余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます   作:はつぼし たろう

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あ、2位の人だ。(日間総合ランキング2位)(ありがとうございます)(2位の人は出ませんが2位の人を煽った人はちょっと出ます)


第10話 恐怖!『SyngUp!』三人目の刺客! マジ恐怖!

「――あっやべ」

 

 死ぬ。

 

 いや嘘死なない。

 体調が悪い。

 

 ……うむ、どちらにしてもおれが言うとめちゃくちゃ深刻に聞こえそうなのだが、軽い立ち眩みを起こしてしまっただけ……貧血的なアレだ。

 

 中庭の真ん中で膝に手をつき、ギリギリで顔を上げるおれ。

 

 大人しく休みを取っておけば、と後悔しても遅い。

 先日の篠澤さんのようにぶっ倒れたら救急車を呼ばれかねないので、近くのベンチまでたどり着いてからぐったりと背もたれによりかかる。

 

 ……まだギリギリ四月なのに、微妙に暑いんだよな……。

 

 しばらく目を瞑って上を向きながらうんうん唸っていると、不意に顔に影がかかるのを感じた。

 

 薄目を開ける。

 

「……大丈夫ですか?」

「……誰……あ、いや」

 

 知らないけど知っている顔が、おれを真上から覗き込んでいて、すっぽりと視界を覆っていた。

 

「顔色が悪いようですが」

「……ええ、ちょっと……貧血で」

「まぁ、それは大変」

 

 そう言うと彼女はパッと頭をどける。

 途端に陽の光が目に刺さっておれは顔をしかめてしまう。

 

「――貧血なら、まず横になるのが一番ですよ。さぁ、どうぞ」

「何……」

「横になってください、遠慮なく」

 

 と、真横から声が聞こえたかと思えばすぐにスーツを引っ張られ、おれは抵抗できずにパタリと横たわる。

 

 頭が、柔らかい感触に受け止められる。

 

「両足、ベンチの上に上げられますか? ネクタイはこちらで緩めさせていただきますね」

 

 どういう状況なの……と頭の片隅で思いながらも、優しく、心に染み渡るような澄んだ声に否応なく誘導されてしまう。

 

「……よし、よし……ふふ、まさかあなたとの初めての顔合わせがこんな形になるだなんて……もしかして()()()()()のことも、こんなふうに籠絡したんですか……?」

「……うーん……」

 

 耳に音が入ってくるが、それを脳が意味にしてくれない。わからない。眠い。

 

「……いいですよ、少しお昼寝をしましょう。お話はその後で……」

 

 ふぁぁ、と、かわいらしいあくびの声が聞こえた。

 

 おれの意識は、そのまま段々と薄れていった……。

 

 

     z z z  

 

 

 ……おれは寝起きでも結構頭が回る方だから、ふと目が覚めて状況を理解するまでにさほどの時間はかからなかった。

 

 端的に言って、おれは今、美少女に膝枕をされている。

 

 やったね。

 いや違う。

 やっちまってるのだ。

 

「……あ、あのー……」

「……まあ、おはようございます」

「あ、はい、おはようございます……」

 

 目を瞑って俯いていた彼女に声をかけると、ゆっくりと瞼が持ち上げられて、のんびりとしたご挨拶を頂戴する。

 

 ふわぁ、と口に手を当ててお上品な欠伸もなさって、彼女も無事お目覚めになられたようであった。

 

「体調は、大丈夫でしょうか」

「え、っと……まぁ、さっきよりは?」

「それは何よりです……ところで、初めまして、ですね――りんちゃんのプロデューサーさん?」

「……はい。初めまして、秦谷美鈴さん」

 

 ……人類史上、膝枕をされた状態で初めましての挨拶を交わした男女は存在するのだろうか。かなりのレア実績であることは間違いないと思うが。

 

 ただ、お互いに、相手が誰だかは知っていたようだ。

 

 りんちゃん、というのは賀陽さんのことで間違いないだろう。彼女のプロデューサーであると、最初からわかっていたようだ。

 

 そして彼女は、秦谷美鈴さん。

 なぜおれが知っているかというと、彼女が『SyngUp!』の元メンバー、最後の一人だからである。

 

「あの、さすがに、起き上がらせてください……本当に申し訳ない」

「まぁ、お気をつけて。ゆっくりでいいですよ」

 

 おれは、無暗に彼女に触るまいと腹筋だけで上体を起こそうとすると、秦谷さんはそっと背中に手を添えてそれを手伝ってくれる。

 

 ……まだ若干ぼーっとはするが、先ほどよりは間違いなくマシだ。

 

「……秦谷さん、足は大丈夫ですか? というか、どれだけ寝ていたのか……」

「一時間と少し、ですね。足は、流石に少し痺れてしまいました」

「……本当に申し訳ない。アイドルに、こんな白昼堂々膝枕なんてさせてしまって」

「ええ、ええ、これはとんでもないことです。わたしの膝を枕として貸すなんて、りんちゃんにもしてあげたことはなかったのに……ましてや男性を相手にだなんて、どうやって責任を取っていただきましょう」

 

 ……なんか、それは……流石に横暴じゃないか?

 い、いやでも助けてもらったわけだし、文句を言える立場にない。

 

 秦谷さんは、ふふふ、と怪しく笑った。

 彼女の口元の特徴的なほくろが、自然と視界に映る。

 

 

 

「――たとえば、りんちゃんのプロデュースから手を引いていただく、とか?」

 

 

 

 ――ぞっと、背筋に悪寒が走った。

 

 これは体調不良ではない。

 秦谷美鈴から放たれた、プレッシャーだった。

 

「……まあ、ふふ、そんなに怖がらないでください、冗談ですから」

「冗談……でしたか?」

 

 おれは、冷や汗をかきながら問う。

 本当に演技なら、俳優業も視野に入れていい。それくらい、真に迫ったセリフだったが……。

 

「はい、()()、冗談です。ですが最初……りんちゃんの引退の発表を見たときは、どうやってあなたを消そうかと本気で考えました。りんちゃんを引退させようだなんて、絶対に許せませんから」

「消……」

 

 ……怖、すぎ……本当に、本当に殺すとか宣言してくる人たちが可愛いレベルじゃねぇか……。

 

「でも、次の日には()()()()()から聞きました」

「は、はい。あの、まりちゃん、というと……月村さんのことで?」

 

 月村手毬、手毬、まりちゃん、であってるだろうか? と念のため確認すると、秦谷さんは「はい」と言って頷いた。

 

「あなたは、りんちゃんにアイドルを続けさせるためにスカウトをしたのだ、と。りんちゃんを引退させるためにプロデュースをしているというのは、りんちゃんを騙してでももう一度アイドルとして舞台に立たせるためだ、と……」

「……え、えぇ、確かに月村さんには、そのようにご理解いただきました」

 

 ……ああああっぶねぇ~~~~~~~~! セーフ! ラッキー! 月村さん騙してなかったらマジで闇討ちされてた! 騙してよかった月村さん! 騙されてくれてありがとう月村さん!! 命の恩人月村さん!!!

 

 心の中でまりちゃん感謝祭が即時開催、まりちゃん音頭が鳴り響いて、おれは生の喜びを実感するのだった。

 

「――ところで、実はわたし、十王会長にスカウトされて、彼女とプロデュース契約を結んだのですが」

 

 否、死……。

 

 ……あ、い、いやいや、星南さんの口はそんなに軽くない。おれの事情を簡単に話すはずがないから、月村さんへの嘘がバレたなどということは……。

 

「プロデューサーさんは、昨年十王会長と懇意になさっていたとか。ご本人や生徒会の先輩方、皆さん詳しくはお話を聞かせてくださいませんでしたが……少し調べたら、あなたが昨年の秋ごろから休学なさっていたということがわかりました。何やら、大きなご病気をされたようで……それから昨年度末に復学なさって、そこからわざわざりんちゃんのスカウトに乗り出したようですね。たくさんの横紙破りをなさって、まるでこれから先のプロデューサー人生など知ったことか、とばかりに……ね?」

 

 オイオイオイ、死ぬわおれ。予定より早く死ぬわ。

 

 もう全然普通に真実にたどり着いてましてよ秦谷さん。名探偵なの? 名探偵秦谷さんなの?

 

「まあ、まあ、そんなに脂汗を顔に浮かべて……いったいどうされたのでしょう。まるで、()()()()()()でもあるかのよう」

 

 おれはもはや秦谷さんの方を見れない。

 秦谷さんの顔がほとんど真横にまで寄せられているのは、視界の端だけで捉えていた。

 

「――()()()()()()()

「っ!」

「……とか?」

 

 泣きそう。

 いや、ちょっとだけ、泣いた。

 

「――なんて、こんなふうに問い詰めようと思っていたのですが、つい最近になって思い直しました」

 

 が、ふっと秦谷さんの声の調子が軽くなって、息がかかりそうなほど近づいてた顔が離れていった。

 

 おれが隣に顔を向けると、つい先ほどまで絶対に堅気の人間じゃない雰囲気を放っていたはずの秦谷さんが清楚でおしとやかな女学生にしか見えないような佇まいで座っていた。

 

「……お、お、思い直せてましたか……?」

 

 今絶対にすっごく問い詰められていたというか、追い詰められてたと思うんですけど……。

 

 すべてが幻覚、幻聴だったのかと自分の正気を疑いたくなるが、おれの目に浮かぶ涙はどう足掻いても本物……しかしともかく秦谷さんはようやく普通の距離感に戻って、すっかり普通の声音で続ける。

 

「ええ、プロデューサーさん。つまり、あなたの思惑がどうあろうと、わたしにとってはあまり関係ないな、と気が付いたんです」

「は、はぁ、と言いますと……?」

「わたしが求めているのは、りんちゃんがアイドルを続けるという結果、あわよくばもう一度三人でステージに立つという結果……だったら、あなたの思惑など上から叩き潰してしまえばいいだけのことですから」

 

 や、野蛮……表現が野蛮……。

 

「それにむしろ、プロデューサーさんには感謝をするべきだとさえ思いました」

「な、お、脅しですか……?」

「まぁ、本当に、本気の感謝ですよ? だから先ほども親切にして差し上げたんです」

心折(しんせつ)……?」

「まぁひどい、もうお忘れですか? それともわたし、そんなに易々と殿方に膝枕をするような()()()()()女だと思われているのでしょうか……」

 

 ……あ、親切、親切ね。

 大変申し訳ないのだが、底知れない恐怖に塗りつぶされて完璧に忘れ去っていた。

 

「あなたはりんちゃんを、もう一度ステージの上に立たせようとしてくれています。それは、今のわたしたちにはとても難しいことです。上を向くことを完全に辞めてしまった彼女でも、同じ高さにまで上がってきてくれれば、わたしたちを視界に入れざるを得ないでしょう?」

「……それはまぁ、そうでしょう。賀陽さんは今、ステージから目を背けていません」

「であれば、やることは単純明快です。そういう状況を、あなたは作ってくださった」

「……ちなみにその、やること、というのは?」

 

 思わず、聞いてしまった。

 怖くて。

 

 秦谷さんは口元に手をやって、ふふっ、とすごく可笑しそうに笑った。

 

「――わたしが上で、燐羽が下なのだと思い知らせます。そして、あの子がもう憧れを見失わないように……わたしがあの子の憧れになってあげるんです。ね、簡単でしょう?」

 

 ……ノーコメントで。

 

 なんというか、秦谷美鈴さんがまさかこんな人だとは、こんなに恐ろしい人だとは思ってもみなかった。

 今日、おれの中での恐怖の代名詞に〝秦谷美鈴〟が筆頭として加わった。たぶん、もう塗り替えられることはないと思う……。

 

「――あ!! いた美鈴ちゃん!!! お~~~いっ!」

 

 と、不意に背後の、だいぶ遠くの方から秦谷さんの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 振り返ってみると、ぶんぶんと手を振りながらとんでもない勢いで走ってくる、いや爆走、激走してくる女子生徒の姿が。

 

「まぁ、今日も見つかってしまいました……」

「お知り合いですか」

「えぇ、ご紹介しますよ」

 

 なんて言ってる間に、爆走女子はベンチで座るおれたちの目の前に横スライドでブレーキをかけながら到着した。

 

「美鈴ちゃん! また授業サボって! 先生かんかんに怒ってたよ!!」

「まぁ、そうですか」

「……お、お、男の人と二人っきりで、ななな何してたの!?」

 

 ……何か、物凄く妙な勘違いをされている予感がする。

 

 ピンク色のカーディガンを身に纏った、ずいぶんと発育の良い子である。

 これは決して変な意味でなく、プロデューサーとしてアイドルを評価する視点での話だ。容姿と振る舞い、それと秦谷さんと同じクラスっぽい発言からして間違いなくアイドル科の子だろう。

 

「実はこちらの方、プロデューサーさんなのですが、体調を崩されていまして看病を……」

「え、あっそうなの!? ご、ごめんね、あたしったらてっきり……」

「先ほどまで膝枕をして差し上げて、一緒にお昼寝をしていました」

「ひっ、膝枕!? そんなのえっちだよ!!!」

「えっちじゃないです……」

 

 いやマジでえっちではないだろ。アイドルとプロデューサーとして不謹慎ではあるけども。

 

「……えー、秦谷さん? こちらの方、ご紹介いただいても?」

「はい。こちらは花海佑芽さん、わたしと同じ一年二組で、十王会長とプロデュース契約を結んだ一人です」

「あ、はい! 自己紹介が遅れてすみません! 花海佑芽です!」

「花海って、あー、花海咲季さんの妹さん……?」

「あっ! お姉ちゃんのこと知ってるんですね!」

「えぇ、ちょうど先日知り合いまして」

「えっ、ってことは、広ちゃんのこと一緒に助けてくれたっていうあの……?」

 

 広ちゃん?

 一緒に助けた、というと……。

 

「――あっ! ちょうどきた! おーい! 広ちゃーん! 千奈ちゃーん! こっちこっちー!」

 

 と、花海さん……もとい佑芽さんは身体を傾けて、また大きく手を振る。

 彼女が手を振る方を見ると、へにょへにょふらふらの体で走ってくる、いやちょっと走りに含まれないくらいの速度でこちらに向かってくる二人組の姿が。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ……はぁ……」

「はぁ、はひぃ、はひぃ……ふぁぁ……!」

「……だ、大丈夫ですか、お二人とも」

 

 いったいどこから走ってきたのだろうか。二人ともちょっとかわいそうなくらいにバテバテである。

 

「広ちゃん! この人、何日か前に広ちゃんのこと保健室に届けてくれたプロデューサーさんだって!」

「……はぁ……はぁ……そ、その節は、どうも……」

「あ、はい。お気になさらず。また倒れないでくださいね……」

 

 片方は、やはり知っている人だ。

 先日と違って意識がある、篠澤さん――篠澤広さん、ということだろう。

 

 なんというか、学Pさんのことも含めてもうちょっとちゃんと挨拶したいが……無理は禁物だな。

 

「プロデューサーさん、篠澤さんとはお知り合いだったのですね」

「ええ、ちょっとした偶然で。まぁ、お話したのは初めてでしたが……もうお一方は?」

「く、倉本千奈、と、申しますわぁ……はぁ、ひぃ、も、申し訳ございません、息が整うまで、も、もう少しお待ちを……!」

「いいよ、無理しないで千奈ちゃん! えっと、広ちゃんと千奈ちゃんもあたしたちと同じ一年二組なんです! で、千奈ちゃんはあたしと美鈴ちゃんと同じで生徒会に入ってて星南先輩にプロデュースしてもらうことになってて、広ちゃんは別の担当プロデューサーさんがいます!」

「ほう、なるほど……?」

 

 篠澤さんのことは知っているので良いとして、星南さんが勧誘したというアイドルたち……秦谷さん、佑芽さん、それに倉本さんの三人ということか。

 

 ……星南さんは妙な特技を持っていて、アイドルが持っている技能を即座に数値化して把握することができる。本人曰く、実際に数値が見えるとかなんとか。

 

 おれはそんな特殊能力を持ち合わせていないので、漠然とした印象だが……器量やよし、しかし星南さんの()()も出ているな、という感想を抱く。

 

 もっとも、それはここにいる三人に言うことではない。星南さんの方には、是非とも一言言ってやりたいが。

 

「……さて、お話したいこともお話しできましたし、今日のところはこのくらいにしておきましょうか。プロデューサーさんも、動けるようでしたら早く休まれた方がいいでしょう」

「あっ、そうだよね、プロデューサーさん体調良くないって……大丈夫ですか? 保健室に連れていきますよ、あたし!」

「いえ、秦谷さんと話しているうちにだいぶ良くなったので、大丈夫ですよ。ご心配いただきありがとうございます」

 

 いやホント、体調不良と過度の恐怖によるストレス反応がごっちゃになって今結構スッキリしてる。風邪の時に熱湯に入るとか、めちゃくちゃ身体動かした後みたいな。

 

 ……ま、もちろんおれの場合は本当にヤバい可能性もあるので、大事は取るが。

 

「では、プロデューサーさん、今後ともよろしくお願いいたしますね」

「プロデューサーさん、お姉ちゃんのことよろしくお願いしますね!」

「……よ、よろしく……」

「よろしくお願いいたしますわ~……」

 

 と、むしろおれよりもグロッキーになってる二人を含め、一年二組の四人は去っていったのだった。

 

「……っつーか秦谷さん、授業サボって何してたんだ……?」

 

 ――彼女が大した理由もなく、強いて言うならお昼寝がしたいからというだけで授業やレッスンからの逃亡を繰り返すとんでもない不良生徒であるとおれが知るのは、もう少し先のことである。

 





美鈴さん喋らせるの、とっても手に馴染みますわ~!
絶望教えてほしいのですわ~!





あと感想欄で謎の伝聞調で返信するのやめますわ~!
スベってる気がしますし伝聞調縛りで考えるの面倒くさくなりましたわ~!(恥)
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