はくしごうのおしごと!
間に合わないぃぃぃ!!! 全国の素粒子物理学者の皆、おらに怨嗟を分けてくれ!
延期玉を作ってなんとか学会予稿の提出締切を伸ばせないか唸っていると、七草先輩から着信があった。
「九校戦、ですか?」
九校戦。
去年まで魔法科高校の存在すら知らなかったほど世情に疎い私には、聞き覚えのない単語だった。七草先輩の話を聞くに、どうやら全国の魔法科高校生達が参加する学校対抗の大運動会のようだ。魔法で玉なげとかするのかな。面白そう。
「そうなのよ。エンジニアが不足していてね……。そこで、物は相談なのだけど真白さん。研究でCADとか弄っているわよね?」
「まあ、弄るっちゃあ弄ってますね。エイドスを」
「エイドスを?……あっ」
「メンテナンスして欲しい人のCADの電子データを物質変換で改造することになりますけど、それでよければ引き受けますよ」
多分これが一番早いと思います。
いちいちパソコンカタカタしてプログラミングするより、構造情報編集してエイドスぶち込む方が手も疲れない。
え? お前全身未元物質で出来てるんだから疲れとか存在しないだろって? 精神的に疲れるんです~!!
「というか、エンジニアでお困りなら適任がいるじゃないですか。そっちに頼めばいいでしょう?」
「え? 誰々っ!?」
七草先輩が電話越しに食いついてきた。
「誰って、それは勿論トーラス―――」
刹那、私は口に指を添えて微笑む深雪ちゃんの姿を幻視した。
「シルバー信奉者の中条先輩ですよ。デバイスオタクならCAD弄りくらいできるでしょう?」
「あーちゃんは既に内定済みよ。それでもまだ足りないの」
「なら居ないですね」
「ううう……こうなったら、CADを物質変換されても問題無い人を募って真白さんを宛う……? ねえ、真白さん。そうは言ってもCADを弄った経験自体はあるのよね?」
「それは勿論ですが、最近は全く触ってないので勘を取り戻すのに時間かかりますよ」
そして、そんな時間は今の私には無い。
確かに、私は分体をいくらでも増やせる。でも、体は増やしても頭を増やすことはしていない。精神の分割や自我を持たせる事はしないようにしているからだ。
厳密には分割していないのではなく休眠状態にしているだけだし、魔法演算や条件で行動を変えるくらいなら分体にもできる。
それに、やろうと思えば頭を増やすことは不可能ではない。自律進化を止めて本体の私が一元管理する計画進化を採用しているので、反乱分子が予期せず生まれることはないからだ。
裏を返せば黒垣根のような素早い適応能力や超高速進化は失われているのだが、そもそもそんなに進化を急ぐ理由がどこにもない。その代わりに
話が逸れた。
とにかく、研究やCADのエンジニアのためにわざわざ頭を増やすのは論外だった。
「そもそも私、起動式をひたすら軽くすることしか考えてないので、多分私がチューニングしたCADをまともに使える人、殆どいないと思いますよ」
私は魔法演算領域を無限に増やせる。魔法演算領域は本来RAMだかCPUだかのように振る舞うのだが、魔法式を記憶するだけのメモリとしても扱える。もちろん普通に演算能力も増やせるので、起動式の定数を全部変数に置き換えても全く問題ない。
詰まるところ、私にCADは全く必要ないのだ。寧ろ起動式を読み込んで変換する工程が挟まる分遅くなるから、足を引っ張るだけ。カモフラージュのための装備でしかないので、起動式はスカスカで、最低限の内容しか入っていない。
裏を返せばそういうCADばっかり『創造』しているので、まともな起動式を組むスキルは持ち合わせていない。だから九校戦のエンジニアに求められる競技用CAD用に起動式を最適化するチューニングは、まずできないと思っていい。できるとしたら本人の私物のCADに入ってる起動式をコピペして、そこから取り敢えず動く形に微調整するくらいだ。
「なんで、最適化は無理だと思ってください」
「あの、ちょっと気になったのだけど、そもそも競技用CADのエイドスを弄るのって調整規約に抵触しないかしら……」
「がっつり触れますね、多分。まあコピペくらいなら手動でもできます」
それでもやっぱり面倒くさいけど。
スペックの違うCADのコピペは予期しない挙動を起こす可能性があるからやめとけってのは、CAD弄った事のある人にとっては周知の事実。でもその程度なら、かかる時間や仕上がりに個人差はあるけど、エンジニアなら誰にでも修正はできる。私にだって不可能じゃない。
「それでも構わないわ。お願いできるかしら……」
藁にも縋るっていうか、七草先輩、だいぶ追い込まれてるな。
後日、改めて人員調整のために話がしたいと言われて、私は生徒会室を訪れた。
「あ、真白さん!」
「こんにちは~」
昼休み。ご飯だけ雫達と別で食べて来た私は、少し遅れて生徒会メンバーと合流する。
「真白さんには折角来てもらって悪いのだけれど、実は達也くんにエンジニアを頼めないかって話になっているの」
「おっ」
やっぱりそういう話になったんだ。
「あの、まだ確定したわけではないのですが……」
いいじゃんいいじゃん。頼むよ、達也くん。
「それでなのだけれど、本当は、真白さんには競技の方に出てもらいたいと思っていたのよ」
待ってました。
聞くところによると、九校戦は学校の威信を懸けてる節があるらしい。プライドバトルってやつかな。
つまり今回の九校戦、他校に対する四葉家の新入生である私のお披露目が期待されているわけだ。
七草先輩から話を聞いてから、九校戦自体にはちょっと興味があった。
だって、魔法競技だよ? こんなのもう一種の異能バトルじゃん。面白そうなのがあったら参加してみたい。
勿論、流石の私にも運動会でそのまんま直接的な異能バトルはしないってことくらい分かる。生徒が怪我したら危ないもんね。
「ちなみにどんな競技に出てほしいとかありますか?」
「まだ何も決まっていないわね。真白さんの実力なら、どの競技にも出れるでしょうし」
タブレットで、過去の九校戦の動画を見てみる。
ふーん。アイス・ピラーズ・ブレイクにミラージ・バットね……。
ん?
「こ、これ……! これ何て競技!?」
思わず敬語も忘れて七草先輩を問い詰める。
「ああ、それはモノリス・コードね」
九校戦は全国高校生異能バトル大会だった!?
興奮する私を見て、市原先輩が横からぼそりと呟いた。
「それ、男子生徒限定の競技ですよ」
「なん……だと……」
あ、ありえない……。
こんなことが許されていいのか。
男女差別も甚だしい。22世紀も間近だというのに。
モノリス・コードに参加できないのは口惜しいが、取り敢えず参加競技は保留にしておいた。
他の競技だってどれも面白そうなので、空きのあるところに捻じ込んでくれればそれでいいや。
「ところであーちゃん、課題はもう終わったのかしら」
忘れていた、いや目を逸らしていた現実に無理矢理向き合わされた中条先輩が、七草先輩に泣きつく。
それにしても意外だ、中条先輩が課題に追われているなんて。デバイスオタクな印象からか、少なくとも筆記では成績優秀な方だと思っていた。
「実は、『加重系魔法の技術的三大難問』に関するレポートなんです……」
七草先輩や摩利先輩が言うには、毎年恒例の頻出課題らしい。
「汎用的飛行魔法が何故実現できないのか、上手く説明できなくて……」
あー、飛行維持するために加重系魔法を重ね掛けしようとすると、必要な干渉力がインフレしていくからってやつ?
今となっては私には無縁な話だ。だって自分の干渉力もインフレさせればいいから。
普通の魔法師が10段階調節くらいが限度って言われてるけど、私の場合少なく見積もってもそれ×分体の数だからね。普通の魔法師が加重系魔法を連続使用して
ていうか、そんなことしなくても私は普通に空飛べるんだよね。翼生やしてメルヘンていとくんモードならぬメルヘンましろちゃんモードになればいい。
と、私が考えているうちに、話は進んでいた。
皆が使えなければ技術とは呼べない、なんて耳に痛い言葉もあった。最終的には、対抗魔法で前の魔法を打ち消してから加速系魔法を重ね掛けする実験をしたという、イギリスの実験にまで話が移る。
「その実験は、基本的な考え方が間違っています」
「えっ?」
「魔法式は魔法式に作用できません。それは、領域干渉であっても同じです。魔法式を直接消し去る術式でない限り、対抗魔法であってもこの原則の例外ではありません」
ふーん……。
「魔法式を直接消し去る術式、ねぇ」
私がぼそりと呟くと達也くんがこちらに視線を向けて、眼を細めた。
ん? あ、そういえば達也くんの分解ってもろにこれに当てはまる術式あったっけ? 『
「いやいや、別に変なことは考えてないよ!? 私の研究と近いし、タイムリーだなあって思っただけだから!」
別に達也くんの秘密をバラそうって訳じゃないよ、本当だから!
「……。何をそんなに慌てているんだ?」
「へっ? あ……いや、何でも」
達也くんとしては、私の発言の意図が分かっていることがバレるのも不味いのか。
ていうか『
……ん? 魔法式という一個のサイオン塊としての構造を分解してバラバラにできるんだから、魔法式を想子情報体として捉えられる魔法式なら干渉できる筈。なら想子情報体であるエイドスを改変して別のサイオン構造に書き換える『再成』みたいに構造を組みなおせば、魔法式を別の魔法式に書き換えることも不可能じゃない、のか?
実際、私が研究していたイデアネットワークはこれと似たようなことをやっていて、メモリに相当する只のサイオン塊に構造を変更する魔法を撃ちあって論理演算をしている。何かしらの物体をメモリ扱いして、そのエイドスに物質変換を撃ちあっているのと原理は同じだ。対応する物理実体がないだけで。
んー……あ。
今、手の空いている分体の方で実験してみたらできた。
『
でもさ、これ何に使うの?
対抗魔法としては落第級だ。他の対抗魔法と比較にならんほど圧倒的に重いし遅い。
超高等魔法の分類に入る『術式解散』と比べても、『対象魔法式の構造を読む』だけじゃなくて『元の構造と変換したい魔法式構造のペアに対応する物質変換魔法式を組む』必要がある。
喩えるなら、AX=Bを解いて変換行列Xを求めるみたいな。Aの逆行列を計算する必要があるから時間かかる。実際は非線形なのでそんな単純じゃない。
現状、飛行魔法のための加重系魔法を打ち消して連続発動するくらいしか使い道が思いつかない。でもこの方式って『術式解体』や『術式解散』で無力化してから新しく別の魔法を発動しているのとあまり変わらない気もする。
しかも魔法式を読める『精霊の眼』を持っていて、かつ馬鹿みたいな演算能力と発動・処理速度を持っている私にしかできない。
なら普通に重ね掛けするか翼で飛べばいいじゃん、要らんなこの術式。
こんなんじゃ研究成果にならないよ~。
後日、発足式で正式に私の九校戦参加が決定した。
ちなみに競技はアイス・ピラーズ・ブレイクとスピード・シューティング。
まあ妥当じゃないかな。飛行できることは知らないし、客観的に見たらミラージ・バットは別に私である必要性がない。バトル・ボードはある程度運動神経も必要だし。クラウド・ボールはちょっと迷ったらしい。
そして発動速度や干渉力などの総合的な魔法力勝負になるピラーズ・ブレイクやスピード・シューティングに私を出さない理由がない。
私としても異能バトル味強くて満足。でも達也くんレベルの魔法師が出てこない限り、どうあがいても負ける要因がないんだよね……塩試合の予感。
魔法技術は軍事的機密情報が多分に含まれるため、どこの国も国内で秘匿されることが多い。
それどころか、殆どの魔法は家系単位で秘匿される。無名の魔法師家系でさえ、秘中の秘は内々に留めておくものだ。
十師族しかり師補十八家しかり、果ては数字落ちなんて呼び名があるように、魔法師は家柄が重要な意味を持ち、いっそ前時代的な貴族的価値観を構築している。
隠し事の多い四葉家ともなれば、そのほとんどの技術を秘匿している。
当然、私が外部に公表する技術は全て四葉家の監査が入る。今回、学会に発表する予定の論文もまた、その対象だった。
「真白さん。これ……本当なのかしら」
四葉家本邸。四葉真夜が資料を片手に眉を揉む。
「本当です。と言いたいですが、『
戦略級魔法も属人的だけど公開されている情報が事実として認められているし、割と珍しくはないかもしれない。この辺は、軍事技術であり産業技術としての要請も大きい魔法技術の特徴。理論より実利を取るこの世界なら、実証してしまえば受け入れられる可能性は高いと考えている。
「私が訊いているのはそういうことではないわ。この論文には真白さんの『創造』魔法―――私達でさえ全容を把握していない『未元物質』についても記載されているでしょう。『宇宙創世時の自発的対称性の破れを再演算し、有り得た物理定数・物理法則の宇宙に発生する粒子をシミュレーションして、現実世界に生成する』。それが物質生成魔法の窮極であり、『未元物質』であると」
異なるエネルギー状態の真空で存在する物質、つまりこの宇宙では発生・存在できない物質を生成して安定させる。それを媒介する特殊な粒子が未元物質である―――という体で公表する。
それ自体は間違いではないが、真実とも言い切れない。いや、私自身分かっているというわけではないというか、こんなものは解釈次第というか。
「これを公開するつもり、ということね」
「そうでもしないと認められないと思いまして。流石に『未元物質』を隠したままでは説明がつかないことが多すぎるので。今後のことを考えると、いずれは公表せざるを得ないでしょうし」
「……単刀直入に言うわ、真白さん。このレベルの技術を、四葉の外に流出させることは認められないわ」
「
私が珍しく口答え、それも強い語気でしたことに、執事の葉山さんが目を丸めた。
「失礼ながら、口を挟ませて頂きますと。機密事項は真白様の『未元物質』に限った話ではありません。私も資料を拝見しましたが、これは現代魔法学に―――いえ、魔法師社会に多大な影響を与えるかと」
「それでも、私は発表するつもりです。科学は、開かれているべきですから」
これだけは譲れない。
魔法が科学として解釈される世界であるなら、現代魔法学は誰しもアクセスできる学問であるべきだ。
それが私が目指す夢であり、使命であるとさえ思う。
私は、この世界の科学の進歩に憤りを感じている。
魔法というチート技術がありながら、22世紀を目前にして人類はまだ火星移住すら達成できていない。月面基地を敷設しているような、よくある近未来SF世界の方がまだ先を行っている。
『禁書』世界のような超能力は個人に左右されるため、体系的なシステムとして産業活用が難しいから仕方ないにしても、この世界にその言い訳は通じない。
発展の遅れの原因は、どう考えても閉鎖的な技術開発にある。
魔法に血筋が影響するがための、魔法師の軍事物資化。
技術が個人の才能に帰属するからこそ、企業ではなく国家が主導する国粋主義的な研究開発競争。
それらを背景にした、二十年世界群発戦争以降も続く軍事摩擦。
全人類が異能と技術革新を堪能する理想の世界には程遠い。
異能バトルは人類のロマンだよ、感性を学びたまえ。
「そう。どうしても譲るつもりはないのね」
一触即発。張り詰めた空気がこの場を満たす。
だがそれも長くは続かず。ふ、と真夜様が息を吐いた。
「あくまでも四葉家としては反対する、という話よ。私としては、望むところでもありますし」
「……」
ふふ、と笑う真夜様を、葉山さんが何か言いたそうに見つめる。
「ただ、時期が早すぎるわね。物事には段取りというものがあるの。得られる利益は最大限確保するものでしょう?」
金には困ってないけど、あればあるだけ嬉しいものだ。
「真白さん、何もお金だけが全てではないわ。社会的地位・超法規的優遇……今後の研究がやりやすくなるでしょう。例えば研究施設の設立許可、海外渡航の許可。魔法師としての柵を取り去っておくのは真白さんにとっても好都合ではなくて?」
「……!」
確かに、大規模なことをやろうとするとちょっと面倒な手続きが必要になったり、国と四葉家両方の首を縦に振らせる必要がある。要は、物質生成魔法の公表や国家との金取引締結でやったようなことを、もっと手軽にできるように私への特別措置を講じさせよう、ということか。
それは今正に、私が欲しい特権だった。
経済的、社会的自由。それが四葉脱出・国外脱出を目論んできた最大の理由でもあった。
これは多分、私を解放するという意味ではなく、抜け出す意味を完全に無くそうとしている。
メリットだけが残る状態にしよう、ってことかな。
「……何がお望みですか?」
「真白さんにとって不利益なことは特に何もありません。ただ、そうね……どうしてもと言うなら、真白さんには次期当主になってもらおうかしら」
次期当主。それってたしか、深雪ちゃんが最有力候補なんじゃなかったっけ。
なるほど。
四葉家の目的は私を支配下に置く事じゃない。
多分、四葉家の継続と繁栄。最初からそれだけなんだろう。
私という存在から如何に利益を得られるか、私の反乱によるリスクを如何に抑えるか。それに尽きるのだ。
なら、いっそ私を当主に据えてしまえばいい。私が四葉家を滅茶苦茶にぶっ壊してしまわない限り、四葉という遺伝子は確実に後世へ続いていく。
そしてそのリスクは結局、私を束縛し続けて実家へのヘイトを溜め続けた場合の方がよっぽど大きい。
つまり、これって実質的な降伏宣言じゃない?
勿論、実際のところ何を企んでいるのかは分からないし、油断は禁物だろう。
でも、大抵のことはなりふり構わず吹っ切れてしまえば何とかなるでしょ。
やはり暴力。暴力は全てを解決する。
ただ、当主は当主で柵が多そうなのがねぇ。
「そこはかとなく面倒臭そう、という顔をしているわね」
「あの~、実務は全部深雪ちゃんに丸投げするというのはどうでしょうか」
深雪ちゃんの栄光の未来を掠めとるようで、ちょっと気が引けるってのもある。ガーディアンの達也君からのヘイトが凄いことになりそうだし、何かしらポストは用意してあげたいよね。
……決して、楽がしたいからってだけじゃないよ?
真夜様は鳩が豆鉄砲を食ったように口を空けていたが、堪え切れないかのようにころころと笑った。
「私は別に、構いませんわ。分家の皆さんにも面子というものがあるから、あまり良い顔はされないでしょうけれど」
四葉真白が去った後、そこには上機嫌な真夜と奇妙な沈黙を保っている葉山が残った。
テーブルの上に食事を並べ、給仕し終えた頃合いを見計らって、葉山が口を開く。
「奥様、これでよろしいので?」
「何のことかしら」
「真白様の処遇についてでございます」
「葉山さんが言いたいのは寧ろ深雪さん、ひいては達也さんの処遇についてでしょう?」
次期当主候補筆頭と目されていた深雪からその座を奪い、真白へ移す。
それ自体は、恐らく本人達から不満はでないだろう。当主の座に執着のある兄妹ではない。あるとすれば、今後の自分達の四葉家での立ち位置について、達也が警戒を強めるかもしれないことくらいか。
「『破滅』を齎す達也さんか、『混沌』を齎す真白さんか。決着はもう付いたんじゃないかしら」
かつて四葉家の中で蔓延った相互補完論。それを真夜が今更持ち出してきた―――それを否定する形で言及したことに、葉山は口を閉ざした。それはつまり、真白が世界にとって脅威になると認めたようなものだからだ。
「流石は私の子。姉さんの子にも負けないわね」
グラスに注がれたワインを転がしながら、真夜は童女のように無邪気な笑顔を浮かべていた。