外伝 第34話 悪鬼の反撃と盗賊の取り分――益州は魏が貰う
北郷一刀は。
夜が明けるより前に。
目を覚ました。
目覚めた。
というより。
ほとんど。
眠っていなかった。
昨日。
一日。
張燕から。
嫌がらせを受けた。
履物へ。
音の鳴る仕掛け。
帯へ。
細工。
頭から。
小麦粉。
粥の底へ。
海苔の文字。
子供用の冠。
桃磨き。
塩入りの菓子。
腰へ貼られた。
敗北の札。
一つ一つ。
くだらない。
命へ。
危険。
ない。
国を。
揺るがす策でもない。
だが。
腹が立つ。
とにかく。
腹が立つ。
張燕は。
一刀の反応を。
先回りしていた。
毒を疑えば。
臆病者と書く。
意地で食べれば。
子供と書く。
怒れば。
怒った顔を笑う。
無視すれば。
効いていると決めつける。
逃げ道。
ない。
どちらへ動いても。
張燕が。
笑うように。
仕掛けられている。
ならば。
今日は。
自分が。
仕掛ける。
一刀は。
寝台から。
静かに起きる。
最初。
履物。
見る。
中。
何もない。
裏。
確認。
異常。
ない。
帯。
軽く引く。
切れない。
衣。
粉。
仕掛け。
ない。
扉の上。
梁。
袋。
ない。
一刀は。
慎重に。
扉を開けた。
何も。
落ちない。
音も。
鳴らない。
客殿の廊下。
静か。
見張り。
立つ。
「北郷様」
兵が。
頭を下げる。
「お早いお目覚めで」
「張燕は」
「来たか」
「いいえ」
「昨夜から」
「誰も」
「客殿へは」
「近づいておりません」
一刀は。
兵の顔を見る。
嘘。
ついている様子。
ない。
今日は。
張燕の仕掛け。
ない。
おそらく。
昨日。
華琳に。
止められた。
あるいは。
一刀の反撃を。
待っている。
一刀は。
小さく。
息を吐く。
「用意は」
兵へ尋ねる。
「整っております」
「関羽様と」
「張飛様からも」
「品をお預かりしております」
一刀の口元が。
僅かに。
上がる。
商人の笑みではない。
昨夜。
劉備が。
許した。
怪我をさせない。
祭を壊さない。
民を巻き込まない。
その範囲で。
一度だけ。
履物へ。
音の鳴る袋を。
入れてよい。
関羽は。
泥を。
禁止された。
代わりに。
馬具へ。
鈴を。
大量につけることにした。
張飛は。
粉を。
禁止された。
代わりに。
色のついた。
花びらを。
使うことにした。
一刀は。
時雨を。
祭の中央へ。
誘い出す。
そこで。
一斉に。
仕掛ける。
昨日。
時雨が。
自分へ。
したこと。
同じ。
見世物へ。
変える。
危険。
ない。
ただし。
恥をかく。
時雨の。
悪い笑みを。
一度。
消す。
それが。
今日の目標。
「張燕」
一刀は。
静かに。
名を呼ぶ。
「今日こそ」
「やり返す」
---
同じ頃。
王宮。
華琳の寝室。
時雨は。
寝台の上で。
目を開けていた。
起きている。
だが。
動かない。
昨日。
祭の後。
春蘭たちに。
捕らえられた。
縄。
本当に。
使われた。
両手。
縛られた。
栄華に。
財布。
没収。
柳琳に。
酒。
没収。
桂花に。
嫌がらせの費用を。
一つずつ。
書かされた。
華琳に。
朝まで。
逃げないよう。
同じ寝台へ。
押し込まれた。
悪党の末路としては。
少し。
情けない。
ただし。
時雨は。
反省していない。
隣。
華琳。
眠っている。
黄金の髪。
枕へ。
広がる。
時雨の左手首。
細い紐。
結ばれている。
その先。
華琳の右手首。
繋がっている。
縄ではない。
絹。
柔らかい。
だが。
逃げれば。
華琳が。
起きる。
「信用がねぇな」
時雨が。
小さく呟く。
目を閉じたまま。
華琳が答える。
「昨日」
「机の下へ」
「逃げた男が」
「何を言っているの」
「起きてたか」
「あなたが」
「紐を解こうとした時から」
「解いてねぇ」
「歯で」
「結び目へ」
「触れたでしょう」
「噛んだだけだ」
華琳は。
ゆっくり。
目を開ける。
蒼い瞳。
時雨を見る。
「なぜ」
「紐を噛む必要があるの」
「味見」
「絹を?」
「悪くねぇ」
華琳の目が。
細くなる。
「時雨」
「何だ」
「祭の最終日よ」
「ああ」
「今日は」
「北郷一刀へ」
「何も仕掛けないこと」
「無理」
「命令よ」
「もう」
「仕掛けた」
華琳の表情が。
止まる。
「いつ」
「昨日」
「私たちに」
「捕らえられる前?」
「捕まった後」
華琳は。
時雨の手首を見る。
紐。
結んだ。
自分。
寝台へ。
連れてきた。
逃げていない。
「どうやって」
「黒狼隊」
「あなた」
「拘束されながら」
「命令を出したの?」
「華論が」
「窓の外にいた」
「何を」
「仕掛けたの」
時雨は。
天井を見る。
口元。
悪い。
「知らねぇ」
「あなたが」
「命じたのでしょう」
「俺は」
「一刀が」
「反撃するって」
「教えただけだ」
「誰へ」
「祭の連中」
華琳の眉が。
僅かに。
寄る。
「祭の連中?」
「屋台」
「芸人」
「子供」
「兵」
「黒狼隊」
「何を」
「させるつもり」
「一刀が」
「何を仕掛けても」
「乗れって」
華琳は。
しばらく。
時雨を見る。
「それだけ?」
「ああ」
「本当に?」
「ああ」
「なら」
「なぜ」
「そのような」
「悪い顔をしているの」
「元から」
華琳は。
絹紐を。
引く。
時雨の腕。
華琳の側へ。
寄る。
「今日は」
「私の目の届く場所へ」
「いなさい」
「嫌だ」
「拒否は」
「認めないわ」
「祭だぞ」
「だからよ」
「逃げる」
「時雨」
「何だ」
「逃げた場合」
華琳の声が。
柔らかくなる。
その方が。
危険。
「祭の終了後」
「劉備たちの前で」
「昨日の胸の話を」
「詳しく」
「聞くわ」
時雨の身体が。
僅かに。
固まる。
華琳の口元が。
上がる。
「効いたわね」
「卑怯だぞ」
「あなたに」
「言われたくないわ」
時雨は。
華琳を見る。
「悪い女」
「誰の隣にいると」
「思っているの?」
時雨は。
少し。
笑う。
「俺」
「そうね」
華琳は。
紐を。
解く。
「着替えなさい」
「祭へ行くわよ」
「ああ」
「それから」
「何だ」
「北郷一刀が」
「どのような反撃を」
「用意したのか」
「私も」
「少しだけ」
「興味があるわ」
時雨の目が。
細くなる。
「楽しんでるな」
「あなたが」
「困る顔を」
「見たいだけよ」
「悪趣味」
「あなたほどではないわ」
---
祭。
最終日。
許昌の街は。
朝から。
騒がしかった。
三日目。
疲れ。
ある。
だが。
終わりが。
近いからこそ。
人は。
さらに。
浮かれる。
売れ残り。
値が下がる。
芸人。
最後。
派手に演じる。
商人。
余った品を。
交換する。
子供。
昨日より。
自由。
走る。
劉備の滞在。
すでに。
祭の名物。
なっていた。
荊州牧。
桃を売る。
張飛。
子供へ。
蛇矛を見せる。
関羽。
春蘭と。
模擬戦。
北郷一刀。
張燕に。
嫌がらせを受ける。
最後。
最も。
広まっていた。
一刀が。
客殿から。
祭へ入る。
今日は。
履物。
鳴らない。
粉。
ない。
冠。
ない。
普通。
だが。
祭の者たちは。
一刀を見ると。
少し。
期待。
した顔になる。
何か。
起きる。
待つ。
一刀は。
視線。
気づく。
「すでに」
「張燕の思うつぼだな」
隣。
劉備が。
笑う。
「人気者だね」
「俺が?」
「うん」
「昨日」
「子供たちと」
「桃を配ったでしょう?」
「張燕に」
「やらされた」
「でも」
「みんな」
「喜んでたよ」
関羽は。
一刀の後ろ。
小さな。
革袋。
持つ。
中。
大量の鈴。
張飛は。
花びらを。
詰めた袋。
三つ。
腰へ。
下げる。
目。
輝く。
「一刀!」
「張燕は」
「どこなのだ!」
「まだ」
「見つけていない」
「鈴々が」
「先に見つけるのだ!」
張飛。
人混み。
走る。
関羽が。
止める。
「鈴々!」
「勝手に!」
「仕掛けるな!」
「合図を!」
「待つのだ!」
張飛。
止まる。
頬。
膨らむ。
劉備は。
一刀を見る。
「本当に」
「やるの?」
「桃香が」
「許した」
「一回だけだよ」
「分かってる」
「怪我をさせない」
「祭を壊さない」
「関係ない人へ」
「迷惑をかけない」
「分かってる」
関羽が。
低い声。
「張燕だけへ」
「迷惑をかけます」
劉備は。
少し。
困ったように。
笑う。
「愛紗ちゃん」
「楽しそうだね」
「そのようなことは」
「ありません」
手。
革袋。
強く。
握っている。
明らか。
楽しみ。
している。
一刀は。
中央広場。
見る。
時雨。
まだ。
いない。
華琳。
魏の将たち。
見張り台。
近く。
いる。
桂花。
書類。
栄華。
帳簿。
柳琳。
救護所。
霞。
酒屋。
時雨だけ。
いない。
「隠れているな」
一刀が言う。
劉備が。
首を傾げる。
「どこに?」
「俺が」
「仕掛けることを」
「分かっている」
「ああ」
劉備は。
言いかけ。
止まる。
「あのね」
「張燕さん以外は」
「その返事を」
「使わない方が」
「いいと思う」
一刀の顔。
僅かに。
固まる。
関羽の口元。
少し。
動く。
張飛。
声。
上げて笑う。
「一刀も!」
「張燕みたいに!」
「なってるのだ!」
「違う」
一刀は。
周囲。
見る。
祭の入口。
一人の。
少年。
近づく。
手。
紙。
持つ。
「北郷様」
「何だ」
「張燕将軍から」
「伝言です」
一刀の目。
鋭くなる。
「どこにいる」
「知りません」
少年は。
紙を渡す。
一刀。
開く。
『悪鬼へ。
昨日のお返しを用意してるらしいな。
怖くて朝飯が喉を通った。
張燕』
一刀の眉が。
動く。
「怖くて」
「通った?」
劉備が。
横から。
覗く。
「普通は」
「通らないよね」
「わざとだ」
関羽が。
周囲を見る。
「見られています」
「当然だ」
一刀は。
紙。
裏返す。
裏。
文字。
『三人で仕掛けるつもりなら、張飛を先に走らせるな。
全部顔に出る。
張燕』
張飛の動きが。
止まる。
関羽の目。
僅かに。
大きくなる。
一刀は。
張飛を見る。
腰。
花びらの袋。
隠していない。
目。
時雨を。
探している。
「鈴々のせいなのか?」
張飛が。
自分を指す。
「半分」
一刀が答える。
「残り半分は?」
「張燕が」
「最初から」
「知っていた」
関羽の眉が。
寄る。
「誰かが」
「漏らした?」
一刀は。
首を振る。
「違う」
「俺が」
「やり返すと」
「本人へ」
「言った」
関羽の顔。
僅かに。
固まる。
「北郷殿」
「それは」
「なぜ」
「宣言したのです」
「勢いだ」
張飛が。
笑う。
「一刀が」
「悪いのだ!」
劉備も。
小さく。
笑う。
一刀は。
紙を。
畳む。
「予想されても」
「仕掛けは」
「分からない」
「続ける」
関羽の目。
鋭くなる。
「承知しました」
張飛も。
拳。
上げる。
「張燕を!」
「花びらまみれに!」
「するのだ!」
少年が。
まだ。
その場。
いる。
一刀は。
見る。
「まだ」
「何かあるのか」
少年は。
頷く。
「張燕将軍から」
「北郷様が」
「続けると言ったら」
「これを」
「渡せと」
別の紙。
一刀。
受け取る。
『意地になるな。
子供か。
昨日も言った。
張燕』
一刀は。
長く。
紙を。
見つめた。
劉備。
耐えられず。
笑う。
関羽。
顔。
逸らす。
張飛。
地面。
叩く。
「一刀!」
「全部!」
「読まれてるのだ!」
少年も。
笑い。
我慢。
している。
一刀は。
少年へ。
静かに尋ねる。
「張燕は」
「何枚」
「紙を」
「渡した」
少年は。
指。
折る。
「十枚です」
一刀の目が。
細くなる。
「残りは」
「何が」
「起きたら」
「渡す」
「言えません」
「張燕将軍から」
「言ったら」
「桃を」
「一月」
「売らないと」
劉備が。
驚く。
「それは」
「大変だね」
一刀は。
劉備を見る。
「そこを」
「心配するのか」
「桃は」
「大事だよ」
一刀は。
額へ。
手を当てる。
時雨。
姿。
見せない。
それでも。
反撃の前から。
邪魔。
入る。
だが。
一刀は。
止めない。
「行くぞ」
「張燕を」
「引っ張り出す」
---
一刀の策は。
単純。
だった。
だからこそ。
時雨が。
裏を読みづらい。
中央広場。
祭の催し。
魏と荊州。
共同。
綱引き。
昨日。
決まった。
名目。
民の交流。
一刀は。
そこへ。
時雨を。
引っ張り出す。
時雨が。
責任者。
最後の催し。
挨拶。
必要。
華琳へ。
頼み。
時雨を。
壇上へ。
立たせる。
一刀が。
正面。
話しかける。
その間。
関羽が。
時雨の履物へ。
音の鳴る袋。
張飛が。
頭上から。
花びら。
黒狼隊へ。
協力。
させない。
魏の者へ。
知らせない。
一刀。
関羽。
張飛。
三人だけ。
劉備は。
知っている。
だが。
止めない。
問題。
一つ。
時雨が。
壇上へ。
来るか。
華琳は。
一刀の依頼を。
聞いた。
蒼い瞳。
僅かに。
楽しそう。
「時雨へ」
「祭の責任者として」
「最後の挨拶を」
「させたいと?」
「はい」
一刀は。
真面目な顔。
「三日間」
「祭を」
「取り仕切った将として」
「民へ」
「言葉を」
「伝えるべきです」
華琳は。
一刀を見る。
胡散臭い。
理由。
整っている。
だが。
昨日。
時雨が。
一刀の反撃を。
予告。
していた。
「よいでしょう」
華琳が答える。
一刀の目。
僅かに。
動く。
「許可を?」
「ええ」
「ただし」
華琳は。
口元。
上げる。
「時雨が」
「素直に」
「壇上へ上がるかは」
「あなた次第よ」
一刀は。
少し。
眉を寄せる。
「どこにいるのか」
「華琳様!」
春蘭が。
広場の端から。
声を上げる。
「見つけました!」
全員。
そちら。
見る。
時雨。
魚屋。
店先。
しゃがみ。
焼き魚。
食べている。
責任者。
最終日。
挨拶。
無関係。
顔。
店主と。
値段。
揉めている。
「三本食った」
店主が言う。
「二本だ」
時雨が答える。
「三本です」
「一本は」
「味見」
「食べたら」
「一本です」
「細けぇ」
「代金を!」
「払ってください!」
時雨は。
華琳。
見る。
指。
差す。
「曹操へ」
華琳の目が。
細くなる。
「時雨」
「何だ」
「自分で払いなさい」
「財布」
「栄華」
栄華が。
少し離れ。
扇。
開く。
「祭の間」
「あなたの財布は」
「わたくしが」
「管理しております」
「払え」
「理由を」
「説明してくださいませ」
「魚」
「見れば」
「分かります」
「三本分です」
「二本」
店主。
即座。
「三本です!」
栄華は。
時雨を見る。
「三本分」
「あなたの私費から」
「差し引きます」
時雨の顔。
曇る。
「味見」
「認めません」
一刀は。
そのやり取りを。
少し離れて。
見る。
本当に。
祭の責任者。
なのか。
疑う。
だが。
好都合。
広場。
中央。
近い。
「張燕」
一刀が呼ぶ。
時雨は。
魚。
最後。
一口。
食べる。
「何だ」
「祭の責任者として」
「最後の挨拶を」
「するべきだ」
「嫌だ」
「なぜ」
「面倒」
「三日間」
「好き勝手に」
「祭を使っただろ」
「ああ」
「なら」
「責任を取れ」
時雨は。
魚の串。
一刀へ。
向ける。
「お前が」
「やれ」
「俺は」
「荊州の人間だ」
「天の御使い」
「偉いんだろ」
「関係ない」
「空から」
「挨拶しろ」
「飛べない」
「役立たず」
一刀の目。
僅かに。
細くなる。
時雨の周囲。
民。
笑う。
一刀は。
感情。
抑える。
今日は。
反撃。
時雨の言葉へ。
乗らない。
「逃げるのか」
一刀が言う。
時雨の眉。
僅かに。
動く。
劉備が。
少し離れ。
昨日。
自分が。
使った言葉。
思い出す。
時雨。
挑発へ。
乗る。
こともある。
特に。
逃げる。
言われると。
面倒。
でも。
反応。
する。
「誰が」
「逃げる」
時雨が。
立ち上がる。
一刀の口元。
僅かに。
上がる。
「なら」
「壇上へ」
「上がれ」
時雨は。
一刀を見る。
目。
楽しそう。
「いいぞ」
あまりにも。
簡単。
一刀の胸へ。
小さな。
違和感。
だが。
もう。
進める。
時雨は。
中央広場。
壇上へ。
歩く。
華琳。
見ている。
栄華。
柳琳。
桂花。
稟。
風。
霞。
皆。
何か。
起こる。
分かっている。
張飛。
先に。
壇の裏。
回る。
花びら。
用意。
関羽。
時雨の後ろ。
自然に。
近づく。
履物。
狙う。
一刀は。
壇上。
正面。
立つ。
民。
集まる。
太鼓。
止まる。
声。
小さく。
なる。
時雨が。
壇上へ上がる。
何も。
起きない。
一刀は。
時雨の前へ。
立つ。
「三日間」
「祭を」
「無事に」
「終えた責任者として」
「一言」
「あるだろ」
時雨は。
民。
見る。
次。
一刀。
「ねぇな」
一刀の目。
細くなる。
「何か」
「言え」
時雨は。
少し。
考える。
口元。
悪い。
「魚屋が」
「一本」
「水増しした」
魚屋。
遠くから。
叫ぶ。
「してません!」
民。
笑う。
栄華が。
扇で。
額。
押さえる。
一刀は。
一歩。
時雨へ。
近づく。
「祭の話だ」
「魚も」
「祭」
「真面目に」
「嫌だ」
「張燕」
一刀。
わざと。
会話。
続ける。
関羽。
後ろ。
しゃがむ。
時雨の履物。
近い。
音の鳴る袋。
手。
伸ばす。
その瞬間。
時雨が。
片足を。
僅かに。
上げる。
関羽の手。
空。
次。
時雨の足。
関羽の肩へ。
軽く。
乗る。
関羽の動き。
止まる。
「何してる」
時雨が。
下を見ず。
尋ねる。
関羽の顔。
赤くなる。
「何も」
「していない」
「人の足元で」
「土下座か」
関羽の額へ。
青筋。
浮かぶ。
「違う!」
立ち上がる。
時雨の足。
退く。
民。
関羽が。
突然。
時雨の後ろから。
出たように見える。
笑い。
広がる。
一刀の目。
僅かに。
鋭くなる。
見抜かれた。
だが。
まだ。
張飛。
いる。
壇上。
屋根。
上。
花びら。
袋。
構える。
一刀は。
時雨の注意を。
正面へ。
戻す。
「関羽は」
「落とし物を」
「拾おうとしただけだ」
「俺の履物に?」
「近くに」
「何か」
「あったんだ」
時雨は。
関羽を見る。
「何が」
「落ちてた」
関羽。
一瞬。
詰まる。
「誇り」
時雨が言う。
関羽の顔。
真っ赤。
「貴様!」
時雨の口元。
上がる。
「拾えたか」
「張燕!」
関羽。
怒る。
一刀の予定。
崩れる。
その瞬間。
張飛が。
上から。
袋。
ひっくり返す。
大量の。
赤。
桃色。
白。
花びら。
時雨の頭上へ。
降る。
民。
声。
上げる。
時雨は。
避けない。
花びら。
髪。
肩。
衣。
降り積もる。
張飛の顔。
輝く。
「成功なのだ!」
一刀の口元も。
僅かに。
上がる。
ようやく。
時雨へ。
一撃。
通った。
華琳の目。
少し。
大きくなる。
栄華。
柳琳。
時雨を見る。
花びら。
まみれ。
悪党。
いつもの。
黒。
赤。
桃色。
妙に。
華やか。
時雨は。
無言。
頭へ。
手を置く。
花びら。
一枚。
取る。
張飛。
笑う。
「張燕!」
「鈴々たちの!」
「勝ちなのだ!」
一刀が。
静かに言う。
「昨日の」
「仕返しだ」
「どうだ」
「少しは」
「腹が立ったか」
時雨は。
花びら。
見る。
次。
一刀。
口元。
ゆっくり。
上がる。
「合図」
一刀の目。
僅かに。
動く。
壇上。
周囲。
屋台。
屋根。
広場。
一斉に。
花びら。
舞い上がる。
隠してあった。
袋。
何十。
何百。
黒狼隊。
祭の子供。
芸人。
商人。
兵。
皆。
花びら。
撒く。
中央広場。
一瞬で。
花の海。
なる。
一刀。
劉備。
関羽。
張飛。
華琳。
魏の将。
祭の民。
全員。
花びらに。
包まれる。
張飛の袋。
一つ。
ではない。
時雨は。
最初から。
花びらの仕掛けを。
知っていた。
あるいは。
張飛の性格から。
予想。
していた。
そして。
祭全体へ。
拡大。
した。
一刀だけの。
反撃。
時雨が。
祭の催しへ。
奪った。
花びら。
降る。
子供。
笑う。
太鼓。
鳴る。
芸人。
舞う。
いつの間にか。
演奏。
始まる。
時雨は。
花びらまみれ。
両腕。
広げる。
「祭の最後だ!」
盗賊頭の声。
広場へ。
響く。
「残った花も!」
「酒も!」
「肉も!」
「全部!」
「出しちまえ!」
人々。
歓声。
上げる。
商人。
最後の品。
並べる。
酒屋。
樽。
開ける。
肉屋。
焼く。
笛。
太鼓。
速く。
なる。
一刀は。
花びらの中。
時雨を見る。
「最初から」
「分かっていたのか」
「何が」
「張飛が」
「花びらを」
「使うこと」
時雨は。
張飛を見る。
腰。
袋。
三つ。
大きい。
隠す気。
ない。
「朝から」
「ぶら下げてた」
張飛の顔。
固まる。
「鈴々の」
「せいなのか?」
「半分」
「残り半分は」
一刀が尋ねる。
時雨は。
関羽の手。
見る。
革袋。
鈴。
「関羽が」
「馬具屋で」
「鈴を」
「買い占めた」
関羽の顔。
僅かに。
引きつる。
「なぜ」
「知っている」
「俺の祭で」
「大量に物が動けば」
「栄華の帳簿へ」
「出る」
栄華が。
少し離れ。
胸を張る。
「当然ですわ」
時雨は。
続ける。
「一刀が」
「昨日の嫌がらせを」
「そのまま」
「返す」
「考える」
「履物」
「粉の代わり」
「花」
「関羽は」
「泥を」
「止められた」
関羽の目。
大きくなる。
「なぜ」
「そこまで」
「知っている!」
時雨は。
劉備を見る。
劉備。
目。
逸らす。
一刀。
劉備を見る。
「桃香」
「言ったのか」
「言ってないよ」
「本当か」
「本当」
劉備は。
少し。
困る。
時雨が。
笑う。
「劉備は」
「止める時」
「全部」
「禁止しねぇ」
「怪我」
「祭」
「民」
「そこだけ」
「止める」
「関羽は」
「泥が駄目なら」
「馬具で考える」
「張飛は」
「粉が駄目なら」
「似たもんを」
「撒く」
「お前は」
「俺を」
「壇上へ」
「立たせる」
一刀の目。
細くなる。
「予想だけで?」
「十分」
時雨は。
頭の花びら。
払わない。
そのまま。
一刀へ。
近づく。
「悪鬼」
「何だ」
「反撃ってのは」
「相手が」
「嫌がることを」
「やるんだ」
「俺が」
「祭を」
「派手にすんの」
「嫌がると思ったか」
一刀は。
黙る。
時雨は。
花びら。
一枚。
一刀の頭へ。
置く。
「甘ぇな」
一刀の額へ。
青筋。
浮かぶ。
時雨は。
その顔。
見て。
笑う。
「その顔は」
「満点」
一刀は。
頭の花びら。
取る。
時雨の胸へ。
押しつける。
「まだ」
「終わっていない」
時雨の眉。
僅かに。
上がる。
一刀は。
指。
鳴らす。
合図。
関羽。
革袋。
開く。
中。
鈴。
だが。
時雨の履物へ。
つけるのではない。
張飛が。
太い。
長い。
縄。
持ってくる。
縄。
鈴。
大量。
結ばれている。
一刀は。
時雨を見る。
「お前が」
「逃げることも」
「予想していた」
春蘭の目。
輝く。
「縄か!」
関羽が。
縄の端。
持つ。
張飛。
反対。
「今度こそ!」
「捕まえるのだ!」
時雨は。
周囲。
見る。
正面。
一刀。
右。
関羽。
左。
張飛。
後ろ。
春蘭。
なぜか。
参加。
している。
華琳は。
止めない。
口元。
僅かに。
楽しそう。
柳琳。
危険。
ないか。
見る。
栄華。
縄の値段。
考えている。
霞。
笑う。
民。
期待。
「四人がかりか」
時雨が言う。
一刀は。
冷たい笑み。
「怖いか」
時雨の目。
細くなる。
「やってみろ」
合図。
関羽。
張飛。
縄。
投げる。
一刀。
前。
塞ぐ。
春蘭。
後ろ。
時雨は。
動かない。
縄。
身体へ。
近づく。
次の瞬間。
時雨が。
しゃがむ。
縄。
頭上。
通る。
関羽と張飛。
互いの方向へ。
引く。
縄の輪。
一刀と春蘭。
囲む。
時雨は。
地面へ。
片手。
つき。
一刀の足元。
滑る。
抜ける。
一刀の後ろ。
回る。
肩。
押す。
一刀。
前。
一歩。
春蘭。
縄。
避けようと。
横。
動く。
関羽。
張飛。
力。
強い。
鈴付き縄。
一気に。
締まる。
一刀と春蘭。
二人。
一緒に。
縛られる。
鈴。
盛大。
鳴る。
しゃら。
しゃら。
しゃら。
広場。
静まる。
次。
爆笑。
起きる。
張飛。
目。
大きく。
関羽。
固まる。
春蘭。
一刀と。
背中合わせ。
縄。
巻かれている。
「なぜだ!」
春蘭が叫ぶ。
一刀は。
目を閉じる。
「張燕」
時雨は。
少し離れ。
縄の端。
拾う。
一回。
引く。
鈴。
鳴る。
「いい音だな」
一刀の顔。
険しくなる。
「外せ」
「嫌だ」
「お前を」
「縛るための縄だ」
「盗賊へ」
「縄を投げるから」
「こうなる」
時雨は。
春蘭を見る。
「お前も」
「何で」
「混じった」
春蘭が。
胸を張ろうとする。
縄。
きつい。
動けない。
「華琳様が!」
「楽しそうだったからだ!」
華琳の眉が。
僅かに。
動く。
「春蘭」
「私は」
「参加しろとは」
「言っていないわ」
「ですが!」
「華琳様の!」
「お顔が!」
「時雨を捕らえろと!」
「言っておりました!」
華琳の頬へ。
僅かな。
赤み。
時雨が。
華琳を見る。
悪い笑み。
「曹操」
「何?」
「捕まえて」
「何する気だった」
「後で教えるわ」
「胸?」
華琳の目が。
鋭くなる。
「時雨」
栄華の扇が。
飛ぶ。
時雨。
避ける。
柳琳が。
額へ。
手。
当てる。
劉備。
笑う。
関羽は。
縄を。
外そうとする。
「北郷殿」
「申し訳ありません」
「私が」
「引く方向を」
「誤りました」
「違う」
一刀は。
時雨を見る。
「あいつが」
「俺を」
「押した」
「見ていた」
「なぜ」
「避けられなかった」
関羽の顔。
険しい。
「一瞬でした」
時雨は。
縄の端。
もう一度。
引く。
鈴。
鳴る。
一刀の額へ。
青筋。
増える。
「張燕」
「何だ」
「覚えていろ」
「もう」
「覚えてる」
「お前が」
「反撃へ」
「失敗した顔」
一刀の口元。
僅かに。
引きつる。
時雨は。
しゃがむ。
一刀の顔。
近く。
「通用しなかったな」
一刀は。
時雨を見る。
悔しい。
だが。
完全な。
敗北。
ではない。
花びらは。
当たった。
時雨も。
反撃を。
祭へ。
変えた。
それは。
最初から。
全部。
支配。
したわけではない。
「花は」
「当てた」
一刀が言う。
時雨は。
髪の花びら。
一枚。
取る。
「悪くなかった」
一刀の目。
僅かに。
動く。
時雨が。
素直に。
認めた。
「なら」
「俺たちの」
「勝ちも」
「半分だ」
時雨は。
少し。
考える。
「一割」
「少ない」
「じゃあ」
「二割」
「せめて半分」
「欲張るな」
「お前に」
「言われたくない」
時雨の口元。
上がる。
「その返しは」
「悪くねぇ」
一刀も。
僅かに。
笑う。
だが。
時雨は。
縄を。
外さない。
「いつまで」
一刀が尋ねる。
「このままにする」
「祭が」
「終わるまで」
「長すぎる」
「悪鬼の」
「見世物」
「民が喜ぶ」
一刀の顔。
固まる。
劉備が。
慌てて。
「張燕さん」
「それは」
「だめ」
「何で」
「一刀さんが」
「かわいそう」
「春蘭も」
華琳が言う。
「外しなさい」
時雨は。
少し。
残念そう。
「仕方ねぇ」
関羽。
張飛。
縄。
緩める。
春蘭。
自由。
なる。
すぐに。
時雨へ。
掴みかかる。
時雨。
避ける。
「貴様!」
「私まで!」
「巻き込みおって!」
「勝手に」
「入った」
「それでもだ!」
春蘭。
追う。
時雨。
逃げる。
鈴。
一つ。
春蘭の髪。
引っかかっている。
走るたび。
鳴る。
しゃら。
しゃら。
時雨が。
振り返る。
「似合ってるぞ」
春蘭の顔。
真っ赤。
「時雨!」
祭。
笑い。
広がる。
北郷一刀の反撃。
時雨には。
通用しなかった。
正確には。
当たった。
だが。
時雨は。
当てられたものを。
自分の祭へ。
奪い取った。
花びら。
反撃。
それを。
祭の最後を飾る。
催しへ。
変えた。
縄。
罠。
それを。
一刀自身へ。
返した。
盗賊は。
物を。
奪うだけではない。
意味。
奪う。
相手が。
自分のために。
用意したもの。
笑いながら。
自分のものへ。
変える。
一刀は。
それを。
身をもって。
知った。
---
昼を過ぎ。
祭の熱が。
少し。
落ち着いた頃。
華琳は。
劉備たちを。
王宮の。
中庭へ。
招いた。
正式な。
会談。
ではない。
祭の最終日。
別れの前。
茶。
食事。
ただし。
参加者。
限られる。
華琳。
時雨。
劉備。
一刀。
関羽。
張飛。
桂花。
稟。
風。
栄華。
柳琳。
春蘭。
秋蘭。
霞。
大きな。
卓。
中央。
地図。
置かれていない。
代わり。
料理。
桃。
肉。
菓子。
酒。
茶。
祭の続き。
見える。
だが。
空気。
少し。
変わっている。
笑い。
残る。
同時に。
国。
背負う者。
向き合う。
時雨は。
華琳の隣。
椅子へ。
浅く座る。
髪。
まだ。
花びら。
一枚。
残る。
柳琳が。
取ろうとした。
時雨。
そのままでいいと。
止めた。
理由。
一刀が。
当てた証拠。
残す。
そう。
言った。
一刀は。
反対側。
劉備の隣。
腕。
組む。
鈴の音。
もう。
鳴らない。
だが。
少し。
不機嫌。
時雨は。
一刀を見る。
「悪鬼」
「その呼び方を」
「やめろ」
「嫌だ」
「一度くらい」
「北郷一刀と」
「呼べ」
「長ぇ」
「張燕も」
「二文字だ」
「俺は」
「時雨」
一刀の目。
僅かに。
動く。
劉備も。
関羽も。
時雨を見る。
真名。
時雨。
一刀へ。
直接。
名乗った。
わけではない。
ただ。
口にした。
華琳の蒼い瞳。
僅かに。
細くなる。
一刀は。
少し。
考える。
「なら」
「時雨」
時雨の眉。
僅かに。
動く。
一刀は。
続ける。
「俺も」
「一刀でいい」
時雨は。
一刀を見る。
数秒。
次。
鼻で笑う。
「嫌だ」
一刀の顔。
険しくなる。
「なぜ」
「悪鬼の方が」
「似合う」
「お前」
「今」
「受け入れる流れだっただろ」
「知らねぇ」
劉備が。
笑う。
関羽が。
額へ。
手。
当てる。
華琳は。
茶を。
静かに。
飲む。
「時雨」
華琳が呼ぶ。
「何だ」
「そろそろ」
「真面目な話へ」
「移りなさい」
「面倒」
「あなたが」
「始めるのでしょう」
「ああ」
時雨は。
卓の肉。
一切れ。
取る。
食べる。
ゆっくり。
噛む。
誰も。
急かさない。
劉備は。
時雨を見る。
昨日。
祭。
今朝。
嫌がらせ。
全て。
軽い。
だが。
呼ばれた理由。
それだけではない。
北郷一刀も。
分かっている。
時雨は。
酒。
手を伸ばす。
柳琳が。
先に。
壺。
取る。
茶。
注ぐ。
時雨の顔。
曇る。
「酒」
「会談中です」
「祭だぞ」
「華琳様が」
「真面目な話と」
「おっしゃいました」
時雨は。
柳琳を見る。
柳琳。
穏やか。
譲らない。
「少し」
「甘くしろ」
柳琳は。
茶へ。
蜂蜜。
僅か。
入れる。
時雨は。
一口。
飲む。
「甘ぇ」
「時雨が」
「甘くと」
「言ったのでしょう」
「少し」
「これは」
「多い」
「文句が多いです」
柳琳の声。
優しい。
時雨は。
そのまま。
飲む。
一刀は。
見る。
この男。
魏で。
完全に。
囲われている。
それでも。
堂々。
悪党。
続ける。
華琳が。
時雨を見る。
「話しなさい」
時雨は。
茶器。
置く。
劉備。
見る。
次。
一刀。
「益州」
一言。
場。
変わる。
劉備の表情。
僅かに。
硬くなる。
一刀の目。
鋭くなる。
桂花。
稟。
風。
静か。
華琳だけ。
変わらない。
おそらく。
知っている。
関羽が。
眉を寄せる。
「益州が」
「どうした」
時雨は。
関羽を。
見ない。
劉備と。
一刀だけ。
見る。
「益州は」
「魏が貰う」
静寂。
祭の音。
遠い。
中庭。
鳥。
鳴く。
劉備の手。
膝の上。
僅かに。
動く。
一刀は。
時雨から。
目を逸らさない。
「貰う?」
一刀が。
低い声。
「誰から」
「益州の連中」
「渡すと」
「言ったのか」
「言ってねぇ」
「なら」
「奪うということか」
時雨は。
口元。
悪く。
歪める。
「盗賊に」
「何を聞いてる」
関羽が。
机へ。
手を置く。
「益州は」
「劉璋殿が」
「治める地だ」
「魏の物ではない」
「ああ」
「今はな」
「なぜ」
「貴様が」
「勝手に」
「決める!」
時雨は。
関羽を見る。
「俺が」
「決めたんじゃねぇ」
「曹操が」
「取る」
全員の視線。
華琳へ。
向く。
華琳は。
静かに。
茶器。
置く。
「時雨」
「私を」
「勝手に」
「使わないで」
「取らねぇのか」
「取るわ」
即答。
劉備の目。
僅かに。
揺れる。
一刀の表情。
硬くなる。
華琳は。
続ける。
「ただし」
「今すぐ」
「兵を動かすとは」
「言っていない」
時雨は。
肩。
すくめる。
「同じだ」
「違うわ」
「最後に」
「魏が持つ」
「それは」
「否定しない」
華琳の蒼い瞳。
劉備へ。
向く。
「益州は」
「西方と」
「南方を繋ぐ」
「巨大な地」
「山に守られ」
「兵糧を蓄え」
「蜀道を」
「押さえる」
「放置できる場所ではないわ」
劉備は。
静かに。
華琳を見る。
「曹操さんは」
「益州まで」
「支配するつもりですか」
「必要なら」
「ええ」
「そこに」
「暮らす人たちが」
「望まなくても?」
華琳の目。
細くなる。
「望みだけで」
「国は」
「守れない」
劉備の表情。
僅かに。
曇る。
時雨が。
肉。
一切れ。
取る。
「ほら」
「始まった」
劉備が。
時雨を見る。
「張燕さん」
「何だ」
「あなたも」
「益州を」
「魏が取るべきだと」
「思ってるの?」
「ああ」
迷い。
ない。
劉備の目。
少し。
痛む。
「どうして」
「益州の民が」
「魏に」
「助けを求めたわけじゃ」
「ないでしょう?」
時雨は。
肉。
口へ。
入れる。
飲み込む。
「求めてから」
「動くんじゃ」
「遅ぇ」
「でも」
「劉璋さんは」
「民を」
「虐げているわけでは」
「ありません」
「知ってる」
「なら」
「なぜ」
「弱ぇから」
劉備の目。
僅かに。
大きくなる。
関羽の顔。
険しい。
張飛も。
食べる手。
止める。
時雨の声。
軽い。
だが。
言葉。
刃。
「益州は」
「土地が強ぇ」
「王が弱ぇ」
「ああ」
「時雨」
華琳が。
止める。
時雨は。
華琳を見る。
「何だ」
「言葉を」
「選びなさい」
「事実」
「それでもよ」
時雨は。
少し。
面倒そう。
椅子へ。
背を預ける。
「劉璋は」
「悪人じゃねぇ」
「民を」
「わざと」
「苦しめてもいねぇ」
「ああ」
「ですが」
関羽が。
言いかけ。
時雨が。
続ける。
「だから」
「厄介だ」
一刀の目。
僅かに。
鋭くなる。
「どういう意味だ」
「悪人なら」
「斬りゃいい」
「暴君なら」
「民が」
「離れる」
「でも」
「劉璋は」
「そこまで」
「悪くねぇ」
「だから」
「皆」
「我慢する」
時雨は。
卓へ。
指。
置く。
「我慢したまま」
「周りの連中に」
「食われる」
「誰に」
劉備が尋ねる。
「漢中」
「南蛮」
「西涼の残党」
「益州の豪族」
「外から来る」
「野心のある奴」
時雨は。
一刀を見る。
「天から」
「落ちてきた」
「救世主とか」
一刀の目。
冷える。
「俺たちが」
「益州を」
「狙っていると」
「言いたいのか」
時雨は。
鼻で笑う。
「狙ってねぇのか」
「今は」
「荊州を」
「安定させることが」
「先だ」
「今は」
「便利な言葉だな」
「将来のことは」
「状況で変わる」
「ああ」
「時雨」
華琳の声。
また。
止める。
時雨。
口元。
上げる。
一刀の眉。
僅かに。
動く。
「また」
「言いそうになったな」
一刀の顔。
険しくなる。
「今のは」
「返事じゃない」
「似てきた」
「お前のせいだ」
劉備は。
小さく。
息を吐く。
「二人とも」
「喧嘩は」
「後にして」
時雨は。
劉備を見る。
「今」
「真面目な話」
「張燕さんが」
「始めたんでしょう」
「ああ」
「だから」
華琳の指。
時雨の腕。
軽く。
抓る。
時雨の顔。
僅かに。
歪む。
「痛ぇ」
「真面目に」
「話しなさい」
「十分」
「真面目」
華琳は。
手を。
離す。
時雨は。
益州の話へ。
戻る。
「魏が」
「益州を取る」
「理由は」
「三つ」
「一つ」
「荊州の西を」
「押さえる」
「二つ」
「漢中から」
「涼州まで」
「道を繋ぐ」
「三つ」
「一刀に」
「渡さねぇ」
一刀の目が。
鋭くなる。
「俺へ?」
「ああ」
「益州が」
「お前の手に」
「入れば」
「荊州と」
「合わせて」
「西と南を」
「全部」
「持つ」
「魏と」
「呉を」
「同時に」
「相手できる」
「だから」
「先に取る?」
「盗賊は」
「欲しい物を」
「相手が」
「手を伸ばす前に」
「押さえる」
一刀は。
卓へ。
指。
置く。
「益州は」
「物じゃない」
「民がいる」
「だから」
「取る」
時雨は。
即答。
一刀の目。
僅かに。
揺れる。
「お前が」
「取らなきゃ」
「誰かが取る」
「漢中」
「豪族」
「南の連中」
「お前」
「俺ら」
「誰か」
「必ず」
「手を出す」
「なら」
「一番」
「ましな奴が」
「取る」
劉備は。
時雨を見る。
「それが」
「魏だと?」
「ああ」
「どうして」
「言い切れるの?」
時雨は。
華琳へ。
顎。
向ける。
「曹操が」
「いる」
華琳の蒼い瞳。
僅かに。
柔らかくなる。
時雨は。
続ける。
「栄華が」
「金を締める」
「柳琳が」
「兵を帰す」
「桂花が」
「役人を」
「怒鳴る」
「稟と風が」
「嘘を見つける」
「春蘭が」
「敵を斬る」
「秋蘭が」
「春蘭を止める」
春蘭が。
眉を寄せる。
「なぜ」
「私だけ」
「止められる側だ!」
秋蘭が。
静かに。
「姉者だからだ」
春蘭。
納得。
していない。
時雨は。
霞を見る。
「霞が」
「道を繋ぐ」
「華論が」
「兵を回す」
「黒狼隊が」
「裏を掃除する」
「ああ」
「時雨」
華琳。
三度目。
時雨は。
少し。
笑う。
「俺が」
「嫌な仕事を」
「やる」
劉備は。
黙る。
時雨の。
魏への信頼。
以前。
なかった。
燕。
自分だけ。
全て。
背負う。
男。
今。
魏の者。
一人ずつ。
役割。
挙げる。
自分だけで。
益州を。
奪う。
言っていない。
魏なら。
統治できる。
守れる。
そう。
言っている。
「張燕さん」
劉備の声。
静か。
「益州の人たちが」
「魏を嫌がったら?」
「嫌われる」
「それでいいの?」
「ああ」
「守った相手に」
「恨まれても?」
「慣れてる」
劉備の目。
少し。
痛む。
昔。
同じ。
聞いた。
村。
救った。
金。
半分。
奪った。
民。
時雨を。
盗賊。
呼んだ。
それでも。
冬。
越えた。
時雨は。
礼。
求めなかった。
正義。
名乗らなかった。
「でも」
劉備が言う。
「恨まれない道も」
「探せるかもしれない」
「探せ」
「ああ」
劉備は。
言いかけ。
止まる。
時雨が。
悪い笑み。
浮かべる。
「今」
「言いそうになったな」
劉備の頬。
僅かに。
赤くなる。
「張燕さんのせい」
「お前も」
「似てきた」
「嫌だよ」
「俺も」
「嫌だ」
一刀が。
少し。
口元を。
緩める。
だが。
益州。
話。
終わっていない。
「魏が」
「益州を取る」
一刀が言う。
「それを」
「俺たちへ」
「今」
「告げた理由は」
時雨は。
一刀を見る。
「先に」
「言っとく」
「何のために」
「後で」
「知らなかったって」
「言わせねぇ」
一刀の目。
鋭くなる。
「宣戦布告か」
「益州については」
「そうだ」
場。
張り詰める。
劉備の手。
僅かに。
握る。
関羽。
背筋。
伸びる。
張飛。
時雨を見る。
華琳は。
止めない。
一刀は。
時雨の言葉。
咀嚼。
する。
益州。
魏が取る。
荊州が。
先に。
動けば。
敵。
なる。
動かなくても。
魏が。
西へ。
進む。
荊州は。
挟まれる。
呉。
東。
魏。
北。
益州。
西。
劉備の国。
包囲。
される。
「お前は」
一刀が言う。
「俺たちへ」
「益州を」
「諦めろと」
「言っているのか」
「違う」
「なら」
「何だ」
時雨の口元。
上がる。
「取り合え」
一刀の目。
僅かに。
大きくなる。
「欲しけりゃ」
「先に取れ」
「俺らは」
「その前に」
「奪う」
「正面から」
「言うのか」
「後ろから」
「刺されたって」
「泣かれると」
「面倒」
劉備が。
眉を寄せる。
「誰も」
「泣かないよ」
時雨は。
劉備を見る。
「お前」
「昔」
「三回」
「泣いた」
「四回じゃない?」
時雨の目。
僅かに。
動く。
劉備。
指。
折る。
「村が」
「焼かれた時」
「怪我人を」
「助けられなかった時」
「張燕さんに」
「理想で飯は出ないって」
「言われた時」
「張燕さんが」
「黙って」
「いなくなった時」
時雨の表情。
僅かに。
止まる。
一刀。
華琳。
皆。
劉備を見る。
四つ目。
時雨が。
いなくなった時。
劉備。
泣いた。
時雨は。
知らなかった。
「泣いたのか」
「うん」
「何で」
「また会えるって」
「言ったのに」
「何も言わずに」
「いなくなったから」
時雨は。
少し。
視線。
逸らす。
「面倒だった」
「知ってる」
劉備は。
笑う。
「だから」
「今度は」
「ちゃんと」
「言ってくれたんだね」
「益州を」
「魏が貰うって」
時雨は。
劉備を見る。
真っ直ぐ。
昔と。
同じ。
だが。
王。
「そういうことに」
「しとけ」
「うん」
一刀は。
時雨と。
劉備。
見る。
この二人。
言葉。
軽い。
だが。
繋がり。
深い。
時雨が。
益州。
告げた。
脅し。
牽制。
同時に。
劉備へ。
黙って。
消えない。
ため。
でもある。
敵に。
なる可能性。
隠さない。
選ぶ時間。
与える。
悪党なりの。
誠実。
「張燕」
関羽が言う。
「益州へ」
「魏が兵を」
「向けた時」
「我らが」
「民を守るため」
「立ちはだかれば」
「どうする」
時雨は。
関羽を見る。
「潰す」
即答。
関羽の目。
鋭くなる。
「昔」
「共に戦ったとしても?」
「ああ」
「桃香様が」
「相手でも?」
時雨の目。
劉備へ。
向く。
僅かな。
間。
「邪魔なら」
「どかす」
劉備は。
目を逸らさない。
「殺す?」
時雨は。
劉備を見る。
「その前に」
「さらう」
一刀の目。
一気に。
鋭くなる。
「何?」
時雨の口元。
悪く。
上がる。
「劉備を」
「縄で縛って」
「許昌へ」
「持ってくる」
劉備の目。
大きくなる。
関羽が。
立ち上がる。
「貴様!」
「桃香様を!」
「何だ」
「手紙でも」
「一刀を」
「縛れって」
「書いただろ」
「今度は」
「劉備」
一刀の声。
冷たい。
「やらせない」
時雨は。
一刀を見る。
「やってみろ」
劉備が。
両手。
机へ。
置く。
「二人とも」
「人を」
「勝手に」
「縛らないで!」
時雨が。
劉備を見る。
「嫌か」
「嫌だよ!」
「じゃあ」
「自分で」
「歩いて来い」
「どこへ」
「許昌」
「戦の途中で?」
「ああ」
「無理だよ!」
「なら」
「縛る」
「どうして!」
「逃げる」
劉備の頬。
膨らむ。
「逃げないよ!」
「昔」
「治療から」
「逃げた」
「張燕さんでしょう!」
「そうだったか」
「そうだよ!」
柳琳の目が。
時雨へ。
向く。
「時雨」
「何だ」
「昔から」
「治療から」
「逃げていたのですね」
時雨の顔。
僅かに。
曇る。
劉備が。
気づく。
「柳琳さん」
「張燕さん」
「怪我を隠すよ」
「知っています」
柳琳の声。
穏やか。
だが。
笑み。
少し。
怖い。
「とても」
「よく」
「知っています」
時雨が。
劉備を見る。
「余計なこと」
「言うな」
「嫌がらせの」
「仕返し」
劉備の口元。
僅かに。
上がる。
時雨の眉。
動く。
「言うように」
「なりやがった」
「張燕さんの」
「せいだよ」
華琳が。
小さく。
笑う。
張り詰めた空気。
少し。
解ける。
だが。
益州の言葉。
消えない。
魏が貰う。
宣言。
残る。
---
会談の後。
一刀は。
中庭の。
回廊。
一人。
歩いていた。
正確には。
一人。
ではない。
時雨。
屋根。
上。
ついてくる。
気配。
隠さない。
「降りてこい」
一刀が言う。
上。
時雨の声。
「嫌だ」
「話がある」
「下から」
「言え」
「首が疲れる」
「鍛えろ」
一刀は。
立ち止まる。
見上げる。
時雨。
瓦。
上。
寝転ぶ。
頭。
腕。
枕。
「益州の話」
一刀が言う。
「本当に」
「決まっているのか」
「半分」
「残り半分は」
「今から」
「決める」
一刀の眉。
寄る。
「曖昧だな」
「国の話なんか」
「全部」
「途中」
「曹操は」
「取ると言った」
「ああ」
「お前も」
「取るべきだと」
「思っている」
「ああ」
「なのに」
「半分?」
時雨は。
空。
見る。
「益州が」
「勝手に」
「魏へ来るかもしれねぇ」
一刀の目。
細くなる。
「内応?」
「豪族」
「商人」
「役人」
「誰か」
「劉璋に」
「見切りつける」
「そこへ」
「手ぇ出す」
「すでに」
「動いているのか」
時雨は。
一刀を見る。
悪い笑み。
「教えると思うか」
「思わない」
「なら」
「聞くな」
「だが」
一刀は。
回廊の柱。
寄りかかる。
「お前が」
「わざわざ」
「益州を」
「宣言したこと自体が」
「情報だ」
時雨の目。
僅かに。
楽しそう。
「言ってみろ」
「魏は」
「益州へ」
「すでに」
「何らかの」
「手を伸ばしている」
「ああ」
「時雨」
上。
華琳の声。
時雨の表情。
僅かに。
止まる。
回廊の先。
華琳。
立つ。
「何だ」
「機密を」
「簡単に」
「肯定しないで」
「一刀が」
「勝手に」
「言った」
「あなたが」
「返事をしたのでしょう」
「ああ」
華琳の目。
細くなる。
一刀の口元。
僅かに。
動く。
時雨が。
華琳を見る。
「笑ったぞ」
華琳の視線。
一刀へ。
向く。
一刀。
すぐに。
表情。
戻す。
「笑っていません」
時雨が。
屋根から。
飛び降りる。
一刀の隣。
着地。
「商人の顔」
「お前に」
「言われたくない」
華琳は。
二人を見る。
昨日より。
距離。
少し。
近い。
仲良く。
なった。
わけではない。
互い。
腹が立つ。
互い。
信用していない。
だが。
話す。
相手として。
認め始めている。
「北郷一刀」
華琳が言う。
「益州について」
「時雨が」
「話したことは」
「魏の意思よ」
一刀の表情。
硬くなる。
「荊州が」
「益州へ」
「手を出せば」
「敵対と」
「見なす?」
「場合によるわ」
「曖昧ですね」
「国とは」
「そういうものよ」
時雨の口元。
上がる。
「俺と」
「同じこと」
「言ってる」
「あなたより」
「品よく」
「言ったわ」
「中身」
「同じ」
「時雨」
華琳の声。
少し。
低い。
時雨は。
黙る。
一刀は。
華琳を見る。
「益州を」
「魏へ」
「渡せば」
「荊州は」
「西を」
「塞がれる」
「そうね」
「呉は」
「東」
「魏は」
「北と西」
「劉備を」
「包囲するつもりですか」
華琳は。
迷わない。
「必要なら」
「そうするわ」
一刀の目。
冷える。
時雨は。
横から。
一刀を見る。
「嫌なら」
「先に」
「荊州を」
「強くしろ」
「簡単に言うな」
「簡単じゃねぇ」
「だから」
「面白ぇ」
一刀は。
時雨を見る。
「お前は」
「戦が」
「好きなのか」
「嫌い」
即答。
一刀の眉。
動く。
「そうは」
「見えない」
「面倒だから」
「戦う前に」
「嫌がらせする」
「それで」
「相手が」
「諦めれば」
「楽」
一刀は。
昨日から。
受けたもの。
思い出す。
手紙。
祭。
桃皮。
冠。
粉。
鈴。
花びら。
「お前の」
「嫌がらせで」
「益州を」
「諦めると思うか」
時雨は。
一刀へ。
近づく。
肩。
軽く。
叩く。
「思ってねぇ」
一刀は。
すぐに。
腰。
確認。
紙。
ない。
時雨の笑み。
深くなる。
「警戒したな」
「お前が」
「昨日」
「貼ったからだ」
「今日は」
「貼ってねぇ」
一刀は。
時雨の手。
見る。
何も。
ない。
「本当に?」
「ああ」
一刀は。
少し。
安心。
次。
時雨の視線。
一刀の背中。
一刀。
すぐに。
手。
回す。
紙。
貼られている。
『背中を気にする悪鬼』
一刀の顔。
固まる。
華琳が。
口元。
僅かに。
隠す。
笑い。
一刀は。
紙を。
剥がす。
「いつ」
「会談中」
「なぜ」
「背中」
「椅子に」
「ついていた」
「椅子へ」
「仕込んだ」
一刀は。
紙を。
握る。
「嫌がらせは」
「まだ」
「続けるのか」
時雨の口元。
悪く。
上がる。
「益州」
「取るまで」
「長すぎる!」
一刀の怒声。
回廊。
響く。
時雨。
笑う。
華琳は。
額へ。
手を当てる。
「時雨」
「何だ」
「国同士の交渉を」
「嫌がらせの期間へ」
「使わないで」
「一刀が」
「面白ぇ」
一刀が。
低い声。
「俺は」
「お前を」
「面白いとは」
「思っていない」
時雨は。
一刀の顔を見る。
「嘘」
「何が」
「今日」
「花びら」
「当てた時」
「笑ってた」
一刀の目。
僅かに。
動く。
華琳。
見逃さない。
「そうなの?」
一刀は。
答えない。
時雨の笑み。
深い。
「悪鬼も」
「祭」
「楽しんだ」
「違う」
「ああ」
「時雨」
華琳が。
即座。
時雨の脇腹。
抓る。
「痛ぇ」
「あなたが」
「その返事をすると」
「相手まで」
「使いたくなるでしょう」
「俺の言葉」
「違うわ」
「誰でも」
「使える」
一刀は。
少し。
考える。
「そうだな」
時雨が。
一刀を見る。
「使うな」
「なぜ」
「腹立つ」
一刀の口元。
初めて。
明確に。
上がる。
「なら」
「使う」
時雨の目。
細くなる。
「悪鬼」
「何だ」
「嫌がらせ」
「追加」
「望むところだ」
華琳は。
二人。
見る。
大きく。
息を吐く。
「あなたたち」
「本当に」
「似ていないのに」
「厄介なところだけ」
「似ているわね」
時雨と。
一刀。
同時。
華琳を見る。
「似てねぇ」
「似ていません」
華琳の口元。
上がる。
「今のところよ」
二人。
互い。
見る。
同時。
顔。
逸らす。
---
祭。
夕暮れ。
最終。
鐘。
鳴る。
三日間。
終わり。
商人。
店。
片づける。
芸人。
最後の礼。
子供。
帰りたくない。
泣く。
酒。
飲み尽くした者。
地面。
寝る。
柳琳の救護所。
忙しい。
栄華。
帳簿。
山。
桂花。
報告書。
増える。
祭の成功。
確か。
魏。
呉。
荊州。
涼州。
商人。
民。
混じった。
戦の前。
互い。
顔。
見た。
劉備は。
許昌の民へ。
桃。
渡した。
一刀は。
子供へ。
桃。
磨いた。
関羽は。
魏の馬具職人と。
話した。
張飛は。
子供と。
笑った。
華琳は。
民の中で。
時雨を。
追いかけた。
時雨は。
祭全体を。
自分の悪ふざけへ。
変えた。
そして。
最後。
北門。
劉備たち。
出発。
準備。
整う。
まだ。
正式な。
同盟。
和睦。
成立。
していない。
ただ。
会った。
見た。
話した。
益州。
魏が貰う。
その言葉。
持ち帰る。
劉備は。
馬へ。
乗る前。
時雨の前へ。
立つ。
「張燕さん」
「何だ」
「手紙」
「また」
「送る?」
「嫌か」
劉備は。
少し。
考える。
「嫌がらせは」
「少なくしてほしい」
「無理」
「じゃあ」
「返事は」
「遅くする」
「桃を」
「腐らせる気か」
「桃の話ばかり」
「しないで」
「劉備」
「何?」
「益州」
劉備の表情。
真面目。
戻る。
「魏が」
「動いたら」
「私たちも」
「考える」
「考えるだけか」
「今は」
「それしか」
「言えない」
時雨は。
劉備を見る。
「それでいい」
「怒らないの?」
「何で」
「張燕さんは」
「すぐに」
「答えを」
「出せって」
「言う人だったから」
「昔はな」
「今は?」
時雨は。
華琳。
見る。
栄華。
柳琳。
魏の者。
見る。
「待つ奴が」
「増えた」
劉備の目。
柔らかくなる。
「そっか」
「ああ」
「でも」
劉備は。
時雨へ。
一歩。
近づく。
「益州の人たちを」
「傷つけるなら」
「止めるよ」
時雨は。
口元。
悪く。
歪める。
「やってみろ」
劉備は。
笑わない。
「うん」
「止める」
二人。
昔の知己。
今。
別の国。
王。
将。
敵に。
なるかもしれない。
それでも。
目。
逸らさない。
時雨は。
劉備の額を。
指で。
軽く押す。
「泣くなよ」
「まだ」
「泣いてない」
「そのうち」
「泣かす」
「嫌」
「俺の趣味」
「悪趣味」
「知ってる」
劉備は。
少し。
笑う。
次。
一刀が。
前へ。
出る。
時雨。
見る。
「張燕」
「何だ」
「今日の反撃」
「失敗したとは」
「思っていない」
「負け惜しみ」
「花は」
「当てた」
「ああ」
「お前も」
「認めた」
「ああ」
「次は」
「全部」
「通す」
時雨は。
一刀の肩。
見る。
次。
頭。
背中。
「無理だな」
「なぜ」
「まだ」
「気づいてねぇ」
一刀の顔。
固まる。
すぐに。
背中。
触る。
紙。
ない。
頭。
花びら。
ない。
腰。
異常。
ない。
履物。
音。
ない。
「何を」
「仕掛けた」
時雨は。
悪い笑み。
浮かべる。
「帰ってから」
「分かる」
一刀の目。
細くなる。
「今」
「言え」
「嫌だ」
「張燕」
「土産」
「要らない」
「もう」
「荷に入ってる」
一刀は。
荊州の荷車。
見る。
関羽が。
警戒。
走る。
荷。
開く。
桃。
土産。
布。
薬。
その中。
大きな。
木箱。
一つ。
見覚え。
ない。
関羽。
蓋。
開ける。
中。
大量の。
木製の冠。
昨日。
一刀へ。
贈られた。
『天の御使い』
正面。
『自称』
背面。
同じ。
冠。
百個。
張飛が。
目を輝かせる。
「いっぱいなのだ!」
一刀の顔。
引きつる。
時雨が。
門の前。
声を上げる。
「襄陽のガキへ!」
「配れ!」
「嫌だ!」
一刀の怒声。
許昌の北門。
響く。
民。
笑う。
劉備も。
笑う。
関羽は。
頭を抱える。
張飛は。
一つ。
被る。
「鈴々にも!」
「似合うのだ!」
「それは」
「一刀用だ!」
関羽が。
止める。
一刀は。
時雨へ。
歩く。
「全部」
「置いていく」
「受け取らねぇ」
「お前の荷だ」
「勝手に」
「入れただろ」
「贈り物」
「嫌がらせだ」
「半分」
「残り半分は」
「襄陽の子供へ」
時雨は。
少し。
目。
細める。
「悪鬼が」
「怖くねぇって」
「教えろ」
一刀の動き。
僅かに。
止まる。
冠。
自称。
笑い。
権威。
落とす。
だが。
同時に。
荊州の子供が。
天の御使いを。
怖がらず。
遊べる。
一刀は。
時雨を見る。
「どこまでが」
「嫌がらせで」
「どこからが」
「本気だ」
時雨は。
鼻で笑う。
「分けるな」
「面倒」
一刀は。
しばらく。
黙る。
次。
木箱。
見る。
「配るかどうかは」
「俺が決める」
「好きにしろ」
「だが」
一刀は。
木製の冠。
一つ。
取る。
時雨へ。
投げる。
時雨。
受け取る。
「お前も」
「被れ」
時雨は。
冠。
見る。
正面。
『天の御使い』
背面。
『自称』
「俺は」
「天じゃねぇ」
「自称なら」
「何でもいいだろ」
一刀の口元。
僅かに。
上がる。
時雨は。
冠を。
一刀へ。
投げ返す。
「要らねぇ」
一刀。
受け取る。
「逃げるのか」
時雨の眉。
僅かに。
動く。
劉備。
気づく。
華琳も。
気づく。
一刀。
学んだ。
時雨が。
嫌がる言葉。
使う。
時雨は。
一刀を見る。
次。
冠。
奪う。
自分の頭へ。
雑に。
被る。
民。
一斉。
笑う。
黒い髪。
悪党の顔。
子供用。
天の御使い。
冠。
小さい。
明らか。
似合わない。
一刀の目。
僅かに。
大きくなる。
時雨は。
冠。
被ったまま。
胸を張る。
「どうだ」
一刀は。
数秒。
黙る。
次。
吹き出す。
初めて。
声。
僅かに。
漏れる。
「似合わない」
時雨の目。
細くなる。
「殺すぞ」
「嫌がらせで」
「殺すな」
「悪鬼のくせに」
「正論言うな」
一刀は。
まだ。
笑っている。
劉備も。
関羽も。
張飛も。
魏の者たちも。
笑う。
華琳は。
時雨の頭。
冠。
見る。
「時雨」
「何だ」
「そのまま」
「王宮まで」
「戻りなさい」
時雨の顔。
固まる。
「嫌だ」
「命令よ」
「曹操」
「祭は」
「終わったわ」
「関係ねぇ」
「民が」
「喜んでいるでしょう」
時雨は。
周囲。
見る。
全員。
笑う。
逃げ道。
ない。
一刀の口元。
さらに。
上がる。
「反撃」
「少しは」
「通ったな」
時雨は。
一刀を見る。
冠。
小さい。
「一割」
「さっきより」
「増えてない」
「これで」
「二割」
「半分だ」
「欲張るな」
「益州を」
「全部取ると言った男が」
「言うな」
時雨の目。
僅かに。
鋭くなる。
一刀も。
笑み。
薄れ。
真剣。
戻る。
「益州は」
「渡さない」
時雨は。
冠を。
被ったまま。
悪い笑み。
浮かべる。
「なら」
「奪いに来い」
一刀は。
劉備の隣へ。
戻る。
「後悔するな」
「盗賊が」
「獲物へ」
「後悔するかよ」
劉備が。
二人の間。
立つ。
「戦わない道も」
「探すからね」
時雨は。
劉備を見る。
「探せ」
一刀も。
劉備を見る。
「俺も」
「探す」
時雨の口元。
僅かに。
上がる。
「一刀」
初めて。
悪鬼ではなく。
名。
呼ぶ。
一刀の目。
僅かに。
動く。
「何だ」
「次の嫌がらせ」
「楽しみにしとけ」
一刀の顔。
すぐに。
険しくなる。
「結局」
「それか」
「ああ」
「俺も」
「次は」
「通す」
「やってみろ」
二人。
向き合う。
敵意。
警戒。
少し。
認める。
感情。
混じる。
祭の三日間。
北郷一刀の反撃は。
時雨へ。
通用しなかった。
罠は。
読まれ。
花びらは。
祭へ奪われ。
縄は。
自分へ返された。
だが。
完全な。
無駄。
でもない。
一刀は。
時雨を。
一度。
笑わせた。
花を。
当てた。
冠を。
被らせた。
時雨は。
一刀を。
初めて。
名で呼んだ。
それだけ。
小さい。
だが。
悪党と悪鬼。
互い。
一歩。
懐へ。
入った。
そして。
笑いの奥。
益州。
魏が貰う。
時雨の宣言。
残った。
荊州へ。
持ち帰る。
重い言葉。
祭の思い出。
花びら。
桃。
冠。
嫌がらせ。
その全てと。
一緒に。
劉備たちは。
許昌を。
出る。
劉備が。
馬上。
振り返る。
時雨。
北門。
立つ。
子供用の冠。
まだ。
頭。
華琳の命令で。
外せない。
顔。
非常に。
不機嫌。
劉備は。
手を振る。
「張燕さん!」
時雨は。
手。
上げない。
代わり。
声。
張る。
「桃!」
「次は!」
「もっとでかいの!」
「送れ!」
劉備の頬。
膨らむ。
「荊州の桃が!」
「一番だからね!」
張飛も。
叫ぶ。
「鈴々の分を!」
「減らすななのだ!」
関羽が。
時雨を。
睨む。
「次に会う時は!」
「必ず!」
「一太刀!」
「返す!」
時雨は。
鼻で笑う。
「馬へ!」
「泥!」
「投げんぞ!」
「今度は!」
「許さん!」
一刀は。
最後。
時雨を見る。
「益州」
一刀が言う。
「魏の好きには」
「させない」
時雨の目。
悪く。
細くなる。
「盗ってみろ」
「先に」
「魏が貰う」
馬。
進む。
荊州の旗。
遠ざかる。
許昌。
北門。
祭。
終わる。
華琳は。
時雨の隣へ。
立つ。
冠。
見る。
「似合わないわね」
「外す」
「駄目よ」
「何で」
「王宮まで」
「そのままと」
「言ったでしょう」
「忘れた」
「忘れさせないわ」
栄華が。
帳簿を。
抱え。
近づく。
「冠の代金は」
「北郷一刀様へ」
「請求しますの?」
時雨は。
即答。
「劉備」
栄華の目。
細くなる。
「なぜですの」
「あいつの男」
華琳の蒼い瞳が。
僅かに。
時雨へ。
向く。
「時雨」
「何だ」
「今の言い方」
「少し」
「気に入らないわ」
「事実」
「なら」
「あなたは」
「私の男?」
時雨の動き。
止まる。
栄華の扇。
僅かに。
止まる。
柳琳の目。
時雨へ。
向く。
霞。
口元。
上がる。
華琳は。
時雨を見る。
逃がさない。
時雨は。
頭へ。
小さな冠。
乗せたまま。
少し。
考える。
「曹操の隣」
華琳の眉が。
動く。
「答えに」
「なっていないわ」
「面倒」
「時雨」
「祭で」
「疲れた」
「三日間」
「誰より」
「遊んでいたでしょう」
「ああ」
「元気ね」
時雨は。
少し。
笑う。
「悪くなかった」
華琳の目。
柔らかくなる。
「そう」
時雨は。
遠ざかる。
荊州の一行。
見る。
「次は」
「益州だな」
華琳の蒼い瞳。
鋭くなる。
王。
顔。
戻る。
「ええ」
「益州は」
「魏が取るわ」
時雨の口元。
悪く。
上がる。
「貰う」
「誰から?」
「欲しがってる奴」
「全員から」
華琳は。
僅かに。
笑う。
黒山の盗賊。
魏王。
並ぶ。
益州。
まだ。
遠い。
劉璋。
漢中。
豪族。
南蛮。
荊州。
北郷一刀。
多くの手。
伸びる。
だが。
時雨は。
先に。
縄張り。
宣言。
した。
あそこは。
魏が貰う。
許可。
求めない。
譲歩。
しない。
欲しいから。
奪う。
ただし。
奪った後。
守る。
嫌われても。
恨まれても。
民が。
生き残る道を。
作る。
それが。
時雨の。
盗賊としての。
取り分。
祭は。
終わった。
悪ふざけも。
一度。
終わる。
だが。
嫌がらせは。
終わらない。
翌朝。
荊州へ帰る。
一刀の荷から。
新しい紙が。
一枚。
見つかる。
木製の冠。
百個。
入った箱。
底。
貼られていた。
『悪鬼へ。
益州へ先に着いた方が勝ち。
ただし、お前は桃を持ってこい。
山道で腹が減る。
張燕』
一刀は。
紙を。
長く。
見つめた。
次。
襄陽へ向かう。
馬上。
南西。
益州の方角。
見る。
「張燕」
小さく。
名を呼ぶ。
怒り。
警戒。
闘志。
そして。
僅かな。
笑み。
「絶対に」
「好きには」
「させない」
遠い。
許昌。
時雨は。
華琳の私室。
子供用の冠を。
まだ。
被らされていた。
「外す」
「駄目よ」
「一刀は」
「もう帰った」
「私が」
「楽しんでいるもの」
「時雨」
「外す必要がある?」
時雨は。
華琳を見る。
「悪い女」
「あなたが」
「選んだのでしょう」
時雨は。
長椅子へ。
寝転ぶ。
冠。
ずれる。
華琳が。
丁寧に。
直す。
「次は」
「益州ね」
「ああ」
「北郷一刀も」
「動くでしょう」
「ああ」
「楽しみ?」
時雨の口元。
盗賊の。
悪い笑み。
浮かぶ。
「あいつの」
「嫌がる顔が」
「また見られる」
華琳は。
小さく。
息を吐く。
「国を」
「一つ」
「取り合う理由が」
「それなの?」
「半分」
「残り半分は?」
時雨は。
蒼い瞳。
見る。
「魏が」
「欲しい」
華琳の表情。
僅かに。
柔らかくなる。
「なら」
「奪いましょう」
「ああ」
益州を巡る。
最初の宣戦。
それは。
王の詔でも。
軍師の文でも。
なかった。
花びらを。
髪へ残し。
子供用の冠を。
頭へ載せた。
盗賊の一言。
益州は。
魏が貰う。
悪ふざけの祭が。
終わった時。
次の争いは。
すでに。
始まっていた。
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