余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます   作:はつぼし たろう

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まだ日間ランキング5位以内をうろうろしてる……感謝ァ……


第11話 第三回終活会議(後編)(?)

「えー、お疲れ様です。本日も終活会議、第三回後編を開始したいと思います」

「後編?」

「はい、そう言えばこの前星南さんに乱入されたときにちゃんと閉会していなかったなと思いまして」

「そんなの覚えてないしどうでもいいんだけど」

「じゃ、どうでもいいついでに受け入れてください。おれが気持ち悪いので」

 

 そんな感じで第三回終活会議(後編)スタート。

 場所はもちろん活動拠点である。

 

「で、さっそく本日の議題なのですが、秦谷美鈴さんはいったいなんなんですか?」

「あら、ついに会ったの――ハ、そんな言い方するってことは、さぞかしイジメられたんでしょうね?」

「半泣きまで追い込まれました」

「……何があったのよ……?」

 

 あまりにも情けないおれの一言にさすがの賀陽さんもちょっと親身になって聴くモードになってくれたので、おれは遠慮なく自らに襲いかかった恐怖体験を詳らかにしたのだった。

 

「……こわ~……」

 

 で、感想がこれだ。

 

「こわ〜……じゃ、ないんですよ。あなたの元ユニットメンバーですよね? 責任があると思いますよ責任が。どうしてあんなになるまで放っておいたんですか」

「いや、初星に入学した時点でもうだいたいあんな感じだったし……」

「嘘だ、あんな中学生いてたまるかっ……!」

 

 賀陽さんはすっと目を逸らす。とんだ責任逃れだ。

 絶対に、絶対に賀陽さんには監督責任があったはず。だって賀陽さんは『SyngUp!』のリーダーだったのだから。

 

「……アイツは傲慢が服を着て歩いているようなものだから、矯正するとかどうとかいう次元じゃないのよ。あんなふざけた振る舞いが許されるだけの結果を出してるから、本当に質が悪いわ……」

「……賀陽さんがそうおっしゃるほどですか。まぁ、『SyngUp!』の各人の実力は、周りの評判と実際とで乖離があるのはわかっていますが……」

 

 たぶん、これほど正確な評価をするのが難しい三人組はいないだろう。

 

 『SyngUp!』はセンターである月村手毬のワンマンユニットだ、なんて世間一般では言われていて、中等部時代の個人の成績でも月村さんがNo.1、次いで賀陽さん、秦谷さんという順位付けがされていた。

 

 しかし、多少目の肥えた者が見れば、そうでないことはすぐにわかる。

 

 無論、月村さんが出せるパフォーマンスは伊達ではないのだが、それは秦谷さんと賀陽さんのサポートがあってのことだった。

 

 月村さんが後先考えずに全力で歌うのを、秦谷さんと賀陽さんがアドリブやらなんやらでセーブをかけたりコントロールしたりしながら最後まで何とか持たせる……残っている彼女たちのライブ映像は、よくよく見ればだいたいがそんな感じだ。

 

 月村さんはいわばブレーキもハンドルも搭載されていない、アクセルペダルでなくオンオフ切り替えの発進用スイッチが付いているだけのF1カーのようなもの。

 いや、中学生であることを考慮すればF2カーくらいの方が妥当かもしれないが、とにかく走り出せば超早いが、止まれないし曲がれない、大事故待ったなしの特攻用マシンで――それに対する外付けのブレーキが秦谷さん、ハンドルが賀陽さんだった、ということだ。

 

 そして、以前から言っている通り、賀陽さんにはステージ上で()()があった。

 ほぼ特攻用のマシンでしかない月村さんをフォローしてなお、大きな余力を残していたわけである。

 

 さらにライブの映像を思い返せば、賀陽さんと比べて程度はともかく、秦谷さんも同様だったと言える。まぁ、彼女の場合はビジュアルから醸し出される雰囲気のせいも大いにあるが。

 

 つまるところ、表面上は月村さんがとても目立っていたワンマンユニット『SyngUp!』は、その実まったく余裕のない月村さんを、余裕たっぷりの秦谷さんと賀陽さんが手助けすることで成り立っていたユニットだったというわけだ。

 

「……ちなみに、賀陽さんから見て秦谷さんの本当の実力はどれほどのものなのでしょうか?」

「そんなの自分で考えなさいよ。プロデューサーでしょう?」

「賀陽さんの評価が聞きたいんです。秦谷さんのことは、よくご存じでしょう?」

「チッ……」

 

 めっちゃ舌打ちしますやん。

 

 いやしかし、おれはアイドルの技能についての洞察はそんなに得意ではないのだ。

 コツコツとデータを集めて分析することはできるが、さほど調べてもいないアイドルに対して正確な評価はできない。賀陽さんの見立ての方がよっぽど信用できると思う。

 

「……ポテンシャルは、相当なものよ。ただ、死ぬほどマイペースで、それを絶対に曲げないくらい頑固だから、普通のアイドルの成長曲線を当てはめることはできないでしょうね。現時点でどうだかは知らないわ」

「ふむ、マイペース……」

 

 そんな可愛いものなのだろうか? あれは。

 

「……では、仮に今の賀陽さんが、ポテンシャルを十分に発揮した秦谷さんと勝負したとして、どちらが勝つと思いますか?」

「……さぁ、わからないわね」

「ちょっと言おうかどうか悩んでいたのですが、秦谷さん、賀陽さんのことを叩き潰すとか言ってたんですよね」

「いやちょっ、ハァ!? 何がどうなったら私にそんなヘイトが向くわけ!? あなたが脅されただけじゃなかったの!?」

「あ、すいません、叩き潰すっていうのはおれを含めてのことだったかな……でもとにかく、宣戦布告というか、なんかすっごい怖いこと言ってたのは間違いないです。おれと、賀陽さんに対して」

「どういうことなのよ……」

 

 賀陽さんは顔を引きつらせているが、秦谷さんの言っていたことで本当に肝心な部分は、おれよりも賀陽さん自身に関係があるのだから仕方ない。

 

「要は月村さんと同じで、秦谷さんも賀陽さんにアイドルを続けてもらいたいから、我々の邪魔をするつもりのようです」

「……はぁ、まったく、面倒なやつら……」

 

 ……照れ隠し、ではなく割と本気で思っていそうな顔だ。

 まぁこの期に及んで満更でもないようなら、そもそも賀陽さんは引退しようとしていないだろう。

 

「……手毬は単純だから良いとして、美鈴は搦め手を使ってきそうなのが厄介ね」

「タイプとしてはそうですが、話をしていた限り割と真正面から向かってきそうな感じでしたよ。おそらく、ですが……」

「……あなた、十王会長と仲良いんだから、そっちの方面から上手くコントロールできたりするんじゃない?」

「近いうちに話をしてみようかとは思っていますが……」

 

 ……星南さんは、間違いなくいろいろと能力が高い人物なのだが、あの秦谷さんを制御できているビジョンは正直思い描けない。

 アイドルとして確立しているイメージと裏腹に、他のことでは結構なポンコツかますことがあるんだよあの子は……。

 

「……まぁ、その時が来たら、考えましょう」

「……そうね」

 

 対『SyngUp!』はこれに限る。

 オペレーション『現実逃避先送り』だ。

 

「秦谷さんについてのご報告は以上です。賀陽さんからは大丈夫ですか?」

「ええ、特には」

「では、次の議題に移りましょう。毎度のことですが、現状確認ですね――」

 

 

     ☆ ☆ ☆

 

 

 ――現在、賀陽燐羽の実力は、大きな成長を見せている。

 

 ようやく4月が終わろうというタイミングだが、目標としていた1()0()0()()は、達成してしまったと言っていい。

 

 ……それどころか、たぶん、今の彼女は中等部で活動していた頃以上で、目標地点はとっくに通り過ぎてしまった。

 

「……そんな馬鹿な、と思われるかもしれません。第一、中等部時代の賀陽さんの実力を正確に測るのは難しいですし……ただそれでも、おれの肌感覚としては間違いないです。しかも、まだまだとどまる様子もない……レッスン一回ごとに、みるみる能力を伸ばしています」

「……いただいたレポートを見ましたが、客観的事実に基づいてよく書けています。ですから、それをもとにしたプロデューサーくんの直観も、きっと合っているのでしょう。賀陽さんはここにきて、アイドルとして確かな成長を遂げています」

 

 おれの対面に座るあさり先生は、手に持っていた資料を机の上に置き、顔を上げてそう言った。

 

 第三回終活会議の後編を終えた翌日、進路指導室にやって来ていたおれは、しばらくぶりにあさり先生と面談をしていた。

 

 月末ということで賀陽さんのプロデュースの振り返り、現状報告をすることになっていたのだが……面談の日の直前になって、状況は大きく変わっていたのだった。

 

「それに、私の方からもトレーナーさんたちにお話を聞きましたが、皆さん揃って賀陽さんの成長について同意していらっしゃいました……賀陽さん自身も、自覚はあるんですね?」

「ええ、昨日のミーティングでやんわりと指摘しましたが、自覚的です。ただ、それを意外とも思っていないようでした」

 

 悪いことでは、もちろんない。

 しかし、本人はけろっとしているが、おれやあさり先生たちからすればちょっと信じ難いほどに意外なことだった。

 

「プロデューサーくん、レポートではデータを元に賀陽さんの現状を考察してくれていますが……()()()()()()()()からは、どういうふうに考えていますか? 聞かせてください」

「……そうですね」

 

 おれは腕組みをして少し考え込み、言葉をまとめてから答える。

 

「賀陽さんは今……とても、レッスンを楽しんでいます。トレーナーさんたちからの指導がある時も、自主レッスンであっても」

 

 レッスンが好きだ、と賀陽さんは言った。

 そしておれは、我慢はしなくていい、と賀陽さんに言った。

 

 おそらく、それがすべてなのだろうと思う。

 

 今の彼女の根底にあるのは、アイドルとして現実的で模範的な向上心ではない。

 それよりもずっと純粋な、素朴な……小さな子どもが抱くアイドルへの憧れのような理想的なものが、見えるような気がする。

 

 ネガティブな意味は一切なく、今の賀陽さんは子どもの頃にやるような()()()()()()()を楽しんでいるみたいに、おれの目には映っていた。

 

「皮肉な話ですが、終着点を決めたことで賀陽さんの止まっていた時間が動き出した。氷が溶けだしたような……上手く言えないですが、これ以上のことってないように思います」

「ええ、きみが、賀陽さんのために作り上げた環境です」

「おれだけではない……って、この前も似たようなことを言った気がしますが。特に今回に関しては、トレーナーさんたちにも、とてもよく協力してもらっていますから。たぶん、もどかしい気持ちも抱えながらで、賀陽さんには何も言わないでいてもらっています」

 

 もったいない、と。

 底知れない賀陽さんの才能を間近で目の当たりにして、そう思わないはずがないのに。

 

 ……とは言え、過度に謙遜するつもりもなく、自分がプロデューサーとして賀陽さんに提供できた価値の一つだと認識しているし、満足もしている。

 

 この状況をさらに良い方向に導けるかは、おれのプロデュース次第だ。

 

「……プロデューサーくん。実は、それに近しい話で、一つ共有しておきたいことがあります」

「……なんでしょう?」

 

 ……と、不意にあさり先生がやけに神妙な顔で言うので、おれは訝しみながら聞き返す。

 

 先生は、誰に聞かれるはずもないのに、声を潜めた。

 

「これは、現時点でさえまだ確定はしていないのですが……定期公演『初』について、今年度から扱いを変えようという動きがありまして」

「はぁ、扱いを変える……?」

「はい。具体的には『初』への参加を原則強制、アイドル科生徒たちの実技試験の代替とする、と」

 

 ……なんじゃそりゃ?

 

 定期公演『初』は、以前星南さんに参加を誘われた初星学園のアイドルたちの登竜門的イベントだ。

 

 ただし同時に、『初』はいつでも誰でも参加するようなものでもない。

 たとえば今の時期、プロデューサーが付いていない大多数の一年生はもちろん、付いている一年生だってまだまだ準備中。

 今後の開催タイミングでも他のアイドル活動との兼ね合いもあるから、何週かにわたってオーディション試験、そしてライブまでおこなわないといけない『初』が定期試験扱いとなると、いろいろ予定が狂う生徒たちは多いだろう。

 

 ……しかしまぁ、なんだ。

 

 わざわざあさり先生が先んじておれに話をしてくるということは、そういう学園全体にかかわる問題というわけではないのだと思う。

 

「もしかしてなんですが、十王社長がかかわってますかね」

「まぁ……はい、おそらく」

 

 やっぱり。

 

 引退表明はもちろんのこと、おれが賀陽さんをスカウトした時点からいつ十王社長が動いてもおかしくないと思っていたが、ついにその時が来たらしい。

 

 となると、『初』への強制参加なんて制度改革の狙いは……。

 

「……賀陽さんを表舞台に引きずり出すため、ですかね。それで……露出を増やして、ファンに引き止めさせようとでもしている、とか?」

「そうですね、単純に考えるとそうなります……すいませんプロデューサーくん、先生にとっても急な話で……」

「いえ……まぁ、全員が全員おれの味方じゃない、なんていうのはわかっていますから」

 

 さすがに、十王社長の一存だけでこんな話が持ち上がってくることはないだろう。

 

 学園内に賀陽さんのアイドルの才能を惜しむ人間がいるのはまったくもっておかしなことじゃない。

 とは言えそれは先に言ったような、トレーナーさんたちのような人たちではなく、学園経営をしているような大人たちだ。

 彼らは、十王社長を始めとして、結局アイドルをビジネスのメガネを通して見ているから……それが悪いことだと言うほどおれも純真なわけではないものの、だからって他のことをまったくなおざりにしていい訳ではないはずなのだが。

 ……とは言え、さらにその上にいるのが学園長だから、十王社長に便乗するくらいが限界なのだろうが。

 

 定期公演『初』は、5月頭の連休明けからエントリーが開始される。

 今の時点でまだあさり先生が確定でないなんて言っているあたり、かなりの無理を通そうとしている感もあるが……いや、ドア・イン・ザ・フェイスの要領で、全員強制参加っていうのは捨て案かもしれない。

 

 うーむ、つい最近自分で、しかも担当アイドル相手に似たようなことをやったので非難しづらい……ともあれ落としどころは、プロデューサーが付いているアイドルの原則参加、くらいになるだろうか。

 

 それでもちょっとひどいと思うが、それで発生するリスクよりも、賀陽さんのアイドル生命を優先するという判断は……なくもないかもしれない。

 

「……ま、やりがいのある仕事だと思って、いっちょ頑張りますか。担当アイドルを守って死ぬ、これぞプロデューサーの本懐でしょう」

 

 ……と、口に出してしまった後ですぐに「まずい」と思った。

 

 案の定、あさり先生がおれのことジトーっとした目で見つめていた。

 

「……プロデューサーくん、先生は、そんなこと教えた覚えはありませんよ」

「はい、あの……すいません」

 

 本当にすいません。生きます。

 





この後ぷんすこ怒ったあさり先生に機嫌を直してもらうために一緒にお昼ごはんを食べたらしいです。
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