※呪術廻戦の皮を被ったオリ主が、かぐやに求婚を申し込むだけの話です。


ただし、オリ主の中身は東堂葵(ちょんまげゴリラ)とする。


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酒寄彩葉に数年ぶりの緊張が走る

 

 

今でも昔でもないとある近未来。

常夜に広がる古めかしき木組みの寺々に、新しき超高層ビルが入り交じる不思議な不思議な世界。

そこに住んでいるのは獣のような耳を生やし晴れ着や礼装を纏い歩き踊り楽しむ人々……否、()()が住んでいる。

 

仮想空間"ツクヨミ"。

 

そこでは全世界中の人々が表現者(ライバー)

今日も人々は誰かに、自分に、感動(ふじゅ〜)を与える為にこの電脳世界に形作られた世界で遊び回る。

それは、蒼天なる山脈に森林や竹そして砦が生え並ぶこのKASSEN専用バトルフィールドにて、自らの可愛さをこれでもかとアピールするウサギ耳の少女…

 

一言で詠むなれば、

『金髪 ギャルい かぐや姫』

(自由律俳句)。

 

「かぐやっほ〜!今日はね、昨日言ってたアレ!やっていこうと思うよ〜!!」

 

«かぐやっほー!

«かぐやっほ〜!

«視聴者参加型うおおおおお

«かぐやっほ〜!かぐや〜!オレだ〜!結婚してくれ〜〜〜!

«かぐやっほ〜!祭りが始まるな…

«かぐやっほー!wktk

 

絶賛人気ドジョウ登りならぬウナギ登り中の新人ライバー"かぐや"も例外ではない。

特に現在行われているツクヨミ大規模企画"ヤチヨカップ"に参加し、登録者数一億人をも超える超〜〜〜人気ライバー"月見ヤチヨ"とのコラボライブを狙っているのであれば尚更である。

 

「オタクのみんながど〜〜〜しても!かぐやと結婚したい♡なーんて言うから……

ここにッ!かぐや争奪KASSRN選手権の開催を宣言!!

するッッ!!!!」

 

聴く人を魅了する美声と奇声━━━言葉が悪いが本当に可愛と奇妙が共存した魅惑の悪童ボイスを張り上げ、天に指を突き立てたかぐやは今日の配信で行う企画"かぐや争奪KASSRN選手権"の開始を告げる。

 

«うおおおおおおお

«優勝だ!優勝だ!優勝優勝優勝だ!!

«うおおおおおおおお

«うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

«視聴者参加型たのしみー

 

"かぐや争奪KASSRN選手権"

それは現在人気急上昇(バズり)中の"かぐやいろPチャンネル"が、現在大流行(バズり)中の対戦ゲーム"KASSEN"にて行う、超!視聴者参加型企画である。

かぐやいろPチャンネルのメイン活動はオリジナル曲、ダンス、料理、雑談。そこに最近となってゲーム配信が加わった。

始めてたった数日の初心者にしては異例のスピードで上達していく彼女の才能(プレイヤースキル)に魅了される者、

単純に初の視聴者参加型企画に興奮する者、推しが現在ハマっているゲームをプレイしてくれる事に喜ぶ者、そして……………

 

「ルールは簡単!いろPに勝てた人がかぐやと結婚!!!」

 

その一言は、視聴者(リスナー)をKASSENへ駆り立てた。

 

『優勝したら、推しと結婚できる。』

 

«かぐやちゃんは俺が頂く。

«は?かぐやちゃんは俺のだが??

«いろっぴ〜!いろPが出てくると聴いて

«うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

«ボクのデータによればかぐやちゃんと結婚できる確率168%………!

 

視聴者(リスナー)のボルテージが 上がる。

 

「おお〜っ!皆、超〜やる気マンマン!!いろh……うっヴン!

いろP♡守ってぇ〜〜〜!」

「えっと…いろっぴ〜……

いろPです。」

 

いろPに数日ぶりの緊張が 走る。

 

いと、あざとし猫撫で声ならぬ()撫で声でかぐやが抱きついた先に居たのは、どこか仏頂面(チベットスナギツネ)の着ぐるみ…かぐやいろPチャンネル裏方兼音楽担当プロデューサー"いろP"である。

 

«いろPキターーーー!!!

«いろP!!!!!!!

«いろっぴぃ〜!好きだ〜!結婚してくれ〜〜〜!

«いろPには悪いが求婚なんでな…負けてもらおう。

«いろっぴぃ〜いろP、いつもお疲れさまです…

«いろPってゲームとか上手いんか?

«いろPきちゃーーーーー!!!

 

「ははは…本日は、よろしくお願いします〜

(うっわ…皆すっごくやる気じゃん。かぐやのバカ……なんで本当に始めちゃうのよ…!)

 

盛り上がる視聴者、ツケ上がるかぐや、それに反比例して下がり続けるいろPのテンション。

何がどうしてこうなったのか?

 

事の発端は先日。

 

「そしたら〜まみまみのアネゴが一人で天守閣へ行ってな〜ロケットランチャーを〜〜〜」

«かぐやちゃん結婚しよう

«俺の為に毎日味噌汁作ってくれ

«(結婚しよ…)

«結婚してくれ〜!

«ケコーン汁

«かぐーやに告白しようと思ってる

«(結婚した…)

「ゔぇぇ!?どうしたの皆いきなり!???」

 

かぐやが普段通り料理や歌などの雑談を行う配信をしていた所、大量の求婚コメントが飛んできた。

それをいろPが即TO(タイムアウト)していた途中に、かぐやがとある名案を思いつく。

 

「じゃあKASSENでいろPに勝った人がかぐやと結婚するって事で!!」

「は?」

 

かぐやいろPチャンネル、恒例のフッ軽企画考案。

いろPにとっては当に寝耳に水、蒼天の霹靂、ドオン上弦の…参?どうして今ここに…状態であった。

 

配信の裏であーだこーだ口神戦を行った結果、かぐやちゃん必殺"上目遣いおねだり"に屈した(0勝4敗)いろPは、寝る間も惜しむ重要な事情(受験勉強)を切り上げ……

そして、今に至る。

 

「はい!まずは一人目!!えっと……『石鉢の上にも三年』さん!」

「一番やったー!かぐやちゃん、いつも応援してます!!」

「フンフン〜いつも応援ありがとね〜〜〜」

「はーいはいお客様ー?大変申しわけありませんが距離感、ソーシャルディスタンス、マナーを守っていただければ幸いでございますッッ」

「アッハイ!スミマセンデシタ……」

 

映えある一番手(鉄砲玉)として無作為に選ばれたのは青い着物を着たツクヨミでは結構いる顔(イケメン)な青年。

記念すべき視聴者参加型一人目に選ばれた興奮からかユーザーネームも数秒で穿たれるくらい真っ先に駆け寄った結果、無事間合いをミスり握手会の警備員のような口調でいろPに阻まれていた。

 

«抽選外れた〜!

«くそー当たらんかった。

«フッ…寿命が延びたないろP

«ワイのかぐやちゃんに触れてんじゃねぇテメー!

«次こそ当たれ〜!!

«は?俺のかぐやだが???

 

やいのやいのコメントする視聴者を尻目に、

マッチングの準備が完了したSEが鳴る。

ルールはSETSUNA(1v1)モード。体力ゲージを削り切り、二本先取した方が勝利する。

フィールドはランダム。今回のフィールドは見晴らしの良いが足場の悪い岩場フィールドが選ばれた。

デフォルト位置に居る審判(もどき)として参加したかぐやを挟むように、少しずつ距離を離れて相対する二人。

二人が手を伸ばした先に青いホログラムが舞ったと思えば、いろPの腕には鍵盤を模した双剣が、参加者の手には三本の矢を(つが)えた弓が握られていた。

 

「弓矢かぁ…」

「はい!持ち武器なんで!いろPさんには悪いですけど、勝ちに行きますよ!!」

「ハハハ…ドウモオテヤワラカニ…」

 

«いろPがんばれ〜!オレ以外に負けないでくれ〜〜〜!

«着ぐるみのまま戦うん?

«いろPインファイターなの!?てっきり後方支援タイプだと……

«いろPファイト!!

«タイマンなら弓有利かなぁ

«着替えずKASSENとか舐めプですか?素顔見せて(怒)(怒)(怒)

 

「(もう!好き勝手言いよるなぁ……!!)」

 

とりあえずコレが終わったら最後に見たクソコメントはBANしよう。その思考を最後に、いろPは目の前の相手に集中する。

それと同時にかぐやの合図する声が聞こえた。

 

「ほい!それじゃあ〜?

スタート!!!!!!」

 

ROUND1!

プォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 

響き渡るかぐやの声とKASSENが始まる法螺貝のようなSEを聞くや否や、参加者は弓に矢を番えながら器用にも後ろ向きに走り、いろPから距離を取る。

普段、滅多な事では配信に出ない裏方担当のいろPが、どの程度このゲームをやりこんでいるのかは未知数……

ただ、この少ない対面でわかった事は一つ。

 

「(かぐやちゃんは至近(ガチ恋)距離で見たらメチャクチャ可愛いという事………!

………じゃなくてぇ!!!相手(いろP)は双剣使い。すなわち"近距離戦主体スタイル"だ!!)」

 

参加者も伊達に視聴者参加型に参加する程野暮ではない。人並みにこのゲームをやり込み、弓矢のAIM(命中率)に少しばかりの自信がある。

故に命中率は上がるが接近されるリスクのある中距離戦ではなく、近接相手に一方的に攻撃できる遠距離戦を選ぼうとした。

 

「勘違いしてるみたいだから言っておくけど」

「へ?」

 

選ぼうと()()

 

「そっちが挑戦者(チャレンジャー)だから。」

 

距離を取ろうとしたはずの相手の声が、

()()から聴こえてきた。

 

「えっ嘘!?なん…

ヘブぁ!!!!!!!!!」

 

反射的に振り返ると同時に斜めにバッサリと袈裟斬りにされる。

桜色のダメージエフェクトが舞い散る最中、参加者が見たのは、

 

「対戦、ありがとうございました。」

 

淡々と戦闘終了(GG)を告げるいろPの、

修羅が如く、無機質に佇むキツネの顔。

 

正直に言うと、視聴者(リスナー)達はいろPの事を少し………いや、かなり侮っていた。

異例の上達スピードでのし上がっていくかぐやと度々ゲームコラボ配信もしていた彼女の友人たち"ROKA"と"まみまみ"。

エンジョイ勢(遊び)の中ではかなり上手い方な3人と同程度……

普段あまり表に出ない事も含めてゲームとか苦手なのでは無いか?と予想する者まで居たのだ。

 

「ぐわあああ!かぐやちゅわ〜〜〜ん!!!!」

 

«またPerfect KO(完全勝利)…!?

«近距離コンボすご!?!?どんだけ速いんだ!?

«フッ…オレの寿命が延びたな……

 

「蹴る!避ける!これd……うわあ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 

«これマジでいろPが優勝するんじゃないのか?

«もう諦めてる奴居てワロタ

«いろP、こんな強かったんだ……

«企画倒れやんけ〜〜〜!?

 

「次鋒レオパルドン行きます!!ギャア〜〜〜!!!」

 

«え?いろPの中の人って実はプロのお人???

«お前ら今の動き見えたか…?

 

「しゅ……ら…………」

 

«【現在】27連勝。

«出来レースか???

«つ、強すぎる…こいつ無敵か…!?

 

視聴者(リスナー)は、魅せられていた。

 

「ふぅ…対戦ありがとうございました。」

 

 

"文武両道、才色兼備ありけり。"

いろPを知った、皆が驚く。

 

 

「〜〜〜!さっすが彩葉〜!!!!」

「わぁ!?ちょっ…かぐや!??」

 

ひっきり無しに参加しては千切っては投げ千切っては投げされていた参加者の波が止まると同時に、かぐやは彩葉…じゃなかった、いろPに抱きついた。

すりすりと人懐こく抱きしめるかぐやに、思考が戦闘モードだったいろPは一瞬判断が遅れて成すが儘にハグされていく。

 

ちなみにこのハグは普通にカメラど真ん中で行われている。

 

«あら〜!

«キマシ

«あら〜!

«もういろPが優勝でいいんじゃないかな。

«キマシタワー!

 

「ちょっかぐや…!配信!カメラ回ってるから……」

「え〜?別にイイじゃん〜〜」

「よくないから!!ったく……」

 

毎度の如く、キマシタワーなる謎の建造物が建てられる。

といっても本当にほぼ毎日建てられているのだが……

 

「さぁ〜て〜〜?みんな〜もう参加したい人って居ない???」

 

«い、いろPほどの実力者が優勝なら……

«いろPと武道家(ゲーマー)として手合わせ願いたい。

«YOUたち いろPと結婚しちゃいなYO!

«当たらんくて良かったと思うべきか撮れ高になれなくて悔しいと思うべきか

 

「えぇ〜?そんな!いろ……Pと結婚だぬぁんてぇ〜〜〜!」

「はぁ〜…しません。」

「辛辣ゥ〜!!」

 

蓋を空けてみれば圧倒的な実力を見せつけたいろPが優勝者であるという雰囲気により、今日のライブ配信は一気にお開きモードに移ろうとしていた。

 

「じゃあ最後にあと一人!!!ラストチャンスだオタクども!!!」

「ちょっまだやるの!?」

「最後の最後だから!お願い?」

「………もう。本当に最後だからね??」

「よっしゃーーー!」

 

«うおおおおおおお

«おおおおおおおお!!

«うおおおおおおおおおおおおお

«やったー!!!!!!

«お〜〜〜!!!

«キマシ

«うおおおおおおおおおおおおおおおおお

«おおおおおおおおおおおおお

«おお!!!!

«うおおおおおおおおおおおおお

 

泣きの一回。

初の参加型で推しと対面して対戦できる最後のチャンスに気付けば大幅に増えていた視聴者達は大いに沸き立った。

かぐやが表示させた抽選ボタンを押すと、参加希望者の中からツクヨミが完全乱数によって選ばれた1人のユーザーネームが表示される。

 

「どん!最後の人は〜〜!?…………え〜っと?ブキアソ…ビ?さん!!」

「ぶきあそび…?あ〜これは多分……」

 

表示されたのは漢字四字の四字熟語。

かぐやはとある諸事情(うちゅうびと)で、数学・理科(それと家庭科!)には強いが、漢字には疎い。

これまたとある諸事情(超ギリ限界苦学生)により古文・英語が得意ないろPは、UIに表示されたユーザーネームの正しい読み方を天才的な頭脳で導き出す。

 

不義遊戯(ブギウギ)さんかな?」

 

 

パァァァァァァァァァン……………………

 

 

瞬間、

空気を割ったかのようなよく通る()がした。

 

「え?」

 

同時に、いろPの見る景色が変わる。さっきまで踏みしめていた地面と竹林ではないし、何よりも隣にいたはずのかぐやが居ない。

 

「これは…!!?」

「祇園精舍の鐘の声…諸行無常の響きあり。」

 

野太く、存在感のある声がフィールドに響く。

 

いろPが声のした方向へ振り返ると、そこには()()()()()()()()()()()()にかぐやと━━━━━

 

「うぇ?」

「娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理を現す……」

 

かの有名な平家物語の一説を諳んじる謎の大男が、居た。

 

「これは…瞬間移動スキル?」

「ただし…」

 

これみよがしに見せられれば、KASSENに詳しい人間なら即座に理解できる原理(スキル)。だが理解できないのは……何故こんな事をしているのか?

 

「俺達を除いてな。」

 

それを知るのはこの漢のみ。

 

「うぇええ!?誰ェ!???????」

 

«誰ェ!?

«誰ェ?????

«誰ェ……怖いぃ…………

«誰ェ!?!?!?!?

«誰ェ!??????????????

«誰ェ!?

«誰ェ……!?

 

この瞬間、この配信に関わる全ての人間(と電子生命体)が同じセリフを発した。

かぐやと視聴者(リスナー)の心がこれほどまでに一致したのは恐らくミニライブを行った時以上だろう。

ビシッ!っと襟を正し、大男…不義遊戯は驚き固まるかぐやの目の前に立つと………

 

「東堂アオイ。高()三年。ずっと前からファンでした。」

「うお~!ムッキムキだ!?ムッキムキのちょんまげゴリラ!!」

 

背筋良くお辞儀しながら自己紹介。

焦茶色のドレッドヘアと鋭き眼光に架かる一筋のスカーフェイス。紺色の羽織からは紫色の着物と浮き出る胸筋がチラりはらりな大男。

しれっと本名と年齢を明かしたような気がするがこの男の名前(ユーザーネーム)は"不義遊戯"である。

 

「エ〜?ずっと前からー?へへーん!いつも応援ありがとね〜」

「ほぁ〜〜〜………

あの、かぐやちゃんルーレット、お願いできますか?」

「んぇ?良いよ!ドゥルルルルル……カニ!」

「おぉ…」

「ドゥルルルル………うさぎ〜!」

「はぁ〜………」

 

«何この…何?

«いいな〜!オレもお願いしたかった。

«クソォーッッその手があったかッッ

«あの顔、どっかで見たような……?

「ハァ~だから、こういう変なヤツが来るから止めとこうってぇ……」

«いつまでも情報が完結しない!!

«求婚に釣られて焦っちゃったけど、普通にファンサお願いすればしてくれるんだな……

 

常識の外にいるのか内にいるのか?

少なくともこの男が己の理解の外に居る事だけは理解したいろPは、参加者(不義遊戯)がこれ以上変な事をしないよう、かぐやの前に立ち、丸太のように大男と相対した。

 

「はい!お客様お時間でーす!お下がりくださ〜い!!」

「む、むぅ……仕方ない…待っていてくれ。かぐやちゃん。俺は無理難題を乗り越えッ!かぐやちゃんの求める数々の秘宝を手にッ!立派な夫となりてッ!再び、君の元へ向」

「はいはい。対戦始まるからさっさと準備してください……」

 

いろPは妄言を聞き流すかのようにそう言うと、不義遊戯から距離を取るようにかぐやを引っ張って配置に着く。

 

「そ〜だった!それじゃ、ラストバトル!!!いっくぞぉ〜〜〜〜!!!!!」

 

«うおおおおお……おお?

«うおおおおおうおおおおおうおおおおお

«うおおおで良いのか?

«良いんだよ、うおおおで。

«おお

 

困惑や疑問はもういいんだ。とばかりに勢いで押し流し、選手権はいざ最終試合へ!!

踏みしめられ砕けた地面やスッパリと切れた竹林が光り輝く。

一瞬で再構築された景色は大小様々な木々が生い茂る森林のフィールドだった。

 

「……武器、出さないんですか?」

「ん?ああ、使うと()()じゃなくなってつまらんからな………オマエの得意で()ってやろう。」

 

威風堂々と腕を組みながらそう述べる不義遊戯に対し、いろPは顔を顰めて不快感を露わにする。

 

KASSENというゲームはシンプルなシステムながら奥が深い。様々な武器に様々なスキル、そして様々なコンボがある。

言い方は悪いが、筋肉ムキムキマッチョマンの変態ならば恐らく使う武器は拳帯(グローブ)鉄拳(ガントレット)…少なくとも近接主体だろうと予想していたからだ。

 

武器を使わないという事は必殺技(ウルト)やコンボを使わないという事。

辛うじて拳帯(グローブ)(ネイル)三節棍(トンファー)などの技術を応用できるだろうが、それならその武器を使った方が火力が出るし速い。

 

«武器縛りとかマジ?舐めプかよあいつ

«いろPがんばれ〜!

«武器使わない筋肉ゴリラゲーマー…?ま、まさか・・・

«アレだけ無双したいろPさん相手に舐めプとかアホだろ

«いろPがんばって!!

 

視聴者参加型抽選に選ばれたという事は、いろPが27連勝した姿を見ていたという事。

それを含めてなお、勝てると思われている。

ナメプしてでも勝てるのだと、侮られている。

そして何より━━━

 

「(ほんまのエリートは仕事も遊びも疎かにせえへん)」

 

思考の奥底でこびりついた声が響いた気がした。

 

「(………遊んでる時にまで出てこないでよ。)」

 

(かぶり)ごと声を振って払うと、いろPは双剣を構える。

この数年やり込んだ最中で最も手に馴染む自らの十八番。

ふと嫌な"予感"がした。いろPは十数年の経験上、こういう時の嫌な"予感"がよく当たるものだと知っていた。

 

「"まだ本気を出していない"なんて言い訳、通用しませんから。」

「フッ…それで良い。俺を退屈させてくれるな。」

 

ROUND1!

プォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 

«がんばれ〜〜〜

«双剣のスキンかっこよ!?

«やっぱ初動凄い速さだな!??

«明らかに馴染んでそうな双剣…本気だね(ペロッ

«マジかよ!マジかアイツ……!!!!

«一人称視点だと追い切れずに斬られたからなアレ

 

始まりを告げる法螺貝と同時にいろPは駆け出す。

 

力は重さと速さ。

どちらが最初に一撃を決めるかどうかで戦いの主導権は決まる。

 

特にいろPが得意とするブーメランと双剣(…それと最近になってそこにキーボードが追加された。)を自在に変形するこの武器は、使えば使うほど手に馴染む代物だ。

 

「(動きが鈍い…?これなら行ける!!)」

 

いろPは持ち前の才能と数年間やり込んだ経験とを発揮し、双剣の68(十割)コンボを決めるべく不義遊戯に最速で斬り掛かり━━━

 

「ふんッッッ!!!」

「!?」

 

()に阻まれる。

ほとんどのゲーマーでも回避が困難ないろPの速攻を、不義遊戯はなんと顔面セーフによって防いだ。

速攻故にあまり威力が乗らなかったのもある。

それでもクリティカル判定になれば、5割は削れるはず。

 

それを、避けるでもそらすでもなく受け止める。

それも、スキルや必殺技(ウルト)も使わずに。

 

「それじゃ…お返しだ!死ぬ気で守れ!!」

「ッ!!」

 

額から桜色のダメージエフェクトを流しながら、不義遊戯はギラギラとした微笑みでギリリリと重厚な音を立てながら右腕を振り絞る。

 

その卓越した操作技術(キャラコン)に動揺したいろPは、一瞬だけ判断に迷い隙を見せてしまった。

 

「(………避けられない!)」

 

そう判断したいろPは即座に双剣で剛腕を受け止めようとする。

その瞬間。

視点が揺れ動き、まるで鐘を撞木(しゅもく)で叩いたような重い振動がコントローラーを通して両腕を襲った。

 

「ッッ……!!!!」

 

重い。

ズドオオオオンという音と共に木々もろとも吹き飛ばされ、着ぐるみに土埃を纏わせながらもいろPは冷静に体力(ライフ)ゲージを確認する。

あの一撃でおおよそ二割くらい減っていた。もし相手が拳帯(グローブ)鉄拳(ガントレット)を装備していた場合………恐らく5割ほど減らされていただろうか?

それほどまでにパワーが…物理演算が加算された()()()()だった。

 

«は……………?

«ドラゴンボ◯ルみたいな吹き飛び方したな

«いろP!!!!負けるな!!!!

«物理演算バグってない????

«やっぱアイツ、『不義遊戯』か!?なんでプロゲーマーがここに!???

«いろPーーーーーー!!!

«誰なんだアイツ!?

«CM2-KIU CUPで月見ヤチヨと帝アキラに渡り合った怪物!!少なくともこんな新人ライバーの視聴者参加型に居て良い奴じゃない。

«なに そん?

«知っているのか雷電?

 

「ゔぇぇぇ!?プロ!?!?マジ????」

 

正拳突きを終え、不敵に笑う不義遊戯を見て視聴者(リスナー)はかの正体に思い当たる。

 

"CM2 KI-U(シメツカイユウ) CUP"。

 

人気ライバー"サク索メロンパン@ピンチャン"が開催したバトルロイヤル式のKASSEN大会。

 

数多の強者が集う電子上の蠱毒。

誰しもが人気プロゲーマーを勝利を予想し合う大規模な大会にて、誰も聴いたことのない新人プロゲーマーが参戦していた。

 

不義遊戯(ブギウギ)

 

古来よりジャズやロックのルーツとして親しまれていた音楽、その名を冠したその男は。

 

当時から絶対王者として君臨するブラックオニキスのリーダー"帝アキラ"、

御年91歳…ツクヨミ黎明期より活動する宿老"ドルゥヴ・ラクダワラ"、

超革新的技術を用いられ創作された夢の電子世界ツクヨミの管理人"月見ヤチヨ"、

 

有数の実力者が三竦み四つ巴で睨み合う魔のCグループ、その一角を瞬殺。

苛烈極まる数十分間の死闘の末、帝アキラとほぼ相打ちに近い形で敗北したと言われている。

 

その伝説が今…………………

何故か、新人ライバーの視聴者参加型ライブ配信に参戦している。

 

「(落ち着け…落ち着け私。アレは恐らく…ううん、絶対に私より強い!!)」

 

遠く離れた距離に居てもスッパリと聞こえるかぐやの驚く大声を聞きながら、いろPは片割れを失った双剣を片手剣モードに変形させ、両手で持つ。

深呼吸しながら冷静に勝つ為の思考を巡らせていく。

今のいろPにコメント欄を見る暇など無い。それでもかぐやの反応を見るに相手は実に名うてのプロゲーマーなのだろうと推察した。

なればこそ、生半可な不意打ちや小細工では勝てな━━━

 

「フンッッッッ!」

ド ゴ ォ !!

「!?」

 

木々を()()()音を聞いた時には既に、不義遊戯は嵐のようなスピードで殴り掛かっていた。

 

「フンッッ!ヌゥンッッッ!!!」

「ぐっ……!!!」

 

反射的に防御体勢を取るも、丸太のように太い拳が、足が、全身が唸りを上げて次々と連打されていく。途切れのないコンボだ。明らかに試合経験(プレイヤースキル)が違う。

 

いろPは完全に戦いの主導権を握られていた。

 

「どぉりゃあッッッ!!!!」

「ぐぁッッッ!!!!」

 

容赦のないかかと落としが脳天を貫(ヘッドショットしてい)く。

痛みは無い。当然だ、あくまでもキツネの着ぐるみ(アバター)が陥没したのかと思うくらいに視界が揺れただけだ。

それでも、いろPは思わずリアルで目を瞑ってしまった。

 

「……………………………終わりか。」

 

不義遊戯がふと、追撃用の構えを解く。

折れた丸太に背を預けうずくまるいろPを見て、先程のギラついた笑みが嘘だったかのように悄気た顔をして佇んでいた。

 

「彩葉ァ〜〜〜〜〜!!!!!!」

 

その光景を見てかぐやは叫ぶ。

あの最強無敵だったいろPがが、完膚なきまでに叩きのめされている。

 

«うわぁ………

«痛そうすぎる

«テメー!!!!!!1いろPになにすんだ!!!!!!

«えげつねぇな・・・・・・

«あのいろPが…負けた!?

«いろPーーーーー!!!!

«ざけんなや 人の心とか無いんか あのゴリラ

 

その衝撃な事実に視聴者(リスナー)も阿鼻叫喚の嵐であった。

 

「仕方ない…それじゃ、かぐやちゃんとハネムーンへ向かうと━━━━━━」

 

するか。そう言いながらかぐやの居る方向へ足を進めた瞬間、ヒュルルルル…という空気を斬る音が聞こえた。

 

「ッ!!」

 

後ろからの投擲ッ!!

不義遊戯は危うげ無く投げられた剣をガシッと掴み取ると………

 

「お前、マジか。」

 

再び白い歯を大きく見せて笑った。

 

「ハァ…ハァ…人の頭バカスカ殴りおって…もしもバカになったらどうしてくれるのよ?!」

「心配するな…『男の子はバカなくらいが丁度いい。』とヤチヨちゃんは言っていた!」

「確かに言ってたけど…?私、女なんですけど…??うら若き乙女なんですけど…???」

「ふむ…………ならばいろP、お前に一つ聞きたい事がある。」

 

不義遊戯は掴んだ剣を無造作にいろPの足元に投げ返すと、居住まいを正していろPに()()()()を投げかけるのだった。

 

「どんな女がタイプだ?」

 

「は?」

«は?

«は?

«何を言ってるのかわからない…イカれているのか?この状況で……

«は?

«は????

「かぐやはね〜…ん〜やっぱ顔が良くて〜おめめが光ってて〜あとは…身長!タッパがおっきい女の子〜!カッコカワイイよね〜〜〜!!」

«ううん、どういうことだ。

«かぐいろてぇてぇ

«は?

«かぐやちゃん答えててワロタ

«わからん!いつまでも情報が完結しな

«は?

 

「即答とは流石はかぐやちゃんだな。それでこそ俺の愛妻(マイ・パートナー)だ………」

「???…かぐやのパートナーはいろPだよ?」

「かぐや…こういうの答えなくて良いから……はぁ〜……………」

 

困惑する皆に紛れ、しれっと答えるかぐや。

それを遠目に腕を組み自慢げに頷き女のタイプを開示する不義遊戯。

 

「気にするな、ただの品定めだ。

性癖にはそいつの全てが反映されるからな…女の趣味がつまらん奴は、そいつ自身もつまらん!

そして……俺はつまらんヤツが大嫌いだッ!!」

「な、なんちゅう奴や………!」

「さぁ、早く答えろ。男でもいいぞ?」

 

その方がヤバいでしょ。と言わなかった理性をいろPは褒めたくなった。

はっきりとわかった。こういう手合いに常識やモラルなどは通用しない。

いろPはわなわなと拳を握りしめ、ため息をついた。

今すぐこの変態に速攻で殴りかかってぶちのめし永久BANを決めたいが、残念ながらまだ有効な対処法を思いつかない。

時間稼ぎ兼弱点探しに適当に答えるのも悪くないか………。

そんな一心で、いろPは思考を巡らせる。

 

「えっと………まずウォレットのお金を勝手に使わない。勝手に私のパンケーキを食べない。あんまりヤチヨのライブの時に叫ばない。勝手にライバーなんかにならない。勉強してる時にうるさくしない。勉強してる時に遊んでって言って邪魔してきたりしない。勉強してる時に・・・」

「えぇ〜!?それってぇ!!かぐやの事〜〜〜!??」

「やっぱ自覚あるんかい!しかもなんで照れてんのよ………

とにかく!

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から!!」

 

性癖問答から、出るわ出るわの痴話喧嘩。

明らかに誰かさんを拒むような説明。逆説的に普段のかぐやの事だと悟るや否やこの悪童(わるわらべ)はニコニコ笑顔で照れ始める。

一応これバトル中だよね?そう内心思いつつも異様な空気に巻き込まれている事に自覚して更にため息が……なんなら魂めいたナニカを漏らし始めるいろP。

 

「ああ…やっぱりだ………………………」

 

その光景を見て不義遊戯は静かにツーーーっと涙を流していた。

 

«てぇてぇ

«てぇてぇ〜〜〜〜!!!

«っぱ"かぐいろ"なんだよな。

«泣いててワロタ

«フッ…涙拭けよ^ ^

«『いろかぐ』な?

«あ゙?"かぐいろ"やろドブカスが。

 

「退屈だよ、いろP。」

 

「えっ?」

«え?

«え?

«え?

«え?

「え?」

 

さっきまでの和気藹々とした気配が嘘のように一変する。

いろPを含め全員が異口同音に困惑を述べたのは恐らく偶然ではないだろう。

 

「そんな"予感"はしていたんだ……だが人を見かけで判断しちゃあダメだろう?それなのに…それなのにッ!!いろPは俺の優しさを踏み躙ったんだ……!」

 

不義遊戯の大号泣は収まらない。電子空間なはずなのに妙にリアルに泣く(だい)(おお)男。

しかし発せられる気配は紛れもなく━━━

 

「薄っぺらいんだよ…腕前も女の好みも!!」

 

殺意。

 

泣きながら再び戦闘の構えを取る不義遊戯を見て、いろPのため息は底をつき………… 

 

「あ〜〜!もう!!!!

そこまで言うなら…やってやろうじゃん!!」

 

ブチギレた。

いろPは吐き出した息とともに、このムカつくゴリラを殴る決意を決める。

 

«やったれいろP!!!!

«がんばえ〜〜〜!

「うお〜!やったれ〜〜〜い!!」

«ぶちのめせー!ぶちのめせー!

 

そんないろPに沸き立つかぐや。それと視聴者(リスナー)

 

盛り上がり行くコメント欄を背に、いろPは地面を蹴り襲いかかってくる不義遊戯へ対抗する。

今のいろPはキツネの着ぐるみ。ヒットボックスこそ大きいが、その分こういう殴り合いの際には物理演算が大きく働きダメージを稼ぎやすい。

ツクヨミで培った我流剣術(プレイヤースキル)で不義遊戯に食らいついていく。

 

「くどいッ!!オレが欲しい()じゃなーーーっっっい!!!!」

「くっ……なら!!」

 

いろPの片剣を避け、カウンターを仕掛ける不義遊戯に対し、

避けられた勢いで地面に落ちていたもう一振りの剣を拾い攻勢に転じる。

 

「ここ!!」

「ッ!」

 

双剣から岩をも切断する細糸を発射し、木の上を飛び回る。

右、下、上、左、縦横無尽に相手を撹乱しながら隙を探っていく。

 

ワイヤー(ピアノ線)かッ!!」

 

現在のいろPの体力(ライフ)ゲージは残り4割ちょっと。

ここから勝つにはコンボを全てクリーンヒットさせて68(十割)コンボを決める他無い。

いろPは風を切る音とともに不義遊戯の背後から三連撃を放つ。

 

「(木々の隙間を飛び回るこの反射神経…!先の体力差をものともしないメンタルと勝ち筋を探し出す知略!!)」

 

拳で叩き弾くと、それを予期していたかのように放たれる突き。

不義遊戯の傾けた首へ、頬から桜色のエフェクトがツーーっと零れ落ちる。

 

「(そして剣から射出されるワイヤー(ピアノ線)!恐らくは双剣同士を繋ぐ…そして何らかの中〜遠距離武器に変形するタイプだろう。それならば、広範囲の雑魚(ミニオン)を一掃出来るし、一対一でも搦め手として成立する!!)」

 

そこからいろPは今使える全ての攻撃スキルを発動させながら一気に攻め立てていく。その一つ一つの剣筋は鋭く、素人目には完璧な攻勢に見えた。

 

「だが…………………(だがッ!この()()()()()()()()()()……)

()()は………()()だけは………!!!」

 

不義遊戯の瞳に映るのは━━━━退屈。

 

「ちっがぁぁぁーーーう!!!!!」

「ッ!?……………かはッッッ!!」

 

嵐のような連撃を、不義遊戯はまるで見えているかのように、掌で剣の腹を叩いて軌道を逸らしていく。攻撃のリズムが崩れた刹那、いなされた反動を利用してカウンターを放つ不義遊戯の拳が、いろPの体力(ライフ)ゲージをすべて叩き潰した。

 

ROUND1 不義遊戯 WIN。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

«プロつんえええ!?

«こーれヤバいだろ

«いろPーーーッッ!!

«やばくねーよ☆

«ヤバいだろ

«助けてくれヤチヨ

 

「ヤッベェなぁ。」

 

暗い部屋の中、青年は七色に光る(ゲーミング)箸でカップ麺を啜りながら独りごちる。

 

「まさか東堂(不義遊戯)のヤツ、かぐやいろPチャンネルに殴り込みまで行くとはなぁ……」

 

その目線の前には複数の七色に光る(ゲーミング)モニターがある一つのライブ配信を映し出していた。

ROUND2、あらゆる手を尽くして巨漢に対抗するキツネの着ぐるみは尽く吹き飛ばされ、倒木ごと薙ぎ倒されていく。

その光景を筋骨隆々の大男が腕を組みながら眺める極めて不思議な光景を、青年は面白半分に眺めていた。

 

「武器にスキルまで縛った相手にここまでやられるなんて、()()なら鼻持ちならなくてご立腹かな?」

 

そう言いながら青年は七色に光る(ゲーミング)キーボードをタイプし『«いろPを信じろ(^^)』とコメントする。

 

「まぁ………今の彩葉ならここまでやられるのも"解釈一致"か。」

 

()()()()()()()()であれば有り得ない薄い存在感で、熱狂するコメント欄へ押し流される自分のコメントを眺めながら青年は顎に手を当てて思考を巡らせる。

 

思い出すのは数年前のあの大会。

"CM2 KI-U(シメツカイユウ) CAP"

 

『どんな女がタイプだ?』

 

数多の強者集うバトルロイヤルであっても青年…ブラックオニキスのリーダー"帝アキラ"は絶対王者であるのだと、その名声を轟かせ始めていた頃の記憶。

そいつを証明する為に出た大会で、出会ったソイツは変な質問を投げかけてきた。

 

『ん?そうだなぁ……むっちゃ自由気ままで、めっちゃ可愛くて、線が細いのに作画の良い奴…かなぁ?乃依みたいな。』

『乃…依…?ああ、あのフリフリメイド……ん?アイツって男じゃなかったか?』

『おーう。でもさぁー今日もすっげ作画良くてすっご自由気ままで………なんかこの前おもしれー箸プレゼントしてくれたぜ?福袋の余りモンらしいけど』

『………フッ、面白い奴だな。気に入った!!』

『そりゃどうも。』

 

あの時、背筋に走った怖気とそれを上回る興奮は今でも鮮明に思い出せる。

現在、一億人もの大衆が集まるツクヨミにおいて、一級の表現者(ライバー)になれるのは常人じゃない。

 

しっかりイカれている。

 

そんな言葉が似合うおもしれー奴だった。

 

「(あの時オレが大会で勝てたのは、彼に"仲間"と呼べる誰かが隣に居なかったからだ。)」

 

致命的なコミュニケーション能力の欠如と、それと引き換えた溢れんばかりの才能。

不義遊戯が"本気"を出()たのは、あの試合の時だけだ。その試合以外の不義遊戯はどうにも退屈そうで、周りと協調しない事からソロ専の中堅プロゲーマーとして安定してしまった。

 

「勝ち筋としてはここで萎えた東堂相手にもっと萎える遅延戦法して削っていく…って感じだけど………

こりゃダメかなぁ〜"解釈不一致"だ。」

 

帝アキラには、その孤高さに()()がある。

 

圧倒的な強者。

それゆえの孤独。

 

まるで突然、フッといなくなってしまいそうな最愛の家族がふと脳裏に(よぎ)る。

 

酒寄朝日(アキラ)()となる前の記憶。

愛する父親を事故で亡くし、変わってしまった母親と妹との関係。

愛に寄り添って生きた父親を目指して、

呪いに殺されてしまった父親のようにはなりたく無くて、

当時、プロゲーマーとして活躍していた"乙事照琴"に誘われるような形で家を出た。

 

決してその判断に後悔はない。

それでも時折思う。

あの時、彩葉を…………妹と母親(かぞく)を置いていってしまったのは間違いだったのではないか?と。

 

『(あの時、オレは楽な道を選んでしまったんじゃないか?)』

 

なんて。

 

『帝、お前は囚われ過ぎだ。』

『………(なん)によ?』

『自分…家族…言ってしまえば"人間"に……だろうか。』

『スケールでっか。……………フッ。』

 

そんなアキラには、後ろからバシッと背中を叩いてくれる"親友(なかま)"が居た。

ゲームというのは人間同士が電子の中でぶつかり合うコミュニケーション。

だが、人間は電子の外…現実で作られている。

ゲームの中で人間を突き詰めていくには、覚悟して飛び出していくしかない。

 

『(……本当に飛び出すわけには行かないけどさ。

あの時、母さんと大喧嘩して彩葉も連れて行ってたら………

彩葉もブラックオニキスで、四人で戦う運命だったなら………)』

 

共に鬼の角を生やして、全ての人間をメロつかせ、喜ばせ、笑顔にしていく二組四人の兄()

酒寄朝日(帝アキラ)の脳裏に、無数の解釈(IF)が浮かんでは消えていく。

 

『もっと"自由"に生きればイイじゃん〜?』

『……………………ハハッ!最高だな、それ。』

 

軽々しく……しかし最高に熱い眼で見つめながら、そう言い切った乃依と雷(仲間)達見て、心の底から笑い合ったあの日の記憶。

 

「中途半端なままやと(なん)にも成れへん………ってアイツが一番わかってるか。」

 

……………そんな我儘な願いを募らせていたからだろうか?あの少女が現れたのは。

 

『彩葉!!大丈夫!?!?』

『うん…平気。油断しちゃっただけだから。……あと"いろP"ね?』

『でも彩……いろP!くやしいよ〜〜!!!』

『なんでアンタが悔しがるのよ……』

 

淡々と消化試合を終わらせようと襲いかかる不義遊戯に、死ぬ気で食らいつき幾度も吹き飛ばされるキツネの着ぐるみ。

立ち上がった彼女に、悔しそうな顔をしながらワタワタと何かを話している兎耳の美少女に、帝アキラは視線を移した。

 

「………良い解釈だ。」

 

帝アキラ(酒寄朝日)は"予感"がしていた。

流れ星が如く、突如ツクヨミに現れた新人ライバー。そのライブ活動にチラリと映る着ぐるみを一目してすぐに理解した。

 

「このまま彩葉が負けちまったら、お兄ちゃんが助けてやるとするか。

だけどもし━━━━━━━」

 

この少女(かぐや)がいつか(酒寄彩葉)を"呪い"から解放してくれるのではないか?と。

 

「彩葉が勝てたなら、そん時はぁ〜…………そうだ!!」

 

まこと面白き事と家族が大好きなこの男は、イタズラ好きのサッカー少年のような笑顔になったかと思うと、全力でお兄ちゃんを遂行する為の企画を思いつく。

カップ麺を机の横に置き、七色に光る(ゲーミング)キーボードを手繰り寄せると、

妹の奮戦を作業用BGMに、ツクヨミ内で()()()巻物(メール)(したた)め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴゴゴ……そんな豪快な音と共に、乱数(ランダム)的に配置された人工の森林が人間の手…腕?によって平等に倒木へと変わる。

 

それを成したのは暴力という言葉が具現化されたのではないかと思うほどに膨らんだ筋肉。

不義遊戯の右ストレートだった。

 

いろPの体力(ライフ)ゲージは残り二割。

対する不義遊戯は未だ半分以上も余力を残していた。

 

「(何か、何か一つでも良い。弱点や攻略の糸口さえ見つかれば………)」

「何度も言わせてくれるないろPよ……今の薄っぺらいお前の攻撃では何百回コンボを決めても俺には勝てん。」

「そんなの……………っっ!!」

 

そんなの、やってみなきゃわからない。

そういう風の事が言いたかったはずなのに、何故か口から出てこなかった。

 

「彩葉……」

 

力なく俯くいろP。

その()()をかぐやは、(ちか)(ちか)広大(手狭)森林(ボロアパート)で、見つめていた。

 

無機質で真顔でふかふかな着ぐるみの顔ではない。

憂い気のあるどこか目の離せない綺麗な綺麗な…そしていつかフッと消えてしまいそうな横顔。

 

皆は、知らない いろP(彩葉)の素顔。

 

「やっぱりお前達じゃ……"かぐやいろPチャンネル"じゃなかったのか………?」

 

暗い、暗いどんよりとした瞳で不義遊戯はそう呟く。

その瞳には途方もない程にまで不完全燃焼してしまった退屈がありありと浮かんでいた。

この消化試合を終わらせるため、戦意喪失したいろPにトドメを刺すために足を一歩ずつ踏み出す。

 

「ちょっとタ〜〜〜ンマ!!!!」

 

よく響く、本当によく響く声がフィールド一面に広がり、不義遊戯は即座に踏み出した足ごと止まった。

 

「かぐやちゃん………?」

「かぐや………?」

 

声の主……かぐやを呆然と見つめるいろPと不義遊戯。

その間にかぐやはいろPの近くへ駆け寄っていく。

 

「ちょ、ちょっとかぐや、何し……」

「彩葉!!!」

 

ム ギ ュ ッ

 

「むぇ?」

 

頬がかぐやの両手に包み込まれる()()がした。

感覚?いや、そんなはずはない。

いろP(彩葉)は未知の感覚に混乱した。ツクヨミに触覚や味覚はまだ実装されていないはずだから。

 

「彩葉…なんでそんなに怒ってるの?」

「おこ…?怒ってなんか……」

 

そう言われて初めて、表情筋が硬く張り付いている気がした。

正確には表情筋が硬く張り付いたような顔になっていた事に気付いたというべきか。

 

「コテンパンに負けてさ。アイツに私が取られちゃうよ〜!ってなって怒りが有頂天(うちょーてん)?になっちゃうのは解るよ。

でもそんなに怒ってばっかだったら、勢い余って何もできなくなるじゃん!」

「かぐや……」

 

いろPの脳内で色んな言葉がざわめく。

 

油断したらあかんで、隙を見せたらいつでも背中から撃たれる世界なんやから。

そーゆーのどうでもいい!キッチリ片を付け、忘れる!!

お父さんから貰ったもん使い潰すつもりなんか?

もっかい弾いて!エンドレス!!

頼まれ事なんて簡単にする事やない。

このまま終わりたくない…ハッピーエンドにしたいなぁ〜〜〜…?

そんでハッピーエンドに!彩葉を連れてく!!

 

気付けば少しだけ……ほんの少しだけ頭がスッキリしてきた。

それでようやく気がつく。

 

(あったかい……。)

 

目の前にかぐや(かぐや)が居る。

ツクヨミだけじゃない。現実の空間で、黒いシャツを着た温かい手で頬を包み込んでくれてるかぐやが居る。

 

「かぐや………」

 

じんわりと両手から"熱"が頬を通して、身体の中心にある()()()にまで染み渡った気がした。

 

「いろPは薄っぺらくなんかじゃないよ。」

 

我が事のように悔しがる。悔しがってくれる。

相も変わらず、我儘を発揮するかぐやが居る。

 

「……………薄っぺらいも厚いもなんも無いでしょ。自分が退屈でつまんない人間だってのは自分が一番わかってるよ」

「む〜〜〜!つまらなくなんかもない!!!

だって………」

 

いろPの自嘲する声に口を尖らせて反論するかぐや。

そんなに耳元で叫ばれると耳が痛くなる。そんな事を言おうとして━━━━━

 

「私達は最強!!なんだから〜♪」

「………ふふ。ありがとう。かぐや。

雑念、消えた。」

 

それでも、ふと、口元が綻ぶ感覚がした。

 

「…………にひひ〜」

 

ニコリ、と。

少しだけ柔らかくなったその笑顔を見て、かぐやも心の底から笑顔を漏らす。

 

「とにかく今はアイツに勝つことだけを考える!まずはアイツを〜」

「ぶんなぐ〜〜〜る!!!!」

「アンタが言うんかい。」

 

その勢いの儘にはしゃぎ前後に足を開いてポーズを決めるかぐや。

ツッコミを入れながらいろPは軽やかに立ち上がった。

さっきまでと変わらない土砂崩れが起こったかのような森林が、何故かいろPには広大な空間に見えた。

目の端には戦闘に巻き込まれぬよう遠ざかっていくかぐやとコメント欄が見えている。

 

«いろP頑張れ!!!

«ガチプロゲーマー相手は流石に無理では?

«逆出来レースかよ

«いろPを信じろ(^^)

«それでも…それでもいろPならなんとかしてくれる…!!

«助けてヤチヨ〜!オレたちのかぐやちゃんが寝取られちまう〜〜〜!

«このまま不義遊戯が歯茎見せて油断してくれたらな〜〜

«寝てから言えカス!

 

半ば絶望しながらも決して推し(いろP)の勝利を諦めないコメント欄を眺めながら、悠々と歩いて帰還したいろPの姿を、

ずっとつまらなさそうに腕を組んでいた不義遊戯が出迎えた。

 

「おかえり。」

「ただいま。…ってなんでアンタなんかに言わなきゃいけないのよ。」

愛妻(マイ・ベスト・パートナー)と結婚したら…いろP、お前は義母(マイ・マザー)義妹(マイ・シスター)の二択だろう?それに……いつでも"おかえり"と"ただいま"が言える家族が居るのは、とても心強いものさ。」

「色々と言いたいことはあるけど……別に私とかぐやはただの同居人だし。アンタとかぐやと結婚しても…何も関係ないから。」

「じゃあここまで躍起になる事も無いだろ?関係ありますって言ってるようなもんじゃねーか。」

 

拗ねるように減らず口を呟くいろPに、ニヤリと反論する不義遊戯。

舌戦は不利だ。このゴリラは意味不明な変態な癖に何故かレスバにも強い。

 

「そういう漠然とした渇きというのは厄介だ ぞ、いろP。

少なくとも……それで満足している限り、お前は俺に勝てん!」

 

変わらず自らの哲学を貫き通す不義遊戯に、

いろPは内に秘めていた呪詛のような言葉を吐いていく。

 

「……………………かぐやなんて。

いつもうるさいし、いつも部屋散らかすし、いつも勉強の邪魔ばっかりしてくるし、いつも料理は美味しいし、いつも笑顔で楽しそうだし、とっとと早く帰って欲しいっていつも思ってる。

でも………………………………」

 

フオン…と音を立てて双剣がSF的に変形していく。切れ目のない円筒状の刃が鋭く光るブーメランへと変形する。

 

「私が、かぐやの友達でいるために。

私が…私を生きてて良いって思えるために!」

 

憎まれ口で隠していた本心。

何故か口から止まらないその言葉の勢いに身を任せて、いろPは駆け出していく。

 

「かぐやを、誰にも渡すもんか!!!!!」

 

なんと、いろPはブーメランを投げず大剣の要領で振り回した。今までのお手本のような洗練された剣技とは程遠い、巨大な円環を活かした一撃を叩き込む。

 

「ニヒッ!かかってこぉぉぉい!!!!」

 

剥き出しの刃と自我が、

不義遊戯の腕と退屈を削る。

 

まずは、1コンボ。

 

いなしたはずの腕から小さく(ダメージ)が舞う。

その定石外の戦法に不義遊戯は少しだけ対応が遅れ、後手に回った。

 

「まだまだ!!!」

 

続けて返すブーメラン()で攻撃する…直前に変形を解除。

紙一重に回避しようとした不義遊戯の脇腹を双剣が浅く斬り刻む。

明らかに今までと違う戦法に、不義遊戯は笑みを溢す。

 

8コンボ。

 

「(ブーメランを投げずにそのまま斬り掛かる…さっきまでのいろPにはなかった動き!!!)」

 

ブォンと薙ぎ払われる反撃の横殴りが、いろPの頬を掠る。

しかし浅い。カスダメだ。

すれ違い様に殴り終わった不義遊戯の腕へと無理矢理にでも刃を掠らせていく。

 

13コンボ。

 

Good(グッド)!なんて美しく崩してくれるんだ……!」

「くっ……!!」

 

抉り取るようなフックを跳躍して避け、首を狙った水平斬りが背筋をそらされ避けられる。

一発たりともまともに食らえばそのまま体力を削り潰される嵐のような剛拳。

いろPは直感と反射神経だけで嵐のような拳のラッシュを斬り裁いていく。

 

28コンボ。

 

「そんなものかいろP!!その程度なのか!?」

「そんなわけ……無いでしょ!!」

 

不義遊戯の強烈な打撃で剣を弾き飛ばされる。

その度に、必死に強化(バフ)スキルをフル活用してピアノ線を引っ張り手元へ戻していく。

いつしか、いろPは双剣を変則的なブーメランとして扱っていた。

まるで鋼鉄の糸がどのような挙動で戻っていくのかわかっているかのように、

不義遊戯の死角へと双剣を飛ばし、銃弾を放ち、不利になる方向へと回避せざるを得ない状況へと持ち込んでいく。

 

32コンボ。不義遊戯の体力(ライフ)ゲージは残り5割を切る。

 

「(成長しているッ!俺を食らって!!)」

 

横から襲い掛かる翡翠色のブーメラン。

紙一重で避けた不義遊戯はダメージ覚悟で側面を掴み取る。ガリガリと掌を削るブーメランをそのまま思いっきりいろPへと投げ返す。

 

「!?」

「だがッ!効かぁぁーーーん!!!」

 

39コンボ。

 

投げ返しされたそのまま勢いを殺しきれず逃げ場のない空中へ投げ出されたいろPを見て、不義遊戯は己の脚を目一杯に岩山を砕かんとするほどの圧を溜め、一気に地を蹴り抜く。

 

「そぉーーーらぁ!!!!!」

「させる……もんか!!」

 

いろPはがむしゃらに双剣を投擲する。

手元を離れた双剣は不義遊戯には当たらずその真横を通過していく。

爆音と共に跳ね上がった体躯は、まさに大砲から放たれた砲弾そのもの。渾身の左ストレートが構えられた。

 

「!?」

 

42コンボ。

手元を離れたはずの双剣から射出されたピアノ線に、不義遊戯は左腕を斬り刻まれ、逆に一瞬の隙を見せた。

同時に、巨木へ叩きつけられるように着地したいろPはその衝撃を跳ね除けるかのように跳躍。

 

しかし現在、いろPは武器を手にしていない。

故に━━━━━━

 

43コンボ。

 

「はぁ!!!」

「ぐゥッッッ!?」

 

巨木を蹴り、加速を付けた状態での()()での攻撃。

がら空きとなった不義遊戯の胴体へボディブローをかます。

 

ツクヨミ内での、()()()()()()()通常攻撃の威力は皆平等で物理演算のみで決められる。

 

例えリアルで筋骨隆々の巨漢であろうと、筋トレを怠っている女子高生であろうと。

アバターのヒットボックスが大きければ大きいほど、物理演算は強く働く。

 

52コンボ。

 

「くくく…くはっ!悪いないろP!ナメてたよ!!!!」

 

恍惚とした笑みを浮かべながら不義遊戯はその肉弾戦に付き合い始める。

 

殴る。蹴る。組み付く。崩す。

 

先程までとは違い荒々しく食らいつくいろPの喧嘩殺法。

心燃えるいろPの一挙手一投足が、お行儀悪く不義遊戯の足を払い━━━━━

 

「おりゃぁぁーーーっっ!!!!」

 

初戦の不義遊戯が見せた右拳に勝さるとも劣らない一撃が不義遊戯の肉体を吹き飛ばす。

 

67コンボ。不義遊戯の体力(ライフ)ゲージが1ミリだけ残る。

 

「まだ………」

 

まだ終わっていない。

この期に及んでも、未だいろPは冷徹な思考を捨てきれないでいた。

どうせ相手は瀕死。ここから双剣を回収して淡々とトドメを刺せばいい……………

そうだ。ここで欲張って反撃を食らえば二本先取で負けてしまうのだ。

 

後は相手の体力(ライフ)ゲージを削りきればいろPの勝利。

 

いろPは散らばっていた片割れの剣を拾い、銃弾を━━━━━━━━━━━━━━━

 

( それは 雑魚の思考や )

 

放つ前にピアノ線を射出していた。

 

柄ではなく刃を握り締め、乱暴に照準を合わせられたピアノ線が、いろPを再び空中へと飛翔させる。

 

「最高速度で………ブチ抜いたる!!!」

 

その行為に意味などはない。

トドメを刺すならば、双剣に内蔵されたアサルトライフルを放てば良かったのだ。

むしろ焦って刃の方を持ってしまったせいで自傷ダメージにより握り拳からは桜色のダメージエフェクトが舞い散っていた。

 

「ああ……これだ。初めて出会った時から…ずっと…………ずっと"予感"がしていたんだ……………」

「これで━━━━━━」

 

コンボとコンボの狭間 猶予0.000001フレーム以内の隙間に攻撃を差し込む荒業。

ツクヨミのゲームシステムは演算が完了する直前に割り込まれた攻撃判定を受け入れた。

その際、本当に極めて些細な不具合が、不義遊戯を殴るいろPの燃えるような右拳(フロー)が放つ(くれない)の攻撃エフェクトに歪みが生じ………

 

打撃は黒く、光る。

 

「━━━━━━━━決める。」

 

6()8()コンボ。

 

音速を超えるほどの拳が不義遊戯の肉体を体力(ライフ)ゲージごと遥か遠くまで吹き飛ばした。

 

「成ったな。」

 

 

ROUND2 いろP WIN。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと退屈だった。

 

流行りの音楽を聞いている時も。

人気のゲームを遊んでいる時も。

ナメてる大人をボコってる時も。

 

満たされない。

まるで()()()()()()()()()が欠けているかのような……

 

つまらない奴らはこぞって『何が不満なのか?』ばかり聞いてくる。

誰をボコろうと、ゲームで無双しようと、満たされないモンは満たされない。

ナメてんのか?満ちてないから不満なんだろ。

 

暗い路地裏の下でしゃがみこんで、つまらなさそうに佇む。

隣に居てくれるはずの"誰か"が居ない。

その事実自体が退屈で退屈で…死にたいほどに寂しくて、悲しかった。

 

そんな時だからこそ、聴こえたのさ。

 

『━━━━━━━♪』

 

町中の喧騒に紛れて、寂しそうに歌うあの歌が。

 

「どんな女がタイプだ?

━━━━━━━━━━Ms.月見ヤチヨ。」

 

忘れもしない。『CM2 KI-U(シメツカイユウ) CUP』というゲーム大会の話だ。

退屈凌ぎに観戦に来たら、欠員が出たんで代理を募集しているなんて話に乗ったのが間違いだった。

どいつもこいつもつまらない。くだらない。退屈だった。

 

暇潰しに何故か管理人なのに律儀に楽屋で待機しながらデコデコに盛られた抹茶パフェを食べている彼女━━━━━この広大な電子空間"ツクヨミ"を構築し、管理する謎のAIライバー"月見ヤチヨ"に、ずっと聞きたかった重要な質問を問いかけた。

 

「ん〜?ヤチヨは〜〜〜☆

……やっぱり、お顔が綺麗で〜瞳がキラキラ光ってて〜タッパがおっきくてカッコイイ女の子が好きかなぁ〜?カッコカワイイ!と言いますか〜☆魔性の女!と言いますか〜☆」

 

俺は彼女の歌を聴くのが数少ない楽しみだった。

人並みにアイドルやライバーは好きだ。残念ながら推しと呼べる程の存在に出会えた事は無いが……

 

「即答…か。流石はMs.月見ヤチヨ。大した奴だ。」

「あんまりよくわからないけど…褒められポメラニアンなのです〜〜〜☆」

 

即座に答えられる奴は面白い奴だ。

単刀直入で具体的な奴はもっと面白い奴だ。自分の自我って奴が備わっている。

本物の人間のように洒落た言葉遊びを多用するヤチヨを見て、この哲学に嘘は無いという実感を感じた。

 

「それじゃあ、東堂くんはどんな子が好きなの?」

「……………わからん。俺は()()を探すために生きている。」

「えぇ〜!?こんなにめっちゃ聞き回ってるのに〜〜〜?」

 

…………でも俺は、俺が嫌いな奴らと同じ尺度で生きている。

わかりやすく口を尖らせて怒りマークを浮かび上がらせるヤチヨを眺めながら、懺悔するかのように呟いた。

 

「理解っているさMs.月見ヤチヨ……俺は、自分が一番退屈で薄っぺらい人間であると。

俺は………俺の身の丈で生きているに過ぎん。

他者に満たしてもらおうなんて考えたこともないし、目障りならボコる。面白ければ、遊んでやるだけだ。」

「…………飽きちゃったんだ?」

「さあな。俺は()()も知らん。」

 

リアルでもツクヨミでも人間をボコるのは存外、刹那的で面白い。

いっその事、そういう悪意(呪い)を振り撒く化け物になってしまいたいくらい程に。

自分を、他人を、羨み蔑んでいる。

 

だが……その道を選びたくない自分が居るというのも嘘じゃなかった。

 

「知らんのだ。

この退屈を満たしてくれる存在を……共にこの空腹を癒してくれる親友(ブラザー)を……

俺だけが…この世界から浮いているんだ。」

「………………………」

 

沈黙。

何故だかヤチヨの表情が固まった。

目を文字通り()にしたかと思えば立ち上がり、ふわふわと浮きながら俺の座っている座席その向かいに座ってくれた。

コミカルに表示されていた表情がふと、にこやかな自然な顔へ変わる。

 

「東堂くんはね、まだ出会ってないだけなんじゃないかな?何千年経っても忘れられない…()()()()()()()()()に。」

()………?」

「"愛ほど歪んだ呪いはない"……なんて誰の言葉だったかなぁ?

酷いよね〜〜恋愛映画ならどんな愛も幸せなハッピーエンドに導いてくれるのに。

実際は数千年間ず〜〜〜っと恋焦がれちゃうんだから…………笑っちゃうよね!」

 

タハーとわざとらしく笑うヤチヨの言葉には、不思議と数千年分の実感が込められていたような気がした。

自らの辛い経験、哀しみの思い出を裏返すように……思いやりや優しさに()()させながら。

 

誰かに分け与えるような優しい優しい言葉を。

 

「人ってね……思っていたよりカチコチで、思っていたより自由なのです。

全力で母や弟の為に生きる!だとか、

もっと面白いものが見たい!だとか、

例え何にも残らなかったとしても、一人一人の歴史が…幾千幾億の愛情が積み重なっていって……

誰かの()()()を変える事もあるんだよ。」

 

そう言ってヤチヨは俺の手のひらを握り…握手をしてくれた。

あくまでも電子空間上のアバターでの話。感触は無い………

だが、(あった)かい。

決して、気の所為ではないのさ。だって感じるんだ……

 

俺の"魂"が、じわりと"熱"を帯び始めるのを。

 

「生き方を変えてみる…………か。」

 

考えた事も無かった。俺の人生はずっと退屈で、冷めていて、渇きに満ちているのだと……そう思い込んでいたから。

 

ピコン!と大会の準備が完了した合図が鳴り、俺は我へと返る。

気付けばヤチヨは既に席を離れてふわふわと浮きながら、会場の方向を見つめていた。

 

()()。もう一度やってみよう?

誰かを呪うんじゃなくて、誰かと生きるために。

だって私達は………全員で表現者(ライバー)なんだから!!」

 

振り返りながらウインクしてくれるヤチヨの姿は、どこか寂しそうで……嬉しそうで……美しい。

 

退屈が裏返る、そんな"予感"がした。

 

「……………Thank you so much(サンキューソーマッチ)。ヤチヨちゃん。」

 

思えばきっかけは()()あったんだ。

一つはこの日だ。こんな俺に愛を説く阿呆が居たんだ。

 

数千年経っても熱い熱い"愛"。

その愛が向かう行く先(ハッピーエンド)

俺は浮かされてみる事を選んだ。

 

そして二度目は━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ROUND3!!!

プォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 

最終決戦を告げる法螺貝の音で、倒木により掛かっていた不義遊戯は思考を現実(ツクヨミ)へと戻した。

 

「……………次回はミニ握(※)、か。」

 

※ミニライブ握手会付きの事。

自らが"呪い"ではなく"愛"に生きると定めた思い出を噛み締めながら掌を眺める不義遊戯の前に、自らをここまで吹き飛ばした相手………いろPが立つ。

 

「……………なんでミニ握(※)の話してんの?」

「感謝の意を伝えねば………な!」

「はぁ〜〜〜アホらしぃわ………。」

 

※ミニライブ握手会付きの事。

何故か嬉しそうに自らの推し(月見ヤチヨ)の話をする大ゴリラを見て、いろPは複雑そうな顔で本日何回目かのため息を零した。

だが、その雰囲気はどこか晴れやかである。

 

「フッ、"熱"を理解したようだないろP。」

「熱…?」

「お前は今まで、火の点いていない鍋に食材をなんとなく入れて煮えるのを待っている状態だった……

だが…勝利を経て━━━お前は"熱"を理解した。

”熱”に浮かされて人は判断を誤る。だが”熱”がなければ人は恋一つできやしないのさ………」

 

不義遊戯は自らに付いていた泥を擦り払うと、手でお椀を持ち上げるかのように拍手し、言葉を続けた。

 

Congratulations(コングラッチュレーション)、いろP。

お前は……強くなれる!!」

 

不義遊戯の"熱"を帯びた言葉を、いろPは一つ一つ拾い上げるかのような噛み締めた後、呆れたように肩を竦めて見せた。

 

「………何言ってるのか全くわかんない。けど━━━━━━」

 

いろPはふと、振り返って自分が薙ぎ倒した木々の奥を見つめた。

ロケットハンマーで朱色の派手な着物をひらひらと靡かせながら焦茶と新緑色の森林を飛び回るかぐやが見える。

 

「おぉ〜〜〜い!ダイジョブ〜!?生きてる????」

 

心配するかのような言葉とは裏腹にかぐやの表情は満面の笑みを浮かべて、この試合を楽しんでいた。

この世の恨み辛みとは全く無縁で、ただこの世界全てを心地好く楽しむ。

それなりに静かだった自分の部屋(ボロアパート)に、勝手に座り込んで、居座って、変なガラクタや笑い声を持ってくる。

 

世界で一番の悪童(おひめさま)

 

そんな彼女の掌から伝わった"熱"を思い出した。

 

「(なんとなくだけど、理解できた気がする。)」

 

あやふやな言葉とは裏腹に、無機質なはずの着ぐるみから光る瞳からは先ほどまでの刺々しさが消え、憑き物が落ちたような清々しい納得が滲んでいた。

 

「………………不義遊戯…さん?」

「フッ、どうしたいろP?」

「ごめん。」

「…………む?」

「私、嘘ついてた。つまらない意地張って、傷つきたくなくて、

追いかけたい夢とか…女のタイプとか…貴方の言う事なんかどうでもいいんだよって。

………今は違う。」

 

無機質な着ぐるみの糸目が、確かな視線を送りながら胸の内を吐露し始める。

 

「私は、わたしの事が好き。」

 

思い出すのは過去の記憶。

いつしか"呪い"に変わり自らを縛ってしまった趣味。思い出す度に響き渡る母親の言葉。

 

それを祓うかのように口ずさむ、かぐやの歌声。

未完成な自分の()()()を肯定してくれた、かぐやの歌詞。

 

「私の事を好きで居てくれる親友(ともだち)が好き。」

 

その目映いまでの熱い視線は、

着ぐるみを隔ててなお、不義遊戯の眼に突き刺さった。

 

瞬間。

不義遊戯(東堂アオイ)の脳内に、

溢れ出した

 

()()存在しない記憶。

 

酒寄彩葉が、かぐやが、月見ヤチヨが、

成長した三人が歌って踊るライブステージ。

ツクヨミもリアルも、人間も電子生命体も、全ての生命が喜び、楽しみ、感動を分かち合う。

 

青き未来━━━━━━

 

「寂しくなんてなかったよ、ちゃんと寂しくなれたから。

か……………………」

 

━━━━━━━━めでたし、めでたし。(ハッピーエンド)のその先を。

 

「いろP!居た!!!!…ってまたなんか泣いてる〜〜〜!?」

「かぐや…ごめんね。でも勝ったよ。」

「全くも〜〜!でも……すんっっっごかった!!!世界一!!!!!」

「ぶえっ」

 

我が事のように大はしゃぎで喜ぶかぐやがコメント欄を引っ掴みいろPの顔に押し付けるように差し出す。

 

«すげえ・・・・・・・・・

«マジか!!プロゲーマー相手に一本取りやがった!!!!

«うおおおおおいろP最強!いろP最強!

「そうよそうよ!最強なのよ〜♪」

«いろP!最強!いろP!最強!

«かぐやいろP最強!かぐやいろP最強!

«うおおおおおおおおおお

 

大盛り上がりの視聴者(リスナー)に同調し、更に喜びを爆発させるかぐや。

 

「ハハハ、そんな事………あるけど。」

「おお〜…?いろP、なんか変わった??」

「そう簡単に人が変わるわけ無いでしょ……

ちょっと、思い出しただけだよ。」

「思い出した?」

 

当たり前すぎて、忘れてしまっていた事。

 

()達は、全身全霊で存在している。』

 

そのような言葉が頭の中で浮かんでいった。

理屈では説明のつかない、()()の核心に触れたような感覚。

 

「それでこそ、愛妻(パートナー)の親友だな。」

「だからパートナーじゃないって。」

「だからこそッッッ!全力で、導く!!!!!」

 

かぐやが目を点にしながらツッコミを入れるも、不義遊戯は変なポーズで森羅万象その全てを悟っていた。

 

「(ようやく気付いた、不義遊戯(東堂アオイ)の役割。)」

 

ギラギラと歯を見せて笑う不義遊戯。青白い闘気のような何かすら錯覚する程の風格を漂わせる相手に、いろPは負けじと双剣を構える。

 

「俺のスキルを解禁するッ!!

さぁ…卓に着こうか、いろP!!!!!」

「…………あれ?さっき(初登場の時)、使ってなかったっけ??」

 

少しだけ変わった二人の雰囲気に首を傾げるかぐや。

それでも、もうこの視聴者参加型氣裸氣裸大狂騒はその程度では収まらない。

 

«ええ話や…………

«うおおおおおおおおおおおお

«ええ話かな…ええ話かも…

«負けるないろP!!!!!がんばれいろP!!!!!

«いよいよ本気を出すのか……どっちに転ぶのか全然わかんねぇぇぇ

«ちょんまげゴリラぶん殴っていけ〜〜〜

 

視聴者(リスナー)のボルテージが上がる。

 

「ね〜え〜いろP〜?」

「んん?何よ。」

 

そんなコメント欄を見て意地悪く愛らしい笑みを浮かべたかぐやはいろPへ語りかけた。

 

「負けちゃう?」

 

普段のかぐやらしくない…いや、ある意味では最もかぐやらしい言葉を聞いて思わず視線をかぐやに移した。

自らの望みを叶えてくれるという確信を待った上目遣いが、いろPを見つめている。

 

冷徹な思考がいろPの脳内に戦略を構築する。

もしも運が良ければ、もしも相手が油断してくれれば、もしも考えついた戦法がハマれば、もしも………

数多の解釈(IF)を一通り考えついた後、口に出す直前でレシートのように焼き尽くされ━━━━

結果として、たった一つの答えがまるで最初からそこにあったかのように浮上する。

 

「勝つさ。」

 

酒寄彩葉(いろP)に数年ぶりの緊張が走る。

 

いろP、堂々の勝利宣言。

互いに足に力を貯め、自らの出せる最高速度で相手をブチ抜かんと前傾姿勢で拳を、剣を構える。

 

「もう…ゴチャゴチャとした言葉はいらないな。手加減はしない。」

「………改めて言っておきますけど」

 

力と力のぶつかり合い。

視線と視線の睨み合い。

 

「そっちが挑戦者(チャレンジャー)ですから。」

悪童(わるわらべ)が。」

 

その言葉を皮切りに、両者の戦意が衝突し合う。

地面を、木々を、相手の肉体(アバター)すらも踏みしめ震わせながら、純粋な破壊の応酬となってぶつかり合っていく。

 

「……………ここ!!」

「ッ!!」

 

ブーメランをいなそうとした腕ごと、不義遊戯は空中へと投げ出された。

強化(バフ)スキルを用いたブーメランでの吹き飛ばし。

━━━━擬似的に再現したかぐやのハンマーの一撃。

 

「そ………りゃあ!!!!」

「フハハ!いいぞいろP!!!」

 

そこに容赦なく攻撃スキルを発動させたブーメランを投げつける。

キュルルルルと空気を切り裂き、獲物を刈り取らんとするブーメランを見て、不義遊戯は高笑い…………

()を強く叩きつける。

 

パァン……………

 

「!!?」

 

軽やかな拍手の音が、森林に響き渡る。

それと同調するかのようにキリキリと音を立てて空中に居る()()を容赦なく切り刻もうとするブーメランを、器用にも縦に揃えた両手が吸い込まれるように穴の部分を捉え切る。

ブーメランの回転に身を任せ、クルクルと衝撃を最小限に抑え切ったのは……………()()P()だった。

 

「ゔぇぇ!?なんでいろPが空中に居るの!??」

「そうッ!これが俺のスキルは、他者と自分の位置を入れ替える………『不義遊戯(ブギウギ)』!!」

 

その不可解な光景を見て、かぐやは疑問符を浮かべて驚愕した。

コメント欄も(にわか)に沸き立ち、加速していく。

 

«!?!?!?

«何!?

«瞬間移動スキル……本気だね(ペロッ

«いろPのおててペロペ[このコメントは削除されました。]

«確殺コンボを瞬間移動でそのままカウンターに???怖すぎるだろ・・・

«つーかなんでモーション操作?思考操作でええやん。

«あそこで入れ替えスキルなんて使う奴もおかしいが自分のブーメランを防ぎ切るいろPはもっとおかしい

 

KASSENの…ツクヨミ内のゲームは全てスマコンを通した思考やツクヨミでのモーション、コントローラーのジャイロセンサーやボタンなどの数々の操作方法を組み合わせた高度で自由度の高いシステム。

 

不義遊戯は、極めて特異で繊細な操作技術(キャラコン)によって一般的に使い辛いとされる瞬間移動()スキルを自分だけの独特な強みにまで昇華させていた。

 

「なにそれ無敵じゃん!!」

「そうでもないよ。…………っと!」

 

錐揉み回転しながら近くの木に降り立ったいろPは一呼吸置きながらそう呟く。

 

「KASSENでの瞬間移動スキルは共通して()()()()()()()()()()()()事が発動条件。

でも殆どは最低でも3人以上(SENGOKU)での交戦じゃないと使えないし、使うにしても味方側も入れ替えを想定して動かないといけないから相手を崩しやすい代わりに自分も連携しづらい。」

「フッ…博識だな、いろP。」

 

パァン。

そう言って不義遊戯は再び拍手を打つ。

今度は木の上に不義遊戯が、地面にいろPが立っていた。

 

「単純だけど厄介なスキルだな………」

 

先程見せられたように自滅を誘われたらたった一回のミスで敗北が決定する。

ブーメランによる威力偏重の攻撃が実質的に死に札となった。

冷や汗を流しながら、必死に勝ち筋を思索する。

そんないろPを見て不義遊戯は吼える。

 

「魅せてみろ。いろP…………お前の真価を!!!」

 

期待するかのようなその言葉に、いろPは()()()()()を使う覚悟を決めた。

 

「そんなに言うなら見せてあげる…………『全部』。」

 

瞬間、いろPの姿が消える。

不義遊戯とかぐやはその姿を探そうとして迫りくる風圧に身を捩らせた。

 

«消えた!?

「消えた〜!?」

«消えた!?

«消えた!?

「いや、これは………!」

 

一閃。

寸での所で腹を穿たんと襲い掛かる音速の刺突を紙一重で避ける。

それを成したのは、明茶色の毛皮が太陽が如く光り輝き、(あか)きオーラを纏ういろPの姿。

 

不義遊戯は思い出す━━━━━

 

超必殺(ウルト)、解放。」

 

かつて自らをも打ち倒した鬼人(さいきょう)の姿を。

 

Sweet(スウィート)!いいぞいろP!!」

「そりゃどう………も!!!」

 

いろPは個人的に、そう、極めて個人的な(兄が愛用しているという)理由でこの超必殺(ウルト)が嫌い。

それでも万が一、自らの実力を上回る参加者が現れた時の為に、どんな状況下でも最大限にスペックを発揮させてくれるこの超必殺(ウルト)を、愛用する双剣のスキル構成に選択(セット)していた。

 

ずっとこの超必殺(ウルト)で勝ちをもぎ取る絶対王者()の姿を見ていたから。

 

そんな愛憎が渦巻くこの超必殺(ウルト)を発動した間のみいろPは、

 

使用不可時間(クールタイム)無制限の攻撃スキル

・モーション速度の超上昇

・最大二回までの空中ジャンプ

 

が使用可能となる。

 

SETSUNA(1v1)において超必殺(ウルト)ゲージの上昇条件は時間経過&被ダメージ。

最大で二本まで温存する事が可能。

 

ROUND1では使う間もなくKOされ、ROUND2ではあえて使う事なく温存できたおかげで、現在のいろPが可能な全力戦闘時間は合計で━━━━━

 

5分間。

 

「行くよ。」

 

併用された攻撃スキルによって殺傷力が上乗せされた双剣による斬撃が、

辺り一面の木々ごと不義遊戯を絶え間なく斬り刻む。

 

「ッッッ!!!!」

 

パァン。即座に叩かれた両手により発動した瞬間移動が、不義遊戯を危機的領域から救う。

 

ROUND2とは真逆の立ち位置。一度でも間違えれば即死に繋がる魔境。

その速さに順応していくかのように不義遊戯は冷静に直感と反射神経で斬撃を避けていく。

 

「(攻撃する度に速さが増していく……!!

単に速く斬るだけではなく、斬った勢いで更に加速するように斬っているな……!?)」

 

拍手(スキル)による入れ替え、剛腕によるいなし、ローリングで回避してからの━━━━拍手(スキル)

 

「だが……………!」

 

KASSENの瞬間移動系スキルの挙動は安全面とゲームバランスが考慮された結果、複雑奇怪となっている。

 

突進してくる他者(いろP)と止まっている自分(不義遊戯)を入れ替えた際、位置ズレによる不具合(バグ)を防ぐ為に()()()()()()()()()()互いの速度を0にする。

 

パァン。

 

脛を狙い音速で突撃してきたいろPと、静かに迎撃の構えを取る不義遊戯が入れ替わる。

 

速度を0にされいろPのアバターが空中で止まる。

その瞬間、不義遊戯渾身のアッパーカットが空中へいろPを吹き飛ばした。

 

「ぐ……うぅぅっっ!」

「甘ぁぁぁーーーい!!!!!!」

 

吹き飛ばされるいろP。即座に空中ジャンプを使い、不義遊戯に肉薄する。

不義遊戯は地面に偶然あっ(ランダ厶生成され)た小石を拾うといろPに投げつける。

 

「外れ!!!」

「いや、()()()()さ。」

 

パァァン。

 

今度は、飛んでいく物体(小石)と飛んでくる他者(いろP)()()()()()()()()()()()入れ替わる。

 

()()()()!!」

 

ベクトルをそのまま入れ替えられたいろPは、森林の奥まで吹き飛ばされる。

ブーメランからピアノ線を射出し、岩肌を巻き込んで勢いを相殺させていく。

 

不義遊戯の愛用する瞬間移動()スキルは合計で四種類。

自身と他者、他者と他者、他者と物体、物体と自身。

性質もクールタイムもバラバラなスキル構成を、

全て()()という動作に込める。

変幻自在の搦め手。

 

「いろP〜〜〜!!!!」

«いろP!!!

«いろP〜〜〜!!

 

かぐやと視聴者(リスナー)の悲鳴が響く。

吹き飛んだ先へ急行するべくマップを表示する。

いろPと不義遊戯は互いに吹き飛び、吹き飛ばし、吹き飛んで行った事で、いつしか森林をくぐり抜けて、岩山のあるフィールドにまで移動していた。

 

「(不味いなぁ……ここ(岩山)じゃ身を隠しにくい……)………ッ!?」

「どっせ〜〜い!!!!!!!!」

 

地面に着地し、ジャンプ回数を回復できたと同時にまた飛翔した。

一瞬だけ降り立ったはずの地面がズガガガガーンという荒々しい音共に物凄いスピードで抉り取られていく。

その音の正体は━━━

 

「木!?」

 

«丸太!?

«丸太??

«丸太だ

«皆、丸太は持ったか!?

「丸太だ!!」

«正確には加工されてないから倒木やね

«皆、丸太は持ったか!?行くぞォ!!!

 

丸太であった。

岩山の麓に太い木の幹が次々と突き刺さっていく。

いろPが遠くを見やると、不義遊戯が筋肉を躍動させて倒木を持ち上げ此方に投げつけようとする姿があった。

 

「そんなのアリなの!??」

「どちらも有り得る…そんだけだァ!!!!」

 

強化された脚力とピアノ線によるワイヤーアクションで倒木を必死に避けていく。

いやらしい事に、丸太が着弾する位置も極めて巧妙で、いろPは森林へ戻ることを許されない。

岩山の麓までの移動を余儀なくされる。

 

「(このままじゃまたスキルで………………)」

 

パァァァン。

 

「ッ!!」

 

耳に響き渡る乾いた破裂音。

遠くで木を投げつけていたはずの不義遊戯が、頭上より()()する。

 

()()()()………!!」

 

投げ飛ばした物体(丸太)と投げ飛ばしていた自身(不義遊戯)()()()()入れ替わる。

 

「フハハハハハッ!!!!」

「ああ〜〜〜もう!」

 

振り下ろされた剛腕をブーメランで受ける。

奇襲を成し遂げた不義遊戯が笑いながらラッシュを叩き込む。

 

「こんなに楽しい食事(ゲーム)は初めてだ!!」

「アハハ…それはそれは何よりで……」

 

不義遊戯は歓声を張り上げ、ラッシュの速度を更に加速させる。

いろPはそれを的確に捌き続け、勝ち筋を思案する。

 

最初に見せていた自身(不義遊戯)他者(いろP)を入れ替えるスキルと違い、

二種類目と三種類目(物体の入れ替え)は、緊急避難用のスキルとして使える事から、かつて下方修正(ナーフ)を食らい、使用不可時間(クールタイム)が長めに調節されている。

 

「(1…2…3…4………)」

 

どの攻撃スキルを使用するのか?今の空中ジャンプ数は?どのようなコンボを実行するか?相手が使ったスキルの使用不可時間(クールタイム)は?体力(ライフ)ゲージの減りはどれほどか?警戒すべき相手の戦術は?

 

いろPは文武両道才色兼備ありけりな頭脳を廻り巡らせ、必死に情報を処理していく。

その間にも、不義遊戯は拍手を織り交ぜながら果敢に攻め立てていった。

 

パァン。

「とぉりゃあ!!」

パァァン。

「わっ!!!」

パァァァン。

「これはどうだァ?!」

パァン。

「っっぶな!?」

 

手が鳴る度に、位置が入れ替わり、

位置が入れ替わる度に、必殺の拳が掠る。

 

「(抜け出せない………!!!!)」

「どうした?そんなもんじゃないだろうッ!!」

 

狙いを澄ました不義遊戯の正拳突きが、いろPの胴体へ吸い込まれるように突き刺さった。

この怪物はいろPの速度に慣れてきている。

()()し始めている。

 

「ぐっ…………!」

「いろP!!!!」

 

ゲーマーの性だ。攻撃がモロにヒットした瞬間、いろPは反射的にうめき声を漏らした。

かぐやの絶叫する声が聞こえて、なんとか体勢を立て直す。

 

パァァン。再び小石を投げて、拍手。

 

吹き飛ばされていくいろPに瞬間移動で追いついた不義遊戯は岩盤ごといろPを殴りつけた。

 

「まだ終わりじゃないだろうッ!?」

「ぐぅっっ!!!」

 

闇雲に双剣を突き出し、ゴツゴツとした岩肌にピアノ線を引っ掛けて、迫りくる不義遊戯の拳から辛うじて逃れる。

 

「(6…5…4…………0!)」

 

そのまま山の頂上へと駆け登り、不義遊戯の使用不可時間(クールタイム)が回復する前に身を隠した。

岩陰に身を潜め、一呼吸。一回目の超必殺(ウルト)が切れる。

 

「ハァ…ハァ……!」

 

足りない。酸素が、覚悟が、体力(ライフ)が、超必殺(ウルト)が、何もかも………

当たり前だ。相手はプロゲーマー。

自分よりもずっと…ずっとゲーマーとして、表現者(ライバー)として向き合っていたはずだから。

 

「(私の超必殺(ウルト)を見て、すっごい嬉しそうに笑ってた。

……………きっとお兄ちゃんとも戦った事があったんかなぁ。)」

 

そしてこれだけ強い不義遊戯にも打ち勝った。

いろPは思い出した。不義遊戯を━━━正確にはそして最推しのヤチヨが戦っていたあの大会の事を。

 

アンタは欲しい言われたら何でも渡すんか?

大丈夫、彩葉にも譲れへんモンはあるよ。

 

そしていつも寄り添ってくれていた兄の勇姿を。

 

「(本当に凄いよお兄ちゃん。でも……………私も、表現者(ライバー)なったよ。

絶対に譲れへんモン(ともだち)…出来たよ。)」

 

カチリッ……ゆっくりと、ゆっくりと武器を変形させる。

ブーメランでも双剣でもない、()()()()()()()()()()姿()へと。

 

 

「〜〜〜っ!!強すぎあのゴリラ!!!」

«なんというか…歯痒い!

«いろPには決定打が無いって感じだよね。

«当たり前だろ。ゴリラなんだから、

«ゴリラは怒ってなどいない遊んでいるだけだ。

 

 

初期位置から随分遠くまで移動した戦域へ、ロケットハンマーに跨って飛んで合流してきたかぐやが、遠目から眺めていた白熱していく試合に率直な感想を述べた。

 

«黒鬼の乃依くんちゃんみたく視界範囲外で芋砂(隠れて射撃)出来りゃーなぁ……

«五種類(内一種類は1v1なので死にスキル)の瞬間移動スキル、純粋な操作技術(キャラコン)による格闘術、なんかノリノリで気持ち(わり)()ティルト状態。正直一番崩しにくい状況だ。いろPはさっさと二回目の超必殺(ウルト)を使えばいいのに……

「え〜?なんで??」

«あの超必殺(ウルト)って必殺技系(リーサル)じゃなくて強化(バフ)系だからクールタイム短いんだよな〜だから多分隠れた時点でもう使えてるはず。

「へぇ〜!ありがとオタク〜!」

«ほえ〜サンガツ(感謝)

«有識者助かる

«今はナナガツ〜

 

コメント欄が半ばネタ混じりに共感と解説を挟んでいく。ハイテンションにせり上がっていく視聴者(リスナー)の解説を聴きながら、かぐやも考えた。

 

「(彩葉は何を考えてんだろー?超必殺(ウルト)はさっさと使わないらしいし…急に山をダダダダーッ!って登り始めたし……かと思ったらなんか隠れちゃったし………

でも━━━━━)」

 

かぐや(かぐや)はパソコンから目を離して隣をチラリと見やる。

最愛の人(彩葉)が、隣で笑っていた。

 

「(すっっっっっごく、楽しそう。)」

 

楽しそうならそれでいっか。

かぐやはそんな事を思いながら、再びパソコンに視線を戻した。

いろPの勝利を、この中で一番信じているが故に。

 

「どうした?いつまで待たせるつもりだ?」

「ハハハ…もう少々お願いできます〜??」

「ぬぅ…仕方ない。もう少し待つとし……………

っっっっなぁぁぁーーーーーい!!!!」

 

痺れを切らした不義遊戯が弾かれたように地を蹴った。

いろPの声がする方向へと物凄いスピードで迫りくる巨漢がタックルを━━━━

 

「あっ…」

 

かまそうとした瞬間、

岩と岩の谷間に括り付けられていたピアノ線に引っかかった。

 

「あっっ……」

 

思わぬブービートラップ。さっきまで豪快に笑っていた顔が嘘のように眉をひそめ…………

 

「あっっっ………」

 

それは、それはなんとも哀しそうな顔でズッコケた。

 

「………………プッ。」

 

いろPは思わず笑ってしまった。

口を真一文字に結び困り眉で横向きに倒れている不義遊戯は力強く親指を立ててこう述べる。

 

「フッ…苦味も立派な調味料(スパイス)さ。」

 

想定外の足止めすら、今の二人にとってはフルコース(試合)を彩る要素に過ぎなかった。

 

「それじゃ……………行くよ!!!」

 

決してその手を休めることなく、()()から伸ばしたピアノ線を限界まで張るように走り去っていく。

いろPはそのままピアノ線を引っ張りながら麓まで駆け下りていった。

倒れた横向きの視点のまま、不義遊戯は限界までピアノ線を引き伸ばしていくその姿を眺める。

 

「(どういうつもりだ?あそこまで引き延ばされたワイヤー(ピアノ線)……

二回目の超必殺(ウルト)反動(リバウンド)を駆使して攻撃するとして、俺のスキルで簡単にいなされる事は想像に難くないはず。)」

 

いろPは……そのまま()()()()に武器を…………キーボードを突き刺す。

不義遊戯のIQ530000な頭脳が、いろPの戦略に対抗するかのようにその目的を即座に導き出し━━━━━━

 

「マジか?」

「大マジ。」

 

ポロロロロロロロロン♪という流麗なピアノの音(グリッサンド)で出力される。

そのまま山を一周するように張り巡らされたピアノ線が歓喜に身を悶えるかのように震えて………

 

ズズ━━━━━━━ミシッ。

 

「〜?何の音???」

 

真っ先に異変に気づいたのは、いろPが奏でるピアノの音に耳を傾けていたかぐやだった。

 

ガラガラガラガラ…………

ピアノの音へ、岩山が返歌するかのような地響き。

漫画やアニメのようにヒビ割れていく岩山そのものが自重を失った。

 

「わわわわっ!?ホントに何ぃぃぃぃ!?!?!?!?」

«何?ゲリラ歌枠?

«ゲリラはゲリラでも急襲の方だろ

«おもろ。

«1v1でそこまでやるかよフツー…………

 

山が崩れ落ちる。

けたたましい地鳴りと立ち昇る粉塵が()()を覆い尽くした。

 

「エグいな。俺のスキルを使用困難にする為にフィールド全体を粉々にしてみせるとは…………」

 

青天とは程遠い暗闇の中で、ゆっくりと立ち上がった不義遊戯は粉塵を浴びながら感心する。

身を屈ませ、意識を深く集中させた不義遊戯は死角から這い出た()の一閃を紙一重で避けた。

 

「キッショ。なんでわかんの?」

「"予感"がしただけさ。」

 

わりと本気でドン引きするいろPを見て、不義遊戯は指でハートを形作りながら叫んだ。

 

「御託は良い。俺たちの戦いはこれからだ!!!」

「縁起悪ッ!?」

 

確かな土壌。

一握りのセンスと想像力。

後は些細なキッカケで、人は変わる。

 

縦、横、斜め、上、下、左、右、奥、前、後。

崩れ行く山々を踏み台に粉塵ごと不義遊戯を斬り裂いていく。

 

二回目の超必殺(ウルト)にて、いろPは舞う。

 

(くら)い灰色に混じる(あか)るい桜。

異境となったフィールドに紅色の修羅が踊る、躍る。

 

「…………来る!」

 

岩山が崩れ落ちる最中、厳かに不義遊戯が拍手を打とうと両手を構える。

 

あの位置で入れ替えられると、落ちてくる岩に当たり手痛いダメージを受けてしまう。

いろPは拍手の瞬間、降りかかる予定の落石を打ち壊すために上方向に双剣を構え、

 

『本当に?』

「え?」

 

ガラガラガラッ。

そんな音を立てて()()()()が引く。

振り返るとそこには━━━━

 

「ヤ、ヤチヨ!?」

 

最愛の推し、月見ヤチヨがセーラー服をギャルギャルファッションで着こなしていた。

 

『東堂くんのスキル、厄介だよね〜こんな視界の悪い場所で高速戦闘してる最中に入れ替えられたらヤッチョも大混乱なのです〜〜〜☆』

「う、うん!だから入れ替えられた後、どうなるのかを予測してそれに合わせてなんとか迎撃を…」

『でもでも〜あの拍手って本当にスキル発動の()()なのかなぁ?』

「……!!」

 

考えろ。"わざわざゲーム内で隙を作ってまで、マイナーなスキルの発動条件を拍手のみにする理由"は何だ???

 

『あれほど熟練してる操作技術(キャラコン)なら、有り得るアリエルマーメイドかも?きっとスキルのキー入力やカメラ感度も〜超俺専用カスタマイズ!にしてあるんじゃないかな?』

 

ヤチヨは考えるように指先をトントンと唇に当てながら囁く。かわいい。

 

「焦っているとミスりやすい思考操作やボタン操作でのスキル発動ではなく、あえて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のみに(制限す)る事で、少しの隙を引き換えに瞬時の判断能力を確保している………?」

 

不義遊戯の卓越した操作技術(キャラコン)

その練度は実は帝アキラや月見ヤチヨよりも低いのではないか?

スキル発動の為に割り振る思考リソース(メモリ)を全て戦闘能力に注ぎ込む。

その狂気的なまでの肉弾戦特化(ゴリ押し)スタイル。

 

『でもわざわざそんな面倒くさ〜い事するなら〜

もっとカンタンでラクな方法とか沢山あるんじゃないかにゃ〜?』

 

違和感。

いや………それでいい。

いろPはIQ1600000の頭脳を(もっ)て、正解へと辿り着いた。

 

「そうか…だから()()()からずっと見せつけてたんだ。

つまりあの拍手は━━━━━━」

 

その間 0.01秒。

 

パンッ!

拍手の音で意識が戻った。

半ば反射に近い速度で上に掲げた双剣を真正面に()()

ザシュッ!という音を響かせながら脇腹から桜を舞い散らせたのは不義遊戯だった。

 

「ハハッ…!初見で見抜く、か……。」

「やられっぱなしで………大人しくなってたまるかっつーの!!!」

 

拍手はブラフ。

入れ替えると見せかけて落石を蹴り、その勢いのままにいろPへ突撃。そのまま猪突猛進に押し切る計算だった。

それに対していろPは、その勢いを逆利用してカウンターを食らわせる形ですれ違ったのだ。

 

ようやく与えた、明確なクリティカルヒット。

 

ゴゴゴゴゴゴ…。

両者の戦闘に耐えきれなかった足場が最期の唸りを立てて崩れ始める。

瓦礫へと成り果てる岩山が、完全に粉塵となりて、辺り一面を包み込む。

 

「マジでSweet(スウィート)だなァッ!()()!!!」

「あ"?」

 

誰かさん(かぐや)のせいで普通にバレてる本名を呼ばれて、普通に嫌そうな顔で迫りくる拳を刃で防いだ。火花を散らして正面から激突していく。

穿つ、打つ。斬る、殴る。

斬撃を叩き込み、打撃を突き刺し、紙一重で踏み込んで、即座に逸らす。

二人はただ………互いの魂を削り合うように、刃を、拳を振るい続けた。

 

両者、拮抗。

ダメージを最小限に抑えながら、ダメージを最大限に押し付ける。

パァァァン。目の前の不義遊戯が消える。

 

「後ろ!!!」

「正ッ解!」

 

粉塵に紛れる小石(物体)不義遊戯(自身)が入れ替わる。

互いに回し蹴りを相打ち、跳ぶ。跳ねる。

 

パァァァン。いろPの景色が変わる。

 

「下!!」

「それも正ッ解!!」

 

下から足場ごと砕いて襲い掛かる不義遊戯の腕がいろPの脚を掴もうとする寸前で避ける。

避けた勢いでカウンターのドロップキック。

 

「ぐへァァ!!!」

 

乱雑に吹き飛ばされた不義遊戯を迎えたのは、未だ落下途中の巨大な岩盤。

着弾した衝撃で産まれたクレーターの中心で、土煙を払いながら立ち上がる不義遊戯にいろPは言い放つ。

 

「使いなよ、()()()()。」

「…………良いのか?」

「かぐやなら上手いこと撮ってくれるでしょ。」

「フハハハ!そうか……そうかもなァッ!!」

 

パァァァァン。

不義遊戯の頭上から、魂が歓声を上げるかのような甲高い拍手の音が響く。

 

「あだ〜っ!………ゔぇ?あ〜れ〜〜〜!?」

«!?

«なんか物凄い勢いで二人の体力(ライフ)がなんか削れてる!!

«エフェクトしか見えねェ!

«どしたかぐやちゃん?

«あれ?なんか落ちてね??

 

その瞬間、かぐやが体重を預けていたハンマー(物体)小石(物体)へと変わった。

空中で何故か小石に当たり、理由も解らず困惑するかぐやが情けな(愛らし)い声を漏らしながら墜落していく。

 

「キーッ!」

 

それを見越していたかのように彩葉の愛用するオオタカがかぐやを救った。

 

「っっぶねー!ありがと!!!」

 

オオタカの頭を撫でながらかぐやは自らのハンマーの行方を捜した。

消えたハンマーを手にするのは…………

 

推し(かぐやちゃん)の私物を使うなど、オタクとしては笑止千万………だがッ!」

 

不義遊戯。

 

「今、置いていかれてるのは俺………このレベルで満足している限り、俺はお前には勝てん!!」

「………………来い!」

 

ブーメランを突き出し構えるいろPへ襲い掛かる不義遊戯(東堂アオイ)のハンマーを、ブーメランを沿わせていなす。

 

「かぐやのハンマーなんて、もう見飽きる程見てるから!!」

「とぅぅぅぅりゃあああああ!!!!!」

 

その勢いで横回転した不義遊戯のエルボーキック。いろPが再び空を舞う。

パァン。不義遊戯(自身)いろP(他者)の位置()()が入れ替わる。

 

「あ〜もうっ!!わかってても混乱するなぁ!!!」

「そう言いながらハンマーの攻撃スキルを使う判断能力ッ!Good(グッド)だ!!」

 

()()()()()()()()()()不義遊戯を、

いろPが()()()()()()()()()

 

鍔迫り合いにて、睨み合う二人。

夢見心地に楽しむ不義遊戯が、険しい顔をしたいろPに徐々に押し込まれていく。

 

「キーッ!!」

「いろP見つけた!…ってなんでアイツが彩葉のキーボード使ってんの〜!?許せね〜〜〜!!!」

«土煙エフェクトガン盛りで見えねェ!

«(いろPのキーボードは)ボクのだぞッッッッッッ

«優勢なのは………どっちだ?いろP??

«見えねーー!!!

«マジか。東堂が武器使うの二回目じゃん。

«どう見るかだ。まだまだ心眼が足らぬ。

«何も見えなくともかぐやちゃんが可愛いのは確かだ。

 

岩山の崩壊が収まりつつある。次第に視界を塞いでいた土煙が薄れ、空気が澄んでいく。

このままでは、不義遊戯のスキルが最大限に使用可能となる。

 

「なら………!」

 

焦燥を振り払うように、いろPは渾身の力でハンマーを跳ね上げた。細身に宿った紅のオーラによって不義遊戯の刃は思いっきり弾け飛び、宙に翡翠色の弧を描く。

 

「ぬぁ…うぅ……!!」

 

体勢を崩された不義遊戯は即座に上体を沈め、そのままハンマーによる追撃を警戒した。

いろPは空中を踏みしめ、不義遊戯に肉薄せんと疾風(はや)る。

 

「(拍手(スキル)は間に合わない…!不味いな……狙いは胴体ッ??)」

 

即座に狙いを見抜いた不義遊戯は、来るべき衝撃を最小限に留めるべくは肉体(アバター)をくの字に折り曲げ、防御を固める。

襲い掛かる、ハンマーの一撃。

 

「(だが威力が御座(おざ)なり!!………御座(おざ)なり?超必殺(ウルト)状態のハンマーで…………!?)」

 

想定より低い一撃のダメージ。

ハンマーの竹柄の先、ハンマーを振るったはずのいろPの姿が無かった。

空中を踏みしめたいろPは、ハンマーを押し当てるのではなく投げる事を選択していた。

ハンマーは囮。

 

パァァァァァン。

 

本日何度目かの盛大な拍手の音が鳴らされる。

使用されたのは()()()()を入れ替える五種類目のスキル。

本来、1v1モードでは使われるはずのないスキルを使用したのは━━━━━━━

 

「ッ!かぐやちゃんッ!???」

「ほへ?」

 

不義遊戯の右掌を左手で叩いたいろP(他者)と、上空から戦況を見守っていたかぐや(他者)

 

不義遊戯が()()していた入れ替えスキルの真の発動条件は、ツクヨミ内での五種類に分けられた拍手の()()()()()()

両手を叩きつける強弱による拍手の高低音の操作によって、不義遊戯は単一動作での複数のスキル使用と、それに伴う高度な心理戦。

二回目の超必殺(ウルト)合戦においてその事実に辿り着いていたいろPは、自らが考え得る最大のここ一番でのスキルの逆利用に成功した。

 

「も〜!?さっきからどうなってんの〜!?」

«テメー!汚い手でかぐやちゃんお姫様だっこしてんじゃねーーー!

「"蜜月"さ。」

«ようやく二人が見えたと思ったら至近距離ゴリラだったでござる

«いろPどこー?

«ガチ恋距離助からない。

「意味わかんね〜〜〜!」

 

困惑するかぐやへハンマーを返すと、不義遊戯はもう一度身を屈ませ、居合を放つ剣士のような威風を纏いて辺りを警戒する。

一方その頃、オオタカの背に降り立ったいろPは、オオタカの頭を優しく撫でていた。

 

「かぐやを守ってくれてありがと。」

「キーッ!!」

「じゃ、行ってくるね。」

 

オオタカから飛び降りたいろPの拳が再び紅に光る。

重力、超必殺(ウルト)、怒り。

いろPの本気。その全てが込められた僻拳(へきけん)が、

 

「絶好調。」

「へぶッッッッッッッ」

 

不義遊戯のドレッドヘアーごと体力(ライフ)を残り三割程度にまで消し飛す。

それと同時に、いろPの二回目の超必殺(ウルト)の効果が役目を終えた。

 

「あぁ……これがッッ!!!」

 

一瞬で永遠のようなフルコース(タカラモノ)!!!!!!

 

その()を、不義遊戯は堪能していた。

コミカルに鼻の穴から桜色のダメージエフェクトを吹き出しながら満面の笑みでいろPへ縦拳を突き出す。

 

白熱する二人の闘い、土煙にまみれようとも、決して相手から視線を外さない。

━━━━━━━外せない。

いろPは静かに拳を構えて思考を張り巡らせる。

 

(ライフゲージは双方、五分五分。超高速(ウルト)が1ラウンドで一本貯まる事を考えると、このラウンドでもう一回使えるはず。

長期戦は此方が有利……)

 

(じき)に土煙が収まる。

相手の奇襲やスキルに警戒しながら超高速(ウルト)ゲージを貯めて、三度バフ効果によるスペック差で打ち勝つ。

 

その勝ち筋しか無い。

 

「……………………ハァ。」

 

━━━━と結論付けたハズだった。

微かに見えるは東堂アオイ(不義遊戯)()()の構え。

 

 

出し切ろうぜ

 

 

 

一瞬で永遠のような渇望。

渇きに比例した熱い眼差しが、

 

「………一回だけですよ。」

 

おそらく今後も戦いそのものに意味を見出(みいだ)す事は無い酒寄彩葉(いろP)の心を解かす。

 

明茶色の毛皮が蒼いホログラムに包まれ、青を基調とした和風ストリートファッションへと変わり行く。それに伴い体格もヒットボックスも視界も何もかもが、変わる。

 

いろPが、最も慣れ親しんだアバターへと変化する。

 

「そうだ!!お前ほどの表現者(ライバー)が小さく纏まるな……」

「ゔぇ〜…アンタは脱ぐなよ……」

 

東堂アオイ(不義遊戯)も、紫色の着物をビリビリに引き裂き、その隆々とした肉体を解き放つ。

 

念願のフルコースにありつけた彼の、唯一の不満。

それはいろPが着ぐるみに身を隠していた事。

 

うら若き乙女の素顔を暴きたい訳じゃない。

暴きたいのはいろPの()()実力。

 

ヒットボックスの拡大による立ち回りの()化。

普段のアバターとは違うが故の遅延(ラグ)

それに伴う使用可能戦術(かのうせい)の減少。

何よりも━━━━━━━━

 

「「ッ!!」」

 

本能(こころ)を隠し守る事で曇っていた才能の原石。

その輝きを不義遊戯は観たかったのだ。

 

解き放った剥き出しの本能(こころ)、その躍動を!!

 

「マジでSweet(スウィート)だなッ()()ァァァァ!!!!!」

「あ"?」

 

誰かさん(かぐや)のせいで普通にバレてる本名を呼ばれて、普通に嫌そうな顔で迫りくる拳を防いだ。視線が火花を散らして正面から激突していく。

穿つ、打つ。殴る。殴る。殴る!

叩き込み、突き刺し、踏み込み、逸らす!!

二人はただ………互いの魂を削り合うように、拳を振るい続けた。

 

両者、拮抗。

ダメージを最小限に抑えながら、ダメージを最大限に押し付ける。

 

「いろP〜〜〜!ってマジ!?やっべ………」

«二人が高速で戦っている事しか理解らん!理解ねば!!

«あれ?アレ多分いろPだよな?なんか青くね?

«煙で何も見えね〜〜〜!

«いろPスキン変わってる!?素顔見せて

«うおおおおお!いろPが着ぐるみを脱いだ!??

«脱いでるのは不義遊戯定期。…いやなんで脱いでるのあのゴリラ??

 

いろPと入れ替わった後、土煙の中で二人を探していたかぐやと視聴者(リスナー)が、高速で戦闘しているいろPの姿が異なる事に気付き始めた。

何故か素顔を晒して戦っているいろPに焦るかぐやは土煙の中、翡翠に光る()()を見つける。

 

「あれ?これって………うわぁ!?」

 

ゴンッ!ガンッ!パァンッ!ガンッ!

かぐやの頬に風圧が掠る。

その正体は両者の魂と魂がぶつかり合う、鈍く重い衝撃(エフェクト)だった。

 

武器を失った両者に、もはや間合いなど存在しない。二人は泥臭く、それでいて苛烈な打撃の応酬を繰り広げる。

もつれ合い、闇を祓い、瓦礫に背中を叩きつけ合いながら、二人の動きは加速していく。

いろPの掌底が不義遊戯の顎を跳ね上げれば、不義遊戯は即座に頭突きで応じ、拍手の音が響けば、二人は同時に拳を互いの顔へ突き出す。

もはやどちらが優勢か判別もつかない。

 

「知らなかった!!出し切った後があるなんて!!!!」

 

不義遊戯の瞳には狂気にも似た歓喜が宿り、焦燥を超越した愉悦へと研ぎ澄まされていく。

拳が空気を爆ぜさせ、蹴りが瓦礫を削る。一撃ごとに命の灯火を激しく燃やし、二人はただ純粋な暴力の奔流に身を投じていた。

 

残された時間(ライフ)は後僅か。

 

「彩葉ーーーーー!!!!!!」

 

かぐやは反射的に、足元に落ちていた()()を、いろPに投げ渡す。

 

「デカい声出さなくても聞こえてるよかぐや!!!!」

 

投げ渡された()()()()()が、彩葉(いろP)の手元へ回帰した。

 

彩葉(いろP)超必殺(ウルト)ゲージは既に回復している。

三回目の超必殺(ウルト)を発動しながら、いろPは手にしたキーボードを死力を尽くして振るう。

コンッ!という軽やかな音を発して不義遊戯の剛腕でいなされ━━━━━━━━

 

「(否ッ!!!キーボード(武器)じゃない!?)」

 

刃をいなした音とは思えぬ軽やかな空洞感のある音が響き渡る。

その正体は━━━━━━岩山に巻き込まれていた木々の枝。

 

「(何故枝で殴りかかった!?どこで拾ったのか!?いや、そんな事はどうでもいい………重要なのは()()()双剣の所在!!

どこだ?

どこに()った!?

何かヒントは?

かぐやちゃんのブラフ?

あのブーメランの音は?)」

 

困惑する不義遊戯を肩をいろPが掴み、瓦礫に押し込んだ。

細かい砂利に脚を囚われ、拘束される。

 

「(殴るのではなく拘束ッ!何が狙いだ?狙いは…………)………そういう事かッッッ!!!」

 

不義遊戯は唯一動く首を上を曲げて、天空を見遣った。

()()()()()()()()()が、空を舞っている。

 

「(投げ渡されたキーボードをそのまま上へ投げた!!そして自分はさも斬り込んだと見せかけ落下位置に誘導ッ!!)」

「…………………楽しかったよ。」

 

舞い降りたブーメランが美しい翡翠色の軌道を描いて、不義遊戯の肉体(アバター)を真っ二つに斬り裂いた。

桜色に消えゆく不義遊戯が最後に見た光景。

 

朱色の兎姫様と蒼色の御狐様が共に振る舞ってくれる数々の豪華な料理のお皿、

そして、最後にお出しされた甘い甘いデザートの…………

 

 

ふわっふわのパンケーキ。

 

 

「ありがとう………"満腹"だ!!!」

 

ROUND3 いろP WIN。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

LOSE 不義遊戯 1 - 2 いろP WIN。

 

かぐや争奪KASSEN選手権。その最後の試合の決着を告げるウィンドウがライブ配信上に表示される。

 

«いろPのパワーが勝ったあああああああーーーー!!!!

«いろP優勝!いろP優勝!

«最後よくわからんかったけどいろPが削りきったぞ!!

«やりゃあ出来んじゃん。

«うおおおおおお俺は信じてたぞいろP!!!!!

 

「いっろは〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

「ちょっ」

 

背後からかぐやの声がした瞬間に最短速度でウィンドウを操作してスキンを変更し、なんとか身バレを回避する。

そのせい(縛り)でかぐやの突進からのハグを避けられず、いろPは成すが儘にされてしまった。

 

«てぇてぇ

«かぐやいろPチャンネル最強!かぐやいろPチャンネル最強!

«いろPット…お前がナンバーワンだ…!!

«キマシ流奥義

«あれ?普通に着ぐるみだ…見間違えだったかな。

«どちらも有り得る…そんだけだ。

 

ようやく見えた二人(推し)の姿を、視聴者(リスナー)は最大限の愛を持って祝福した。

かぐやが満足気にコメント欄を眺め、この企画の栄えある優勝者を見せびらかす。

 

「とゆー訳で!かぐや争奪KASSEN選手権の優勝者は〜〜〜ドゥルルルル…いろPでした〜!!!」

「ハァ…という訳ですので、今後かぐやに求婚する人は事務所()を通して頂けると。それでは。」

「ア〜ッ!いろP〜!終わりの挨拶くらい一緒に居てよ〜〜〜!」

 

勿論、通した上で尽く捻り潰(BAN)する所存である。

言外にその事を匂わせて、いろPは逃げるようにさっさとログアウトしてしまった。

かぐやがぷんすかごねていると、リスポーンした不義遊戯が起き上がる。

 

「……………ハハッ、そう目の前でイチャつかれるとまた腹が減る。」

「へへーん!惜しかったね東堂〜〜〜!」

「ああ…流石は超愛妹(シスター)の同居人だ。」

 

かぐやはウキウキな仕草で満面の笑みで倒れ込んだ不義遊戯に近づくと………彼を思いっきり煽った。

げに恐ろしきネットリテラシー…そして、それが許される圧倒的な自己。

 

「そ〜そ〜!最強なのよ〜♪シス……へ?」

 

だが、不義遊戯の様子はいつもと……いつもおかしいのだが……

戦う前よりもっとおかしなテンションになっていた。

 

「よし…決めた。超愛妹(シスター)!俺………………………

彩葉ちゃんに(コク)る!!」

「は???????????」

 

人生(生後一ヶ月)で一番疑問符と確実に善くは無い感情(呪力)の籠もった声がかぐやから漏れ出た。

 

«は?

«は?

«は?

«いつまでも情報が完結しない!!

«は?

«は?

«もうコイツ、ツクヨミからBANした方が良いんじゃ………

«は?

 

このゴリラは本当に何をどうしてそう思ったのか?

それをきっと、(管理人)のみぞ知る事だろう。

 

「ゔぇぇぇぇぇぇ!?それはダメーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

「ピッ」

 

メキョッッッッッッ!

この配信で一番の大声でその決意を否定したかぐやがハンマーで不義遊戯の顔をぶん殴るのと、度重なる通報によってツクヨミからBAN判定を貰ったのは全くの同時だった。

 

「オイタハダメダヨー」「オイタハダメダヨー」

 

有罪(ギルティ)

没収(コンフィスケイション)

死刑(デスペナルティ)

 

こうして、かぐや求婚KASSEN選手権を賑わせたちょんまげゴリラは通報を受けて、やってきた警察ヤッチョに捕まり、かぐやいろPチャンネルを出禁になりましたとさ。

 

めでたし めでたし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まもなく、渋谷。ーーー渋谷です。』

満員電車のスピーカーから流れる無機質なアナウンスが、目的地への到着を告げる。

開いたドアから吐き出される色とりどりの人々を、ひときわ目を引く巨漢の大男が座席から眺めていた。

悠々とホームへと降り立った大男は、自らの行く先だけを見据えて重厚な足取りで突き進んでいく。

駅舎を抜ければ、そこには春の午後のような温かな太陽が、惜しみなく光の粒を注いでいた。背中に受けるその熱はひどく穏やかで、人々の一心な歩みを祝福しているかのようだ。

眩いばかりの喧騒の中、すれ違う人々はそれぞれの幸福を口々に紡いでいる。

「待ち受け変えた?」

「月見ヤチヨ〜」

隣を歩く友人に愛らしい白髪の女の子を見せびらかす隣を歩く男性。

「超楽しみ〜!」「置いてかないでよ〜!」

「はぁ〜〜〜待て待て待て…頼むぜガキども。」

少女たちのお守りを任されたくたびれたおじさんの声でさえ、街の賑わいの中ではどこか平和な日常の一幕として溶け込んでいった。

 

彼彼女等は皆こぞって、光に溢れたその雑踏を迷いなく突き進んでいく。

 

『我々は間に合った!!!十年越しのかぐや復活ライブだーーー!!!!』

 

目的地には既に沢山の観客の喜びに満ちた声と軽快な口調でその理由を告げる女性……"忠犬オタ公"の実況が響き渡る。

男はその体躯に見合わぬ丁重さで交通整理を潜り抜けると、吸い込まれるかのように関係者席に座った。

 

「うっわ」

 

その隣の席に居た眼鏡を掛けた長身の優男が大男を見てそう呟く。

 

「最悪だよ……お前も招待されてたんだな東堂?」

「当然だ、酒寄。

ヤチヨちゃん(マイ・エルダー・シスター)に直接渡されてな。」

 

諦めて、関係者席を深く座り直した優男…酒寄朝日は、

大男…東堂アオイがこれ見よがしに突き立てた二本指を見つめる。

すると、最新のAR技術によってツクヨミ内のアバターと重なり、和風の巻物(電子メール)が出現した。

 

「つーかオレ達、ちゃんと彩葉本人から貰ったんだけど。」

「…………フッ、相変わらず奥手だな超愛妻(マイワイフ)は。」

「そのマイワイフって言うのやめろ。オレの妹だが?」

 

鬼の角が生えているかのように錯覚するような顔で、皮肉交じりに悪態をついた朝日はツッコミを諦めるように席へ深く座り直す。

そんな朝日を見て東堂はARアバターを操作して左腕を()()()()

 

カァァァァァァァァァン!!!

 

「いや、なんで片腕ビブラスラップのままなんだよ。」

()()()感じた鼓動を、今でも覚えているのさ。」

「なんか無駄にイイ匂いしてんのもまた腹立つよね〜」

「……代わってやろうか乃依?」

「はわわ…帝様とちょんまげゴリラがなんか悪友みたいな感じで話してる〜」

「…本当になんでビブラスラップしてるの??」

 

大男…東堂アオイ(不義遊戯)に次々とツッコミを入れる関係者たち。その隣には、完全王者ブラックオニキスの酒寄朝日(帝アキラ)、雷、乃依が座っていた。

その光景を人気インフルエンサー達、芦綾紬花(ROKA)諌山真実(まみまみ)が後ろの席でこっそりと(帝様を)眺める。

 

十年前……愛ゆえに恐れ、愛ゆえに怒り、愛ゆえに戦ったあの夏の日。

かぐや卒業ライブにて共闘し、数多の月人を打ち倒したメンバーが集っていた。

 

この十年間でツクヨミは……いや、世界は大きく変わった。

生物工学(バイオニクス)の世界に流れ星のように突如現れた現代の異能、酒寄彩葉女史により引き起こされた数々の技術的革新(ブレイクスルー)

飛躍的に発展した義体技術とAR技術は、日本全域に配置された四つのサーバーと十つのセンサーを駆使し、リアルとツクヨミと精密に接続、世界中の人々がリアルでもアバターを出現できるようにし、ツクヨミ内にも現実と何ら変わらない五覚を全て実装するという最高の快挙を成し遂げる。

 

そんな表現者(ライバー)たちの神のひと声は瞬く間に、全世界の悪童(わるわらべ)ファン共の"心"に火を付けた。

 

「ほえ〜、ここが関係者席……!は、初めて入っちゃった……」

「あまり腕を引っ張らないでくれ三輪。まだライブが始まるまで時間はある。」

 

十年前、僅か三ヶ月で100万人を魅了し、そして去って行ってしまった最強悪童お姫様………"かぐや"の復活ライブである。

 

「あっ!ごめんね(むた)くん………ってわ〜〜〜!?腕!腕取れてる!!取れちゃった!?」

「着脱式だから気にするな。()()()()()()()の趣味でな。」

 

伝説の表現者(ライバー)、その先を見留めるために、続々と観客たちが集い始めていく。

真っ暗闇だった空席の穴が一つ、また一つと誰かの体温によって塞がれていった。

これから始まる奇跡の瞬間を片時も逃さず見届けようと………

電子(ゆめ)と現実の狭間となったこの空間に溢れる全生命体の笑顔が溢れて行く。

 

ライブが始まる合図を、静かに焚かれたスモークが告げた。

 

その瞬間、今でも、今だからこそ澄み切った青空が彼女達を照らし出す。

いと愛らしき三人が(めぐ)る人生の行く末が、彼女達の百折不撓なる精神が導き出した結末が、

幸せ(ハッピーエンド)なのかどうか、それを人々が知るのは……………………

 

Happy Birthday(ハッピーバースデイ)って奴さ…………酒寄彩葉。』

 

 

"これから"のお話。

 

 

 




・東堂アオイ
腹八分目で人生を終えるかムキムキカイリキーに進化(堕天)して人生を終えるかの二択だった所にヤッチョセラピーが刺さり、無事(?)ちょんまげゴリラへと羽化出来た筋肉モリモリマッチョマンの変態。
かぐや争奪KASSEN選手権の後、月見ヤチヨの導きにより"楽器(ビブラスラップ)"として卒業ライブに参加。
チートモードによる瞬間移動スキルの対象無制限化により月人たちを持て成した後、帝アキラとの共闘で七福神を6体を倒すも、チートモードへの適応を終えた月人の一撃により左腕(ビブラスラップ)を破壊されリタイアした。
その後、駒沢雷の世界一周旅行に付き合ったり、後進のプロゲーマー育てたり、酒寄研究所に出資(スパチャ)したりしたらしい。
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