

「逃がさない」

 

劉備の頬。

 

赤い。

 

「張燕さん」

 

「ひどい」

 

「昔」

 

「意識してなかった」

 

「今は?」

 

時雨は。

 

少し。

 

劉備を見る。

 

華琳の殺気。

 

栄華の扇。

 

柳琳の視線。

 

関羽の殺気。

 

一刀の冷たい目。

 

逃げ道。

 

ない。

 

時雨は。

 

口元を。

 

悪く歪める。

 

「秘密」

 

全員。

 

一瞬。

 

止まる。

 

次。

 

華琳の声。

 

「時雨!」

 

時雨は。

 

人の中へ。

 

逃げる。

 

「待ちなさい!」

 

華琳。

 

追う。

 

春蘭。

 

模擬戦。

 

前。

 

動けない。

 

関羽。

 

劉備。

 

守るため。

 

動けない。

 

栄華。

 

扇。

 

投げる。

 

時雨。

 

避ける。

 

柳琳。

 

少し。

 

笑いながら。

 

追う。

 

霞。

 

腹を抱える。

 

「完全に!」

 

「盗賊へ!」

 

「戻っとるやん!」

 

時雨は。

 

屋台の下。

 

潜る。

 

反対側。

 

出る。

 

華琳の前へ。

 

祭の客。

 

道。

 

空ける。

 

魏王が。

 

自分の将を。

 

追う。

 

人々。

 

笑う。

 

厳粛。

 

ない。

 

怖さ。

 

少ない。

 

華琳。

 

それも。

 

理解。

 

している。

 

時雨の悪ふざけ。

 

自分を。

 

祭の中へ。

 

引きずり出している。

 

王座の上ではない。

 

民の中。

 

走る。

 

笑う。

 

怒る。

 

それを。

 

見せる。

 

「時雨!」

 

「何だ!」

 

「止まりなさい!」

 

「捕まえたら」

 

「何する!」

 

「覚悟しなさい!」

 

「答えになってねぇ!」

 

時雨。

 

笑う。

 

華琳も。

 

怒りながら。

 

口元。

 

僅かに。

 

上がる。

 

劉備は。

 

その光景を。

 

見る。

 

「曹操さん」

 

「楽しそう」

 

一刀が。

 

劉備の隣へ。

 

立つ。

 

「振り回されてるだけだろ」

 

「でも」

 

「嫌そうじゃない」

 

一刀は。

 

華琳を見る。

 

時雨。

 

捕まえる。

 

腕。

 

掴む。

 

逃がさない。

 

時雨。

 

笑う。

 

抵抗。

 

本気。

 

ではない。

 

「張燕は」

 

一刀が言う。

 

「曹操を」

 

「民の前へ」

 

「引っ張り出した」

 

劉備は。

 

頷く。

 

「うん」

 

「私たちだけじゃなく」

 

「曹操さんも」

 

「祭の一人にした」

 

「計算か」

 

「半分」

 

劉備は。

 

時雨の口癖を。

 

真似る。

 

一刀が。

 

劉備を見る。

 

「残り半分は?」

 

劉備は。

 

笑う。

 

「本当に」

 

「逃げてるだけ」

 

一刀は。

 

少し。

 

黙る。

 

「厄介だな」

 

「うん」

 

「でも」

 

「少し」

 

「嬉しい」

 

「なぜ」

 

「張燕さんが」

 

「生きてるから」

 

劉備は。

 

時雨。

 

見る。

 

冷たい。

 

仮面。

 

ない。

 

悪党。

 

笑う。

 

逃げる。

 

女を。

 

怒らせる。

 

民。

 

笑わせる。

 

「昔より」

 

「ずっと」

 

「生きてる顔をしてる」

 

一刀は。

 

何も言わない。

 

---

 

夕暮れ。

 

祭。

 

一日目。

 

終わりへ。

 

向かう。

 

灯り。

 

つく。

 

屋台。

 

まだ。

 

人。

 

多い。

 

太鼓。

 

夜用。

 

ゆっくり。

 

音。

 

変わる。

 

広場。

 

舞。

 

始まる。

 

劉備たちは。

 

王宮の客殿へ。

 

向かう前。

 

最後に。

 

祭を。

 

見ている。

 

関羽と春蘭の。

 

模擬戦。

 

引き分け。

 

正確には。

 

華琳と劉備が。

 

長くなるため。

 

止めた。

 

両者。

 

不満。

 

次。

 

約束。

 

した。

 

張飛は。

 

桃勝負で。

 

季衣に。

 

僅かに負けた。

 

理由。

 

自分で。

 

売る桃を。

 

食べすぎた。

 

納得。

 

していない。

 

一刀は。

 

祭。

 

歩いた。

 

商人。

 

難民。

 

荊州から来た者。

 

何人か。

 

接触。

 

した。

 

黒狼隊。

 

見ている。

 

だが。

 

捕らえない。

 

時雨。

 

全部。

 

分かっている。

 

あえて。

 

許す。

 

一刀も。

 

分かっている。

 

互い。

 

一日。

 

探り。

 

続けた。

 

華琳は。

 

劉備へ。

 

客殿を。

 

案内。

 

その前。

 

時雨を。

 

探す。

 

見当たらない。

 

「時雨は?」

 

華琳が尋ねる。

 

華論が。

 

周囲を見る。

 

「さっきまで」

 

「いたっす」

 

栄華の目が。

 

細くなる。

 

「逃げましたわね」

 

柳琳は。

 

少し。

 

困ったように。

 

笑う。

 

「華琳様との」

 

「お話から」

 

「逃げたのでしょうか」

 

華琳の笑み。

 

冷える。

 

「見つけなさい」

 

春蘭が。

 

胸を張る。

 

「すぐに!」

 

「捕らえてまいります!」

 

秋蘭が。

 

静かに。

 

周囲。

 

見る。

 

「姉者」

 

「あそこだ」

 

屋台。

 

屋根。

 

上。

 

時雨。

 

座る。

 

片手。

 

酒。

 

もう片手。

 

桃。

 

劉備から。

 

持ってきた。

 

荊州の桃。

 

「時雨!」

 

華琳の声。

 

時雨は。

 

見下ろす。

 

「何だ」

 

「降りてきなさい」

 

「嫌だ」

 

「話があると」

 

「言ったでしょう」

 

「覚えてねぇ」

 

「忘れさせないとも」

 

「言ったわ」

 

時雨は。

 

桃。

 

齧る。

 

「祭」

 

「まだ終わってねぇ」

 

「あなたの悪ふざけは」

 

「終わりよ」

 

「そりゃ」

 

「残念」

 

劉備が。

 

屋根の下へ。

 

来る。

 

時雨を。

 

見上げる。

 

「張燕さん」

 

「何だ」

 

「今日」

 

「楽しかった?」

 

時雨は。

 

少し。

 

祭。

 

見渡す。

 

人。

 

灯り。

 

笑い。

 

魏。

 

荊州。

 

呉。

 

涼州。

 

混じる。

 

華琳。

 

怒る。

 

栄華。

 

扇。

 

柳琳。

 

心配。

 

霞。

 

笑う。

 

関羽。

 

険しい。

 

張飛。

 

桃。

 

食う。

 

一刀。

 

冷たい目。

 

劉備。

 

昔と同じ。

 

笑顔。

 

「悪くねぇ」

 

劉備の目が。

 

柔らかくなる。

 

「そっか」

 

「ああ」

 

「私も」

 

「楽しかった」

 

「桃は」

 

「許昌に」

 

「負けたけどな」

 

劉備の頬。

 

また。

 

膨らむ。

 

「負けてないよ」

 

「売り上げ」

 

「許昌が」

 

「二個多い」

 

栄華が。

 

帳簿を見る。

 

「正確には」

 

「三個ですわ」

 

劉備の目。

 

僅かに。

 

大きくなる。

 

「三個?」

 

張飛が。

 

遠くから。

 

口いっぱい。

 

桃。

 

持つ。

 

劉備。

 

見る。

 

「鈴々ちゃん」

 

「食べた?」

 

張飛。

 

目を逸らす。

 

「少しなのだ」

 

関羽の眉間。

 

皺。

 

「鈴々!」

 

「売り物を!」

 

「食べるなと!」

 

「言っただろう!」

 

「鈴々が!」

 

「選んだ桃なのだ!」

 

「味見が!」

 

「必要なのだ!」

 

時雨は。

 

屋根の上。

 

声を上げず。

 

笑う。

 

「劉備」

 

「何?」

 

「負けだ」

 

「明日」

 

劉備が言う。

 

「もう一回」

 

「勝負しよう」

 

「嫌だ」

 

「どうして?」

 

「面倒」

 

「逃げるの?」

 

時雨の眉。

 

僅かに。

 

動く。

 

劉備。

 

楽しそう。

 

時雨の挑発。

 

覚えた。

 

「言うように」

 

「なったな」

 

「張燕さんの」

 

「手紙のせい」

 

「なら」

 

時雨は。

 

桃の種。

 

劉備へ。

 

軽く。

 

投げる。

 

劉備。

 

両手で。

 

受け取る。

 

「明日」

 

「その種より」

 

「でかい桃」

 

「持ってこい」

 

「分かった」

 

「売り物から」

 

「盗むなよ」

 

「盗まないよ」

 

「昔」

 

「盗った」

 

「干し肉でしょう?」

 

「盗人は」

 

「一度やりゃ」

 

「ずっと盗人だ」

 

劉備は。

 

種。

 

握る。

 

「張燕さんも」

 

「ずっと盗賊?」

 

時雨は。

 

少し。

 

笑う。

 

「そうだ」

 

「王でも」

 

「将軍でも」

 

「曹操の隣でも?」

 

「ああ」

 

「俺は」

 

「盗賊だ」

 

時雨は。

 

祭。

 

見下ろす。

 

「欲しいもんは」

 

「奪う」

 

「守ると決めたもんへ」

 

「手ぇ出す奴は」

 

「潰す」

 

「笑いたきゃ」

 

「笑う」

 

「気に入らねぇ奴は」

 

「嫌がらせする」

 

一刀へ。

 

視線。

 

向ける。

 

一刀。

 

受ける。

 

「それが」

 

「俺だ」

 

劉備は。

 

時雨を見る。

 

「うん」

 

「知ってる」

 

時雨の目。

 

僅かに。

 

揺れる。

 

「でも」

 

劉備は。

 

笑う。

 

「悪い人だけじゃない」

 

時雨の顔。

 

少し。

 

嫌そう。

 

「それ」

 

「やめろ」

 

「嫌」

 

「気持ち悪ぃ」

 

「本当だもん」

 

「劉備」

 

「何?」

 

「明日」

 

「桃を」

 

「全部」

 

「小さく切って売る」

 

劉備の目。

 

大きくなる。

 

「ひどい!」

 

「嫌がらせ」

 

「また!?」

 

「まだ」

 

「祭は」

 

「二日ある」

 

時雨の口元。

 

悪い。

 

楽しそう。

 

華琳は。

 

屋根の下から。

 

深く。

 

息を吐く。

 

「時雨」

 

「何だ」

 

「今夜」

 

「本当に」

 

「覚悟しなさい」

 

時雨は。

 

華琳を見る。

 

「胸の話?」

 

華琳の頬。

 

僅かに。

 

赤くなる。

 

栄華の扇。

 

飛ぶ。

 

柳琳の目。

 

僅かに。

 

厳しくなる。

 

関羽。

 

意味。

 

理解。

 

顔。

 

赤い。

 

劉備も。

 

頬。

 

染まる。

 

一刀は。

 

額へ。

 

手。

 

当てる。

 

「張燕」

 

「お前」

 

「本当に」

 

「最低だな」

 

時雨は。

 

胸を張る。

 

「知ってる」

 

そして。

 

屋根の反対側へ。

 

飛び降りた。

 

「逃げた!」

 

春蘭が叫ぶ。

 

華琳の蒼い瞳。

 

鋭くなる。

 

「捕まえなさい!」

 

「承知しました!」

 

春蘭。

 

走る。

 

霞。

 

笑いながら。

 

別の道。

 

塞ぐ。

 

華論。

 

黒狼隊へ。

 

指示。

 

栄華。

 

財布。

 

回収するため。

 

追う。

 

柳琳。

 

転んだ時へ備え。

 

後を追う。

 

時雨は。

 

祭の人混みへ。

 

飛び込む。

 

「捕まえてみろ!」

 

盗賊頭の。

 

笑い声。

 

許昌の夜へ。

 

響く。

 

劉備は。

 

その背中を。

 

見つめる。

 

昔。

 

同じ。

 

逃げ方。

 

村の金を。

 

半分。

 

持っていこうとした時。

 

関羽へ。

 

追われ。

 

笑いながら。

 

山へ。

 

逃げた。

 

だが。

 

今。

 

時雨は。

 

一人ではない。

 

追う者。

 

大勢。

 

怒りながら。

 

笑いながら。

 

誰も。

 

本気で。

 

時雨を。

 

失おうとしていない。

 

「張燕さん」

 

劉備が。

 

小さく呟く。

 

「帰る場所が」

 

「できたんだね」

 

一刀は。

 

その隣。

 

時雨の消えた。

 

人混みを見る。

 

「曹操の隣が?」

 

「うん」

 

「魏が」

 

「許昌が」

 

「みんなが」

 

劉備は。

 

桃の種を。

 

掌へ。

 

包む。

 

「だから」

 

「仮面を」

 

「外せたんだと思う」

 

一刀は。

 

何も言わない。

 

時雨。

 

悪党。

 

盗賊。

 

嫌がらせ。

 

笑う。

 

だが。

 

帰る場所。

 

ある。

 

それは。

 

強さ。

 

同時に。

 

弱点。

 

一刀は。

 

そう。

 

考える。

 

そして。

 

自分の隣。

 

劉備。

 

見る。

 

自分にも。

 

同じもの。

 

ある。

 

祭。

 

一日目。

 

終わる。

 

劉備が。

 

許昌へ来た。

 

関羽。

 

張飛。

 

北郷一刀。

 

共に。

 

魏の縄張りへ。

 

入った。

 

時雨は。

 

歓迎の礼を。

 

しなかった。

 

桃の皮を。

 

投げた。

 

関羽を。

 

怒らせ。

 

張飛を。

 

子供の中へ。

 

放り込み。

 

劉備を。

 

桃売りへ。

 

変え。

 

一刀を。

 

ゴミ拾いに。

 

使った。

 

国賓への。

 

扱いではない。

 

悪党の。

 

悪ふざけ。

 

それでも。

 

祭は。

 

笑いに包まれた。

 

民は。

 

劉備を見た。

 

劉備は。

 

許昌の民を見た。

 

一刀は。

 

時雨の悪意を見た。

 

時雨は。

 

一刀の仮面へ。

 

指をかけた。

 

華琳は。

 

劉備の変化を見た。

 

劉備は。

 

時雨の帰る場所を見た。

 

まだ。

 

会談。

 

始まっていない。

 

魏。

 

荊州。

 

呉。

 

戦。

 

止まるか。

 

始まるか。

 

何一つ。

 

決まっていない。

 

だが。

 

黒山の狼は。

 

すでに。

 

最初の一日で。

 

客人全員を。

 

自分の祭へ。

 

引きずり込んだ。

 

盗賊の縄張りへ。

 

入った者は。

 

無傷では。

 

帰れない。

 

金ではない。

 

荷でもない。

 

誇り。

 

仮面。

 

迷い。

 

何か一つ。

 

奪われる。

 

時雨は。

 

それを。

 

狙っていた。

 

そして。

 

自分自身も。

 

祭の中。

 

劉備との。

 

古い時間を。

 

少し。

 

取り戻していた。

 

悪辣に。

 

下品に。

 

楽しそうに。

 

仮面のない。

 

黒山の盗賊として。




感想、評価、お気に入りよろしくお願い致します!

次の作品の主人公とルートは誰がいい?

  • 高順呂布ルート(ヒロイン恋、霞)
  • 朱霊曹操ルート(ヒロイン華琳、柳琳)
  • 周倉関羽ルート(ヒロイン愛紗)
  • 孫瑜孫権ルート(ヒロイン蓮華、粋怜)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

『陥陣営戦記 ~恋こそ至高!龍牙、乱世を穿つ~』(作者:パスカルDX)(原作:恋姫†無双)

乱世にその名を轟かせる最強部隊――陥陣営。▼その指揮官・高順こと龍牙は、武勇では呂布軍随一と称される豪傑だった。▼しかし彼が命を懸けて守るものは名誉でも天下でもない。▼「恋の可愛さが至高。」▼それだけだった。▼今日も恋の笑顔を守るため、巨大な魔剣・龍眼斬を担ぎ、敵軍へ突撃する。▼「チェストーーーー!!!」▼龍の如き剣閃が戦場を駆け抜け、陥陣営は無敗伝説を築い…


総合評価:78/評価:-.--/連載:20話/更新日時:2026年07月22日(水) 19:53 小説情報

これが俺の恋姫†無双(作者:篝火 灯)(原作:真・恋姫†夢想革命)

恋姫無双の世界に現代日本から【能力】を神から渡され恋姫無双の1つの外史に召喚された男…▼この男は恋姫の世界で何を成すのか…ソレは…時の流れるままに…▼神様は平和に過ごしてくれって言ってたけど…様々な問題もあって平和とは…?ってなってる俺だけど…頑張ってこの恋姫の外史で頑張って生き抜いてやるー!▼※なろう。に2025/7/7から投稿していた作品になります。こち…


総合評価:222/評価:3.6/連載:67話/更新日時:2026年08月04日(火) 14:46 小説情報

幽州を変えようか(作者:雑草弁士)(原作:恋姫†無双)

三国時代初頭、幽州の地にて。出立する劉備(桃香)に多大な物資と兵馬を与え、客将であった趙子龍(星)までもを持っていかれた公孫瓚(白蓮)。しかしこの時間軸、この外史では、星と引き換えの様な形で白蓮の元に居残った人材が居た。もともと劉備陣営では目立った働きをしていなかったらしい、ただ古参なだけのその男。彼の正体は。


総合評価:5140/評価:8.8/短編:2話/更新日時:2026年07月27日(月) 18:46 小説情報

争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい(作者:大気圏突破)(原作:ハイスクールD×D)

 サービス残業・休日出勤・パワハラで疲弊していたサラリーマンはデスクワーク勤務中に心臓の鼓動が止まり亡くなってしまった。憐れんだ神は第2の人生として彼を『リリカルなのは』の世界に送るつもりだったが書類の手違いで『ハイスクールD×D』の世界に送ってしまった▼ 神は送る直前に間違いに気付き彼に与えた力の他に原作主人公の能力を奪って付与させた。赤龍帝になってしまっ…


総合評価:2026/評価:6.47/連載:83話/更新日時:2026年08月02日(日) 19:51 小説情報

白馬姉「私の弟は最強なんだ!」(作者:ボックス)(原作:恋姫†無双)

地味な彼女に、最強の弟を生やしてその脳をこんがりとウェルダンにしてもらいました


総合評価:17522/評価:8.77/完結:16話/更新日時:2026年03月25日(水) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>