【黒山の狼、乱世を嗤う】   作:パスカルDX

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第四十八話 再会の旗

第四十八話 再会の旗

 

 

 幽州に雪解けの気配が訪れ始めていた。

 

 袁紹軍との戦から数か月。

 

 焼けた村々にも少しずつ人が戻り、荒れ果てた畑にも再び人の姿が見えるようになってきた。

 

 完全な復興には程遠い。

 

 それでも、絶望しかなかった頃に比べれば遥かにましだった。

 

 公孫瓚の居城も以前の活気を取り戻しつつあった。

 

 もっとも。

 

「おい! それ私の酒だぞ!」

 

「違う! 拾った!」

 

「城の酒蔵から持ち出しただけだろ!」

 

「拾った!」

 

「拾ってねぇ!」

 

 黒山兵が相変わらず騒いでいた。

 

 復興と同時に頭痛の種も増えている気がする。

 

 白蓮は最近、本気でそう思っていた。

 

「助けてくれた恩人なんだけどなぁ……」

 

 執務室で頭を抱える。

 

「何で毎日問題起こすんだろうなぁ……」

 

 その時だった。

 

 慌ただしい足音が近付く。

 

 バンッ!

 

 勢いよく扉が開いた。

 

「白蓮様!」

 

「今度は何だ!」

 

「敵襲です!」

 

「は?」

 

 一瞬で立ち上がる。

 

「敵軍接近!」

 

「数は!?」

 

「五千以上!」

 

「はぁ!?」

 

 白蓮の顔色が変わった。

 

 冀州軍か。

 

 まさか袁紹がもう動いたのか。

 

「旗は!?」

 

「それが……」

 

 兵士が困惑した顔をする。

 

「劉の旗です」

 

「……劉?」

 

 白蓮が首を傾げた。

 

 そして。

 

 数秒後。

 

「あ」

 

 思い出した。

 

「まさか」

 

 その頃。

 

 幽州城外。

 

 一団の軍勢が整然と進軍していた。

 

 その中央には見慣れた三人の姿がある。

 

 桃色の髪を揺らしながら周囲を見回す少女。

 

 劉備。

 

 その隣には長い黒髪の武人。

 

 関羽。

 

 さらに元気いっぱいの少女。

 

 張飛。

 

「お姉ちゃーん!」

 

 張飛が馬上で叫ぶ。

 

「幽州だぞー!」

 

「そうだね鈴々ちゃん」

 

 劉備が笑う。

 

 旅立ってから随分経った。

 

 その間に色々なことがあった。

 

 徐州へ行き。

 

 陶謙の世話になり。

 

 兵を預かり。

 

 そして今。

 

 公孫瓚危機の報を受けて駆け付けたのである。

 

「間に合うかなぁ」

 

 劉備は少し不安そうだった。

 

「大丈夫です」

 

 関羽が答える。

 

「白蓮殿はそう簡単には負けません」

 

「でも袁紹さんだよ?」

 

「……」

 

 愛紗も少し黙った。

 

 確かに相手は大勢力だ。

 

 心配ではある。

 

「急ごう!」

 

 劉備が拳を握る。

 

「白蓮ちゃんを助けなきゃ!」

 

 その時。

 

 前方から騎馬が近付いてきた。

 

「使者?」

 

 愛紗が警戒する。

 

 だが。

 

 近付いてきた騎馬武者を見て全員が目を丸くした。

 

「白蓮ちゃん!?」

 

 本人だった。

 

 しかも元気そうである。

 

「おーい!」

 

 白蓮が手を振っている。

 

 劉備たちは思わず顔を見合わせた。

 

 生きている。

 

 というか普通に元気だ。

 

「え?」

 

「え?」

 

 互いに困惑した。

 

 数分後。

 

 城門前。

 

 劉備たちは白蓮と再会していた。

 

「久しぶりだな!」

 

 白蓮が笑う。

 

「白蓮ちゃん!」

 

 劉備が嬉しそうに抱き付く。

 

「無事だったんだね!」

 

「まぁな」

 

「よかったぁ……」

 

 本気で安心した顔だった。

 

 愛紗と鈴々も安堵している。

 

「援軍に来てくれたんだろ?」

 

「うん!」

 

 劉備が頷く。

 

「袁紹さんと戦ってるって聞いて!」

 

「徐州から急いで来たんです」

 

 愛紗も言う。

 

「陶謙殿も兵を貸してくださいました」

 

「おお」

 

 白蓮は素直に感心した。

 

「結構な軍勢じゃないか」

 

 五千近い兵。

 

 旅人だった頃とは大違いである。

 

「えへへ」

 

 劉備が照れる。

 

「でも」

 

 そこで首を傾げた。

 

「戦は?」

 

「終わった」

 

「へ?」

 

「終わった」

 

 劉備たちが固まる。

 

 しばらく沈黙。

 

「終わった?」

 

「終わった」

 

「袁紹さんは?」

 

「帰った」

 

「勝ったの?」

 

「勝った」

 

 再び沈黙。

 

 鈴々が口を開く。

 

「じゃあ鈴々たち何しに来たのだ?」

 

 誰も答えられなかった。

 

 白蓮だけが笑っている。

 

 そして。

 

「まぁせっかく来たんだ」

 

 肩を竦める。

 

「宴会でもしよう」

 

「宴会!」

 

 鈴々が飛び跳ねた。

 

 その単語だけで機嫌が良くなる。

 

「肉あるか!?」

 

「あるぞ」

 

「やったのだ!」

 

 単純である。

 

 愛紗が頭を抱える。

 

「お前は……」

 

 そんなやり取りをしていると。

 

 ふと。

 

 劉備の視線が城門近くに向いた。

 

「ん?」

 

 見覚えのある男がいた。

 

 酒瓶を抱え。

 

 面倒臭そうな顔をしている。

 

「時雨さん?」

 

 劉備が目を丸くする。

 

 時雨も気付いた。

 

「あ?」

 

 そして。

 

「おぉ」

 

 少しだけ笑う。

 

「桃香じゃねぇか」

 

 懐かしい顔だった。

 

 愛紗も気付く。

 

「時雨!」

 

 鈴々も叫んだ。

 

「時雨なのだー!」

 

 次の瞬間。

 

 三人は駆け寄っていた。

 

 久々の再会だった。

 

 反董卓連合以来。

 

 長い旅を経て。

 

 再び顔を合わせる。

 

「元気そうだな」

 

 時雨が言う。

 

「うん!」

 

 劉備が笑う。

 

「時雨さんも!」

 

 その笑顔は昔と変わらない。

 

 時雨は少しだけ安心した。

 

 乱世は人を変える。

 

 だが。

 

 目の前の三人はまだ変わっていなかった。

 

「それで」

 

 愛紗が周囲を見る。

 

「どうやって勝ったのです?」

 

 一瞬。

 

 白蓮が顔を逸らした。

 

 星が苦笑する。

 

 霞が吹き出す。

 

 恋は無表情。

 

「何です?」

 

 愛紗が不思議そうに聞く。

 

 そして。

 

 白蓮が小さく呟いた。

 

「聞かない方が幸せだぞ」

 

「?」

 

 劉備たちは首を傾げる。

 

 だがその時。

 

 黒山兵たちが宴会準備を始めた。

 

 酒。

 

 肉。

 

 笑い声。

 

 賑やかな空気。

 

「まぁいいか!」

 

 劉備が笑う。

 

「今日は久しぶりの再会だもんね!」

 

 その言葉に全員が頷いた。

 

 こうして。

 

 幽州の城では久しぶりの大宴会が開かれることになる。

 

 知らぬ間に戦が終わっていた援軍たちと。

 

 激戦を潜り抜けた者たちの。

 

 束の間の平和な夜が始まろうとしていた。




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