服部副会長の言葉を受けて移動した屋上にてとんでもない光景を目の当たりにする。
自分たちは、というかタツヤデモートと死喰い人の一派が、小野遥の情報で環境配慮の会社が運営していた廃工場へとカチコミをする予定だったはずだ。
だが、恐らくだがそのプランは無しになった。
なぜならば。
「こーうっ来たかー。さっすっがっにこれは予測してなかったからって責められないですよね?」
恐らく件の廃工場だったものが、船に再設計されたように飛びながら一高を真正面に捉える形で飛翔してきた。
どうやって飛んでいるのかは、その船体の左右にはためく翼というより虫の翅のような巨大な光の帆とでもいうべきものだろう。
一高の外では警察が集結し防災無線がひっきりなしにパニックになるなと叫ぶも、その八王子市役所の職員もパニックになっていると思われる。
「残念ながら責められるだろう」
「世知辛いっすね。魔法師の社会って」
練度不足のオーストラリアのMS部隊を指揮する司令のように疲れた風な十文字会頭。
「どうやって飛んでいるかはどうでもいい……わけはなく、興味は尽きないが……攻撃するとなると難儀する」
「素人考えですが、ここからあれを爆砕するほどの魔法を投射すればいいのでは?」
「確かに完膚なきまでに砕けるならばやる意味はあるかもしれないが、ヘタな壊し方をすれば、降り注ぐ破片で
市民感情を人質にするために、一高を正面に捉えながら完全に敷地内に入らないでいるようだ。
そして……。
「煙突らしき長筒を向けているということはーーー」
「砲撃来るぞ!!!警戒しろ!!」
恐るべき事に「廃工場の船」は砲撃も可能としているのだった。
(ガンズ・オブ・リベラルかっての)
空飛ぶ甲鉄船なんてあり得ざるものが飛んでいる状況。
色々と変化している劣等生世界にやれやれと思っているのだが、それをおくびに出さず魔法のシロウトらしい態度をアキラは取る。
「ちなみに皆さん驚いているところを見るにこれは魔法技術的に異常事態なんですね?」
「魔法でも可能なこと不可能なことはあるさ」
「じゃあこっちも学校を飛ばして対抗するなんてのは出来ないんですね?」
「今は切実に飛べたらいいなとは思うーーーΞガンダムのように、ハサウェイ・ノアのように」
その言葉に対して会長は物申してきた。
「十文字君、キンバレー部隊の司令官(?)として、それはどうなのかしら?せめて修理中とはいえペーネロペーとかアリュゼウスとか言っておくべきだと思うわー」
笑顔で怒るという器用な真似をする会長。流石に当て擦りが過ぎたとも感じる。
などと考えていると……。
『魔法大学付属第一高校の生徒及び全ての関係者に告げるーーー私はブランシュ日本支部の総責任者「キャプテン・ファースト・ノイマン」である』
全員の端末に海賊服姿の男……原作ではなんともピエロな印象をもたせた御仁がアイパッチを着けたままに映し出された。
その片目が催眠的な魔法を使うのだと知っていたりするが……。
ノイマンとかいう偽名はどこから来たのかは分からないが、
海賊らしくご丁寧(?)にも肩にはオウムらしき鳥が乗り『ゾッフィエーンス!!』などと奇声を上げている。
違和感を覚えたーーーが、言葉は続く。
『こたびのブランシュ日本支部の船『ガンズ・オブ・リベラル』の大航海の目的は
第一高校の完全消滅にある。諸君らに残されている選択肢は日本の魔法師界の諸悪の根源である一高を明け渡し降伏するか、己の命を散らせ今日にいたるまで国防の為というお題目のため人道を外れてきたことへの贖罪の花とするかのどちらかだ』
(そこまで言うか……!)
だが、その言葉を笑うものなどいない。
最近になって明かされたことは、あまりにもセンセーショナルすぎたのだから。
それ以外では流石のタツヤデモートも、空飛ぶ船から砲を向けられては、相手を嘲る事もできないか。
そこから放たれるものは防御しようと思えば出来るかもしれないが……。
(あるいは、今もあの船を消滅させるための魔法式でも投射しようとしているか、だ)
戦略級魔法だったかな?と思いながら最近、記憶が曖昧になりつつあるとして、どうしたものかと思っていると。
こちらからの交渉など何もなく一方的な宣言の後には、煙突の砲が火を吹いた。
遅れて砲声が轟く。
空を潰すような衝撃が八王子市全土を揺るがすようだ。が、それはまだ着弾ではない──十文字会頭の指示に従っていた連中、恐らく手練れ十数名ばかりが言われずともディフェンスを展開する。
中には五十嵐鷹輔との戦いで、アキラがブタゴリラと呼んだ東郷もいたりする集団が一斉に防御障壁を展開する。
ヒィィィ……ンと、耳鳴りを思わせる飛来音と。死を予感させる緊迫。その後にようやくの爆発。
砲弾の多くは術に阻まれたが、一、二発がすり抜けた。術の発動と強度が間に合わず足りなかった。校舎ではないどこかが砕かれて土煙をあげる。
衝撃は屋上にいる自分たちにも響いた。
被害を受けたのが実験棟の可能性を考えながらも、屋上にいる面子の中に悲鳴を上げる魔法師を見ると、どうやら時間は無さそうだ。
第二射は、速いが今度は守りきった。とはいえ一高全体の広さに対して今後も守りきるのは不可能に近い。
「石田、お前の中に案はあるか?」
「とりあえずあの船を止めてしまえばいいんですが、正直どこに落ちてもロクなことにならない」
「やはりここから潰すしかない、か」
その言葉を受けて……。
ーーーここが分岐点だーーー
ーーー与えたチカラの代償は求めないーーー
ーーーされど、何もしなければ私はーーー
ーーー私はこの世界を■■に帰す。ーーー
頭に響いた幻聴というには明確すぎるそれを受けて。
「ちょっくら俺があの船を止めてきますーーー空を飛んで」
やりたくないが、やらなきゃならないのかと諦めながら提案した。
人差し指で上に滞空している船を指さして、それを告げた瞬間に全員が呆然とした顔をした。
あまりに異常な事態の連続、そして魔法のシロウトがなんか変なことを言い出したことにもはや頭がいっぱいになりながらも。
「ーーー飛べるのか?」
十文字の真剣な言葉を受けて。
「理屈めいたものはよく分かりませんがーーーーこうすればいいだけですね」
明確な魔法式ではないが、それでも頭に響いた言葉と同時に閃いた術式を展開して飛翔する。
跳躍でもなく浮遊でもないそれに気付いた何人
かが砲声の響く中でも唖然とする。
全員の頭上のおよそ8mほどの高さで動きを確認しているアキラ。
「ーーーいけるのか?」
比較的冷静に対処している克人でさえ「ドヒャア!!」とか言って、もはやすっ転びたいのだ。
「船まで行けば、後は安定した地面ですから」
とはいえ、どうやら流石に速く飛ぶことは出来なさそうだ。しかし気流を制御することで方向を自在にすることは出来そうだ。
などとアキラは思っていると。
「モウッ!ワタシのダーリンはワンダーボーイ♪こんなことが出来るならば早くやってヨ♪」
「いきなり抱きつくな」
跳躍で空中にいる自分を引っ掴んで抱きついてきたアンジェリーナに辟易する。
「もしかして、高速飛行は無理なのカシラ?」
「そうだな。俺も結構ぶっつけ本番でやっているからーーー」
危険すぎるから離れろやと言う前に、アンジェリーナは行動を開始する。
「ソレならばワタシがあの船よりも高く「跳ばして」あげればいいワネ♪」
そんな風に言って何かの魔法を発動させるアンジェリーナ。どうやら魔法式の重複による消失こそ起きないが。
やろうとしていることに「ハッ!」としてアキラは気付いた。これはつまりタツヤデモートを成層圏にまで飛ばした南盾島のアレだと。
「ナルホド、
「ちょっとアンジェリーナ、いやリーナちゃんや!俺はーーー」
抱きつきながらアキラが展開した魔法式の感触を理解したらしきアンジェリーナが様々な式を展開していき。
「じゃあスカイシップまでイッてきまーす!!」
ウッソだろ!?と言う間もなく「魔法の砲身」でコロンビヤード砲よろしく打ち出されたアキラは姫抱きしたアンジェリーナの魔法の導くままにとんでもない速度で上昇していった。
全員がポカンとしたままにソレを見送るも。
「ケンちゃんの孫娘(with恋人?)が往くーーー」
そういうセリフはもう少し大人数の時に、もっと
いつの間にか屋上にやってきた教師陣、その中でも百山校長は。
「怖くなったなら
小僧のように扱われて十文字としても少しだけ呆然としてしまった。
しかし言葉通りに流石の手並みと言うべきか、百山校長の張った防御障壁は学生数十人単位で張るよりも強固なもので砲からの攻撃をシャットアウトした。
その後には、上で稲光が何条も上がる様子が見えた。スカイシップの甲板ーーーと言えるものがあるかどうかは分からんが派手にやっているようだ。
そうしていると砲である煙突の二本が切断力を持った雷によって断ち切られた。当然、自由落下の理に晒されるのだが。
「廿楽君、君の
「ちょうどよく校庭に落ちるコースですな。小生としても少々踏ん張りどころでしょう」
有名なポリヒドラ・ハンドルでニュートンの法則からの害意を消そうとする様子。
そうしていると、次なる変化として巨大な爆発と同時に船が大きく高度を下げた様子だ。制御不能になっているわけではないがーーー。
「会頭、俺と深雪だけでもアキラとリーナへの増援として船に向かいます。あの高度まで下がったならばいけるかと」
提案されたことに驚きは少ない。確かに跳躍と浮遊を使えば赴けなくもない高度だ。石田とシールズのトンデモよりはまだ分かる……。
「司波兄妹、お前たちも飛翔出来るのか?」
しかし、一応の確認はしておくのであった。
「いいえ、ただリーナがやったことを真似すればーーー」
「帰りも私とお兄様2人でなんとかしますので」
加速、慣性中和、空気抵抗の極小化……三重以上の術式を応用するそれは…。
「分かった。任せるーーー最初からやる気のヤツには何も言えん」
克人は許可を出した。石田の活躍で色々とバイアスが狂っているが、この兄妹も十分に謎なのだと気づき、とりあえず任せることにした。
この事態を収めるべく戦う石田とクドウの様子は船から見える上空に走る雷と乱流で揺れている船であり工場の様子から分かるのだ……。