魔法科高校の未元物質   作:エゴイヒト

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ボランティアに見返りを求めるのは間違っているだろうか

 

 生徒会枠を深雪ちゃんに押し付けたり模擬戦を繰り広げてから数日経った。

 あれ以来、達也くんとは少し距離を置いている。

 別に苦手っていうほどではないけど、私が一緒にいると達也くんに変な緊張感が走るし、それを察することができる深雪ちゃんが気まずそうにしているからね。

 深雪ちゃんはお昼は兄の元へ行きがちなので、その時はなるべくついていかないようにしている。深雪ちゃんは遠慮しないでください、って引き留めてくるけど、こればかりはね。その代わりに雫さんやほのかさんと一緒にご飯食べることもあるし。

 

 さて。その一方で、一高では部活動の勧誘が始まった。

 私の元へ勧誘に来る勇者は現れなかった。まあ、来ても忙しいって断るんだけど。

 部活動勧誘期間中は何かと揉め事が起きやすいので、生徒会室にお世話になることもあった。

 

 勧誘週間も終わった頃、放送室ジャック事件が起きた。

 生徒会や風紀委員が結構忙しそうにしてたけど、何があったんだ……。

 七草先輩や摩利先輩にも、不穏な動きがあるから気を付けろって言われたし。まあ私の実力については模擬戦で知る所となったし、心配はしてないんだろうけどね。

 

 にしても、何か『差別撤廃』? とか言ってたけど、マジで何なんだろう。

 しかも公開討論会とかやるらしい。この世界の学生はやる気に満ちてるね。あれか、前世で言うところの学生運動ってやつ?

 生憎、世代じゃないから分からない。何十年も前の話だしね。こっちの世界でもあったのかな?

 

 そんな騒動の傍ら、私は図書館に来ていた。というのも最近、熱心な二科生の生徒達が研究について教えて欲しいってせがんでくるんだよね。こんな新入生の若輩者に素直に教えを乞えるのは凄いよ。

 学会発表の練習……とまではいかないけど、現代魔法学の知識の薄い、国や企業のお偉いさんに説明する時の練習になるので、今日こうして講演を開くことにしたのだ。あとやっぱり最低限生徒達と交流持っとかないと御母様が心配する。

 あの人何故か私に対して過保護だから「真白さん学校では友達少ないのねヨヨヨ……」って泣いた後「我はメシア、明日この学校を粛清する」って言いだしかねん。

 

 講演には結構人が来てる。と言っても教室サイズの部屋を一室借りてるだけだから、たかが知れてるけど。

 何か知らんけど皆この日が良いらしい。学校行事とか被ってんのかな? 

 

「多分皆は物質変換魔法の方に興味があるかもしれないけど、今日は別の話をします。『イデア通信網と並列演算』と『事象の境界面内のイデア観測における情報限界面』についてです」

 

 生徒達がざわつく。

 どっちも去年出してベストペーパー貰ったやつなので、聞いていく価値はあると思う……多分。

 

「まずは前者から。本研究では、光通信等を始めとした現行の物理通信技術を凌駕する通信技術として、イデア通信網の可能性を提案しています。ご存じの通り、イデアを介した認識は物理世界を介しないため相対論による光速度の制約は無く、どんなに離れていても完全な『同時』を認識できます」

 

 イデアはプラトン的な情報次元であるため、空間的局所性を有さない。ただ、情報の繋がりにおける局所性だけが存在する。従って結果だけみれば、光通信よりも速く情報を伝えられる。

 喩えるなら、物理演算されたシミュレーション空間では物理通信では光速度という情報伝達速度の限界が存在するが、シミュレートしているプログラム本体に情報を運び先に書き込んでもらうようなもの。見かけ上は光速度の限界を超えて情報通信ができる。

 これは私が提案するまでもない、実際のイデアに対する魔法師の認識や魔法式の作用の仕方そのものだ。

 

「しかし、驚いたことにこれを体系的な通信技術として用いようとする試みは存在しません。未だに古典的な情報通信技術が用いられているのです。その理由は二つ。一つは、イデアを介して遠隔地にある物体に干渉することは極めて難しいからです。魔法師がイデアで対象のエイドスに干渉するには、『そこ』に『それ』が『ある』という前提知識がなければ、照準が定まらないのです」

 

 だが、これは通信技術においてさしたる障害にはならない。通信基地が動かなければいいだけなのだから。GPSのようなリアルタイムで動く者同士での通信は実現が難しいけど。

 

「もう一つの理由は、通信量の問題です。現状、イデアを介した干渉は魔法師でなければ不可能です。魔法師が魔法を使って送れる通信量は、魔法式の構築速度と、一度に扱える定数と変数の数によります」

 

 そもそも『どのような形で遠隔地に魔法で作用するのか』だが、もっともナイーブな手法はやはり振動系魔法による光信号だろう。対象地点の観測機に光を発生、または既にある光の振動数を改変する。

 自然、この方法で送れる情報量は、魔法師がどれだけ複雑な光信号を発生させられるかに依存する。

 光源発生なら、一回の発光あたり一つの魔法式を使って発動しなければいけないため、魔法式一つで1ビット。魔法の連続使用は勿論のこと、そもそも魔法師の認識速度や魔法式の構築速度が間に合わない。人間の精神には限界がある。

 振動数の改変なら一度に多くの情報を送れそうだが、複雑な改変は複雑な変数を伴うため、魔法師の演算能力が問われる。甘く見積もってKB程度の通信に魔法師一人だ。

 

「ですが、これを解決できうる技能が存在します。それは『精霊の眼(エレメンタルサイト)』。魔法師のイデアへのアクセス能力を拡張・進化させたこの技能は、対象のエイドスを直接読み取ることが可能です」

 

 そして、イデアのエイドスを直接観測可能なこの技能をもってすれば、物理世界に信号を発信する必要はない。イデアにサイオン信号を放てば、遠隔地からでもそれを観測できる。

 

「ところで、サイオンはそれ自体が情報を媒介する粒子であるため、魔法式を構成するサイオン構造体が持つ以上の情報量は、その魔法式の作用によって発生しないと考えられます。これは喩えるなら、初期状態が決まれば系の未来は予測可能である、という古典物理と似た論法です」

 

 突然、生徒達がポカンと口を開いて呆けた。ちょっと飛ばし過ぎたかな?

 

「さて……これを踏まえて。私は『信号用魔法式を直接観測できるとしたら、それが最も効率的な情報通信技術なのではないか』という仮説を立てました」

 

 今度は、生徒達がざわついた。やっぱりインパクトのある主張の方が分かりやすいよね。

 

「信号用魔法式はサイオン構造体、情報構造体としての役割を果たせればよいので、実際に意味のある改変ができる必要すらありません。つまり、魔法式というより単なるサイオン塊ですね」

 

 距離に関わらず『同時』を観測できるイデア通信の速度は、言うまでも無く現行の通信技術を上回る。

 重要なのは『どれだけの情報を送れるか』だ。

 信号を受信地点に発生させる必要すら無いのであれば、イデア上のサイオン構造体の方が物理世界の情報量限界を上回る可能性がある。

 

「論文中にて『想子情報量限界』と呼称した、イデア通信による送信可能情報量の上界については現在研究中です。本研究では単位空間のエイドスを構成するサイオンの最高情報密度を導出することで、そこからベッケンシュタイン境界との無矛盾なモデルを提案するに留まります」

 

 ちなみに私が計算したこの情報量限界の理論値は、既にいくつかの後続研究で『マシロ限界』と呼ばれている。自分の名前が付くのっていいよね。いい……。

 

「実験ではこの理論の正確さを検証するべく実測値を取ることにしました。01で記述される電気信号のパターンを効率的に表現するサイオン構造を提案し、コンピュータ一体型専用CADを用いることでそれらを相互に変換する『EL-PS変換魔法』を開発、『精霊の眼(エレメンタルサイト)』を持つ私自身の手で実験を行いました。結果、この信号変換パターンは十分少ない情報量区間ではサイオン量あたりの情報量が理論値とほぼ合致しました」

 

 送れる情報量に魔法師の魔法力や観測手の情報処理能力という制約はあるものの、単位時間あたりの送受信情報量、つまり伝送速度は既存の通信技術を大きく圧倒した。

 

「もっとも、現行の通信技術に取って代わるには、いくつかの課題があります。特に自動化は必須でしょうね。このままではまるで電話交換手のように、通信に魔法師が働き詰めとなりますから」

 

 実用化には情報圧縮や暗号化技術の発展、そしてそもそも『精霊の眼』という前提こそあるが、未来の技術としては非常に夢がある話だ。少なくとも魔法研究者の間では、あの『真白』が提唱したということもあって注目されつつある。

 もしこの『精霊の眼』という技能が誰でも扱える、または代替する魔法や補助具が開発されれば、通信技術革新が起こるのは間違いない。もともと魔法師のイデアにアクセスする技能の延長らしいし、そのうち実現するかもね。

 

「さて、ここまでは前座です」

 

 再度どよめきが起こる。

 正直この程度のアイデアなら誰でも思いつくだろうし、『精霊の眼』の保持者を捕まえれば研究はできるからねぇ。

 

「私はこのイデア通信網は単なる通信技術ではなく、これ自体が計算機として使えるのではないか、と考えました。つまり、通常の電子機器では内部で信号が電子回路を巡りますが、論理回路をイデア上に構築すれば電気信号が回路を巡る速さの限界を突破して計算時間を削減できるのではないか、という仮説です」

 

 これが、本研究のもう一つの主題であるイデア内並列演算、イデア間分散コンピューティングに繋がる。

 

「『精霊の眼』を持つ魔法師がサイオン信号を発信、観測したサイオン構造体から得られた情報を入力変数として無系統魔法による論理回路に相当する魔法式で演算、出力。それによるサイオン構造体を相手側は観測、さらにそれを元に演算……ということを複数の魔法師が行うことで、ネットワークを構築します」

 

 現状『精霊の眼』を持つ魔法師は極めてレアなので、私一人で複数人分を担当して実験した。

 勿論、分体使った結果は載せられないので、ちゃんと一人分でやったよ?

 

「回路のノード数や回路維持のために魔法力は必要ですが、イデア上での計算回路が実現可能であることを実証し―――」

 

 突如、図書館の電気が落ちた。

 あれ、テイデンかミ。

 

「動くなッ!」

 

 その声と共に、ヘッドライトを付けた大量の人間が室内に押し寄せた。

 顔を隠した連中が、ごつい銃をこちらに突きつけている。

 

 こ、これはッ……!

 中二病に罹ったからには誰でも一生のうち一度は夢見る『学校にテロリスト』ってやつでは……!?

 く~っ、これこれ! テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ~!

 

「最優先目標を発見!」

 

 そして、どうやら狙いは私らしい。

 まあそうだよね。逆にここまでして私が主目標じゃないとか、骨付きチキンのチキンなしを食べるようなものだよ。

 すっかり忘れていたが、私には四葉家の警護や報復があるかもしれないというリスクを負ってでも、狙うだけの価値がある。むしろ、今日まで何事も無かった方が異常かもしれん。

 どこの勢力かなど、もはや勘ぐるだけ無駄だ。同盟国のアメリカは勿論、国内の企業や政治家、果ては十師族だってあり得るのだから。

 

 

 と、ここで私は違和感に気付いた。

 生徒達から、悲鳴が全く上がっていない。

 

「あー……そういうこと?」

 

 受講者全員が、私にCADを向けている。

 こんなの、真面目に講義した私が馬鹿みたいじゃんか!

 はー、萎えた。折角、社会奉仕精神を発揮したというのに。

 こっちは数日前から資料とか準備してきたんだぞ、時間返せ!

 私の時給は53万ドルです。ですが全額請求はしないのでご心配なく……。

 

「やれっ!」

 

 私が怒りに燃えている内に、テロリスト達が腕に巻いたブレスレットを掲げた。

 うおっまぶしっ!

 

 ……。

 

 しかし 何も 起こらなかった!

 

「?」

 

 え、CADじゃないの? ただの腕輪?

 何で私、腕輪を見せつけられてんの?

 もしかしてあれですか、変身バンク中か何かですか?

 テロリスト達の貴重な変身シーンを見届けようと行儀よく突っ立っている(お約束を守っている)と、受講者達がCADを下ろした。

 

「キャスト・ジャミングですよ、四葉さん。抵抗は無駄です、大人しく従ってください」

 

 穏やかに、まるでそうすることが私のためになるかのように語り掛けてくる。厚かましいよ!

 

 って、ん? キャスト・ジャミング?

 てことは、あの腕輪が魔法の発現を阻害するサイオンノイズを放つことのできるアンティナイト?

 

「ほえー、これがアンティナイト」

 

 実物初めて見た。

 学園都市でいうキャパシティダウンみたいな奴だね。あっちはAIM拡散力場のノイズとかじゃなくて単なる音響兵器だけど。

 

「んーこんな感じかな? あ、できた」

「な、なんだ、それは……?」

 

 ピンセットの先で摘まんだ数センチ四方のアンティナイトを観察する私を見て、テロリスト達は呆然としている。

 

「まさかアンティナイト!?」

 

 私の手にあるソレは、彼らの手元にあるソレと同じものだ。

 

「レ、レリックの複製までできるのか……」

 

 現代の技術では再現不可能なオーパーツ、それがレリックだ。

 でも現物を観察できるなら、私の『創造』魔法は複製できるのよね……。

 油断したねぇ。無料でコピらせてもらうねぇ。

 

「いや待て、キャスト・ジャミング下だぞ!?」

 

 効かないねぇ、ゴムだから!

 嘘です。常識が通用しないだけです。

 キャスト・ジャミングとか領域干渉みたいな受け身な魔法は『未元物質』の前では意味がない。後出しを許した時点で勝ち目ないっす。先手必勝で殺しにこないと。

 まあ『未元物質』のオート防御を抜いた上で全個体というか未元物質を同時に消滅させないといけないんだけど。粒子一個でも残ってたらそこから復活しまーす。プラナリアよりしぶとい。

 これでも禁書の魔術師にならやられるのが容易に想像できるのが怖い。魔境すぎんだろあそこ。

 よく考えたらこっちの世界にもそのレベルの奴はいるかもしれないから気は抜けない。

 四葉家にも泳がされてる可能性があるし。戦略級魔法師とか十師族とか手の内全部晒すわけないし、絶対何か隠してるでしょ。異能バトル世界はインフレの果てに人類滅亡級の概念攻撃が飛んでくると相場が決まってるんだ。私は詳しいんだ。

 

 閑話休題。

 

「ほほい、ほいほい、ほい」

 

 いくつか構造を改変して、アンティナイトを何度も生成する。完全に同一な複製品(クローン)ではない。

 ゴミ収集車のトラックをひっくり返したかのように、掌から滝のように溢れ出すアンティナイト。

 構造を学習して、どこが重要な部分でどこが要らない部分なのか少しずつ分かって来た。

 まあ、私には無用の長物だけど。

 

「不良品も混じってるけどあげますよ」

 

 唖然としているテロリスト達が物欲しそうな顔をしていたので、譲ってあげよう。

 200個以上あるし、1つくらいあげても……バレへんか。

 

「あれ、でもこれって不味いやつ? レリックの生成は違法じゃないだろうけど、譲渡とかしたら捕まるかな? ごめんやっぱ無しで」

 

 私が指を鳴らすと、アンティナイトは全部塩に変わった。

 でも国に売りつけるならセーフ……か? 金稼ぎできそう。

 世はまさに、一家に一台アンティナイト時代……!

 軍事物質だから規制掛かるし無理か。

 

「う、動くなと言っているだろう!」

「いやあ、撃てないでしょ」

 

 ピンセットの爪先で、彼らの持つハイパワーライフルを指す。

 ハイパワーライフルは障壁魔法を貫通できる対魔法師用兵器だ。本来人に向けるには過剰すぎるほどの威力を秘めている。

 

「それ、人に当たったらほぼ確実に死ぬよね?」

 

 彼らの目的は私の身柄。当然、生きたままで、だ。

 私という存在は「邪魔だから殺す」と言うにはあまりに惜しい。私が死んだり、魔法力を失うような怪我をさせたら、この場の彼らが上司に始末されるに違いない。

 

「くっ……」

 

 大方、アンティナイトで怯んだところを簡単に拘束できると思っていたのだろう。

 この状況から私を無傷で拘束するには、魔法師相手に素手で挑まなければいけないことを意味する。撃てた所で同じだけど。

 

 彼らは今迷っている。撤退か、銃を捨てて特攻か。

 訓練された兵士ならともかく、魔法師といえど学生。その辺の生徒なら囲んで叩けば何とかなる場合も多い。

 でもやっぱ、異能バトルってお互いに異能を使うから異能バトルだよね?

 片方だけ異能者で片方が無能力って、それお約束通りいくなら無双回じゃない?

 稀に例外はいるけど、そんな浜面みたいな逸般人がそうそういてたまるか。

 

 来いよベネット、銃なんか捨ててかかってこい!

 銃なんて邪道。異能バトル物なら異能で勝負すべきそうすべき。

 

「ほら、そこの生徒さん達も何をぼうっと突っ立っているんですか? アンティナイトが意味ないと分かったのならCADを構えて掛かってこないと」

「う……」

 

 言われて慌ててCADを構える。だがそこまで。

 私という個人の異質さを抜きにしても一科生。しかも十師族の四葉。

 実技で劣る二科生の彼らに、いざ魔法で立ち向かう勇気は中々湧かないみたいだった。

 おいおい、多対一だぞ。

 

「全く、学生は使い物にならないな。僕が直々に来て良かった」

 

 なんか知らん奴来た~!

 30歳くらいのメガネかけたおっさんがフラッと部屋に入ってくる。

 

「どちら様?」

「ブランシュ日本支部のリーダー、司一だ」

 

 何の何の何?

 

「リスクは大きいが、それだけの価値はあった。こうして君に会えたんだからね」

 

 え、私のファン? 

 学会でもたまにいるんだよなこういう奴。四葉目当てなのか私目当てなのか、婚姻関係持ちかけてくるんだ。

 事務所(四葉)通して貰っていいですか?

 

「僕と会った時点で、君はもう詰んでいるんだ!」

「!」

 

 もしかして、おっさんが私と異能バトルしてくれるの!?

 おっさんが眼鏡を外して宙に放る。そして左手でCADを操作してここぞとばかりにおっさんの眼が光る!

 おほほ、演出すごいな。そうだよね、異能バトルなんて恰好つけてなんぼだよね。

 

「ハハハハハ、君はもう我々の仲間だ!」

 

 何その眼と眼が合ったら友達みたいな。

 おっさん陽キャだったのか。人は見かけに依らないんだね。

 

「さあ、余り時間がない。ここを出るぞ」

 

 は? え? 帰るの?

 マジで何しにきたんだこの人。

 

「えっと、お帰りはあちらです……?」

「何を言っているんだ君も……まさか、邪眼(イビル・アイ)が効いていない!?」

 

 何その私までついていくの前提みたいな。

 あ、今の精神干渉系の魔法なの? ごめん一々精霊の眼で見てなかった。

 ていうか、えぇ……。

 

「よりにもよって四葉に精神干渉系って……」

 

 あ、思わず口に出ちゃった。

 でも仕方ないじゃん。そんな餅は餅屋みたいな。

 いや違う、絶対これじゃない。こういうの何て言うんだっけ。蛇の道は蛇?

 魔貫光殺砲みたいな発音だった筈。……釈迦に説法だ!

 まあ餅屋に餅売りつけるみたいなもんだと思えば大して変わらんでしょセーフセーフ。

 

 それにしてもリーダー格がのこのこ校内までやってきて、本職の家系に精神干渉仕掛けるっておじさん必死すぎ~(メスガキ並感)。

 

「もしかしてパトロンに脅されてるから、失敗したら命が無いとか?」

「う、うるさい!」

 

 図星かい。

 よっぽど私が欲しいんだな、そのバックについてる人達。

 にしたってこんな下請けに任せなくても……。プロ雇えよ。プロとして―――

 やっぱテロリストにも中抜きとかあんのかな。暗殺者も5次請けとかあるし。

 

「こ、こうなったら多少傷がついても構わない! 何やってる、早く捕らえろ!」

 

 うーん、どうしよう。

 テロリストはともかく生徒に怪我させるのは不味いよね。なんか洗脳されてるっぽいし。

 となると生徒の目もあるし、未元物質を派手には使えない。でも未元物質使わない戦闘って苦手なんだよね、何使えばいいか分からんから。そもそも戦闘経験自体ほぼ無いけど。

 非殺傷で範囲攻撃で未元物質使ってるとバレない方法……。

 

「お、重い!?」

 

 遂に格闘へと突入しそうになった、その時。

 突如、この教室にいる者達の着ていた服が鉛のように重くなった。

 

「がっ!?」

 

 私以外の全員が、体勢を崩して倒れ込む。

 ―――いや。鉛のように、ではない。

 まさに鉛になったのだ。

 服は完全に固定され、まともに身を捩ることもできない。

 リーダーのおっさんが冷や汗を掻きながら、苦悶の声を上げる。

 

「これが噂の『完全錬金(アルス・マグナ)』か……!」

 

 あーそうそう、確か私の物質変換魔法がそんな名前だった気がする。アウレオルスを彷彿とさせて複雑だ。

 なんか勝手に名前ついてたんだよね。インデックスとかいう魔法辞典みたいな奴にも名前だけ載ってる。

 公開版と区別しやすいように四葉家が根回ししたのかな。お母様ならやりそう。

 ちなみに公開版の魔法は『簡易錬金(アルス・パーヴァス)』って名前がついてる。そっちの方が耳馴染みなくてかっこいい。今からでも交換しない?

 

「こんなもの!」

 

 生徒達がCADを操作する。加重系統魔法で重さを軽減しようとしているようだ。

 でも、彼らは起き上がれないままだった。

 

「なんでっ!?」

 

 原因は、私が『未元物質』でヒッグス場を強めたからだ。ヒッグス粒子は、物質に慣性質量を与える素粒子。

 加重系統魔法は重力制御もあるけど、簡単なものは大抵、慣性質量を書き換える魔法だ。

 でも『未元物質』によるヒッグス粒子操作は対象のエイドスに干渉せずに直接、物理的なアプローチで慣性質量を変えられる。魔法が発動する瞬間に割り込んで慣性質量を増やしてやった。

 まあ、わんこそばみたいなもんよ。おかわりいかがっすかー。

 

 こっちも加重系統魔法使って干渉力勝負で上書きしてやってもよかったけど、普通の魔法使うのめんどいんだよね。超能力と違って直感的じゃない。まあ加重魔法の上書きと結果は同じだしバレんでしょ。

 

「真白さんっ! 無事!?」

 

 七草先輩が息を切らして部屋に入って来た。

 

「どこにも怪我はない!?」

「いや、あの、全然大丈夫ですんで、ホントに」

 

 私の手を握って、滅茶苦茶必死に無事を確認してくる。

 

「よ、良かった……」

 

 あ、先輩の後ろに何かすげえごつい男もいる。ゴリラマン……。

 制服着てるから一応生徒っぽい。

 

「お前が首謀者か」

「ひ、ひぃっ!」

 

 CAD取り上げられて、おっさんビビってるよ。

 遅れて風紀委員もやって来て、テロリスト達は次々と拘束されていく。

 

「真白さん、彼は十文字克人。部活連の会頭よ」

 

 え? 十文字って十師族の?

 部活関係一切触れてこなかったから顔見るの初めてだ。いや、入学式の時にいたかな?

 

 そして警察?が駆け付け、おっさん達はお縄についた。

 塀の向こうでもがんばれ、おっさん。次はもっと直接的な攻撃魔法で勝負しようね。

 名前忘れたけど。

 




達也、深雪、エリカは図書館までは一緒に来ましたが、後は原作通り行動しました。
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